第3章
Name Change
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〜和解〜
ー宿屋にてー
「んで、そっちのお嬢さんはいつまで帽子被ってんだ?」
部屋に入ってから『ユーリ』に聞かれる
そういえば被ったままだったのを忘れていた
彼らにはバレているんだし、もう必要ないだろう
帽子を取ると少し驚く声が聞こえた
まぁ、それもそうだよね、角生えてるし
「…本当に魔族なのね……」
「そう言ってんじゃねぇか」
「あー、いや…あーたの見た目がね?うちの大将とまったく同じもんだから…」
引き気味に『レイヴン』は言う
……昨日、ユーリが睨んだって言ってたからなぁ……
「あ、そういやぁ、そうだったな」
パチンっと指を鳴らすと服はそのままだが、見慣れた姿に戻る
正直、服は今着ているものの方が好きだ
これでいいか?とでも言いそうな顔をしているのはちょっとムカつくのだが…
「あ、なんかその姿みたらしっくりくる!」
『カロル』はちょっと興奮気味に言う
「そうね、角生えてないとわからないわね」
「いや…元々わかんねぇように角隠してたんだけど…」
「そっくりなのがいるのは想定外だったってことか?」
「そゆこと」
息ぴったりに言葉を交わすユーリに、ちょっと頭を抑えながら言う
「……待って、ユーリ……こっちの『ユーリ』とさらっと和んで言わないで……混乱するから……」
声が同じだからどっちがどっちだかわからなくなる……
「いいじゃねぇかよ、別にさ」
「…よくない、全っ然よくない、どっちが言ってるかわかんなくなるから…」
「あん?オレの声も聞きわけらんねぇってか?」
少しいじわるそうな声で言ってくる
「あー、その口調は完っ全に私の知ってるユーリだよ」
「…どうゆう意味だよそれ……」
適当にあしらうと少し拗ねてしまったが、ほっておいても大丈夫だろう←
「それよりも『エステル』、話そうよ!」
ニコッと笑って言うと一瞬驚いていたが、すぐに彼女も笑顔になる
「あ!私のそっくりさんも魔界にはいるんですか?」
「いるよ?ここにいる人みんなね…だから、初めて見かけた時はすっごい焦ったよね…」
苦笑いしながら話す
「え?なんでですか?」
「…だって、最初に見かけたのフレンなんだもん……ユーリ扉開けっ放しにしてたし、追っかけて来たのかと思っちゃったよ……」
「えっと……そんなに追いかけられてるんです?」
「ユーリが、ね?執務さ」
「だーかーらー!それ言うなっての!」
『エステル』と話していると後ろから少し大声で言われてかき消される
ムッとしてその人物を見据える
目で本当のことでしょ?と訴える
「はぁ…ホント、その話は勘弁してくれ……」
「じゃあユーリが執務室を地獄絵図に」
「お前はオレを殺す気かっ!?」
「だって事実だし…」
「………オレの話はしなくていいだろ……」
と、ため息をついて頭を抱える
たまにはこうしていじるのも楽しいかもしれない
「…オレ、ちょい外行っとくからその間話してろよ」
「…珍しいね……なんかあった?」
「なんもねぇっての、ちとフレンに連絡いれるだけだよ……後でバレたら何されっかわかったもんじゃねぇ」
苦笑いしてユーリは部屋を後にした
それに続いて『ユーリ』も部屋を出ようとする
「おりょ、大将も用事?」
「あぁ、ちょっとな」
そう言って彼も部屋を出ていく
「…絶対二人きりで話そうとしてるわよ、あいつら」
「……まぁ、聞きたいことあったみたいだしね」
「えっと……それよりも、魔界の僕はそんなに怖いのかい……?」
『フレン』が少し心配そうに聞いてきた
「え?あ、いや、怖いんじゃなくて面倒……って言うか、執務増やされるからって言うか…私との時間が減るのを極度に嫌がるから……ねぇ?」
苦笑いして言うと、少し安心したらしい
「魔界のフレンはそんなにユーリに厳しいんです?」
「そんなことはないと思う…よ?怒ってるのはユーリが執務サボるからだし…」
「ありゃぁ…そんなにやりたがらないのね」
「……うん、執務室抜け出しては私のところに来て引っ付いてるし、戻ってって言っても戻らないし…結局、フレンが『ユーリっ!』って言って来るまで動かないんだよね……レイヴン、すぐ諦めちゃうし」
「……おっさん、こっちとあんまり変わらないわね」
じとーっと『レイヴン』を『リタ』は見つめる
…こっちのレイヴンもそんな感じなんだ……
「私…他のみんなのことも聞きたいです!」
「僕もっ!」
キラキラした目で二人は聞いてくる
……初めて、魔界のエステル達にあった時と同じ目だ
「ん、いいよ!じゃあこのままレイヴンの話するけどね……………」
ーユーリsideー
先程アリシアがいた場所まで来て、周りのマナを手元に集める
「……ん、出来たか……頼んだぜ」
マナで言葉を包んだ小鳥を作って扉のある方向へ飛ばした
これでフレンにゃ届いただろう
…帰ってからが面倒だが
「……んで?オレになんか用事でもあんのかよ?」
振り向かずに後ろにいる『オレ』に声をかける
……ずっといた事には気づいていたんだがな
「へぇ、流石魔族の王様だわ、誤魔化せねぇか」
自分と同じ口調、同じ声色
自分の声が別の場所から聞こえてくるのは本当に気味が悪い
だが、こいつとはしっかり話さなきゃいけねぇ気がした
「んで?何が聞きたいわけ?さしずめアリシア関連ってことか?」
「…あぁ、そうだよ。あいつとあんたじゃいろいろ違いすぎる気がしてな」
「へぇ?どんなとこが?」
「まず、角の長さだな。いくら個人差があってもあいつは短すぎだろ」
『オレ』の質問を黙って聞く
きっと、いっぺんに答えられるものな気がするから
「二つ目、あんたの背中のそれ、羽根だろ?さっき見た感じだとあいつにはなかった
三つ目、あんたはいとも容易くよくわかんねぇ術みたいなもん使えてっが、あいつは見た感じ使えそうな雰囲気がねぇ
四つ目、あんたは意図も簡単にオレに気づいたし、あいつの居場所もすぐ見つけたみたいだが、あいつはオレらに気づかないうえに、あんたとオレの区別があまり付いてないように見えたから、ってとこだな」
やはりそれか……
本当、思考回路も似ているのかもしれないな
と、背を向けたまま苦笑いする
少し深呼吸してから、振り向き真正面に『オレ』を見据える
鏡でも見ているような嫌な感じがする
が、今はそんなこと気にしていられない
「まず一つ目だな。魔族にもいろいろ種族ってのかあんだよ
で、アリシアの両親は王家に近い種族ん中でも一番角の長さが短ぇんだよ」
「へぇ……種族、ね」
「二つ目、ごく稀にだが羽根が生えねぇやつもいるんだ。特に、女は普段遠出なんてしねぇからな
アリシアだけじゃなくて、魔界にいるエステルにもねぇんだ」
「…ふーん………」
「三つ目だが…………」
そこで言葉に詰まる
正直なとこ、言っていいかわからなかった
オレ自身、アリシアに直接聞いたわけじゃねぇ…レオルから聞いたことだ
そんな話を容易くしていいのだろうか…
「なんだよ…急に黙りやがって…言えねぇってか?」
「…ふぅ……ま、後で謝っときゃいいか……」
「…?」
「………アリシアはな、十五ん時までは普通に使えてたんだよ、オレがさっき使ってた精霊術をな。……でも、十六になる年に一度…………
死にかけてんだわ」
ーーーーーーーーーー
「えっ!?二回……ですか?」
「そ、二回。正確には三回かなぁ…ま、一回はかすり傷だったんだけどね」
ケラケラと笑いながら言うが、みんなの表情は暗い
一通り魔界のみんなの話をしたあと、今度は私の話になった
ユーリと初めてあった時の話もした
……そして、今は危なかった時の話をしている
ユーリが知ってるのは二度だけだろう
一番最初のは知らないはずだ
「なんでまたそんなに……」
「んー、つい最近のは逆恨みされて、一番最初のは、ただの事故だね」
「事故って…」
「……私ね、今はリンクって名前の真っ白な犬を飼ってるんだけど、その時まではもう一匹飼ってたの。リゲル、真っ赤な毛色ですっごい人懐っこくて……元気な子だった」
エステルが入れてくれた紅茶に砂糖を溶かしながら話す
みんなはただ黙って話を聞いている
「リゲルと一緒に近くの森に遊びに出た時だった…その森にさ、すっごい大きな狼が来てたの……そんなこと知らずにリゲルと入っちゃってさぁ……案の定鉢合わせしたよね」
笑いながらそう言う
今でこそ笑っていられるが、本当にショックだった
「……逃げられなかった、精霊術は多少使えたけど、まだ成長途中だったもん…大技なんて使いこなせなかった。それに、私昔っから体ちょっと弱いから体力もなかったし…すぐ追いつかれた」
自然と左手を握りしめる
今でも時折思い出す光景……
「流石に駄目かと思った、地面ごと飛ばされて足怪我して動けなくって……」
「そ……それで……?」
「………リゲルがね、助けようとしてくれたの………自分よりも何倍も大きな体の相手にね…………かなわなかったけどさ…………一瞬だった…思いっきりリゲルが弾き飛ばされて………そのまま動かなくなっちゃったのは………
……そっから先はあんまり覚えてないんだ。覚えているのは、森一つぶっ飛ばしたことくらい……それで、成長途中の頭にかなりのダメージいっちゃってさ、ほっとんど精霊術使えなくなっちゃったんだよね」
ケロッと笑って言う
辛気臭いのは苦手だ
明るくいたい
例え、どんなにつらくても…………
「……は……?」
「十五にしては脳へのダメージが大きすぎたんだ。……その後、アリシアはそこから成長出来ていない。多少背は伸びていたが、それ以外はその時のままだ」
ショックがデカかったのか、『オレ』はその場に立ちすくんでいる
理解できないのはわかる
いや、したくないのだろう
……オレだって信じたくなかった
もっと強い力を身につけられた筈だったのだ
それなのに………
「……つまり………精霊術ってのが使えねぇのはそん時に頭のダメージが酷かったからで……角がやけに短かったり、羽根がねぇのも………」
「そん時のせいだな…本当ならば…もうちっと成長してた筈なんだわ」
『オレ』に背を向けて続ける
「それも原因で、たまに人を感知出来ねぇんだよ。現にさっきも気づかなかったろ?それが四つ目の答えだ」
「……そうかよ……」
少し残念そうな、悔しそうな声でそれだけ答えてくる
……きっと、こいつはまだ信じきってねぇんだろうな…
「…何があったかなんて聞かねぇけど、いつまでも引っ張ってっと、『アリシア』に怒られんじゃねぇの?」
「はぁ?なんでだよ」
「……オレんとこのアリシアがそうだから……傍にいながら2回も危ねぇ目に合わせちまった……それでもよ、気にすっと怒るんだよ…『ユーリのせいじゃない』ってな」
「……っ!!!」
「ま、オレから言えんのはこんくらいだわ」
そう言って、『オレ』を見ないで宿屋に戻ろうとする
「……待てよ、なんでんなことまで言ってくんだよ?」
声をかけられて足を止めた
「…………オレの大事なお嬢様は、オレに瓜二つなあんたが凹んでんのが気に食わねぇみたいなんだよ。あいつまでしょげるのはごめんだからな」
手をヒラヒラさせて今度こそ宿屋の中へ戻った
ーーーーーーーーーー
「にしても……ちょっと遅すぎない……?」
「……喧嘩してなければいいけど……ユーリ血の気多いいし……」
「ちょっと、それやばいわよ…!あいつも血の気多い戦闘馬鹿よ…!」
「……私、ちょっと見てく」
「何処に誰を見に行くんだよ?」
突然の声に驚いて振り向くと、私が大好きなユーリが扉の近くで立っていた
「ユーリっ!」
傍に駆け寄ってぎゅっと抱きつく
抱きつくと、優しく頭を撫でてくる
「おりょ?大将はまだって感じ?」
そう言われれば確かに居ない……
少し気になって、扉の向こうをチラッと見る
「……アリシア、気になんだろ?行ってきてやれよ」
唐突にユーリらしからぬことを言い出すから、びっくりして硬直する
「おいおい…んなにびっくりすんなよ」
「だって………なんか、ユーリじゃない……」
「はぁ?オレはオレだっての…お前が浮かねぇ顔してっから言ってんの」
コツンと軽く小突きながらユーリは言ってくる
「……ん、すぐ戻る」
「ったりめぇだわ、あんま遅かったら迎えいくわ」
コクンとうなづいて『ユーリ』の方へ行く
ーーーーーーーーー
「……えっと……よかったの?」
「あ?何がだ?」
「アリシアよ、あなたも気づいているんでしょう?彼だって好きだったのよ」
アリシアが走って行った方向を見つめる
「…へーきだよ、アリシアは限度くらい理解してるさ」
「むむ、魔王様の方もアリシア姐にぞっこんなのじゃ!」
「……まぁ、な?アリシアが浮かねぇ顔してんのはこっちとしても嫌だし……何より
オレと同じ顔の奴があんな顔してんのも癪なんだよ」
ーーーーーーーー
「……『ユーリ』」
「……っ!?」
ぼーっと立っていた『ユーリ』に声をかける
すごい勢いで振り向いたけど、すぐにまた背を向けてしまった
「……あんたはあんたで、居場所あんだろ?そっちに行ってやれよ」
少しきつく、でも寂しそうに言う
あぁ、ユーリが行ってこいって言ったのはこうゆうことなんだ
「…もし、私があなたの知ってる『アリシア』だったら、かなり怒ってますよ?」
「…は…?」
急に敬語に変えたからか、唖然とした顔で私を見る
「いつまでもメソメソウジウジされてても、私だって困りますもん。……『ユーリ』、あなたには笑っている顔の方が似合っていますよ?私の知ってるユーリも泣いているよりも、人を小馬鹿にしたような自身に満ちた顔をしている方が似合っていますし」
ちょっといたずらに笑ってそう言う
『ユーリ』はただ、黙って聞いている
「……笑って下さい、『私』の分まで。その方が何倍も嬉しいですよ」
ニコッと笑いかけると、急に視界が黒に染まる
一瞬、何が起きたかわからなかったが、人の温もりを感じて抱きしめられたことに気づいた
「……わりぃ………少し……だけ……こうさせてくれ………」
少し痛いくらいの抱きつき方はユーリとそっくりだ
「…いいですよ、代わりでしかないですけど、私で心が安らぐのならば」
そっと頭を撫でてあげる
本当ならばここに居るべき筈の『私』の代わりに
居たかったはずなのに、居られない『私』の代わりに
今だけは………
「……本当悪ぃ……つい、抱きしめちまった」
頭を掻きながらバツが悪そうに謝ってくる
そんな仕草もユーリそっくりだ
「別にいいよ、ユーリが行ってこいって行ったんだもん。このくらい想定内だよ」
「……そっちのオレは怖ぇや…」
「そんなことないよ、あなたと思考回路変わらないもん」
「……それ、どこ見て言ってんだ?」
「ふふ、『レイヴン』が教えてくれたの」
「っ!?あのおっさん…っ!」
聞くなり、『ユーリ』は宿屋へ駆け込んだ
…少ししてから悲鳴が聞こえたのは多分、気の所為だ
「…で、どーするの?ユーリっ?」
「お、今回は気づいたな?」
トンっと私の隣に降りてくる
「……ユーリ、お父様に聞いたでしょ?リゲルと私のこと」
「……いつ気づいた?」
「ん、ついさっき、なーんか心配そうにしてたから、なんとなくそう思ったの」
「ふぅ…お前に隠し事は出来ねぇや……聞いたのはつい最近だよ、精霊術使えねぇことが気になってな、レオルに聞いたんだわ」
ムッと頬を少し膨らませてユーリを見る
「直接聞いて欲しかった……」
「聞きにくかったんだよ……ちと気にしてるように見えてたから」
「…ユーリにも隠し事出来ない…」
そう呟くと、どちらともなく笑い出す
「くくっ………さてと、こっちの奴らと話してんの楽しそうだし、もうちっと話してから帰るか?」
「えっ!?いいの!?」
珍しくユーリがそう言ってくるから、少し驚きながらも笑顔で聞き返す
「おぅ、オレは構わねぇぜ?ただし、こっちの『オレ』と二人になんのはやめてくれよ?」
ちょっと冗談混じりに、でも本気で嫌そうにしながら言ってくる
「む……そんなことしないもん!」
ムスッとして言うと、優しく頭を撫でてくる
「ははっ、それもそうだな、アリシアが好きで居てくれんのはオレだけだもんな?」
悪戯っぽく耳元で囁かれる
ちょっとくすぐったくて、首を竦める
でも、そうやっていわれるのが嬉しくってついつい目を細める
「…んで、アリシア?」
「ふぇ?なに??」
「…さっき、オレが寝かけてる時にボソッ言った言葉、もっかい言ってみ?」
ニヤリと意地悪な笑みを浮かべて言ってくる
……聞かれてた……!!
恥ずかしくって顔が赤くなるのがわかる
「っ~~!!!/////」
手で顔を隠そうとするが、案の定その手は振り払われて片手で押さえられてしまう
そして、もう片方の手を私の顎に添えて無理矢理目線を合わせられる
「……もう一回、言ってくれよ?」
今度は少しわくわくしたような顔で言ってくる
心臓の鼓動がうるさいくらいに耳の中で反響する
ユーリはそれ以上何も言わずに、じっと私を見つめて言うのを待っている
……駄目だ、そんな顔で見つめられちゃうとさ……
今まで言えなかった言葉も簡単に出てきそうになる
…きっと、今言ったら色々問題発生しそうだけれど……
……それでも、これだけ期待した目で見られてしまっていると、等々口から言葉が出てしまった
「……ユーリ………愛してる……よっ!/////」
「ふっ、よく言えました
アリシア、愛してる」
満足そうに微笑んでそう言うと、触れるだけのキスをしてくる
「ほら、まだまだ話したいことあるんだろ?戻ろうぜ?」
私から少し離れながらそう言うと、手を差し出してくる
言葉の代わりに、ニコッと微笑んでその手をとった
そして、二人並んでまた宿屋に戻った
ーーーーーーー
ー次の日ー
「もう、帰っちゃうんですね……」
宿屋の前で寂しそうに『エステル』が言う
あの後、みんなから人間界のお話も沢山聞いた
魔界のみんなと居る気がして、とっても楽しかった
「うん…そろそろ帰らないとフレンに怒られそうだからね……」
苦笑いしながらそう言う
「ま、怒られる前に逃げるけどな」
素直に怒られて溜まるかっ、とでも言いたそうにユーリは言う
「あ、あはは……大変そう……だね…」
『フレン』も苦笑いしてそれに答える
……いや、こっちのフレンが怖い訳じゃないんだけどね……
「んじゃそーゆーことだから、オレらは帰るぜ」
ひょいっと私を抱き上げながらそう言う
「あら、送って行くのに」
「お気遣いありがとさん。でもこっちの方が速いんでね
……あんまり待たせらんねぇんだよ…」
「あはは……慌ただしくてごめんね…
向こうが落ち着いたら、また遊びに来るよ!」
笑顔でそう言うと、みんなも笑顔でまたね、と言ってくれる
「アリシア、行くぜ?」
コクリと頷くとほぼ同時にユーリが地面を蹴り上げて宙に上がる
高度を上げた方が見つかりにくいと判断したらしくて、どんどん上がっていく
みんなが見えなくなって少し寂しくなる
「……大丈夫、また連れてきてやるよ」
心配してくれたのか、優しくそう言ってくれる
「……うんっ!!」
笑顔でぎゅっと抱きつきながら答える
また、会おうね、人間界のみんな
心の中で静かにそう呟いた
ー宿屋にてー
「んで、そっちのお嬢さんはいつまで帽子被ってんだ?」
部屋に入ってから『ユーリ』に聞かれる
そういえば被ったままだったのを忘れていた
彼らにはバレているんだし、もう必要ないだろう
帽子を取ると少し驚く声が聞こえた
まぁ、それもそうだよね、角生えてるし
「…本当に魔族なのね……」
「そう言ってんじゃねぇか」
「あー、いや…あーたの見た目がね?うちの大将とまったく同じもんだから…」
引き気味に『レイヴン』は言う
……昨日、ユーリが睨んだって言ってたからなぁ……
「あ、そういやぁ、そうだったな」
パチンっと指を鳴らすと服はそのままだが、見慣れた姿に戻る
正直、服は今着ているものの方が好きだ
これでいいか?とでも言いそうな顔をしているのはちょっとムカつくのだが…
「あ、なんかその姿みたらしっくりくる!」
『カロル』はちょっと興奮気味に言う
「そうね、角生えてないとわからないわね」
「いや…元々わかんねぇように角隠してたんだけど…」
「そっくりなのがいるのは想定外だったってことか?」
「そゆこと」
息ぴったりに言葉を交わすユーリに、ちょっと頭を抑えながら言う
「……待って、ユーリ……こっちの『ユーリ』とさらっと和んで言わないで……混乱するから……」
声が同じだからどっちがどっちだかわからなくなる……
「いいじゃねぇかよ、別にさ」
「…よくない、全っ然よくない、どっちが言ってるかわかんなくなるから…」
「あん?オレの声も聞きわけらんねぇってか?」
少しいじわるそうな声で言ってくる
「あー、その口調は完っ全に私の知ってるユーリだよ」
「…どうゆう意味だよそれ……」
適当にあしらうと少し拗ねてしまったが、ほっておいても大丈夫だろう←
「それよりも『エステル』、話そうよ!」
ニコッと笑って言うと一瞬驚いていたが、すぐに彼女も笑顔になる
「あ!私のそっくりさんも魔界にはいるんですか?」
「いるよ?ここにいる人みんなね…だから、初めて見かけた時はすっごい焦ったよね…」
苦笑いしながら話す
「え?なんでですか?」
「…だって、最初に見かけたのフレンなんだもん……ユーリ扉開けっ放しにしてたし、追っかけて来たのかと思っちゃったよ……」
「えっと……そんなに追いかけられてるんです?」
「ユーリが、ね?執務さ」
「だーかーらー!それ言うなっての!」
『エステル』と話していると後ろから少し大声で言われてかき消される
ムッとしてその人物を見据える
目で本当のことでしょ?と訴える
「はぁ…ホント、その話は勘弁してくれ……」
「じゃあユーリが執務室を地獄絵図に」
「お前はオレを殺す気かっ!?」
「だって事実だし…」
「………オレの話はしなくていいだろ……」
と、ため息をついて頭を抱える
たまにはこうしていじるのも楽しいかもしれない
「…オレ、ちょい外行っとくからその間話してろよ」
「…珍しいね……なんかあった?」
「なんもねぇっての、ちとフレンに連絡いれるだけだよ……後でバレたら何されっかわかったもんじゃねぇ」
苦笑いしてユーリは部屋を後にした
それに続いて『ユーリ』も部屋を出ようとする
「おりょ、大将も用事?」
「あぁ、ちょっとな」
そう言って彼も部屋を出ていく
「…絶対二人きりで話そうとしてるわよ、あいつら」
「……まぁ、聞きたいことあったみたいだしね」
「えっと……それよりも、魔界の僕はそんなに怖いのかい……?」
『フレン』が少し心配そうに聞いてきた
「え?あ、いや、怖いんじゃなくて面倒……って言うか、執務増やされるからって言うか…私との時間が減るのを極度に嫌がるから……ねぇ?」
苦笑いして言うと、少し安心したらしい
「魔界のフレンはそんなにユーリに厳しいんです?」
「そんなことはないと思う…よ?怒ってるのはユーリが執務サボるからだし…」
「ありゃぁ…そんなにやりたがらないのね」
「……うん、執務室抜け出しては私のところに来て引っ付いてるし、戻ってって言っても戻らないし…結局、フレンが『ユーリっ!』って言って来るまで動かないんだよね……レイヴン、すぐ諦めちゃうし」
「……おっさん、こっちとあんまり変わらないわね」
じとーっと『レイヴン』を『リタ』は見つめる
…こっちのレイヴンもそんな感じなんだ……
「私…他のみんなのことも聞きたいです!」
「僕もっ!」
キラキラした目で二人は聞いてくる
……初めて、魔界のエステル達にあった時と同じ目だ
「ん、いいよ!じゃあこのままレイヴンの話するけどね……………」
ーユーリsideー
先程アリシアがいた場所まで来て、周りのマナを手元に集める
「……ん、出来たか……頼んだぜ」
マナで言葉を包んだ小鳥を作って扉のある方向へ飛ばした
これでフレンにゃ届いただろう
…帰ってからが面倒だが
「……んで?オレになんか用事でもあんのかよ?」
振り向かずに後ろにいる『オレ』に声をかける
……ずっといた事には気づいていたんだがな
「へぇ、流石魔族の王様だわ、誤魔化せねぇか」
自分と同じ口調、同じ声色
自分の声が別の場所から聞こえてくるのは本当に気味が悪い
だが、こいつとはしっかり話さなきゃいけねぇ気がした
「んで?何が聞きたいわけ?さしずめアリシア関連ってことか?」
「…あぁ、そうだよ。あいつとあんたじゃいろいろ違いすぎる気がしてな」
「へぇ?どんなとこが?」
「まず、角の長さだな。いくら個人差があってもあいつは短すぎだろ」
『オレ』の質問を黙って聞く
きっと、いっぺんに答えられるものな気がするから
「二つ目、あんたの背中のそれ、羽根だろ?さっき見た感じだとあいつにはなかった
三つ目、あんたはいとも容易くよくわかんねぇ術みたいなもん使えてっが、あいつは見た感じ使えそうな雰囲気がねぇ
四つ目、あんたは意図も簡単にオレに気づいたし、あいつの居場所もすぐ見つけたみたいだが、あいつはオレらに気づかないうえに、あんたとオレの区別があまり付いてないように見えたから、ってとこだな」
やはりそれか……
本当、思考回路も似ているのかもしれないな
と、背を向けたまま苦笑いする
少し深呼吸してから、振り向き真正面に『オレ』を見据える
鏡でも見ているような嫌な感じがする
が、今はそんなこと気にしていられない
「まず一つ目だな。魔族にもいろいろ種族ってのかあんだよ
で、アリシアの両親は王家に近い種族ん中でも一番角の長さが短ぇんだよ」
「へぇ……種族、ね」
「二つ目、ごく稀にだが羽根が生えねぇやつもいるんだ。特に、女は普段遠出なんてしねぇからな
アリシアだけじゃなくて、魔界にいるエステルにもねぇんだ」
「…ふーん………」
「三つ目だが…………」
そこで言葉に詰まる
正直なとこ、言っていいかわからなかった
オレ自身、アリシアに直接聞いたわけじゃねぇ…レオルから聞いたことだ
そんな話を容易くしていいのだろうか…
「なんだよ…急に黙りやがって…言えねぇってか?」
「…ふぅ……ま、後で謝っときゃいいか……」
「…?」
「………アリシアはな、十五ん時までは普通に使えてたんだよ、オレがさっき使ってた精霊術をな。……でも、十六になる年に一度…………
死にかけてんだわ」
ーーーーーーーーーー
「えっ!?二回……ですか?」
「そ、二回。正確には三回かなぁ…ま、一回はかすり傷だったんだけどね」
ケラケラと笑いながら言うが、みんなの表情は暗い
一通り魔界のみんなの話をしたあと、今度は私の話になった
ユーリと初めてあった時の話もした
……そして、今は危なかった時の話をしている
ユーリが知ってるのは二度だけだろう
一番最初のは知らないはずだ
「なんでまたそんなに……」
「んー、つい最近のは逆恨みされて、一番最初のは、ただの事故だね」
「事故って…」
「……私ね、今はリンクって名前の真っ白な犬を飼ってるんだけど、その時まではもう一匹飼ってたの。リゲル、真っ赤な毛色ですっごい人懐っこくて……元気な子だった」
エステルが入れてくれた紅茶に砂糖を溶かしながら話す
みんなはただ黙って話を聞いている
「リゲルと一緒に近くの森に遊びに出た時だった…その森にさ、すっごい大きな狼が来てたの……そんなこと知らずにリゲルと入っちゃってさぁ……案の定鉢合わせしたよね」
笑いながらそう言う
今でこそ笑っていられるが、本当にショックだった
「……逃げられなかった、精霊術は多少使えたけど、まだ成長途中だったもん…大技なんて使いこなせなかった。それに、私昔っから体ちょっと弱いから体力もなかったし…すぐ追いつかれた」
自然と左手を握りしめる
今でも時折思い出す光景……
「流石に駄目かと思った、地面ごと飛ばされて足怪我して動けなくって……」
「そ……それで……?」
「………リゲルがね、助けようとしてくれたの………自分よりも何倍も大きな体の相手にね…………かなわなかったけどさ…………一瞬だった…思いっきりリゲルが弾き飛ばされて………そのまま動かなくなっちゃったのは………
……そっから先はあんまり覚えてないんだ。覚えているのは、森一つぶっ飛ばしたことくらい……それで、成長途中の頭にかなりのダメージいっちゃってさ、ほっとんど精霊術使えなくなっちゃったんだよね」
ケロッと笑って言う
辛気臭いのは苦手だ
明るくいたい
例え、どんなにつらくても…………
「……は……?」
「十五にしては脳へのダメージが大きすぎたんだ。……その後、アリシアはそこから成長出来ていない。多少背は伸びていたが、それ以外はその時のままだ」
ショックがデカかったのか、『オレ』はその場に立ちすくんでいる
理解できないのはわかる
いや、したくないのだろう
……オレだって信じたくなかった
もっと強い力を身につけられた筈だったのだ
それなのに………
「……つまり………精霊術ってのが使えねぇのはそん時に頭のダメージが酷かったからで……角がやけに短かったり、羽根がねぇのも………」
「そん時のせいだな…本当ならば…もうちっと成長してた筈なんだわ」
『オレ』に背を向けて続ける
「それも原因で、たまに人を感知出来ねぇんだよ。現にさっきも気づかなかったろ?それが四つ目の答えだ」
「……そうかよ……」
少し残念そうな、悔しそうな声でそれだけ答えてくる
……きっと、こいつはまだ信じきってねぇんだろうな…
「…何があったかなんて聞かねぇけど、いつまでも引っ張ってっと、『アリシア』に怒られんじゃねぇの?」
「はぁ?なんでだよ」
「……オレんとこのアリシアがそうだから……傍にいながら2回も危ねぇ目に合わせちまった……それでもよ、気にすっと怒るんだよ…『ユーリのせいじゃない』ってな」
「……っ!!!」
「ま、オレから言えんのはこんくらいだわ」
そう言って、『オレ』を見ないで宿屋に戻ろうとする
「……待てよ、なんでんなことまで言ってくんだよ?」
声をかけられて足を止めた
「…………オレの大事なお嬢様は、オレに瓜二つなあんたが凹んでんのが気に食わねぇみたいなんだよ。あいつまでしょげるのはごめんだからな」
手をヒラヒラさせて今度こそ宿屋の中へ戻った
ーーーーーーーーーー
「にしても……ちょっと遅すぎない……?」
「……喧嘩してなければいいけど……ユーリ血の気多いいし……」
「ちょっと、それやばいわよ…!あいつも血の気多い戦闘馬鹿よ…!」
「……私、ちょっと見てく」
「何処に誰を見に行くんだよ?」
突然の声に驚いて振り向くと、私が大好きなユーリが扉の近くで立っていた
「ユーリっ!」
傍に駆け寄ってぎゅっと抱きつく
抱きつくと、優しく頭を撫でてくる
「おりょ?大将はまだって感じ?」
そう言われれば確かに居ない……
少し気になって、扉の向こうをチラッと見る
「……アリシア、気になんだろ?行ってきてやれよ」
唐突にユーリらしからぬことを言い出すから、びっくりして硬直する
「おいおい…んなにびっくりすんなよ」
「だって………なんか、ユーリじゃない……」
「はぁ?オレはオレだっての…お前が浮かねぇ顔してっから言ってんの」
コツンと軽く小突きながらユーリは言ってくる
「……ん、すぐ戻る」
「ったりめぇだわ、あんま遅かったら迎えいくわ」
コクンとうなづいて『ユーリ』の方へ行く
ーーーーーーーーー
「……えっと……よかったの?」
「あ?何がだ?」
「アリシアよ、あなたも気づいているんでしょう?彼だって好きだったのよ」
アリシアが走って行った方向を見つめる
「…へーきだよ、アリシアは限度くらい理解してるさ」
「むむ、魔王様の方もアリシア姐にぞっこんなのじゃ!」
「……まぁ、な?アリシアが浮かねぇ顔してんのはこっちとしても嫌だし……何より
オレと同じ顔の奴があんな顔してんのも癪なんだよ」
ーーーーーーーー
「……『ユーリ』」
「……っ!?」
ぼーっと立っていた『ユーリ』に声をかける
すごい勢いで振り向いたけど、すぐにまた背を向けてしまった
「……あんたはあんたで、居場所あんだろ?そっちに行ってやれよ」
少しきつく、でも寂しそうに言う
あぁ、ユーリが行ってこいって言ったのはこうゆうことなんだ
「…もし、私があなたの知ってる『アリシア』だったら、かなり怒ってますよ?」
「…は…?」
急に敬語に変えたからか、唖然とした顔で私を見る
「いつまでもメソメソウジウジされてても、私だって困りますもん。……『ユーリ』、あなたには笑っている顔の方が似合っていますよ?私の知ってるユーリも泣いているよりも、人を小馬鹿にしたような自身に満ちた顔をしている方が似合っていますし」
ちょっといたずらに笑ってそう言う
『ユーリ』はただ、黙って聞いている
「……笑って下さい、『私』の分まで。その方が何倍も嬉しいですよ」
ニコッと笑いかけると、急に視界が黒に染まる
一瞬、何が起きたかわからなかったが、人の温もりを感じて抱きしめられたことに気づいた
「……わりぃ………少し……だけ……こうさせてくれ………」
少し痛いくらいの抱きつき方はユーリとそっくりだ
「…いいですよ、代わりでしかないですけど、私で心が安らぐのならば」
そっと頭を撫でてあげる
本当ならばここに居るべき筈の『私』の代わりに
居たかったはずなのに、居られない『私』の代わりに
今だけは………
「……本当悪ぃ……つい、抱きしめちまった」
頭を掻きながらバツが悪そうに謝ってくる
そんな仕草もユーリそっくりだ
「別にいいよ、ユーリが行ってこいって行ったんだもん。このくらい想定内だよ」
「……そっちのオレは怖ぇや…」
「そんなことないよ、あなたと思考回路変わらないもん」
「……それ、どこ見て言ってんだ?」
「ふふ、『レイヴン』が教えてくれたの」
「っ!?あのおっさん…っ!」
聞くなり、『ユーリ』は宿屋へ駆け込んだ
…少ししてから悲鳴が聞こえたのは多分、気の所為だ
「…で、どーするの?ユーリっ?」
「お、今回は気づいたな?」
トンっと私の隣に降りてくる
「……ユーリ、お父様に聞いたでしょ?リゲルと私のこと」
「……いつ気づいた?」
「ん、ついさっき、なーんか心配そうにしてたから、なんとなくそう思ったの」
「ふぅ…お前に隠し事は出来ねぇや……聞いたのはつい最近だよ、精霊術使えねぇことが気になってな、レオルに聞いたんだわ」
ムッと頬を少し膨らませてユーリを見る
「直接聞いて欲しかった……」
「聞きにくかったんだよ……ちと気にしてるように見えてたから」
「…ユーリにも隠し事出来ない…」
そう呟くと、どちらともなく笑い出す
「くくっ………さてと、こっちの奴らと話してんの楽しそうだし、もうちっと話してから帰るか?」
「えっ!?いいの!?」
珍しくユーリがそう言ってくるから、少し驚きながらも笑顔で聞き返す
「おぅ、オレは構わねぇぜ?ただし、こっちの『オレ』と二人になんのはやめてくれよ?」
ちょっと冗談混じりに、でも本気で嫌そうにしながら言ってくる
「む……そんなことしないもん!」
ムスッとして言うと、優しく頭を撫でてくる
「ははっ、それもそうだな、アリシアが好きで居てくれんのはオレだけだもんな?」
悪戯っぽく耳元で囁かれる
ちょっとくすぐったくて、首を竦める
でも、そうやっていわれるのが嬉しくってついつい目を細める
「…んで、アリシア?」
「ふぇ?なに??」
「…さっき、オレが寝かけてる時にボソッ言った言葉、もっかい言ってみ?」
ニヤリと意地悪な笑みを浮かべて言ってくる
……聞かれてた……!!
恥ずかしくって顔が赤くなるのがわかる
「っ~~!!!/////」
手で顔を隠そうとするが、案の定その手は振り払われて片手で押さえられてしまう
そして、もう片方の手を私の顎に添えて無理矢理目線を合わせられる
「……もう一回、言ってくれよ?」
今度は少しわくわくしたような顔で言ってくる
心臓の鼓動がうるさいくらいに耳の中で反響する
ユーリはそれ以上何も言わずに、じっと私を見つめて言うのを待っている
……駄目だ、そんな顔で見つめられちゃうとさ……
今まで言えなかった言葉も簡単に出てきそうになる
…きっと、今言ったら色々問題発生しそうだけれど……
……それでも、これだけ期待した目で見られてしまっていると、等々口から言葉が出てしまった
「……ユーリ………愛してる……よっ!/////」
「ふっ、よく言えました
アリシア、愛してる」
満足そうに微笑んでそう言うと、触れるだけのキスをしてくる
「ほら、まだまだ話したいことあるんだろ?戻ろうぜ?」
私から少し離れながらそう言うと、手を差し出してくる
言葉の代わりに、ニコッと微笑んでその手をとった
そして、二人並んでまた宿屋に戻った
ーーーーーーー
ー次の日ー
「もう、帰っちゃうんですね……」
宿屋の前で寂しそうに『エステル』が言う
あの後、みんなから人間界のお話も沢山聞いた
魔界のみんなと居る気がして、とっても楽しかった
「うん…そろそろ帰らないとフレンに怒られそうだからね……」
苦笑いしながらそう言う
「ま、怒られる前に逃げるけどな」
素直に怒られて溜まるかっ、とでも言いたそうにユーリは言う
「あ、あはは……大変そう……だね…」
『フレン』も苦笑いしてそれに答える
……いや、こっちのフレンが怖い訳じゃないんだけどね……
「んじゃそーゆーことだから、オレらは帰るぜ」
ひょいっと私を抱き上げながらそう言う
「あら、送って行くのに」
「お気遣いありがとさん。でもこっちの方が速いんでね
……あんまり待たせらんねぇんだよ…」
「あはは……慌ただしくてごめんね…
向こうが落ち着いたら、また遊びに来るよ!」
笑顔でそう言うと、みんなも笑顔でまたね、と言ってくれる
「アリシア、行くぜ?」
コクリと頷くとほぼ同時にユーリが地面を蹴り上げて宙に上がる
高度を上げた方が見つかりにくいと判断したらしくて、どんどん上がっていく
みんなが見えなくなって少し寂しくなる
「……大丈夫、また連れてきてやるよ」
心配してくれたのか、優しくそう言ってくれる
「……うんっ!!」
笑顔でぎゅっと抱きつきながら答える
また、会おうね、人間界のみんな
心の中で静かにそう呟いた