第1章
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〜来客〜
ーとある晴れの日ー
晴れ……と言っても、赤黒いこの空では正直晴れているのかどうかわからない
いつも変わらない、同じ空
太陽も月も雲もない、ただただ赤黒い空
実際にはこれらはない訳では無い
…この赤黒い空のせいで見えないだけなのだ
だから、朝だってくるし、夜もくる
日中はそこそこ明るくなるが、夜は全くと言っていいほど何も見えないくらいに暗くなる
唯一目でわかるのは季節くらいだろう
春は花が生い茂り、沢山の動物が活動を始め
夏は作物がよく育ち、とにかく暑く
秋は沢山の作物が実り、動植物は冬支度を始め
冬は寒く、動植物は春まで眠りにつく……
……それが、私が住んでいる『魔界』の風景
今の季節は丁度冬から春へと移り変わった時期だ
家の中庭に座り込んで、私の膝の上で気持ちよさそうに寝ている愛犬のリンクを撫でながら、空を見上げる
昔、お母様に読んで頂いたおとぎ話によく出てくる『人間界』の空には、太陽も月も雲も…そして、星も見えるらしい
空の色もこんなに赤黒くなく、色んな色になるらしい
昼は青く、夕方になると紅く、夜には黒の上にキラキラと星が輝くのだと
絵でしか見たことがないが、とても綺麗だった
いつか1度でもいいから行ってみたい
1度でいいから、綺麗な空を見てみたい
なんていう夢を持っているのだが、無闇に私達『魔族』が行ける様なところではない
彼ら『人間』と私達は姿は多少似ていても、全く違う部分が多い
だから昔から、王家の魔族…それも魔王様以外は行ってはいけないのが、私達魔族の古くからの決まり事なのだ
「…決まり事でも、行ってみたいものは行ってみたいなぁ」
ポツリとそんな事を呟く
行きたいものは行きたいのだ
こうして中庭で、空を見上げながら考えるのが、私の日常だ
何故毎日こんなことをしているかと聞かれれば、話がとても長くなる
簡略に言うと、私は1人で外に出歩くことが出来ない
侯爵家の一人娘、と言うのも1つの理由だが…
幼い頃に色々あったのが1番の原因だ
1人が駄目なら、誰かと出ればいいと思うかもしれないが、お父様もお母様も執務が忙しい様でとても外へ行きたいなど言えたものじゃない
家の中で出来る事なんて本を読んだりすることくらいなのだが、生憎家にある本は全て読み尽くしてしまった
つまり、全くと言ってもいいほどやる事がないのだ
「んーリンク~…今日も退屈ね」
私がそう言いながらリンクの背を撫でると、眠そうな目で見上げてくる
「……ワフゥン?」
リンクは大きく欠伸をすると、ぴょんっと膝の上から降りて、私の周りをくるくる回る
何周かすると、私の服の袖を咥えて引っ張ってくる
「…リンク、私は勝手に外に出ちゃいけないの…ごめんね」
反対の手でリンクの頭を撫でながら言う
「クゥン……」
寂しそうに鳴くと、袖を離してどこかへと行ってしまった
「ふふ、私もリンクみたいに自由に外を歩きまわりたいわ」
走っていくリンクの後ろ姿を見送りながら呟く
左の手首に付けている革製のブレスレットに触れながら軽く目を閉じる
「……あなたも居たら、もっと楽しかっただろうに……」
ポツリとそう呟いた
「アリシア様ー!!!お、お客様です!!」
1人感傷に浸っていると、1人のメイドが大慌てで私を呼びに来た
「…お客様、ですか?私に?」
くるっとメイドの方を向きながら問いかける
相当探し回って居たようで、ものすごい汗をかいていた
「は、はい!!」
息を切らせながら彼女は返事をした
「んー…今日は誰とも会うお約束をしていなかったと思うのですが…」
首を傾げて考えてみるが、やはりそんな記憶はなかった
物覚えはいい方だから、確かなはずだ
「と、とにかく急いでください!応接室でお待ちいただいているので!」
「…わかりました。すぐに行きます」
メイドにそう言って、先に自室へ戻る
お客様にお会いするのだから、ある程度身だしなみは整えなくては…
髪を結び直したりして、少し急いで応接室に向かった
応接室の前に着いたところで軽く深呼吸をする
誰が来たかわからない
それに、家族やメイド、執事以外と話すのは1年ぶりくらいだ
流石に少し緊張する
それでも、これ以上お待たせするわけにもいかないので、意を決して扉をノックする
コンコン
「失礼します。遅くなり申し訳ありま……せ……ん………」
「遅い。…って言っても、オレの方が遅かったか…悪ぃ、忙しくて中々来れなかった」
扉の向こうに居た人物を目にして、声が出なくなった
漆黒の服、独特な角、とても綺麗な黒に少し紫を足したような長髪…そして、どこか人を馬鹿にしたような自信ありげな笑み……
紛れもない、私達魔族の王であり……私がずっと、ずーーーっと待ち続けた『彼』……
ユーリだ
「って、あれ?アリシア??」
急な出来事に私の脳はフリーズ
上手く状況が飲み込めない
私を混乱させた当の本人は、扉の前で固まった私を不思議そうに見つめてくる
考えて考えて、やっと出てきた言葉は…
「…ゆ……ユーリのバカッ!!どれだけ待っていたと思っているんですか……っ!」
そんな可愛げのない言葉だった
「っ!?わ、悪かった!マジでホントにごめん!!」
立ち上がってワタワタと慌てるユーリにお構い無しに涙がポロポロと溢れ出る
迎えに来るのが遅かったことに多少の怒りもあるが、それは忙しかったからだとわかっている
私が今泣いているのは、それよりも迎えに来てくれたことへの嬉しさからだ
この1年、1度も会いに来てくれなかったので、てっきりもう愛想をつかれたのだと思っていた
ユーリは怒って泣いているのだと思っているようだが…
「うぅ……ひっく……うわぁぁぁぁん…っ!」
「うおっ!?…おいおい…いきなり飛びつくのはなしだっての…ホントにごめんな?」
急に飛びついたにも関わらず、ユーリは体制を崩すことなく私を抱きとめる
そして、背中をポンポンと擦りながら謝ってくる
「うっ……ひっく……」
「ったく、しゃーねーな」
それでも泣き止まない私の顎をクイッとあげて、目線を合わさせるとそのまま触れるだけの優しいキスをしてきた
唇が離れると、頬にわざとチュッと音をたててもう一度キスをしてくる
「これで許してくれるか?」
少し困ったような顔で聞いてくるユーリが可愛く思えて、ん…と短く返事をしてニコっと笑う
「っ////本当、久々に会ったけど昔と変わらず可愛い過ぎだろ…襲いたくなるわバカ」
苦笑いしながら彼はそう言って、ぎゅっと抱きついてくる
ほんのり頬が赤いのが一瞬視界に入った
「襲われるにしてもここでは嫌ですよ?せめて私の部屋にして下さい」
いたずらっぽく告げるとピシッとユーリが石になる音が聞こえた
…そんなに意外だったろうか……
「…ユーリ、冗談です、だから石にならないでください?私まで動けないですよ」
コンコンっと軽く頭を叩きながら言うと案外早く元に戻った
「本気かと思った…」
「……別に……ユーリなら構わないですけど…///」
少し残念そうにユーリが言うものだからボソッと呟くと、今度はちょっと嬉しそうに顔をほこらばせた
「……本気ならこのまま行くK」
「ユーリ、先にすることがあるんじゃないかい?」
ユーリとは別の声が聞こえ、ユーリの後ろを見ると、どう見ても護衛という風な男の人が、呆れた顔でユーリを見つめていた
声が聞こえるまで全く気づかなかった…
いや、でもそれよりも、今敬語じゃなかった気が……
「なんだよ、フレン。羨ましいのか?」
そんなこと気にもせずに、ニヤニヤしてユーリが言うとフレンと呼ばれた方は大きくため息をついた
フレン……もしかして、ユーリが手紙で言ってた方かな…?
「まったく…なんで君はそうゆう発想になるんだい?…アリシア様の親御様に挨拶するのが今日の目的だろう?」
呆れ気味に彼はそう言う
…そう言えば、お父様にお話したこと無かった気がする…
大丈夫……かな……
驚きすぎて倒れそうな気がする
「あ、やべっ!アリシアに会うことばっか考えてて忘れてた!」
完全にユーリの頭の中からそんな事は抜けていたみたいで、しまった!とでも言いたげに顔を歪めた
「ユーリ……あなたも変わっていないですね、いろんな意味で」
苦笑いすると、うっ……と小さく呻き声をあげる
「……と、とりあえず会いに行かねーと!」
「あ、待ってください!急に行ったら……ってもう…」
私から素早く離れると、静止も聞かずに応接室を飛び出してしまった
自分が魔王だってこと、ちゃんと理解しているのかな…
「まったく…アリシア様、申し訳ありません」
フレンさんは申し訳なさそうに謝ってくる
「あ、いえ、お気になさらないでください。彼がこうゆう性格だと知っていますので」
ニコッと笑って答えると、彼はとても驚いた顔をした
「?どうかしましたか?」
そう聞くと、少し遠慮気味に口を開く
「いえ…ユーリから、1度しかお会いしたことない、と聞いていたので少し以外でした」
「あぁ、そうゆうことですか……確かにちゃんとお会いしたのは1度ですが、数回こっそりと会いに来て下さっていて、その度に無茶ぶり言われていたので」
苦笑いしながらそう告げる
すると、どこか納得したような表情を浮かべられる
「たまにお城からいなくなると思えば、そうゆうことだったんですね」
「申し訳ありません…私に会いに来る暇があるのならば、さっさとやることやって来てくださいと言ってたんですけど……」
そう言って肩をすくめる
「いえいえ、アリシア様のせいではありませんよ。彼の自己責任ですから、お気になさらないでください」
やれやれと肩をすくめながらそう言われる
「あの、フレンさんはユーリとどんな関係なのですか?」
少し遠慮しながら問いかけてみる
「僕とユーリ、ですか?」
ちょっと不思議そうな顔をして首を傾げる
「えぇ、フレンさん、ユーリに対しては敬語を使っていなかったので…」
「あぁ…そうゆうことですか」
うーん、と唸りながらフレンさんは少し考え込む
…なんか、聞いちゃいけないこと聞いてしまったのかな…?
「そう、ですね…なんと言えばいいか…腐れ縁と言いますか、幼馴染と言いますか…昔からの付き合いでして、成り行きで護衛することになった感じ…ですね」
すっごく嫌そうなお顔をしている様に見えるのは私の気の所為……かな……
「護衛だけれどお友達…みたいな感じですか?」
「簡単に言ってしまえばそんな所ですね。まぁ、ユーリ自身が親しい人から敬語を使われるのを嫌がっていると言うのもあるのですが」
少し困ったように笑いながら彼は言う
「そうだったんですね」
そう言ってニコッと笑う
ユーリは私だけじゃなくて、周りの人にも我儘言ってたことが良くわかった
他愛もない会話をしていると、廊下からドタドタと音が聞こえてきた
何事かと振りかえると応接室の扉からお父様が飛び出してきて、肩を思い切り掴まれる
「アリシアっ!一体どうゆうことなのだっ!?」
「わっ!?お、お父様?どうなされたのですか?」
「どうもこうもないぞ!ゆ、ユーリ様がっ!あのユーリ様がお前を嫁にすると言ってこられたんだぞっ!?」
「あ、あぁ…そのことでしたか…
……お父様、昔私が求婚されたというお話は覚えていらっしゃいますか?」
私達魔族…と言っても侯爵以上の位の者は、幼い頃に求婚され、20歳前後に式を挙げるのが一般的だ
話しの流れからわかると思うが、私がユーリを待っていたのはこういう訳だ
「そ、そりゃ覚えているが……っ!ま、まさかっ!」
「はい、そのまさか…です」
ニコリと笑ってお父様に言うと、嬉しそうなそれでいて少し嫌そうな顔をした
それもそうかもしれない、私を溺愛していらっしゃるのだから、嫁に出したくないのだろう
…それは流石に困るのだが……
「と、言うわけなんだが…何か文句あっか?」
いつの間にか扉の前に来ていたユーリに少し驚く
「ユーリ、もう少し言い方を考えたらどうだい?」
ユーリの態度にフレンさんは少しきつめに注意する
そんなことユーリはまったく気にしようともしないのだか……
「……アリシア、お前は本気でそれでいいのか……?」
少し控え気味に、それでいて強くお父様は聞いてくる
「…はい、もちろんです」
お父様の目を見つめてそう答える
「そうか……なら、文句は何も言えぬな」
ポンポンと頭を優しく撫でられる
こんなふうにお父様に頭を撫でられるなんていつぶりだろうか
嬉しくて自然と笑顔になる
「決まり、だな?」
「はい、ふつつかな娘ですがどうぞよろしくお願い致します」
ペコリと礼儀正しく頭を下げられる
相手が相手だから、と言うのもあるのだろう
「ん、そんな気ぃ使わなくていいっての」
お父様にむかって、手をヒラヒラさせながら照れくさそうにユーリが言う
「さてと、ユーリ、そろそろ戻らないと。会議があるんだから」
ゴホンッと、咳払いをしてからフレンさんがユーリに話しかける
「出たくねぇ、このままアリシアと居てぇ」
そう言ってお父様がいるにも関わらず後ろから抱きついてくる
「ユーリ…会議にはちゃんと出ないといけません、と何度も注意しましたよね?」
上を向いてユーリの顔を見ながら言う
「わかってる、でも今日はお前と居たい」
と、抱き締めてくる腕に少し力が入っていた
……どんだけわがままなのだこの魔王様は…
子どもっぽいというかなんというか…
「ユーリ、アリシア様にだって家族と過ごす時間を大切にさせてあげないと」
フレンさんがそう言うと不機嫌ながらも私を離してくれた
ブツブツと小声でずっとフレンさんに対して文句を言っているが、それは聞こえないふりをした
「ではアリシア様、明日、またお迎えにあがらせて頂きますので、準備をしておいてください。本当は1週間ほど待ちたいのですが…ここの我儘魔王様の機嫌が悪くなるので…」
苦笑しながらフレンさんはそう言った
こればかりは流石に苦笑いするしかない
「で、では、準備させておきます」
少しあたふたしながらお父様は答えた
「おう、じゃ、また明日、な?」
「はい、待っています……今度はちゃんと来てくださいね…?」
少しムスッとしてそう言うと、わーってるよと言ってフレンさんと共に帰って行った
「…さて、アリシア、準備はメイド達に任せて、3人で少し思い出話をしようか」
寂しそうに笑いながら、お父様は手を差し伸べてくる
「はい!」
ニコッと笑ってその手を取る
この日は、沢山お話をして終わった
ーとある晴れの日ー
晴れ……と言っても、赤黒いこの空では正直晴れているのかどうかわからない
いつも変わらない、同じ空
太陽も月も雲もない、ただただ赤黒い空
実際にはこれらはない訳では無い
…この赤黒い空のせいで見えないだけなのだ
だから、朝だってくるし、夜もくる
日中はそこそこ明るくなるが、夜は全くと言っていいほど何も見えないくらいに暗くなる
唯一目でわかるのは季節くらいだろう
春は花が生い茂り、沢山の動物が活動を始め
夏は作物がよく育ち、とにかく暑く
秋は沢山の作物が実り、動植物は冬支度を始め
冬は寒く、動植物は春まで眠りにつく……
……それが、私が住んでいる『魔界』の風景
今の季節は丁度冬から春へと移り変わった時期だ
家の中庭に座り込んで、私の膝の上で気持ちよさそうに寝ている愛犬のリンクを撫でながら、空を見上げる
昔、お母様に読んで頂いたおとぎ話によく出てくる『人間界』の空には、太陽も月も雲も…そして、星も見えるらしい
空の色もこんなに赤黒くなく、色んな色になるらしい
昼は青く、夕方になると紅く、夜には黒の上にキラキラと星が輝くのだと
絵でしか見たことがないが、とても綺麗だった
いつか1度でもいいから行ってみたい
1度でいいから、綺麗な空を見てみたい
なんていう夢を持っているのだが、無闇に私達『魔族』が行ける様なところではない
彼ら『人間』と私達は姿は多少似ていても、全く違う部分が多い
だから昔から、王家の魔族…それも魔王様以外は行ってはいけないのが、私達魔族の古くからの決まり事なのだ
「…決まり事でも、行ってみたいものは行ってみたいなぁ」
ポツリとそんな事を呟く
行きたいものは行きたいのだ
こうして中庭で、空を見上げながら考えるのが、私の日常だ
何故毎日こんなことをしているかと聞かれれば、話がとても長くなる
簡略に言うと、私は1人で外に出歩くことが出来ない
侯爵家の一人娘、と言うのも1つの理由だが…
幼い頃に色々あったのが1番の原因だ
1人が駄目なら、誰かと出ればいいと思うかもしれないが、お父様もお母様も執務が忙しい様でとても外へ行きたいなど言えたものじゃない
家の中で出来る事なんて本を読んだりすることくらいなのだが、生憎家にある本は全て読み尽くしてしまった
つまり、全くと言ってもいいほどやる事がないのだ
「んーリンク~…今日も退屈ね」
私がそう言いながらリンクの背を撫でると、眠そうな目で見上げてくる
「……ワフゥン?」
リンクは大きく欠伸をすると、ぴょんっと膝の上から降りて、私の周りをくるくる回る
何周かすると、私の服の袖を咥えて引っ張ってくる
「…リンク、私は勝手に外に出ちゃいけないの…ごめんね」
反対の手でリンクの頭を撫でながら言う
「クゥン……」
寂しそうに鳴くと、袖を離してどこかへと行ってしまった
「ふふ、私もリンクみたいに自由に外を歩きまわりたいわ」
走っていくリンクの後ろ姿を見送りながら呟く
左の手首に付けている革製のブレスレットに触れながら軽く目を閉じる
「……あなたも居たら、もっと楽しかっただろうに……」
ポツリとそう呟いた
「アリシア様ー!!!お、お客様です!!」
1人感傷に浸っていると、1人のメイドが大慌てで私を呼びに来た
「…お客様、ですか?私に?」
くるっとメイドの方を向きながら問いかける
相当探し回って居たようで、ものすごい汗をかいていた
「は、はい!!」
息を切らせながら彼女は返事をした
「んー…今日は誰とも会うお約束をしていなかったと思うのですが…」
首を傾げて考えてみるが、やはりそんな記憶はなかった
物覚えはいい方だから、確かなはずだ
「と、とにかく急いでください!応接室でお待ちいただいているので!」
「…わかりました。すぐに行きます」
メイドにそう言って、先に自室へ戻る
お客様にお会いするのだから、ある程度身だしなみは整えなくては…
髪を結び直したりして、少し急いで応接室に向かった
応接室の前に着いたところで軽く深呼吸をする
誰が来たかわからない
それに、家族やメイド、執事以外と話すのは1年ぶりくらいだ
流石に少し緊張する
それでも、これ以上お待たせするわけにもいかないので、意を決して扉をノックする
コンコン
「失礼します。遅くなり申し訳ありま……せ……ん………」
「遅い。…って言っても、オレの方が遅かったか…悪ぃ、忙しくて中々来れなかった」
扉の向こうに居た人物を目にして、声が出なくなった
漆黒の服、独特な角、とても綺麗な黒に少し紫を足したような長髪…そして、どこか人を馬鹿にしたような自信ありげな笑み……
紛れもない、私達魔族の王であり……私がずっと、ずーーーっと待ち続けた『彼』……
ユーリだ
「って、あれ?アリシア??」
急な出来事に私の脳はフリーズ
上手く状況が飲み込めない
私を混乱させた当の本人は、扉の前で固まった私を不思議そうに見つめてくる
考えて考えて、やっと出てきた言葉は…
「…ゆ……ユーリのバカッ!!どれだけ待っていたと思っているんですか……っ!」
そんな可愛げのない言葉だった
「っ!?わ、悪かった!マジでホントにごめん!!」
立ち上がってワタワタと慌てるユーリにお構い無しに涙がポロポロと溢れ出る
迎えに来るのが遅かったことに多少の怒りもあるが、それは忙しかったからだとわかっている
私が今泣いているのは、それよりも迎えに来てくれたことへの嬉しさからだ
この1年、1度も会いに来てくれなかったので、てっきりもう愛想をつかれたのだと思っていた
ユーリは怒って泣いているのだと思っているようだが…
「うぅ……ひっく……うわぁぁぁぁん…っ!」
「うおっ!?…おいおい…いきなり飛びつくのはなしだっての…ホントにごめんな?」
急に飛びついたにも関わらず、ユーリは体制を崩すことなく私を抱きとめる
そして、背中をポンポンと擦りながら謝ってくる
「うっ……ひっく……」
「ったく、しゃーねーな」
それでも泣き止まない私の顎をクイッとあげて、目線を合わさせるとそのまま触れるだけの優しいキスをしてきた
唇が離れると、頬にわざとチュッと音をたててもう一度キスをしてくる
「これで許してくれるか?」
少し困ったような顔で聞いてくるユーリが可愛く思えて、ん…と短く返事をしてニコっと笑う
「っ////本当、久々に会ったけど昔と変わらず可愛い過ぎだろ…襲いたくなるわバカ」
苦笑いしながら彼はそう言って、ぎゅっと抱きついてくる
ほんのり頬が赤いのが一瞬視界に入った
「襲われるにしてもここでは嫌ですよ?せめて私の部屋にして下さい」
いたずらっぽく告げるとピシッとユーリが石になる音が聞こえた
…そんなに意外だったろうか……
「…ユーリ、冗談です、だから石にならないでください?私まで動けないですよ」
コンコンっと軽く頭を叩きながら言うと案外早く元に戻った
「本気かと思った…」
「……別に……ユーリなら構わないですけど…///」
少し残念そうにユーリが言うものだからボソッと呟くと、今度はちょっと嬉しそうに顔をほこらばせた
「……本気ならこのまま行くK」
「ユーリ、先にすることがあるんじゃないかい?」
ユーリとは別の声が聞こえ、ユーリの後ろを見ると、どう見ても護衛という風な男の人が、呆れた顔でユーリを見つめていた
声が聞こえるまで全く気づかなかった…
いや、でもそれよりも、今敬語じゃなかった気が……
「なんだよ、フレン。羨ましいのか?」
そんなこと気にもせずに、ニヤニヤしてユーリが言うとフレンと呼ばれた方は大きくため息をついた
フレン……もしかして、ユーリが手紙で言ってた方かな…?
「まったく…なんで君はそうゆう発想になるんだい?…アリシア様の親御様に挨拶するのが今日の目的だろう?」
呆れ気味に彼はそう言う
…そう言えば、お父様にお話したこと無かった気がする…
大丈夫……かな……
驚きすぎて倒れそうな気がする
「あ、やべっ!アリシアに会うことばっか考えてて忘れてた!」
完全にユーリの頭の中からそんな事は抜けていたみたいで、しまった!とでも言いたげに顔を歪めた
「ユーリ……あなたも変わっていないですね、いろんな意味で」
苦笑いすると、うっ……と小さく呻き声をあげる
「……と、とりあえず会いに行かねーと!」
「あ、待ってください!急に行ったら……ってもう…」
私から素早く離れると、静止も聞かずに応接室を飛び出してしまった
自分が魔王だってこと、ちゃんと理解しているのかな…
「まったく…アリシア様、申し訳ありません」
フレンさんは申し訳なさそうに謝ってくる
「あ、いえ、お気になさらないでください。彼がこうゆう性格だと知っていますので」
ニコッと笑って答えると、彼はとても驚いた顔をした
「?どうかしましたか?」
そう聞くと、少し遠慮気味に口を開く
「いえ…ユーリから、1度しかお会いしたことない、と聞いていたので少し以外でした」
「あぁ、そうゆうことですか……確かにちゃんとお会いしたのは1度ですが、数回こっそりと会いに来て下さっていて、その度に無茶ぶり言われていたので」
苦笑いしながらそう告げる
すると、どこか納得したような表情を浮かべられる
「たまにお城からいなくなると思えば、そうゆうことだったんですね」
「申し訳ありません…私に会いに来る暇があるのならば、さっさとやることやって来てくださいと言ってたんですけど……」
そう言って肩をすくめる
「いえいえ、アリシア様のせいではありませんよ。彼の自己責任ですから、お気になさらないでください」
やれやれと肩をすくめながらそう言われる
「あの、フレンさんはユーリとどんな関係なのですか?」
少し遠慮しながら問いかけてみる
「僕とユーリ、ですか?」
ちょっと不思議そうな顔をして首を傾げる
「えぇ、フレンさん、ユーリに対しては敬語を使っていなかったので…」
「あぁ…そうゆうことですか」
うーん、と唸りながらフレンさんは少し考え込む
…なんか、聞いちゃいけないこと聞いてしまったのかな…?
「そう、ですね…なんと言えばいいか…腐れ縁と言いますか、幼馴染と言いますか…昔からの付き合いでして、成り行きで護衛することになった感じ…ですね」
すっごく嫌そうなお顔をしている様に見えるのは私の気の所為……かな……
「護衛だけれどお友達…みたいな感じですか?」
「簡単に言ってしまえばそんな所ですね。まぁ、ユーリ自身が親しい人から敬語を使われるのを嫌がっていると言うのもあるのですが」
少し困ったように笑いながら彼は言う
「そうだったんですね」
そう言ってニコッと笑う
ユーリは私だけじゃなくて、周りの人にも我儘言ってたことが良くわかった
他愛もない会話をしていると、廊下からドタドタと音が聞こえてきた
何事かと振りかえると応接室の扉からお父様が飛び出してきて、肩を思い切り掴まれる
「アリシアっ!一体どうゆうことなのだっ!?」
「わっ!?お、お父様?どうなされたのですか?」
「どうもこうもないぞ!ゆ、ユーリ様がっ!あのユーリ様がお前を嫁にすると言ってこられたんだぞっ!?」
「あ、あぁ…そのことでしたか…
……お父様、昔私が求婚されたというお話は覚えていらっしゃいますか?」
私達魔族…と言っても侯爵以上の位の者は、幼い頃に求婚され、20歳前後に式を挙げるのが一般的だ
話しの流れからわかると思うが、私がユーリを待っていたのはこういう訳だ
「そ、そりゃ覚えているが……っ!ま、まさかっ!」
「はい、そのまさか…です」
ニコリと笑ってお父様に言うと、嬉しそうなそれでいて少し嫌そうな顔をした
それもそうかもしれない、私を溺愛していらっしゃるのだから、嫁に出したくないのだろう
…それは流石に困るのだが……
「と、言うわけなんだが…何か文句あっか?」
いつの間にか扉の前に来ていたユーリに少し驚く
「ユーリ、もう少し言い方を考えたらどうだい?」
ユーリの態度にフレンさんは少しきつめに注意する
そんなことユーリはまったく気にしようともしないのだか……
「……アリシア、お前は本気でそれでいいのか……?」
少し控え気味に、それでいて強くお父様は聞いてくる
「…はい、もちろんです」
お父様の目を見つめてそう答える
「そうか……なら、文句は何も言えぬな」
ポンポンと頭を優しく撫でられる
こんなふうにお父様に頭を撫でられるなんていつぶりだろうか
嬉しくて自然と笑顔になる
「決まり、だな?」
「はい、ふつつかな娘ですがどうぞよろしくお願い致します」
ペコリと礼儀正しく頭を下げられる
相手が相手だから、と言うのもあるのだろう
「ん、そんな気ぃ使わなくていいっての」
お父様にむかって、手をヒラヒラさせながら照れくさそうにユーリが言う
「さてと、ユーリ、そろそろ戻らないと。会議があるんだから」
ゴホンッと、咳払いをしてからフレンさんがユーリに話しかける
「出たくねぇ、このままアリシアと居てぇ」
そう言ってお父様がいるにも関わらず後ろから抱きついてくる
「ユーリ…会議にはちゃんと出ないといけません、と何度も注意しましたよね?」
上を向いてユーリの顔を見ながら言う
「わかってる、でも今日はお前と居たい」
と、抱き締めてくる腕に少し力が入っていた
……どんだけわがままなのだこの魔王様は…
子どもっぽいというかなんというか…
「ユーリ、アリシア様にだって家族と過ごす時間を大切にさせてあげないと」
フレンさんがそう言うと不機嫌ながらも私を離してくれた
ブツブツと小声でずっとフレンさんに対して文句を言っているが、それは聞こえないふりをした
「ではアリシア様、明日、またお迎えにあがらせて頂きますので、準備をしておいてください。本当は1週間ほど待ちたいのですが…ここの我儘魔王様の機嫌が悪くなるので…」
苦笑しながらフレンさんはそう言った
こればかりは流石に苦笑いするしかない
「で、では、準備させておきます」
少しあたふたしながらお父様は答えた
「おう、じゃ、また明日、な?」
「はい、待っています……今度はちゃんと来てくださいね…?」
少しムスッとしてそう言うと、わーってるよと言ってフレンさんと共に帰って行った
「…さて、アリシア、準備はメイド達に任せて、3人で少し思い出話をしようか」
寂しそうに笑いながら、お父様は手を差し伸べてくる
「はい!」
ニコッと笑ってその手を取る
この日は、沢山お話をして終わった
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