第3章
Name Change
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〜相違〜
砦と街を越えて、私達は海の見える開けた高台まで来た
途中でユーリに聞いたが、どうやら遠巻きにエステルっぽいのが見えたらしい
傍にはカロルとリタっぽいのもいたとか…
「にしても、本当にそっくりさんが居るとはな、流石にビビったぜ…」
ふーっと息を吐きながら私を降ろす
私はここまでずっと私を抱えたまま走っていた方にびっくりした
本当に底なしの体力だよね……
「そんなことよりもユーリっ!!海だよ、海っ!!」
高台の淵の近くまで駆け寄りながら言う
湖程度なら魔界にもあるけど、こんなに広いものはない
水面に光が反射していて、キラキラ輝いているのがとても綺麗で
時折吹いてくる風が心地いい
「そんなとこ立ってっと危ねぇっての」
「ぅわっ…!?」
見惚れていると後ろに引っ張られて、ユーリの腕の中に捕まる
「もう…急にはやめてよ……」
少し見上げて言う
悪びれる様子もなくクスクスっと笑いながらごめんごめんと言ってくる
「でもまぁ、思ってたよりこっちは綺麗な風景が広がってんな…風も心地いいし」
「だねっ!…来てよかった…っ!ありがとうっ!ユーリ!」
ニコッと満面の笑みでユーリに伝える
すると、ふっと微笑んで
「アリシアが喜んでくれんのがオレは1番嬉しいぜ」
そう言われて唇が重なる
すぐ離れて次は頬にキスを落としてくる
「ん、やっぱりユーリの方がキス魔だと思うの」
「キスして人の機嫌とろうとしてくる奴に言われたかねーよ」
「それはユーリだって同じじゃないのー!」
そんな言い合いしてるとなんだか可笑しくって
二人のして声を出して笑った
こうしてる時間が嬉しい
この時間が楽しい
…ずっと続けばいいなんて、わがままだけど…
ずっと続いて欲しい、この時間が
ガサガサッ!!
「「っ!?」」
物音に驚いて二人同時に振り返ると、そこにはラピードによく似た犬がいた
「……ラピード……?」
「……いや、それはねぇよ、オレが居なきゃ通れねぇぜ?」
「…そっくりさん?」
「だろうな。っつーことは他の奴もいるかもしんねぇ
アリシア、他んとこ行こうぜ」
「うん!次はユーリに任せるよ!」
「了解」
ニヤッと笑うと今度は私の手を引いて、来た道とは逆方向に走り出す
思っていたよりもそっくりさんがあちこちにいるなぁ…
ーーーーーーーーー
青い毛の犬はただ、二人が去って行った方向をじっと見つめる
声も口調も全く同じだった
自身の飼い主の真っ黒な男……
そして、もうここに『居ない』はずの赤い女性……
違うのは『匂い』だけで混乱する
帝都で見かけてから、ずっと後をつけていたが、間違いなく何度も聞いた
飼い主と、そしてここに『居ない』はずの女性と全く同じ名前を
その事を伝える為に、青い毛の犬は飼い主のいる帝都へと走り出した
ーーーーーーーーー
しばらく行くと、大陸の端の街についたようで、港が見える
「おー、港町だっ!」
「時間も時間だし、今日はここで休むとすっか」
「うんっ!」
街に入って宿屋を見つけて休むことにした
部屋に入ってボスッとベッドに腰掛ける
「ふっ…あ~……疲れたぁ……」
「ついてからずっとはしゃいでたもんな。そりゃ疲れるさ」
隣に腰掛けながらユーリは言ってくる
「だって…見たことないものいっぱいあるんだもん…!」
「ははっ、それもそうだな。流石のオレもいろいろびっくりしたな」
いつもよりも少し嬉しそうにユーリは言う
ユーリも楽しんで居てくれたんだなぁと、嬉しくなる
「アリシア、ちょい街ん中見てくるわ。そっくりさんがいる以上、船の移動はちと厄介だからな」
「んー、りょーかーい、行ってらっしゃいっ!」
ニコッと笑って言う
「行ってきます」
ちゅっと頭にキスしてからユーリは部屋を出た
ーーーーーーー
(さて、どうやって大陸を渡るとしますかねぇ)
キョロキョロっと当たりを見回しながら考える
船を使えばいい話なのだが、オレのそっくりさんがいる以上、知り合いがいる可能性も否定出来ない
かと言って船以外の方法を使うとすれば、後は飛ぶくらいしかないのだが、流石に目立ちすぎる
一応テレポートの類も使えるが、土地勘のない場所で使うもんでもねぇ
(どーしたもんかねぇ…)
考え事をしていると、港の方から見慣れた姿が見えた気がして顔が強ばる
幸いなことにまだこちらに気づいていないようだ
(…ちょっと離れるとしますかね)
彼らが見えた方向と逆方向に向かった
「あら?」
「およよ?どしたのよ、ジュディスちゃん」
「今一瞬、ユーリの姿が見えた気がしたのだけれど」
ジュディスと呼ばれた青い髪の女性は、そう言って執政官邸の方向を見る
「む?じゃが、もう帝都に居るはずじゃないかの?」
見た目と口調が噛み合わない少女が首を傾げながら言う
「それに、大将ならあっちにはいかないんじゃないの?」
ざんばらな髪をした中年の男は腕を頭の後ろで組みながらそう言う
だが、女性はまだ気になるようで、じっとその方向を見つめる
「そんなに気になるのかの?ジュディ姐」
「なら、行ってみるってのはどうよ?」
「あら、いいのかしら?」
「もちろんなのじゃ!」
「ふふ、ありがとう。じゃ、お言葉に甘えて行きましょうか」
そう言って執政官邸へと足を進めた
ーーーーーーー
(お、こっからならバレねぇで行けそうだな)
少し豪華な屋敷の裏に船着場があったのを見つけた
真夜中ならばバレずに行けそうだ
それを確認して、宿屋に戻ろうとした時
「………かねぇ…………うは」
「っ!?」
聞きなれた声がして、急いで隠れる
今のは間違いなくおっさんだ
こっちに来んのを見られていたか…
「あ…………みた…………わよ?」
続いてジュディの声もする
(ほぼ全員のそっくりさんがいるってわけねぇ……)
まだ会っていないのはアリシアと、つい最近側近になったばかりのパティという少女だ
「ユ…………の………………じゃ!」
(……パティもいんのかよ……)
はぁ、と深くため息をつく
まさかアリシア以外のそっくりさんを全員見かけるとは思っていなかった
いや、自身とフレンのそっくりには会っていないが…
(にしても、どーすっかな…)
ここは一本道
彼らが降りてくれば鉢合わせは確定だ
テレポートでアリシアの元へ戻る方法もあったが、それは彼女が驚くだろうから却下だ
…しゃーない、話しかけられても無視すりゃいいだろ
意を決して元来た道を進む
「おりょ、大将じゃないのよ」
「見間違えじゃなかったのね」
「こんなところで何をしているのじゃ?」
彼らの前に姿を現すと、やはりオレと同じ姿の奴がいるようで揃って声をかけてくる
服装が違うことや角が無いこと以外は、声も口調もまるで一緒で少々気味が悪い
無視して横を通り過ぎようとするが、レイヴンのそっくりに腕を掴まれる
「ちょっ、ちょい待った!なんで無視するのよっ!」
「…………」
無言で睨みつけると、三人揃って硬直する
「……うっせぇよ、関係ねぇだろ」
一言そう言い、腕を振り払って小走りでその場を後にした
(おいおい……似すぎにも程があんだろうよ……)
少々苦笑しながら、アリシアの待つ宿屋へ戻った
ーーーーーーーー
「ね、ねぇ……今の本当に大将……?」
間抜けた声で後ろにいる二人に問いかけるが、二人もわからないという顔をしている
「声も口調も顔つきも……ユーリそっくりなのじゃ……」
「違うのは服装と目つき……くらいかしら………彼、あの服は絶対に着ないって言っていたのに……」
唖然として、自分達の見知った人物が去っていった方向を見る
「…………帝都へ急ぎましょう」
女性のその一言に二人も頷き、船へ急ぐ
ーーーーーーーー
「ただいま、アリシア」
出掛けてから数十分、少し息を切らせてユーリが戻ってきた
「おかえりっ!どうだった??」
「ん、真夜中ならバレずに渡れそうなとこあったぜ」
「それじゃあ、もう少し暗くなってから、だね!」
「おう」
そう言ってユーリは先ほどと同じく隣に腰掛ける
今度は私の肩に手を回して抱き寄せてきた
それにあわせるよう、ユーリの肩に頭を置いた
「あー、オレもうあっちに帰りたくねぇかもしんね」
「ふぇ?なんで?」
「…アリシアとこうしてられる時間が向こうにはねぇから」
少しムッとしてユーリは言う
少し可愛くてクスッと笑ってしまった
「ふふ…ユーリが執務ちゃんと終わらせてくれればいいだけじゃん」
「面倒なんだっての、元々全部フレンに押し付けるつもりだったのにな…」
ため息をつきながら少し唸れる
「それは駄目だってば……でも、私もずっとこうしてたいかな…//」
少し恥ずかしくて顔を隠すように言うと、急に後ろに倒れる感覚がした
突然のことに驚き、思わず目を瞑ってしまった
「っ~~!?」
ゆっくり目を開けると、視界には天井とユーリの顔が写った
「ふぇ!?あ、えっ!?」
突然のことに混乱して、慌てているとユーリはクスクスと笑い出した
「ははっ、悪ぃ悪ぃ、アリシアが可愛いこと言うもんだからつい押し倒しちまったぜ」
悪びれる様子もなくクスクスと笑いながらユーリは言う
「もう!悪いと思ってるならどいてよ…っ!//」
未だにこの見下ろされてる感覚に慣れず、顔を赤らめながら言う
が、彼にとってその行動は誘っているというように解釈されてしまうわけで……
「やだ」
一言そう言うと唇を重ねてくる
昼間したのと違う、深くて甘いキス
抵抗しようにも両手は掴まれてるし、腰は抑えられてるし…
ユーリの力に勝つなんて到底不可能だ
ただ、ここで諦めてしまえばユーリにされるがままになってしまう
そうなったらどうなるかの検討くらいはつく
だからこそ退いてほしいのだが……
「ふっ………ぅん……っ!」
酸素を欲しがってもユーリに邪魔されて得られない頭は甘い感覚に溺れ始めてて
何も考えられなくなってきている
「んっ……ふぁ………ユーリィ………っ!//」
自分でも驚くくらい甘い声が出る
「………っ!///だからっ!///その顔反則だってのっ////」
唇を離して、少し私と距離を置いてユーリは言う
その顔は何処か赤く見える
口元を手で隠しているが、にやけているのが見なくてもわかるくらいに目が嬉しそうにしている
「ユーリのそのキスも反則…っ!!」
心の中でやっぱりキス魔だと思いながらユーリに言う
「嫌か?これ」
両手を抑えていた手を顎に添えて、親指でそっと唇をなぞりながら聞いてくる
「そうゆう意味じゃないもん…」
目線を反らせていう
「知ってるさ、アリシアはキスすんならここがいいんだもんな?」
ニヤッと意地悪そうな笑みを浮かべてユーリは言う
…訂正、ユーリの行動全てが反則です…
全部にドキドキしてしまう
「さ、そろそろ行こうか、アリシア?もうそろそろ『星』ってやつも見えるだろ」
私の上から退いて、手を差し出しながらユーリは笑っていう
「うんっ!」
微笑み返してその手をとる
そして部屋を後にした
ーーーーーーーー
ー帝都、お城の一室にてー
「で?オレ以外全員、そのそっくりさんとやらをみかけてんのかよ…」
ため息をつきながら真っ黒な青年は頭を抱える
しかも、女性を連れていると言われたのだ
身に覚えがない上に、帝都についてからはフレンとずっと行動している
「おっさん達声かけたんだけどねぇ…すっごい形相で睨まれたわよ…」
とほほ…っと中年の男はうなだれる
「でも、ユーリ……『黒衣の断罪者』の服……着ないですよね……?」
「誰があれを着るかっての…」
桃色の髪の少女に呆れ気味に答える
「ワフゥン……」
「?どうしたんだい?ラピード」
騎士の青年は、いつの間にか戻って来ていた真っ青な毛の犬に声をかける
「ワフゥン…ワンっ!ゥワンッ!」
その鳴き声を聞いて青年は硬直した
「ん?どうしたのじゃ?フレン」
『フレン』と呼ばれたその青年は、不機嫌そうにしている真っ黒な青年を見て恐る恐る話しかける
「……ユーリ………ラピードがその二人の会話を聞いていたみたいなんだが………」
「あん?なんかあったのかよ」
「……その二人の名前……君にそっくりな方は《ユーリ》と呼ばれていたそうだよ」
その言葉にその場にいた全員が驚く
「な、何よ……名前まで同じなわけっ!?」
「驚くのはそこじゃないよ、その彼といた女性……………
《アリシア》と呼ばれていたそうだ」
ガタッと音を立てて、青年……『ユーリ』は立ち上がる
その顔は驚きに溢れていると同時に有り得ない、という顔をしていた
「……嘘……だろ………?」
普段の彼とは思えないような震えた声で聞いてくる
「いや……本当にそう呼んでいたらしい………顔立ちも、彼女に似ていたって、ラピードは言ってる」
少し遠慮気味に『フレン』は言う
シン………と静まる
それもそうだ
ありえないのだ
その名前が出てくることが
「な……何かの間違いだよ………きっと」
おずおずと少年は言う
「そ、そうなのじゃ!カロルの言う通りじゃ!」
「そうよ……だって……あの子は…」
「リタ………」
今にも泣き出しそうな少女…『リタ』の背中を擦りながら桃色の髪の少女は呟く
「……えぇ、彼女はもう、この世にいないはずよ……」
青い髪の女性は悔しそうに手を握り締めながら言う
「ジュディス……」
『フレン』はその女性…『ジュディス』をみつめる
「だって……あの子……アリシアは……」
「……あぁ……オレらの目の前で、死んじまったはずだよ………」
悔しそうに、手を握り締めて歯を噛み締めながら『ユーリ』は言う
そう、『こちら』の世界のアリシアは既にいないはずなのだ
砦と街を越えて、私達は海の見える開けた高台まで来た
途中でユーリに聞いたが、どうやら遠巻きにエステルっぽいのが見えたらしい
傍にはカロルとリタっぽいのもいたとか…
「にしても、本当にそっくりさんが居るとはな、流石にビビったぜ…」
ふーっと息を吐きながら私を降ろす
私はここまでずっと私を抱えたまま走っていた方にびっくりした
本当に底なしの体力だよね……
「そんなことよりもユーリっ!!海だよ、海っ!!」
高台の淵の近くまで駆け寄りながら言う
湖程度なら魔界にもあるけど、こんなに広いものはない
水面に光が反射していて、キラキラ輝いているのがとても綺麗で
時折吹いてくる風が心地いい
「そんなとこ立ってっと危ねぇっての」
「ぅわっ…!?」
見惚れていると後ろに引っ張られて、ユーリの腕の中に捕まる
「もう…急にはやめてよ……」
少し見上げて言う
悪びれる様子もなくクスクスっと笑いながらごめんごめんと言ってくる
「でもまぁ、思ってたよりこっちは綺麗な風景が広がってんな…風も心地いいし」
「だねっ!…来てよかった…っ!ありがとうっ!ユーリ!」
ニコッと満面の笑みでユーリに伝える
すると、ふっと微笑んで
「アリシアが喜んでくれんのがオレは1番嬉しいぜ」
そう言われて唇が重なる
すぐ離れて次は頬にキスを落としてくる
「ん、やっぱりユーリの方がキス魔だと思うの」
「キスして人の機嫌とろうとしてくる奴に言われたかねーよ」
「それはユーリだって同じじゃないのー!」
そんな言い合いしてるとなんだか可笑しくって
二人のして声を出して笑った
こうしてる時間が嬉しい
この時間が楽しい
…ずっと続けばいいなんて、わがままだけど…
ずっと続いて欲しい、この時間が
ガサガサッ!!
「「っ!?」」
物音に驚いて二人同時に振り返ると、そこにはラピードによく似た犬がいた
「……ラピード……?」
「……いや、それはねぇよ、オレが居なきゃ通れねぇぜ?」
「…そっくりさん?」
「だろうな。っつーことは他の奴もいるかもしんねぇ
アリシア、他んとこ行こうぜ」
「うん!次はユーリに任せるよ!」
「了解」
ニヤッと笑うと今度は私の手を引いて、来た道とは逆方向に走り出す
思っていたよりもそっくりさんがあちこちにいるなぁ…
ーーーーーーーーー
青い毛の犬はただ、二人が去って行った方向をじっと見つめる
声も口調も全く同じだった
自身の飼い主の真っ黒な男……
そして、もうここに『居ない』はずの赤い女性……
違うのは『匂い』だけで混乱する
帝都で見かけてから、ずっと後をつけていたが、間違いなく何度も聞いた
飼い主と、そしてここに『居ない』はずの女性と全く同じ名前を
その事を伝える為に、青い毛の犬は飼い主のいる帝都へと走り出した
ーーーーーーーーー
しばらく行くと、大陸の端の街についたようで、港が見える
「おー、港町だっ!」
「時間も時間だし、今日はここで休むとすっか」
「うんっ!」
街に入って宿屋を見つけて休むことにした
部屋に入ってボスッとベッドに腰掛ける
「ふっ…あ~……疲れたぁ……」
「ついてからずっとはしゃいでたもんな。そりゃ疲れるさ」
隣に腰掛けながらユーリは言ってくる
「だって…見たことないものいっぱいあるんだもん…!」
「ははっ、それもそうだな。流石のオレもいろいろびっくりしたな」
いつもよりも少し嬉しそうにユーリは言う
ユーリも楽しんで居てくれたんだなぁと、嬉しくなる
「アリシア、ちょい街ん中見てくるわ。そっくりさんがいる以上、船の移動はちと厄介だからな」
「んー、りょーかーい、行ってらっしゃいっ!」
ニコッと笑って言う
「行ってきます」
ちゅっと頭にキスしてからユーリは部屋を出た
ーーーーーーー
(さて、どうやって大陸を渡るとしますかねぇ)
キョロキョロっと当たりを見回しながら考える
船を使えばいい話なのだが、オレのそっくりさんがいる以上、知り合いがいる可能性も否定出来ない
かと言って船以外の方法を使うとすれば、後は飛ぶくらいしかないのだが、流石に目立ちすぎる
一応テレポートの類も使えるが、土地勘のない場所で使うもんでもねぇ
(どーしたもんかねぇ…)
考え事をしていると、港の方から見慣れた姿が見えた気がして顔が強ばる
幸いなことにまだこちらに気づいていないようだ
(…ちょっと離れるとしますかね)
彼らが見えた方向と逆方向に向かった
「あら?」
「およよ?どしたのよ、ジュディスちゃん」
「今一瞬、ユーリの姿が見えた気がしたのだけれど」
ジュディスと呼ばれた青い髪の女性は、そう言って執政官邸の方向を見る
「む?じゃが、もう帝都に居るはずじゃないかの?」
見た目と口調が噛み合わない少女が首を傾げながら言う
「それに、大将ならあっちにはいかないんじゃないの?」
ざんばらな髪をした中年の男は腕を頭の後ろで組みながらそう言う
だが、女性はまだ気になるようで、じっとその方向を見つめる
「そんなに気になるのかの?ジュディ姐」
「なら、行ってみるってのはどうよ?」
「あら、いいのかしら?」
「もちろんなのじゃ!」
「ふふ、ありがとう。じゃ、お言葉に甘えて行きましょうか」
そう言って執政官邸へと足を進めた
ーーーーーーー
(お、こっからならバレねぇで行けそうだな)
少し豪華な屋敷の裏に船着場があったのを見つけた
真夜中ならばバレずに行けそうだ
それを確認して、宿屋に戻ろうとした時
「………かねぇ…………うは」
「っ!?」
聞きなれた声がして、急いで隠れる
今のは間違いなくおっさんだ
こっちに来んのを見られていたか…
「あ…………みた…………わよ?」
続いてジュディの声もする
(ほぼ全員のそっくりさんがいるってわけねぇ……)
まだ会っていないのはアリシアと、つい最近側近になったばかりのパティという少女だ
「ユ…………の………………じゃ!」
(……パティもいんのかよ……)
はぁ、と深くため息をつく
まさかアリシア以外のそっくりさんを全員見かけるとは思っていなかった
いや、自身とフレンのそっくりには会っていないが…
(にしても、どーすっかな…)
ここは一本道
彼らが降りてくれば鉢合わせは確定だ
テレポートでアリシアの元へ戻る方法もあったが、それは彼女が驚くだろうから却下だ
…しゃーない、話しかけられても無視すりゃいいだろ
意を決して元来た道を進む
「おりょ、大将じゃないのよ」
「見間違えじゃなかったのね」
「こんなところで何をしているのじゃ?」
彼らの前に姿を現すと、やはりオレと同じ姿の奴がいるようで揃って声をかけてくる
服装が違うことや角が無いこと以外は、声も口調もまるで一緒で少々気味が悪い
無視して横を通り過ぎようとするが、レイヴンのそっくりに腕を掴まれる
「ちょっ、ちょい待った!なんで無視するのよっ!」
「…………」
無言で睨みつけると、三人揃って硬直する
「……うっせぇよ、関係ねぇだろ」
一言そう言い、腕を振り払って小走りでその場を後にした
(おいおい……似すぎにも程があんだろうよ……)
少々苦笑しながら、アリシアの待つ宿屋へ戻った
ーーーーーーーー
「ね、ねぇ……今の本当に大将……?」
間抜けた声で後ろにいる二人に問いかけるが、二人もわからないという顔をしている
「声も口調も顔つきも……ユーリそっくりなのじゃ……」
「違うのは服装と目つき……くらいかしら………彼、あの服は絶対に着ないって言っていたのに……」
唖然として、自分達の見知った人物が去っていった方向を見る
「…………帝都へ急ぎましょう」
女性のその一言に二人も頷き、船へ急ぐ
ーーーーーーーー
「ただいま、アリシア」
出掛けてから数十分、少し息を切らせてユーリが戻ってきた
「おかえりっ!どうだった??」
「ん、真夜中ならバレずに渡れそうなとこあったぜ」
「それじゃあ、もう少し暗くなってから、だね!」
「おう」
そう言ってユーリは先ほどと同じく隣に腰掛ける
今度は私の肩に手を回して抱き寄せてきた
それにあわせるよう、ユーリの肩に頭を置いた
「あー、オレもうあっちに帰りたくねぇかもしんね」
「ふぇ?なんで?」
「…アリシアとこうしてられる時間が向こうにはねぇから」
少しムッとしてユーリは言う
少し可愛くてクスッと笑ってしまった
「ふふ…ユーリが執務ちゃんと終わらせてくれればいいだけじゃん」
「面倒なんだっての、元々全部フレンに押し付けるつもりだったのにな…」
ため息をつきながら少し唸れる
「それは駄目だってば……でも、私もずっとこうしてたいかな…//」
少し恥ずかしくて顔を隠すように言うと、急に後ろに倒れる感覚がした
突然のことに驚き、思わず目を瞑ってしまった
「っ~~!?」
ゆっくり目を開けると、視界には天井とユーリの顔が写った
「ふぇ!?あ、えっ!?」
突然のことに混乱して、慌てているとユーリはクスクスと笑い出した
「ははっ、悪ぃ悪ぃ、アリシアが可愛いこと言うもんだからつい押し倒しちまったぜ」
悪びれる様子もなくクスクスと笑いながらユーリは言う
「もう!悪いと思ってるならどいてよ…っ!//」
未だにこの見下ろされてる感覚に慣れず、顔を赤らめながら言う
が、彼にとってその行動は誘っているというように解釈されてしまうわけで……
「やだ」
一言そう言うと唇を重ねてくる
昼間したのと違う、深くて甘いキス
抵抗しようにも両手は掴まれてるし、腰は抑えられてるし…
ユーリの力に勝つなんて到底不可能だ
ただ、ここで諦めてしまえばユーリにされるがままになってしまう
そうなったらどうなるかの検討くらいはつく
だからこそ退いてほしいのだが……
「ふっ………ぅん……っ!」
酸素を欲しがってもユーリに邪魔されて得られない頭は甘い感覚に溺れ始めてて
何も考えられなくなってきている
「んっ……ふぁ………ユーリィ………っ!//」
自分でも驚くくらい甘い声が出る
「………っ!///だからっ!///その顔反則だってのっ////」
唇を離して、少し私と距離を置いてユーリは言う
その顔は何処か赤く見える
口元を手で隠しているが、にやけているのが見なくてもわかるくらいに目が嬉しそうにしている
「ユーリのそのキスも反則…っ!!」
心の中でやっぱりキス魔だと思いながらユーリに言う
「嫌か?これ」
両手を抑えていた手を顎に添えて、親指でそっと唇をなぞりながら聞いてくる
「そうゆう意味じゃないもん…」
目線を反らせていう
「知ってるさ、アリシアはキスすんならここがいいんだもんな?」
ニヤッと意地悪そうな笑みを浮かべてユーリは言う
…訂正、ユーリの行動全てが反則です…
全部にドキドキしてしまう
「さ、そろそろ行こうか、アリシア?もうそろそろ『星』ってやつも見えるだろ」
私の上から退いて、手を差し出しながらユーリは笑っていう
「うんっ!」
微笑み返してその手をとる
そして部屋を後にした
ーーーーーーーー
ー帝都、お城の一室にてー
「で?オレ以外全員、そのそっくりさんとやらをみかけてんのかよ…」
ため息をつきながら真っ黒な青年は頭を抱える
しかも、女性を連れていると言われたのだ
身に覚えがない上に、帝都についてからはフレンとずっと行動している
「おっさん達声かけたんだけどねぇ…すっごい形相で睨まれたわよ…」
とほほ…っと中年の男はうなだれる
「でも、ユーリ……『黒衣の断罪者』の服……着ないですよね……?」
「誰があれを着るかっての…」
桃色の髪の少女に呆れ気味に答える
「ワフゥン……」
「?どうしたんだい?ラピード」
騎士の青年は、いつの間にか戻って来ていた真っ青な毛の犬に声をかける
「ワフゥン…ワンっ!ゥワンッ!」
その鳴き声を聞いて青年は硬直した
「ん?どうしたのじゃ?フレン」
『フレン』と呼ばれたその青年は、不機嫌そうにしている真っ黒な青年を見て恐る恐る話しかける
「……ユーリ………ラピードがその二人の会話を聞いていたみたいなんだが………」
「あん?なんかあったのかよ」
「……その二人の名前……君にそっくりな方は《ユーリ》と呼ばれていたそうだよ」
その言葉にその場にいた全員が驚く
「な、何よ……名前まで同じなわけっ!?」
「驚くのはそこじゃないよ、その彼といた女性……………
《アリシア》と呼ばれていたそうだ」
ガタッと音を立てて、青年……『ユーリ』は立ち上がる
その顔は驚きに溢れていると同時に有り得ない、という顔をしていた
「……嘘……だろ………?」
普段の彼とは思えないような震えた声で聞いてくる
「いや……本当にそう呼んでいたらしい………顔立ちも、彼女に似ていたって、ラピードは言ってる」
少し遠慮気味に『フレン』は言う
シン………と静まる
それもそうだ
ありえないのだ
その名前が出てくることが
「な……何かの間違いだよ………きっと」
おずおずと少年は言う
「そ、そうなのじゃ!カロルの言う通りじゃ!」
「そうよ……だって……あの子は…」
「リタ………」
今にも泣き出しそうな少女…『リタ』の背中を擦りながら桃色の髪の少女は呟く
「……えぇ、彼女はもう、この世にいないはずよ……」
青い髪の女性は悔しそうに手を握り締めながら言う
「ジュディス……」
『フレン』はその女性…『ジュディス』をみつめる
「だって……あの子……アリシアは……」
「……あぁ……オレらの目の前で、死んじまったはずだよ………」
悔しそうに、手を握り締めて歯を噛み締めながら『ユーリ』は言う
そう、『こちら』の世界のアリシアは既にいないはずなのだ