第2章
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〜執行〜
あれから一ヶ月、ラゴウの一件はあまりにも急な事態だったからかまだ処分が決まっていない
一週間に一度会議をしているが、極刑を求める者と、地位と権利の永久剥奪と王都近隣の立ち入り禁止を求める者で争いが続いている
そんな彼らにイライラしながらもユーリはちゃんと会議に出るには出ている
…だからと言ってやるべき事をやっているかは別問題らしいけどね
私は空いた時間、ずーっとあの本の解読に当てているが、まだ三分の一程しか進んでいない
思っていたよりも癖字で、時間がかかってしまう
でも、最初の方に書かれていたのはどうやら『始祖の隷長 』というものと、『魔導器 』というものについてだとわかった
人間界では、『エアル』というものが空気と一緒に循環していて、それが『魔導器』というものの動力源になるそうだ
だが、それは数が多すぎると『エアル』の流れを乱すらしい
『始祖の隷長』と呼ばれる世界を守る者達はそれを忌み嫌っているらしい
でも『魔導器』を作るには彼らが死んだ時に現れる『聖核 』と呼ばれるものが必要らしい
今読み取れたのはそこまでだ
それ以上はまだわからない
「ふぅ………少し休憩……」
ペンを置いて机に突っ伏す
今日も今日とて、いつも通り執務室横の書庫にいる
会議のない日はいつも、ここでユーリを待つ
今でも時おり右手が震える
嘲笑うような嘲笑が頭に響く
一人になってしまうこの時間が特にだ
だが、忙しい彼女達をここへ呼ぶのは流石に気が引ける
かと言っていい加減、一人でいるのは辛いのだ
そんなことを考えているうちに、もう正午になった
「アリシアーっ!」
バンッと扉を開けて真っ先に私にユーリは飛びついてくる
毎日のようにされるうちに慣れてきてしまった
「お疲れ様、ユーリ」
流石のユーリも加減はしてくれていて、私が倒れることはない
「ん、いい子してたか?」
「…この部屋じゃ特にないもすることないからね…」
肩を竦ませて言うと、それもそかと納得する
…これもほぼ毎日だ
「で、ユーリ、一つ言わせて?」
「ん?なんだ?」
「…いい加減暇、何とかして…」
少し頬を膨らませて訴える
もう何度言ったかなんてわからない
それくらい言ってるのだが一向に行動してくれない
「……じゃあ」
「わ…っ!?」
ひょいっと私を抱き抱えて堂々と執務室に入って行って、ストンと私を膝に乗せたままユーリは執務を続けた
当然、他の議員たちは何事かと唖然としている
…私は、出来れば早々にここを立ち去りたいです…
「…ユーリ?」
「ん?」
「…なんでこうなったの?」
「なんとなく、オレがこうしたいから」
キッパリとそう言うユーリに最早呆れてしまう
「…私がここにいても邪魔だと思うけど…」
「あん?そんなことねぇって」
周りにいる議員たちに同意を求めるように言うと、全然邪魔じゃありませんっ!という返答が次々返ってくる
…うん、わかってた、わかってたよ…
リタから私がいない間執務室が地獄絵図状態だって聞いてたから、わかってた…
私が傍に居ればユーリは大人しいんだ
大人しいを通り越して機嫌がものすごくいい
八つ当たりされるよりも居て欲しいのだろう
でも視線が痛い……
「因みに、逃げ出すのは禁止、だからな?」
ニコッと笑って私に言ってくるが、本当の目的は恐らく後ろにいる二人の護衛だろう
チラッ彼らを見た時の目が、死ぬ気で連れ戻せよって言ってた……
「…そんなに護衛の人睨まないの…」
コツンと軽く頭を小突く
…これ、私がいることで別のプレッシャーがかかってるよね…?
しかも、凄いニコニコしているのが余計に怖いのかちょっと議員さん達怯えてるし……
私は私で目線が痛いから戻りたい…
(フレン……ヘルプ……)
今この部屋にいない彼に心の中で助けを求める
…彼でもこの横暴な魔王を止められるかはわからないが………
しばらくしてからやって来たフレンは、この異様な光景に何事かとユーリを問いただしたが…
やはり聞く気のないユーリは殆ど知らんぷり
結局、フレンも折れてこの日は一日ずっとそのままだった………
ー次の日ー
「いよいよ今日、ですね…」
「…ん…そう…だね…」
「アリシア、大丈夫…?」
「…大丈夫…多分…」
震える右手を胸の前で左手で抑えながら、カロルに答える
頑張って笑顔を作ろうとするが、強ばっているのが鏡を見なくてもわかる
かれこれもう半日近くこの状態だ
今日は会議の日
ラゴウの処分が決まる日だ
レイヴンの件があった時から、会議を待っている間は会議場の隣の部屋でみんなで待つことになったけど…
時折、ごく稀に聞こえてくるラゴウの声にいつもビクビクしている
途中から開き直ったのか、人を嘲笑うような声が聞こえる
あれからもうかなりの日数が経ったけれど…
あの時の恐怖は今も頭の隅に残ってしまっている
消したくても、消えない、消えてくれない
ふとした時に思い出してしまう
脳裏に焼き付けられた恐怖は簡単に消えてくれない
此処には信頼出来る人(約一名除く)しか居ないのに…
怖くて怖くて堪らないのだ
「耳、塞いで置いた方がいいんじゃないの?」
「そうね、あの人のことだからきっと、大声で反抗してくるわ」
「…塞いで本当に聞こえなくなるならそうするよ……」
「あー……この部屋じゃちょっと厳しいんじゃない……?」
「レイヴンが余計なことして、ユーリが更に余計なことしてくれたからね」
ちょっと遠慮気味に言ったレイヴンに容赦なくカロルが釘を指した
この部屋…なんかあったらすぐわかるようにって、ちょっと叫んだら隣に声聞こえるんだよね……
それは逆も同じ
だから、ラゴウやユーリ、お父様が大声出すとほぼ筒抜けなんだよね……
本当……余計なことして……
「……ぜですかっ!!!」
突然聞こえてきた声に肩がビクッと反応する
体の震えが止まらない
間違うことのない、ラゴウの声だ
それと同時に会議場のざわめきも聞こえる
…何かあったのだろうか…?
「おーおー…ざわついてるわねぇ…」
「どうせ、あのアリシア溺愛馬鹿親と、アリシア溺愛しすぎて心配性こじらせた馬鹿魔王が変なこと言ったんでしょ」
呆れたようにリタが言う
…うん、それは一理ある…
ラゴウの声が聞こえてから少しして、隣で扉の開く音がした
「何故です…っ!!何故なのですかっ!!!」
「ーーーーっ!!!」
扉のすぐ前で聞こえた声に硬直する
エステルがそっと肩を摩ってくれるが、落ち着きそうにない
「こっち側、通らないでって言ったのだけれど…ユーリに報告ね」
ジュディスは私の頭を撫でながら言ってくる
が、そんな言葉も私の耳には入ってこない
頭の中で反響する声を必死で振り払おうとする
ラゴウの声に混じってもう一人、狂ったような声も反響している
消えたはずの右手の感覚まで蘇ってくる
彼はすぐに極刑が決まってもう……いないはずなのに……
振り払おうとしていると、ふと誰かに後ろから抱きしめられると同時に声が聞こえてきた
「…ただいま、アリシア」
その声を聞いた途端に反響していた声が遠ざかった
ゆっくり振り返ると、少し困ったような顔をしたユーリがいた
震える体を止めようと、ギュッと抱きしめてくる腕が強くなる
「まったく、会議終わったんならさっさと来なさいよね。あんたが余計なことしたから、あいつが叫ぶ度にこっちにまで声が聞こえるんだって言ったじゃないのっ!」
「悪かったな、余計なことで。しゃーねぇだろ、部屋出ようとしたら議員たちに引き止められたんだからよ」
一人ずつぶっ飛ばしてやろうかと思ったと、ボソッと言ってきた
…流石にそれはやめて頂きたい……
「それで、ラゴウは……」
「あん?んな話どーでもいいだろ?もう会議でその名前が出ることもねぇし、会うこともねぇよ」
「そうゆう問題じゃないだろう…」
ため息をつきながらユーリの後ろにいたフレンが言う
すると、私から少し離れてフレンにコソコソと何か言っていたが何を言ってたかは聞き取れなかった
「ユーリ?」
首を傾げて名前を呼ぶと、なんでもねぇよとまた抱きついてきた
「でも、これで大きな事件は全部解決したねっ!」
「はい、これでしばらくはゆっくり…」
と、途中まで言ったところではっとして口を押さえるエステル
なんでだろうと思っていたら、すぐに理由がわかった
「って、ことだからフレン、オレしばらくアリシアt」
「まだ駄目に決まってるだろっ!?エステリーゼ様たちはともかく、君にはやる事がっ!!」
「んなもん他のやつにやらせりゃいーだろ。オレはいい加減アリシアと一緒にいる時間をつくりてぇ」
「君が執務をサボっていたのがいけないんだろっ!?」
あぁ……そうゆうことね……
フレンとユーリ以外の全員がはぁ……っと大きなため息をついた
ー一ヶ月後ー
「………」イライラ
「ユーリ…もう少しで終わるんだから…」
「……っしゃあっ!終わったぁっ!」
ガタッと大きな音を立てて立ち上がる
周りの奴らが驚くがんなこと知ったことじゃねぇ
ラゴウの処分が決まってから一ヶ月が経った
珍しく殆ど逃げ出さずに執務をしていた
理由は単純、アリシアに怒られたから
ーーーーー
「ユーリ…自分のやることはちゃんとやって?」
「…オレ、お前と居たいんですけどねぇ?」
ギュッとアリシアを抱きしめながら言うが
「はぁ…そんなわがまま言わないの
あんまりわがまま言うと……また一人で部屋に閉じ込もるよ…?」
少し不満げに見上げてアリシアは言ってくる
その言葉にピクッと肩が反応してしまう
…また一週間出てこないとかは勘弁だぞ…?
「……それはやだ、また一週間会えないとか死ねる」
「じゃあやること早く終わらせてよね」
下手したら一週間じゃ済まないかも…っとボソッ言われたのは聞かなかったことにした
ーーーーーー
それからは本当にマジでサボらなかった
いや一度だけ抜け出したけど……
「わかったから…叫ぶなよ…」
頭を抱えてフレンは言うが、珍しく終わらせたんだからむしろ褒めて欲しいくらいだと思う
「んじゃ、フレン!あと頼ん」
「その前に、ユーリ。本当に彼女に言わなくていいのかい?」
「あん?何をだ?」
「はぁ…わかっているだろ?」
「余計な心配かけるよりかはいいだろ?まだ怯えてんだから」
フレンが言いたいのはラゴウのことだろう
あの時、『アリシアの居る所で言うもんでもねぇ』とフレンに釘を指したがそれが不満らしい
言って落ち着くならともかく、言っても恐らく落ち着かないことが目に見えている
ただでさえ名前を聞くだけで表情が硬くなるのだ
言わない方がいいだろう
「はぁ……わかった、もうこれ以上は言わないよ…ただ、一週間後には帰って来てくれよ…?わかっているとは思うが一週間後には」
「わーってるよ、アリシアの誕生日、だろ?それまでにゃ戻るさ」
そう言って執務室を飛び出した
今日はアリシアは自分の部屋だ
そこまで一気に駆け抜ける
フレンにまた怒られそうだがな…
部屋について扉を開けるといつものように窓辺に座っていた
手には、以前書庫で見つけた人間界の本を彼女が翻訳して書き写したノートを持って
「アリシア、終わったぜっ!」
名前を呼べば、クルッと振り向く
「ん、お疲れ様」
ニコッと笑って言ってくる
アリシアの傍によってニカッと笑って手を差し出すと、持っていたノートをパタンと閉じて、嬉しそうに微笑んで手を取る
「んで?本当に行くのか?」
「行くっ!昔から行きたかったからっ!」
「はいよ、お前の行きたいところなら何処でも連れてってやるさ」
頭にキスしながら言えば、嬉しそうに抱きついてくる
本当可愛すぎるこの奥さんを誰か何とかしてくれねぇか←
「ふふ…楽しみだなぁ…!」
「ほーら、楽しみなのはわかったからこの状態だと歩けねぇぞ?」
「あっ、それもそっか!」
少し名残惜しそうに腕を離して、左手を右手と重ねてくる
「んじゃ、行くとしますかね」
「うんっ!」
こうしてオレとアリシアは部屋を後にした
アリシアが行きたがっていた場所へ行くために
ーあとがきー
これにて第二部終了とさせていただきます
二部でも懲りずにアリシアちゃんを狙ってくる輩がいるという……
そして、アリシアはキレると周りが見えなくなります←
因みに父親であるレオルよりもアリシアの方が怒ると怖いですw
さて、そのレオルですが…
当初名前をつける予定はありませんでしたw
話の流れ的にあった方がいいと思いつけましたw(母親はアリオトです)
今後も、レオルの方は名前だけはちょくちょく出てくると思いますが、話に出てくるかは未定ですw
さぁ、いよいよ三部は人間界へと向かいます!
そこで二人を待ち受けているものは……?
それでは、また次のお話でお会いしましょう
追記:サイト移動と伴い、一部お話を変更致しました
あれから一ヶ月、ラゴウの一件はあまりにも急な事態だったからかまだ処分が決まっていない
一週間に一度会議をしているが、極刑を求める者と、地位と権利の永久剥奪と王都近隣の立ち入り禁止を求める者で争いが続いている
そんな彼らにイライラしながらもユーリはちゃんと会議に出るには出ている
…だからと言ってやるべき事をやっているかは別問題らしいけどね
私は空いた時間、ずーっとあの本の解読に当てているが、まだ三分の一程しか進んでいない
思っていたよりも癖字で、時間がかかってしまう
でも、最初の方に書かれていたのはどうやら『
人間界では、『エアル』というものが空気と一緒に循環していて、それが『魔導器』というものの動力源になるそうだ
だが、それは数が多すぎると『エアル』の流れを乱すらしい
『始祖の隷長』と呼ばれる世界を守る者達はそれを忌み嫌っているらしい
でも『魔導器』を作るには彼らが死んだ時に現れる『
今読み取れたのはそこまでだ
それ以上はまだわからない
「ふぅ………少し休憩……」
ペンを置いて机に突っ伏す
今日も今日とて、いつも通り執務室横の書庫にいる
会議のない日はいつも、ここでユーリを待つ
今でも時おり右手が震える
嘲笑うような嘲笑が頭に響く
一人になってしまうこの時間が特にだ
だが、忙しい彼女達をここへ呼ぶのは流石に気が引ける
かと言っていい加減、一人でいるのは辛いのだ
そんなことを考えているうちに、もう正午になった
「アリシアーっ!」
バンッと扉を開けて真っ先に私にユーリは飛びついてくる
毎日のようにされるうちに慣れてきてしまった
「お疲れ様、ユーリ」
流石のユーリも加減はしてくれていて、私が倒れることはない
「ん、いい子してたか?」
「…この部屋じゃ特にないもすることないからね…」
肩を竦ませて言うと、それもそかと納得する
…これもほぼ毎日だ
「で、ユーリ、一つ言わせて?」
「ん?なんだ?」
「…いい加減暇、何とかして…」
少し頬を膨らませて訴える
もう何度言ったかなんてわからない
それくらい言ってるのだが一向に行動してくれない
「……じゃあ」
「わ…っ!?」
ひょいっと私を抱き抱えて堂々と執務室に入って行って、ストンと私を膝に乗せたままユーリは執務を続けた
当然、他の議員たちは何事かと唖然としている
…私は、出来れば早々にここを立ち去りたいです…
「…ユーリ?」
「ん?」
「…なんでこうなったの?」
「なんとなく、オレがこうしたいから」
キッパリとそう言うユーリに最早呆れてしまう
「…私がここにいても邪魔だと思うけど…」
「あん?そんなことねぇって」
周りにいる議員たちに同意を求めるように言うと、全然邪魔じゃありませんっ!という返答が次々返ってくる
…うん、わかってた、わかってたよ…
リタから私がいない間執務室が地獄絵図状態だって聞いてたから、わかってた…
私が傍に居ればユーリは大人しいんだ
大人しいを通り越して機嫌がものすごくいい
八つ当たりされるよりも居て欲しいのだろう
でも視線が痛い……
「因みに、逃げ出すのは禁止、だからな?」
ニコッと笑って私に言ってくるが、本当の目的は恐らく後ろにいる二人の護衛だろう
チラッ彼らを見た時の目が、死ぬ気で連れ戻せよって言ってた……
「…そんなに護衛の人睨まないの…」
コツンと軽く頭を小突く
…これ、私がいることで別のプレッシャーがかかってるよね…?
しかも、凄いニコニコしているのが余計に怖いのかちょっと議員さん達怯えてるし……
私は私で目線が痛いから戻りたい…
(フレン……ヘルプ……)
今この部屋にいない彼に心の中で助けを求める
…彼でもこの横暴な魔王を止められるかはわからないが………
しばらくしてからやって来たフレンは、この異様な光景に何事かとユーリを問いただしたが…
やはり聞く気のないユーリは殆ど知らんぷり
結局、フレンも折れてこの日は一日ずっとそのままだった………
ー次の日ー
「いよいよ今日、ですね…」
「…ん…そう…だね…」
「アリシア、大丈夫…?」
「…大丈夫…多分…」
震える右手を胸の前で左手で抑えながら、カロルに答える
頑張って笑顔を作ろうとするが、強ばっているのが鏡を見なくてもわかる
かれこれもう半日近くこの状態だ
今日は会議の日
ラゴウの処分が決まる日だ
レイヴンの件があった時から、会議を待っている間は会議場の隣の部屋でみんなで待つことになったけど…
時折、ごく稀に聞こえてくるラゴウの声にいつもビクビクしている
途中から開き直ったのか、人を嘲笑うような声が聞こえる
あれからもうかなりの日数が経ったけれど…
あの時の恐怖は今も頭の隅に残ってしまっている
消したくても、消えない、消えてくれない
ふとした時に思い出してしまう
脳裏に焼き付けられた恐怖は簡単に消えてくれない
此処には信頼出来る人(約一名除く)しか居ないのに…
怖くて怖くて堪らないのだ
「耳、塞いで置いた方がいいんじゃないの?」
「そうね、あの人のことだからきっと、大声で反抗してくるわ」
「…塞いで本当に聞こえなくなるならそうするよ……」
「あー……この部屋じゃちょっと厳しいんじゃない……?」
「レイヴンが余計なことして、ユーリが更に余計なことしてくれたからね」
ちょっと遠慮気味に言ったレイヴンに容赦なくカロルが釘を指した
この部屋…なんかあったらすぐわかるようにって、ちょっと叫んだら隣に声聞こえるんだよね……
それは逆も同じ
だから、ラゴウやユーリ、お父様が大声出すとほぼ筒抜けなんだよね……
本当……余計なことして……
「……ぜですかっ!!!」
突然聞こえてきた声に肩がビクッと反応する
体の震えが止まらない
間違うことのない、ラゴウの声だ
それと同時に会議場のざわめきも聞こえる
…何かあったのだろうか…?
「おーおー…ざわついてるわねぇ…」
「どうせ、あのアリシア溺愛馬鹿親と、アリシア溺愛しすぎて心配性こじらせた馬鹿魔王が変なこと言ったんでしょ」
呆れたようにリタが言う
…うん、それは一理ある…
ラゴウの声が聞こえてから少しして、隣で扉の開く音がした
「何故です…っ!!何故なのですかっ!!!」
「ーーーーっ!!!」
扉のすぐ前で聞こえた声に硬直する
エステルがそっと肩を摩ってくれるが、落ち着きそうにない
「こっち側、通らないでって言ったのだけれど…ユーリに報告ね」
ジュディスは私の頭を撫でながら言ってくる
が、そんな言葉も私の耳には入ってこない
頭の中で反響する声を必死で振り払おうとする
ラゴウの声に混じってもう一人、狂ったような声も反響している
消えたはずの右手の感覚まで蘇ってくる
彼はすぐに極刑が決まってもう……いないはずなのに……
振り払おうとしていると、ふと誰かに後ろから抱きしめられると同時に声が聞こえてきた
「…ただいま、アリシア」
その声を聞いた途端に反響していた声が遠ざかった
ゆっくり振り返ると、少し困ったような顔をしたユーリがいた
震える体を止めようと、ギュッと抱きしめてくる腕が強くなる
「まったく、会議終わったんならさっさと来なさいよね。あんたが余計なことしたから、あいつが叫ぶ度にこっちにまで声が聞こえるんだって言ったじゃないのっ!」
「悪かったな、余計なことで。しゃーねぇだろ、部屋出ようとしたら議員たちに引き止められたんだからよ」
一人ずつぶっ飛ばしてやろうかと思ったと、ボソッと言ってきた
…流石にそれはやめて頂きたい……
「それで、ラゴウは……」
「あん?んな話どーでもいいだろ?もう会議でその名前が出ることもねぇし、会うこともねぇよ」
「そうゆう問題じゃないだろう…」
ため息をつきながらユーリの後ろにいたフレンが言う
すると、私から少し離れてフレンにコソコソと何か言っていたが何を言ってたかは聞き取れなかった
「ユーリ?」
首を傾げて名前を呼ぶと、なんでもねぇよとまた抱きついてきた
「でも、これで大きな事件は全部解決したねっ!」
「はい、これでしばらくはゆっくり…」
と、途中まで言ったところではっとして口を押さえるエステル
なんでだろうと思っていたら、すぐに理由がわかった
「って、ことだからフレン、オレしばらくアリシアt」
「まだ駄目に決まってるだろっ!?エステリーゼ様たちはともかく、君にはやる事がっ!!」
「んなもん他のやつにやらせりゃいーだろ。オレはいい加減アリシアと一緒にいる時間をつくりてぇ」
「君が執務をサボっていたのがいけないんだろっ!?」
あぁ……そうゆうことね……
フレンとユーリ以外の全員がはぁ……っと大きなため息をついた
ー一ヶ月後ー
「………」イライラ
「ユーリ…もう少しで終わるんだから…」
「……っしゃあっ!終わったぁっ!」
ガタッと大きな音を立てて立ち上がる
周りの奴らが驚くがんなこと知ったことじゃねぇ
ラゴウの処分が決まってから一ヶ月が経った
珍しく殆ど逃げ出さずに執務をしていた
理由は単純、アリシアに怒られたから
ーーーーー
「ユーリ…自分のやることはちゃんとやって?」
「…オレ、お前と居たいんですけどねぇ?」
ギュッとアリシアを抱きしめながら言うが
「はぁ…そんなわがまま言わないの
あんまりわがまま言うと……また一人で部屋に閉じ込もるよ…?」
少し不満げに見上げてアリシアは言ってくる
その言葉にピクッと肩が反応してしまう
…また一週間出てこないとかは勘弁だぞ…?
「……それはやだ、また一週間会えないとか死ねる」
「じゃあやること早く終わらせてよね」
下手したら一週間じゃ済まないかも…っとボソッ言われたのは聞かなかったことにした
ーーーーーー
それからは本当にマジでサボらなかった
いや一度だけ抜け出したけど……
「わかったから…叫ぶなよ…」
頭を抱えてフレンは言うが、珍しく終わらせたんだからむしろ褒めて欲しいくらいだと思う
「んじゃ、フレン!あと頼ん」
「その前に、ユーリ。本当に彼女に言わなくていいのかい?」
「あん?何をだ?」
「はぁ…わかっているだろ?」
「余計な心配かけるよりかはいいだろ?まだ怯えてんだから」
フレンが言いたいのはラゴウのことだろう
あの時、『アリシアの居る所で言うもんでもねぇ』とフレンに釘を指したがそれが不満らしい
言って落ち着くならともかく、言っても恐らく落ち着かないことが目に見えている
ただでさえ名前を聞くだけで表情が硬くなるのだ
言わない方がいいだろう
「はぁ……わかった、もうこれ以上は言わないよ…ただ、一週間後には帰って来てくれよ…?わかっているとは思うが一週間後には」
「わーってるよ、アリシアの誕生日、だろ?それまでにゃ戻るさ」
そう言って執務室を飛び出した
今日はアリシアは自分の部屋だ
そこまで一気に駆け抜ける
フレンにまた怒られそうだがな…
部屋について扉を開けるといつものように窓辺に座っていた
手には、以前書庫で見つけた人間界の本を彼女が翻訳して書き写したノートを持って
「アリシア、終わったぜっ!」
名前を呼べば、クルッと振り向く
「ん、お疲れ様」
ニコッと笑って言ってくる
アリシアの傍によってニカッと笑って手を差し出すと、持っていたノートをパタンと閉じて、嬉しそうに微笑んで手を取る
「んで?本当に行くのか?」
「行くっ!昔から行きたかったからっ!」
「はいよ、お前の行きたいところなら何処でも連れてってやるさ」
頭にキスしながら言えば、嬉しそうに抱きついてくる
本当可愛すぎるこの奥さんを誰か何とかしてくれねぇか←
「ふふ…楽しみだなぁ…!」
「ほーら、楽しみなのはわかったからこの状態だと歩けねぇぞ?」
「あっ、それもそっか!」
少し名残惜しそうに腕を離して、左手を右手と重ねてくる
「んじゃ、行くとしますかね」
「うんっ!」
こうしてオレとアリシアは部屋を後にした
アリシアが行きたがっていた場所へ行くために
ーあとがきー
これにて第二部終了とさせていただきます
二部でも懲りずにアリシアちゃんを狙ってくる輩がいるという……
そして、アリシアはキレると周りが見えなくなります←
因みに父親であるレオルよりもアリシアの方が怒ると怖いですw
さて、そのレオルですが…
当初名前をつける予定はありませんでしたw
話の流れ的にあった方がいいと思いつけましたw(母親はアリオトです)
今後も、レオルの方は名前だけはちょくちょく出てくると思いますが、話に出てくるかは未定ですw
さぁ、いよいよ三部は人間界へと向かいます!
そこで二人を待ち受けているものは……?
それでは、また次のお話でお会いしましょう
追記:サイト移動と伴い、一部お話を変更致しました
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