第2章
Name Change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
〜奪還〜
ー一週間後(ユーリside)ー
「…………」
「「…………」」
執務室には異常な程ピリピリした空気が流れている
原因はオレがピリピリしているからだろう
あの日以来、オレの側近達はがむしゃらになって情報をかき集めてきているが、一向にそれといって有力なものは無い
自分が動きたくても今は動けない
アリシアを連れ去った奴への怒りと、自分への後悔でいっぱいいっぱいだ
「ユーリ……ピリピリするのはわかるが、頼むから今は堪えてくれ……後、ここにいる方々に八つ当たりするのもよしてくれ…」
少し呆れたように隣にいるフレンは言う
「…………」
無言でフレンに目で訴える
今口を開けば暴言しか出ないのが明白だからだ
「言いたいことはわかるが…」
はぁ…………とため息をつきながら腰に手を当てている
ため息つきてぇのはこっちの方だと心ん中で悪態をつく
「…あのー……せーねん?ちょっといいかしら…?」
いつの間にか来ていたのか、後ろからレイヴンが話しかけてくる
「…なんだよ?」
「ちょっとばかし、気になる情報が入ったもんでね。ラゴウ前評議会議員の別荘の周りに異常な程バタバタしてるみたいよ?それと、一箇所内側から封印結界が仕掛けられた部屋もあるらしい」
ガタッと大きな音をたてて立ち上がる
周りの議員達はビクッと肩を震わせてこちらを向く
「ちょっとちょっと!まだ証拠がないのよっ!封印結界貼ってあったって、アリシアちゃんじゃないかもしんないのよ!」
「……………」
無言で座り直す
そう、確信出来る証拠がない限り乗り込むことが出来ない
「今、ラピードとリンクがなんか無いかって周囲を探してるからもう少しだけ辛抱してよ…」
「…………あぁ……」
右手を握りしめる力が強くなる
このままだと思いっきり机を殴りかねない
「…………悪ぃ、フレンちょっと抜けるわ」
再び立ち上がってフレンに一言それだけ伝えて、返事も聞かずに部屋を後にした
向かったのはこの城に最初にアリシアが来た部屋
……アリシアが攫われる直前にいた部屋だ
扉を開けると花瓶こそ片付けたものの、あの日以来全く何もいじっていない
そっとベットに腰掛けて倒れ込む
こうしていると、アリシアが最初に来た時のことを思い出す
『ユーリ、執務は?』
『もう…あんまりサボってほかの人を困らせないでくださいね?』
『ユーリ、おやすみ』
『むっ……まだ寝ぼけているんですか?昨日一緒に寝たじゃないですか…』
「………っ!……アリシア……」
今さっきまで、そこにいたかのように声が響いてくる
「………声は思い出せんのに、温もりだけは思い出せねぇんだよな……」
会いたい
会って抱きしめたい、思いっきり抱きしめたい…
これでもかってくらい、二度と離さないように
……ごめん……もう少し………もう少しだけ………待っててくれ………
「………アリシアになんかしてやがったら、今回はぜってぇに許さねぇ」
例え、アリシアが止めたとしても
今回だけは、絶対に、
ーアリシアsideー
連れ攫われてから一週間程経った
相変わらず部屋の外には出れないし、一日に一回お風呂には行けるけど、見張りが居るし……
何度か出ようとしてみたが、デュークさんに言われた通り触ることすら出来ない
時々扉の外から、まだ魔王様にここはバレてないか?という話し声が聞こえる
多分、今頃必死に私を探しているんだろうなぁ……
…絶対怒り狂ってる…
そっと服で隠すように腕に巻いたリボンに触れる
大丈夫、きっとユーリなら見つけ出してくれる……
窓の外を眺めながら何度も何度も自分に言い聞かせる
ガチャッと扉が開く音がして少し体を強ばらせて振り向くが、そこに居たのはデュークさんだった
「……また外を見ているのか?」
「…………はい……」
ふっと視線を外へ戻す
デュークさんが開けてくれた窓からは心地よい風が入り込んできている
「……もう少ししたらまた見に来る」
そう言って部屋を出て行ってしまった
(…なんだったんだろ…?)
「ピピ………」
「っ!?……鳥……?」
開け放たれた窓から一羽の小鳥が入り込んで来た
どうやら羽根を怪我しているようで少し血が出ている
「……おいで?」
そっと手を伸ばすと、素直に手に乗ってきた
私は触ったり出来なくても、小鳥や他の人は窓や扉に触れたり出来るからいいなぁ……
自由に歩き回りたい……
……早く、ユーリに会いたい……
「可哀想……包帯欲しいけど、デュークさんは今下だし……」
ふと、腕に巻いたリボンを思い出した
ユーリから貰った大切なものだが、デュークさんに包帯を貰うまで代用させて貰おう
「……ごめんね、ユーリ」
腕からリボンを取って、小鳥の怪我した羽根に巻き付ける
「……はい、これでよしっと……しばらくここにいてね?」
そっと小鳥の頭を撫でると少し嬉しいそうに鳴いた
しばらくして、ガチャッとデュークさんが食事を持ってやって来た
「あっ……デュークさん、包帯ってありますか?」
「……何に使うんだ?」
「小鳥が怪我をしていて……って……あ、あれ?!さっきまでここにいたはずなのに……」
少し目を離した隙にまた窓から出て行ってしまったようだ
「………手負いの動物は手当してくれた者の元へ戻ることが多い、また戻って来るだろう」
カチャッと机に食事を置いて、後でまた取りに来ると言って出て行く
「……大丈夫かな……」
外を眺めながら、何処かに行ってしまった小鳥のことを考えた
ー数日後(ユーリside)ー
今日は執務を全部任せて玉座の間にいる
何となくだが、何か進展がある気がしたから
「ユーリ…っ!」
「…エステル、なんかあったのか?」
「ラピードとリンクが帰って来たんですっ!」
少し興奮気味にエステルが玉座の間へ入ってきた
他の奴らも次々にやって来る
「ユーリ、報告していいかい?」
「…おう」
「ラピードとリンクが、ラゴウの別荘の正面門の前でこれを拾って来たよ」
「っ!?それはっ!!」
フレンが持っていたのは、オレがアリシアにと渡したリボンだった
「決定的な証拠、ね?」
嬉しそうにジュディが笑ったのが視界の隅に入る
…ようやく、ようやく見つけた
側に置いていた愛刀を持って立ち上がる
ずっと握りしめてた右手の力を少し抜いた
痛みすら忘れるくらい怒っていたようで、手の平に爪痕がしっかりついている
「エステル、リタ、ラゴウの周辺、あらいだしておいてくれ」
「はいっ!」「了解」
二人はすぐに扉の方へと走って行く
「カロル、レイヴン、独房の準備しとけ」
「うんっ!」「はいよっ!」
返事をすると、この二人もまた扉の方へと走って行く
「フレン、ラピード、ジュディ、行くぜ?」
「えぇ、もちろん」「ワオーン!」
ニヤッと口角を上げて言えばようやくいつもの君に戻ったね、とフレンも笑う
今、行くからな…アリシア…っ!
ーーーーーーー
「…ここか?」
「ワオーンッ」
目の前には、いかにもこそこそと何かやってますよと言わんばかりに厳重な警戒が敷かれている屋敷がある
レイブンの情報通り、封印結界が貼られた部屋があるのが見えた
これじゃあオレでもアリシアの気配を感じ取れないわけだ
「どうする?ユーリ」
「んなもん、決まってんだろ?ジュディ、ラピード、外にいる邪魔モン死なねぇ程度に倒しといてくれ」
「あら、外でいいのかしら?」
「フレンにゃ中でやってもらうことあんだよ」
「ふふ、わかったわ。じゃそっちは頼んだわよ」
そう言ってジュディとラピードはそれぞれ近場で邪魔してきそうなのを次々倒して行く
「ユーリ、僕らも行こうか?」
「あぁ」
短く返事をして玄関へ向かう
頑丈そうな扉は当然ながら内側から鍵がかかっている
「フレン、退いててくれ」
「あぁ、わかったよ」
フレンが少し下がったのを確認してから、今まで溜め込んでいた怒りを全部吐き出すように思いっきり扉をぶん殴る
ドオォォォォンッ!!!
大きな音を立てて少し扉がひしゃげる
その後は何度か剣技を放った後に蹴飛ばした
バァァンッ!と音を立て、扉が吹っ飛ぶ
「………流石にやりすぎじゃないかい…?」
少し驚いた顔でフレンは言ってくる
「あん?こんだけ派手にやっときゃもう二度とやる気なんかおきねぇだろ?」
その前に殺すかもしんねぇけどっと言えば、ため息をついて俯くフレン
中に入ると、外はやけに厳重だったのに全くと言っていいほど人の気配がない
「………来たか」
「あ?てめぇか?オレの大事な奴攫ったのは」
階段、踊り場の上に声の主はいた
銀の髪に赤を貴重とした服………
何処かで、見たことある気がする
が、今はそんなことどうでもいい
容赦なく剣を向ける
「……否定はしない。だが、お前と争う気はない。私は教えに来ただけだ」
「はぁ?意味わかんねぇよ」
「…この階段を上がって右側、一番奥の部屋。そこにお前が探している女はいる」
「…!?」
「…封印結界が仕掛けられてるうえに鎖で繋がれているが、お前なら問題なく破れるだろう」
その男は淡々と言う
何故そんなことを教えるのか、そいつの真意は分からない
だが、その目は嘘をついているようには見えなかった
「…フレン、あいつが逃げねぇように見とけ。後、ラゴウの居場所も探しといてくれ」
「任せといてくれ。……早く行って来い」
フレンの返事を聞くと同時に駆け出す
さらっと階段を上がりきり、男から聞いた部屋へ急ぐ
心臓がうるさいくらいバクバクなっている
部屋の前までついて扉を思いっきり蹴り飛ばす
「アリシアっ!!!」
部屋に飛び込むと、ベッドの近くに座り込んでいるアリシアがいた
男が言った通り封印結界が部屋には仕掛けてあり、アリシアは壁に鎖で繋がれている
だが、前回のキュモールの時のように全く動けない状態ではないようだ
「……ユ………リ………?」
掠れた声で名前を呼んでくる
忌々しいものを消し去って今までにないくらいの力でアリシア抱きしめる
時間としてはそんなに長くなかったかもしれない
だが、オレからしたらものすごく長い時間に感じられた
ようやく会えた、愛しのオレの嫁さんに
もう、絶対に離さない
何があっても、絶対に
ー数日後(アリシアside)ー
「はぁ…………」
まだ、ユーリは来そうにない
でも、扉の外から聞こえてくる会話は心配そうな声ばかりだった
『魔王様が本気で怒っていらっしゃる』とか、『大規模な捜索隊が編成されている』とか…
それでも見つからないのは、相当遠くだからか、あるいは見つからない工夫がしてあるのだろう
「ピピピッ!」
「っ!小鳥さん…!」
窓から数日前に怪我を手当した小鳥が入ってきた
でも、その羽根に巻いたはずのリボンが外れてしまっている
「…?どこかで外れちゃったのかな…?」
外れてしまったなら仕方ない、まだ治りきってないようだし、包帯を巻いておこう
「……前に話していたのはその小鳥か?」
ガチャリと扉を開けてデュークさんが入ってきた
「あ…はい、でも前に巻いたリボンが外れてしまっているんです……何処で落としたんだろう…」
以前デュークさんに渡された包帯を取りながら呟く
「…………いよいよ、か」
「え?」
「……なんでもない。お前が気にするような事ではない」
そう言い残して部屋を後にしていった
「……本当、不思議な人……」
ボソッと呟いて、小鳥さんの手当を済ませると、また窓の外へと出て行ってしまった
それを見送った後、ゆっくりと立ち上がってベットにダイブする
「……ユーリ…………」
一人になった部屋で、ボソッと呟く
よく考えて見れば、ここまで彼と離れたのは幼い頃を覗けば初めてだ
うずくまって、ユーリの事ばかり考える
会いたい
抱きしめて欲しい…
そんなことばかり頭をよぎる
キィィっと扉が開く音がして顔をあげると、仮面を付けた男が立っていた
「……っ!!!」
咄嗟に距離をとろうとする
「おやおや…随分な嫌われようですね。まぁ無理もないですけれどね」
ケラケラと笑いながら近づいてくる
逃げようとしたが、壁際まで追い詰められてしまった
「や……っ!」
「あなたに何かする気は無いですよ。魔王様にバレれば問答無用で殺されそうですから」
そう言いながら髪を掴んでくる
「……っ!!!」
「もう少しで準備が整うんですよ。もう少しですからね………その前に、この鬱陶しい髪を何とかした方が良いですね」
そう言ってハサミを取り出してくる
「……!!!い…やっ!!!」
どうにか逃げようとするが鎖で繋がれてしまってはどうしようもない
仮面の男が、私の髪を切ろうとしたその瞬間
ドオォォォォンッ!!!
「っ!?な、何事ですっ!?」
「ラ、ラゴウ様っ!ここがバレてしまったようです!急ぎお逃げくださいっ!」
「なんですって?!くっ……!致し方ありませんね…デュークっ!私は先に行きます。彼女を連れてくるのですよ」
そう言ってラゴウ様と呼ばれた仮面の男は出て行った
それと入れ違いにデュークさんが入ってくると、足から力が抜けてしまった
ペタッと床に座り込む
先ほどの恐怖が頭から離れない
「……もうすぐやつが来る、ここにいろ」
「……え……?」
「……待っていろ」
そう言ってデュークさんは部屋から出て行く
『やつ』って……誰?
『気づかれた』って……誰に?
お願い……ユーリであって欲しい……
恐怖で震えてる自分の腕を両手で抱えながらうずくまる
怖いよ……ユーリじゃなかったらどうしよう……知らない誰かだったら…?
怖い、怖い…怖いよ……
バァァンッ!という大きな音が下の階から聞こえた
ビクッと体が震える
しばらく無音が続いたけど、バタバタっと階段を駆け上がってくる音が聞こえてきた
誰………?
バァンッと勢いよく扉が開く音がして顔をあげると
「アリシアっ!!!」
ずっと、ずっと待っていた
大好きなユーリがいた
「……ユ………リ………?」
掠れた声で名前を呼ぶと、サッと結界と鎖をいともたやすく消し去ると今までにないくらいの力で抱きしめてきた
その瞬間、今まで我慢していたものが一気に決壊する
「アリシア…!ごめん…!ごめんな……来んのが遅くなっちまった……」
「ユゥ………リ…っ!!!怖……かった…っ!怖かったよ……」
涙がポロポロと溢れる
目からどんどんこぼれ落ちる
震えきってしまっていて、抱きしめ返したいのに抱きしめられない
「もう大丈夫、大丈夫だから…」
優しく頭を撫でてくる
頭を撫でられる感覚も、抱きしめられる感覚も、全部が懐かしかった
一ヶ月も離れていないのに、何年も離れていたような感覚がする
「……なぁ……アリシア……髪、どうしたんだ?」
「……え……?」
唐突に聞かれた言葉に驚く
「少し切れてるっつーか、切られてるっつーか…」
すっと髪に触れながら問いかけてくる
その場所は、先程ハサミを当てられていた所だ
ユーリの言葉にあの出来事が、恐怖として甦ってくる
「ぁ……やぁ…………っ!」
「アリシア?」
違う
目の前にいるのはユーリ
あの男じゃない
全くの別人だ
それなのに、何故かあの男の姿が薄らと見える気がした
「ユーリ……っ!やだ………っ!怖いよ……っ!」
顔をあげて、まっすぐユーリを見てそう言うと一瞬驚いた顔をしたが、すぐにぎゅっと抱きしめてくれる
「アリシア、大丈夫、ここに居るのはオレだ。オレはちゃんと傍にいるから…
何に怯えてんのか、何があったかゆっくりでいいから、話してくれるか?」
そっと優しく包んでくるユーリにコクンと頷いて、ゆっくり話し出した
途中、本気で怖くて言葉が詰まったりしたけど、それでもユーリは話し終わるまでずっと無言で聞いていた
………時折抱きしめている腕に力が入ってきた
全部話し終わると、あからさまに不機嫌そうに顔を歪める
「ふざけやがって……っ!アリシアをなんだと思っていやがるんだっ!」
ユーリが抱きしめてくる腕は、まるでもう離さないというように私を抱きしめる
「アリシア…大丈夫、もう大丈夫だから」
ユーリは優しく言ってくる
それでも、『彼』のせいで恐怖にのまれている体は震えが止まらない
こんなに近くにユーリがいるのに
安心出来る存在がいるのに
頭が警告音を鳴らし続けている
違う……今目の前にいるのはユーリ……ユーリなんだから……
『彼』じゃない……
私の……大好きなユーリなんだから……
「…アリシア……」
「…?」
しばらくぼーっとしてユーリに引っ付いていると、不意に名前を呼ばれて、顔をあげてユーリを見ると少し目が赤くなっている
「…ユーリ……泣いてる…?」
左手を伸ばして頬に触ると、ユーリの右手によって頬から離されて恋人繋ぎをした状態になる
「今回ばかりはオレもちと怖かったわ…」
と言って私の肩に顔を埋める
まるで泣いているのを隠すように
そんなことしなくても、もう泣いてるのはバレバレなのに…
それでも泣いるのはユーリのプライド的に見られたくないのだろう
相当心配してくれていたんだろうな…
「ユーリーーーー!!!!もうここにはいないようだよ!!!」
下からフレンの声が聞こえる
どうやら一緒に来ていたみたいだ
フレンの他にも、よく聞き取れないがジュディスとラピードの声も聞こえた
「…フレンが呼んでるよ、ユーリ」
右手で頭を撫でながら言う
いつの間にか、私が慰める位置に変わってしまったなぁ…と苦笑する
「……おぅ……」
そう言って私からほんの少し距離を置いて、服の袖で目元を吹いている
…それ、顔隠した意味無いよ……とは、あえて言わなかった
「…アリシア、帰ろう」
ニカッと笑ってユーリは言ってくる
「うん…!でも……あの…ね、その前に……さ……」
ーーーーーキスして?ーーーーー
そう言うと少し驚いたが、それでもニコッと微笑んでキスしてくる
最初は触れるだけ、でも徐々に深いものに変わる
久しぶりの感覚に思わず溺れてしまいそう
息が少し苦しくなって、頭が酸素を求めて離れようとしてもユーリによって退路を絶たれる
「んっ………ユー…リ…っ!」
一瞬離れて、また繋がる
そんなキスが何度も続く
息苦しさや、とろけそうな程甘い感覚に耐えるように、ユーリと繋いだ手に力を入れる
ユーリも優しく握り返してくる
しばらくしてから、ようやくユーリの唇が離れて頭に酸素が回ってくる
完全に甘い感覚に溺れきってしまったのか頭が働かない
多分目はトロンとしているだろう
「ふぁ…………」
「はっ…久々にしては、ちと激しかったか?」
苦笑いしながら聞いてくる
働かない頭で首を横に振って答える
「っ!////本当、可愛すぎるわ//」
そう言ってまた抱きしめてくる
このくらいがいいって
ちょっと無理やりくらいが丁度いいって
絶対言葉になんて出さないけど
抱きしめてくる腕が強いのも
握りしめてきた右手も
…お前はオレのだって主張してくるようなキスも
行動の一つ一つがユーリが私のことを心配していた証で…
それが無性に嬉しい
今は、ただただこうしていられるだけでよかった
ようやく、迎えに来てくれた、私の大好きな人…
その彼といられるだけで、充分過ぎるくらい、幸せだ
あの後、ユーリにお姫様抱っこされてお城へ戻った
お城につくと、無事でよかったとみんなが声をかけてくれる
久々のお城の雰囲気が懐かしく思えた
黒幕であるラゴウは逃げているらしく、今ラピードやレイブンが探している
デュークさんはというと、独房に入れられそうになってるところを私がユーリに、むしろ助けようとしてくれたと伝えた
確かにアリシアの部屋の場所教えてくれたし…とか、一人でブツブツ言いながら考え込んだ後、ラゴウを捕まえるのに協力するっていう約束をして独房行きだけはなんとかまぬがれた
そのユーリは今、ラゴウ探しで検問張らせたり、貴族に情報提供させようとしていて忙しそうにしていた
私は私で本当に何もされていないかって、夜までリタにいろいろ検査された…
検査の後、ジュディスがラゴウに変に切られてしまった髪を綺麗に揃え直してくれた
以前よりも少し短くなったけど、これはこれで可愛いと評判だった
久々に、帰ってきたユーリと二人の寝室
多分今夜はユーリが戻って来るのは遅いのだろう
ベッドのふちに腰掛けながらため息をつく
一人では眠れそうになかった
寝たら思い出してしまいそうで
また、知らないところに連れていかれるんじゃないかって
起きても、隣にいないんじゃないかと思って
この短期間で随分と臆病になってしまった…
苦笑いしながらそんなこと考えていると、扉の開く音が聞こえてきた
思わずビクッと肩が反応するが、この部屋に来るのは彼くらいだろう
「まだ起きてたのか?」
「…一人だと怖くて眠れそうにないの…」
心配そうに聞いてきたのはもちろんユーリ
私の横に腰掛けてそっと肩を寄せてくる
「オレはちゃんとここにいるぜ?」
「でも怖いの…知らないとこに一人ぼっちなのは怖いんだよ…?」
ユーリに寄りかかりながら言う
「ま、オレも怖いとはちと違うが、一人で寝んのはもう勘弁だわ」
苦笑いしながらユーリはそう言う
どうやら私たちは二人に慣れすぎてしまったのかもしれない
どちらともなく笑い出す
お互いに依存し合っているんだろう
「でも、流石にねみぃな…最近寝れてなかったし」
「ふふ…心配なのと怒り過ぎてたら眠れないよね」
クスっと笑いながら言うと本当にびっくりしたようで、ビクッと肩を震わせて驚く
「なんっ…!?」
「リタ達が教えてくれたの、右手はずっと握りしめたままだったし、ずっとピリピリしてて報告しにくかったって、文句言ってた」
「あいつら…っ!!」
「…でも、今回は踏みとどまって情報集まるの待っていたんでしょう?」
頭を撫でながら言うと、何度か暴れそうになったけどなっと気まづそうに答えた
チラッと右手を見ると、さっきは気づかなかったけれど、手に平にはくっきりと爪痕が残っている
「ほら、もう寝ようぜ?」
「ひゃっ!?」
ユーリの手の平を見ていると、急に引っ張られてボスッとベッドに倒れ込む
突然のことにびっくりする
ユーリはクスクスっと笑い出している
「もうっ!いきなり倒れ込むのなしっ!」
そう言ってユーリの胸を軽く叩く
「ふーん…そゆことすんだな?」
低トーンで耳元で呟かれ、体がビクッと反応する
あっさりと両手を掴まれてユーリに組み敷かれてしまう
「~~~っ!!///」
「ったく、相変わらず人を煽んのが得意だな?」
ニヤッといつもの不敵な笑みを浮かべる
「ユーリ……寝るんじゃなかったの?」
「先にこっちしたくなった」
そう言って手を抑えてるのと反対の手で顎をあげて、目線を合わせようとしてくる
「もう……」
「悪ぃ、先に言っとくが手加減出来そうにはねぇや」
「……私、煽ったりなんかしてないからね…?」
そう言うと、へいへいっと絶対わかってないような返事が返ってくると同時に唇を重ねた
少し懐かしい感覚にやっと帰ってこれたんだと、改めて実感する
「んっ………ふぁ………」
深いキスの後、首元にまた所有印をつけられる
普段なら文句を言ってしまうのだが、今はこの愛情表現すら嬉しい
二人して甘い感覚に夜が更けるまで溺れていた
ー一週間後(ユーリside)ー
「…………」
「「…………」」
執務室には異常な程ピリピリした空気が流れている
原因はオレがピリピリしているからだろう
あの日以来、オレの側近達はがむしゃらになって情報をかき集めてきているが、一向にそれといって有力なものは無い
自分が動きたくても今は動けない
アリシアを連れ去った奴への怒りと、自分への後悔でいっぱいいっぱいだ
「ユーリ……ピリピリするのはわかるが、頼むから今は堪えてくれ……後、ここにいる方々に八つ当たりするのもよしてくれ…」
少し呆れたように隣にいるフレンは言う
「…………」
無言でフレンに目で訴える
今口を開けば暴言しか出ないのが明白だからだ
「言いたいことはわかるが…」
はぁ…………とため息をつきながら腰に手を当てている
ため息つきてぇのはこっちの方だと心ん中で悪態をつく
「…あのー……せーねん?ちょっといいかしら…?」
いつの間にか来ていたのか、後ろからレイヴンが話しかけてくる
「…なんだよ?」
「ちょっとばかし、気になる情報が入ったもんでね。ラゴウ前評議会議員の別荘の周りに異常な程バタバタしてるみたいよ?それと、一箇所内側から封印結界が仕掛けられた部屋もあるらしい」
ガタッと大きな音をたてて立ち上がる
周りの議員達はビクッと肩を震わせてこちらを向く
「ちょっとちょっと!まだ証拠がないのよっ!封印結界貼ってあったって、アリシアちゃんじゃないかもしんないのよ!」
「……………」
無言で座り直す
そう、確信出来る証拠がない限り乗り込むことが出来ない
「今、ラピードとリンクがなんか無いかって周囲を探してるからもう少しだけ辛抱してよ…」
「…………あぁ……」
右手を握りしめる力が強くなる
このままだと思いっきり机を殴りかねない
「…………悪ぃ、フレンちょっと抜けるわ」
再び立ち上がってフレンに一言それだけ伝えて、返事も聞かずに部屋を後にした
向かったのはこの城に最初にアリシアが来た部屋
……アリシアが攫われる直前にいた部屋だ
扉を開けると花瓶こそ片付けたものの、あの日以来全く何もいじっていない
そっとベットに腰掛けて倒れ込む
こうしていると、アリシアが最初に来た時のことを思い出す
『ユーリ、執務は?』
『もう…あんまりサボってほかの人を困らせないでくださいね?』
『ユーリ、おやすみ』
『むっ……まだ寝ぼけているんですか?昨日一緒に寝たじゃないですか…』
「………っ!……アリシア……」
今さっきまで、そこにいたかのように声が響いてくる
「………声は思い出せんのに、温もりだけは思い出せねぇんだよな……」
会いたい
会って抱きしめたい、思いっきり抱きしめたい…
これでもかってくらい、二度と離さないように
……ごめん……もう少し………もう少しだけ………待っててくれ………
「………アリシアになんかしてやがったら、今回はぜってぇに許さねぇ」
例え、アリシアが止めたとしても
今回だけは、絶対に、
ーアリシアsideー
連れ攫われてから一週間程経った
相変わらず部屋の外には出れないし、一日に一回お風呂には行けるけど、見張りが居るし……
何度か出ようとしてみたが、デュークさんに言われた通り触ることすら出来ない
時々扉の外から、まだ魔王様にここはバレてないか?という話し声が聞こえる
多分、今頃必死に私を探しているんだろうなぁ……
…絶対怒り狂ってる…
そっと服で隠すように腕に巻いたリボンに触れる
大丈夫、きっとユーリなら見つけ出してくれる……
窓の外を眺めながら何度も何度も自分に言い聞かせる
ガチャッと扉が開く音がして少し体を強ばらせて振り向くが、そこに居たのはデュークさんだった
「……また外を見ているのか?」
「…………はい……」
ふっと視線を外へ戻す
デュークさんが開けてくれた窓からは心地よい風が入り込んできている
「……もう少ししたらまた見に来る」
そう言って部屋を出て行ってしまった
(…なんだったんだろ…?)
「ピピ………」
「っ!?……鳥……?」
開け放たれた窓から一羽の小鳥が入り込んで来た
どうやら羽根を怪我しているようで少し血が出ている
「……おいで?」
そっと手を伸ばすと、素直に手に乗ってきた
私は触ったり出来なくても、小鳥や他の人は窓や扉に触れたり出来るからいいなぁ……
自由に歩き回りたい……
……早く、ユーリに会いたい……
「可哀想……包帯欲しいけど、デュークさんは今下だし……」
ふと、腕に巻いたリボンを思い出した
ユーリから貰った大切なものだが、デュークさんに包帯を貰うまで代用させて貰おう
「……ごめんね、ユーリ」
腕からリボンを取って、小鳥の怪我した羽根に巻き付ける
「……はい、これでよしっと……しばらくここにいてね?」
そっと小鳥の頭を撫でると少し嬉しいそうに鳴いた
しばらくして、ガチャッとデュークさんが食事を持ってやって来た
「あっ……デュークさん、包帯ってありますか?」
「……何に使うんだ?」
「小鳥が怪我をしていて……って……あ、あれ?!さっきまでここにいたはずなのに……」
少し目を離した隙にまた窓から出て行ってしまったようだ
「………手負いの動物は手当してくれた者の元へ戻ることが多い、また戻って来るだろう」
カチャッと机に食事を置いて、後でまた取りに来ると言って出て行く
「……大丈夫かな……」
外を眺めながら、何処かに行ってしまった小鳥のことを考えた
ー数日後(ユーリside)ー
今日は執務を全部任せて玉座の間にいる
何となくだが、何か進展がある気がしたから
「ユーリ…っ!」
「…エステル、なんかあったのか?」
「ラピードとリンクが帰って来たんですっ!」
少し興奮気味にエステルが玉座の間へ入ってきた
他の奴らも次々にやって来る
「ユーリ、報告していいかい?」
「…おう」
「ラピードとリンクが、ラゴウの別荘の正面門の前でこれを拾って来たよ」
「っ!?それはっ!!」
フレンが持っていたのは、オレがアリシアにと渡したリボンだった
「決定的な証拠、ね?」
嬉しそうにジュディが笑ったのが視界の隅に入る
…ようやく、ようやく見つけた
側に置いていた愛刀を持って立ち上がる
ずっと握りしめてた右手の力を少し抜いた
痛みすら忘れるくらい怒っていたようで、手の平に爪痕がしっかりついている
「エステル、リタ、ラゴウの周辺、あらいだしておいてくれ」
「はいっ!」「了解」
二人はすぐに扉の方へと走って行く
「カロル、レイヴン、独房の準備しとけ」
「うんっ!」「はいよっ!」
返事をすると、この二人もまた扉の方へと走って行く
「フレン、ラピード、ジュディ、行くぜ?」
「えぇ、もちろん」「ワオーン!」
ニヤッと口角を上げて言えばようやくいつもの君に戻ったね、とフレンも笑う
今、行くからな…アリシア…っ!
ーーーーーーー
「…ここか?」
「ワオーンッ」
目の前には、いかにもこそこそと何かやってますよと言わんばかりに厳重な警戒が敷かれている屋敷がある
レイブンの情報通り、封印結界が貼られた部屋があるのが見えた
これじゃあオレでもアリシアの気配を感じ取れないわけだ
「どうする?ユーリ」
「んなもん、決まってんだろ?ジュディ、ラピード、外にいる邪魔モン死なねぇ程度に倒しといてくれ」
「あら、外でいいのかしら?」
「フレンにゃ中でやってもらうことあんだよ」
「ふふ、わかったわ。じゃそっちは頼んだわよ」
そう言ってジュディとラピードはそれぞれ近場で邪魔してきそうなのを次々倒して行く
「ユーリ、僕らも行こうか?」
「あぁ」
短く返事をして玄関へ向かう
頑丈そうな扉は当然ながら内側から鍵がかかっている
「フレン、退いててくれ」
「あぁ、わかったよ」
フレンが少し下がったのを確認してから、今まで溜め込んでいた怒りを全部吐き出すように思いっきり扉をぶん殴る
ドオォォォォンッ!!!
大きな音を立てて少し扉がひしゃげる
その後は何度か剣技を放った後に蹴飛ばした
バァァンッ!と音を立て、扉が吹っ飛ぶ
「………流石にやりすぎじゃないかい…?」
少し驚いた顔でフレンは言ってくる
「あん?こんだけ派手にやっときゃもう二度とやる気なんかおきねぇだろ?」
その前に殺すかもしんねぇけどっと言えば、ため息をついて俯くフレン
中に入ると、外はやけに厳重だったのに全くと言っていいほど人の気配がない
「………来たか」
「あ?てめぇか?オレの大事な奴攫ったのは」
階段、踊り場の上に声の主はいた
銀の髪に赤を貴重とした服………
何処かで、見たことある気がする
が、今はそんなことどうでもいい
容赦なく剣を向ける
「……否定はしない。だが、お前と争う気はない。私は教えに来ただけだ」
「はぁ?意味わかんねぇよ」
「…この階段を上がって右側、一番奥の部屋。そこにお前が探している女はいる」
「…!?」
「…封印結界が仕掛けられてるうえに鎖で繋がれているが、お前なら問題なく破れるだろう」
その男は淡々と言う
何故そんなことを教えるのか、そいつの真意は分からない
だが、その目は嘘をついているようには見えなかった
「…フレン、あいつが逃げねぇように見とけ。後、ラゴウの居場所も探しといてくれ」
「任せといてくれ。……早く行って来い」
フレンの返事を聞くと同時に駆け出す
さらっと階段を上がりきり、男から聞いた部屋へ急ぐ
心臓がうるさいくらいバクバクなっている
部屋の前までついて扉を思いっきり蹴り飛ばす
「アリシアっ!!!」
部屋に飛び込むと、ベッドの近くに座り込んでいるアリシアがいた
男が言った通り封印結界が部屋には仕掛けてあり、アリシアは壁に鎖で繋がれている
だが、前回のキュモールの時のように全く動けない状態ではないようだ
「……ユ………リ………?」
掠れた声で名前を呼んでくる
忌々しいものを消し去って今までにないくらいの力でアリシア抱きしめる
時間としてはそんなに長くなかったかもしれない
だが、オレからしたらものすごく長い時間に感じられた
ようやく会えた、愛しのオレの嫁さんに
もう、絶対に離さない
何があっても、絶対に
ー数日後(アリシアside)ー
「はぁ…………」
まだ、ユーリは来そうにない
でも、扉の外から聞こえてくる会話は心配そうな声ばかりだった
『魔王様が本気で怒っていらっしゃる』とか、『大規模な捜索隊が編成されている』とか…
それでも見つからないのは、相当遠くだからか、あるいは見つからない工夫がしてあるのだろう
「ピピピッ!」
「っ!小鳥さん…!」
窓から数日前に怪我を手当した小鳥が入ってきた
でも、その羽根に巻いたはずのリボンが外れてしまっている
「…?どこかで外れちゃったのかな…?」
外れてしまったなら仕方ない、まだ治りきってないようだし、包帯を巻いておこう
「……前に話していたのはその小鳥か?」
ガチャリと扉を開けてデュークさんが入ってきた
「あ…はい、でも前に巻いたリボンが外れてしまっているんです……何処で落としたんだろう…」
以前デュークさんに渡された包帯を取りながら呟く
「…………いよいよ、か」
「え?」
「……なんでもない。お前が気にするような事ではない」
そう言い残して部屋を後にしていった
「……本当、不思議な人……」
ボソッと呟いて、小鳥さんの手当を済ませると、また窓の外へと出て行ってしまった
それを見送った後、ゆっくりと立ち上がってベットにダイブする
「……ユーリ…………」
一人になった部屋で、ボソッと呟く
よく考えて見れば、ここまで彼と離れたのは幼い頃を覗けば初めてだ
うずくまって、ユーリの事ばかり考える
会いたい
抱きしめて欲しい…
そんなことばかり頭をよぎる
キィィっと扉が開く音がして顔をあげると、仮面を付けた男が立っていた
「……っ!!!」
咄嗟に距離をとろうとする
「おやおや…随分な嫌われようですね。まぁ無理もないですけれどね」
ケラケラと笑いながら近づいてくる
逃げようとしたが、壁際まで追い詰められてしまった
「や……っ!」
「あなたに何かする気は無いですよ。魔王様にバレれば問答無用で殺されそうですから」
そう言いながら髪を掴んでくる
「……っ!!!」
「もう少しで準備が整うんですよ。もう少しですからね………その前に、この鬱陶しい髪を何とかした方が良いですね」
そう言ってハサミを取り出してくる
「……!!!い…やっ!!!」
どうにか逃げようとするが鎖で繋がれてしまってはどうしようもない
仮面の男が、私の髪を切ろうとしたその瞬間
ドオォォォォンッ!!!
「っ!?な、何事ですっ!?」
「ラ、ラゴウ様っ!ここがバレてしまったようです!急ぎお逃げくださいっ!」
「なんですって?!くっ……!致し方ありませんね…デュークっ!私は先に行きます。彼女を連れてくるのですよ」
そう言ってラゴウ様と呼ばれた仮面の男は出て行った
それと入れ違いにデュークさんが入ってくると、足から力が抜けてしまった
ペタッと床に座り込む
先ほどの恐怖が頭から離れない
「……もうすぐやつが来る、ここにいろ」
「……え……?」
「……待っていろ」
そう言ってデュークさんは部屋から出て行く
『やつ』って……誰?
『気づかれた』って……誰に?
お願い……ユーリであって欲しい……
恐怖で震えてる自分の腕を両手で抱えながらうずくまる
怖いよ……ユーリじゃなかったらどうしよう……知らない誰かだったら…?
怖い、怖い…怖いよ……
バァァンッ!という大きな音が下の階から聞こえた
ビクッと体が震える
しばらく無音が続いたけど、バタバタっと階段を駆け上がってくる音が聞こえてきた
誰………?
バァンッと勢いよく扉が開く音がして顔をあげると
「アリシアっ!!!」
ずっと、ずっと待っていた
大好きなユーリがいた
「……ユ………リ………?」
掠れた声で名前を呼ぶと、サッと結界と鎖をいともたやすく消し去ると今までにないくらいの力で抱きしめてきた
その瞬間、今まで我慢していたものが一気に決壊する
「アリシア…!ごめん…!ごめんな……来んのが遅くなっちまった……」
「ユゥ………リ…っ!!!怖……かった…っ!怖かったよ……」
涙がポロポロと溢れる
目からどんどんこぼれ落ちる
震えきってしまっていて、抱きしめ返したいのに抱きしめられない
「もう大丈夫、大丈夫だから…」
優しく頭を撫でてくる
頭を撫でられる感覚も、抱きしめられる感覚も、全部が懐かしかった
一ヶ月も離れていないのに、何年も離れていたような感覚がする
「……なぁ……アリシア……髪、どうしたんだ?」
「……え……?」
唐突に聞かれた言葉に驚く
「少し切れてるっつーか、切られてるっつーか…」
すっと髪に触れながら問いかけてくる
その場所は、先程ハサミを当てられていた所だ
ユーリの言葉にあの出来事が、恐怖として甦ってくる
「ぁ……やぁ…………っ!」
「アリシア?」
違う
目の前にいるのはユーリ
あの男じゃない
全くの別人だ
それなのに、何故かあの男の姿が薄らと見える気がした
「ユーリ……っ!やだ………っ!怖いよ……っ!」
顔をあげて、まっすぐユーリを見てそう言うと一瞬驚いた顔をしたが、すぐにぎゅっと抱きしめてくれる
「アリシア、大丈夫、ここに居るのはオレだ。オレはちゃんと傍にいるから…
何に怯えてんのか、何があったかゆっくりでいいから、話してくれるか?」
そっと優しく包んでくるユーリにコクンと頷いて、ゆっくり話し出した
途中、本気で怖くて言葉が詰まったりしたけど、それでもユーリは話し終わるまでずっと無言で聞いていた
………時折抱きしめている腕に力が入ってきた
全部話し終わると、あからさまに不機嫌そうに顔を歪める
「ふざけやがって……っ!アリシアをなんだと思っていやがるんだっ!」
ユーリが抱きしめてくる腕は、まるでもう離さないというように私を抱きしめる
「アリシア…大丈夫、もう大丈夫だから」
ユーリは優しく言ってくる
それでも、『彼』のせいで恐怖にのまれている体は震えが止まらない
こんなに近くにユーリがいるのに
安心出来る存在がいるのに
頭が警告音を鳴らし続けている
違う……今目の前にいるのはユーリ……ユーリなんだから……
『彼』じゃない……
私の……大好きなユーリなんだから……
「…アリシア……」
「…?」
しばらくぼーっとしてユーリに引っ付いていると、不意に名前を呼ばれて、顔をあげてユーリを見ると少し目が赤くなっている
「…ユーリ……泣いてる…?」
左手を伸ばして頬に触ると、ユーリの右手によって頬から離されて恋人繋ぎをした状態になる
「今回ばかりはオレもちと怖かったわ…」
と言って私の肩に顔を埋める
まるで泣いているのを隠すように
そんなことしなくても、もう泣いてるのはバレバレなのに…
それでも泣いるのはユーリのプライド的に見られたくないのだろう
相当心配してくれていたんだろうな…
「ユーリーーーー!!!!もうここにはいないようだよ!!!」
下からフレンの声が聞こえる
どうやら一緒に来ていたみたいだ
フレンの他にも、よく聞き取れないがジュディスとラピードの声も聞こえた
「…フレンが呼んでるよ、ユーリ」
右手で頭を撫でながら言う
いつの間にか、私が慰める位置に変わってしまったなぁ…と苦笑する
「……おぅ……」
そう言って私からほんの少し距離を置いて、服の袖で目元を吹いている
…それ、顔隠した意味無いよ……とは、あえて言わなかった
「…アリシア、帰ろう」
ニカッと笑ってユーリは言ってくる
「うん…!でも……あの…ね、その前に……さ……」
ーーーーーキスして?ーーーーー
そう言うと少し驚いたが、それでもニコッと微笑んでキスしてくる
最初は触れるだけ、でも徐々に深いものに変わる
久しぶりの感覚に思わず溺れてしまいそう
息が少し苦しくなって、頭が酸素を求めて離れようとしてもユーリによって退路を絶たれる
「んっ………ユー…リ…っ!」
一瞬離れて、また繋がる
そんなキスが何度も続く
息苦しさや、とろけそうな程甘い感覚に耐えるように、ユーリと繋いだ手に力を入れる
ユーリも優しく握り返してくる
しばらくしてから、ようやくユーリの唇が離れて頭に酸素が回ってくる
完全に甘い感覚に溺れきってしまったのか頭が働かない
多分目はトロンとしているだろう
「ふぁ…………」
「はっ…久々にしては、ちと激しかったか?」
苦笑いしながら聞いてくる
働かない頭で首を横に振って答える
「っ!////本当、可愛すぎるわ//」
そう言ってまた抱きしめてくる
このくらいがいいって
ちょっと無理やりくらいが丁度いいって
絶対言葉になんて出さないけど
抱きしめてくる腕が強いのも
握りしめてきた右手も
…お前はオレのだって主張してくるようなキスも
行動の一つ一つがユーリが私のことを心配していた証で…
それが無性に嬉しい
今は、ただただこうしていられるだけでよかった
ようやく、迎えに来てくれた、私の大好きな人…
その彼といられるだけで、充分過ぎるくらい、幸せだ
あの後、ユーリにお姫様抱っこされてお城へ戻った
お城につくと、無事でよかったとみんなが声をかけてくれる
久々のお城の雰囲気が懐かしく思えた
黒幕であるラゴウは逃げているらしく、今ラピードやレイブンが探している
デュークさんはというと、独房に入れられそうになってるところを私がユーリに、むしろ助けようとしてくれたと伝えた
確かにアリシアの部屋の場所教えてくれたし…とか、一人でブツブツ言いながら考え込んだ後、ラゴウを捕まえるのに協力するっていう約束をして独房行きだけはなんとかまぬがれた
そのユーリは今、ラゴウ探しで検問張らせたり、貴族に情報提供させようとしていて忙しそうにしていた
私は私で本当に何もされていないかって、夜までリタにいろいろ検査された…
検査の後、ジュディスがラゴウに変に切られてしまった髪を綺麗に揃え直してくれた
以前よりも少し短くなったけど、これはこれで可愛いと評判だった
久々に、帰ってきたユーリと二人の寝室
多分今夜はユーリが戻って来るのは遅いのだろう
ベッドのふちに腰掛けながらため息をつく
一人では眠れそうになかった
寝たら思い出してしまいそうで
また、知らないところに連れていかれるんじゃないかって
起きても、隣にいないんじゃないかと思って
この短期間で随分と臆病になってしまった…
苦笑いしながらそんなこと考えていると、扉の開く音が聞こえてきた
思わずビクッと肩が反応するが、この部屋に来るのは彼くらいだろう
「まだ起きてたのか?」
「…一人だと怖くて眠れそうにないの…」
心配そうに聞いてきたのはもちろんユーリ
私の横に腰掛けてそっと肩を寄せてくる
「オレはちゃんとここにいるぜ?」
「でも怖いの…知らないとこに一人ぼっちなのは怖いんだよ…?」
ユーリに寄りかかりながら言う
「ま、オレも怖いとはちと違うが、一人で寝んのはもう勘弁だわ」
苦笑いしながらユーリはそう言う
どうやら私たちは二人に慣れすぎてしまったのかもしれない
どちらともなく笑い出す
お互いに依存し合っているんだろう
「でも、流石にねみぃな…最近寝れてなかったし」
「ふふ…心配なのと怒り過ぎてたら眠れないよね」
クスっと笑いながら言うと本当にびっくりしたようで、ビクッと肩を震わせて驚く
「なんっ…!?」
「リタ達が教えてくれたの、右手はずっと握りしめたままだったし、ずっとピリピリしてて報告しにくかったって、文句言ってた」
「あいつら…っ!!」
「…でも、今回は踏みとどまって情報集まるの待っていたんでしょう?」
頭を撫でながら言うと、何度か暴れそうになったけどなっと気まづそうに答えた
チラッと右手を見ると、さっきは気づかなかったけれど、手に平にはくっきりと爪痕が残っている
「ほら、もう寝ようぜ?」
「ひゃっ!?」
ユーリの手の平を見ていると、急に引っ張られてボスッとベッドに倒れ込む
突然のことにびっくりする
ユーリはクスクスっと笑い出している
「もうっ!いきなり倒れ込むのなしっ!」
そう言ってユーリの胸を軽く叩く
「ふーん…そゆことすんだな?」
低トーンで耳元で呟かれ、体がビクッと反応する
あっさりと両手を掴まれてユーリに組み敷かれてしまう
「~~~っ!!///」
「ったく、相変わらず人を煽んのが得意だな?」
ニヤッといつもの不敵な笑みを浮かべる
「ユーリ……寝るんじゃなかったの?」
「先にこっちしたくなった」
そう言って手を抑えてるのと反対の手で顎をあげて、目線を合わせようとしてくる
「もう……」
「悪ぃ、先に言っとくが手加減出来そうにはねぇや」
「……私、煽ったりなんかしてないからね…?」
そう言うと、へいへいっと絶対わかってないような返事が返ってくると同時に唇を重ねた
少し懐かしい感覚にやっと帰ってこれたんだと、改めて実感する
「んっ………ふぁ………」
深いキスの後、首元にまた所有印をつけられる
普段なら文句を言ってしまうのだが、今はこの愛情表現すら嬉しい
二人して甘い感覚に夜が更けるまで溺れていた