第2章
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〜拉致〜
二ヶ月ほど経って、ようやく執務も落ち着いてきた
評議会議員の急な半数の入れ替えがあの忙しさの原因だったようだ
あの事件から、もう半年以上経つのか…
相変わらず消えない傷もあるが、それでも大分良くなった
以前のようにエステル達とお茶をする機会が増えた
エステルはたまに私の部屋に来ては、温室で育てている花を持ってきてくれる
ユーリの方は相変わらずサボり癖が直らないせいで忙しそうだが、それでも少しは落ち着いているようだ
「にしても、最近物騒みたいよ?」
「物騒って?」
いつものように他愛のない話をしていると、唐突にリタが言い出した
リタも主語がないんだよなぁ…と苦笑いする
「王都の貴族街らへんよ、誘拐事件が多いんですって」
「確かにそれは物騒ですね…」
「まぁ、誘拐されてもすぐに何事も無かったかのように帰って来るみたいなんだけどね」
「でも危ないことには変わらないわ。騎士だって少し増やしているのよ?」
ジュディスがリタの説明に補足するように言う
「そんなに頻繁なの?」
「頻繁も何も一日に一回はあるわ」
その答えに思わず口に含んだ紅茶が肺に入りそうになる
「ゲホッ!ゲホッ!…えぇっ!?そんなにっ!?」
「だ、大丈夫ですか?アリシア…でも確かに多いですね…」
「それも、アリシアやエステルくらいの女の子っていうじゃない、連れ攫われてるの」
その言葉にまたびっくりする
「えぇ、だから貴方達も一応気をつけて、ね?お城の中に居れば大丈夫だとは思うのだけれど」
紅茶を飲みながらジュディスは私とエステルに言う
確かにお城の中ならユーリが居るし…
うん、大丈夫だろう、多分…
「あ、あたしそろそろ行かなきゃ」
「え?もうそんな時間です?」
「論文の最終確認とかしたいのよ、また今度話そ」
「ん、わかった!頑張ってね、リタ~」
そう言ってリタは駆け足で部屋を後にした
「さーてと、私もそろそろユーリが来そうだから戻らないと」
「ふふ、本当に仲がいいですね、少し妬いちゃいそうです」
クスッと笑いながらエステルはそう言う
「流石にフレンに執務押し付けてたのには怒ったけどね」
と、苦笑いする
「あの時のユーリ、相当落ち込んでましたよ?」
「知ってるよ、会うの解禁してあげたら速攻飛びついて来てしばらく離れなかったもん」
あれは流石にちょっと鬱陶しかったかな、と頬を掻きながら言う
「それだけアリシアと会いたかったんですよ、ユーリは」
ふふふっとエステルは羨ましそうに笑う
「さぁ、アリシア、行きましょ?」
「ん、そうだね、じゃあエステル、またね」
「はい、またお茶しましょう」
エステルに別れを告げてジュディスと一緒に部屋を後にした
ーーーーーーーーーーーーー
いつもの部屋に着くと、ジュディスは先ほど話に出た誘拐事件についてやらないといけない事があるらしく、部屋の前にいた見張りの兵に後を任せて行ってしまった
中に入ると、エステルが変えていてくれたのか花瓶の花が変わっている
「わぁ…すごく綺麗な花……」
でも、温室にこんな花あったかな?
今まで温室には何度か行ったことがあるが、見たことがなかった
まぁ、あそこは広いし、全部周り切ったことも無いから見たことが無くても当たり前かもしれない
(ここだとあれだし…窓際に持っていこうかな)
窓際の机に置こうと思い、花瓶を手に取った……が、
(あ……れ………?)
急にとてつもない眠気に襲われる
一度花瓶を元に戻そうとするが、眠気に耐えられなくなった体は花瓶を持ったまま床に倒れてしまう
ガシャーンと大きな音が響き、外にいる護衛の人が声を掛けてくるが返事が出来ない
まだ意識はあるが、声が出ない
返事がないことに違和感を感じたのか護衛が入って来る
倒れた私に慌てて駆け寄って、体を揺さぶって話しかけてくるが、最早何を言ってるかなんて聞こえない
その護衛もどうやら眠くなったようで傍に倒れ込む
私がお城で最後に見たのは、銀髪に赤みがかった服を着た人の姿だけだった
ーーーーーーーー
「……ん……ぅ…………」
目が覚めると、知らない部屋にいた
少し意識が朦朧としているが、私の知っている部屋じゃない
作り自体はお城によく似ているが……
まだ気怠い体を起こすと、ジャラッと大嫌いな金属音が聞こえる
「……え?」
手首、それに首元にも鎖がついているのが見えた
手首の鎖は何処かに繋がっている感じではないが、首元のは思いっきり壁に固定されている
結構な長さがあるので、部屋の中は歩きまわれそうだが……
「………ここ…………どこ…………?」
ポツリと呟く
どっからどう見ても、あからさまに連れ攫われてしまったことだけはわかる
………いやむしろそれしかわからない
…また、あの時のように、痛めつけられるのだろうか……
そんなことを考えていると、ガチャッと扉が開く音がした
ビクッと肩を震わせ、恐る恐る扉を見ると、気絶する前に見えた銀髪の人と…
仮面を付けた…恐らく老人であろう人が立っていた
「おーおー、目を覚まされましたか」
「っ!!だっ……誰ですか…っ!?」
とてつもなく嫌な雰囲気を出すその人物を前に、体が恐怖で強ばる
「誰かと聞かれて容易く答えるような輩ではないことは、見てお分かりでしょう?」
目元はよく見えないが、口元は口角をあげてニヤニヤと不気味な笑みを浮かべていることが想像出来る
恐怖で声が出せなくなる
よく見えなくても、このまじまじと見られるような感覚を私は知っている
…『あの時』と同じ感覚だ
人を見世物のように、嘲笑うかのごとく見る時の視線によく似ている
怖い
ただただ怖い
「そんなに私が怖いですか?」
「ひっ………!」
すぐ傍まで来たその人物は声色からして恐らく男だ、と言うことはわかった
でもそれ以外の情報は頭に入ってこない
品定めするように、嘲笑うかのように、ニヤニヤと不気味な笑みを顔に貼り付けて、私をまじまじと見てくる
「ふん、あの時の小娘がまさかここまで成長するとは…やはり皆殺しにしておくべきでしたかねぇ」
「…っ!!?!」
更に体が硬直する
今…目の前の男はなんて言ったの…?
殺しておくべきだった……って言わなかった……?
「あ………あなたは、評議会の人間……なのですか………っ?」
震える声で精一杯聞く
「おや?やはりこう言ってしまったらわかりますか。でも残念ながら、私はもう評議会の人間ではありませんよ。あなたのせいで…ね?」
そう言って男は髪を思い切り引っ張ってきた
「いっ……!?」
「本当は殺してしまおうと思ったのですがねぇ、魔王様はあなたを溺愛していらっしゃるご様子ですし、少々尺ではありますが人質としては充分価値がありますしね」
「っ!?」
「評議会は私にとっての生き甲斐ですからね、そこを追い出されるなどたまったものじゃありません。あなたの命が私の手の中だと知れば、あの魔王様でも私を評議会へ戻すしか手はないでしょう」
男は勝ち誇ったような嫌な笑い声をあげる
怖い、怖いよ、ユーリ……
「ですが、それには少々時間が必要ですね。まだまだ準備しなければいけない事は山積みです」
髪を手放すとドンッと、私を後ろへ突き飛ばした
壁に背中を思い切りぶつけ、一瞬息ができなくなる
「かっ………はぁ……っ!?」
ズルズルとベッドの上に倒れ込んでしまう
怖い…これから、何をされるのかが
ユーリ…会いたいよ……お願い……助けて……
「彼女の見張りは頼みましたよ、デューク」
「……あぁ」
デュークと呼ばれた銀髪の人物もどうやら男のようだ
私を突き飛ばした男はそのまま部屋を後にした
「……アリシア……と言ったか?」
部屋の扉を閉め、私の傍まで来るとそっと抱き起こして背中を撫でてくれた
どうやら彼はそこまで悪い人では無さそう……な雰囲気ではある
「……そう……ですが………」
少し息が整ってきたところで返事をすると、すっと私の手の平にユーリから貰ったリボンを滑り込ませてきた
「……!!これ……私の……」
「………すまない、ここへ連れてきたのは私だ」
その答えに頭がフリーズする
彼がここに連れて来たと言うのであれば、何故今こうして接しているのだろうか…
「え……?」
「……悪いが、理由は言えぬ」
そう言ってデュークさんは離れて部屋を出て行こうとしたが、ピタッと一度部屋の前で止まって振り向いた
「……食事は持ってくるし、部屋の中は自由にしていい。だが、窓には触れるな。お前が扉や窓に触れれば弾かれるようにこの部屋には術がかけられている」
そう言い残して部屋を出て行った
「………ユー…………リ…………」
うずくまってぎゅっと腕で膝をを抱える
お願い……ユーリ…………私を見つけて………
………助けて………
ーユーリsideー
「……で、部屋に入ったはいいがお前自身も気絶してしまった…と?」
鋭い目つきで目の前の護衛役を睨みつける
今居るのは玉座の間、周りにはフレンやレイブン、カロル、リタ、それにエステル、ジュディが事の成り行きを黙って見ている
「も…申し訳ございませんっ!!」
冷や汗を流しながら目の前の護衛役は謝ってくる
彼が悪い訳じゃない
それはわかっている
アリシアの気配が無くなって、駆けつけた時には既に痕跡もなく居なくなっていたのだから
「……もういい、下がれ」
「……は………」
護衛役を下がらせて思い切り握りしめた右手で肘掛を殴りつける
最近頻繁に起きている貴族街での誘拐事件…
まさかここには乗り込んで来ないだろうと思っていたのが間違いだった
アリシアの護衛を増やすか、自分の傍においておけば良かった
怒りと後悔に我を忘れる
側に置いてあった愛刀を手にして立ち上がる
「ユーリっ!」
「……探しに行ってくる」
そう言って扉の方へと足を進めようとする
「ちょっと青年っ!冷静になんなさいよっ!あんさんがここを離れてどうするってゆーのよさ!おっさんも探しに行ってくるからっ!」
「そうだよっ!レイヴンの言う通りだって!僕も探して来るからっ!」
「気持ちはわかるが、今は冷静になって待つんだっ!ラピードとリンクも今、必死になって探しに行ってるんだっ!」
フレンとレイヴン、カロルが無理矢理止めようとしてくる
頼むから止めないでくれ
今回ばかりは絶対に許せない
「……あんた、アリシアから言われたこと、忘れてんじゃないでしょうね?」
不意にリタの声が響く
こうゆう時、普段なら何も行ってこない彼女だが、何故か不機嫌そうにオレを見て言ってくる
「あの子、言ってたわよね。ユーリは私のことになると後先考えずに行動するんだから少し冷静になる癖付けなさいって。今あんたが探しに行って見つかったとして、もしあの子が…アリシアが危険な目にあったらどうすんのよ!?それこそユーリが一番後悔すんでしょ!?」
珍しく怒鳴り声をあげる彼女にみんなびっくりする
よく見ればリタは肩を震わせて、必死に耐えているように見える
「あたしだって……あたしだって!!今すぐにでも犯人見つけてぶっ飛ばしてやりたいわよっ!!でも…!!でもそれで…!アリシアが危険な目にあったら、元も子もないじゃないのっ!!!」
「…………悪ぃ………リタの言う通りだな………」
向かおうとしていた足を止めて、元いたように玉座に戻って頭を抱える
右手にはより一層力が入っていた
「ユーリ……僕、情報かき集めてくる!」
「おっさんも行ってくるわ」
そう言ってカロルとレイヴンは飛び出して行った
「エステル、あなたはしばらく私といましょう?もちろんリタも、ね?」
「はい…私達はお城の中で聞きこみをしてみましょう?」
「…それもそうね…誰にも見つからずになんて不可能でしょうし、見た人がいないか探してみましょ」
そう言って三人も出て行った
残ったのはオレとフレンの二人だけだ
「…ユーリ、僕は騎士達に周囲の捜索をさせてみるよ。君はここにいてくれ
………頼むから、一人で行こうとはしないでくれ」
「…あぁ、わかってる…」
そう言ってフレンも出て行った
「…アリシア……」
彼女から貰ったネックレスを握りしめる
初めて彼女がくれた贈り物だ
「……絶対に見つけ出してやる」
攫って行った奴は絶対に許さない
今度ばかりは絶対に
「……頼む……無事でいてくれ……」
前回のように、また酷い目にあってはいないだろうか……
残ってしまった傷跡を見るたびに、彼女にはバレないようにしているが後悔している
また、同じことは繰り返したくない
今度は…絶対に……
二ヶ月ほど経って、ようやく執務も落ち着いてきた
評議会議員の急な半数の入れ替えがあの忙しさの原因だったようだ
あの事件から、もう半年以上経つのか…
相変わらず消えない傷もあるが、それでも大分良くなった
以前のようにエステル達とお茶をする機会が増えた
エステルはたまに私の部屋に来ては、温室で育てている花を持ってきてくれる
ユーリの方は相変わらずサボり癖が直らないせいで忙しそうだが、それでも少しは落ち着いているようだ
「にしても、最近物騒みたいよ?」
「物騒って?」
いつものように他愛のない話をしていると、唐突にリタが言い出した
リタも主語がないんだよなぁ…と苦笑いする
「王都の貴族街らへんよ、誘拐事件が多いんですって」
「確かにそれは物騒ですね…」
「まぁ、誘拐されてもすぐに何事も無かったかのように帰って来るみたいなんだけどね」
「でも危ないことには変わらないわ。騎士だって少し増やしているのよ?」
ジュディスがリタの説明に補足するように言う
「そんなに頻繁なの?」
「頻繁も何も一日に一回はあるわ」
その答えに思わず口に含んだ紅茶が肺に入りそうになる
「ゲホッ!ゲホッ!…えぇっ!?そんなにっ!?」
「だ、大丈夫ですか?アリシア…でも確かに多いですね…」
「それも、アリシアやエステルくらいの女の子っていうじゃない、連れ攫われてるの」
その言葉にまたびっくりする
「えぇ、だから貴方達も一応気をつけて、ね?お城の中に居れば大丈夫だとは思うのだけれど」
紅茶を飲みながらジュディスは私とエステルに言う
確かにお城の中ならユーリが居るし…
うん、大丈夫だろう、多分…
「あ、あたしそろそろ行かなきゃ」
「え?もうそんな時間です?」
「論文の最終確認とかしたいのよ、また今度話そ」
「ん、わかった!頑張ってね、リタ~」
そう言ってリタは駆け足で部屋を後にした
「さーてと、私もそろそろユーリが来そうだから戻らないと」
「ふふ、本当に仲がいいですね、少し妬いちゃいそうです」
クスッと笑いながらエステルはそう言う
「流石にフレンに執務押し付けてたのには怒ったけどね」
と、苦笑いする
「あの時のユーリ、相当落ち込んでましたよ?」
「知ってるよ、会うの解禁してあげたら速攻飛びついて来てしばらく離れなかったもん」
あれは流石にちょっと鬱陶しかったかな、と頬を掻きながら言う
「それだけアリシアと会いたかったんですよ、ユーリは」
ふふふっとエステルは羨ましそうに笑う
「さぁ、アリシア、行きましょ?」
「ん、そうだね、じゃあエステル、またね」
「はい、またお茶しましょう」
エステルに別れを告げてジュディスと一緒に部屋を後にした
ーーーーーーーーーーーーー
いつもの部屋に着くと、ジュディスは先ほど話に出た誘拐事件についてやらないといけない事があるらしく、部屋の前にいた見張りの兵に後を任せて行ってしまった
中に入ると、エステルが変えていてくれたのか花瓶の花が変わっている
「わぁ…すごく綺麗な花……」
でも、温室にこんな花あったかな?
今まで温室には何度か行ったことがあるが、見たことがなかった
まぁ、あそこは広いし、全部周り切ったことも無いから見たことが無くても当たり前かもしれない
(ここだとあれだし…窓際に持っていこうかな)
窓際の机に置こうと思い、花瓶を手に取った……が、
(あ……れ………?)
急にとてつもない眠気に襲われる
一度花瓶を元に戻そうとするが、眠気に耐えられなくなった体は花瓶を持ったまま床に倒れてしまう
ガシャーンと大きな音が響き、外にいる護衛の人が声を掛けてくるが返事が出来ない
まだ意識はあるが、声が出ない
返事がないことに違和感を感じたのか護衛が入って来る
倒れた私に慌てて駆け寄って、体を揺さぶって話しかけてくるが、最早何を言ってるかなんて聞こえない
その護衛もどうやら眠くなったようで傍に倒れ込む
私がお城で最後に見たのは、銀髪に赤みがかった服を着た人の姿だけだった
ーーーーーーーー
「……ん……ぅ…………」
目が覚めると、知らない部屋にいた
少し意識が朦朧としているが、私の知っている部屋じゃない
作り自体はお城によく似ているが……
まだ気怠い体を起こすと、ジャラッと大嫌いな金属音が聞こえる
「……え?」
手首、それに首元にも鎖がついているのが見えた
手首の鎖は何処かに繋がっている感じではないが、首元のは思いっきり壁に固定されている
結構な長さがあるので、部屋の中は歩きまわれそうだが……
「………ここ…………どこ…………?」
ポツリと呟く
どっからどう見ても、あからさまに連れ攫われてしまったことだけはわかる
………いやむしろそれしかわからない
…また、あの時のように、痛めつけられるのだろうか……
そんなことを考えていると、ガチャッと扉が開く音がした
ビクッと肩を震わせ、恐る恐る扉を見ると、気絶する前に見えた銀髪の人と…
仮面を付けた…恐らく老人であろう人が立っていた
「おーおー、目を覚まされましたか」
「っ!!だっ……誰ですか…っ!?」
とてつもなく嫌な雰囲気を出すその人物を前に、体が恐怖で強ばる
「誰かと聞かれて容易く答えるような輩ではないことは、見てお分かりでしょう?」
目元はよく見えないが、口元は口角をあげてニヤニヤと不気味な笑みを浮かべていることが想像出来る
恐怖で声が出せなくなる
よく見えなくても、このまじまじと見られるような感覚を私は知っている
…『あの時』と同じ感覚だ
人を見世物のように、嘲笑うかのごとく見る時の視線によく似ている
怖い
ただただ怖い
「そんなに私が怖いですか?」
「ひっ………!」
すぐ傍まで来たその人物は声色からして恐らく男だ、と言うことはわかった
でもそれ以外の情報は頭に入ってこない
品定めするように、嘲笑うかのように、ニヤニヤと不気味な笑みを顔に貼り付けて、私をまじまじと見てくる
「ふん、あの時の小娘がまさかここまで成長するとは…やはり皆殺しにしておくべきでしたかねぇ」
「…っ!!?!」
更に体が硬直する
今…目の前の男はなんて言ったの…?
殺しておくべきだった……って言わなかった……?
「あ………あなたは、評議会の人間……なのですか………っ?」
震える声で精一杯聞く
「おや?やはりこう言ってしまったらわかりますか。でも残念ながら、私はもう評議会の人間ではありませんよ。あなたのせいで…ね?」
そう言って男は髪を思い切り引っ張ってきた
「いっ……!?」
「本当は殺してしまおうと思ったのですがねぇ、魔王様はあなたを溺愛していらっしゃるご様子ですし、少々尺ではありますが人質としては充分価値がありますしね」
「っ!?」
「評議会は私にとっての生き甲斐ですからね、そこを追い出されるなどたまったものじゃありません。あなたの命が私の手の中だと知れば、あの魔王様でも私を評議会へ戻すしか手はないでしょう」
男は勝ち誇ったような嫌な笑い声をあげる
怖い、怖いよ、ユーリ……
「ですが、それには少々時間が必要ですね。まだまだ準備しなければいけない事は山積みです」
髪を手放すとドンッと、私を後ろへ突き飛ばした
壁に背中を思い切りぶつけ、一瞬息ができなくなる
「かっ………はぁ……っ!?」
ズルズルとベッドの上に倒れ込んでしまう
怖い…これから、何をされるのかが
ユーリ…会いたいよ……お願い……助けて……
「彼女の見張りは頼みましたよ、デューク」
「……あぁ」
デュークと呼ばれた銀髪の人物もどうやら男のようだ
私を突き飛ばした男はそのまま部屋を後にした
「……アリシア……と言ったか?」
部屋の扉を閉め、私の傍まで来るとそっと抱き起こして背中を撫でてくれた
どうやら彼はそこまで悪い人では無さそう……な雰囲気ではある
「……そう……ですが………」
少し息が整ってきたところで返事をすると、すっと私の手の平にユーリから貰ったリボンを滑り込ませてきた
「……!!これ……私の……」
「………すまない、ここへ連れてきたのは私だ」
その答えに頭がフリーズする
彼がここに連れて来たと言うのであれば、何故今こうして接しているのだろうか…
「え……?」
「……悪いが、理由は言えぬ」
そう言ってデュークさんは離れて部屋を出て行こうとしたが、ピタッと一度部屋の前で止まって振り向いた
「……食事は持ってくるし、部屋の中は自由にしていい。だが、窓には触れるな。お前が扉や窓に触れれば弾かれるようにこの部屋には術がかけられている」
そう言い残して部屋を出て行った
「………ユー…………リ…………」
うずくまってぎゅっと腕で膝をを抱える
お願い……ユーリ…………私を見つけて………
………助けて………
ーユーリsideー
「……で、部屋に入ったはいいがお前自身も気絶してしまった…と?」
鋭い目つきで目の前の護衛役を睨みつける
今居るのは玉座の間、周りにはフレンやレイブン、カロル、リタ、それにエステル、ジュディが事の成り行きを黙って見ている
「も…申し訳ございませんっ!!」
冷や汗を流しながら目の前の護衛役は謝ってくる
彼が悪い訳じゃない
それはわかっている
アリシアの気配が無くなって、駆けつけた時には既に痕跡もなく居なくなっていたのだから
「……もういい、下がれ」
「……は………」
護衛役を下がらせて思い切り握りしめた右手で肘掛を殴りつける
最近頻繁に起きている貴族街での誘拐事件…
まさかここには乗り込んで来ないだろうと思っていたのが間違いだった
アリシアの護衛を増やすか、自分の傍においておけば良かった
怒りと後悔に我を忘れる
側に置いてあった愛刀を手にして立ち上がる
「ユーリっ!」
「……探しに行ってくる」
そう言って扉の方へと足を進めようとする
「ちょっと青年っ!冷静になんなさいよっ!あんさんがここを離れてどうするってゆーのよさ!おっさんも探しに行ってくるからっ!」
「そうだよっ!レイヴンの言う通りだって!僕も探して来るからっ!」
「気持ちはわかるが、今は冷静になって待つんだっ!ラピードとリンクも今、必死になって探しに行ってるんだっ!」
フレンとレイヴン、カロルが無理矢理止めようとしてくる
頼むから止めないでくれ
今回ばかりは絶対に許せない
「……あんた、アリシアから言われたこと、忘れてんじゃないでしょうね?」
不意にリタの声が響く
こうゆう時、普段なら何も行ってこない彼女だが、何故か不機嫌そうにオレを見て言ってくる
「あの子、言ってたわよね。ユーリは私のことになると後先考えずに行動するんだから少し冷静になる癖付けなさいって。今あんたが探しに行って見つかったとして、もしあの子が…アリシアが危険な目にあったらどうすんのよ!?それこそユーリが一番後悔すんでしょ!?」
珍しく怒鳴り声をあげる彼女にみんなびっくりする
よく見ればリタは肩を震わせて、必死に耐えているように見える
「あたしだって……あたしだって!!今すぐにでも犯人見つけてぶっ飛ばしてやりたいわよっ!!でも…!!でもそれで…!アリシアが危険な目にあったら、元も子もないじゃないのっ!!!」
「…………悪ぃ………リタの言う通りだな………」
向かおうとしていた足を止めて、元いたように玉座に戻って頭を抱える
右手にはより一層力が入っていた
「ユーリ……僕、情報かき集めてくる!」
「おっさんも行ってくるわ」
そう言ってカロルとレイヴンは飛び出して行った
「エステル、あなたはしばらく私といましょう?もちろんリタも、ね?」
「はい…私達はお城の中で聞きこみをしてみましょう?」
「…それもそうね…誰にも見つからずになんて不可能でしょうし、見た人がいないか探してみましょ」
そう言って三人も出て行った
残ったのはオレとフレンの二人だけだ
「…ユーリ、僕は騎士達に周囲の捜索をさせてみるよ。君はここにいてくれ
………頼むから、一人で行こうとはしないでくれ」
「…あぁ、わかってる…」
そう言ってフレンも出て行った
「…アリシア……」
彼女から貰ったネックレスを握りしめる
初めて彼女がくれた贈り物だ
「……絶対に見つけ出してやる」
攫って行った奴は絶対に許さない
今度ばかりは絶対に
「……頼む……無事でいてくれ……」
前回のように、また酷い目にあってはいないだろうか……
残ってしまった傷跡を見るたびに、彼女にはバレないようにしているが後悔している
また、同じことは繰り返したくない
今度は…絶対に……