第一節 帝国と騎士団
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ー真相の追求ー
「副騎士団長!」
シゾンタニアの入口を潜るとその先では、騎士だけでなく街の住人たちも集まっていた
割り当てられた仕事はどうしたのかとアリシアは腰に手を当てて大きくため息をついた
そんなに信用ないか私は、なんて言葉にはしないがそう言いたげな目で自身の部下を見つめる彼女の表情に、ナイレンは軽く肩を竦めた
「…それじゃ、住人への対応は任せたよ。ナイレン隊長」
完全にオフモードになったアリシアはそう言って連れて待っている小隊の方へと足を進めた
「おかえりなさいませ、アリシア隊長」
バアルが敬礼しながら言うと、カシャリと音を立てて小隊全員が一斉に敬礼をした
「全く、大人しく待ってることの出来ないヤツらめ…。…よく守り切ったな、お前たち」
静かに、凛とした響きの声で彼女はふっと笑いかけた
普段あまり聞けない労いの言葉に嬉しそうに頬を緩める者も多くいた
「さて、休憩だ!…と言ってやりたいところだが」
「わかっていますよ。我々は警備に戻ります。アリシア隊長こそ少しお休みくださいませ」
彼女の言葉を遮ったのは、共に調査に向かったデゼルだった
少し驚いた顔で彼女は彼を見た
彼自身も相当疲れが溜まっているはずなのだ
「我々はまだまだ余裕がありますしアリシア隊長にはまだやらねばならないことがおありでしょう?…それにここであなたが倒れてしまえば我々がアレクセイ閣下に怒られますし…」
ほんの少し気まずそうにバアルがそう口にした
休んで欲しい理由は大半が後者の意見なんだろうとアリシアは思いながらも、珍しく自分から言った彼に少し感心していた
「…それならば、後はあなたたちにお願いしようかしら」
そう言うが早いか、彼女はその場で軽く伸びをした
「どっかの誰かさんが年甲斐もなく無茶するから疲れちゃったしねぇ」
クスクスと笑いながらアリシアは後方にいるナイレンをチラリと横目で見た
彼女の視線に気づいたらしい彼は気まづそうに肩を竦めると、住人たちに一言二言何か言って近づいていく
「無茶しまくってたアリシア副騎士団長には言われたかねえっすよ」
彼女の傍に立ったナイレンはそう言って苦笑いした
「あら、私はそんなに無茶していないわよ?」
ねえ?と、デゼルに同意を求めるようにアリシアは首を傾げた
求める、というよりは、同意しろと遠回しに言っているに近いかもしれないが…
脅しに近いような声掛けに、デゼルは怯えずに苦笑いした
「傍から見ればナイレン隊長とさほど代わりませんよ。確かに普段よりは落ち着いていらっしゃいましたが…」
「…デゼル、余計なことは言わなくていいわよ」
やられた、と、ほんの少し険しい表情で彼女は彼を見た
「その普段って言うのがどのくらいのもんか、一度お伺いしたいところですね、アリシア副騎士団長?」
威圧的なナイレンの声に、僅かにアリシアの肩が跳ねた
そんな声出せるのなら、普段から堂々としていればいいものを…なんて声に出しはしなかったものの、あからさまに表情に出して彼を見る
「…まあ、それを抜きにしても話したいことあるから、後で私の部屋にでも来て?私、報告書纏めているから」
片手を上げて合図をすると、敬礼した彼女の隊はバアルとデゼルを先頭に持ち場に戻って行った
「じゃあ、また後で」
アリシアはそう言ってナイレンに背を向けて、詰め所に戻って言った
彼女の背を見送りながら彼は大きく息を吐く
「ったく、うまいこと逃げられたか」
「…アリシア隊長は、本当に変わった方…ですね…」
「…だな。ナイレン隊長しか知らねえからあんま比較できねえが…変わり者だってことはわかったな」
啞然としているフレンとは対照的に、どこか呆れたような目で彼女が進んでいった道を見つめていた
あんなにも隊長らしくない隊長…いや、副騎士団長らしくない副騎士団長は早々いないだろう
「…あ、そう言えば隊長、これ」
ふと思い出したようにユーリは手に握ったままの魔導器 を差し出した
「あー…それお前にやるよ。どうせ近々新型の魔導器 が支給される予定なんだ。…今回はお前が一番頑張ったからな。俺からの褒美だと思え」
「えっ…」「…え…っ?」
その場にいた全員が驚き目を見開いてナイレンを見た
ユーリ本人は魔導器 片手にポカーンとして彼を見つめていた
「な…な…っ!?何を言っているんですか隊長っ!!」
半分怒り気味に、半分慌てた声でユルギスは怒鳴り声を上げた
「魔導器 の支給を決めるのは騎士団長殿であって、隊長にはその権限はありません!!それに、隊長用に支給されたものを勝手に部下に渡すなんて…!」
「頭硬いこと言ってんなよ…。…お、そうだ。ならばアリシア副騎士団長に聞きゃいいか。行くぞ、ユーリ」
「え…は…っ?!ちょっ…まっ!?」
二人の返事も聞かずにナイレンはユーリの腕を掴んで引きずるように歩き始めた
話についていけなかった隊員たちは啞然としてその様子を見送った
「…と、とりあえず!お前たちはもう休んでいていいからな!」
慌てた様子でそう言ったユルギスは、大急ぎで二人の後を追いかけた
「あら、別にいいわよ?」
書類から目を離したアリシアはさらりと問いかけたナイレンにそう返した
「ア、アリシア副騎士団長!?」
追いつき彼らと共に面会していたユルギスが驚きの声を上げた
入って半年しか経っていない新人に魔導器 を支給するなど前代未聞だ
ましてやそれが、騎士団長がではなく副騎士団長が認めてしまうものだから彼が驚くのも無理がないだろう
「それだけの働きはしたと思うわよ?私が言うのだからアレクセイ閣下も文句は言わないはずよ?…ああ、でも後一押しくらいあってもいいかしら。あの人も頭硬いし文句言えないくらいの実績があってもいいわね」
一人でブツブツと言いながらコトンっと音を立ててペンを置く
そして暫く考え込む素振りを見せると、何か思いついたようにニヤリと笑って両手を組んでユルギスの方を見た
「とは言っても、ユーリ君一人だけじゃ荷が重いだろうし、フレン君も呼んできてもらえるかしら?」
ニッコリと有無を言わさぬ笑顔で彼女は言う
戸惑いを見せながらも、しっかりと敬礼すると部屋を立ち去った
「アリシア副騎士団長…まさか…」
引き攣った顔でナイレンは彼女を見る
何処か楽し気な笑みを浮かべている彼女に何かを察したユーリの顔がこわばった
「二人には大役を任せようかな、ってね?」
悪戯を思い付いた子どものような怪しい笑みを浮かべた彼女に、ナイレンは大きくため息をついて項垂れた
「…えっと…今…なんと…?」
アリシアの前に並んだフレンは信じられないと言いたげな表情で彼女を見つめた
先程何となく嫌な予感を察したユーリはある程度想像がついているらしく、少し呆れた様子でため息をついた
「ん?二人には今回の主犯の対処を命じる、って言ったのよ?」
深紅の髪を揺らしてほんの少し首を傾げ、さも当然かのように彼女は言い放った
アリシアの斜め後ろでやはりそれかと、憐みの籠った目でナイレンは二人の部下を見た
「ま…待って下さい!私たちはまだ新人です!入団してから半年も経っていないのに、そんな大役…!」
わたわたと動揺しきった様子でフレンは必死に失礼にならない程度に反論した
「…無茶苦茶っすよ…」
落ち着いた雰囲気でユーリは呟いた
実際は落ち着いているわけではなく、驚きで言葉が見つからないだけなのだが…
「平気平気、二人にならできるわよ」
ニコニコと微笑む彼女だが、その笑顔の裏には断らせないというオーラが駄々洩れている
「…そう言うからには証拠を掴んでいるんっすよね?」
「あら、当たり前じゃない」
ナイレンの問いかけにポシェットの中から先程回収した魔導器 の残骸を取り出した
それを見た瞬間、ナイレンの顔が強張った
慌てていたフレンだったが、見覚えのあるそれに表情をこわばらせた
「…決定的な証拠が出てきちまったか…」
絞り出すかのような苦い声に、ユーリだけが首を傾げた
「…ガリスタ殿の魔導器 と…よく似ていますね」
ジッと見つめていたフレンがゆっくりと静かに言葉にした
想像していなかった人物の名前に、ユーリは驚く
「…嘘…だろ…」
嘘であって欲しいと、祈るような瞳でユーリは二人の隊長を見つめる
だが、二人は険しい顔を浮かべてそれを見つめていた
「嘘であって欲しかったんだがな…」
ポツリと呟かれたナイレンの言葉に、認めなければいけないんだとユーリは察し項垂れた
見知った顔が主犯だということほど辛いと思うものはない
「…部下からの報告に結界魔導器 の出力が私の隊が警備につく前に下げられていたことが分かった。あれの操作は、魔導士か魔導器 の知識があるものにしかできない。…私の記憶が正しければ、彼は結界魔導器 の整備も任されていたはずだけど?」
チラリとナイレンの方に目を向けて彼女は問いかけた
「…ああ、そうっすね…」
「状況だけ見てしまえば、彼の仕業にしか思えないのよねえ…。そこで、あなたたちに頼みたいの。新人の方が気を緩めて尻尾出してくれる可能性が他の隊員たちよりもある。勿論、身の危険があるかもしれないことは承知の上で言っているわ。いざとなれば逃げてくれたって構わないし、最悪戦闘になって刺してしまったとしても咎めはないわ」
さらりととんでもないことを言い出すアリシアに、二人は驚きを隠せずにいた
遠回しに、殺してしまってもいいと言っているようなものだ
「まだ二人にその選択は早いんじゃないっすか?」
流石のナイレンもこれには止めにかかった
まだ十九の青年二人にその選択をさせるのは早すぎる
「逃げたって構わないって言ったじゃない。いざという時は私が出るし」
当たり前でしょ?と彼女は笑いかける
「いやですから、そうゆう問題じゃ…」
「ならどういう問題かしら?」
ニッコリと笑ったアリシアにナイレンは返す言葉を見失った
普段であれば読み取れるはずのその笑顔の裏が、今は全く読み取れない
「…アリシア隊長が、そこまで仰るのならば…」
「…やってみっか」
彼女の気迫に押された二人は、戸惑いながらもそう返した
その返答に、彼女は満足気に笑った
「頼んだわよ、二人とも」
アリシアの掛け声に二人は敬礼して部屋を後にした
「…どういうつもりだ?」
険しい顔でナイレンはアリシアを睨んだ
「そんなに怒らないでくださいよ。ちゃんと意図はあるんですから」
ほんの少し眉を下げてアリシアは薄っすらと笑う
「なら、その意図とか言うのを教えてもらおうか?」
自身の部下を危険なことに向かわされただけあって、彼の口調はかなり厳しい
「…一つの試練ってやつですよ」
あの子たちのための、と、小さく呟きながら彼女は扉をじっと見つめた
嬉しさと寂しさのこもったその瞳にナイレンは怒りすらも忘れてしまった
コツン、コツン、と足音が二つ、ガリスタの居る図書室へ続く廊下に響く
ほんの少し体を強ばらせてユーリとフレンは二人、並んで歩いていた
「…なぁ、フレン、なんて言う?」
「そう…だね…。なるべく怪しまれないように話を聞き出さないと…」
右手を顎に当てて小さく唸りながら、フレンはユーリの問いに答えた
聞き出す、と言っても初めての二人きりの任務に、どうすればいいのだろうとフレンの頭の中はショート寸前だった
「……単刀直入に聞き出しゃいいんじゃねえか?」
頭の後ろで手を組んだユーリが、考えるなどかったるとで言いたげにサラリと言った
実際、本当に考えるのが面倒なのだが…
「それじゃあアリシア隊長が僕らを行かせた意味が無くなってしまう。慎重に進めないと」
いつもであれば怒鳴っているフレンだが、今はそうもいかないと出来るだけ冷静を保ってユーリを宥める
「でも、面倒じゃねえか?」
そんなことは露知らず、ユーリはくぁ、と欠伸をしながら言葉を返す
「全く…それだから君は」
いつもの言い合いが始まる
…その時だった
《……て…………》
微かに聞こえた声に二人は足を止めた
誰も居ないはずの廊下
そこで聞こえた声に、二人は耳を澄ませる
《た……………て……………》
《………………し…………》
聞こえたのは二つのトーンの違う声
初めて聞く声に二人は顔を見合わせた
《アスカアスカっ!!どーするのよぉぉ!!》
微かな声を聞き取ろうと澄ませていた耳に突然甲高い爆音の声が響いた
キーン…と耳鳴りがするのではないかと言うほどの音量に二人は思わず耳を塞いだ
《落ち着けルナ…焦るな》
静かなテノールの宥める声にそっと目線だけを後ろにやれば、そこにはいつもの彼らがそこに居た
《だってだってだってぇ!!ボルトが!!セルシウスがぁ!!!》
半分泣きそうな悲鳴じみた声で美しい髪を揺らして、ルナは飛び回った
《早くしないと死んじゃう…っ!死んじゃうわよ…っ!!》
その言葉に二人は思わず振り返りそうになる
元より腹を括って話しかけようとしていた二人だが、図書室はもう目前
そんな場所で声をかけられるわけがない
だが、一刻を要するかのような彼女の声に、『ほっとけない』のもまた事実なわけであり…
二人は顔を見合わせると、廊下の柱に隠れるように避けた
言わずとも何かを察してくれたらしいアスカがゆっくりと二人の前へと近づく
《決心はつきましたか?》
「…話聞いてやるだけな」
「まだ、思い出したわけでもないからね」
二人の答えにアスカは嬉しそうに目を細め、それでも構わないと言った
そんな会話を聞きつけたルナとシャドゥは、我先にと競い合うかのように飛んでくる
《私たちが見えているのですか!?見えているのですね!?》
《主 、我、認知》
シャドゥからは感情があまり伝わってこないが、ルナは全身を使ってその喜びを表していた
当然ながらあまりのテンションに二人の思考はフリーズしてしまう
《落ち着けというのか分からぬ奴らだな…しばし黙れ》
ピシャリとアスカが言い放つと、不服そうにしながらもその口を閉じた
《…相変わらず煩い奴らで申し訳ございません。主殿方は今はやるべき事があります故に、詳しいお話は後回しにさせていただきます》
二体への言葉遣いとは裏腹に、とても丁寧な口調でアスカは二人に話しかけた
「あ……ああ…構わねえ。むしろそっちを先に終わらせてえんだが…さっきの声、誰のだ?」
先に復活したユーリがそう問いかけた
《…あれは、我らと同じ存在…ボルトとセルシウスでございます。…理由はわかりかねますが、危険な状況だということは確かです》
「…ガリスタ殿が関係しているんだろうか…?」
ポツリと呟いてフレンはチラリと少し先に見える扉を見た
《我々は主様以外には見えません。故に関係しているとは言い切れませぬが、可能性がないわけでもありません》
そう返してきたアスカの言葉に二人は小さく唸り声を上げた
セルシウスとボルトという二人を助けようにも情報が足りなさすぎる
ましてややることがある今、あまりのんびりもしていられない
「…あー!面倒くせぇ!」
そう言うが早いか、ずかずかと扉の方へとユーリは歩き出していた
フレンは盛大にため息をついて項垂れた
これだからユーリは…などと小さく悪態付きながら、彼の後を追った
既に扉の前に立っていたユーリは大きく深呼吸をして、幼馴染の相棒が来るのを待っていた
「…準備いいかフレン?」
少し意地悪気な口調で言いながらユーリは長い黒髪を揺らして振り向いた
「そう聞いてくるってことは、少し待っていてくれるのかい?」
負けじと言葉を返しながら、金色の髪が頭の動きに合わせてゆっくりと揺れた
「はっ、待つ必要ねえんだろ?」
それが当たり前だと言わんばかりの笑顔でユーリは言った
フレンは言葉にはせずに薄っすらと笑って答える
顔を見合わせて頷き合うと、少しばかり綺麗な装飾の施された扉を押し開けた
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
~DからRへ~
詳細が分かった
やはり四年前の二人で間違いなさそうだ
できるだけ早めにこちらへ戻って来い
『彼女』の捜索と共に頼みたい
〜RからDへ〜
事態が解決し次第、帰還いたします
もうしばらくお待ちくださいませ
〜DからRへ〜
やむを得まい
戻り次第捜索にあたれ
期待しているぞ?裏切り者 よ
〜RからDへ〜
仰せのままに
必ずや、成果を上げて見せましょう
「副騎士団長!」
シゾンタニアの入口を潜るとその先では、騎士だけでなく街の住人たちも集まっていた
割り当てられた仕事はどうしたのかとアリシアは腰に手を当てて大きくため息をついた
そんなに信用ないか私は、なんて言葉にはしないがそう言いたげな目で自身の部下を見つめる彼女の表情に、ナイレンは軽く肩を竦めた
「…それじゃ、住人への対応は任せたよ。ナイレン隊長」
完全にオフモードになったアリシアはそう言って連れて待っている小隊の方へと足を進めた
「おかえりなさいませ、アリシア隊長」
バアルが敬礼しながら言うと、カシャリと音を立てて小隊全員が一斉に敬礼をした
「全く、大人しく待ってることの出来ないヤツらめ…。…よく守り切ったな、お前たち」
静かに、凛とした響きの声で彼女はふっと笑いかけた
普段あまり聞けない労いの言葉に嬉しそうに頬を緩める者も多くいた
「さて、休憩だ!…と言ってやりたいところだが」
「わかっていますよ。我々は警備に戻ります。アリシア隊長こそ少しお休みくださいませ」
彼女の言葉を遮ったのは、共に調査に向かったデゼルだった
少し驚いた顔で彼女は彼を見た
彼自身も相当疲れが溜まっているはずなのだ
「我々はまだまだ余裕がありますしアリシア隊長にはまだやらねばならないことがおありでしょう?…それにここであなたが倒れてしまえば我々がアレクセイ閣下に怒られますし…」
ほんの少し気まずそうにバアルがそう口にした
休んで欲しい理由は大半が後者の意見なんだろうとアリシアは思いながらも、珍しく自分から言った彼に少し感心していた
「…それならば、後はあなたたちにお願いしようかしら」
そう言うが早いか、彼女はその場で軽く伸びをした
「どっかの誰かさんが年甲斐もなく無茶するから疲れちゃったしねぇ」
クスクスと笑いながらアリシアは後方にいるナイレンをチラリと横目で見た
彼女の視線に気づいたらしい彼は気まづそうに肩を竦めると、住人たちに一言二言何か言って近づいていく
「無茶しまくってたアリシア副騎士団長には言われたかねえっすよ」
彼女の傍に立ったナイレンはそう言って苦笑いした
「あら、私はそんなに無茶していないわよ?」
ねえ?と、デゼルに同意を求めるようにアリシアは首を傾げた
求める、というよりは、同意しろと遠回しに言っているに近いかもしれないが…
脅しに近いような声掛けに、デゼルは怯えずに苦笑いした
「傍から見ればナイレン隊長とさほど代わりませんよ。確かに普段よりは落ち着いていらっしゃいましたが…」
「…デゼル、余計なことは言わなくていいわよ」
やられた、と、ほんの少し険しい表情で彼女は彼を見た
「その普段って言うのがどのくらいのもんか、一度お伺いしたいところですね、アリシア副騎士団長?」
威圧的なナイレンの声に、僅かにアリシアの肩が跳ねた
そんな声出せるのなら、普段から堂々としていればいいものを…なんて声に出しはしなかったものの、あからさまに表情に出して彼を見る
「…まあ、それを抜きにしても話したいことあるから、後で私の部屋にでも来て?私、報告書纏めているから」
片手を上げて合図をすると、敬礼した彼女の隊はバアルとデゼルを先頭に持ち場に戻って行った
「じゃあ、また後で」
アリシアはそう言ってナイレンに背を向けて、詰め所に戻って言った
彼女の背を見送りながら彼は大きく息を吐く
「ったく、うまいこと逃げられたか」
「…アリシア隊長は、本当に変わった方…ですね…」
「…だな。ナイレン隊長しか知らねえからあんま比較できねえが…変わり者だってことはわかったな」
啞然としているフレンとは対照的に、どこか呆れたような目で彼女が進んでいった道を見つめていた
あんなにも隊長らしくない隊長…いや、副騎士団長らしくない副騎士団長は早々いないだろう
「…あ、そう言えば隊長、これ」
ふと思い出したようにユーリは手に握ったままの
「あー…それお前にやるよ。どうせ近々新型の
「えっ…」「…え…っ?」
その場にいた全員が驚き目を見開いてナイレンを見た
ユーリ本人は
「な…な…っ!?何を言っているんですか隊長っ!!」
半分怒り気味に、半分慌てた声でユルギスは怒鳴り声を上げた
「
「頭硬いこと言ってんなよ…。…お、そうだ。ならばアリシア副騎士団長に聞きゃいいか。行くぞ、ユーリ」
「え…は…っ?!ちょっ…まっ!?」
二人の返事も聞かずにナイレンはユーリの腕を掴んで引きずるように歩き始めた
話についていけなかった隊員たちは啞然としてその様子を見送った
「…と、とりあえず!お前たちはもう休んでいていいからな!」
慌てた様子でそう言ったユルギスは、大急ぎで二人の後を追いかけた
「あら、別にいいわよ?」
書類から目を離したアリシアはさらりと問いかけたナイレンにそう返した
「ア、アリシア副騎士団長!?」
追いつき彼らと共に面会していたユルギスが驚きの声を上げた
入って半年しか経っていない新人に
ましてやそれが、騎士団長がではなく副騎士団長が認めてしまうものだから彼が驚くのも無理がないだろう
「それだけの働きはしたと思うわよ?私が言うのだからアレクセイ閣下も文句は言わないはずよ?…ああ、でも後一押しくらいあってもいいかしら。あの人も頭硬いし文句言えないくらいの実績があってもいいわね」
一人でブツブツと言いながらコトンっと音を立ててペンを置く
そして暫く考え込む素振りを見せると、何か思いついたようにニヤリと笑って両手を組んでユルギスの方を見た
「とは言っても、ユーリ君一人だけじゃ荷が重いだろうし、フレン君も呼んできてもらえるかしら?」
ニッコリと有無を言わさぬ笑顔で彼女は言う
戸惑いを見せながらも、しっかりと敬礼すると部屋を立ち去った
「アリシア副騎士団長…まさか…」
引き攣った顔でナイレンは彼女を見る
何処か楽し気な笑みを浮かべている彼女に何かを察したユーリの顔がこわばった
「二人には大役を任せようかな、ってね?」
悪戯を思い付いた子どものような怪しい笑みを浮かべた彼女に、ナイレンは大きくため息をついて項垂れた
「…えっと…今…なんと…?」
アリシアの前に並んだフレンは信じられないと言いたげな表情で彼女を見つめた
先程何となく嫌な予感を察したユーリはある程度想像がついているらしく、少し呆れた様子でため息をついた
「ん?二人には今回の主犯の対処を命じる、って言ったのよ?」
深紅の髪を揺らしてほんの少し首を傾げ、さも当然かのように彼女は言い放った
アリシアの斜め後ろでやはりそれかと、憐みの籠った目でナイレンは二人の部下を見た
「ま…待って下さい!私たちはまだ新人です!入団してから半年も経っていないのに、そんな大役…!」
わたわたと動揺しきった様子でフレンは必死に失礼にならない程度に反論した
「…無茶苦茶っすよ…」
落ち着いた雰囲気でユーリは呟いた
実際は落ち着いているわけではなく、驚きで言葉が見つからないだけなのだが…
「平気平気、二人にならできるわよ」
ニコニコと微笑む彼女だが、その笑顔の裏には断らせないというオーラが駄々洩れている
「…そう言うからには証拠を掴んでいるんっすよね?」
「あら、当たり前じゃない」
ナイレンの問いかけにポシェットの中から先程回収した
それを見た瞬間、ナイレンの顔が強張った
慌てていたフレンだったが、見覚えのあるそれに表情をこわばらせた
「…決定的な証拠が出てきちまったか…」
絞り出すかのような苦い声に、ユーリだけが首を傾げた
「…ガリスタ殿の
ジッと見つめていたフレンがゆっくりと静かに言葉にした
想像していなかった人物の名前に、ユーリは驚く
「…嘘…だろ…」
嘘であって欲しいと、祈るような瞳でユーリは二人の隊長を見つめる
だが、二人は険しい顔を浮かべてそれを見つめていた
「嘘であって欲しかったんだがな…」
ポツリと呟かれたナイレンの言葉に、認めなければいけないんだとユーリは察し項垂れた
見知った顔が主犯だということほど辛いと思うものはない
「…部下からの報告に
チラリとナイレンの方に目を向けて彼女は問いかけた
「…ああ、そうっすね…」
「状況だけ見てしまえば、彼の仕業にしか思えないのよねえ…。そこで、あなたたちに頼みたいの。新人の方が気を緩めて尻尾出してくれる可能性が他の隊員たちよりもある。勿論、身の危険があるかもしれないことは承知の上で言っているわ。いざとなれば逃げてくれたって構わないし、最悪戦闘になって刺してしまったとしても咎めはないわ」
さらりととんでもないことを言い出すアリシアに、二人は驚きを隠せずにいた
遠回しに、殺してしまってもいいと言っているようなものだ
「まだ二人にその選択は早いんじゃないっすか?」
流石のナイレンもこれには止めにかかった
まだ十九の青年二人にその選択をさせるのは早すぎる
「逃げたって構わないって言ったじゃない。いざという時は私が出るし」
当たり前でしょ?と彼女は笑いかける
「いやですから、そうゆう問題じゃ…」
「ならどういう問題かしら?」
ニッコリと笑ったアリシアにナイレンは返す言葉を見失った
普段であれば読み取れるはずのその笑顔の裏が、今は全く読み取れない
「…アリシア隊長が、そこまで仰るのならば…」
「…やってみっか」
彼女の気迫に押された二人は、戸惑いながらもそう返した
その返答に、彼女は満足気に笑った
「頼んだわよ、二人とも」
アリシアの掛け声に二人は敬礼して部屋を後にした
「…どういうつもりだ?」
険しい顔でナイレンはアリシアを睨んだ
「そんなに怒らないでくださいよ。ちゃんと意図はあるんですから」
ほんの少し眉を下げてアリシアは薄っすらと笑う
「なら、その意図とか言うのを教えてもらおうか?」
自身の部下を危険なことに向かわされただけあって、彼の口調はかなり厳しい
「…一つの試練ってやつですよ」
あの子たちのための、と、小さく呟きながら彼女は扉をじっと見つめた
嬉しさと寂しさのこもったその瞳にナイレンは怒りすらも忘れてしまった
コツン、コツン、と足音が二つ、ガリスタの居る図書室へ続く廊下に響く
ほんの少し体を強ばらせてユーリとフレンは二人、並んで歩いていた
「…なぁ、フレン、なんて言う?」
「そう…だね…。なるべく怪しまれないように話を聞き出さないと…」
右手を顎に当てて小さく唸りながら、フレンはユーリの問いに答えた
聞き出す、と言っても初めての二人きりの任務に、どうすればいいのだろうとフレンの頭の中はショート寸前だった
「……単刀直入に聞き出しゃいいんじゃねえか?」
頭の後ろで手を組んだユーリが、考えるなどかったるとで言いたげにサラリと言った
実際、本当に考えるのが面倒なのだが…
「それじゃあアリシア隊長が僕らを行かせた意味が無くなってしまう。慎重に進めないと」
いつもであれば怒鳴っているフレンだが、今はそうもいかないと出来るだけ冷静を保ってユーリを宥める
「でも、面倒じゃねえか?」
そんなことは露知らず、ユーリはくぁ、と欠伸をしながら言葉を返す
「全く…それだから君は」
いつもの言い合いが始まる
…その時だった
《……て…………》
微かに聞こえた声に二人は足を止めた
誰も居ないはずの廊下
そこで聞こえた声に、二人は耳を澄ませる
《た……………て……………》
《………………し…………》
聞こえたのは二つのトーンの違う声
初めて聞く声に二人は顔を見合わせた
《アスカアスカっ!!どーするのよぉぉ!!》
微かな声を聞き取ろうと澄ませていた耳に突然甲高い爆音の声が響いた
キーン…と耳鳴りがするのではないかと言うほどの音量に二人は思わず耳を塞いだ
《落ち着けルナ…焦るな》
静かなテノールの宥める声にそっと目線だけを後ろにやれば、そこにはいつもの彼らがそこに居た
《だってだってだってぇ!!ボルトが!!セルシウスがぁ!!!》
半分泣きそうな悲鳴じみた声で美しい髪を揺らして、ルナは飛び回った
《早くしないと死んじゃう…っ!死んじゃうわよ…っ!!》
その言葉に二人は思わず振り返りそうになる
元より腹を括って話しかけようとしていた二人だが、図書室はもう目前
そんな場所で声をかけられるわけがない
だが、一刻を要するかのような彼女の声に、『ほっとけない』のもまた事実なわけであり…
二人は顔を見合わせると、廊下の柱に隠れるように避けた
言わずとも何かを察してくれたらしいアスカがゆっくりと二人の前へと近づく
《決心はつきましたか?》
「…話聞いてやるだけな」
「まだ、思い出したわけでもないからね」
二人の答えにアスカは嬉しそうに目を細め、それでも構わないと言った
そんな会話を聞きつけたルナとシャドゥは、我先にと競い合うかのように飛んでくる
《私たちが見えているのですか!?見えているのですね!?》
《
シャドゥからは感情があまり伝わってこないが、ルナは全身を使ってその喜びを表していた
当然ながらあまりのテンションに二人の思考はフリーズしてしまう
《落ち着けというのか分からぬ奴らだな…しばし黙れ》
ピシャリとアスカが言い放つと、不服そうにしながらもその口を閉じた
《…相変わらず煩い奴らで申し訳ございません。主殿方は今はやるべき事があります故に、詳しいお話は後回しにさせていただきます》
二体への言葉遣いとは裏腹に、とても丁寧な口調でアスカは二人に話しかけた
「あ……ああ…構わねえ。むしろそっちを先に終わらせてえんだが…さっきの声、誰のだ?」
先に復活したユーリがそう問いかけた
《…あれは、我らと同じ存在…ボルトとセルシウスでございます。…理由はわかりかねますが、危険な状況だということは確かです》
「…ガリスタ殿が関係しているんだろうか…?」
ポツリと呟いてフレンはチラリと少し先に見える扉を見た
《我々は主様以外には見えません。故に関係しているとは言い切れませぬが、可能性がないわけでもありません》
そう返してきたアスカの言葉に二人は小さく唸り声を上げた
セルシウスとボルトという二人を助けようにも情報が足りなさすぎる
ましてややることがある今、あまりのんびりもしていられない
「…あー!面倒くせぇ!」
そう言うが早いか、ずかずかと扉の方へとユーリは歩き出していた
フレンは盛大にため息をついて項垂れた
これだからユーリは…などと小さく悪態付きながら、彼の後を追った
既に扉の前に立っていたユーリは大きく深呼吸をして、幼馴染の相棒が来るのを待っていた
「…準備いいかフレン?」
少し意地悪気な口調で言いながらユーリは長い黒髪を揺らして振り向いた
「そう聞いてくるってことは、少し待っていてくれるのかい?」
負けじと言葉を返しながら、金色の髪が頭の動きに合わせてゆっくりと揺れた
「はっ、待つ必要ねえんだろ?」
それが当たり前だと言わんばかりの笑顔でユーリは言った
フレンは言葉にはせずに薄っすらと笑って答える
顔を見合わせて頷き合うと、少しばかり綺麗な装飾の施された扉を押し開けた
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~DからRへ~
詳細が分かった
やはり四年前の二人で間違いなさそうだ
できるだけ早めにこちらへ戻って来い
『彼女』の捜索と共に頼みたい
〜RからDへ〜
事態が解決し次第、帰還いたします
もうしばらくお待ちくださいませ
〜DからRへ〜
やむを得まい
戻り次第捜索にあたれ
期待しているぞ?
〜RからDへ〜
仰せのままに
必ずや、成果を上げて見せましょう