第二節 水道魔導器騒動
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ー呪いの森の噂ー
「……この場所にある森って、まさか、クオイの森……?」
カウフマンから聞いたクオイの森の前までくると、エステルは不安そうに問いかけた
「ご名答、よく知ってるな」
ユーリがそう言うと、エステルの顔が青ざめた
「クオイに踏み入る者、その身に呪い、ふりかかる、と本で読んだことが……」
「なるほど、それがお楽しみってわけか」
怯えるエステルとは対照的に、ユーリはどこか楽しそうにニヤリと笑った
《
「…(わーってるよ)」
シャドゥの忠告に、ユーリは苦笑いして答える
自身の
ユーリは先に進み始める
だが、エステルがついて来なかったため足を止める
「行かないのか?ま、オレはいいけど、フレンはどうすんの?」
そう彼女に彼は問いかける
「……わかりました。行きましょう!」
そう言って彼女も歩き出した
薄暗い森にエステルはほんの少し怯えながら歩いて行く
ユーリは嬉々として先頭を歩いている
「…(…なぁ、シャドゥ。ここの噂って、本当なのかわかるか?)」
心の中でユーリは問いかける
《此処、呪、無。
「(…
ユーリが問いかけると、シャドゥは口を閉ざす
「(…わからねぇ、ってことか)」
ユーリはそう呟いて呪いの話を蚊帳の外に出すことにした
鬱蒼とした森を暫く歩いていると、開けた空間に出る
その空間に入るとおかしな音が聞こえてくる
何かの機械音に二人は足を止めた
「何の音…です? 足元がひんやりします…。まさか! これが呪い!?」
「どんな呪いだよ」
「木の下に埋められた死体から、呪いの声がじわじわと這い上がりわたし達を道連れに…」
ユーリの声も彼女に届いていないのか、彼女は淡々と言葉を続けた
「おいおい…」
「…あれは…?」
怯えていたエステルだが、前方に見えたものに興味が移ったようだ
ユーリはおもむろにそれに近づく
「これ、
そう言いながらユーリは首を傾げる
「(…さっきシャドゥが言ってたのはこれか…でも、なんでこんなとこに無造作に置いてあんだ?)」
ほんの少し考え込むが、すぐに頭を振って考えを蚊帳の外に追い出した
「少し休もう」
エステルの体力を考え、彼はそう提案した
「だ、大丈夫です」
エステルはそう断ると、歩き始める
「……あれ、これは?」
何か気になることがあったらしく、彼女はそれに近づいた
《
シャドゥがそう言い、薄くバリアを張ったと同時に、突然それから眩い光が放たれる
「きゃっ…!?」「うわっ?!」
「おい、エステル!」
ユーリは目の前に倒れているエステルを見ると、辺りを見渡す
「…(シャドゥ、この辺りは安全そうか?)」
《敵、現、無》
ユーリの問いかけに、シャドゥはそう答えた
それを聞いたユーリは木の傍までエステルを連れて行くと、そこに寝かせた
「……」
ラピードは無言でエステルに近づくと自分の背に彼女の頭を乗せろと言わんばかりに座り込んだ
ユーリは肩をすくませて苦笑いしながら、ラピードの背に彼女の頭を乗せた
「…シャドゥ、さっきのは?」
《エアル、溢、
「オレを護るのがお前の役目で、危険だったから護ってくれたのはわかるが…エステルも守れなかったのか?」
《彼女、我、弾、也。故、我、干渉、不可》
「シャドゥの力を弾く…ね…
…ま、それは置いとくとして、ヴォルトの奴はまだ戻って来ねぇのか?」
小さくユーリはそう呟きながら腰を下ろした
《
シャドゥはそう言いながら、姿を現した
相変わらずの真っ黒な姿にユーリは少し苦笑いする
「それよか、姿現して平気なのか?」
《此処、人、在。故、我、現、可》
「そうか。ならいいんだが…」
ユーリはそう言って周りを見回す
人がいなくても魔物の危険があるここでは警戒もするだろう
《魔物、我、倒。故、
シャドゥはそう言うと姿を消した
相変わらず自分勝手に行動するものだと、ユーリは肩を竦めた
「(さて…なんか食えるものは…)」
彼はキョロキョロと辺りを見回す
そして、近くにあったオレンジ色の木の実を手に取り口に運んだ
「…にがっ」
あまりの苦さに彼は顔を顰めた
「……うっ………」
小さな唸り声に、彼はエステルの方を見る
「大丈夫か?」
「少し頭が…でも、平気です。わたし…一体…」
「突然倒れたんだよ。何か身に覚えないか?」
「もしかしたら、エアルに酔ったのかもしれません」
「エアルにか?」
ユーリはそう聞き返す
エアルとはこの世界の大気中に含まれているもので、
ユーリはそれ以外にも、エアルは様々な物の元にもなっていることを
「濃いエアルは人体に悪い影響を与える、と前に本で読みました」
そう言えばそんなこと言っていたな、などと思いながら、ユーリはその言葉を聞いていた
「だとすりゃ、呪いの噂ってのはそのせいなのかもな」
ユーリがそう言うと、エステルはもう立ち上がり歩き出そうとする
「倒れたばっかなんだ。もうちょいゆっくりしとけ」
「そうはいきません。早くフレンに追いつかないと」
「また倒れて、今度は一晩中起きなかったらどうすんだよ」
「でも……そうですよね。ごめんなさい…」
急ごうとしていたエステルだが、ユーリの静止を彼女は素直に聞き、彼の隣に腰を下ろした
そして、ユーリは先程食べようとしていた木の実を彼女に渡した
恐る恐るエステルはそれを受け取り、ゆっくりと口に運んだ
「……うっ」
「はははっ、これで腹ごしらえはやっぱり無理か」
「とてもおいしいです」
クスリと笑いながら言うとエステルはムッとしながら、その木の実を食べ続けそうとする
「ちょっと待ってな。簡単なもんなら作れっから」
「ユーリは料理できるんです?」
「城のコックと比べんなよ。下町育ちで勝手に覚えた簡単な料理だからな」
ユーリはそう言って料理の準備を始めた
「…フレンが危険なのに、ユーリは心配ではないんです?」
呑気に料理し始めたユーリに向かって彼女は問いかける
「ん?そう見える?」
「……はい」
「実際、心配してねえからな。あいつなら自分で何とかしちまうだろうし。あいつを狙ってる連中にはほんと同情するよ」
「え?」
「昔っから何やってもフレンには勝てなかったもんな。かけっこだろうが、剣だろうが。その上、余裕かましてこう言うんだぜ?大丈夫、ユーリ?ってさ」
そう話すユーリはどこか寂し気で、同時に嬉しそうでもあった
「羨ましいな…。わたしには、そういう人、誰もいないから」
「いても口うるさいだけだぞ」
羨ましそうにしているエステルにユーリは肩を竦めた
『口うるさい』などと言ってはいるが、その表情はそんなことかけらも思っていないかのように、嬉しそうな雰囲気であった
「ほい、出来た」
そんな話をしているうちに料理は出来上がっていた
「いただきます!」
エステルは、出された料理をおいしそうに食べていく
それを見て、ユーリは嬉しそうに微笑んだ
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
「すごくおいしかったです。わたしなんて料理をしたこともないのに」
「剣や魔術とおんなじ。やらないと覚えられないもんだ。料理なんてレシピを手に入れて練習すれば作れるようになるさ」
「レシピを手に入れて練習ですか…。わたし、うまくできるかどうか自信はないです」
「ま、人には得手不得手があるからな」
ユーリがそう言うと、ラピードが立ち上がった
「どうした?ラピード?」
《
「…(サンキュ、シャドゥ)」
「さて、そろそろ行くか」
そう言ってユーリは立ち上がる
それに続いてエステルも立ち上がった
二人と一匹は再び、ハルルに向かって歩き出した
歩き始めて暫くしてからだった
「グルルルル………」
突然、ラピードが茂みに向かって唸り出す
二人は立ち止まってラピードが見つめている茂みの方を向く
「ん?」
「エッグベアめ、か、覚悟!」
その声の後に茂みから飛び出てきたのは少年だった
身の丈に合わない大きなバックに、大きな武器を彼は持っていた
「うわっ、とっとっ!」
その大きすぎる武器は少年が扱うことが難しいらしく、グルグルと回り出していた
ユーリはため息をつきながら鞘を飛ばすと、回っている少年に向かって構える
その少年の武器が近づいたタイミングで、彼は刀を振った
「うあああっ!あうっ!
う、いたたた………」
見事に刀が当たり、反動で少年は転倒した
その彼にラピードは近づく
「ひいいい!」
少年はラピードを見るなり大きな悲鳴を上げた
そしてパタンと後ろに倒れた
「ボ、ボクなんか食べても、おいしくないし、お腹壊すんだから!」
「ガウっ!!」
「ほ、ほほほんとに、たたたすけて。ぎゃあああ~~~~~!!!」
ラピードが一声鳴いただけで、少年は助けてと悲鳴を上げた
「忙しいガキだな」
そう言って、ユーリは苦笑いを浮かべた
「大丈夫ですよ」
エステルは少年に近づくと、その傍に膝をついた
「あ、あれ?魔物が女の人に」
少年は驚いた顔でエステルを見る
そして、自分の傍にいたラピードを見ると体を起こした
「ったく。なにやってんだか」
苦笑いしながら、ユーリは呟く
「ボクはカロル・カペル!魔物を狩って世界を渡り歩く、ギルド『
少年、カロルは自信満々にそう言った
「オレは、ユーリ。それにエステルと、ラピードだ」
ユーリは手短に名乗る
「んじゃそう言うことで」
カロルが二人と一匹を交互に見ているとユーリとラピードは先に進んで行ってしまう
「あ、え?ちょっとユーリ!えと、ごめんなさい」
エステルは律義にカロルに頭を下げるとユーリ達を追いかけて行った
「へ?……って、わ~、待って待って待って!」
カロルはそう叫ぶと、走って二人の前に飛び出る
「二人は森に入りたくてここに来たんでしょ?なら、ボクが」
「いえ、わたしたち、森を抜けてここまで来たんです。今から花の街ハルルに行きます」
エステルがそう言うと、彼は驚いて二人を見る
「嘘!?呪いの森を?…あ、なら、エッグベア見なかった?」
驚きながらも、彼は二人に問いかけた
「ユーリ、知ってます?」
エステルはどうやら知らないらしく、ユーリに問いかけてくる
少し下を向いて彼は考えているフリをしながら、シャドゥに話しかけた
「…(どうなんだ、シャドゥ)」
《熊、魔物、影、有。否、
「…(あってねえならいい)」
「オレの記憶が正しけりゃ見てねえな」
二人を見ながらユーリは答えた
「そっか……。なら、ボクも街に戻ろうかな……」
カロルは一人でブツブツと呟くと、急に、よしっ!っと声を上げた
「二人だけじゃ心配だから、
自慢げに言うカロルに、ユーリとエステルは顔を見合わせた
そんな二人に、カロルは一瞬首を傾げたが、二人の腕に
「あ、あれ、二人ともなんで
「ま、エースの腕前も、剣が折れてちゃ披露できねえな」
「いやだなあ。こんなのただのハンデだよ」
カロルは武器を取り出すとその場で素振りを始めた
どうやら丁度いいサイズになったらしく、先程よりも扱いやすそうにしていた
そんなカロルを置いて、二人と一匹は歩き始めた
彼らが動き出したことに気づいたカロルは慌てて声をかける
「ちょ、あ、方向わかってんの~?ハルルは森を出て北の方だよ
もぉ、置いてかないでよ~」
そう言って、カロルは後を追いかけた
こうして、三人と一匹でハルルを目指すこととなった
~ユーリ達が森を去った後~
壊れた
微かに光る
《--殿、早く済ませるべきでは?》
彼女の傍にはもう一人、男性と思われる人がいるが、その人物を『人』と表現していいのかは定かではない
何故なら、その人物には腕が左右二本ずつあり、足が地面から離れているからだ
「…えぇ、わかっているわ」
女性はそう言うと、長い銀髪を揺らしながら
「全く…シャドゥは何をしているのですかね」
怒りのにじんだ声で彼女は呟く
《言ってもしかたないではないか。そう言うのであれば、『彼ら』を戻すべきでは?》
「それじゃあ意味がないではないですか。…これは、あの方々のためでもあるんですから」
彼女はどこか辛そうで…寂しそうな表情を浮かべていた
「…さ、行きましょうか?」
彼女がそう言うと、彼はほんの少しため息をつく
そして、彼が指を鳴らすと同時に、二人の姿は跡形もなく消え去っていた
後に残ったのは、壊れた