第二節 水道魔導器騒動
*Name Change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
《…ねぇ、ーーーー》
《なんだ?》
《主 様達、僕らを見つけられると思う?》
《…そんなことを気にしているのか?》
《気にするのが普通じゃないかい?》
《ふん、まさかあの方達が我らを見つけられないとでも思うのか?》
《そうは言わないけど…万が一、って可能性はあるじゃないか》
《ーーー、お前はもう少しあの方達を信用すべきだ》
《そう言われても…信用云々じゃなく、単に心配なだけなんだけど…》
《心配など無用だろう。我らとあの方達は一心同体。傍に来て下さればすぐにわかる》
《『彼女』のせいで記憶がないのに?》
《せいなどと言うな。『彼女』は自身の務めを果たしているだけに過ぎぬ。もし、『彼女』のあの行動がなければあの方達が今頃どうなっていたと思うのだ?》
《ーーーーの言い分はわかるけど…何も僕らを飛ばさなくったってよかったんじゃないかってさ》
《…あの方達が成長する為にも、これは必要な事だったのだと我は思うがな》
《お二人は充分強かったじゃないか。あれ以上、何を望むのさ》
《確かに表面的にはそうだったな。…が、中身はまだまだ成長不足だ。…さてーーー、無駄口を叩いている暇があると言うのであれば、いい加減他のもの達を探さんか》
《…はいはい、わかりましたよ…》
ーデイドン砦ー
ユーリとエステリーゼが帝都を出て数日、二人と一匹(下町を出る際着いてきたラピードを含め)は帝都と花の街ハルルの中間地点であるデイドン砦へと辿り着いた
ここまでの道中、ユーリは彼女に『エステル』というあだ名をつけた
気に入ったらしい彼女は初め嬉しそうに一人でそのあだ名を呟いていた
砦に着いて早々、目に入ったのは大勢の騎士の姿だった
「ユーリを追ってきた騎士達でしょうか?」
少し不安そうに顔を歪めてエステルは呟く
牢屋を抜け出して来たユーリを捕まえようと騎士が探し回っているのは容易に想像がつくことだが、それにしては数が多すぎる
「さぁな?ま、あんま目立たないようにな」
ほんの少し警戒して辺りを見ながらユーリはエステルにそう言った
そして、入って来たのとは反対の入り口の方へと足を進めていく
「わかりました」
エステルはそのユーリの後をついて歩き始める
…が、途中視界に入った行商人の元に気になるものでもあったらしく、そちらへ向かってしまった
「…目立たないようにって、ほんとにわかってるのかねぇ」
若干ため息を付きながらユーリは呆れ気味に彼女を目で追いかける
「わふぅ…」
彼の言葉に同意するかのようにラピードは小さく唸ると、エステルの後を追いかけた
「…(ヴォルト、フレンの奴が今何処にいるか、わかるか?)」
《ジジ……光、
「…(っつーことは、今はいねぇのか)」
《ジジジ……セルシウス、ルナ、アスカ、反応薄イ。ガガ…何カガ、邪魔シテル》
ヴォルトの返しにユーリは首を傾げる
今までも帝都の結界を出てハルルまで行ったことはあったし、外でフレンともやり取りをしていたが、こんな事は一度もなかったからだ
もしかすれば、見つかっていない
ほんの僅かに、ユーリはそう感じた
「…(…わかった。サンキュ)」
ヴォルトにそう返し、ユーリはエステルの元へと歩き始める
「おや、いらっしゃい」
行商人の元へ行くと、エステルは何かの本を熱心に読んでいた
それは魔物などとの戦いにおいて必要なことが書いてある本だった
ある程度の知識のあるユーリにとって不要なものだが、彼女はとても気に入ったらしい
だが、ユーリはそれよりもこんな場所で商売をしている事が気になったらしく、行商人に声をかける
「こんなとこで店開いてて繁盛してんのか?」
「いやねぇ、本当は花の街ハルルに行きたいんだが…なんでも砦の向こうで魔物が出たってんで、ここで足止めを食らってるのよ。ここにいる人達はみーんなそうさ」
そう言いながら辺りを見回す行商人に習ってユーリも辺りを見る
騎士にばかり目を取られていたが、よく見れば子連れやあからさまに旅行にでも行こうとしているような風貌な人、それに貴族などどう見ても戦えるような雰囲気がない人が多くいた
「魔物ねぇ…」
「あぁ、なんでも凶暴な魔物らしい」
ポツリと呟いたユーリに行商人は丁寧に説明を付け足してくれた
そんな魔物が出ていて、果たして通り抜けることができるのだろうかという疑問がユーリの頭に過ぎる
「教えてくれてありがとな」
ユーリはそうお礼を言うと歩き始める
「あっ!待って下さい!…おじさん、私も行きますね」
エステルは行商人と二、三言会話すると、小走りでユーリの後を追いかけてきた
腕には先程読んでいた本をしっかりと抱いていた
どうやら先程の行商人から貰ったようだ
「さて、どうするか」
「どうって何がです?」
エステルはユーリの言葉に首を傾げる
彼女の疑問に彼はは呆れた顔をす?
「…さっきの話、聞いてなかったのか?」
そう問いかけるととエステルは苦笑いした
「えっと…本に夢中で…」
その返しにユーリは大きくため息をつく
急いでいたのではないのかと言いたくなるのを抑え込みながら彼は口を開く
「この先、魔物が出てて通れないんだとさ」
「そんな、フレンはこの先の花の街ハルルに向かったのに…」
その答えに、エステルはガックリと肩を落とす
先程まで本に夢中だったとは思えないほどの落ち込みように、ユーリは思わず苦笑いする
「…少し情報収集でもしてみっか。此処でジッとしてたら、どっかの誰かさんが一人でフレンを追っかけそうだしな」
「ユーリ…ありがとうございます!」
彼らはそう言い合って砦内を散策し始めた
砦内で情報収集をある程度終え、この先どうするか話し合おうとした時だった
カーンカーンカーンッ
突然、辺りに警鈴が鳴り響く
それと同時にこちらへと迫って来るような大きな地響きも響いていた
「急いで!門が閉まるわ!」
門の方を向くと、今にも閉まりそうな門と、まだ外に取り残されている人の姿があった
それを見るなり、エステルは駆け出した
「おい!エステル!」
ユーリの静止も聞かずに彼女は門の外へ向かって行ってしまう
小さく舌打ちをしながら、彼はラピードに目で合図を送る
分かりきっていたかのように、ラピードは門番の元へ駆け寄ると門の操作を中断させた
その横をユーリは駆け抜ける
「くっそ、めちゃくちゃ目立ってんじゃねぇか」
ボソリとそんな悪態をつきながら、エステルの元に駆け寄る
どうやら足を怪我して動けなくなってしまったらしい男性の治癒をしていたようだ
《
シャドゥの声にユーリが前を見つめると、小さな子供が取り残されているのが目に入った
「エステル!先に戻ってろ!」
そう言うと、彼は子供の元へと真っ直ぐに駆け寄り抱えてその場を後にする
「お人形さん…!」
門の中に戻ると、子供はそう言ってまた外に出ようとする
どうやら戻ってくる途中で人形を落としてしまったらしい
ユーリは何も言わずに子供を制止すると、人形の元へ駆け出す
「ユーリ!?」
驚いたエステルが声をかけるが当の本人は振り返りもせず、人形を取ると再び門の方へと駆け出す
が、ラピードが制止していた門番が再び門を動かし始めたらしく、門が徐々に閉まり出していた
「(やっべ、間に合うか、これ)」
人がギリギリ通れるくらいの幅まで閉まっている門、ユーリはまだ着きそうにはない
このままでは閉め出される
ユーリがそう思った時、再び門の動きが止まった
その隙にユーリは僅かな隙間へ体を潜らせる
彼が通ったのと同時に門が勢いよく閉まると、外側から何かが激突するような大きな音が響く
まさに間一髪という所だったのだ
「ほら、人形。もう手離すんじゃねぇぞ?」
彼はそう言いながら子供に人形を返す
「お兄ちゃんありがとう!」
子供は嬉しそうに満面の笑みを浮かべてユーリを見つめる
「怪我まで治してもらって、なんとお礼を言えばいいか」
「いえ!皆さんが無事でよかったです!」
お礼を言ってくる人々にエステルはそう返す
再度お礼を言うと、彼らはその場を立ち去った
「みんなが無事でよかった…あ、あれ…?」
エステルは嬉しそうにそう言ったのとほぼ同時にその場に座り込んだ
どうやら安心のあまりに力が抜けてしまったようだ
「ったく、安心した途端それかよ」
ユーリはそう言って苦笑いしながら彼女の隣に腰を下ろす
「結界の外ってこんなに危険だったんですね…」
「あんな魔物が大量に来るんじゃ、結界が欲しくなるよな」
「此処に結界を設置することはできないのでしょうか?」
エステルはそう言って首を傾げる
確かに結界を設置出来れば安全にはなる
だが、そうゆうわけにもいかないことは、ユーリもよくわかっている
「結界なんて貴重品、そんなにほいほいと設置できねぇだろ?それに、帝国が民衆のためにってのは想像できねぇな」
棘のある言い方にエステルは寂しそうに項垂れる
ユーリとてエステルを攻めるつもりだったわけではないが、貴族、ましてや帝国そのものにいいイメージを持っていない彼にはどうしてもそのような言い方になってしまうのだ
「それにしても…ユーリが入ってくる直前、何故門が閉まらなくなったんでしょうか…?」
そう言ってエステルは首を傾げた
「ん?門番が閉めるのをやめたんじゃねえのか?」
キョトンとユーリも首を傾げる
「いいえ。門番の方は閉めようとしていたのですが…まるで何かが引っかかったかのように閉まらなくなってしまっていたんです」
「ふーん、何かが引っかかったように…ね…」
ユーリはそう呟くと軽く目を閉じる
その様子をエステルは不思議そうに見つめる
「…(シャドゥ、ヴォルト、なんかわかるか?)」
《ジジ……
《先、気配、在。現、気配、無》
二体はそう言葉を返してくる
「(…そっか。サンキュな)」
「…ま、考えたってわかんねぇし、ラッキーだったってことでいいんじゃねぇの?」
ユーリはそう言って手をひらつかせる
エステルはあまり納得のいかなさそうな表情を浮かべたが、彼女とてその答えを出すことは不可能なわけで、早々に諦めたようだ
二人が話していると、一人の騎士が近づいてくる
一度顔を見合わせると、二人は立ち上がる
「そこの二人、少し話を聞きたい」
どうやら目立ちすぎたらしく、騎士に目を付けられてしまったようだ
どう切り抜けようかと、ユーリが考えて始めた時
「何故に通さないのだっ!?魔物などこの俺様の拳で倒すというものを!!」
そんな声が門の方から聞こえてくる
そちらを見れば、あからさまに一般人ではない風貌の三人組が目に入る
一人は大柄で背に大剣を背負った男
一人はフードをかぶった猫背の、声からして恐らく男だと思われる
そして、もう一人は背に大きな円盤状の刃のついた武器を持った少女
門の先に抜けたいらしいその三人組が騎士と口論していた
フードの男と騎士が揉めていると、傍にいた大柄の男は背にあるその大剣の柄に手をかける
その様子を見ていた周りの騎士達はそちらへと集まって行った
「今のうちだ!」
ユーリはエステルにそう合図すると、反対方向へと向かって走り出した
「あの調子じゃ、当分通れそうにないな…」
ユーリはそうポツリと呟く
「ねぇ、あなた達、私の下で働かない?」
これからのことを話し合おうとすると、二人の背後から声をかけられる
振り返ると、赤髪の眼鏡をかけた女性と、サングラスを掛けた男性が立っていた
「報酬は弾むわよ?」
そう言って彼女はじゃらりと音の鳴る袋を二人に見せつける
相当な額のガルドが入ったと思われるその袋に、ユーリは興味なさげに顔を逸らした
「おい、お前等
返事をしないユーリに痺れを切らせたらしい男がそう威圧をかけてくる
「名乗らずに金で吊るのは失礼って言わないんだな、勉強になった」
その態度が気に入らなかったらしいユーリはそう挑発気味に言葉を返す
「お前等っ!」
男はユーリに向かって一歩足を踏み出す
それを
「予想通り面白い子達だわ。私は
カウフマンと名乗った女性は腕を組みながらユーリを見つめる
「ふーん、ギルド、ね」
興味なさそうにユーリは相槌を打つ
すると、再び辺りに地響きが轟く
「私、今困ってるのよ。この地響きの元凶のせいで」
大袈裟にため息をつきながら、カウフマンは項垂れる
「一体なんなんです?」
「平原の主よ」
エステルの問いかけに彼女は端的に答える
聞いたことのない単語に二人は首を傾げた
「要は、あの大群の親玉ね」
それを察した彼女はわかりやすいように言い直す
「あの大群の親玉って…すげぇのがいるんだな」
それを聞いたユーリは関心気味に呟く
「あの、何処か別の道から平原を越えられないでしょうか?先を急いでいるんです」
エステルはカウフマンにそう聞く
流通まで取り仕切っているという彼女であれば、抜け道を知っていると思ったのであろう
「さぁ?平原の主が去るのを気長に待つしかないんじゃない?」
しかし、彼女は答える気がないのか、もしくは本当に知らないのか、そう言って頭を振った
「ま、焦っても仕方ねーってことだろ」
「そんなの待っていられませんっ!私、他の人にも聞いてみます!」
エステルはそう言うと一人で行動し始めた
その後をラピードは無言でついて行った
「んで?流通まで仕切ってるのにほんとに他の道知らないの?」
ラピードを見送るとユーリはカウフマンに向かって問いかける
知らないわけがないだろうと思ったのだろう
「主さえ居なくなればあなた達を雇って強行突破っていうのもあるけど、協力する気はなさそうね」
残念そうにため息をつきながら、彼女は苦笑いをする
「護衛なら騎士に頼ってくれよ」
冗談とでも言いたげにユーリは手をひらつかせて答える
その答えに、カウフマンは顔を顰めた
「帝国の市民権を捨てたギルドの人間を騎士団が護衛してくれるわけないし、今更頼る気もないわ」
「へぇ、そうゆうとこは自分の意思を貫くんだ」
「そうでもしないとギルドなんてやっていけないもの」
そう言った彼女の決心は相当硬いものらしい
そのギルドをまとめているとなれば納得のいくものがあるだろう
これ以上情報は得られそうにない
そう感じたユーリはその場を立ち去ろうと彼女に背を向ける
「砦の西側、クオイの森と呼ばれる森があるわ」
背後から聞こえてきた彼女の声にユーリは振り替える
「その森を抜ければ、平原の向こうへ出れるわ」
「でも、あんた達はそこから行かない。ってことは何かお楽しみがあるってわけか」
ユーリがそう言えば、彼女はどこか満足げに笑う
「察しのいい子は好きよ。先行投資を受け取る子はもっと好きだけど」
そう言って彼女はユーリを見つめる
「一応、礼は言っとくよ。ありがとな、お姉さん。仕事の話はまた縁があったらな」
彼はそう言うと、エステルの向かった先へ足を進めた
「(ヴォルト、フレンの奴の居場所はわかるか?)」
《ガガ…光
ユーリの問いかけにヴォルトはそう答えた
「(暗い街、ねぇ…さてはあの野郎、待ってる気はねぇな)」
《ジジ…伝言、行ク?》
「(だな。頼むわ)」
《ギガガ…ワカッタ》
「…さてと…」
ヴォルトの気配がなくなったのを確認してから、ユーリはエステルに近づく
座り込んだ彼女は、ユーリを見るなり顔を逸らせた
「少し休憩しているだけです」
頬を少し膨らませ、拗ね気味に彼女は言う
そんな彼女にユーリは苦笑いする
「んじゃ、オレは先に抜け道からハルルに行くとしますかね」
意地悪気に彼はそう言って歩き出す
「え…?抜け道、見つかったんです?ま、待って下さい!」
そんな彼を、エステルは慌てて追いかける
こうして二人と一匹は、クオイの森へと向かって行った
~二人が砦を去った後~
「…はぁ…で、まんまと逃げられちゃったわけね…」
砦に着いたアリシアは大きくため息をつく
「も、申し訳ありません…!まさかエステリーゼ様だったとは思わず…」
先程ユーリ達に声をかけた騎士が彼女に頭を下げていた
「…まぁ、わからなくても仕方ないわ。彼らの行先はわかっているし…。ルブラン、あなた達は真っすぐ追いかけて頂戴」
「はっ!お前たち!ここで先日の汚名返上するのだ!」
ルブランはそう言ってアデコールとボッコスを率いて二人の後を追いかけた
「さて…平原の主がいつ引くことやら…」
彼女はそう呟くと、砦の上へ続く階段の方へ足を向ける
「アリシア副騎士団長、どちらへ行かれるのですか?」
「んー?ちょっと上から様子見てくるだけよ」
騎士の問いに答えると、彼女はその場を後にする
砦の上からアリシアは平原を見渡す
はたから見れば、様子を見ているだけに見えるが、その目は必死に何かを探していた
「…一足遅かったか…」
恨めしそうに彼女は呟くと、平原から目を離す
その彼女の視界に、一人の男の姿が映る
銀の長髪の一言で表すなら美しい男
その人物は何も言わずにただアリシアを見つめていた
「…私の顔に何かついていますか?」
彼女は冗談交じりに彼に問いかける
「…
その単語にアリシアは顔を顰めた
「…いや、それは本来のお前ではないのか」
ポツリと紡がれた言葉に彼女は表情を変えようとはしなかった
「本当のお前はどこにいるのだ?」
男はそう言って、アリシアを見つめる
紅い瞳が、ジッと彼女の瞳を見つめる
「………さて………何のことでしょう?」
暫くして彼女はそう言って微笑む
「私は私ですし、本物もなにもありませんよ」
ニコニコと笑ってはいるが、その瞳に輝きはない
「…そうか」
男はそう言うと彼女に背を向けて立ち去って行く
その背を見送る彼女に表情はなかった
「…『本当の私』、ねぇ?」
そう呟くと、彼女は空を見上げる
どこまでも続く青い空を彼女はジッと見つめる
まるで、何かを思い出すかのように
「…さて、そろそろ動きましょうか」
そう言って、顔を下ろした彼女はいつも通りの表情を浮かべていた
そして何事もなかったかのようにその場を後にしていった