第一節 帝国と騎士団
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ー記憶の一部ー
「…さてと…」
パタン…っと音を立てて扉を閉めながらフレンは呟く
後ろを振り向くとユーリの他に、今まで対話を避け続けてきた三体と新しく来た二体の姿もある
ユーリの傍では、何とかコミュニケーションを取ろうと葛藤しているシャドゥとヴォルトの姿があった
他の三体と違い、この二体は普通の会話が出来ない
ヴォルトに関しては、今は二人の主 としての力が弱っているのが原因らしい
まだ詳しい話を聞いてないがアスカが言うにはそういうことなのだとか
《ようやくお話ができますね》
嬉しそうに両手を合わせてルナが言う
相当話したかったらしく、二人の周りをクルリ、クルリと回っていた
《ルナ…お二人を困らせてはいけません。記憶がないというのに困らせるなんて、それでも守護者 ですか?》
「守護者 ?」
聞きなれない単語にユーリが首を傾げた
《そろそろお話すべきですね…あなた方の身に起きた出来事と、記憶をなくされる前のお二人のことを》
今まで聞いた中では一番真剣な声色でアスカが言う
ユーリとフレンは顔を見合わせて頷き合うと、ベットに腰かけた
《何から話すべきでしょうかね…》
《生い立ちから順にお話していくのはどうでしょうか?お二人もその方が状況を呑み込みやすいのではないでしょうか?》
唸り声を上げたアスカにセルシウスが助言した
《うむ…そうすべきか》
ゆっくりと頷くとアスカの隣にルナが立った
《では始めましょう。お二人の昔話を》
そうして二体は話始めた
今から十九年前の事です
帝都・ザーフィアスの貴族街にこの年、二つの新しい命が誕生しました
片方は太陽を連想させる綺麗な金髪の男の子
もう片方は夜の闇のような綺麗な漆黒の髪の男の子
片方は光を司る『光の主 』の一族に
片方は影を司る『影の主 』の一族に
世界を古来より守りし一族の末端でいつかはその役目を担うべくして生まれたのです
お二人は稀なことに、幼少の頃より我ら守護者 の姿が見えておりました
守護者 とは、『主 』の力の源であり御守り役でございます
我らの姿が見えていたお二人は、若干六歳という若さでその役目を引き継ぐこととなるのです
当然ながら最初我らは反発しました
まだ年端の行かぬ子どもに重い責任を任せるなと
ですが、そんな話は聞き入れてもええませんでした
お二人のご両親は早いうちから力を使うことに慣れさせたかったようなのです
当たり前ですが、六つの子にそんなこと言ったところで出来るはずがありません
それでも延々稽古を続けさせようとしたご両親を止めたの騎士 でした
騎士 とは、『主 』の一族と同じく古来より受け継がれてきた一族です
かの一族は『主 』を守るために生を受けた者でした
騎士 もまた代替わりをしており、当時はまだ九歳でした
『主 』たちと変わらない年齢な上、その者は女の子でした
当然ながらお二人のご両親は反発します
何故、まだ年端の行かぬ子どもなどに…と
その考えですら、彼女は一瞬で消し飛ばしたのです
九つとは思えぬほどの強さと冷静さ、そして大人びた雰囲気を持った子でした
その日より、彼女はお二人と共に過ごされるようになりました
初めの頃は金色の鋭く光る瞳が、決して誰の反論も許さぬと終始ぎらついている日が多くありました
お二人のご両親にでさえ警戒した眼差しで見ていたくらいでした
それほどに彼女はお二人が大切だったのでしょう
初めはピリピリとした威圧を漂わせた彼女にお二人も警戒なさっておられましたが…
それでも、彼女はどこまでもお二人にお優しかったのです
大人のいないところでは、彼女もまた年相応の姿を見せることがあるくらいには、お二人に心を開いていらっしゃったと思います
何処に行くにも、何をするにも、必ずと言っていい程にお三方は同じ時間を過ごしていらっしゃいました
今思えば、お二人にだけに優しく接することで悪だくみを企てている者が近づいてきたとしても、すぐに自分の元へ逃げてくるようにと無意識のうちに覚えさせようとしていたのかもしれませんね…
ルナ、話がそれているぞ
…あら、ごめんなさい
…そうですね、お三方はとても良いご友人であり、また『主 』と騎士 でしたね
『主 』と騎士 としては信頼関係が非常に強く、お二人に忠実で…かと思えば姉と弟のように戯れられていて…そうかと思えばご友人のように遊ばれていました
仲の良さは歴代と比べても非常に良いですね
《…ここまでで、何か思いだされましたか?》
優しいテノールの声が静まった部屋に響く
いつの間にか瞑っていた目を二人は開く
見たことのないはずの、思い出したくても思い出せなかったはずの記憶の一部を見れたような気がしていた
いや、見れたような、ではない
実際に見えたのだ
ようやく思い出せたほんの一部の記憶に、二人はほんのりと心が温まった感覚がする
「…悔しいけど、何となく思い出した気がする」
ポツリとユーリが呟くと、セルシウスが嬉しそうに微笑んだ
「まだまだ、わからないことだらけだけど、ね」
苦笑いしながらフレンが付け加えると、アスカが《やはり…》と小さく呟いた
《…ユノ殿がおらねば、完全に戻すことは不可能かもしれぬ…》
少し悔しそうに表情を変えたアスカに他の守護者 たちも俯いた
「ユノ…が、なんで…?」
聞いてはいけないのかもしれない
彼らの雰囲気からそう読み取ったユーリだったが、好奇心につい負けてしまった
彼らは顔を見合わせると、ゆっくりと重い口を開く
《…主 様たちの記憶を封じたのは…彼女だからです》
ルナのまさかの発言に、ユーリもフレンも思考が止まる
何がどうしてそうなったのかが不明だ
ただ、間違いなく言い切れることは、ただ一つ
悪意を持ってやったわけではない
それだけは言い切れる自信が二人にはあった
夢の中にまで出てきた彼女がそんなことするわけがない
藁にでも縋りたい気持ちで二人は願った
どうかせめて、悪意があったわけではないと言って欲しかった
「…どうしてそんな…」
ふり絞った声でフレンが問いかける
《…それは、お二人を守るためだったと、我らは考えております》
先程までの元気はどこへ行ったのか、寂しさの籠った声でルナが言った
《あれは四年前の出来事です》
そうして今度は、セルシウスが話を始めた
四年前、丁度雨の降った日の事でした
お三方のご両親がお城へ呼ばれた後の事です
何か嫌な予感を感じ取ったユノ殿が、お二人を隠し部屋に隠れるように言いました
…そうして少し経った頃です
家の中が非常に騒がしくなりました
我らは彼女の言いつけ通り、お二人の気配を隠す結界を張りました
お二人も最初は大人しく隠れていらっしゃいましたが、やはりと言いますか…
隠れていることが嫌になられたようで、我らの静止を振り切られて外に出てしまわれました
…そこで見た光景は今でもあまり思い出したくはありませんね…
血と死体…
そんなものが至る所に散らばっていました
我らですら何が起こっているのか把握するまでに時間がかかりました
最初にここにはいらっしゃらない火の守護者 が思い出されました
数千年前に起こったことと同じだと…
…そうです。物語にもなっている出来事と同じことが起こったのです
今回違ったのは、騎士 が最初からいたことです
そして彼女が先手を打って下さっていました
なのでお二人には被害がなにもありませんでした
…我らがお二人を止められていれば、このような事態にもならなかったのだと今でも思っております
お二人は真っ先にユノ殿を探されに行きました
…探した先で見つかった彼女は酷い怪我をされていました
もちろん、すぐに治癒術をおかけしましたが…
ですがその傍にその騒動の主犯が居たのに気が付けませんでした
彼女がすぐに力を使い遠くへお二人を連れて移動したために姿をよく見ることは出来ませんでしたが…
騎士の服を着ていたと思われます
…逃げた先で、彼女はお二人に記憶を封じる術を掛けられ信頼できる者のいる場所へ預けられました
そして…『四大』と呼ばれる火・水・地・風の守護者 と、氷と雷の守護者 である私とヴォルトをお二人から引きはがしたのです
それは、我らがいることで敵にあなた方がそうであることを認知させないためだったのでしょう
まだお二人が引き継いだことを知っていたのが三族だけだったため、お二人の容姿を知る者がいなかったからこそ出来たことですね
《…その後、彼女は何処かに行ってしまわれました》
話し終えたセルシウスの表情は酷く険しいものになっていた
《残した我らに…敵の大元を潰すまで帰っては来られないと…。お二人が望むまで、この事は伏せろと言い残されて…》
アスカの表情も硬くなっている
思い出そうとしていたユーリとフレンは寂しそうに顔を歪めていた
どう頑張ってもそのことだけは思い出せない
「…やっぱ思い出せないな」
「ああ…それ以外なら、ちらほら思い出せて来ているんだけどね…」
《そうですよね…でも、それは仕方ありませんよ。お二人には責任はありません》
セルシウスが二人をそう言って擁護した
《セルシウスの言う通りでございます。…お二人のせいではありません。お二人が望まれるのであれば、我らが彼女を捜しに行きましょう》
アスカがそう言って二人を見つめる
《…ですが、思い出すということは、つらい記憶を思い出すということにも繋がります。…それを踏まえてお考え下さい》
ルナはそう言ってもう一度考えるように促す
「そう…だな…」
小さく呟いたユーリは俯いた
確かにその通りかもしれない
…だが…
「…そうだとしても、思い出したいな」
ポツリと呟いたユーリの言葉に、フレンは力強く頷いた
「そうだな。…僕ら自身のことだ。彼女だけに押し付けるわけにはいかない」
二人の考えは全く同じだった
自分たちの事なのだから、蚊帳の外なのは嫌だったのだ
《そうとなれば我らが》
「いや、オレらも探す」
そう言ってユーリが立ち上がった
「フレン、オレ騎士辞めるわ」
あっけからんとユーリはきっぱり言う
その答えを予想していたらしいフレンは困ったように苦笑いした
「そう言うだろうと思ったよ。…僕は騎士団の中で出来る限り探してみるよ。ついでに、『黒幕』の方もね」
「頼む。…悪いな、面倒な方任せてさ」
「君と僕の仲だろ?気にするなよ」
二人はそう言い合って笑った
何処か吹っ切れたような笑顔にアスカたちはそっと胸を撫でおろした
《主 、赴、我、行》
《ジジジ…ガガ》
《おぬしらもついて行くと…?確かにお前たちの管轄はユーリ殿だが…》
アスカは顔を顰めて二体を見る
上手く会話のできない状態のこの二体と一緒で、果たして大丈夫なのだろうかという不安が三体によぎる
「平気だろ。一緒に居りゃ何とか会話できるようになるだろうし」
「だね。君の守護者 だというのなら尚更ね」
「おう。慣れねえとな」
ニヤリと口角を上げてユーリは笑う
《…そうおっしゃられるのであれば止めませんが…》
「それよか、お前らの事教えてくんない?」
ユーリはコテンっと首を傾げて問いかける
《ええ、そうですね。ついに我らのことをお話できるのですね…!》
ぱぁぁぁっと効果音がつきそうなほどの笑顔でルナが答える
《全く…お前という奴は…。…では、我から順に。我が名はアスカ。光の守護者 でございます》
アスカはペコリとお辞儀した
《わたくしはルナ。月の守護者 でございますわ。アスカとは対になります》
クルリとその場で一回転してルナは優しく微笑む
《…私はセルシウス。氷の守護者 になります》
深々とセルシウスはお辞儀をする
《我、シャドゥ。闇、守護者 、也》
シャドゥはそう言うとゆっくりと頭を下げる
《ジジ…ガガガ……》
《彼はヴォルト。雷の守護者 ですわ》
ヴォルトの言葉を、ルナが代わりに伝えた
「光と月と闇…それと氷と雷か…」
ポツリと呟いてフレンは人差し指と親指で顎を摘まむ
「後は火、水、地、風か…。そいつらも一緒に探すかな」
頭の後ろで手を組んでユーリは窓の外を見ながら呟いた
「その四体のことは君に任せていいかい?」
「任せとけ。お前の守護者 は見つけ次第帰るように言っとくぜ」
二ッとユーリが笑うと、フレンも微笑んだ
「…さてと…んじゃ、隊長に言わねえとな…」
はぁ…っとため息をつきながらユーリは言う
「ほら、ちゃんと言いに行かないと」
渋るユーリにフレンが釘を刺す
面倒くさそうに苦い顔をす彼に大きくため息をついていた
「…もう少しだけ、残っていてもいいか?」
ほんの少し寂しそうにしながらユーリはフレンを見た
「…仕方ないね。でも、あまり長いしない方がいいんじゃないかい?」
「…おう、それはわかってるさ」
ふんわりと笑いかけたフレンに、ユーリはほんの少し嬉しそうに顔をほころばせた
「それじゃあナイレン隊長、後のことは任せたからね」
馬に乗りながらアリシアはふっと笑いかける
ガリスタを捕えた翌日、帝都に残っていた彼女の隊が輸送用の馬車を連れてやってきた
「全く…あなたというお方はここでも無茶をして他の隊の隊長殿を困らせるとは…。ご迷惑をおかけしました、ナイレン隊長殿」
馬車を牽いていた金色の長髪の女性…副隊長のシャウラが、申し訳なさそうにナイレンに謝った
「いいっすよ。そんなに気にしないでくださいな。アリシア副騎士団長にはお世話になりましたしね」
困り気味に笑いながらナイレンはシャウラに声をかけた
あのお転婆副騎士団長を支えるのも苦労するだろうなと、彼女にほんの少し憐みの表情を浮かべていた
「ほらナイレン隊長がそう言ってるんだから、気にしないの」
ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべたアリシアにシャウラは大きくため息をついた
「全く…本当にどうしようもないですね…。さあ、帝都に戻りますよ。閣下もお帰りをお待ちです」
「うげ…待たれるような事してないはずなんだけど…」
「しておりますよ。やらなければならない書類、溢れかえっておりますよ?」
シャウラの言葉に、アリシアは顔を顰めた
あからさまに嫌そうな顔には、「帰りたくない」と出ていた
「さ、言い訳は帰り道にでも聞いて差し上げますので、帰りますよ」
馬から降りて逃げようとするアリシアの腕を彼女は掴む
まるでこうなることを予想していたかのように用意された馬車の方へと無理やり引き連れて行った
「うわっ!?シャ、シャウラッ!?は、離せっ!!離せってばぁ!!!!」
ジタバタと暴れる彼女を無視してシャウラは馬車へと彼女を乗せた
パタリと扉を閉めて開けられないようにと外側から鍵を閉めたのがナイレンにも見えた
「…本当に申し訳ありません。こんな副騎士団長で…」
再びため息をついたシャウラの表情はものすごく疲れたものになっていた
「…いや、気にしなくていいっすよ。この数日で大分慣れましたから…俺は」
チラリと後方を見ながらナイレンは言う
彼の後ろでは啞然としたフェドロック隊の隊員がいた
「本当にもう…憧れの的になっているのだと何度も言い聞かせているのですが…。こんなのが副騎士団長なんてって私は今でも思いますよ…。…バベル、アリシア隊長の馬を連れて帰りなさい」
「はっ」
ため息をつきながら指示を出したシャウラにバベルは敬礼すると、アリシアが乗っていた馬の元へと行く
「シャウラ!余計なこと言うなよ!?」
馬車の中からアリシアの声が響く
「わかっていますよ。…では、我々は引き揚げます。後日新たな魔導士を派遣させていただきますので、日程が決まり次第お手紙を出させていただきますね」
彼女はそう言うと馬車の御者席に乗る
「シャウラ副隊長、あなたも中へお入りください。アリシア隊長お一人では逃げ出す可能性しかないですし」
デゼルがそう言ってシャウラを中に入るように促す
「ああ…それもそうですね。ではお願いしますね」
「だから…お前らは私をなんだと思っているんだよ…」
はぁ…っとため息をついたアリシアだが、一番ため息をつきたいのは彼女の部下だろう
「では行きましょう。バベル、先頭をお願いしますね」
シャウラの合図で隊が移動を始める
「フェドロック隊、リベルト隊に敬礼!」
ナイレンの合図で並んでいた彼の隊員が敬礼をした
アリシアは小窓から顔を覗かせてユーリとフレンを見つけると嬉しそうに笑って手を振った
二人は戸惑いながらも手を振り返した
「隊長、新人を困らせないでください」
彼らの姿が見えなくなったところでシャウラはジト目で彼女を見る
「あら、いいじゃない。手を振っただけよ?」
何一つ悪びれる様子もなく彼女は腕を組んでシャウラを見た
「それで、閣下の『お探しの方』はいらっしゃいましたか?」
「いーや、居なかった。…やはり一筋縄ではいかんな」
スラリとした長い足を組みながら彼女は軽くため息をついた
「そうですか…。まあ、そんなに簡単に見つかるのであれば苦労はしないですよね」
「そういうことだな。…全く、あの方も無理を言われる。あの方が四年かかっても見つけられないというのに、この短時間で見つかるわけがないというのに…」
「…文句を言われるのが早いです。せめてもう少し待って下さい」
「いいだろ…聞かれる心配もないのだから」
「そういう問題でもありません。…それよりも、『例の二人』はどうだったのですか?」
「…白だな。あの二人は関係ないようだ」
「…そうですか。まあ、そんな都合のいい話はないですね」
「そういうことだ。…気長に探すしかないな」
「ええ、そうですね。ですが、無理はなさらないでくださいね」
「…あの方がそれを許して下されば、な…」
苦い顔をして笑うアリシアに、シャウラもまた苦笑いで返した
「…さてと…」
パタン…っと音を立てて扉を閉めながらフレンは呟く
後ろを振り向くとユーリの他に、今まで対話を避け続けてきた三体と新しく来た二体の姿もある
ユーリの傍では、何とかコミュニケーションを取ろうと葛藤しているシャドゥとヴォルトの姿があった
他の三体と違い、この二体は普通の会話が出来ない
ヴォルトに関しては、今は二人の
まだ詳しい話を聞いてないがアスカが言うにはそういうことなのだとか
《ようやくお話ができますね》
嬉しそうに両手を合わせてルナが言う
相当話したかったらしく、二人の周りをクルリ、クルリと回っていた
《ルナ…お二人を困らせてはいけません。記憶がないというのに困らせるなんて、それでも
「
聞きなれない単語にユーリが首を傾げた
《そろそろお話すべきですね…あなた方の身に起きた出来事と、記憶をなくされる前のお二人のことを》
今まで聞いた中では一番真剣な声色でアスカが言う
ユーリとフレンは顔を見合わせて頷き合うと、ベットに腰かけた
《何から話すべきでしょうかね…》
《生い立ちから順にお話していくのはどうでしょうか?お二人もその方が状況を呑み込みやすいのではないでしょうか?》
唸り声を上げたアスカにセルシウスが助言した
《うむ…そうすべきか》
ゆっくりと頷くとアスカの隣にルナが立った
《では始めましょう。お二人の昔話を》
そうして二体は話始めた
ーー《《これより語るは、お二人の失われし記憶の断片なり》》ーー
今から十九年前の事です
帝都・ザーフィアスの貴族街にこの年、二つの新しい命が誕生しました
片方は太陽を連想させる綺麗な金髪の男の子
もう片方は夜の闇のような綺麗な漆黒の髪の男の子
片方は光を司る『光の
片方は影を司る『影の
世界を古来より守りし一族の末端でいつかはその役目を担うべくして生まれたのです
お二人は稀なことに、幼少の頃より我ら
我らの姿が見えていたお二人は、若干六歳という若さでその役目を引き継ぐこととなるのです
当然ながら最初我らは反発しました
まだ年端の行かぬ子どもに重い責任を任せるなと
ですが、そんな話は聞き入れてもええませんでした
お二人のご両親は早いうちから力を使うことに慣れさせたかったようなのです
当たり前ですが、六つの子にそんなこと言ったところで出来るはずがありません
それでも延々稽古を続けさせようとしたご両親を止めたの
かの一族は『
『
当然ながらお二人のご両親は反発します
何故、まだ年端の行かぬ子どもなどに…と
その考えですら、彼女は一瞬で消し飛ばしたのです
九つとは思えぬほどの強さと冷静さ、そして大人びた雰囲気を持った子でした
その日より、彼女はお二人と共に過ごされるようになりました
初めの頃は金色の鋭く光る瞳が、決して誰の反論も許さぬと終始ぎらついている日が多くありました
お二人のご両親にでさえ警戒した眼差しで見ていたくらいでした
それほどに彼女はお二人が大切だったのでしょう
初めはピリピリとした威圧を漂わせた彼女にお二人も警戒なさっておられましたが…
それでも、彼女はどこまでもお二人にお優しかったのです
大人のいないところでは、彼女もまた年相応の姿を見せることがあるくらいには、お二人に心を開いていらっしゃったと思います
何処に行くにも、何をするにも、必ずと言っていい程にお三方は同じ時間を過ごしていらっしゃいました
今思えば、お二人にだけに優しく接することで悪だくみを企てている者が近づいてきたとしても、すぐに自分の元へ逃げてくるようにと無意識のうちに覚えさせようとしていたのかもしれませんね…
ルナ、話がそれているぞ
…あら、ごめんなさい
…そうですね、お三方はとても良いご友人であり、また『
『
仲の良さは歴代と比べても非常に良いですね
《…ここまでで、何か思いだされましたか?》
優しいテノールの声が静まった部屋に響く
いつの間にか瞑っていた目を二人は開く
見たことのないはずの、思い出したくても思い出せなかったはずの記憶の一部を見れたような気がしていた
いや、見れたような、ではない
実際に見えたのだ
ようやく思い出せたほんの一部の記憶に、二人はほんのりと心が温まった感覚がする
「…悔しいけど、何となく思い出した気がする」
ポツリとユーリが呟くと、セルシウスが嬉しそうに微笑んだ
「まだまだ、わからないことだらけだけど、ね」
苦笑いしながらフレンが付け加えると、アスカが《やはり…》と小さく呟いた
《…ユノ殿がおらねば、完全に戻すことは不可能かもしれぬ…》
少し悔しそうに表情を変えたアスカに他の
「ユノ…が、なんで…?」
聞いてはいけないのかもしれない
彼らの雰囲気からそう読み取ったユーリだったが、好奇心につい負けてしまった
彼らは顔を見合わせると、ゆっくりと重い口を開く
《…
ルナのまさかの発言に、ユーリもフレンも思考が止まる
何がどうしてそうなったのかが不明だ
ただ、間違いなく言い切れることは、ただ一つ
悪意を持ってやったわけではない
それだけは言い切れる自信が二人にはあった
夢の中にまで出てきた彼女がそんなことするわけがない
藁にでも縋りたい気持ちで二人は願った
どうかせめて、悪意があったわけではないと言って欲しかった
「…どうしてそんな…」
ふり絞った声でフレンが問いかける
《…それは、お二人を守るためだったと、我らは考えております》
先程までの元気はどこへ行ったのか、寂しさの籠った声でルナが言った
《あれは四年前の出来事です》
そうして今度は、セルシウスが話を始めた
四年前、丁度雨の降った日の事でした
お三方のご両親がお城へ呼ばれた後の事です
何か嫌な予感を感じ取ったユノ殿が、お二人を隠し部屋に隠れるように言いました
…そうして少し経った頃です
家の中が非常に騒がしくなりました
我らは彼女の言いつけ通り、お二人の気配を隠す結界を張りました
お二人も最初は大人しく隠れていらっしゃいましたが、やはりと言いますか…
隠れていることが嫌になられたようで、我らの静止を振り切られて外に出てしまわれました
…そこで見た光景は今でもあまり思い出したくはありませんね…
血と死体…
そんなものが至る所に散らばっていました
我らですら何が起こっているのか把握するまでに時間がかかりました
最初にここにはいらっしゃらない火の
数千年前に起こったことと同じだと…
…そうです。物語にもなっている出来事と同じことが起こったのです
今回違ったのは、
そして彼女が先手を打って下さっていました
なのでお二人には被害がなにもありませんでした
…我らがお二人を止められていれば、このような事態にもならなかったのだと今でも思っております
お二人は真っ先にユノ殿を探されに行きました
…探した先で見つかった彼女は酷い怪我をされていました
もちろん、すぐに治癒術をおかけしましたが…
ですがその傍にその騒動の主犯が居たのに気が付けませんでした
彼女がすぐに力を使い遠くへお二人を連れて移動したために姿をよく見ることは出来ませんでしたが…
騎士の服を着ていたと思われます
…逃げた先で、彼女はお二人に記憶を封じる術を掛けられ信頼できる者のいる場所へ預けられました
そして…『四大』と呼ばれる火・水・地・風の
それは、我らがいることで敵にあなた方がそうであることを認知させないためだったのでしょう
まだお二人が引き継いだことを知っていたのが三族だけだったため、お二人の容姿を知る者がいなかったからこそ出来たことですね
《…その後、彼女は何処かに行ってしまわれました》
話し終えたセルシウスの表情は酷く険しいものになっていた
《残した我らに…敵の大元を潰すまで帰っては来られないと…。お二人が望むまで、この事は伏せろと言い残されて…》
アスカの表情も硬くなっている
思い出そうとしていたユーリとフレンは寂しそうに顔を歪めていた
どう頑張ってもそのことだけは思い出せない
「…やっぱ思い出せないな」
「ああ…それ以外なら、ちらほら思い出せて来ているんだけどね…」
《そうですよね…でも、それは仕方ありませんよ。お二人には責任はありません》
セルシウスが二人をそう言って擁護した
《セルシウスの言う通りでございます。…お二人のせいではありません。お二人が望まれるのであれば、我らが彼女を捜しに行きましょう》
アスカがそう言って二人を見つめる
《…ですが、思い出すということは、つらい記憶を思い出すということにも繋がります。…それを踏まえてお考え下さい》
ルナはそう言ってもう一度考えるように促す
「そう…だな…」
小さく呟いたユーリは俯いた
確かにその通りかもしれない
…だが…
「…そうだとしても、思い出したいな」
ポツリと呟いたユーリの言葉に、フレンは力強く頷いた
「そうだな。…僕ら自身のことだ。彼女だけに押し付けるわけにはいかない」
二人の考えは全く同じだった
自分たちの事なのだから、蚊帳の外なのは嫌だったのだ
《そうとなれば我らが》
「いや、オレらも探す」
そう言ってユーリが立ち上がった
「フレン、オレ騎士辞めるわ」
あっけからんとユーリはきっぱり言う
その答えを予想していたらしいフレンは困ったように苦笑いした
「そう言うだろうと思ったよ。…僕は騎士団の中で出来る限り探してみるよ。ついでに、『黒幕』の方もね」
「頼む。…悪いな、面倒な方任せてさ」
「君と僕の仲だろ?気にするなよ」
二人はそう言い合って笑った
何処か吹っ切れたような笑顔にアスカたちはそっと胸を撫でおろした
《
《ジジジ…ガガ》
《おぬしらもついて行くと…?確かにお前たちの管轄はユーリ殿だが…》
アスカは顔を顰めて二体を見る
上手く会話のできない状態のこの二体と一緒で、果たして大丈夫なのだろうかという不安が三体によぎる
「平気だろ。一緒に居りゃ何とか会話できるようになるだろうし」
「だね。君の
「おう。慣れねえとな」
ニヤリと口角を上げてユーリは笑う
《…そうおっしゃられるのであれば止めませんが…》
「それよか、お前らの事教えてくんない?」
ユーリはコテンっと首を傾げて問いかける
《ええ、そうですね。ついに我らのことをお話できるのですね…!》
ぱぁぁぁっと効果音がつきそうなほどの笑顔でルナが答える
《全く…お前という奴は…。…では、我から順に。我が名はアスカ。光の
アスカはペコリとお辞儀した
《わたくしはルナ。月の
クルリとその場で一回転してルナは優しく微笑む
《…私はセルシウス。氷の
深々とセルシウスはお辞儀をする
《我、シャドゥ。闇、
シャドゥはそう言うとゆっくりと頭を下げる
《ジジ…ガガガ……》
《彼はヴォルト。雷の
ヴォルトの言葉を、ルナが代わりに伝えた
「光と月と闇…それと氷と雷か…」
ポツリと呟いてフレンは人差し指と親指で顎を摘まむ
「後は火、水、地、風か…。そいつらも一緒に探すかな」
頭の後ろで手を組んでユーリは窓の外を見ながら呟いた
「その四体のことは君に任せていいかい?」
「任せとけ。お前の
二ッとユーリが笑うと、フレンも微笑んだ
「…さてと…んじゃ、隊長に言わねえとな…」
はぁ…っとため息をつきながらユーリは言う
「ほら、ちゃんと言いに行かないと」
渋るユーリにフレンが釘を刺す
面倒くさそうに苦い顔をす彼に大きくため息をついていた
「…もう少しだけ、残っていてもいいか?」
ほんの少し寂しそうにしながらユーリはフレンを見た
「…仕方ないね。でも、あまり長いしない方がいいんじゃないかい?」
「…おう、それはわかってるさ」
ふんわりと笑いかけたフレンに、ユーリはほんの少し嬉しそうに顔をほころばせた
「それじゃあナイレン隊長、後のことは任せたからね」
馬に乗りながらアリシアはふっと笑いかける
ガリスタを捕えた翌日、帝都に残っていた彼女の隊が輸送用の馬車を連れてやってきた
「全く…あなたというお方はここでも無茶をして他の隊の隊長殿を困らせるとは…。ご迷惑をおかけしました、ナイレン隊長殿」
馬車を牽いていた金色の長髪の女性…副隊長のシャウラが、申し訳なさそうにナイレンに謝った
「いいっすよ。そんなに気にしないでくださいな。アリシア副騎士団長にはお世話になりましたしね」
困り気味に笑いながらナイレンはシャウラに声をかけた
あのお転婆副騎士団長を支えるのも苦労するだろうなと、彼女にほんの少し憐みの表情を浮かべていた
「ほらナイレン隊長がそう言ってるんだから、気にしないの」
ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべたアリシアにシャウラは大きくため息をついた
「全く…本当にどうしようもないですね…。さあ、帝都に戻りますよ。閣下もお帰りをお待ちです」
「うげ…待たれるような事してないはずなんだけど…」
「しておりますよ。やらなければならない書類、溢れかえっておりますよ?」
シャウラの言葉に、アリシアは顔を顰めた
あからさまに嫌そうな顔には、「帰りたくない」と出ていた
「さ、言い訳は帰り道にでも聞いて差し上げますので、帰りますよ」
馬から降りて逃げようとするアリシアの腕を彼女は掴む
まるでこうなることを予想していたかのように用意された馬車の方へと無理やり引き連れて行った
「うわっ!?シャ、シャウラッ!?は、離せっ!!離せってばぁ!!!!」
ジタバタと暴れる彼女を無視してシャウラは馬車へと彼女を乗せた
パタリと扉を閉めて開けられないようにと外側から鍵を閉めたのがナイレンにも見えた
「…本当に申し訳ありません。こんな副騎士団長で…」
再びため息をついたシャウラの表情はものすごく疲れたものになっていた
「…いや、気にしなくていいっすよ。この数日で大分慣れましたから…俺は」
チラリと後方を見ながらナイレンは言う
彼の後ろでは啞然としたフェドロック隊の隊員がいた
「本当にもう…憧れの的になっているのだと何度も言い聞かせているのですが…。こんなのが副騎士団長なんてって私は今でも思いますよ…。…バベル、アリシア隊長の馬を連れて帰りなさい」
「はっ」
ため息をつきながら指示を出したシャウラにバベルは敬礼すると、アリシアが乗っていた馬の元へと行く
「シャウラ!余計なこと言うなよ!?」
馬車の中からアリシアの声が響く
「わかっていますよ。…では、我々は引き揚げます。後日新たな魔導士を派遣させていただきますので、日程が決まり次第お手紙を出させていただきますね」
彼女はそう言うと馬車の御者席に乗る
「シャウラ副隊長、あなたも中へお入りください。アリシア隊長お一人では逃げ出す可能性しかないですし」
デゼルがそう言ってシャウラを中に入るように促す
「ああ…それもそうですね。ではお願いしますね」
「だから…お前らは私をなんだと思っているんだよ…」
はぁ…っとため息をついたアリシアだが、一番ため息をつきたいのは彼女の部下だろう
「では行きましょう。バベル、先頭をお願いしますね」
シャウラの合図で隊が移動を始める
「フェドロック隊、リベルト隊に敬礼!」
ナイレンの合図で並んでいた彼の隊員が敬礼をした
アリシアは小窓から顔を覗かせてユーリとフレンを見つけると嬉しそうに笑って手を振った
二人は戸惑いながらも手を振り返した
「隊長、新人を困らせないでください」
彼らの姿が見えなくなったところでシャウラはジト目で彼女を見る
「あら、いいじゃない。手を振っただけよ?」
何一つ悪びれる様子もなく彼女は腕を組んでシャウラを見た
「それで、閣下の『お探しの方』はいらっしゃいましたか?」
「いーや、居なかった。…やはり一筋縄ではいかんな」
スラリとした長い足を組みながら彼女は軽くため息をついた
「そうですか…。まあ、そんなに簡単に見つかるのであれば苦労はしないですよね」
「そういうことだな。…全く、あの方も無理を言われる。あの方が四年かかっても見つけられないというのに、この短時間で見つかるわけがないというのに…」
「…文句を言われるのが早いです。せめてもう少し待って下さい」
「いいだろ…聞かれる心配もないのだから」
「そういう問題でもありません。…それよりも、『例の二人』はどうだったのですか?」
「…白だな。あの二人は関係ないようだ」
「…そうですか。まあ、そんな都合のいい話はないですね」
「そういうことだ。…気長に探すしかないな」
「ええ、そうですね。ですが、無理はなさらないでくださいね」
「…あの方がそれを許して下されば、な…」
苦い顔をして笑うアリシアに、シャウラもまた苦笑いで返した
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