ひとりごと

・*.°

2026/09/15 22:44
あの席のやつ
暇つぶしにʕ•ᴥ•ʔいや、気晴らしに?

現パロの学パロ


『あの席のやつ、留年したらしい』

 入学してまだ一週間。突然、そんな言葉が耳に入ってきた。

「え、じゃあ先輩ってこと?」
「学年同じなんだから先輩じゃないだろ」
「本人まだ見たこともないしなぁ」
「いや、このままやめるんじゃね? 留年するくらいなら、俺だったらやめる」
「私もそうかもー」

 昼休み。持ってきた弁当を黙々と食ってる後ろで、クラスの陽キャたちが騒いでいた。

 まぁ単純に、くだらないなと思った。
 留年したと言われている後ろの席のやつも。
 噂話が好きなクラスメイトも。
 空いた席を我が物顔で座る別のクラスのクソ野郎も。

 こういうのは大抵、盛り上がりさえすれば話のネタなんて何でもいい。本人がいないなら、尚更。

「なぁ、長髪くん。お前もそう思わないか?」
「……興味ない」
「『興味ない』だって。あーあ、カッコつけちゃって」
「ウケる~」
「…………」

 違った。こいつらは本人がいてもいなくても言いたい放題な類らしい。──あぁ、面倒だ。
 それでも俺は無反応を貫いていれば、そのうち飽きることを知っていた。なぜならほんの数ヶ月前まで自分がその位置にいたからだ。
 幼少期から小学生までガキ大将。中学に入る頃には立派な不良。いつでもカーストのテッペン目指して人生を突っ走っていた。そうしてある日、気付く。

 それは地元のヤンキーと殴り合いの喧嘩をしていた時だった。普段から喧嘩の腕には自信があったのに、その日だけはなぜか調子が悪かった。いや。単純に、相手が自分たちより年上でタッパも力も敵わなかったのだ。連れていた仲間は次々と逃げ出し、俺はひとり取り残された。

 逃げるなんてダサいことするくらいなら、殴られて負けた方がマシだった。前も後ろも取り囲まれ、羽交い締めにされ、案の定、ボコ殴りにされた。
 さすがにもう終わりだなと飛びそうな意識に脱力すると、どこからか、スーツの上からでも分かるくらいにやたらとガタイのいい、ムキムキマッチョな男がやってきた。色黒で髪は緑で、前髪はでこっぱちで……それでいてサングラスをかけていたから、ぱっと見はヤクザだった。その男は俺の腕を引っ張って脇の方に投げたあと、あっという間にたったひとりで集団を伸してしまった。

 男はサングラスを外して俺を一瞥した。
 そのまま何も言わずに去っていき、残された俺は震えていた。
 いや、痺れていた。
 男の格好良さに全身が昂り、湧き立っていた。
 生まれて初めて見た『漢』だった。
 正直、惚れた。

 それから俺は不良グループを抜けてひとりを好むようになった。黒歴史しかない地元から逃げるように、何駅も離れたこの高校を選んだ。未成年だし、仕送りは必要になるし、ひとり暮らしなんてできるのか不安だったけど、頭を下げて叔母名義のアパートを借りた。

 ──俺は孤高の漢になる。

 そう、心に誓ってこの場にいる。
 だからこんなくだらないやつらの話し相手になる気など毛頭ない。
 俺は机の上に開いていた弁当に蓋をした。
 無言で席を立ち、屋上を目指すことにした。

「ほらぁ、あんたがイジるから逃げちゃったじゃーん」
「座れる椅子が増えたんだからいいだろ」
「長髪くん席借りるねぇ」
「…………」

「好きにしろ」なんて言葉も言わない。
 何せ、俺は『孤高な漢』だからな。


 +°


 ──なぜ、屋上を選んだのか。
 それはまぁ……なんとなく、カッコいいと思ったからだ。不良は体育館裏。漢は屋上と、相場は決まっている。なにより、塔屋の日陰は風がそよいで気持ちいい。

「さて……と」

 仕送りが底をつけば死活問題となるため、節約のために作っている弁当を再び広げ、箸を持つ。茶色ばかりで中身に彩りはない。いや、かろうじて赤いウィンナーが一本ある。このウィンナーはいい。安くてうまい。

 料理も家事も、やってみれば意外と楽しいものだった。
 肉も卵も散々焦がし、米は炊飯器で意図せず雑炊を作り、毎日のゴミ出しはダルい。……けれど、それがいい。不慣れなひとつ一つが面白く、ひとりというものがこんなにも自由で、こんなにも気楽なものだと思っていなかった。

 満腹とまではいかないが、腹ごしらえを終え、昼寝でもしようかとその場に寝そべる。見上げた空に、不覚にも俺の息は止まった。

「!!?」
「ん? やっと気付いたか」

 びゅっ、と春の風が吹く。
 塔屋の上から俺を見下ろす、三つ編みを垂らした変な男がいた。
 なびく髪は、晴天を透かすような綺麗な銀髪だった。
 

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