短編(sss)

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想イ、ヒトヒラ
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気持ちいい。

鳥のさえずり
風の香り
木々の揺らぎ

西ブロックの荒れ果てた地で素朴な輝きを見せる全てが愛おしくて、ぼくは時々、この世界にぼんやりと心酔してしまう。

穏やかな日中。
大方は犬洗いの最中に。

「なぁ、イヌカシ。ぼくは幸せだ」
「……は?」
「生きているって、それだけでとても幸せなことだったんだ」
「いきなりなんだよ」
「ぼくは今まで……、ここに来るまで全く知らなかった」
「はぁ」
「ありがとう」
「お……、おう」

とうとつに胸がいっぱいになって、イヌカシに感謝を告げる。

だって仕方ないんだ。
イヌカシの隠れた優しさ。
力河さんの不器用な気遣い。
ネズミの飾らない言葉。

NO.6にいたままでは出会うことのなかった人達のおかげで今、ぼくは生きている。

ねぇ、母さん。
ぼくはどうすればいいだろう。

毎日与えられるこの素敵な時間を。
想いを。
感動を。

どうすれば皆に分け隔てなく返していけるのだろう。

辛いこともあるけれど、それすらも大切に思える心を──…、

「紫苑……。お前さん大丈夫か?」
「なんで?」
「いや。なんとなく。ほっといたらどこか遠くに行きそうな気がした」
「ぼくが?ふふっ、行くわけないよ。ずっと此処にいる」

大好きな友人と
贅沢なぼくの間。

ふわり。

ふわり。

柔らかな風が吹いたと思ったら
切なさにも似た感情が
胸をぎゅっと締めつけた。

END.

(愛しすぎて、きっと心が泣いたんだ)
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