短編(sss)

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子ネズミからのプレゼント
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雨は上がっていた。
カーテン越しに見える空は未だ薄暗い。
ネズミはぼんやりと視線を泳がせ、天井の一点をただただ見つめた。

──このままもう一度目を閉じれば……。


甘い微睡みに、まぶたがとろんと溶かされる。

うとうと

うとうと

視界が歪んでしまう。
夜明けの光があと数ミリで消えようとする間際、囁かな寝息が 耳朶を掠めた。

ハッとしたネズミは慌てて意識を手繰り寄せる。
隣を見れば、無防備な少年の寝顔がこちらを向いていた。


しおん。

紫苑。

花の名前。
それがあんたの名前。

自分と係わってしまったばかりに、これからどのような悲劇に苛まれてしまうのか。

赤の他人である自分のせいで転げ落ちることになった人生。どのように立ち向かっていくのか。

人の心配をしている身ではないけれど、命の恩人である彼だけは、これ以上危険な目にあわせてはいけないと思った。

ネズミの手が少年の髪を撫でる。

──今、できることは一欠片もない。

せめてこれ以上の繋がりを持たずにこの場を離れることが唯一の選択肢であり自分自身の生きる道だ。

──行かなければ。

ネズミは起き上がる。

自分がいなくなった後、眠り子の夢は朝焼けとともに脆くも崩れるだろう。

(その瓦礫の山に押し潰される時、今度はおれがあんたに手を差しのべる。)

約束する。

「再会を必ず。紫苑」

風の音を真似て、ネズミは少年に囁いた。

END.

甘いケーキより 辛い現実。
祝いの言葉より 誓いの言葉。

(なにも持たないおれが、あの日のあんたに送ったもの。)
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