短編(sss)
───────
酔いどれネズミ
───────
コツコツと足音がする。
「しおーん」
ネズミが帰ってきた。扉を乱暴に叩いている。
「ちょっと待って!」
慌てて駆け寄り鍵を開け、扉も開けた。するとネズミは言葉を発する間もなく全身を紫苑に委ねた。紫苑は驚きヨロめいたが、ネズミを抱き止め、体勢を立て直す。
「ネズミ、どうしたんだ!」
いつもと様子が違う。それは名前を呼ばれたときから気付いていた。心配になり顔をのぞき込むと、いつものネズミの香りに混じって微かにアルコールの匂いがした。
「酒を飲んだのか?」
紫苑の問いにネズミは少しだけ頭を動かした。どうやらこれは相当酔っている。とりあえずベッドへ運ぼうと腰に腕を回し、うなだれているネズミを引っ張って歩く。距離は短いのに重いせいで遠く感じる。ベッドにネズミを投げおろし、身体を寝かしつけてやる。
紫苑はずっと曲げていた腰を伸ばし、乱れていた息を整えた。ネズミはゴロンと寝返りを打ち苦しそうにしている。
「ネズミ、聞こえるか?ネズミ」
頬を軽く叩きながら呼びかけるが、ネズミは生返事をするだけだった。
(そうだ、水を飲ませないと……)
踵を返しカラフェからコップに水をそそぎ入れる。水を飲ませるためにネズミを起こそうとするが、紫苑の力では到底動かせなかった。
「起きてよネズミ、早くコレを飲んで」
身体を叩いてみたり揺すってみたりしたのだが、ネズミは相変わらず聞いているのかいないのか適当な返事をするだけだ。
「はぁ、」と息を吐き、紫苑はコップに口をつけた。口の中に水を含む。冷たい。そしてネズミの頭を両手で掴み自分の方へ向かせると、無理矢理口を重ねた。
反射的に少し開いたネズミの口から自らが含んだ水をゆっくりと流し入れていく。ネズミの喉元がコクリと音をさせた。2、3回それを繰り返し、口からこぼれた水を拭ってやると、ネズミはうっすらと目を開けて紫苑を見た。
「……悪かった」
「全くだよ」
両手を腰にあて怒って見せる。
「力河さんと飲んでたの?」
「…まさか。支配人とだよ」
あぁ。と、紫苑は納得した。ネズミの転げているベッドに腰掛ける。
「君がそんなに酔うなんて珍しすぎる」
「確かにな。今なら隙だらけだ」
「よく無事に帰ってこれたね」
「途中までは平気だったんだ。歩いてたら酔いがいきなり回ってきた」
力なく紫苑の手に指を絡める。ネズミは笑った。
「あんたの顔見てホッとしたらなんかどうでも良くなった」
「嬉しいけど僕は疲れる。君は意外と重いから」
「まぁあんたよりはな。……なぁ紫苑」
「何?って、うゎあっ!」
ネズミは紫苑の片腕を引っ張りベッドへ倒れこませた。艶のある白髪が顔にかかる。石鹸の香りが鼻を擽った。そのまま紫苑を抱き枕に目を閉じる。
「もう寝よう」
掠れた声。ネズミはそれ以上何も喋らなかった。スースーと寝息をたて、紫苑を離さない。
まだ眠るつもりなど全くなかった紫苑は逃げだそうともがいてみたのだが意味はなかった。隣で気持ちよさそうな表情をしているネズミの頬を撫でる。
(仕方がない。次の日起きたらたっぷり文句を言ってやろう。)
紫苑は一人で小さく笑うと、ネズミと向かい合わせに深い眠りへと落ちていった。
END.
(君と二人、甘いまどろみの中へ)
酔いどれネズミ
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コツコツと足音がする。
「しおーん」
ネズミが帰ってきた。扉を乱暴に叩いている。
「ちょっと待って!」
慌てて駆け寄り鍵を開け、扉も開けた。するとネズミは言葉を発する間もなく全身を紫苑に委ねた。紫苑は驚きヨロめいたが、ネズミを抱き止め、体勢を立て直す。
「ネズミ、どうしたんだ!」
いつもと様子が違う。それは名前を呼ばれたときから気付いていた。心配になり顔をのぞき込むと、いつものネズミの香りに混じって微かにアルコールの匂いがした。
「酒を飲んだのか?」
紫苑の問いにネズミは少しだけ頭を動かした。どうやらこれは相当酔っている。とりあえずベッドへ運ぼうと腰に腕を回し、うなだれているネズミを引っ張って歩く。距離は短いのに重いせいで遠く感じる。ベッドにネズミを投げおろし、身体を寝かしつけてやる。
紫苑はずっと曲げていた腰を伸ばし、乱れていた息を整えた。ネズミはゴロンと寝返りを打ち苦しそうにしている。
「ネズミ、聞こえるか?ネズミ」
頬を軽く叩きながら呼びかけるが、ネズミは生返事をするだけだった。
(そうだ、水を飲ませないと……)
踵を返しカラフェからコップに水をそそぎ入れる。水を飲ませるためにネズミを起こそうとするが、紫苑の力では到底動かせなかった。
「起きてよネズミ、早くコレを飲んで」
身体を叩いてみたり揺すってみたりしたのだが、ネズミは相変わらず聞いているのかいないのか適当な返事をするだけだ。
「はぁ、」と息を吐き、紫苑はコップに口をつけた。口の中に水を含む。冷たい。そしてネズミの頭を両手で掴み自分の方へ向かせると、無理矢理口を重ねた。
反射的に少し開いたネズミの口から自らが含んだ水をゆっくりと流し入れていく。ネズミの喉元がコクリと音をさせた。2、3回それを繰り返し、口からこぼれた水を拭ってやると、ネズミはうっすらと目を開けて紫苑を見た。
「……悪かった」
「全くだよ」
両手を腰にあて怒って見せる。
「力河さんと飲んでたの?」
「…まさか。支配人とだよ」
あぁ。と、紫苑は納得した。ネズミの転げているベッドに腰掛ける。
「君がそんなに酔うなんて珍しすぎる」
「確かにな。今なら隙だらけだ」
「よく無事に帰ってこれたね」
「途中までは平気だったんだ。歩いてたら酔いがいきなり回ってきた」
力なく紫苑の手に指を絡める。ネズミは笑った。
「あんたの顔見てホッとしたらなんかどうでも良くなった」
「嬉しいけど僕は疲れる。君は意外と重いから」
「まぁあんたよりはな。……なぁ紫苑」
「何?って、うゎあっ!」
ネズミは紫苑の片腕を引っ張りベッドへ倒れこませた。艶のある白髪が顔にかかる。石鹸の香りが鼻を擽った。そのまま紫苑を抱き枕に目を閉じる。
「もう寝よう」
掠れた声。ネズミはそれ以上何も喋らなかった。スースーと寝息をたて、紫苑を離さない。
まだ眠るつもりなど全くなかった紫苑は逃げだそうともがいてみたのだが意味はなかった。隣で気持ちよさそうな表情をしているネズミの頬を撫でる。
(仕方がない。次の日起きたらたっぷり文句を言ってやろう。)
紫苑は一人で小さく笑うと、ネズミと向かい合わせに深い眠りへと落ちていった。
END.
(君と二人、甘いまどろみの中へ)
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