短編(sss)

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あいにく傘は一本しか持ってない
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雨だ。

しかも結構などしゃ降り。

このまま雨に濡れて帰ると確実に風邪をひくだろう。

ここ、イヌカシの所からネズミの所まではそんな遠いわけでもないけれど、あまり濡れたくはないのが正直な気持ちだ。

どうしたものかと悩んでいたら正面の崩れた瓦礫からネズミがひょっこりと顔を出した。

「ネズミ!」
「あぁ。暇だったから迎えに来た」

ネズミは古びた傘をクルクル回してもて遊び、僕の目の前に来ると足を揃えてかしこまるように頭を下げた。傘をつたって雨の滴が地面に落ちる。

「もし陛下がお許し下さるのなら、私めも共にこの傘の下で雨をしのぎたいと存じます。」

滴る水滴は彼を艶めかしく映し出す。

「ふふっ、何言ってるんだ。ありがとう!さぁ帰ろう」
「仰せのままに」

狭い傘の中、ネズミは歩幅を合わせて歩いてくれた。


END.

(あいにく傘は一本しか持ってない)
title by 確かに恋だった
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