短編(sss)

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Let's Cooking!
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(辛っ)

ネズミはスープの入った器から口を離すと、チッと舌打ちして横に並ぶ人間を睨んだ。

「な、なに?ごめん、美味しくなかった?」

睨まれた少年は鋭い視線にたじろぐ。

「紫苑、あんたちゃんと味見したのか?」
「一応……、したんだけど」

バツが悪そうに口ごもる。

紫苑が一人で作った初めてのスープ。いつもはネズミと一緒に作るのだが、たまには夕飯を用意して彼を出迎えたい。「今日は僕が作るから!」と、仕事に出掛けるネズミに意気込みを見せ、調理に挑んだのだ。

しかし、クロノスにいた頃から料理は母親の火藍にまかせっきり。皿洗いなどの手伝いはそこそこしていたが、料理のいろはを彼は知らなかった。ドタバタと時間だけが過ぎていったが、味見だけは調理中何度もしていた。

「味見は必須だ。ただし三度まで」
「なんで?」
「味見しすぎるとだんだん舌がおかしくなって濃いくなるんだ。このスープみたいに」

ズイッと器を紫苑の前に突き出す。紫苑は顎を引いて中を見た。

「知らなかった。ごめん」
「まぁ、初だしな。許してやる。」

仕方ないといった感じでスープを啜る。紫苑もそれを見て自分のスープに口を付けた。

「辛っ!」
「だろ?」
「う、薄めようか…」
「ダメだ。失敗作をその鈍感な舌に覚えさせろ!」
「そんなに怒らなくてもいいじゃないか」
「貴重な食材で毎回失敗されたら困るからな。頼むから次はまともなの作ってくれよ」

ネズミは文句を言いながら空になった器に残りのスープをそそいだ。

「無理して食べない方がいいと思う」

申し訳なさそうに紫苑が呟く。

「なんで?味はともかく、せっかく作ってくれたんだ。残すのはもったいない」

そう、もったいない。
紫苑が自分のために割いた料理の時間。帰ってきて夕飯が用意されてる温かさ。ドアの隙間からもれてきたスープの匂い。

どれもネズミにとって新鮮で胸の奥に熱く感じるモノがあった。無論、そこまで口にする気はないが。

「ネズミ‥!ありがとうっ」

照れ隠しに顔をそむけたネズミに抱きつき喜びをぶつける。

次こそは絶対失敗しない。

紫苑はネズミに感謝しながら心の中で誓った。


END.

(仕上げの味付けは君への想い)
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