森の民さんたちから・*.°

【そらこさん‐君と僕の軌跡(閉鎖)】
*2000hitお祝い。
*『ボンボンなネズミ×一般庶民の紫苑』

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summer vacation.
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「ねねね、ネズミっ!!!僕達来る場所間違ってないかっ!?」
「いいや、間違ってないさ。行くぞ、紫苑。」

ネズミはその場から動こうとしない紫苑の手をとり、建物の中へと入った。二人が今居るのは金と暇をもて余す者達のみが入る事を許される、豪華なリゾートホテル。ネズミがかなりの金持ち息子だと言う事は、随分前から知っていた。

(だけどここまでとは……。)

一般庶民である紫苑にとって、ネズミの行動は理解しがたい事が多い。

例えば、

「じゃあ適当にコレで引いてて。」
「かしこまりました。」

一人数万円はするであろうホテルの利用料金を、確認もせず支払う所とか。しかも取り出したのは、ブラックカード。

「いつもありがとうございます。」
(ぇっ!?いつもっ!?)

紫苑の考えなどお構いなしに手続きが進められ、ものの数秒の出来事だった。

受付からカードを受け取ると、ネズミは再び紫苑の手をとり何処かへと向かう。

「ネズミ!」
「何?」
「いつもって、いつもなのか?」
「何が?」
「ここを利用してるの。」

ネズミはエレベーターの前で止まり、ボタンを押した。そう長く待つ事もなく、上りのエレベーターが下りてくる。

「まぁな。家に居てもつまんないし、ここだと色々あるから退屈しのぎにはなるんだよ。」
「退屈……しのぎ……」

紫苑は気が遠くなりそうだった。数万円を退屈しのぎで使うと言う思考が、どう考えても理解出来ない。

エレベーターの中に入りドアが閉まると、特にボタンを押すこともなくネズミは壁にもたれ掛かる。

「このエレベーターは最上階と直通だから大丈夫。」
「あっ、そうなんだ。」

ボタンを押すべきではないかと迷っていたが、口に出さずともネズミには紫苑の心境が見えていたのかそう答えた。

「ネズミはエスパーみたいだ。」
「あんたが分かりやすいだけさ。」

軽い浮遊感がしたかと思えばドアが開き、目的の階に着いた事を知らせる。

木目調の落ち着いたドアが複数あり、紫苑は何処の部屋なのかとキョロキョロと辺りを見渡した。

「今日はあんたの為に、いい部屋を取っておいた。ちなみにここの階には俺達以外誰もいないから、好きなだけ騒げるぜ。」
「そうなんだ、……ってまさか貸し切りっ!?」
「そうだけど?」

ケロッとした顔で言われ、紫苑は小さく溜め息を付く。

「僕は君に……こんな風にお金を使わせる為に海が見たいって、言ったんじゃない。」
「いいんだよ。俺がやりたいからやってるだけさ。好きでもない相手に、ほいほいと金を使うほど俺も善人じゃない。紫苑……あんただから使ったんだ。」

ここまで言われると、反抗する事が出来なくなってしまう。何か言いたそうな紫苑の頭をネズミはくしゃりと撫で、奥の部屋を目指して歩き出した。

「うわぁ……」

案内されドアを開けると、とてもシンプルな内装の部屋だった。

キングサイズのベットが中央にあり、部屋を囲む壁は硝子で出来ている為180度景色を楽しむ事が出来る。そしてその側に、丸いテーブルとイスがあるだけの至極シンプルな部屋。天井も透けているため、夜になればキラキラと輝く星が見えるに違いない。

「気に入った?」
「うん、とっても。」

にこりと微笑み、紫苑は答えた。するとネズミに何かを投げ渡され、慌ててそれを受け取る。

「これ、何?」
「何って、水着。海に来て海に入らないなんてあり得ないだろ?……しおーん?」

水着を受け取り何も言わない紫苑を不思議におもい近寄って下から顔を覗こうとしたが、渡した水着を押し返されてしまいネズミは首を傾げる。

「あんた、海に来たかったんじゃなかったっけ?」
「うん。来たかった。だけど……僕は眺めるだけで満足なんだ。だからこれは返す。」
「何で?」

何となくネズミは気づいていた。

左頬から見える赤い痣。

それは首の所まで達しているが、紫苑は年中長袖のシャツを身に纏っているためそれ以上は分からない。

しかし真夏である今でも薄手とはいえ長袖のカーディガンを羽織っている所を見ると、きっと赤い痣は体中に巻きつくような形で存在しているのだろう。

ネズミは紫苑の手をとりそのままベットの上に乱暴に投げ飛ばす。そしてすかさず上に跨ると、呆気にとられている紫苑と目が合いネズミはニヤリと笑う。

「ね…ネズミ?」
「あんたが嫌がる事はしたくなかったんだけど、俺はどうだっていいんだよね。あんたが気にしている事なんて。」
「まま、まさかっ!」
「ふふっ。ご名答。」

片手で紫苑の両手を押さえつけ、器用に片手でシャツのボタンを一つずつ外していく。

「ネズミっ、本当にやめてくれ!君だけには……見られたくないっ!」
「やだ。」
「お願いだから。ネズミの言う事ならなんでも聞くから、だからっ」

ネズミは悲痛な声で叫ぶ紫苑に悪いと思いながらも手を動かし続ける。そしてネズミの瞳に映ったのは予想通り、体に巻きつく赤い痣だった。

ネズミが手の力を緩めた途端紫苑は身を翻し、ネズミに背を向ける。

(……やりすぎたか。)

チッと内心で舌打ちをした。そっと、壊れモノを扱うような感覚で優しく髪を撫でネズミは小さく謝罪の言葉を口にする。

「ごめん、紫苑。頼むからこっち向いて。あんたの嫌がる事はもう二度とやらないから。」
「………本当、に?」
「あぁ、約束する。」

そして菫色の瞳は再びネズミを映した。

「じゃあ、これでも着てろよ。」

そう言って渡されたのは薄手のパーカー。

「それなら大丈夫だろう?」
「うん。ありがとう、ネズミ。」

手早く二人は着替え、エレベーターで一階に下りビーチに向かった。浜辺には等間隔でビーチパラソル付きのテーブルとイスが設けられており、空いている所に二人は座る。

「そう言えば、昼ご飯まだだったよな?」
「すっかり忘れてたよ。……君が無理矢理服脱がすから。」
「まぁまぁ、そんなに怒るなって。それに、なかなか艶っぽくてどんな女よりそそるけど?」

紫苑は瞬時に顔を赤く染め俯く。そんな仕草に顔を綻ばせながら、ビーチに隣接しているバイキングレストランに行くため席を立った。

ネズミが席を立ち少しした頃。

椅子に座って海を鑑賞していた紫苑の足元に、ビーチボールが転がってきた。それと同時に、一人の女性が姿を現す。

「ごめんなさい。当たったりとかしなかった?」
「いえ、大丈夫です。はい、どうぞ。」

満面の笑みでボールを渡す。その笑みに心を貫かれた女性は顔を赤面させ、ぎこちない動きでボールを受け取った。あまりにも彼女の帰りが遅かったのか、一緒に来ていたのであろう数人の女性が紫苑の元へと集まってくる。

「ちょっとぉ、遅いじゃ……な、い」
「さっさと続き……」

それぞれの女性が口を開けば徐々に固まる。その理由が分からない紫苑は頭上に疑問符を浮かべ、首を傾げている。

「あ、あの……」

---ぎゅむっ

何か声をかけようとしたその時だった。

初めに声を掛けてきた女性に思いっきり抱きしめられ、紫苑は急すぎる出来事に対応出来ずカチンと体が固まったまま動かない。

いや、動かせないのだ。大きく膨らんだ胸に顔を埋める様な体制になってしまい、掴む所がない腕はバタついている。

「何この可愛い子っ!家に連れて帰りたいぐらいだわっ」
「ちょっと!貴方だけ堪能するなんてずるいわよ!私にも抱かせてよぉ~」
「私も私も!」

紫苑の腕を引っ張り次は別の女性の胸の中にダイブする。

「やだぁ~、この子の髪すっごくふわふわぁ~。ねぇねぇ、貴方どこの会社の息子さんなの?」
「よかったら今度、私の家のパーティに来ない?」
「ちょっと、抜け駆けなんて卑怯よ!」

あれよあれよと、紫苑の意思を無視して話が進められる。こんな風に大勢の女性に囲まれた事がない為戸惑っていると、今度は後ろに引かれふわりと漂う香りに振り向かずとも誰なのかが分かった。

「悪いけど、こいつは俺のなんだ。」

予想どおり誰もが見惚れてしまう程の、美しい笑みを浮かべたネズミがいた。

「それにこいつは俺に夢中みたいだから、今日の所は諦めてくれる?」

悩殺力抜群の笑みで言われれば、誰もが従うしかなくなる。女性達はボールを手にして慌ただしくその場を立ち去り、ある程度遠ざかった所でネズミは紫苑から手を離しおもいっきり両頬を引っ張った。

「いっ、いひゃい。いひゃい。」
「あんた……一体何してたんだよ。」

引っ張った頬を離してみると予想通り赤く腫れ、紫苑は両頬を擦りながらネズミをキッと睨みつける。

「僕の顔が伸びるままになるのかと思った。」
「おい、会話になってないぞ。俺は何をしてたのかって聞いてるんだけど。」

いつになくネズミが苛立ちを露わにしていた。さっきまで頬を引っ張られた怒りで頭がいっぱいだったが、ネズミの苛立ちに紫苑は背筋が凍りついてしまい一気に気持ちが萎れる。

「ボールが転がってきたからそれを拾っただけだよ。僕は特に何もやってない。」
「いいや、あんたは天然だから知らないだろうけど自分で思っている以上に、あんたは人を落とさせるのが上手い。」
「……ネズミ。君は時々言っている意味が分からなくなる。もっと分かるように言ってくれないか?」

ぷくっと頬を膨らませ不満そうに顔を歪める紫苑に、ネズミはくくっと小さく笑い椅子に座るよう促す。きっと何を言っても紫苑は、恋沙汰の話には頭が回らないだろう。

「天然って罪だよなって話だよ。」
「???????」




「ごちそうさまっ。ネズミ、ここの料理は本当に美味しかった!」
「だろうな。ここの料理は普通に生活してて、味わえるレベルじゃない。」
「それじゃあ僕がお皿を下げるよ。だからネズミはここで待ってて。」
「いや、俺も……」

ネズミの制止も聞かず、紫苑は皿を片手に建物の中へと姿を消す。

「全く。あの天然お坊ちゃんは。自分がどれだけ魅力的なのかぜんぜん分かってない。」

苦笑を浮かべネズミも急いで後を追った。紫苑の姿を捉えると、案の定紫苑は見知らぬ男達に囲まれていた。

「ほら、言わんこっちゃない。」

ネズミはわざとらしくため息をつき、容赦なく華麗な飛び蹴りをお見舞いするのだった。



「……ごめん。」
「何が?」

ビーチに戻る途中、紫苑が小さくポツリと呟いた。

謝られる理由が特に見当たらないネズミは振り返り、首を傾げる。

「だって……僕、君を困らせてばかりだ。」

俯いているため表情は良く分からないが、きっと瞳いっぱいに涙を浮かべているのだろう。

ネズミは歩みを止め紫苑の顎に手を添え上を向かせると、くすくすと笑い頭をくしゃりと撫でた。

「困らす相手があんたなら、悪い気はしないさ。」
「ネズミ……」

そしてそのままネズミは、紫苑の唇に触れるだけのキスをする。

いくらここが金持ちだけが集まるビーチだと言っても、やはりそれなりに人はいるのだから恥ずかしい事この上ない。

「まっ、これで虫は寄りつかないだろ。」
「虫?」

やはり紫苑に、この手の話は通じない。それが可笑しくてネズミはくすくすと笑い、紫苑の手を握りなおし再び歩みだす。


(なぁ、紫苑。)

(何?ネズミ。)

(大好き。)

(!!!!!!)


END.
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