PSYCHOBREAK2
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『おぉおぉ!!これはぁあ!!!』
「んはぁん!?」
今日も今日とて陰気なこの市庁舎にななしの馬鹿でかい声が鳴り響いた。
隣でワシャワシャしていたオブスキュラはそれはそれはでかい声に驚いた様子である。
引き出しの前で固まったななしは、目がらんらんと輝いており今の今まで見た事のない表情。とても楽しそうだ。
彼が楽しければオブスキュラも楽しい。
その楽しいを共有できることがオブスキュラも嬉しいようで。何かを手に取り楽しげに笑っているななしに擦り寄り、「ねぇ、なにをしているの?」とばかりにスプリングを伸ばす。
ぬっと肩から現れたオブスキュラに多少驚きつつななしは手に少し余るほどの箱を掲げて見せた。
『これ!見て、オブスキュラ!』
「はぁん?」
『ポッキー!!!』
「?」
『久々に見たよ~。まさか引き出しから出てくるとは思わなかった』
ななしが寝ている部屋のベッドサイドにおかれた引き出しから出てきたらしい。
ポッキーの箱にはEnjoy Pocky Dayと書かれている。
久々に人間らしい物に出会えてかなりテンションが高いななし。
圏外の携帯が11月11日を示しており、これは神がくれたプレゼントなのだと舞い上がっているようだ。
ポッキーの日、この甘いポッキーで誰かと楽しめ、ということに違いないと。
そうと決まればポッキーをしっかり抱えななしは『行こう!オブスキュラ』と彼女の手をとる。目指すは恋人ステファノがいる、彼の自室だ。
どうせカメラの手入れかナイフの手入れをしているに違いない。
恋人のくせに恋人の自分よりカメラやナイフ、アートなのだから困る。しかしこのラッキーアイテムポッキーがあればきっと恋人らしいことが出来よう。
ニコニコ、嬉しそうにはにかむななしにオブスキュラは「競走しよう!」とばかりに足を踏み鳴らした。オブスキュラもなんだかたのしそうである。
『走る?走っちゃう?』
「んはぁん!」
『おー!よーい、スタート!!』
「んはぁん!!」
これ以上ない程にテンションが高いななしとオブスキュラはスタートの掛け声と共に走り出した。
さほど遠くはないステファノの部屋を目指して。
真っ直ぐの廊下を、バタバタ走る。まるで子供のようだ。
三本足の大きなオブスキュラはやはり早く、前からななしを見るように走っている。
この廊下直線勝負に一度も勝てたことはないななしだが、今の彼は楽しければそれでいいため問題はない。
早くステファノにあって、早くポッキーの日を楽しみたい。
『オブスキュラ、早すぎ!』
「んはぁん!」
『ははは!追いつかない!』
いつもは慎重で、割と警戒心があるななし。
しかしこのありえない世界の中で見知ったポッキーが手元にある、それだけで彼をお気楽お馬鹿にまで昇華させた。
そんな絶賛お気楽お馬鹿なななしは全く気づかない。もちろんオブスキュラも。
走る先に転がる花瓶があることに。
誰か冷静な人が一人いれば「そこに花瓶があるよ」、そう知らせてくれたに違いないし、ななしが盛大に転ぶこともなかったであろう。
『うわ!?へぶぅっ!』
「んはぁん!?」
見事、花瓶を踏み足ひねったななしは大転倒。ビッターンと顔面から地面にスライドのごとく転んでしまったのだ。
もちろん持っていたポッキーも地面に叩きつけられた。
急にいなくなったななしにオブスキュラもパニックだ。
「騒がしいね」
転び静かになったななしの前に現れたステファノ。どうやらオブスキュラが騒がしく鳴く声につられ出てきたようだ。
部屋から出てきた彼はカメラを片手に地面にこんにちはするななしを見ると盛大に吹き出した。
「まさか、転んだの?鼻が真っ赤じゃないか…可笑しくて仕方ないよ」
『……』
「ほら、起きて。フフッ」
『笑った?』
「笑っていないよ」
『…』
嘘だ、未だにくつくつ喉の奥で笑うステファノ。
いたたまれないやら、恥ずかしいやらでななしは頬をふくらませ、じとりとステファノを見上げる。
たいして弛むこともなく、寝転がるななしの写真を撮ってからか細い手を引き上げる。どうやら彼は顎もうったらしい。アゴは真っ赤になっていた。
ジンジンすると顎をさするななしは先程のテンションがすべて飛んで消えたような沈み具合である。
『痛い、痛い』
「擦りむいているからね」
『まじか…いてて』
「で、どうして急いでいたのかな?」
『あ!ポッキー!!』
「ポッキー?」
そうだ、このポッキーでステファノと恋人らしいことをする予定だったずだ。
ハッとしたななしは歪に凹んだ箱のポッキーを拾う。
すると、カタカタと嫌な音が聞こえたのだ。
…もしかしなくとも袋の中でポッキーが折れているのではないか?
『う、嘘だろ』
「君、一人で百面相をしているのに気づいてるのかな?」
『ステファノさん!』
「なに」
『ちょっと手、出して!』
「は?」
『早く!』
「騒々しいなぁ」
はやくしてくれたまえよ、とステファノは渋々右手を差し出した。
急いでポッキーを解体し差し出されている右手にざっと中身をぶちまける。
「は?」と一瞬で眉を潜め嫌な顔をするステファノ。それもそうだ、予告無しにバキバキのポッキーをぶちまけられたのだから。
「君…何をしてくれるんだ。僕が君の臓物をぶちまけるよ?」
『まじか…バキバキじゃんかぁ!』
「人の話を聞け、不愉快だよ」
『え、あ、ごめん!今食べるから』
「食べるからって、僕の手の上に置かないでくれ。汚い」
『汚くない!チョコレートじゃん!』
「汚いよ、こんな知的さの欠如した甘ったるい菓子…どうにかしくれ」
『美味しいのにっ』
「僕の手袋が汚れたらどうしてくれるんだい?」
『アンタいつも俺のチンコそれで触るくせに…』
「その俗悪な物言いしかできない口は閉じてくれ…全く」
ポッキーを手持ち無沙汰にしたまま、ステファノは呆れたように首を振った。
チョコレートが溶ける前にと急いでポッキーを口に詰め込んでいくななし。
まるでハムスターだ。
ステファノは「全く、野蛮で困る」と言いつつ写真をパシャリ。
撮るな!盗撮!と騒ぎながらも頬にポッキーを詰め込むななしは間抜けで仕方ない。
『甘ったるっ、』
「残ってるよ」
『はいはい、俺の手にのせて』
「初めからそうすればよかっただろう」
『うっさい。あーあ、ポッキーバキバキ、萎えた』
「喋り方から馬鹿丸出しとは…君は本当に…わかりやすく言うと…馬鹿だね!」
『馬鹿馬鹿言うなっ』
「馬鹿だよ、」
『うわっ。危なっ!』
「色気の欠けらも無い」
ステファノのナイフがななしの顎を持ち上げた。もちろ切れないように切っ先ではなくブレードでだ。
ひんやりした感触と、擦りむいた顎の微かな痛みに身震いしたななしは不安そうにステファノを見上げる。
「何も言わなければ可愛らしいのに、勿体ない」と嫌味ったらしく言われた。
言い返してやりたいが動けばナイフの餌食になりそうなのでくっとこらえ、ステファノを尚も見続ければ彼は嬉しそうにはにかんだ後優しくキスをする。
『んっ、はぁ』
「君年はいくつになったんだった?」
『22?』
「22歳か、僕と一回りは違うけど君は立派な大人で間違いないね?」
『大人だよ』
「だったら、口端にチョコレートを付けるのはやめたまえ」
『つ、ついてないっ、ん!』
「ついてるよ、」
『す、ステファノさんっ』
未だにナイフが顎を支えており、抵抗できずにきゅっと目を閉じる。
するとチョコレートが付いているとステファノはその肉厚な舌でななしの口端を舐めたのだ。
キスとはまた違った感触。口の端に当たる柔らかくぬらついた舌。どきりと胸を弾ませたななしは口を真一文字に結ぶと、さらに強く目を閉じた。
「力を抜いて」
『だって…』
恥ずかしい、
そう言葉にする前にまた口端を舐められた。
いつのまにかナイフは顎から離されており、先程より2人の距離は近くなっていた。
見つめ合いながら沢山舐められ、ななしの顔は真っ赤。
あぁ、キスしたい。キスしたい。
口端じゃなくて口にして。
もどかしさに苛まれながら、未だに口端を舐めるステファノの舌に恐る恐るななしの舌が伸びる。
すぐ側にあったステファノの舌に触れれば、熱く、厭らしく、気持ちがよかった。
触発されたようにようやく唇をくっつけたステファノの首に抱きつき、激しくキスをする。
手からパラパラとポッキーが地面に転がるが、そんなことが気にならないくらいにキスに没頭した。
遠くでオブスキュラは「あぁ、もったいないわ」とポッキーをみつめる。
しかし、キスに夢中な2人が気づくはずもなく。
『んっ、んっ、はぁ、ステファノさん、キス、もっとしてっ』
「…甘ったるい」
『嫌いじゃないくせに』
「まぁ、その通りだね」
すっかり潤った唇同士をまたくっつけ、まるで会話をするかのごとくキスを交わす。
周りの音は元々ほとんどなかったが、より無音になって。もう目の前のステファノしか見えないし、聞こえないのだ。
唇や耳、全ての神経がステファノを感じるように研ぎ澄まされていく。
キスでこんなにも気持ちいいのはきっと、ステファノさんだから。
唇の凹凸の感触を楽しむように動く舌。
その舌を追う舌。
もっとキスをして。ちゃんと唇にと強請るように、柔らかいステファノの唇を甘噛みしニヤリと目で笑うななし。
挑発するような笑にステファノもニヤリと笑えば、ななしを軽々と抱き上げた。
『んっ、はぁ。気持ちいい』
「キスだけでトロトロだ」
『うん、ステファノさんのキス気持ちいいし』
「可愛らしいことを言わないでくれ」
『可愛くない、』
「それは僕が決めることだよ」
やって来たベッドに優しく押し倒されたななし。恍惚の表情を浮かべながらステファノのスカーフを引く。
『ポッキーゲームよりも万倍いいことしよう?ステファノさん』
「もとよりあれだけ折れてたら出来ないだろうからね」
『確かに』
何故ベッドサイドの引き出しに入っていたかは未だに謎だが、ななしとステファノの愛を深めるためにポッキーが必要不可欠だったのは間違いない。
ポッキーに感謝しつつななしはステファノから与えられる甘い快感に身を委ねたのだった。
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(ハッピーポッキーデイ!)
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