PSYCHOBREAK2
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*原作丸無視
*みんな仲良し
*ステファノさん×ななしくん+セバスチャン
嫌いなこと、何もせずにぼんやりする時間だ。いわゆる暇なことが嫌いなのだ。
きっと綺麗な青空や、夕焼け、キラキラ輝く星空があれば何かが変わっていたに違いない。ぼんやりしていてもそれらがあるだけで気が紛れただろう。
しかしこの世界で見える空は雨雲、雨、雷。気が遠くなるほど暗澹とした曇天。
たまに光が見えたとて、すぐにかき消され雷をまとい雨を降らせた。
まるでこの不気味でありえない世界の中の誰かの心境が空模様に現れているような。
あぁ、きっとその人はいつだって悲しくて苦しいんだろうな。そして涙を流している。
そう思えるほどに天気は悪い。
そんな雨ばかりの空をかれこれ3日ほど(体感的には)眺めている彼は何度目かもわからないため息を吐き出すと、そばで座っていたオブスキュラを撫でた。
彼はこの真っ暗でまるで鳥籠のような世界に不運にもさ迷い込んでしまった。名をななしと言う。
この何ともつまらない世界にようやく慣れてきたのは、傍らにステファノと言う男がそばにいた為。
確かに、見目はとても麗しかった。上品で、紳士である。しかし頭がおかしい、人の死が美しいというすこし…いや、かなり異常な男。
この化け物オブスキュラを女性の骨と血と肉で作ったと言う狂人。
それでもななしの拠り所は彼一人なのだ。例え異常な男でも、この孤独を消す唯一なのだ。
吊り橋効果とて、ステファノ・ヴァレンティーニを、好きになってしまったには変わりなく。暇でも彼が傍にいて、すこし異常な話をするだけでななしは満足だった。
できればいつだって傍にいて孤独を埋めていてもらいたい、それがななしの願い。
ささやかだとおもうけれど、ななしは決してステファノにその思いを告げなかった。
『……ぁー、暇…』
思いを告げなかった…。
そう、告ぐことができなかったせいで今日もまたこの広く寂れた市庁舎に一人ぼっち。オブスキュラはいるが彼女との会話は無理だ。口がないのだから仕方ないが。
最近ステファノはすっかり"リリー"と"セバスチャン"にお熱なのだ。ななしが知るのは2人の名前だけだが、その2人をステファノは執念に追ったり迎撃したり…。とにかく恋人であるななしの傍らに留まることなく、カメラとナイフ片手にあちらにふらふら、こちらにふらふら。
たまに帰ってきては「あぁ、またひどい顔をしているね。眠れないのかい?」と声をかけ、ベッドサイドで頭を撫でてくれるのだが、目が覚めた頃にはもう姿がない。それの繰り返し、一昨日も、昨日も、今日だってそうなるだろう。明日も、明後日もだ。
恋人とは名ばかり、たまにキスをしセックスをする。甘い愛の囁きなど幻想だ。
胸がきゅっと締め付けられるのも、好きな人を考えホクホクすることも一切ない。
それどころかステファノを考えれば考えるほど、胸が痛み息ができなくなるくらい今のななしは苦しんでいた。
窓の外をぼんやりながめ、目頭が熱くなるのを誤魔化すように歯を食いしばる。
そうすると、心配そうにオブスキュラが擦り寄る。
ななしも、答えるようにオブスキュラを撫でる。永遠飽きるほどそのやり取りが続いていた。
『オブスキュラ…』
「んはぁん」
『せめてアンタが喋れたらな。まだましだったかな』
「…んはぁん!」
『はは、ごめん。しゅんとしないで。なんとなく言いたいことはわかるし!まぁ、あれだね、俺らの飼い主さんは何してんのかねぇ。あー、頭痛い。頭痛い』
「んはぁ…!」
『オブスキュラって本気でひんやりしてんね!なんか気持ちいいわ』
「んはぁん!」
『うん、ありがとう』
なんとなく、オブスキュラもつまらなさそうだ。
オブスキュラにとってもななしにとってもステファノは大好きで大切な人。
こうも、放置されては寂しいのだ。
しゅんと鎌首をもたげたオブスキュラにぴったりひっつきななしはゆっくり目を閉じる。
『アンタと離れるのは寂しいけどさこんな思いするんなら元いた世界に帰りたいな。ステファノさんとは、恋人になれたけど』
「んはぁん。ん!」
『もう、俺のそばにいてくれるのオブスキュラだけだ…愛してる!好き、俺ゲイだけど』
「んはぁん!?」
『今更びっくりすんなよ〜。俺一応ステファノさんの恋人だからね?』
「んはっ!」
『ん〜、ん…もう、いいや。寝よう。ステファノさん来る前に寝よう。今顔みたら泣く絶対』
虚しさやら寂しさで胸が押しつぶされそうだ。
オブスキュラとの一方的な会話を終えて、ななしは深くベッドに潜り込むとぎゅっと目を瞑りまるで胎児のように丸まった。
ギリギリ下唇をかみながら膝を抱える。
なんと惨めな姿だろうか。
今夜の夢見はすこぶる悪いな、ななしがそう思った瞬間。
バァアンとまるで蹴破るように寝室の扉が開かれた。
『うわっ!?』
「んはぁん!!」
「またお前か!……は?」
『え?』
蹴破るようではやく、正真正銘蹴破って入ってきた男。銃をこちらに向けながら「人間か?」と問うてきた。
ステファノ以外の人間に出会ったことが初めてであったななしはぽかんと口を開け、男をまじまじと見つめた。
無精髭に、乱れた髪。血や泥で汚れとてもみすぼらしい。しかしたくましい体に精悍な顔つきであった。
しかし、この市庁舎にななしやステファノ以外の人間がいたのか。疑問に思いななしは聞くのだ。
『あの…どこから来たの?』
「はぁ?外からだが?」
『え、外って、市庁舎の外?』
「正確にはユニオンから脊髄を通って市庁舎に来た」
『そ、外…っ、だって、外は危ないんだろ!?どうやって…』
「倒して、掻い潜ってここまで来たんだ」
市庁舎の外。
今まで夢見ていた外からきた、と言うのか。
ななしはベッドがら飛び降り男の肩をつかみ、詰め寄った。
『俺、俺もっ!俺も外に行きたい!!』
「っ、お、落ち着け!」
ステファノといられれば、それで良かったのだ。
ただそれだけだったのに、唯一であったステファノは今はもうななしの傍にとどまらない。
ならば、きっとななしの心は廃れ色をなくすだろう。
それくらいならこのたくましい男と、死ぬかもしれないが外に出ていきたい。
今よりはずっとずっとましな気がしたのだ。
毎日同じことを繰り返すと言うことは、ステファノの手により殺され作品にされた彼らと一緒だ。
抜け出せない時間に閉じ込められ、この苦しみが永遠に続く。
それより、戦ってかいくぐっていろんなものを見てまわる方が有意義だ。
例え死と隣り合わせだろうと。
それほどななしは苦しみ苛まれていたのだ。
「…あぁ、じゃぁ、一緒に行くか?」
『うん!行きたい!』
「そうか、守りきれるかは分からんが生きたいなら付いてこい」
『必死に付いていく!!』
「へぇ、付いていく。君は僕の傍から離れるんだ?へぇ」
青い残像が、ななしの目の端に移りこんだ。
あぁ、ステファノだ。そう感じるや否やななしの前に立ちふさがったのは口を真一文字にしたステファノ。額に浮かぶ青筋、揺れる前髪から覗く右目。
初めて見る表情にななしは冷や汗が流れるのを感じた。
『ぁ、ステファノさんっ…っ、』
「ねぇ、」
『ぅっ』
革手袋をした手がななしの頬をがっしりとつかみ、強引に上を向かせた。
痛みに顔がゆがむがお構い無しに詰め寄るステファノ。
笑のない表情がなによりも恐ろしくななしはうわ言のように『ごめんなさい』を繰り返した。
「許さないよ。僕以外に懐くなんて…君は僕のアートだ。逃げるなんて許さない」
『っ、だって、』
「だってもなにもない!」
「おい、お前!その子を離さないか!」
「煩いなぁ…いちいち頭にくる。喚かないでくれ。君に関係ない」
「関係なくはない。その子は俺と行きたいと言ったんだ」
「……あぁ、もう…」
あからさまに怒りが見て取れるステファノにビクビクしながらななしはつばを飲み込む。
ナイフを取り出しそれを回す手から目をそらしてななしは息を吸った。
頬をつかむ手を無理やり引き剥がして、目の前のステファノの胸を思い切り突き飛ばすと離れるように部屋の隅に走った。
突き飛ばされたステファノはありえないとつぶやく。信じられないと額を抑えたかと思えばつかつかとななしに歩み寄る。
『来るな!!俺は行きたいんだ!』
「ななし…」
『さ、触るなよ』
あぁ、駄目だ。
ぽたぽた、ぽたぽた。
たくさん我慢した。泣くのはみっともない。男だろ。強くならなきゃ。泣きそうなほど言い聞かせて飲み込んできた。
それでももう限界だ。
ななしの大きな瞳から次々と大粒の涙が溢れ、頬をつたいぽたぽたと足元を濡らした。
下唇をかんでみるも、効果はない。
決壊したダムのように流れて落ちて、これでもかと泣くななし。
終いには鼻水までたらし、泣くななしにステファノはギョッとし慌てたように彼を抱きしめてやる。
『うわぁ、あぁ!うっ、うわぁあ、』
「まったく、何がなんだっていうんだ…っ、泣き止みたまえ、ななし、」
『ばかぁあ!っ、嫌いだっ!うわぁ、あ、ひっ、う、うっ!』
「セバスチャン、どうしたらいいかな?」
「知るか!」
取り敢えず背を撫でてやろう、ステファノは頭を抱えななしの背を優しく優しく摩る。
それでも嗚咽はやまず、腕の中で暴れるななしにステファノは困ったように眉を下げた。
これほど取り乱すななしはきっと初めてだ。
暴れるななしを押さえつけるように抱きしめ、根気よく背を撫で続ければようやく大人しくなった。
ずずっと鼻を啜るななしは男、セバスチャンを見つめる。
なんだ?と首を傾げるセバスチャン。
「どうした?何か言いたいのか?」
『…っ、ぃで…っ!』
「ゆっくりでいいさ、」
「君、ななしに近いよ、離れてくれ」
「ななしか、ななし。言ってくれ」
「よほど死にたいらしいね、セバスチャン」
『セバスチャン…?』
「そうだ、俺がセバスチャンだ」
『やだっ…』
「何が嫌なんだ?」
『俺のっ、俺のだからっ。とならないで、俺のステファノさんなんだよっ』
「は?」
ステファノの肩に顔をうずめ、俺のだからとギュッと力強く抱きつくななし。
セバスチャンはぽかんと2人を見つめた。
何を言っているのか理解できないと言った様子である。
ステファノは抱きつかれ『やだ、やだ』を連呼するななしに悶え、口元をおさえていた。
狼狽えるステファノもかなりレアであるが、ななしはそれに気づくことなく顔をうずめ抱きついている。
そうしてようやく気づくのだ。
この子に、無理をさせていたに違いないと。
最近コア(とついでにセバスチャン)を追いかけ回し、ななしを蔑ろにしオブスキュラに押し付けていた。
それが悲しく、心苦しかったのか。
ななしがこれ程なく理由がわかるとステファノは「君、意外と寂しがり屋なんだね」と茶化した。
『う。うるさいっ、ばかっ。俺よりセバスチャンの尻追っかけろよ』
「何だい、その下品な言い方は。僕は原始人には一切興味無いよ」
「誰が原始人だ!」
「君が、一人煢然と過ごしていたのに気が付かなかった。僕が粗漏だったせいだね。すまなかった」
『許さないっ、許さないっ、』
「どうしたら許してくれる?」
『ちょっとでもいいから、気にして。俺にはアンタしかいないんだから』
「そうだね、そうだ。善処するよ。僕だけのななし…」
「…………」
ようやく顔を上げたななしの痛々しい目尻に優しくキスをする。
擽ったそうに目を瞑りすりよる、小動物のようなななしの頭を抱えてステファノはキスを何度も送った。
答えるように唇を尖らせキスをせがむななしに、愛らしさを感じつつ何度だってキスをしようと体をより密着させる。
ちゅっちゅする2人、セバスチャンは呆れたように見つめた。
「おい、」
「邪魔しないでくれ。セバスチャン。流石に僭上の振る舞いだよ」
「なにが、僭上の振る舞いだ!見せられる俺のみにもなれ」
「じゃぁ、2度と見えないようにしてあげようか?」
『ぁっ、』
熱烈なキスをしていたステファノはななしから身を離すとナイフを構えセバスチャンに向き直る。ここでけりをつけるか、と挑発するセバスチャンに賛成だとステファノはナイフを回した。
そんなステファノの背後でななしはこれでもかと膨れている。
まるで餌を沢山詰め込んだリスのようだ。
『駄目ったら』
控えめに、しかし力強く。
ステファノの袖が引かれた。
『俺のだから、駄目』
「…っ」
よろめき、振り返るステファノ。
上目遣いで『構わないと次はまじ脱走するから』と拗ねるななし。
堪らず彼を抱きしめる。
幸せそうにうふふと笑うななしに、この子を甘やかすのは楽しいと再確認した。
どうじに、こんなに寂しがり屋を一人にしたかと自責の念にも苛まれ。
しかしだからこそ、もう一人にはしないと心の底から思えた。
「はぁ、君はこんなに愛らしかったかな?」
『やっと気づいたの?ステファノさん』
「いや、気付かないふりをしてたんだよ。多分ね」
『酷すぎない?』
「冗談だよ」
『はは、意地悪だけど…傍にいてくれたらそれでいいや』
「君の悪いくせだ。煽らないでくれ」
『煽ってない、ただそう感じたから』
「無意識は何よりも罪深いね」
『無意識でも、煽ってもないけど。ステファノさんの気が引けるなら俺がんがん煽る』
「身が持たないだろう。君との年齢の差を考えてくれ」
『ステファノさんまだ若いよ。かっこいいし』
「当たり前だ。僕は芸術的だからね」
『あ、はい。ソウデスネ』
ハートだ。
目には見えないはずのハートが飛び交っている。
少なくともセバスチャンにはそう見えた。
ようはよく知らない間に痴話喧嘩に巻き込まれていたという訳だ。
いや、どういう訳だ。
痛くなる頭を抑えつつ、ベッドに倒れ込んだふたりを尻目にセバスチャンは部屋からひっそり出ていく。
こちとら娘を死にものぐるいで探しているのにいちゃいちゃしやがって。
今度はセバスチャンが下唇を噛み締める。
「つぅか!リリーはどうした!?」
「…よほど空気が読めないんだね、原始人を通り越して単細胞生物以下だよ、君は」
ベッドで既に裸でもつれ合う2人には悪いが娘が優先だ。いちゃいちゃなら自分がいった後にしてくれ。
しかしステファノにそれは通じない。
再びしゅんとしなだれたななしにステファノの怒りは頂点だ。
「死にたがりには僕からプレゼントをあげよう。有難く受け取ってくれ」
窓の外に浮かぶ大きな目玉。部屋の窓からセバスチャンの横を照らし出せば地面から奇声を発し四つん這いのスポーンが2体姿を現した。大きな口を開き俊敏な動きでセバスチャンに飛びかかる。
「うお!?」
「君にはお似合いだ。オブスキュラも行っておいで」
「いらん!」
「んはぁん!!」
「来るな!」
「んはぁんん!!!」
「なんだって言うんだぁああ!!」
叫び声はとおざかっていく。スポーン、それからオブスキュラに追われセバスチャンが走っていったのだ。
開きっぱなしの扉を占め、今度こそベッドで拗ねるななしを押し倒す。
「ようやく君と交われる」
『…だね、』
「君は言葉がないと不安がりそうだから一応言っておくよ、愛してるよ。ななし」
『うん、不安だから毎日言って』
「仕方が無いね、言ってあげるよ」
パァン、パァンと遠くで銃声が聞こえる。
程よいBGMを耳にしながら、ステファノとななしは深く繋がりあった。
カーテンの隙間からこちらを照らす、月明かり。久々に見るあたたかで優しい光。
はてさて、誰かさんは今穏やかな心境でいられているらしい。
願わくば、この穏やかな心境が続きますように。
明日、晴れますように。
泣くのを我慢していたら
(胸がいたんで死にそうです)