PSYCHOBREAK2
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「いいね、そうだよ。その顔!ほら、次はこちらに目線を向けて!何してるんだい。ほら、早く!!」
『……チッ』
パシャ、パシャ、パシャ。
うざったいくらい部屋いっぱいに広がるシャッター音と、ステファノの笑い声。
布団を首まで被りうるさすぎるステファノに心から舌打ちをしたのはこの異様な空間に来て、異様な男と不覚にも恋人になってしまったななしだ。
早く早くとウキウキワクワクしているステファノの方から顔を背けるように布団を頭までかぶり直すななしは『うるさい!』と愚痴った。
「顔を隠してしまったら撮れないじゃないか」
『撮るな!』
「たかが風邪だろう?」
『たかがじゃない!めちゃくちゃしんどいんだよ!パシャパシャうるさいからよそに行って。ウザイ!』
「まさか、君にあっちに行けなんて言われる日が来るなんて…アートのくせに生意気だよ、ななし」
『い、たぁ、ステファノさんっ』
ななしから布団を引き剥がし、頬をがしりと掴むステファノ。ニコニコしているのに目が笑っていないステファノにななしは恐怖で身震いする。
風邪で気持ちまで弱っているななしはジワリ、ジワリと目尻に涙を貯め、しまいにはほろりとこぼれ落ちていった。
「おや、泣いてしまったね。またいい顔になったよななし」
『っ、ステファノさんなんて、知らないから!どいて!』
「なにをそんなにぷりぷりと怒っているんだい?全く理解できないよ」
『…分かんないんじゃないでしょ…分かろうとしないだけだ…俺だってステファノさんに理解されたくない。知らない、寝る』
「ななし…君は美しい。僕が見た中で一番のアートだよ。まさに生きる芸術だ。でも…僕に忠実じゃないアートなんてつまらない。いつだって僕の作品にしてあげるからね。分かった?」
『っ、う。うっ、ステファノさんなんか嫌いだ!』
「うるさいな…アートならアートらしく黙っててよ。そんなに喚く舌なんて不必要だね」
売り言葉に買い言葉。
ななしの涙と反抗的な言葉に、温厚(ななしに対して)なステファノはナイフを取り出すとそれを彼に突きつける。
今この瞬間にでもステファノの作品に出来ただろう。
脳天にナイフを突き刺し写真を撮れば、最高の作品になったに違いない。
しかしそうしなかったのはななしを守るようにオブスキュラがぬっと前に出てきたからだ。
「はぁ…興醒めだよ」
『うっ、っう、…ひっ、うぅ』
「……」
ナイフをしまうとステファノはななしから離れた。すかさず再び布団を被り隠れたななし。
彼のすすり泣く声にオブスキュラはあたふたしながらこんもり盛り上がる布団を優しく撫でた。
その光景があまりにつまらなくてステファノはゆっくり踵を返すと、時空を歪ませその姿を消したのだった。
『うっ、うぇ、家に帰りたい…う、う…』
ステファノが現れたのはユニオンシティ。
銃声が聞こえる見渡しのいい場所だ。
ロストと化したユニオンシティの市民と戦うのはステファノを執念に追うセバスチャン。
「やぁ、セバスチャン」
「ステファノ!?」
「少し話をしないかい?暇だろ?」
「暇じゃない!リリーを返せ」
「リリーの話じゃないんだよ…はぁ、ロストが邪魔だな…はやく一掃してくれ」
「なんなんだよ!」
ゆったり車に寄りかかったステファノにセバスチャンは青筋を浮かべた。文句を言ってやりたいが今はロストを片付けなくてば自分の命が危ない。
見ていないで手伝えと愚痴りながらもロストの攻撃を交わし倒していく。
かれこれ10分ほど、ようやく見渡せる場所にいたロストは倒れ辺りは静かになった頃ステファノはゆったりセバスチャンに近寄った。
「やぁ」
「やぁ、じゃない!」
「おっと、危ない。今はふざけに来た訳じゃないよ」
「お前はいつだってふざけてるしイカレてるだろ!要件はなんだ」
「酷いなぁ…あ、そうそう。風邪をひいた人に何をしてあげるべき?」
「はぁ!?」
「二度は言わないよ。どうすべきが君の意見を聞かせてほしいんだ」
「…人間らしい質問で驚く…」
「全く、どうせ寝てるだけなら写真くらい撮ったっていいのに、ななしはとても偏狭だ。苛立たしい」
ステファノのいう一言一言にセバスチャンは呆れたように首を降り、しまいには「頭がおかしいんじゃないか…あぁ、元からだったな」とつぶやいた。
「何か言ったかい?」と手近の斧をセバスチャンに振りかざすステファノ。
相当イライラしているのか、いつも余裕な笑みを浮かべているステファノの口は苛立たしげに歪んでいた。
はぁ、と再三ため息をついたセバスチャンは言うのだ。
「風邪で寝込んでるんだろう。写真なんか撮るな。馬鹿か」
大正論だ。
「気持ちが弱くなるんだよ、風邪ってのは…。黙ってそばにいてやれないのか」
「それだけ?」
「なんだ、あったかいチキンスープ作れんのか?」
「作れなくったって問題ないだろ」
「威張るな!とにかく、そういう時はなんにも言わずそばにいてやれよ。余計なことは言うなよ?風邪ってのは辛いんだよ、あんたが知ってるかどうかは知らんがな」
「…参考にさせてもらうよ」
「写真は!!…撮るなよ?」
「…まぁ、参考にするよ」
ステファノは再び時空を歪ませると、セバスチャンを残しその場を後にした。
「なんなんだよ、」とこぼしたセバスチャンだがもちろん応えは帰ってこない。
誰が風邪かは分からないが、ステファノに看病されるなんて…とんでもなく可哀想である。
セバスチャンの内心は穏やかでないがリリーを探すベくユニオンシティを再び散策し始めた。
さて、セバスチャンの助言(?)をたよりにななしの眠るベッドルームに帰ってきたステファノ。
まだオブスキュラはポンポンしているがななしのすすり泣く声が聞こえないのを見ると彼は寝ているのだろう。
今のステファノにとっては好都合である。
「君は美しいよ。その瞳は実に深淵で黒い…靉靆たる空を見ているようだ。肌は対比的でまるで…降り積もる雪のように白く脆弱な君によく似合ってる。声も見合った美しい音色だ。まさに生きる芸術なのだけどねぇ…拙いし身侭で、凡俗的。口は悪いし品はない。低俗とはまさに君だよ…、そして"ありふれた"存在でもある」
寝ているななしには聞こえていないのをいいことにステファノは言いたい放題だ。
ベッドにゆっくり腰を下ろすと、布団を少しめくる。オブスキュラの大きな腕を抱きながら汗を額に浮かばせるななしは涙を流しながら寝ていた。
息が荒いし顔は赤い、とても寝苦しそう。
そっと布団をめくり顔を出してやると、白い肌はより白くまるで蝋人形のようである。
優しく額をなでてやれば、その手が冷たかったか擦り寄るように顔の向きを変えたななし。
目尻を撫でながら額に小さくキスを繰り返すステファノの穏やかな顔にオブスキュラは少し安心したようだった。
「そう"ありふれて"いるんだよ。君は…だけど、どうだろう…生かしてそばに起きたいアートは君だけなんだよ。拙いし、身侭で、凡俗的な"ななし"と言うアートだけなんだ」
額に唇を引っつけたままゆっくり喋ってみせる。今この瞬間だって作品にできた。でもしない、きっとどんなに感情的になったってななしを作品にする日は来ない。
ななしは生きてこそ、いや…もしかすればななしの生き様が至高の芸術なのかもしれない。
だから彼を知る唯一でありたいし、愛でていたい。ななしが死ぬまで。
ステファノの想いはななしが思うよりずっとずっと強いのだ。
『んっ…』
「おや…起きてしまった?」
『ステ、ファノ…さん?』
「まだいい。寝ていなさい」
『ん…』
額がくすぐったいばかりにゆったり目を開いたななし。どうやら起きてしまったらしい。
未だに額に唇を押し当て続けるステファノを見上げたななしは『なにしてるのさ?』と彼の肩をゆったり押し返す。
しかし案外とステファノは動かず、ななしは諦めるように手をベッドに投げ出した。
『頭…痛い…』
「撫でてあげようか」
『寒い…』
「抱きしめるよ」
『…寂しい』
「あぁ、傍にいてやろう…ずっとね」
『ステファノさん…』
力なくステファノの首に腕を回せば、額にくっついていた唇はななしの唇に重なった。
角度を変えて何度も何度も、愛を確かめ合うようにキスを繰り返した。
『好きぃっ、…ステファノさん…だから悲しいことは言わないで』
「悲しい?」
『作品にするとか生意気とか…』
「善処するよ。だから君も嫌いだなんて言わないでね。ひどく傷ついたよ」
『うん、嘘だ。嫌いだなんて…大好き』
「あはは、知っているよ。君のことはなんでも」
『じゃぁ、俺今何思ってる?』
「ステファノさんとキスしたい、でしょ?」
『違うっ』
「違わないよ。ほら言ってご覧?ステファノさんとキスしたいって、だんだんそう思えてくるだろう?」
『ぁっ…ぅ、ステファノさん…』
「なんだい?」
『キスしたい』
「よくできました」
『んぅ』
再び唇を引っ付け合えば先程なんか目じゃないくらいディープなキスがステファノからななしへ贈られた。
舌をみだらに絡ませ唾液を交換するように深くキスし合えば、お互い気持ちいいと愛してる、が体を充満した。
これが、愛、幸せなのだ。
『んっ、は…ステファノさん、熱上がった気がする』
「どうすれば熱は下がるかな?」
『汗かけば自然と下がるよ…布団かぶって寝てたら治ると思う』
「汗…じゃぁ、効率よく汗をかこう」
『ちょっ、今エッチできないよ…死ねる自信がある』
「死なせないよ。優しく優しくしてあげるから」
『…ぇ、ぁ、待った』
「待ったは聞かないよ、とにかく早く熱を下げよう。君も楽になりたいだろ?」
『そぅだけどさ、』
服を取り払っていくステファノにモダモダしながらななしは抵抗したが、あっという間にすっぽんぽん。
傍らふたりを観察していたオブスキュラは興奮したようにシャッターを切る。
こらこら、お茶目さんだねと満更でもないようなステファノ。反してななしは恥ずかしさといたたまれなさに顔を隠している。
ステファノがジャケットを脱ぎスカーフを外し、ワイシャツを緩めた。
あぁ、後には引けない。
「ゆっくり優しく、愛してあげようか」
腰が砕けそうな声にななしは抗えず、ゆっくり、ゆっくりと首を縦に降ったのだった。
もちろん風邪が治ることは無かったが。
煙みたいに甘やかしてあげる
(鳴くほど嬉しいんだね)