PSYCHOBREAK2
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(セオドアの能力など原作とは異なる表現があります)
「貴方を私が救って差し上げましょう」
その声はまるで直接脳に響いてくるような振動とともに聞こえた。
耳から聞こえてくる音とは違い、内側から湧き出てくるような音はなんだか気持ちが悪い。
頭をふり幻聴だと言いきかせるも「私の声を受け入れなさい」と再び脳が揺れる。
あまりの不快感にベッドから飛び降りたななしは頭を抑えながらステファノを呼ぶべく扉に手をかけた。
ドアノブを捻りドアを押し開いて見知った廊下に出た、はずが目の前に広がるのは薄暗い空間。
おかしな現象は度々起きていたし、STEMという場所はそういうものなのだとステファノから聞かされていたななしは取り乱すことはせずゆっくり深呼吸をする。
見知らぬ場所に来てしまったのは変わらない事実、帰る術は無知なななしには全くわからないし、騒いでも現状は打破出来ないであろう。
こうなった時はステファノが自身を見つけてくれるまでその場を動かないようにするのが最善だ。
いつしかステファノもそれが最善だといっていた記憶を辿り、落ち着けと息を吐くななしは空間を見渡す。
少し先にポツリと祭壇のようなものが建てられていた。二つ並んだ蝋燭は火をともし、風もないのに揺れこの空間を彩っていた。
蝋燭の間には見たこともないマークの置物が置かれている。十字架と似ているような似ていないような。
見たこともないマークに首をかしげていれば、蝋燭の火が揺れななしを驚かせた。
蝋燭の向こう側、何も無い暗闇の空間からぬっと手が見え狼狽えるななしは1歩後ろへさがる。
ゆっくりやってくる手をギリギリで避けながら『誰だよ!?』と叫ぶななしに対しそれはくすくすと笑った。
「ようやくお会い出来ましたね、ななしさん」
『この声…』
聞き覚えのある声。脳内に直接語りかけてきた声とよく似ている。
暫くしてようやく、全貌がはっきりわかった。
ぬっと現れた手の持ち主、神父のような服を着穏やかそうな笑みを浮かべている。しかしそんな穏やかそうな笑みに反し左頬には痛々しい傷。
ひきつった皮膚にななしは恐怖を覚え、また1歩背後へ下がる。
しかし男もまた1歩前に出てくる。
妙な緊張感と恐怖感に苛まれ変な汗が流れた。
人であるし恐怖を感じるのは些か間違っている(この世界で人とはかなり珍しい。むしろ安心すべきなのだ)のだがこの男には近寄ってはいけない。
ななしの体が全面的に男を拒絶しているらしい。
信じてはいけないと。
『あ、アンタは?』
「私はセオドア・ウォレス。人は神父と呼びます」
『…神父?教会の』
「そうです。私は貴方をみつけこの手で救いたいと思いました。神が私に味方してくれたおかげで貴方とこうしてお会いすることもできました!ですから貴方を救わせてください」
『救うって…何から?』
「ステファノです」
『は?…ステファノさんから?』
淡々と言ってのけたセオドア。
顎に生えているヒゲを擦りながら、「よくご存知でしょう?」とセオドアが優しくななしに微笑みかけた。
よく知るも何もそのステファノとななしは恋人同士である。救うなどと言われてもあまりにピンと来ない。昔でこそ死を覚悟していたが今はとてもいい関係であるのだ。
それを、救うというのは一体どういう事なのであろうか。
「…そう、ですか。既に貴方はステファノの毒牙に侵されているようですね」
『毒牙ってなんだよ、俺は別に何もっ!』
「本当ですか?」
『な、なんだよっ』
「貴方は"生かされている"にすぎないんですよ。ステファノによって、彼の興味が他に移れば貴方は殺されるでしょう。それがステファノのそばにいるという意味なのです。だから私は貴方を救いたい。私と来てください。貴方に導き教えましょう、正しい"生"を」
『生かされているなんて…昔はそうだったかもしないけど…今は違う!』
「いいえ、違いませんよ。私にはわかります。ステファノは貴方を間違いなく殺します。そして数ある作品の一つになるでしょう…」
『ならない!俺はステファノさんを信じてる』
まっすぐ見つめて言うななしにセオドアは眉を訝しげに潜める。
これは心からの言葉だ。何よりも誰よりも彼を信じていると、嘘偽りのない純粋な思いだ。
「おやおや…貴方の心はとても不安で揺れているのに。なかなか強情ですね。では、先の未来。貴方に見せてあげましょう。」
『先の、未来?』
「来るべき未来、さぁ目を閉じて。ステファノを想うのです。ゆっくりと」
『な、なんだよっ』
「さぁ、早く」
『アンタのいうことなんか聞かない。俺はステファノさんを信じてるんだ。すぐ助けに来てくれる!』
「ふむ…(これはまたお強い精神力で)。まぁ、良いでしょう」
セオドアが口巧みに誘導しているように思えた。
ななしはなるべく耳に入れぬように拒絶を示せばセオドアは簡単にそれを辞め、再び顎をさすり始める。
一体何をしたいのか、検討もつかずに不安げに目を伏せるななし。早くステファノに来て欲しい、このわけのわからない空間から抜け出したい。
逸る気持ちをなんとか沈めつつ、未だにこちらを見ているセオドアから距離をとる。
「では、もうやめましょう」
静かだった空間にセオドアの声が響いた。ビクリと肩を揺らしたななしは咄嗟にセオドアへ顔を向ければ、彼はもう穏やかな笑は浮かべておらず鋭い眼光でこちらをみているのだ。
その一瞬でまるで金縛りかけられたように体に力が入らなくなる。
セオドアが1歩、また1歩こちらにやってくるのに足が動かず逃げ出すことも出来ない。
「取り繕うのはやめにして本題に入りましょうか。私は貴方が邪魔なんです。理由は簡単、私の計画が貴方という人間がいては成り立たないからです。私の声を受け入れていれば殺さず連れていけたのですが、貴方は拒否した。声が通じないならば選択肢は一つ。貴方も予想がつくでしょう?」
『うるさい、関係ないだろ』
言い返せたら幾分か状況は変わっていただろうか。金縛り状態である今声すら出せず、近寄るセオドアを見つめるしかない。
強がって軽口をたたければ少しの余裕が出来たか、咄嗟に走って逃げられたか。ステファノを必死に呼ぶことができたか。
しかしどれもままならない。
何が最善なのか何もわからずななしの頭は混乱と恐怖が充満していくばかりだ。
ふるふる震えるななしは力が入らないまま静かに涙を流した。
「泣かずとも、これから無になれますよ。あぁ、無になるからこそ泣くのですか…。貴方に罪はないのです、貴方に現を抜かすステファノに罪があるのです。私は彼にコアを連れてくるよう命令したのですが…彼は探すどころか貴方と楽しい毎日を過ごしている。これでは計画は完成しない…わかるでしょう?…貴方に神のお導きがあることを祈っていますよ」
この意味のわからない世界、意味がわからないなりになんとか生きてきたがそれも今日で終わりのようだ。
セオドアが懐からとりだした小さなナイフ。キラリと光るそれが振り下ろされるさまがスローモーションで見えた。
死ぬという事実を飲み込んだ時、こんなにも冷静になれるのか。
痛くないといい、すぐに死ねたらいい、取り留めもなくそう思う。
しかし悔いがあるとするなら
『ステファノさんっ』
イカれた世界。死と隣り合わせだったこの世界でなんとも不本意でみつけた恋人のこと。
まだまだ二人でやりたいこともあったし、いろんなものを見て幸せを噛み締めたかったな。
切っ先が差し迫る。
目をきゅっと閉じ来るべき痛みに歯を食いしばった。
『……ん、ん(痛くない…)』
スローモーションにしてもなかなかに遅い。
閉じていた瞳をゆったりななしは開いた。
しかし差し迫る切っ先もセオドアの顔も見えはしない。目の前に見えるのはよく知る背中。
大きく、しかししなやかで。いつだって助けれくれた背中。
『ぁ、ステファノさん…』
「君には、後で話があるからね。早く僕の後ろの扉から戻れ」
どうやら既のところでステファノがセオドアとななしの間に立ちふさがっているようだ。
セオドアの切っ先をステファノの少し大きなナイフで受け止めている。
「貴方が直々に来るとは思いませんでしたよ。最早貴方の領域ではないのに、態態力を酷使してここまで来るだなんて…」
「関係ないだろう…あまり僕のアートに手は出さないでくれ…」
「得策ではありませんよステファノ。今すぐにでも貴方を…貴方のアートを殺せるんですから」
「忌々しいっ」
領域とはなんであろうか。ななしは二人の会話を聞いていたがさっぱりだ。
しかし危険を冒してまで自分を助けてくれたのはよく分かった。
荒い呼吸を繰り返すステファノの手を引っつかみななしは先程言われた扉を開き、勢いよく飛び込んだ。手を引かれたステファノもまた扉をくぐる形になる。
「…逃げましたか…。ふぅ…焦らずともまだ手立てはありますからね。私の計画は誰にもとめられはしない」
暗闇の空間。ポツリと取り残されたセオドア。顔を歪め腹立たしそうに呟いた後まるで煙のように消えていった。すると暗闇の空間もまるで溶けていくように姿を変え、ななしらが住む市庁舎の廊下へと変わっていた。
「貴方を私が救って差し上げましょう」
その声はまるで直接脳に響いてくるような振動とともに聞こえた。
耳から聞こえてくる音とは違い、内側から湧き出てくるような音はなんだか気持ちが悪い。
頭をふり幻聴だと言いきかせるも「私の声を受け入れなさい」と再び脳が揺れる。
あまりの不快感にベッドから飛び降りたななしは頭を抑えながらステファノを呼ぶべく扉に手をかけた。
ドアノブを捻りドアを押し開いて見知った廊下に出た、はずが目の前に広がるのは薄暗い空間。
おかしな現象は度々起きていたし、STEMという場所はそういうものなのだとステファノから聞かされていたななしは取り乱すことはせずゆっくり深呼吸をする。
見知らぬ場所に来てしまったのは変わらない事実、帰る術は無知なななしには全くわからないし、騒いでも現状は打破出来ないであろう。
こうなった時はステファノが自身を見つけてくれるまでその場を動かないようにするのが最善だ。
いつしかステファノもそれが最善だといっていた記憶を辿り、落ち着けと息を吐くななしは空間を見渡す。
少し先にポツリと祭壇のようなものが建てられていた。二つ並んだ蝋燭は火をともし、風もないのに揺れこの空間を彩っていた。
蝋燭の間には見たこともないマークの置物が置かれている。十字架と似ているような似ていないような。
見たこともないマークに首をかしげていれば、蝋燭の火が揺れななしを驚かせた。
蝋燭の向こう側、何も無い暗闇の空間からぬっと手が見え狼狽えるななしは1歩後ろへさがる。
ゆっくりやってくる手をギリギリで避けながら『誰だよ!?』と叫ぶななしに対しそれはくすくすと笑った。
「ようやくお会い出来ましたね、ななしさん」
『この声…』
聞き覚えのある声。脳内に直接語りかけてきた声とよく似ている。
暫くしてようやく、全貌がはっきりわかった。
ぬっと現れた手の持ち主、神父のような服を着穏やかそうな笑みを浮かべている。しかしそんな穏やかそうな笑みに反し左頬には痛々しい傷。
ひきつった皮膚にななしは恐怖を覚え、また1歩背後へ下がる。
しかし男もまた1歩前に出てくる。
妙な緊張感と恐怖感に苛まれ変な汗が流れた。
人であるし恐怖を感じるのは些か間違っている(この世界で人とはかなり珍しい。むしろ安心すべきなのだ)のだがこの男には近寄ってはいけない。
ななしの体が全面的に男を拒絶しているらしい。
信じてはいけないと。
『あ、アンタは?』
「私はセオドア・ウォレス。人は神父と呼びます」
『…神父?教会の』
「そうです。私は貴方をみつけこの手で救いたいと思いました。神が私に味方してくれたおかげで貴方とこうしてお会いすることもできました!ですから貴方を救わせてください」
『救うって…何から?』
「ステファノです」
『は?…ステファノさんから?』
淡々と言ってのけたセオドア。
顎に生えているヒゲを擦りながら、「よくご存知でしょう?」とセオドアが優しくななしに微笑みかけた。
よく知るも何もそのステファノとななしは恋人同士である。救うなどと言われてもあまりにピンと来ない。昔でこそ死を覚悟していたが今はとてもいい関係であるのだ。
それを、救うというのは一体どういう事なのであろうか。
「…そう、ですか。既に貴方はステファノの毒牙に侵されているようですね」
『毒牙ってなんだよ、俺は別に何もっ!』
「本当ですか?」
『な、なんだよっ』
「貴方は"生かされている"にすぎないんですよ。ステファノによって、彼の興味が他に移れば貴方は殺されるでしょう。それがステファノのそばにいるという意味なのです。だから私は貴方を救いたい。私と来てください。貴方に導き教えましょう、正しい"生"を」
『生かされているなんて…昔はそうだったかもしないけど…今は違う!』
「いいえ、違いませんよ。私にはわかります。ステファノは貴方を間違いなく殺します。そして数ある作品の一つになるでしょう…」
『ならない!俺はステファノさんを信じてる』
まっすぐ見つめて言うななしにセオドアは眉を訝しげに潜める。
これは心からの言葉だ。何よりも誰よりも彼を信じていると、嘘偽りのない純粋な思いだ。
「おやおや…貴方の心はとても不安で揺れているのに。なかなか強情ですね。では、先の未来。貴方に見せてあげましょう。」
『先の、未来?』
「来るべき未来、さぁ目を閉じて。ステファノを想うのです。ゆっくりと」
『な、なんだよっ』
「さぁ、早く」
『アンタのいうことなんか聞かない。俺はステファノさんを信じてるんだ。すぐ助けに来てくれる!』
「ふむ…(これはまたお強い精神力で)。まぁ、良いでしょう」
セオドアが口巧みに誘導しているように思えた。
ななしはなるべく耳に入れぬように拒絶を示せばセオドアは簡単にそれを辞め、再び顎をさすり始める。
一体何をしたいのか、検討もつかずに不安げに目を伏せるななし。早くステファノに来て欲しい、このわけのわからない空間から抜け出したい。
逸る気持ちをなんとか沈めつつ、未だにこちらを見ているセオドアから距離をとる。
「では、もうやめましょう」
静かだった空間にセオドアの声が響いた。ビクリと肩を揺らしたななしは咄嗟にセオドアへ顔を向ければ、彼はもう穏やかな笑は浮かべておらず鋭い眼光でこちらをみているのだ。
その一瞬でまるで金縛りかけられたように体に力が入らなくなる。
セオドアが1歩、また1歩こちらにやってくるのに足が動かず逃げ出すことも出来ない。
「取り繕うのはやめにして本題に入りましょうか。私は貴方が邪魔なんです。理由は簡単、私の計画が貴方という人間がいては成り立たないからです。私の声を受け入れていれば殺さず連れていけたのですが、貴方は拒否した。声が通じないならば選択肢は一つ。貴方も予想がつくでしょう?」
『うるさい、関係ないだろ』
言い返せたら幾分か状況は変わっていただろうか。金縛り状態である今声すら出せず、近寄るセオドアを見つめるしかない。
強がって軽口をたたければ少しの余裕が出来たか、咄嗟に走って逃げられたか。ステファノを必死に呼ぶことができたか。
しかしどれもままならない。
何が最善なのか何もわからずななしの頭は混乱と恐怖が充満していくばかりだ。
ふるふる震えるななしは力が入らないまま静かに涙を流した。
「泣かずとも、これから無になれますよ。あぁ、無になるからこそ泣くのですか…。貴方に罪はないのです、貴方に現を抜かすステファノに罪があるのです。私は彼にコアを連れてくるよう命令したのですが…彼は探すどころか貴方と楽しい毎日を過ごしている。これでは計画は完成しない…わかるでしょう?…貴方に神のお導きがあることを祈っていますよ」
この意味のわからない世界、意味がわからないなりになんとか生きてきたがそれも今日で終わりのようだ。
セオドアが懐からとりだした小さなナイフ。キラリと光るそれが振り下ろされるさまがスローモーションで見えた。
死ぬという事実を飲み込んだ時、こんなにも冷静になれるのか。
痛くないといい、すぐに死ねたらいい、取り留めもなくそう思う。
しかし悔いがあるとするなら
『ステファノさんっ』
イカれた世界。死と隣り合わせだったこの世界でなんとも不本意でみつけた恋人のこと。
まだまだ二人でやりたいこともあったし、いろんなものを見て幸せを噛み締めたかったな。
切っ先が差し迫る。
目をきゅっと閉じ来るべき痛みに歯を食いしばった。
『……ん、ん(痛くない…)』
スローモーションにしてもなかなかに遅い。
閉じていた瞳をゆったりななしは開いた。
しかし差し迫る切っ先もセオドアの顔も見えはしない。目の前に見えるのはよく知る背中。
大きく、しかししなやかで。いつだって助けれくれた背中。
『ぁ、ステファノさん…』
「君には、後で話があるからね。早く僕の後ろの扉から戻れ」
どうやら既のところでステファノがセオドアとななしの間に立ちふさがっているようだ。
セオドアの切っ先をステファノの少し大きなナイフで受け止めている。
「貴方が直々に来るとは思いませんでしたよ。最早貴方の領域ではないのに、態態力を酷使してここまで来るだなんて…」
「関係ないだろう…あまり僕のアートに手は出さないでくれ…」
「得策ではありませんよステファノ。今すぐにでも貴方を…貴方のアートを殺せるんですから」
「忌々しいっ」
領域とはなんであろうか。ななしは二人の会話を聞いていたがさっぱりだ。
しかし危険を冒してまで自分を助けてくれたのはよく分かった。
荒い呼吸を繰り返すステファノの手を引っつかみななしは先程言われた扉を開き、勢いよく飛び込んだ。手を引かれたステファノもまた扉をくぐる形になる。
「…逃げましたか…。ふぅ…焦らずともまだ手立てはありますからね。私の計画は誰にもとめられはしない」
暗闇の空間。ポツリと取り残されたセオドア。顔を歪め腹立たしそうに呟いた後まるで煙のように消えていった。すると暗闇の空間もまるで溶けていくように姿を変え、ななしらが住む市庁舎の廊下へと変わっていた。