短編 男主
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(次元と付き合ってます/年下右主/瞬間記憶能力持ち/)
今日はほどほどに疲れた。
不二子と二人で狙った獲物。見事奪取かと思いきや現れたのはルパン一味。
どうやら獲物が被ったらしい。
ななしとしては育ての親であるクリスに盗んできた獲物を1目見せることが出来ればそれ以外はどうだって良かった。
計画は完璧だったが今回はルパン達の方が一枚上手であっさりと獲物を盗まれてしまった。
しかしいつもの如くルパンを誘惑し不二子が獲物を横取り、颯爽と車で逃げるという結果に終わった。
寒空の中、赤のオープンカーで街を疾風の如くと駆ける不二子の隣、助手席には散々振り回され疲れ果てているななしが乗っている。
また不二子に加担したな!?と次元に怒鳴られる未来しか見えないと深ーいため息を着くななし。
不二子はそんなななしを気にした様子もなく、今日横取りした赤く大きな宝石にこれまた赤いルージュがきらめく唇でキスを送った。
「んーまっ。本当に綺麗」
『…』
「あら、ご機嫌ななめ?」
『…いや、いつもの事だからなんにも思ってないけどさぁ、でもでも、…はぁ、次元怒ってるだろうなぁ』
「こんなことで怒る男なんて碌なもんじゃないわ。女の裏切りはアクセサリー。そんなことも許せないなんて笑っちゃう」
『1回や2回じゃないだろうが』
「何回だって許してくれなきゃ、ね?」
『不二子はよくても俺はやなの。次元に怒られるくらいなら死んだ方がマシ』
「このさいななしも次元なんてやめちゃいなさいよ。あたしがもっとかっこよくてダンディでオジサマな男の人紹介してあげる」
『俺の好みは次元大介。他は興味なしなの』
「次元のどこがいい訳?」
『はぁ?次元は全部いいじゃん。顔よし声よし性格よし!最強じゃん』
「本気?」
『え?本気だけど…』
ありえないわ、とジト目を向けられたななし。
そんな風に言うがルパンも大概だぞと不二子に言ってやりたくなる。
あんな軽口男よりも余程次元の方が男気があってかっこいい。
言わない代わりに不二子のジト目を逸らすように外に視線を向けた。
さしてきにした様子もなく不二子はくすくす笑うと赤のオープンカーを路肩に寄せた。
「趣味悪いななし、今日はここまでよ。これからあたしデートなの」
『はぁ、ルパン泣くよ?』
「ふふ、どうかしらね?さ、降りて」
『え、ここで?』
「そうだけど?」
『不二子俺寒いの苦手って知ってるよね?』
「もちろん」
『アジト遠いんだけど』
「しょうがないわ、あたしのデート場所はここなんだもの」
『………怒ってる?』
「いーえ、別に。」
何故不二子がそんなにも不機嫌になっているのか、さっぱり分からないななしは有無を言わさない圧に負けてしぶしぶオープンカーから降りた。
「またね」と白い手をヒラヒラさせ不二子は颯爽と行ってしまった。
今回結局宝石は不二子の手に渡りななしが得たものはまるでゼロ。
強いて言うならルパン達からの怒りと反感を得られたろうか。
ビル街に放り出され、寒いわ心細いわ疲れたわの三重苦。
アジトまでの道のりは瞬間記憶能力によりはっきりくっきり思い浮かんではいるものの、歩きだと些か遠い。
しかも雪が降りそうなほど冷え込んでいる今、無事にアジトに帰れる気がしないななし。
『(身一つで来ちゃたし…どうしたもんかなぁ)』
そう思ってはいても歩かなければ帰れないため、重い足を1歩、また1歩前に出す。
歩けば寒い風が顔面を直撃してくる。
『さむぅ…』
凍てつく風から身を守るために体を縮め、赤くなった素手をジャケットのポケットに忍ばせた。
それでも顔面に直撃する風は避けられないし吐く息だってものすごく白い。
『俺の死因は凍死だったりして…』
1人呟くななしは自嘲気味に笑った。
こんなことなら不二子と組むのはやめた方がいいかもしれない。
不二子はやり手でずる賢い。なんだってするするやれてしまう女だ。
それに女が恋愛対象にはならないななしだが、彼から見ても不二子は綺麗で美しい。
人を寄せつける能力は卓越しているだろうか。
しかし、やはりずる賢いだけあってとっても厄介。
金や宝石に対する欲は実直でそれらの為なら仲間でさえも呆気なく裏切ってしまうのだから驚きだ。
それさえなければとても良いコンビなのだけどな、とななしはつくづく思う。
改めて不二子との付き合いを考えなきゃなぁとぼんやり考えるななし。
そうでなければまた次元にこっぴどく叱られるだろう。
『(帰るのも帰ってからも億劫だ)』
遠いアジトに加え、あとから怒られるかもしれないと思うといよいよ歩く気がしなくなってくる。
不二子がルパンの手から鮮やかに宝石を盗んだ時の次元と五ェ門の顔は呆れと怒りに満ち溢れていた(ルパンはお察し)。
毎度毎度盗んだものを横取りされればそりゃぁ、怒るだろう。
ななしは確かに不二子と組んでいるが、あとから不意打ちのように横取りをするのは彼女だけの意思である。そこにななしの意思は全くなく、どちらかというと彼は"みんなで盗んだならみんなのもの"だと考えている。
しかし次元は裏切りにななしが関係していようがいまいが不二子と組んでいる、と言うだけで気に食わないらしい。
今回は余程腹が立ったのか「ななし、後で覚えとけよ!!」と次元に名指しでそう怒鳴られてしまったのだ。
ボルサリーノの鍔からちらりと見えた真っ黒で鋭い瞳に身震いしたのを今でもはっきり覚えている。
低音で心地よいはずの声音には怒りがこれでもかと含まれていたため、心がギュッと掴まれたように痛んだのだ。
『(…怒らせたいわけじゃないのになぁ)』
クールで渋くて大人な次元だが、直向きに愛を注いでくれる情熱的な男。口数や愛の囁きは確かに少ないが彼から与えられる優しく愛撫のようなスキンシップにはななしにも感じられるほどの愛があった。
そんな優しい彼を怒らせてしまったことがとても悔しく悲しいななし。
『あー、泣きそう』
男であるななしを男である次元が受けいれてくれたのは奇跡に近い。
寛大で優しい次元を手放したくはない、どうか嫌いにならないで欲しい。
ななしは寒いのは苦手だし、遠いアジトに向かうのも億劫だったが、『次元には嫌われたくない!』、その一心でひたすら歩いたのだった。
かれこれ2時間程。
ななしが記憶している中で最短のルートを使いようやくアジトが見えてきた。
途中雪が降るというアクシデントに見舞われたがなんとか凍死することはなく無事にたどり着けた。
おんぼろの洋館の玄関庇で頭や肩に乗った雪を払い落とす。寒さで感覚がにぶった指先は真っ赤になっていた。
玄関の前でジャケットのヨレを治し髪を整え1度深呼吸してからドアノブを捻った。
『た、ただいまぁ』
開いた扉から頭だけを入れ中を覗いてみれば存外近くに次元がいた。仁王立ちで。
リビングのソファにはルパンが座っており「あら、おかえり[D:12316]」と呑気に手を振っている。
五ェ門の姿はなく、彼はまた修行か何かで出ていったのかもしれない。
「ノコノコ帰ってきたのか?」
『じ、次元、そんな怒んないでよ』
威圧感マックスの次元ほど恐ろしいものは無い。
今にも懐にあるであろうS&W:M19で頭の真ん中を射貫かれてしまいそうだ。
口にくわえたくたびれたタバコからゆらゆらと立ちのぼる紫煙のようにこの場から逃げ出したくなったななしはおずおずと縮こまるしかない。
相当怒っているな、呆れられてるな、もしかして別れるとか言い出すんじゃ…?
あれやこれやに脳が支配され寒さとは別に鼻の奥がツンと痛んだ。
「………おい」
『は、はぃ』
「……………はぁ…、ったく」
そう呆れたように言う次元を直視出来ず下を向いたななしだったが、次の瞬間には暖かい何かが頬に触れ意志とは関係なく次元の顔と向き合っていた。
次元の右手がななしの頬に添えられ強制的に持ち上げられたらしい。
急な出来事にびっくりしたななしの視界には次元の顔だけが映っていた。
ボルサリーノからちらりと見えた顔は眉根を寄せた悩ましい顔。
どうしてそんな風に憂い気な顔を?
ななしは戸惑いつつもかち合った視線を外すことなく次元を見つめた。
何も言わない次元と見つめあっていればひょっこりルパンが顔をのぞかせた。
ニシシと笑いながらイタズラにルパンは言う。
「さっき怒鳴っちゃったの気にしてんのよこいつ」
「おい!ルパン!」
『え?』
「しかもなかなかななしちゃん帰ってこないし、雪も降ってくるしで心配してたのよー?」
『お、怒ってないの?』
「はぁぁ、お前さんが不二子と組むのはいつものこったろ、慣れてる」
「次元ちゃんはね、不二子ちゃんにななしちゃんを取られたくないんだってさ」
「黙ってろ、ルパン!」
「あー!照れてる」
「ルパン!テメェは!」
『あの、お、怒ってない?それだけ教えて』
「…お前さんにいちいち腹立ててたらキリがねぇだろうが」
回りくどいが別に怒ってはないのだと言う次元にななしは心のモヤが晴れ、安堵のため息を吐いた。
緊張が解けなんだか泣きそうになる。
『よ、良かった』
結局随分年上の次元に甘やかされて、終わりを迎える。気にしすぎたのかもしれないがそれ以上に優しい次元にななしは胸をときめかせた。
不本意だが裏切ってしまったのは事実なのに、怒らないでくれる次元。
『ありがと、次元』
そんな彼にめいいっぱいの感謝を伝えたななし。
次元はボルサリーノを深く被り直した。
「それよりお前さん、冷たすぎるんじゃねぇか?」
ななしの頬に添えた右手で鼻やおでこを触りながら次元は言う。
続けて「お鼻真っ赤だぜ?」とルパンも言う。
それもそうだ、歩いてきたのだから。
『んー、寒かったからね』
「不二子ちゃんに送ってもらわなかったの?」
『不二子は今頃美術商とデートでもしてるんじゃない?俺早々に車から降ろされたんだよ』
「…どの辺で?」
『ん?ビル街のど真ん中』
「「はぁ!?」」
きっかり2時間かかったよ、と笑うななしを後目に次元とルパンはたいそう驚いていた。
都心部からアジトのある森まで歩いてきたという事実が信じられないらしい。
「連絡くらいしやがれ、このバカ!」
「本当だぜ、全く[D:12316]。すぐ迎えに行ったげたのに」
『身一つで出かけてたからどのみち無理だったんだよ』
「携帯くらい持ち歩け!」
『でも2時間歩いたおかげで不二子との関係を見直さなきゃなって考えに至った。有意義な2時間だったよ』
「ななしちゃん、言ってる場合?ただでさえ寒がりなんだからさ」
「その結論にたどり着いたことは褒めてやる。よくやった、が。風邪でも引いてみやがれ、俺ぁもう知らねぇぞ」
『ひかないし、…だって…』
頬に添えられた右手の上に手を重ねたななし。
次元の手をゆっくり自分の背に回すように誘導し、彼の痩身に抱きついた。
前を開けているジャケットの中に手を入れ温もりを感じながらベストに顔を密着させる。
次元の相棒であるS&W:M19の感触を感じつつ、香るペルメルに目を閉じた。
『次元が、温めてくれるんだろ?』
「……」
頭上でながーいため息と、ルパンのイタズラに笑う声が聞こえた。
ゆっくりゆっくり、しかし強く回された背中の腕に包まれななしは満足そうに笑う。
「ななしちゃんは1枚も2枚も上手だね」
「こいつぁ、よっぽどの悪童だ」
『ふふ、好きなくせに』
「自惚れんなクソガキ」
「あつあつだねぇ、妬けちまう」
『ルパンも好きだよ』
「おいこら」
「えー?まじ?俺様嬉しい!ななしちゃんとなら大歓迎!」
「真に受けるな」
「はぁ?ななしちゃんからの告白だぜ?真に受けるって」
「やめとけ、やめとけ。お前さんじゃ手に負えねぇよ」
『だね』
「見せつけてくれるぜ、全く」
抱き合ったままのななしと次元。
幸せそうな2人にルパンもなんだかんだ嬉しそうだ。
散々茶化した後ルパンは「じゃ、俺様不二子ちゃんお説教しに行ってくる」とアジトから出ていく。
空気を読んだのか、気を使われ少し気恥ずかしくもあったがルパンの優しさに感謝しつつ次元と二人きりのときを過ごそう。
「たく、騒がしいやつだ」
『ねぇ、大介。寒いんだけど』
「…仕方ねぇ、温めてやるよ」
『んふふ、お願いします』
ジャケットの下、タートルネックの中を行く次元の暖かく男らしい手。
擽ったさに身を捩りながら、降りてくる薄いくちびるに冷たく少しかさついたくちびるを引っつけた。
ちいさなリップ音がなるとまるでそれがスタートの合図だったように2人の息遣いが荒くなっていく。
「おい、ななしの部屋行くぞ」
『散らかってるよ?』
「…じゃぁ、俺の部屋だ」
『ん、大介の部屋にしよ。大介の匂い好きだから』
「煽るな、クソガキ」
『ん、煽ってないオジサン』
重なりながら2人はアジトに設けられている次元の自室にへと姿を消したのだった。
バックスフィズとともに
(心はいつも君と)
今日はほどほどに疲れた。
不二子と二人で狙った獲物。見事奪取かと思いきや現れたのはルパン一味。
どうやら獲物が被ったらしい。
ななしとしては育ての親であるクリスに盗んできた獲物を1目見せることが出来ればそれ以外はどうだって良かった。
計画は完璧だったが今回はルパン達の方が一枚上手であっさりと獲物を盗まれてしまった。
しかしいつもの如くルパンを誘惑し不二子が獲物を横取り、颯爽と車で逃げるという結果に終わった。
寒空の中、赤のオープンカーで街を疾風の如くと駆ける不二子の隣、助手席には散々振り回され疲れ果てているななしが乗っている。
また不二子に加担したな!?と次元に怒鳴られる未来しか見えないと深ーいため息を着くななし。
不二子はそんなななしを気にした様子もなく、今日横取りした赤く大きな宝石にこれまた赤いルージュがきらめく唇でキスを送った。
「んーまっ。本当に綺麗」
『…』
「あら、ご機嫌ななめ?」
『…いや、いつもの事だからなんにも思ってないけどさぁ、でもでも、…はぁ、次元怒ってるだろうなぁ』
「こんなことで怒る男なんて碌なもんじゃないわ。女の裏切りはアクセサリー。そんなことも許せないなんて笑っちゃう」
『1回や2回じゃないだろうが』
「何回だって許してくれなきゃ、ね?」
『不二子はよくても俺はやなの。次元に怒られるくらいなら死んだ方がマシ』
「このさいななしも次元なんてやめちゃいなさいよ。あたしがもっとかっこよくてダンディでオジサマな男の人紹介してあげる」
『俺の好みは次元大介。他は興味なしなの』
「次元のどこがいい訳?」
『はぁ?次元は全部いいじゃん。顔よし声よし性格よし!最強じゃん』
「本気?」
『え?本気だけど…』
ありえないわ、とジト目を向けられたななし。
そんな風に言うがルパンも大概だぞと不二子に言ってやりたくなる。
あんな軽口男よりも余程次元の方が男気があってかっこいい。
言わない代わりに不二子のジト目を逸らすように外に視線を向けた。
さしてきにした様子もなく不二子はくすくす笑うと赤のオープンカーを路肩に寄せた。
「趣味悪いななし、今日はここまでよ。これからあたしデートなの」
『はぁ、ルパン泣くよ?』
「ふふ、どうかしらね?さ、降りて」
『え、ここで?』
「そうだけど?」
『不二子俺寒いの苦手って知ってるよね?』
「もちろん」
『アジト遠いんだけど』
「しょうがないわ、あたしのデート場所はここなんだもの」
『………怒ってる?』
「いーえ、別に。」
何故不二子がそんなにも不機嫌になっているのか、さっぱり分からないななしは有無を言わさない圧に負けてしぶしぶオープンカーから降りた。
「またね」と白い手をヒラヒラさせ不二子は颯爽と行ってしまった。
今回結局宝石は不二子の手に渡りななしが得たものはまるでゼロ。
強いて言うならルパン達からの怒りと反感を得られたろうか。
ビル街に放り出され、寒いわ心細いわ疲れたわの三重苦。
アジトまでの道のりは瞬間記憶能力によりはっきりくっきり思い浮かんではいるものの、歩きだと些か遠い。
しかも雪が降りそうなほど冷え込んでいる今、無事にアジトに帰れる気がしないななし。
『(身一つで来ちゃたし…どうしたもんかなぁ)』
そう思ってはいても歩かなければ帰れないため、重い足を1歩、また1歩前に出す。
歩けば寒い風が顔面を直撃してくる。
『さむぅ…』
凍てつく風から身を守るために体を縮め、赤くなった素手をジャケットのポケットに忍ばせた。
それでも顔面に直撃する風は避けられないし吐く息だってものすごく白い。
『俺の死因は凍死だったりして…』
1人呟くななしは自嘲気味に笑った。
こんなことなら不二子と組むのはやめた方がいいかもしれない。
不二子はやり手でずる賢い。なんだってするするやれてしまう女だ。
それに女が恋愛対象にはならないななしだが、彼から見ても不二子は綺麗で美しい。
人を寄せつける能力は卓越しているだろうか。
しかし、やはりずる賢いだけあってとっても厄介。
金や宝石に対する欲は実直でそれらの為なら仲間でさえも呆気なく裏切ってしまうのだから驚きだ。
それさえなければとても良いコンビなのだけどな、とななしはつくづく思う。
改めて不二子との付き合いを考えなきゃなぁとぼんやり考えるななし。
そうでなければまた次元にこっぴどく叱られるだろう。
『(帰るのも帰ってからも億劫だ)』
遠いアジトに加え、あとから怒られるかもしれないと思うといよいよ歩く気がしなくなってくる。
不二子がルパンの手から鮮やかに宝石を盗んだ時の次元と五ェ門の顔は呆れと怒りに満ち溢れていた(ルパンはお察し)。
毎度毎度盗んだものを横取りされればそりゃぁ、怒るだろう。
ななしは確かに不二子と組んでいるが、あとから不意打ちのように横取りをするのは彼女だけの意思である。そこにななしの意思は全くなく、どちらかというと彼は"みんなで盗んだならみんなのもの"だと考えている。
しかし次元は裏切りにななしが関係していようがいまいが不二子と組んでいる、と言うだけで気に食わないらしい。
今回は余程腹が立ったのか「ななし、後で覚えとけよ!!」と次元に名指しでそう怒鳴られてしまったのだ。
ボルサリーノの鍔からちらりと見えた真っ黒で鋭い瞳に身震いしたのを今でもはっきり覚えている。
低音で心地よいはずの声音には怒りがこれでもかと含まれていたため、心がギュッと掴まれたように痛んだのだ。
『(…怒らせたいわけじゃないのになぁ)』
クールで渋くて大人な次元だが、直向きに愛を注いでくれる情熱的な男。口数や愛の囁きは確かに少ないが彼から与えられる優しく愛撫のようなスキンシップにはななしにも感じられるほどの愛があった。
そんな優しい彼を怒らせてしまったことがとても悔しく悲しいななし。
『あー、泣きそう』
男であるななしを男である次元が受けいれてくれたのは奇跡に近い。
寛大で優しい次元を手放したくはない、どうか嫌いにならないで欲しい。
ななしは寒いのは苦手だし、遠いアジトに向かうのも億劫だったが、『次元には嫌われたくない!』、その一心でひたすら歩いたのだった。
かれこれ2時間程。
ななしが記憶している中で最短のルートを使いようやくアジトが見えてきた。
途中雪が降るというアクシデントに見舞われたがなんとか凍死することはなく無事にたどり着けた。
おんぼろの洋館の玄関庇で頭や肩に乗った雪を払い落とす。寒さで感覚がにぶった指先は真っ赤になっていた。
玄関の前でジャケットのヨレを治し髪を整え1度深呼吸してからドアノブを捻った。
『た、ただいまぁ』
開いた扉から頭だけを入れ中を覗いてみれば存外近くに次元がいた。仁王立ちで。
リビングのソファにはルパンが座っており「あら、おかえり[D:12316]」と呑気に手を振っている。
五ェ門の姿はなく、彼はまた修行か何かで出ていったのかもしれない。
「ノコノコ帰ってきたのか?」
『じ、次元、そんな怒んないでよ』
威圧感マックスの次元ほど恐ろしいものは無い。
今にも懐にあるであろうS&W:M19で頭の真ん中を射貫かれてしまいそうだ。
口にくわえたくたびれたタバコからゆらゆらと立ちのぼる紫煙のようにこの場から逃げ出したくなったななしはおずおずと縮こまるしかない。
相当怒っているな、呆れられてるな、もしかして別れるとか言い出すんじゃ…?
あれやこれやに脳が支配され寒さとは別に鼻の奥がツンと痛んだ。
「………おい」
『は、はぃ』
「……………はぁ…、ったく」
そう呆れたように言う次元を直視出来ず下を向いたななしだったが、次の瞬間には暖かい何かが頬に触れ意志とは関係なく次元の顔と向き合っていた。
次元の右手がななしの頬に添えられ強制的に持ち上げられたらしい。
急な出来事にびっくりしたななしの視界には次元の顔だけが映っていた。
ボルサリーノからちらりと見えた顔は眉根を寄せた悩ましい顔。
どうしてそんな風に憂い気な顔を?
ななしは戸惑いつつもかち合った視線を外すことなく次元を見つめた。
何も言わない次元と見つめあっていればひょっこりルパンが顔をのぞかせた。
ニシシと笑いながらイタズラにルパンは言う。
「さっき怒鳴っちゃったの気にしてんのよこいつ」
「おい!ルパン!」
『え?』
「しかもなかなかななしちゃん帰ってこないし、雪も降ってくるしで心配してたのよー?」
『お、怒ってないの?』
「はぁぁ、お前さんが不二子と組むのはいつものこったろ、慣れてる」
「次元ちゃんはね、不二子ちゃんにななしちゃんを取られたくないんだってさ」
「黙ってろ、ルパン!」
「あー!照れてる」
「ルパン!テメェは!」
『あの、お、怒ってない?それだけ教えて』
「…お前さんにいちいち腹立ててたらキリがねぇだろうが」
回りくどいが別に怒ってはないのだと言う次元にななしは心のモヤが晴れ、安堵のため息を吐いた。
緊張が解けなんだか泣きそうになる。
『よ、良かった』
結局随分年上の次元に甘やかされて、終わりを迎える。気にしすぎたのかもしれないがそれ以上に優しい次元にななしは胸をときめかせた。
不本意だが裏切ってしまったのは事実なのに、怒らないでくれる次元。
『ありがと、次元』
そんな彼にめいいっぱいの感謝を伝えたななし。
次元はボルサリーノを深く被り直した。
「それよりお前さん、冷たすぎるんじゃねぇか?」
ななしの頬に添えた右手で鼻やおでこを触りながら次元は言う。
続けて「お鼻真っ赤だぜ?」とルパンも言う。
それもそうだ、歩いてきたのだから。
『んー、寒かったからね』
「不二子ちゃんに送ってもらわなかったの?」
『不二子は今頃美術商とデートでもしてるんじゃない?俺早々に車から降ろされたんだよ』
「…どの辺で?」
『ん?ビル街のど真ん中』
「「はぁ!?」」
きっかり2時間かかったよ、と笑うななしを後目に次元とルパンはたいそう驚いていた。
都心部からアジトのある森まで歩いてきたという事実が信じられないらしい。
「連絡くらいしやがれ、このバカ!」
「本当だぜ、全く[D:12316]。すぐ迎えに行ったげたのに」
『身一つで出かけてたからどのみち無理だったんだよ』
「携帯くらい持ち歩け!」
『でも2時間歩いたおかげで不二子との関係を見直さなきゃなって考えに至った。有意義な2時間だったよ』
「ななしちゃん、言ってる場合?ただでさえ寒がりなんだからさ」
「その結論にたどり着いたことは褒めてやる。よくやった、が。風邪でも引いてみやがれ、俺ぁもう知らねぇぞ」
『ひかないし、…だって…』
頬に添えられた右手の上に手を重ねたななし。
次元の手をゆっくり自分の背に回すように誘導し、彼の痩身に抱きついた。
前を開けているジャケットの中に手を入れ温もりを感じながらベストに顔を密着させる。
次元の相棒であるS&W:M19の感触を感じつつ、香るペルメルに目を閉じた。
『次元が、温めてくれるんだろ?』
「……」
頭上でながーいため息と、ルパンのイタズラに笑う声が聞こえた。
ゆっくりゆっくり、しかし強く回された背中の腕に包まれななしは満足そうに笑う。
「ななしちゃんは1枚も2枚も上手だね」
「こいつぁ、よっぽどの悪童だ」
『ふふ、好きなくせに』
「自惚れんなクソガキ」
「あつあつだねぇ、妬けちまう」
『ルパンも好きだよ』
「おいこら」
「えー?まじ?俺様嬉しい!ななしちゃんとなら大歓迎!」
「真に受けるな」
「はぁ?ななしちゃんからの告白だぜ?真に受けるって」
「やめとけ、やめとけ。お前さんじゃ手に負えねぇよ」
『だね』
「見せつけてくれるぜ、全く」
抱き合ったままのななしと次元。
幸せそうな2人にルパンもなんだかんだ嬉しそうだ。
散々茶化した後ルパンは「じゃ、俺様不二子ちゃんお説教しに行ってくる」とアジトから出ていく。
空気を読んだのか、気を使われ少し気恥ずかしくもあったがルパンの優しさに感謝しつつ次元と二人きりのときを過ごそう。
「たく、騒がしいやつだ」
『ねぇ、大介。寒いんだけど』
「…仕方ねぇ、温めてやるよ」
『んふふ、お願いします』
ジャケットの下、タートルネックの中を行く次元の暖かく男らしい手。
擽ったさに身を捩りながら、降りてくる薄いくちびるに冷たく少しかさついたくちびるを引っつけた。
ちいさなリップ音がなるとまるでそれがスタートの合図だったように2人の息遣いが荒くなっていく。
「おい、ななしの部屋行くぞ」
『散らかってるよ?』
「…じゃぁ、俺の部屋だ」
『ん、大介の部屋にしよ。大介の匂い好きだから』
「煽るな、クソガキ」
『ん、煽ってないオジサン』
重なりながら2人はアジトに設けられている次元の自室にへと姿を消したのだった。
バックスフィズとともに
(心はいつも君と)