短編 男主
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(次元と付き合ってます/年下右主/瞬間記憶能力持ち)
「一山当てた記念に豪華に祝おうぜ!」
事の発端はルパンのその一言から始まった。
今回の仕事はなかなか骨のおれるものでインターポールから逃げ切ったあとの疲労はそれはもう尋常ではなかった。
もちろん上手く裁けて、手元には莫大な金が舞い込んだのだから上手くいったといえば上手くいった。
俺としては数週間のんびり過ごしたい所だったが、ルパンのその一言にななしがあまりにも嬉しそうに食いつくもんで。
結局ルパンとななしに根負けして、盛大に祝うとかなんとかで散財するほど高級な豪華客船に2泊3日のお泊まりだとよ。
豪華客船なだけあって、インフォーマルな服装で乗船らしく、その為だけに俺たちはわざわざスーツを見繕った。
しかし、ななしだけはなかなか決められなかったらしく俺に『次元、俺スーツはまじ分からないんだよ』と相談してきた。
悩む恋人を無下にもできず疲労でズタズタな体でスーツを見繕ってやたった。
どうせならいいスーツを一着くらい持っていればいいとザ・クロークルームでななしにぴったり来るようなスーツをオーダーメイド。
急ぎで仕立てて貰いできたのはちょうど当日の朝。
仕立ててもらったスーツを確認するが、焦って作ってはいても綻びや傷などは一切無し。
これがプロの技か、と彼らの腕の良さに感謝しながら乗船時間ギリギリでそれをななしに渡した。
「なぁ、次元!楽しみだな」
「なにがだ?」
「またまた[D:12316]ななしちゃんにきまってるだろ!?」
先に豪華客船にへと乗りこみ、提供されている部屋でななしを待つ。
新品のスーツを渡したあと颯爽とあらわれた不二子によりななしは「あたしがドレスコードしてあげる。船で会いましょう?」と、来た時同様に颯爽とつれていかれた。
俺が色や、布地を細部まで拘って作らせた言わばななしのための装い。
何故俺でなく不二子が1番にその装いを着たななしを見るんだと、腹が立ったもののあの女の見立てはいい。
髪などもインフォーマルなものにととのえ連れてくるつもりなのだろう。
「ジャケットならいつも着てるだろ、変わりゃしねぇよ」
「何言ってんだよ、次元。お前が一から作らせたスーツなんだぜ?それを着てるんだぜ?楽しみ以外の何があるってんだよ」
「いつもよりはマシかもな」
「かぁー、素直じゃねぇな!そんなんじゃ、ななしも逃げてくぜ?」
「万に1つも有り得ない話だな」
「なんでそんなに自信があるの?五ェ門わかる?」
「知らぬ」
「ねぇ、俺様もわかんない」
俺が選んだスーツ、俺が選んだ男が着るんだ。
似合わないはずはない。
分かりきった事だ、わざわざ答えてやる必要も無い。
しばらくルパンにあぁだ、こうだ絡まれ嫌気がさしていた所にノックの音が響く。
直ぐに開かれ先に入ってきたのはグリーンのオフショルダーマーメイドドレスの不二子だ。
ルパンがだらしない声を上げながら不二子にダイブするが、簡単に避けられ壁にへとめり込んだ。
嫌な音を立てしゃがみ込んだルパンを他所に不二子は「いらっしゃい」と、ななしの手を引き部屋にへと招いた。
「…っ!」
「うわ[D:12316]お!」
おずおずと入ってきたのはブラウンのスリーピーススーツを身にまとったななし。
髪が柔らかいブラウンのななしには絶対にアースカラーが似合うと思った。
普段かなり跳ねっ返りのななしだが、ブラウンを纏うことでかなり大人の雰囲気を醸し出している。
髪も普段は無造作になっているが、不二子の手により綺麗にセットされ後ろに撫でつけられている。
細くしなやかな眉が顕になり、グリーンの瞳がいつもよりも大きく鮮やかに見えた。
…普段見せない大人びた笑みに心臓がバカ騒ぎを起こす。
可愛いとか、茶目っ気が有るとか、そんな物ではなくて…形容し難い美しさに当てられななしを直視することが出来なかった。
『どう、かな?次元』
あぁ、やめろ、やめろ。
そんな顔で名前を呼ぶな。閉じ込めたくなるだろうが!
今にも組み敷いて噛み付いて、それから昂るそれをうちつけて白い腹にぶちまけてやりたくなる。
だめだ、ななしの美しさに当てられて俺の浅ましい欲がどんどん溢れてきやがる。
口ごもる俺を一瞥したルパンはニヤリと笑いやがった。
俺が当てられたのを理解しているらしい。
心底腹が立つ。
「ななし…めちゃくちゃ似合ってるぜ!本当に、俺様もう興奮してドキドキしっぱなしだって」
『本当に?いいスーツすぎて俺埋もれてない?』
「んなこたぁないね。今から予告状だしてもいい?今晩を俺様にちょーだいよ!ちょー、優しくしてあげるからさ!!」
『調子がいいな、ルパンは。でも、ブラウンは初めてでさ…』
「卑下せずともよく似合っておるぞななし」
『五ェ門、ありがとう』
「スーツのセンスは流石次元ね。ななしにはこれしかないってくらい似合ってるわ。そんなスーツに合わせた髪よ?どうかしら?次元」
「ニシシ[D:12316]そうよ次元ちゃん。楽しみにしてたじゃねーの。今のななしちゃんはどうよ?」
「…どこをみているんだ次元」
3人とななしの視線が俺に向けられた。
見ずともわかる、ルパンは意地悪く笑っているのだろう。五ェ門と不二子は呆れ顔か?
なら、ななしは。
あいつはどんな顔をしてるんだ?
なんどかばれないように深呼吸をしてななしを見つめる。
忠犬のごとく健気に俺の返事を待つななし。尻尾があればブンブン振り回しているんだろうな。
真っ直ぐな深緑に見つめられるとたまらず息が詰まる。だめだ、頭が正常に働かない。
「ま、馬子にも衣装だな」
振り絞った声はかなり震えていた。
気の利いた事はいってやれなかった。
綺麗だ、とか似合っているとか。
そんなことを口走りななしに『ありがとう、次元』などと見たことも無い色気を含んだ笑顔で言われてみろ。今度こそルパンがいようが誰がいようがこの場で組み敷いてしまう自信がある。
理性をつなぎとめるために、俺のこの焦りと気恥しさを悟られぬように。
今の俺にはこれが精一杯だ。
「…次元ちゃーん?」
「……」
「……」
『ま、まご?』
突き刺さる3人の鋭い視線に、ボルサリーノを深く被るしかない。
呆れたような不二子のため息が聞こえ、俺の葛藤も知らないくせにと腹が立つ。
そんな中、あまりに耳慣れない言葉だったのかななしは首を傾げている。
どうやら馬子にも衣装の意味が分かっていないようだ。
『それはどういう…』
「あー!あれだよ、めちゃくちゃかっこいいねって言う日本のことわざ!かっこいい人がいい服きたらもっとかっこよくなるよーってな感じ」
『…ふふ。そっか』
「…」
チクリ、チクリ。
罪悪感が胸を体を蝕む。
『ありがとう次元』
眉と目尻を下げ何時もみたいに屈託なく笑うななしの眩しいこと。
決して褒められた言葉などではないのに、心の底から嬉しそうに顔を赤らめ笑うななし。
またさらにチクリと胸が痛む。
大人の矜恃が素直になることを阻んだお掛けで周りの視線も胸も痛い。
「ななし、少しバーに行かない?あたしから、大人になったあなたに1杯奢らせて?」
『え?いいの?じゃ、みんなで行こうよ』
「ルパン達は少し次の計画の話があるらしいの。終わってから合流しましょうね?」
『まじ?ここまで来て、それかぁ[D:12316]』
渋々了承したななしは不二子に背を押され出ていった。
扉がしまったかと思えば再び開かれ仁王立ちの不二子が俺に向け「少しは頭冷やしなさいよ」だとよ。
再びしまった扉。
部屋が一気に静まり、居心地が悪いったらありゃしねぇ。
「次元ちゃーん、なーに言ってんの」
「お主がその言葉の意味を履き違えているとも思えん。如何様な心持ちで言ったのか?」
「意味わかってなくてもあとから知ったら悲しむぜ、ななしちゃん」
「るせー!わかってるさ」
「じゃ、なんであんな言い方したんだよ」
「………精一杯だったんだよ…」
あの時ななしに見惚れた俺には、それが、それだけを紡ぐのが本当に精一杯だったんだ。
「あーちゃー、次元ちゃん。ななしちゃんにベタ惚れしちゃって…」
「使い物にならぬな」
「言ってろ、お前さんたちには一生わかるめぇ」
急に大人びて、急に色気が溢れて、可愛いとかじゃなく綺麗で。
しかも、俺が選んで俺が送ったスーツ姿で。
どうにも横からかっさらってしまわれそうで。
それならいっそ閉じ込めておきたいだとか、誰の目にも触れない所へ連れていきたいとか。
今すぐ喘がせたいとか、抱きたいとか、そんな邪なもの全てが。
「綺麗」のたった2文字だけで溢れ出てしまいそうだった。俺の浅ましい欲望が、その全てが。
もしそれらが知られたら?ななしの中の次元大介がこんなにも劣情にまみれた男だと知ったら?
「つまらねぇ男なのは承知だ。だがななしの"失望"にくらべりゃつまらねぇくらいなんのこっちゃねぇよ」
「それはななしが可哀想なんでねぇの?」
「自己完結ほど身勝手なものは無いぞ次元」
「身に染みるぜ、全く」
「だいたい失望が怖くて愛だ恋だ言ってられるかっての!」
「お前はわかっちゃいねぇ!自分が浅ましい奴だと知られる意味が。……サヨナラ待ったなしに決まってらぁ」
「そうかぁ?知って知られて!それが恋愛だと俺は思うけどねぇ」
「はぁ?それをてめぇが言うのか?執着の執の字も見せねぇ軽口男がよぉ」
「かぁー!さっきまでななしが俺から離れるなんてありえないだとか言ってたくせに!やーい恋愛童貞!」
「お前が愛だ恋だを語るな、この女好きめ」
「あー!!八つ当たりだぁ!自分が素直になれないからって俺様に当たるなよ」
「けっ、事実だろうが」
「拙者もそれには同意見でござる」
「おい、五ェ門!どっちの味方なんだ、お前はー!」
「ななし、でござる」
「…違いねぇ」
「はぁ…痴話にもならない痴話喧嘩に巻き込むなよな[D:12316]次元」
「…すまねぇ」
「素直なこって」
分かってるさ、八つ当たりしてることも俺のわがままでしかないってことも。
だが、5つも6つも年下なななしに対してこんなにも余裕が無いなんて知られたくはない。
知られて失望されるなんてもっと癪だ。
アイツはクールで大人しい次元大介好きなんだ。
黒くて、欲望まみれの醜い次元大介なんかじゃない。
ただ祝うために豪華客船にやってきただけなのに。
癒されるどころかどっと疲れた。
今は室内に飾られてキラキラ光るシャンデリアさえ鬱陶しい。
腹は減っていたし酒も飲みたかったが、気疲れしていて体を動かすのも億劫だ。
一室のデケェクイーンサイズのベッドに寝転んでやった。
「弱みそだな、次元ちゃんは」
「言ってろ」
「そーんな、次元ちゃんに朗報でーす!」
「はぁ?」
ルパンは意地悪くニシニシと笑いベッドサイドのテーブルに懐から広帯域から音声を拾う高機能レシーバーを取りだし置きやがった。
よく見知ったそれがまさか今こんな時に出てくるなんて誰が想像出来る。
俺も五ェ門も目の前の男がなぜそんなものを持っているのかと呆れるしかない。
「ななしを"盗聴"かぁ?額に風穴を開けたいらしいな」
「ちょちょちょ、本当にたまたまなんだって[D:12316]」
「たまたまでななしに盗聴器仕掛けるやつがあるか!」
「ルパン…お主、まさか…」
「本当に盗聴目的とかじゃないからね!?本当にたまたまなのよ[D:12316]」
「けっ、どうだか」
「何を考えているのかさっぱり分からぬ」
「イカれてんだろ、ついていけねぇぜ。全く」
「……で、聞くの?聞かないの?」
「………」
悩んだ、悩んだ。
悩んだ結果…
"「ななし[D:12316]、ほらこれ。弱いから平気でしょ?」"
"『ありがとう。不二子』"
聞くしか無かった。
というか、聞かずにはいられなかった。
ななしが失望するってんならもう仕方ない。
自分を誤魔化すために咄嗟にでた酷い言葉。今になってめちゃくちゃに後悔しているが言っちまったもんは変えられねぇ。
俺だって大人だ。
受け入れる覚悟をしねぇと。
"『うーん、はじける[D:12316]』"
"「スプリッツァーだもの。ドイツ語のシュプリッツェン…はじけるからきてるの」"
"『へぇ、爽やかで飲みやすい』"
"「ふふ、お子ちゃまなななしにピッタリね」"
"『否定はしないよ。みんなより格段にお子ちゃまだから』"
"「あら、やだ。拗ねないで、ね?」"
"『はは!拗ねてないよ、でも事実だからね』"
"「大丈夫、あなたはあたしが認めた男よ?充分大人よ」"
"『そう?だったら嬉しいな』"
ななしと不二子は本当にバーにいるようだ。
酒に弱いななしにアルコール度数が低いスプリッツァーを奢ったらしい。
"『それに今日はこのスーツだからね!大人度アップアイテム、次元がくれたスリーピーススーツ[D:12316]』"
嬉しそうな声音とバザバサと布が擦れる音がレシーバーから聞こえてくる。
ついで耳に入ったのは明らかにムッとした様な不二子の「スーツねー…」の一言。
その一言に俺の体がぴしりとかたまった。
"「ななしあのね、」"
"『うん?』 "
申し訳なさそうに尻込みしながら不二子は切り出した。
あぁ、こいつはきっと言うのだろうな。
先程の言葉が揶揄う意味を含んだ言葉なのだと。
"「さっきの…次元言ったでしょ?」"
"『まごにも?なんちゃら?』"
"「そう。ルパンはかっこいいがさらにかっこ良くなるって言ってたけど実は違うの」"
あーあ。ばらしやがった。
本当なら不二子に言われる前に俺が謝らなきゃならないはずなのに。
俺が臆病なせいで最悪の形で伝わってしまった。
あー…ちくしょう、かっこわるい。
もう本当にどうにでもなれ。
サヨナラでも失望でも、
しかし、次にレシーバーから聞こえたのは俺が予想していた言葉とはかけ離れていた。
"『はは、知ってる。明確にはわかないけど悪い意味だろうなってのは分かってた』"
「な、」
「どういうことー?」
「拙者にもわからぬ」
馬子にも衣装…がからかいの言葉だとわかっていた?
それならなんであんな風に笑った?心から嬉しそうに。
空気が悪くならないように気を使い嘘を言っているのか?いや、ななしはそんなたまじゃねぇ。だいたい不二子にだって気を使わないやつだ。
なら、どういうことだ。
俺もルパンも五ェ門も。
首を傾げるしかない。
"「分かってたの?」"
"『そりゃ、次元が呟いた瞬間ルパンや五ェ門、不二子が一斉に鋭く彼を睨んだんだよ?分かるって、ルパンも咎めるように名前を呼んでいたし…あの場に似つかわしくない言葉だったんだろうなってのはみんなの様子とニュアンスで分かったさ』"
まぁ、そうだな。
仮にも泥棒を自負しているんだ、それくらいの観察力は持ち合わせていてもおかしくは無い。
"「じゃ、なんで笑ったわけ?」"
そう、本題はこれだ。
良くないとわかっていたのに、なぜあんなふうに笑えた?眩しいほどに。
理由を聞かせてくれ。
"『え、それを聞くか?』"
彼が躊躇うように、照れたように呟く。
その先が知りたくて俺は生唾を飲み込む。
"『笑わない?』"
"「約束するわ」"
"『だ、だって…』"
"「だって?」"
"『とても、真っ直ぐでとても情熱的な瞳だったから』"
"「…え?」"
「真っ直ぐで」
「情熱的ぃ?」
「……」
"『いつも、変装したりするとガキからクソガキとか、見れるようになったなって次元はそういうんだ。揶揄うように』"
"「えぇ、それで?(それもどうかと思うけど…)」"
"『だけどね、今回は違った。言葉も違うけど…それ以上に瞳がね。違った。例え馬鹿にした一言だろうと、それよりも先に瞳から気持ちが先行して伝わってきたんだよ…綺麗だって』"
"「なにそれ、感だって事?」"
"『そうだね、でも向けられる感情…視線があまりに情熱的で生々しくて…まるで』"
"「まるで?」"
"『……じ、情事中の時の濡れた瞳と同じだったから。わ、悪い気はしなかったしむしろ嬉しかった…。好意を真っ直ぐ向けられているのが分かったから…次元喜んでくれてるんだって思ったんだ』"
"「帽子の鍔で目なんて見えなかったんじゃない?」"
"『あはは!見えてるよ!いや、うーん。違うね。ちゃんと次元が見せてくれるんだ。あのオニキスみたいに真っ黒で綺麗な瞳をね。それにあの時例え似合わないとか不細工だって言われたとしてもきっと俺は喜んでたよ。言葉より瞳は正直だからね』"
"「…目は口ほどに物を言うって言うものね」"
"『情が、気持ちが籠った目付きってのはどんな言葉よりも如実だ』"
「次元[D:12316]」
「やめろ、ルパン皆まで言うな」
「全てお見通しという訳か」
「情けないったらありゃしない。ななしちゃんは分かってるのになんで次元はそんなウジウジちゃんなんだよ」
「皆まで言うなって言ってんだろうが!」
情けない、情けない。
誰よりも1番俺自身が分かってる。
俺のななしへの思いがまさか瞳からこうも筒抜けだったなんて。
本気でウジウジしてたのは俺だけだったみたいだ。
「ななしの方が余程大人であるな」
「やめろ、五ェ門。それはなかなかに刺さる」
「もう、次元の信用が足りなかったせいだ。早くななしちゃんとこ行って好きなり抱きたいなり言ってきなさいよ[D:12316]ななしちゃんにあんまりだぜ」
信用して無いわけではない。
それは語弊がある。
誰だって好きな相手に疾しい部分など晒したくないものだ。俺だって疾しい感情や真っ黒な欲望はこんな真っ直ぐなななしには知られたくない。
だが、ななしはきっと俺の疾しいもの全てを受け入れてくれるのだろうな。
今みたいに『悪い気はしない』と。
そこだけは少しだけ自信を持っていいのかもしれない。
俺よりはるかに大人で、落ち着いていて、相手を思いやれるななし。
今すぐにななしに会いたくなった。
ベッドから飛び起きて、レシーバーの音量をゼロにする。
それから俺はゆっくりとバーに向かった。
もちろんななしを捕まえるために。
(next)
「一山当てた記念に豪華に祝おうぜ!」
事の発端はルパンのその一言から始まった。
今回の仕事はなかなか骨のおれるものでインターポールから逃げ切ったあとの疲労はそれはもう尋常ではなかった。
もちろん上手く裁けて、手元には莫大な金が舞い込んだのだから上手くいったといえば上手くいった。
俺としては数週間のんびり過ごしたい所だったが、ルパンのその一言にななしがあまりにも嬉しそうに食いつくもんで。
結局ルパンとななしに根負けして、盛大に祝うとかなんとかで散財するほど高級な豪華客船に2泊3日のお泊まりだとよ。
豪華客船なだけあって、インフォーマルな服装で乗船らしく、その為だけに俺たちはわざわざスーツを見繕った。
しかし、ななしだけはなかなか決められなかったらしく俺に『次元、俺スーツはまじ分からないんだよ』と相談してきた。
悩む恋人を無下にもできず疲労でズタズタな体でスーツを見繕ってやたった。
どうせならいいスーツを一着くらい持っていればいいとザ・クロークルームでななしにぴったり来るようなスーツをオーダーメイド。
急ぎで仕立てて貰いできたのはちょうど当日の朝。
仕立ててもらったスーツを確認するが、焦って作ってはいても綻びや傷などは一切無し。
これがプロの技か、と彼らの腕の良さに感謝しながら乗船時間ギリギリでそれをななしに渡した。
「なぁ、次元!楽しみだな」
「なにがだ?」
「またまた[D:12316]ななしちゃんにきまってるだろ!?」
先に豪華客船にへと乗りこみ、提供されている部屋でななしを待つ。
新品のスーツを渡したあと颯爽とあらわれた不二子によりななしは「あたしがドレスコードしてあげる。船で会いましょう?」と、来た時同様に颯爽とつれていかれた。
俺が色や、布地を細部まで拘って作らせた言わばななしのための装い。
何故俺でなく不二子が1番にその装いを着たななしを見るんだと、腹が立ったもののあの女の見立てはいい。
髪などもインフォーマルなものにととのえ連れてくるつもりなのだろう。
「ジャケットならいつも着てるだろ、変わりゃしねぇよ」
「何言ってんだよ、次元。お前が一から作らせたスーツなんだぜ?それを着てるんだぜ?楽しみ以外の何があるってんだよ」
「いつもよりはマシかもな」
「かぁー、素直じゃねぇな!そんなんじゃ、ななしも逃げてくぜ?」
「万に1つも有り得ない話だな」
「なんでそんなに自信があるの?五ェ門わかる?」
「知らぬ」
「ねぇ、俺様もわかんない」
俺が選んだスーツ、俺が選んだ男が着るんだ。
似合わないはずはない。
分かりきった事だ、わざわざ答えてやる必要も無い。
しばらくルパンにあぁだ、こうだ絡まれ嫌気がさしていた所にノックの音が響く。
直ぐに開かれ先に入ってきたのはグリーンのオフショルダーマーメイドドレスの不二子だ。
ルパンがだらしない声を上げながら不二子にダイブするが、簡単に避けられ壁にへとめり込んだ。
嫌な音を立てしゃがみ込んだルパンを他所に不二子は「いらっしゃい」と、ななしの手を引き部屋にへと招いた。
「…っ!」
「うわ[D:12316]お!」
おずおずと入ってきたのはブラウンのスリーピーススーツを身にまとったななし。
髪が柔らかいブラウンのななしには絶対にアースカラーが似合うと思った。
普段かなり跳ねっ返りのななしだが、ブラウンを纏うことでかなり大人の雰囲気を醸し出している。
髪も普段は無造作になっているが、不二子の手により綺麗にセットされ後ろに撫でつけられている。
細くしなやかな眉が顕になり、グリーンの瞳がいつもよりも大きく鮮やかに見えた。
…普段見せない大人びた笑みに心臓がバカ騒ぎを起こす。
可愛いとか、茶目っ気が有るとか、そんな物ではなくて…形容し難い美しさに当てられななしを直視することが出来なかった。
『どう、かな?次元』
あぁ、やめろ、やめろ。
そんな顔で名前を呼ぶな。閉じ込めたくなるだろうが!
今にも組み敷いて噛み付いて、それから昂るそれをうちつけて白い腹にぶちまけてやりたくなる。
だめだ、ななしの美しさに当てられて俺の浅ましい欲がどんどん溢れてきやがる。
口ごもる俺を一瞥したルパンはニヤリと笑いやがった。
俺が当てられたのを理解しているらしい。
心底腹が立つ。
「ななし…めちゃくちゃ似合ってるぜ!本当に、俺様もう興奮してドキドキしっぱなしだって」
『本当に?いいスーツすぎて俺埋もれてない?』
「んなこたぁないね。今から予告状だしてもいい?今晩を俺様にちょーだいよ!ちょー、優しくしてあげるからさ!!」
『調子がいいな、ルパンは。でも、ブラウンは初めてでさ…』
「卑下せずともよく似合っておるぞななし」
『五ェ門、ありがとう』
「スーツのセンスは流石次元ね。ななしにはこれしかないってくらい似合ってるわ。そんなスーツに合わせた髪よ?どうかしら?次元」
「ニシシ[D:12316]そうよ次元ちゃん。楽しみにしてたじゃねーの。今のななしちゃんはどうよ?」
「…どこをみているんだ次元」
3人とななしの視線が俺に向けられた。
見ずともわかる、ルパンは意地悪く笑っているのだろう。五ェ門と不二子は呆れ顔か?
なら、ななしは。
あいつはどんな顔をしてるんだ?
なんどかばれないように深呼吸をしてななしを見つめる。
忠犬のごとく健気に俺の返事を待つななし。尻尾があればブンブン振り回しているんだろうな。
真っ直ぐな深緑に見つめられるとたまらず息が詰まる。だめだ、頭が正常に働かない。
「ま、馬子にも衣装だな」
振り絞った声はかなり震えていた。
気の利いた事はいってやれなかった。
綺麗だ、とか似合っているとか。
そんなことを口走りななしに『ありがとう、次元』などと見たことも無い色気を含んだ笑顔で言われてみろ。今度こそルパンがいようが誰がいようがこの場で組み敷いてしまう自信がある。
理性をつなぎとめるために、俺のこの焦りと気恥しさを悟られぬように。
今の俺にはこれが精一杯だ。
「…次元ちゃーん?」
「……」
「……」
『ま、まご?』
突き刺さる3人の鋭い視線に、ボルサリーノを深く被るしかない。
呆れたような不二子のため息が聞こえ、俺の葛藤も知らないくせにと腹が立つ。
そんな中、あまりに耳慣れない言葉だったのかななしは首を傾げている。
どうやら馬子にも衣装の意味が分かっていないようだ。
『それはどういう…』
「あー!あれだよ、めちゃくちゃかっこいいねって言う日本のことわざ!かっこいい人がいい服きたらもっとかっこよくなるよーってな感じ」
『…ふふ。そっか』
「…」
チクリ、チクリ。
罪悪感が胸を体を蝕む。
『ありがとう次元』
眉と目尻を下げ何時もみたいに屈託なく笑うななしの眩しいこと。
決して褒められた言葉などではないのに、心の底から嬉しそうに顔を赤らめ笑うななし。
またさらにチクリと胸が痛む。
大人の矜恃が素直になることを阻んだお掛けで周りの視線も胸も痛い。
「ななし、少しバーに行かない?あたしから、大人になったあなたに1杯奢らせて?」
『え?いいの?じゃ、みんなで行こうよ』
「ルパン達は少し次の計画の話があるらしいの。終わってから合流しましょうね?」
『まじ?ここまで来て、それかぁ[D:12316]』
渋々了承したななしは不二子に背を押され出ていった。
扉がしまったかと思えば再び開かれ仁王立ちの不二子が俺に向け「少しは頭冷やしなさいよ」だとよ。
再びしまった扉。
部屋が一気に静まり、居心地が悪いったらありゃしねぇ。
「次元ちゃーん、なーに言ってんの」
「お主がその言葉の意味を履き違えているとも思えん。如何様な心持ちで言ったのか?」
「意味わかってなくてもあとから知ったら悲しむぜ、ななしちゃん」
「るせー!わかってるさ」
「じゃ、なんであんな言い方したんだよ」
「………精一杯だったんだよ…」
あの時ななしに見惚れた俺には、それが、それだけを紡ぐのが本当に精一杯だったんだ。
「あーちゃー、次元ちゃん。ななしちゃんにベタ惚れしちゃって…」
「使い物にならぬな」
「言ってろ、お前さんたちには一生わかるめぇ」
急に大人びて、急に色気が溢れて、可愛いとかじゃなく綺麗で。
しかも、俺が選んで俺が送ったスーツ姿で。
どうにも横からかっさらってしまわれそうで。
それならいっそ閉じ込めておきたいだとか、誰の目にも触れない所へ連れていきたいとか。
今すぐ喘がせたいとか、抱きたいとか、そんな邪なもの全てが。
「綺麗」のたった2文字だけで溢れ出てしまいそうだった。俺の浅ましい欲望が、その全てが。
もしそれらが知られたら?ななしの中の次元大介がこんなにも劣情にまみれた男だと知ったら?
「つまらねぇ男なのは承知だ。だがななしの"失望"にくらべりゃつまらねぇくらいなんのこっちゃねぇよ」
「それはななしが可哀想なんでねぇの?」
「自己完結ほど身勝手なものは無いぞ次元」
「身に染みるぜ、全く」
「だいたい失望が怖くて愛だ恋だ言ってられるかっての!」
「お前はわかっちゃいねぇ!自分が浅ましい奴だと知られる意味が。……サヨナラ待ったなしに決まってらぁ」
「そうかぁ?知って知られて!それが恋愛だと俺は思うけどねぇ」
「はぁ?それをてめぇが言うのか?執着の執の字も見せねぇ軽口男がよぉ」
「かぁー!さっきまでななしが俺から離れるなんてありえないだとか言ってたくせに!やーい恋愛童貞!」
「お前が愛だ恋だを語るな、この女好きめ」
「あー!!八つ当たりだぁ!自分が素直になれないからって俺様に当たるなよ」
「けっ、事実だろうが」
「拙者もそれには同意見でござる」
「おい、五ェ門!どっちの味方なんだ、お前はー!」
「ななし、でござる」
「…違いねぇ」
「はぁ…痴話にもならない痴話喧嘩に巻き込むなよな[D:12316]次元」
「…すまねぇ」
「素直なこって」
分かってるさ、八つ当たりしてることも俺のわがままでしかないってことも。
だが、5つも6つも年下なななしに対してこんなにも余裕が無いなんて知られたくはない。
知られて失望されるなんてもっと癪だ。
アイツはクールで大人しい次元大介好きなんだ。
黒くて、欲望まみれの醜い次元大介なんかじゃない。
ただ祝うために豪華客船にやってきただけなのに。
癒されるどころかどっと疲れた。
今は室内に飾られてキラキラ光るシャンデリアさえ鬱陶しい。
腹は減っていたし酒も飲みたかったが、気疲れしていて体を動かすのも億劫だ。
一室のデケェクイーンサイズのベッドに寝転んでやった。
「弱みそだな、次元ちゃんは」
「言ってろ」
「そーんな、次元ちゃんに朗報でーす!」
「はぁ?」
ルパンは意地悪くニシニシと笑いベッドサイドのテーブルに懐から広帯域から音声を拾う高機能レシーバーを取りだし置きやがった。
よく見知ったそれがまさか今こんな時に出てくるなんて誰が想像出来る。
俺も五ェ門も目の前の男がなぜそんなものを持っているのかと呆れるしかない。
「ななしを"盗聴"かぁ?額に風穴を開けたいらしいな」
「ちょちょちょ、本当にたまたまなんだって[D:12316]」
「たまたまでななしに盗聴器仕掛けるやつがあるか!」
「ルパン…お主、まさか…」
「本当に盗聴目的とかじゃないからね!?本当にたまたまなのよ[D:12316]」
「けっ、どうだか」
「何を考えているのかさっぱり分からぬ」
「イカれてんだろ、ついていけねぇぜ。全く」
「……で、聞くの?聞かないの?」
「………」
悩んだ、悩んだ。
悩んだ結果…
"「ななし[D:12316]、ほらこれ。弱いから平気でしょ?」"
"『ありがとう。不二子』"
聞くしか無かった。
というか、聞かずにはいられなかった。
ななしが失望するってんならもう仕方ない。
自分を誤魔化すために咄嗟にでた酷い言葉。今になってめちゃくちゃに後悔しているが言っちまったもんは変えられねぇ。
俺だって大人だ。
受け入れる覚悟をしねぇと。
"『うーん、はじける[D:12316]』"
"「スプリッツァーだもの。ドイツ語のシュプリッツェン…はじけるからきてるの」"
"『へぇ、爽やかで飲みやすい』"
"「ふふ、お子ちゃまなななしにピッタリね」"
"『否定はしないよ。みんなより格段にお子ちゃまだから』"
"「あら、やだ。拗ねないで、ね?」"
"『はは!拗ねてないよ、でも事実だからね』"
"「大丈夫、あなたはあたしが認めた男よ?充分大人よ」"
"『そう?だったら嬉しいな』"
ななしと不二子は本当にバーにいるようだ。
酒に弱いななしにアルコール度数が低いスプリッツァーを奢ったらしい。
"『それに今日はこのスーツだからね!大人度アップアイテム、次元がくれたスリーピーススーツ[D:12316]』"
嬉しそうな声音とバザバサと布が擦れる音がレシーバーから聞こえてくる。
ついで耳に入ったのは明らかにムッとした様な不二子の「スーツねー…」の一言。
その一言に俺の体がぴしりとかたまった。
"「ななしあのね、」"
"『うん?』 "
申し訳なさそうに尻込みしながら不二子は切り出した。
あぁ、こいつはきっと言うのだろうな。
先程の言葉が揶揄う意味を含んだ言葉なのだと。
"「さっきの…次元言ったでしょ?」"
"『まごにも?なんちゃら?』"
"「そう。ルパンはかっこいいがさらにかっこ良くなるって言ってたけど実は違うの」"
あーあ。ばらしやがった。
本当なら不二子に言われる前に俺が謝らなきゃならないはずなのに。
俺が臆病なせいで最悪の形で伝わってしまった。
あー…ちくしょう、かっこわるい。
もう本当にどうにでもなれ。
サヨナラでも失望でも、
しかし、次にレシーバーから聞こえたのは俺が予想していた言葉とはかけ離れていた。
"『はは、知ってる。明確にはわかないけど悪い意味だろうなってのは分かってた』"
「な、」
「どういうことー?」
「拙者にもわからぬ」
馬子にも衣装…がからかいの言葉だとわかっていた?
それならなんであんな風に笑った?心から嬉しそうに。
空気が悪くならないように気を使い嘘を言っているのか?いや、ななしはそんなたまじゃねぇ。だいたい不二子にだって気を使わないやつだ。
なら、どういうことだ。
俺もルパンも五ェ門も。
首を傾げるしかない。
"「分かってたの?」"
"『そりゃ、次元が呟いた瞬間ルパンや五ェ門、不二子が一斉に鋭く彼を睨んだんだよ?分かるって、ルパンも咎めるように名前を呼んでいたし…あの場に似つかわしくない言葉だったんだろうなってのはみんなの様子とニュアンスで分かったさ』"
まぁ、そうだな。
仮にも泥棒を自負しているんだ、それくらいの観察力は持ち合わせていてもおかしくは無い。
"「じゃ、なんで笑ったわけ?」"
そう、本題はこれだ。
良くないとわかっていたのに、なぜあんなふうに笑えた?眩しいほどに。
理由を聞かせてくれ。
"『え、それを聞くか?』"
彼が躊躇うように、照れたように呟く。
その先が知りたくて俺は生唾を飲み込む。
"『笑わない?』"
"「約束するわ」"
"『だ、だって…』"
"「だって?」"
"『とても、真っ直ぐでとても情熱的な瞳だったから』"
"「…え?」"
「真っ直ぐで」
「情熱的ぃ?」
「……」
"『いつも、変装したりするとガキからクソガキとか、見れるようになったなって次元はそういうんだ。揶揄うように』"
"「えぇ、それで?(それもどうかと思うけど…)」"
"『だけどね、今回は違った。言葉も違うけど…それ以上に瞳がね。違った。例え馬鹿にした一言だろうと、それよりも先に瞳から気持ちが先行して伝わってきたんだよ…綺麗だって』"
"「なにそれ、感だって事?」"
"『そうだね、でも向けられる感情…視線があまりに情熱的で生々しくて…まるで』"
"「まるで?」"
"『……じ、情事中の時の濡れた瞳と同じだったから。わ、悪い気はしなかったしむしろ嬉しかった…。好意を真っ直ぐ向けられているのが分かったから…次元喜んでくれてるんだって思ったんだ』"
"「帽子の鍔で目なんて見えなかったんじゃない?」"
"『あはは!見えてるよ!いや、うーん。違うね。ちゃんと次元が見せてくれるんだ。あのオニキスみたいに真っ黒で綺麗な瞳をね。それにあの時例え似合わないとか不細工だって言われたとしてもきっと俺は喜んでたよ。言葉より瞳は正直だからね』"
"「…目は口ほどに物を言うって言うものね」"
"『情が、気持ちが籠った目付きってのはどんな言葉よりも如実だ』"
「次元[D:12316]」
「やめろ、ルパン皆まで言うな」
「全てお見通しという訳か」
「情けないったらありゃしない。ななしちゃんは分かってるのになんで次元はそんなウジウジちゃんなんだよ」
「皆まで言うなって言ってんだろうが!」
情けない、情けない。
誰よりも1番俺自身が分かってる。
俺のななしへの思いがまさか瞳からこうも筒抜けだったなんて。
本気でウジウジしてたのは俺だけだったみたいだ。
「ななしの方が余程大人であるな」
「やめろ、五ェ門。それはなかなかに刺さる」
「もう、次元の信用が足りなかったせいだ。早くななしちゃんとこ行って好きなり抱きたいなり言ってきなさいよ[D:12316]ななしちゃんにあんまりだぜ」
信用して無いわけではない。
それは語弊がある。
誰だって好きな相手に疾しい部分など晒したくないものだ。俺だって疾しい感情や真っ黒な欲望はこんな真っ直ぐなななしには知られたくない。
だが、ななしはきっと俺の疾しいもの全てを受け入れてくれるのだろうな。
今みたいに『悪い気はしない』と。
そこだけは少しだけ自信を持っていいのかもしれない。
俺よりはるかに大人で、落ち着いていて、相手を思いやれるななし。
今すぐにななしに会いたくなった。
ベッドから飛び起きて、レシーバーの音量をゼロにする。
それから俺はゆっくりとバーに向かった。
もちろんななしを捕まえるために。
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