短編 男主
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(happy Xmas)
補佐官主×(クリーデンス/グレイブス/モデスティ)
いつもよりも煌びやかで賑やかな街。親と子が手を繋ぎ楽しげに歩く姿があちらこちらで見えた。
暖かい格好で、柔らかな優しさに包まれ健やかな笑顔の子供達は本当に幸せそう。クリーデンスは行き交う人に埋もれながらその優しい親子愛を目の当たりになんとなくやるせない気持ちになっていた。
今日も、今日とてビラ配りをしなければなら無い事には変わりなく。たくさんのビラをメアリー・ルーからわたされていた。
例えクリスマスだろうがバレンタインだろうがセーレムに余暇などはない。あるのは大量のビラとノルマだけ。今手にしているビラを配り終えるというノルマだ。
凍えるような寒さで身を震わせながらビラを一枚、一枚配るも誰も手にはしない。無慈悲に手を弾かれては風にビラが飛んでいく。
これでは家に帰れない。
落ち雑踏にもみくちゃにされたビラを拾い上げる。まるでしなだれたビラはクリーデンスによくにている。
あぁ、惨めだ。そう感じずにはいられなかった。
「クリーデンス」
「?あ、モデスティ」
項垂れため息をついていたクリーデンスの腰に抱きついたのは、一緒にビラ配りに来ていたモデスティだ。彼女の手にも大量のビラが抱えられている。彼女のノルマだ。
「寒いわクリーデンス」
「うん、そうだね」
「いいなぁ。クリスマス、母さんはクリスマスを祝ったことないわ」
「仕方ないよ、セーレムは忙しいから」
「…母さんは忙しそうじゃないわ」
いじけた風に足元の石を蹴り転がすモデスティ。彼女程の年齢ではクリスマスと言えば一大イベントであろう。しかし我が家には暖かいスープや甘く白いケーキもない。クリスマスらしいのは街だけ。イルミネーションに光る店や、ツリーのある通りも、別次元に存在しているかのようだ。
誰もクリーデンスやモデスティを気にもとめない。もしかしたら自分達だけ取り残されてしまったのかもしれない。疎外感だけが2人を苛み蝕む。
本当はケーキを食べ、サンタからのプレゼント…とは建前で親が買ってくれたプレゼントを見て暖かいものをお腹いっぱいに食べたい。叶わないからこそ、と強く願った。
「帰ろうクリーデンス。寒いわ」
「でも母さんが」
「このビラ私いつもこうするの、人が多いところで、見ててクリーデンス」
「ぇ、あ!モデスティ」
「それ!」
モデスティが何をするかを理解した時にはもう何十枚ものビラが空を舞っていた。風に揺れ飛ばされていくものや地面に呆気なくおちていくもの。しかし先程は見向きもしなかったが今の出来事でビラに注目しているような通行人もいた。
この行動が正しいのかもよく分からない。
しかし、もし見つかったらきっとひどい仕打ちが待っているに違いない。それでもモデスティはこれでいいと言う。
「帰って眠ってしまおうよクリーデンス。クリスマスなんて私たちには関係ないもの」
「…うん、帰ろう」
「クリーデンス」
クリスマスの夜。結局特別なことが起きるわけでもなく。2人はセーレムの家についてしまった。
家の中はいつもと全く変わらない寂しさだ。
一層クリスマスであることを忘れさせられる。
今現在母やチャイタナスティはいないらしく2人はそそくさ部屋に逃げ込む。
小さながら与えられている自室にある木のベッドにクリーデンスはゆっくり腰を下ろした。
「はぁ…」
今頃ナナシはなにをしているのだろうか。
モデスティが一緒にいたため路地裏にはいけなかったが、もしかしたら待っていたのかもしれない。だが、今モデスティだけを残しナナシに会いに行くのは何故か躊躇われた。
結局路地裏にはいかずに、ナナシの顔もみることなくクリスマスが終わっていく。
「クリーデンス」
コンコン、と控えめに鳴ったノック。モデスティが自身の名を読んだ。
ゆっくり開かれた扉からは枕を抱え既に寝巻きにになったモデスティ。どうやら一緒に眠りたいらしい。
「クリスマスなんて、大嫌い。私達だけプレゼントが無いなんて。サンタクロースは本当に意地悪だわ」
「…モデスティ」
「クリーデンスもプレゼントは貰ってないの?」
「うん。同じだよ」
「そっか…じゃぁ、いい子でいる意味なんてないね 」
モデスティの言う通りだ。しかしなんて悲しい言葉であろうか。さぁ、早くベッドに行き眠ってしまおう。モデスティとクリーデンスは同じベッドに入り寒さを凌ぐように身を寄せあった。
クリスマスなんて名前だけの日常だ。
少しの期待を分け与えるくらいならいっそ無くなってしまえばいい。
「おやすみなさい」と震える声で言うモデスティの髪を優しく撫でながらクリーデンスも「おやすみ」と目を閉じた。
冷たかったシーツが温まってきた頃。モデスティはすっかり眠ってしまい、クリーデンスは微睡みの中にいた。眠ってしまうのはどうしてか嫌だった。やはりナナシに会えないことが気がかりだたったから。しかし今日は家からもうでられないだろう。クリスマスと言うくらいなんだからと、いもしないサンタクロースとやらに会えるよう取り成してくれないかとやんわり願ってみた。
「……」
やはり無理か。
本日何度目かわからないため息を吐いたクリーデンス。布団を肩までかぶり直して今度こそ眠りにつくためつよく目を閉じた。
コンコン
「え?」
モデスティがノックしたのとは別のノック音。しっかり窓に陰りができていた。
何事かと窓を見つめていると、一瞬何かが歪んだように見えた。一度瞬きをする間になぜなかナナシが立っていた。
『あ!起きてらっしゃるクリーデンスさん』
「え、な、なんで」
『折角のクリスマスですよぅ?会いたかったんです』
「あ、ぼ、僕も」
『フフ、本当に?嬉しいです』
まさか、クリスマス。しかもここまで来てくれるだなんて。わなわな感動に身を震わせているとナナシがつかつか歩み寄り半身だけ起こしていたクリーデンスを優しくだきしめた。
あぁ、求めていた香りと優しさと温もりだ。クリーデンスはナナシの肩に顔を埋める。嬉しくて堪らなかった。
「おい、何をしているナナシ」
『見ての通り、ハグです。長官』
「そんなことはわかっている」
『拗ねないでくださいよ。いい大人が恥ずかしいですよ?』
「拗ねてなどいない。だいたいお前の突拍子もない提案を呑んだのはこの私だぞ。クリスマスと言えど仕事がない訳では無い」
『それは…ありがとうございます』
「用は早く済ませろ」
『はーい』
どうやら、ナナシだけでなくグレイブスも来たらしい。狭い部屋に3人も男性がいると少し狭く感じる。
ナナシはゆったりベッドに座る。クリーデンスはただ見つめていた。
『折角のクリスマスですからね。私は貴方に何もできませんが…プレゼントくらいはと思いまして』
「…いいの?」
『はい!勿論!クリーデンスさんは私の最愛の友人ですからね!特別です。生憎サンタクロースではないんですが』
「サンタクロースなんかより、僕は…ナナシがいい」
『クリーデンスさん…。はい、私も貴方がいいですよ』
また見つめ合いハグしあうナナシとクリーデンス。なんてたどたどしいハグであろうか。
クリーデンスにとってはそれが一番のクリスマスプレゼントかもしれない。
グレイブスは黙ったまま暫く二人を見つめた。いつもクリーデンスに無理を言いオブスキュラスを探させている。すぐに見つかるものでもない、たまにはこう言った息抜きも必要かもしれない。非常に不本意であったが今日は彼らに暫く付き合ってやるか。
この先、こんな風に過ごせなくなるかもしれないから。
「…クリーデンス?」
「ぁっ、モ、モデスティ!?」
『あ、妹さんですね』
「モデスティ、彼は」
「サンタクロースだ」
「え?」
「そうでしょ?クリーデンス!サンタクロースだわ!」
どうやら浅い眠りだったモデスティは少しの話し声で起きてしまったらしい。眠たげな目を掻きながらベッドから飛び降りた。
とても嬉しそうだ。このままサンタクロースでいいかもしれないと思うほどに愛くるしい表情でナナシやグレイブスを見ている。
「モデスティ」
グレイブスはそんなモデスティに、しゃがみ目を合わせる。「瞳を閉じて」と言えば素直に答えたモデスティ。するとグレイブスは懐から取り出した魔法の杖を一度振った。綺麗なキラキラした光がモデスティの足元からゆっくり全身を包んでいく。つま先は裸足だったのに光が上へ進むと可愛いリボンのついた靴が。その光が下半身、上半身を包むと赤いくて可愛らしいフリルのついたワンピースが。
まるで一瞬のできごと。白の味気ないワンピースを着ていたモデスティは真っ赤で可愛らしいワンピースを身にまとっていた。
よく似合っている。
「レディなら赤のワンピースを一着はもっているといい」
「可愛い!すごいねサンタクロース!まるで魔法みたい」
「あぁ、そうだとも」
「ありがとう。私クリスマスが嫌いだったけどサンタクロースが来てくれたから好きになったわ。来年も来てね」
「君がいい子にしていれば叶わないものでもない」
「わかった!いい子でいるわ」
「あぁ」
服が変わるだけで性格まで変わったか嬉しそうにくるくる回るモデスティ。クリーデンスはホッと安堵のため息をついた。
『さぁて、クリーデンスさん。次は貴方ですよ。私が準備したプレゼント、受け取ってください』
「う、うん」
『この前は手袋だけでしたからね、寒さ厳しい冬を乗り越えられません』
一つ杖を降る。クリーデンスの膝の上につつみに包まれたプレゼント。
『これも貴方に』
また一つ杖を降った。また膝の上に今度は箱のプレゼントが現れた。
どちらも貴方に似合うと思いました、とニコニコ笑うナナシを尻目にプレゼントを開封していくクリーデンス。モデスティもやって来てその中身をワクワクした面持ちで見ている。
まずは包を開けたクリーデンス。中から深い緑のマフラーが。とても暖かい素材の長いマフラーだ。
「素敵クリーデンス!こっちは?」
「あ、うん。開けてみるよ」
箱のつつみを剥がし蓋を開けてみる。
中から出てきたのは皮素材の高級そうな靴。まるでお金持ちが履くような靴だ。
『クリーデンスさんの靴、少し傷んでましたから』
「ナナシ…本当に?くれるの?」
『勿論ですよ。愛しい貴方に差し上げます』
「ぁ、ありがとう、ございます」
『いいえ』
「クリーデンスよかったね」
「そうだね、」
嬉しそうにはにかむモデスティやいつもは見せないおだやかな顔をするクリーデンスを見ると心底喜んでもらえたらしい。それはナナシにとっても嬉しいことであった。
グレイブスもやんわり笑みを浮かべているから、この二人を愛らしく思っているのかもしれない。
『さて。仕事がまだありますから私とちょうか…グレイブスサンタは帰りますねクリーデンスさん、モデスティ』
「ぁ、本当にありがとう」
『こちらこそありがとうございます!喜んでいただけただけで、嬉しいですよ』
「あ。あの、ナナシ」
『なんですか?』
「……」
『?』
「ナナシ…」
クリーデンスはナナシをじっと見つめた。首をかしげる彼を見下ろし拳をきゅっと握る。
そして意を決してその白く美しい頬にクリーデンスはありがとうの意味を込めて優しくキスをしたのだ。
まさかクリーデンスからキスされると思わなかった
ナナシは一瞬で真っ赤になる。キスした本人もこれまた真っ赤になっていた。
ぎこちない動きになってしまった二人を見、グレイブスは滑稽だなと頭を抱えた。
『わ、わわ私いきますね?クリーデンスさん、また会いましょう?』
「……うん、また」
「では私達は行く。モデスティも早く眠りなさい」
「はぁい」
『最後に飛び切りのプレゼントを用意しますから。目を瞑って窓のそばにいて下さいね?』
「わかったわ」
「うん」
さて、お別れの時間。クリーデンスもナナシもお互い離れるのを惜しみながらバイバイと手を振りあった。まだ頬や唇が熱い。
モデスティがしっかり目を瞑ったのを確認し終えナナシと、グレイブスは姿くらましでその場をあとにした。
飛び切りのプレゼントをするため今度は高い高い時計塔を目指す。
寒さ厳しい中、時計塔にたてばより肌に突き刺さる冷風を感じる。
「飛び切りのプレゼントとはなんだ?」
『雪です』
「降らせられるのか?」
『貴方の出番です!長官!』
「…」
『雲を刺激してくれませんか?あの子達まだ目を瞑ってますよぅ?』
「…君は…全く…」
『早くお願いします!』
渋々といった感じでグレイブスは杖を力強く降る。雷のような稲妻が杖から放たれはるか上空にある雲を一つ貫く。何かの刺激で雪が降るなど聞いたことはないが、それでも彼らにはホワイトクリスマスをプレゼントしたい。ナナシは空を見つめた。
『あ、』
「雪だな」
『よかった降ってくれましたね!』
ハラリ、ハラリ。一つ二つ、白く冷たい雪が降ってきた。グレイブスのお陰だ。
『見てますかね?』
「君が彼らばかりで少し妬けるな」
『やはり拗ねてましたね』
「さぁ、ナナシクリスマスプレゼントを要求するよ」
『はぁ?もってないですよ?』
「いや、持っているさ。ナナシ」
『んっ!』
つらつら舞い降りる雪を肌身で感じながら唇に訪れたあついあつい唇。それは全てを溶かしていくように熱く情熱的だ。
舌がナナシの口内に入り込む。息苦しさに目を瞑る彼を尻目にグレイブスはもっともっとと口内を蹂躙する。舌を吸うように扱いてじとりと歯列を、撫で回す。
『んっ、ふぁっ、んあ!はぁ!長官!?長い!』
「色気のいの字もないな」
『いきなりやめてくださいよ』
「これくらいしなければ割には合わない」
『…帰りましょう長官』
「あぁ」
『あ、私にもプレゼントくださいよ!ボーナスの2倍で手を打ちます!』
「帰ったらプレゼントをやろう。仕事に差し支えなければいいがな」
『いらないです!そんなプレゼント。それに私、クリーデンスさんの可愛らしいプレゼントのほうがいいです』
「…お仕置き決定だ、ナナシ」
『や、やですからね!?』
魔法で見事ホワイトクリスマスに洒落こませたのに。なんて似つかわしくない会話だろうか。
強制だと手を掴まれ逃げられなくなったナナシは今頃クリーデンスは喜んでるかな?など、呑気に彼らを思い出していたのだった。
happy Xmas
- XRIE -
補佐官主×(クリーデンス/グレイブス/モデスティ)
いつもよりも煌びやかで賑やかな街。親と子が手を繋ぎ楽しげに歩く姿があちらこちらで見えた。
暖かい格好で、柔らかな優しさに包まれ健やかな笑顔の子供達は本当に幸せそう。クリーデンスは行き交う人に埋もれながらその優しい親子愛を目の当たりになんとなくやるせない気持ちになっていた。
今日も、今日とてビラ配りをしなければなら無い事には変わりなく。たくさんのビラをメアリー・ルーからわたされていた。
例えクリスマスだろうがバレンタインだろうがセーレムに余暇などはない。あるのは大量のビラとノルマだけ。今手にしているビラを配り終えるというノルマだ。
凍えるような寒さで身を震わせながらビラを一枚、一枚配るも誰も手にはしない。無慈悲に手を弾かれては風にビラが飛んでいく。
これでは家に帰れない。
落ち雑踏にもみくちゃにされたビラを拾い上げる。まるでしなだれたビラはクリーデンスによくにている。
あぁ、惨めだ。そう感じずにはいられなかった。
「クリーデンス」
「?あ、モデスティ」
項垂れため息をついていたクリーデンスの腰に抱きついたのは、一緒にビラ配りに来ていたモデスティだ。彼女の手にも大量のビラが抱えられている。彼女のノルマだ。
「寒いわクリーデンス」
「うん、そうだね」
「いいなぁ。クリスマス、母さんはクリスマスを祝ったことないわ」
「仕方ないよ、セーレムは忙しいから」
「…母さんは忙しそうじゃないわ」
いじけた風に足元の石を蹴り転がすモデスティ。彼女程の年齢ではクリスマスと言えば一大イベントであろう。しかし我が家には暖かいスープや甘く白いケーキもない。クリスマスらしいのは街だけ。イルミネーションに光る店や、ツリーのある通りも、別次元に存在しているかのようだ。
誰もクリーデンスやモデスティを気にもとめない。もしかしたら自分達だけ取り残されてしまったのかもしれない。疎外感だけが2人を苛み蝕む。
本当はケーキを食べ、サンタからのプレゼント…とは建前で親が買ってくれたプレゼントを見て暖かいものをお腹いっぱいに食べたい。叶わないからこそ、と強く願った。
「帰ろうクリーデンス。寒いわ」
「でも母さんが」
「このビラ私いつもこうするの、人が多いところで、見ててクリーデンス」
「ぇ、あ!モデスティ」
「それ!」
モデスティが何をするかを理解した時にはもう何十枚ものビラが空を舞っていた。風に揺れ飛ばされていくものや地面に呆気なくおちていくもの。しかし先程は見向きもしなかったが今の出来事でビラに注目しているような通行人もいた。
この行動が正しいのかもよく分からない。
しかし、もし見つかったらきっとひどい仕打ちが待っているに違いない。それでもモデスティはこれでいいと言う。
「帰って眠ってしまおうよクリーデンス。クリスマスなんて私たちには関係ないもの」
「…うん、帰ろう」
「クリーデンス」
クリスマスの夜。結局特別なことが起きるわけでもなく。2人はセーレムの家についてしまった。
家の中はいつもと全く変わらない寂しさだ。
一層クリスマスであることを忘れさせられる。
今現在母やチャイタナスティはいないらしく2人はそそくさ部屋に逃げ込む。
小さながら与えられている自室にある木のベッドにクリーデンスはゆっくり腰を下ろした。
「はぁ…」
今頃ナナシはなにをしているのだろうか。
モデスティが一緒にいたため路地裏にはいけなかったが、もしかしたら待っていたのかもしれない。だが、今モデスティだけを残しナナシに会いに行くのは何故か躊躇われた。
結局路地裏にはいかずに、ナナシの顔もみることなくクリスマスが終わっていく。
「クリーデンス」
コンコン、と控えめに鳴ったノック。モデスティが自身の名を読んだ。
ゆっくり開かれた扉からは枕を抱え既に寝巻きにになったモデスティ。どうやら一緒に眠りたいらしい。
「クリスマスなんて、大嫌い。私達だけプレゼントが無いなんて。サンタクロースは本当に意地悪だわ」
「…モデスティ」
「クリーデンスもプレゼントは貰ってないの?」
「うん。同じだよ」
「そっか…じゃぁ、いい子でいる意味なんてないね 」
モデスティの言う通りだ。しかしなんて悲しい言葉であろうか。さぁ、早くベッドに行き眠ってしまおう。モデスティとクリーデンスは同じベッドに入り寒さを凌ぐように身を寄せあった。
クリスマスなんて名前だけの日常だ。
少しの期待を分け与えるくらいならいっそ無くなってしまえばいい。
「おやすみなさい」と震える声で言うモデスティの髪を優しく撫でながらクリーデンスも「おやすみ」と目を閉じた。
冷たかったシーツが温まってきた頃。モデスティはすっかり眠ってしまい、クリーデンスは微睡みの中にいた。眠ってしまうのはどうしてか嫌だった。やはりナナシに会えないことが気がかりだたったから。しかし今日は家からもうでられないだろう。クリスマスと言うくらいなんだからと、いもしないサンタクロースとやらに会えるよう取り成してくれないかとやんわり願ってみた。
「……」
やはり無理か。
本日何度目かわからないため息を吐いたクリーデンス。布団を肩までかぶり直して今度こそ眠りにつくためつよく目を閉じた。
コンコン
「え?」
モデスティがノックしたのとは別のノック音。しっかり窓に陰りができていた。
何事かと窓を見つめていると、一瞬何かが歪んだように見えた。一度瞬きをする間になぜなかナナシが立っていた。
『あ!起きてらっしゃるクリーデンスさん』
「え、な、なんで」
『折角のクリスマスですよぅ?会いたかったんです』
「あ、ぼ、僕も」
『フフ、本当に?嬉しいです』
まさか、クリスマス。しかもここまで来てくれるだなんて。わなわな感動に身を震わせているとナナシがつかつか歩み寄り半身だけ起こしていたクリーデンスを優しくだきしめた。
あぁ、求めていた香りと優しさと温もりだ。クリーデンスはナナシの肩に顔を埋める。嬉しくて堪らなかった。
「おい、何をしているナナシ」
『見ての通り、ハグです。長官』
「そんなことはわかっている」
『拗ねないでくださいよ。いい大人が恥ずかしいですよ?』
「拗ねてなどいない。だいたいお前の突拍子もない提案を呑んだのはこの私だぞ。クリスマスと言えど仕事がない訳では無い」
『それは…ありがとうございます』
「用は早く済ませろ」
『はーい』
どうやら、ナナシだけでなくグレイブスも来たらしい。狭い部屋に3人も男性がいると少し狭く感じる。
ナナシはゆったりベッドに座る。クリーデンスはただ見つめていた。
『折角のクリスマスですからね。私は貴方に何もできませんが…プレゼントくらいはと思いまして』
「…いいの?」
『はい!勿論!クリーデンスさんは私の最愛の友人ですからね!特別です。生憎サンタクロースではないんですが』
「サンタクロースなんかより、僕は…ナナシがいい」
『クリーデンスさん…。はい、私も貴方がいいですよ』
また見つめ合いハグしあうナナシとクリーデンス。なんてたどたどしいハグであろうか。
クリーデンスにとってはそれが一番のクリスマスプレゼントかもしれない。
グレイブスは黙ったまま暫く二人を見つめた。いつもクリーデンスに無理を言いオブスキュラスを探させている。すぐに見つかるものでもない、たまにはこう言った息抜きも必要かもしれない。非常に不本意であったが今日は彼らに暫く付き合ってやるか。
この先、こんな風に過ごせなくなるかもしれないから。
「…クリーデンス?」
「ぁっ、モ、モデスティ!?」
『あ、妹さんですね』
「モデスティ、彼は」
「サンタクロースだ」
「え?」
「そうでしょ?クリーデンス!サンタクロースだわ!」
どうやら浅い眠りだったモデスティは少しの話し声で起きてしまったらしい。眠たげな目を掻きながらベッドから飛び降りた。
とても嬉しそうだ。このままサンタクロースでいいかもしれないと思うほどに愛くるしい表情でナナシやグレイブスを見ている。
「モデスティ」
グレイブスはそんなモデスティに、しゃがみ目を合わせる。「瞳を閉じて」と言えば素直に答えたモデスティ。するとグレイブスは懐から取り出した魔法の杖を一度振った。綺麗なキラキラした光がモデスティの足元からゆっくり全身を包んでいく。つま先は裸足だったのに光が上へ進むと可愛いリボンのついた靴が。その光が下半身、上半身を包むと赤いくて可愛らしいフリルのついたワンピースが。
まるで一瞬のできごと。白の味気ないワンピースを着ていたモデスティは真っ赤で可愛らしいワンピースを身にまとっていた。
よく似合っている。
「レディなら赤のワンピースを一着はもっているといい」
「可愛い!すごいねサンタクロース!まるで魔法みたい」
「あぁ、そうだとも」
「ありがとう。私クリスマスが嫌いだったけどサンタクロースが来てくれたから好きになったわ。来年も来てね」
「君がいい子にしていれば叶わないものでもない」
「わかった!いい子でいるわ」
「あぁ」
服が変わるだけで性格まで変わったか嬉しそうにくるくる回るモデスティ。クリーデンスはホッと安堵のため息をついた。
『さぁて、クリーデンスさん。次は貴方ですよ。私が準備したプレゼント、受け取ってください』
「う、うん」
『この前は手袋だけでしたからね、寒さ厳しい冬を乗り越えられません』
一つ杖を降る。クリーデンスの膝の上につつみに包まれたプレゼント。
『これも貴方に』
また一つ杖を降った。また膝の上に今度は箱のプレゼントが現れた。
どちらも貴方に似合うと思いました、とニコニコ笑うナナシを尻目にプレゼントを開封していくクリーデンス。モデスティもやって来てその中身をワクワクした面持ちで見ている。
まずは包を開けたクリーデンス。中から深い緑のマフラーが。とても暖かい素材の長いマフラーだ。
「素敵クリーデンス!こっちは?」
「あ、うん。開けてみるよ」
箱のつつみを剥がし蓋を開けてみる。
中から出てきたのは皮素材の高級そうな靴。まるでお金持ちが履くような靴だ。
『クリーデンスさんの靴、少し傷んでましたから』
「ナナシ…本当に?くれるの?」
『勿論ですよ。愛しい貴方に差し上げます』
「ぁ、ありがとう、ございます」
『いいえ』
「クリーデンスよかったね」
「そうだね、」
嬉しそうにはにかむモデスティやいつもは見せないおだやかな顔をするクリーデンスを見ると心底喜んでもらえたらしい。それはナナシにとっても嬉しいことであった。
グレイブスもやんわり笑みを浮かべているから、この二人を愛らしく思っているのかもしれない。
『さて。仕事がまだありますから私とちょうか…グレイブスサンタは帰りますねクリーデンスさん、モデスティ』
「ぁ、本当にありがとう」
『こちらこそありがとうございます!喜んでいただけただけで、嬉しいですよ』
「あ。あの、ナナシ」
『なんですか?』
「……」
『?』
「ナナシ…」
クリーデンスはナナシをじっと見つめた。首をかしげる彼を見下ろし拳をきゅっと握る。
そして意を決してその白く美しい頬にクリーデンスはありがとうの意味を込めて優しくキスをしたのだ。
まさかクリーデンスからキスされると思わなかった
ナナシは一瞬で真っ赤になる。キスした本人もこれまた真っ赤になっていた。
ぎこちない動きになってしまった二人を見、グレイブスは滑稽だなと頭を抱えた。
『わ、わわ私いきますね?クリーデンスさん、また会いましょう?』
「……うん、また」
「では私達は行く。モデスティも早く眠りなさい」
「はぁい」
『最後に飛び切りのプレゼントを用意しますから。目を瞑って窓のそばにいて下さいね?』
「わかったわ」
「うん」
さて、お別れの時間。クリーデンスもナナシもお互い離れるのを惜しみながらバイバイと手を振りあった。まだ頬や唇が熱い。
モデスティがしっかり目を瞑ったのを確認し終えナナシと、グレイブスは姿くらましでその場をあとにした。
飛び切りのプレゼントをするため今度は高い高い時計塔を目指す。
寒さ厳しい中、時計塔にたてばより肌に突き刺さる冷風を感じる。
「飛び切りのプレゼントとはなんだ?」
『雪です』
「降らせられるのか?」
『貴方の出番です!長官!』
「…」
『雲を刺激してくれませんか?あの子達まだ目を瞑ってますよぅ?』
「…君は…全く…」
『早くお願いします!』
渋々といった感じでグレイブスは杖を力強く降る。雷のような稲妻が杖から放たれはるか上空にある雲を一つ貫く。何かの刺激で雪が降るなど聞いたことはないが、それでも彼らにはホワイトクリスマスをプレゼントしたい。ナナシは空を見つめた。
『あ、』
「雪だな」
『よかった降ってくれましたね!』
ハラリ、ハラリ。一つ二つ、白く冷たい雪が降ってきた。グレイブスのお陰だ。
『見てますかね?』
「君が彼らばかりで少し妬けるな」
『やはり拗ねてましたね』
「さぁ、ナナシクリスマスプレゼントを要求するよ」
『はぁ?もってないですよ?』
「いや、持っているさ。ナナシ」
『んっ!』
つらつら舞い降りる雪を肌身で感じながら唇に訪れたあついあつい唇。それは全てを溶かしていくように熱く情熱的だ。
舌がナナシの口内に入り込む。息苦しさに目を瞑る彼を尻目にグレイブスはもっともっとと口内を蹂躙する。舌を吸うように扱いてじとりと歯列を、撫で回す。
『んっ、ふぁっ、んあ!はぁ!長官!?長い!』
「色気のいの字もないな」
『いきなりやめてくださいよ』
「これくらいしなければ割には合わない」
『…帰りましょう長官』
「あぁ」
『あ、私にもプレゼントくださいよ!ボーナスの2倍で手を打ちます!』
「帰ったらプレゼントをやろう。仕事に差し支えなければいいがな」
『いらないです!そんなプレゼント。それに私、クリーデンスさんの可愛らしいプレゼントのほうがいいです』
「…お仕置き決定だ、ナナシ」
『や、やですからね!?』
魔法で見事ホワイトクリスマスに洒落こませたのに。なんて似つかわしくない会話だろうか。
強制だと手を掴まれ逃げられなくなったナナシは今頃クリーデンスは喜んでるかな?など、呑気に彼らを思い出していたのだった。
happy Xmas
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