短編 男主
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
グレイブス×長官補佐
「あの、こ、これよろしくお願いします!」
『あ、はぁ』
大事な書類がある、ピッカリー議長にいわれ取りに足を運んだ際の話である。書類の内容は法律改訂のものであった。
それらに目を通しながら長官室へと向かっていた最中、1人の女性がやって来たのだ。
何事かと首をかしげたななしに女性は綺麗に包装された何かを差し出した。
後付けするように「グレイブス長官に…」と言われ合点がつく。あぁ、これはバレンタインのチョコレートか、と。
そんな出来事が長官室に行くまでに既に7回起きた。
どんよりしながら長官室を目指す。
恋人であるグレイブスに彼を慕う女性達からのチョコレートを渡す。なんて損な役回りだろうか。恋人である事を公言できないのはこんなにももどかしいとは。
いっそ断ってしまえばいいのに断れないのは性分だから。
ため息をついていると8回めのチョコレートが手渡された。
あぁ、また断れなかった。
『ただいま戻りました』
書類を取りに行ってきます。そう言い残し長官室を出たのはいつだったか。
グレイブスの机の書類が全てなくなっているのを見ると大分時間がかかったらしい。
「遅いな、ななし」
『貴方のせいです』
「私の?人のせいにするな。私はここにいた」
『だからですよぅ』
「?」
『はい、どうぞ』
全く分からないとでも言うような顔のグレイブスに少なからずななしはイラッとした。
しかしグレイブスはグレイブスで本当に検討もつかない。
ななしは抱えていたチョコレートを躊躇うことなくグレイブスの机にばらまいた。綺麗にラッピングされているものや、可愛らしい紙袋に入れられたもの。一つ一つがグレイブスへの愛をしたためたチョコレート。
ななしはそれをわかった上でグレイブスに渡したが、浮かない顔だ。
「不本意だという顔だな」
『当たり前じゃないですか』
「だったら断ればいいだろう」
『皆、私と同じ気持ちの方々ですよ。無下にできませんよぅ』
「君は彼女達と同じ気持ちなのか?」
『えっ、好きという点では同じかなぁと思いました』
「浅はかだなななし」
『すみません』
「謝るな、ななしが人が良いことはよく知っている」
『ん…』
「だが、少しは嫉妬してもらいたかったがね」
座っていたグレイブスはゆっくり立ち上がりうなだれるななしの頬を撫でる。
少しは心を痛めていたななしに意地悪をしてすまないと言うように優しく優しく。
ななしが嫉妬していることなどグレイブスは手に取るようにわかる。
しかしあからさまに態度に示さないことがつまらないのだ。
終いにはほかの女性の「好き」と自分の『好き』が同じだという。自分達がしたためてきた愛はそんなものなのかと言いたくなる。
それでも優しいななしはきっとどんな女性からチョコレートを渡されてもグレイブス自身に渡すであろう。それがグレイブスが愛したななしという人物だ。
『長官は…』
「なんだ?」
『私が嫉妬してないと思ってるんですか?』
「根に持つなほんの冗談だ」
『…貴方のその大人の余裕ってやつですか?それ…嫌いです』
「嘘をつくな」
『ウソじゃないですよーだ』
柔らかい頬を堪能していたグレイブスの手をゆるりと制しななしはピッカリー議長から受け取った書類片手に自分の机に向かった。
グレイブスのからかいに拗ねてしまったらしい。
「ななし拗ねるな」
『拗ねてないですよぅ。長官は甘いチョコ食べてればいいじゃないですか』
「では、苦いコーヒーでもいれてくれ」
『あっつあつにしてさしあげますよ!』
「ついでに君の甘ったるい紅茶でも入れろ。しばし休憩だ。デスクワークは応える」
『あはは、腰にですか?』
「…はやくいれてくれ」
『はーい』
グレイブスは自分の机から離れ、客を招き入れた時に使用されるひろびろとしたソファに移り変わる。この位置はコーヒーをいれるななしが一番よく見える場所だ。手馴れたように素早くコーヒーと紅茶を持ってきた彼。グレイブスに差し出し自分もソファにへと腰を下ろした。
『あったかい』
「始末するのに強力してくれ」
『始末って、長官。いくらなんでも酷いですよ』
「相手は名前しか知らないような女だ。いちいち間に受けていられるか」
『そんな言い方駄目ですよぅ』
「一方的な好意は迷惑だ。私はそう思う」
そう言い、グレイブスはラッピングをバリバリ破いた。出てきたのはチョコレート。
一つ手に取り口に投げ入れる。「あぁ、甘いな」と眉を寄せなんとなく嫌そうな顔をしていた。
「君も食べてくれ」
『あ。はい。いただきます』
「甘いだろう?」
『甘いです。美味しい』
「チョコレートだからな」
『…すいません』
「なにがだ?」
『私チョコレート用意してなくて』
「期待などしていなかったし、今これ以上貰っても食べられる気はしないからな。それにななしの想いは私がしっかりわかっているからバレンタインに便乗せずともいい」
『やっぱり大人って違います』
「君も大人だがね」
『大人だったらもう少し余裕があると思うんですけどね。私は貴方が彼女達のうちの誰かに靡いてしまわないかもやもやしてますもん』
「私が?これでも」
『あっ、長官っ』
「君への執着は凄まじいぞ?」
もそもそチョコレートを食べていたななしを抱き寄せ、彼の顎をとる。そのままゆっくり、しかし噛み付くようにキスをするグレイブス。
チョコレートも甘いがそれ以上にななしの唇は甘い。溶けてしまいそうな口付けを交わしながらななしはきゅっとグレイブスの袖をつかみ、健気に応える。
『はぁ、あ、長官…仕事中ですよ』
「キスくらいいいだろ?」
『誰かに見つかったら?』
「好都合ではないか。来年から君は無駄なチョコレートを運ばなくてすむ」
『そういう問題じゃないですよぅ』
「見せつけてやりたいと、私は思っているがね」
『女なら良かったですね。私が。公言出来ましたし』
「滅多なことを言うな。私は今の君を愛しているんだぞ」
『あはは。女だったら付き合ってなかったんでしょうかね?』
「もしもなど、考えなくていい。今ななしは私のそばに居る。それだけで充分だ」
『熱烈ですね
「君が不安がるからだ。心配せずとも君しか見えていないのに」
『ねぇ、長官。私も貴方を愛してます。だから、キスもう一回しましょう』
「仕事中は駄目なんだろ?」
『駄目です。でも今は休憩中ですから』
「だからいいのか?」
『はい!』
嬉しそうにはにかむななしの唇を親指でなぞる。柔らかくあたたかい。
その唇が『キスをしましょう』とかわいらしく強請った。答えないわけにはいかないなと薄く笑ったグレイブスはななしの柔らかい唇に唇を再び押し付けたのだ。
先程よりもずっとずっと甘くて虜になりそうなキス。ななしは堪らず吐息を漏らした。
『んぁ。はぁ。長官…』
「その顔はやめてくれないか?」
『どんな顔でしょう?』
「まるでねだっているような顔だ。キス以上をな」
『多分、そんな顔してませんよ…』
「いや、私にわからない事は無い。ななしのことなら尚更だと思わないか?」
『わ、わかりません』
顔を真っ赤にしたななしは熟れたリンゴのようだ。そんな彼を膝に乗せてグレイブスはワイシャツの下に手を忍ばせた。
まずは腰の細さをたしかめるように掴み、擽るように動く。『あ、あははっ』と笑うななしだが確かに色気を含んだ笑いだ。
後は簡単に押し切れるはずである。ここまできたらななしも乗り気な筈だ。
お互いの額をくっつけ合えばそれが合図だったかのようにワイシャツのボタンをひとつずつ外しあった。
『長官』
「ななし」
あぁ、駄目なのに。昼間から甘い甘い時間に身を興じようというのか。些かの背徳感に興奮していた。
そんな時。
コンコン
誰かが長官室の扉をノックしたのだ。
お互い着衣は乱れいよいよ、ディープな時間を過ごそうとしていた矢先。
嫌そうにグレイブスの眉に皺がよりななしは苦笑いをした。
「…」
『あはは。私出てきますね』
「全く、タイミングが悪い」
『はい!長官補佐のななしです。あいてますよ?』
手早く着衣の乱れを直す。
とても手馴れた様子である。
ななしは扉を開けノックした人物を確かめる。
そこにいたのはななしの親友でもあり同期のティナだ。少し頬を赤らめた彼女は「よかった、貴方がいて」とはにかむ。
『あ、ティナ。どうしたんです?』
「おはよう。ななし」
『はい。おはようございます!』
「あ、きょ、今日は何の日か知ってるわよね?」
『もちろん。バレンタインですよ!ティナもチョコレートを渡しに?』
「わ、分かってたの?」
『はい!長官はモテモテですからね』
「長官…?グレイブス長官にじゃないわ。貴方によ!」
『え?わ、私ですか?』
「受け取ってくれるわよね?すごく安いヤツなんだけどね」
『そんな!ティナ。ありがとうございます!まさか私にチョコレートを…』
「私は行くわね。ななし、仕事頑張って!」
『ティナも!昼食はちゃんと食べてくださいね!ホットドッグは駄目ですから!』
「分かってるわ!」
『ありがとうございます』
「えぇ」
時間にしてみればほんの5分。短いやりとりをしティナはかけていってしまった。ななしの手にはピンク色の可愛らしい箱がちょこんと乗っている。ティナがくれたバレンタインチョコレートだ。
『長官!長官!長官!チョコレートですよ!』
「見ていたからわかる。静かにしたまえ」
『う、嬉しいです!まさか私にまで…どうせ長官の当て馬なんだと諦めていましたが!嬉しいです』
「おい。当て馬とはなんだ。撤回しろ」
『だって本当じゃないですか。でも、本当に嬉しいですよぅ。友チョコでも貰えただけで!』
「………ティナも報われないな。好都合ではあるが」
『さぁ、長官たべましょ!』
「…現金な奴だな」
『なんとでも言ってくださいませ!』
甘い紅茶はとうに温くなってしまっていたがななしは気にせず一口飲み込み、ティナからもらったチョコレートを確かめる。
安いと言っていたがラッピングの下の箱はほのかに高級感があるようだ。
嬉しそうに頬張るななしをみ、あからさまにつまらないとグレイブスは足を組み直し彼を見つめた。本命を本命とすら認識してはいないが、自分の恋人が誰かかから思いを寄せられているというのは酷くつまらないし不愉快である。ななしも先程までこんな気持ちだったのかと思うと何となくいまれない。
「ななし」
『はい?』
「君はその年齢にもなってチョコレートを頬につけるのか…」
『ついてます?』
「あぁ、ばっちりついてるぞ」
『えぇ?ど、どこですか?』
「じっとしていろ、私がとる」
『えっ。あっ』
自分で頬を触るななしの手を掴み、ギュッと握る。そのまま引き寄せチョコレートがついている頬に舌を這わせる。
『ひっぁ!?』っと驚きに声を上げたななし。
グレイブスのようやく覚めかけていた熱を呼び起こすくらいには色気のある声。
もだもだ逃げようとするななしをしっかり抱き寄せたまま、舌を鎖骨に滑らせてたくさんのキスマークを作っていく。
誰にも、ティナにも。ななしを渡してはやらない。
『あっ、長官っ?』
「ななし、」
『み、見える位置につけないで下さいよっ』
「それでは意味をなさないだろう」
『あっ、やぁっ』
「ななし。ティナには残念だがななしは私のものだ」
『へっ、』
「これがあればそれが一目瞭然だろう」
ななしよりも大人でななしよりも経験豊富なグレイブスであるが、ななしよりも嫉妬深いらしい。
そう悟ったななしはそれを敢えて口にはせずに、キスマークをなぞる。熱く、熱を孕んだキスマークだ。
「いただくぞ」
見つめあいのさなかグレイブスはティナが持ってきたチョコレートを、一つ手に取り食した。
「…甘ったるい」
『まぁ、チョコレートですから』
「君の」
『私の?』
「君の唇には叶わないがな」
『ふふっ、なんですかそれは』
「さぁな」
誰かを思うものは甘い。
ティナのチョコレートも、グレイブスが貰ったチョコレートも。
しかしどんなに思いを込められていてもななしには叶わない。彼が一番甘く、一番美味しい。
こんなに甘く美味しいななしを誰かに渡してたまるか。
グレイブスは人知れず決意し未だチョコレートを食べるななしに、再三キスをしたのだった。
「あの、こ、これよろしくお願いします!」
『あ、はぁ』
大事な書類がある、ピッカリー議長にいわれ取りに足を運んだ際の話である。書類の内容は法律改訂のものであった。
それらに目を通しながら長官室へと向かっていた最中、1人の女性がやって来たのだ。
何事かと首をかしげたななしに女性は綺麗に包装された何かを差し出した。
後付けするように「グレイブス長官に…」と言われ合点がつく。あぁ、これはバレンタインのチョコレートか、と。
そんな出来事が長官室に行くまでに既に7回起きた。
どんよりしながら長官室を目指す。
恋人であるグレイブスに彼を慕う女性達からのチョコレートを渡す。なんて損な役回りだろうか。恋人である事を公言できないのはこんなにももどかしいとは。
いっそ断ってしまえばいいのに断れないのは性分だから。
ため息をついていると8回めのチョコレートが手渡された。
あぁ、また断れなかった。
『ただいま戻りました』
書類を取りに行ってきます。そう言い残し長官室を出たのはいつだったか。
グレイブスの机の書類が全てなくなっているのを見ると大分時間がかかったらしい。
「遅いな、ななし」
『貴方のせいです』
「私の?人のせいにするな。私はここにいた」
『だからですよぅ』
「?」
『はい、どうぞ』
全く分からないとでも言うような顔のグレイブスに少なからずななしはイラッとした。
しかしグレイブスはグレイブスで本当に検討もつかない。
ななしは抱えていたチョコレートを躊躇うことなくグレイブスの机にばらまいた。綺麗にラッピングされているものや、可愛らしい紙袋に入れられたもの。一つ一つがグレイブスへの愛をしたためたチョコレート。
ななしはそれをわかった上でグレイブスに渡したが、浮かない顔だ。
「不本意だという顔だな」
『当たり前じゃないですか』
「だったら断ればいいだろう」
『皆、私と同じ気持ちの方々ですよ。無下にできませんよぅ』
「君は彼女達と同じ気持ちなのか?」
『えっ、好きという点では同じかなぁと思いました』
「浅はかだなななし」
『すみません』
「謝るな、ななしが人が良いことはよく知っている」
『ん…』
「だが、少しは嫉妬してもらいたかったがね」
座っていたグレイブスはゆっくり立ち上がりうなだれるななしの頬を撫でる。
少しは心を痛めていたななしに意地悪をしてすまないと言うように優しく優しく。
ななしが嫉妬していることなどグレイブスは手に取るようにわかる。
しかしあからさまに態度に示さないことがつまらないのだ。
終いにはほかの女性の「好き」と自分の『好き』が同じだという。自分達がしたためてきた愛はそんなものなのかと言いたくなる。
それでも優しいななしはきっとどんな女性からチョコレートを渡されてもグレイブス自身に渡すであろう。それがグレイブスが愛したななしという人物だ。
『長官は…』
「なんだ?」
『私が嫉妬してないと思ってるんですか?』
「根に持つなほんの冗談だ」
『…貴方のその大人の余裕ってやつですか?それ…嫌いです』
「嘘をつくな」
『ウソじゃないですよーだ』
柔らかい頬を堪能していたグレイブスの手をゆるりと制しななしはピッカリー議長から受け取った書類片手に自分の机に向かった。
グレイブスのからかいに拗ねてしまったらしい。
「ななし拗ねるな」
『拗ねてないですよぅ。長官は甘いチョコ食べてればいいじゃないですか』
「では、苦いコーヒーでもいれてくれ」
『あっつあつにしてさしあげますよ!』
「ついでに君の甘ったるい紅茶でも入れろ。しばし休憩だ。デスクワークは応える」
『あはは、腰にですか?』
「…はやくいれてくれ」
『はーい』
グレイブスは自分の机から離れ、客を招き入れた時に使用されるひろびろとしたソファに移り変わる。この位置はコーヒーをいれるななしが一番よく見える場所だ。手馴れたように素早くコーヒーと紅茶を持ってきた彼。グレイブスに差し出し自分もソファにへと腰を下ろした。
『あったかい』
「始末するのに強力してくれ」
『始末って、長官。いくらなんでも酷いですよ』
「相手は名前しか知らないような女だ。いちいち間に受けていられるか」
『そんな言い方駄目ですよぅ』
「一方的な好意は迷惑だ。私はそう思う」
そう言い、グレイブスはラッピングをバリバリ破いた。出てきたのはチョコレート。
一つ手に取り口に投げ入れる。「あぁ、甘いな」と眉を寄せなんとなく嫌そうな顔をしていた。
「君も食べてくれ」
『あ。はい。いただきます』
「甘いだろう?」
『甘いです。美味しい』
「チョコレートだからな」
『…すいません』
「なにがだ?」
『私チョコレート用意してなくて』
「期待などしていなかったし、今これ以上貰っても食べられる気はしないからな。それにななしの想いは私がしっかりわかっているからバレンタインに便乗せずともいい」
『やっぱり大人って違います』
「君も大人だがね」
『大人だったらもう少し余裕があると思うんですけどね。私は貴方が彼女達のうちの誰かに靡いてしまわないかもやもやしてますもん』
「私が?これでも」
『あっ、長官っ』
「君への執着は凄まじいぞ?」
もそもそチョコレートを食べていたななしを抱き寄せ、彼の顎をとる。そのままゆっくり、しかし噛み付くようにキスをするグレイブス。
チョコレートも甘いがそれ以上にななしの唇は甘い。溶けてしまいそうな口付けを交わしながらななしはきゅっとグレイブスの袖をつかみ、健気に応える。
『はぁ、あ、長官…仕事中ですよ』
「キスくらいいいだろ?」
『誰かに見つかったら?』
「好都合ではないか。来年から君は無駄なチョコレートを運ばなくてすむ」
『そういう問題じゃないですよぅ』
「見せつけてやりたいと、私は思っているがね」
『女なら良かったですね。私が。公言出来ましたし』
「滅多なことを言うな。私は今の君を愛しているんだぞ」
『あはは。女だったら付き合ってなかったんでしょうかね?』
「もしもなど、考えなくていい。今ななしは私のそばに居る。それだけで充分だ」
『熱烈ですね
「君が不安がるからだ。心配せずとも君しか見えていないのに」
『ねぇ、長官。私も貴方を愛してます。だから、キスもう一回しましょう』
「仕事中は駄目なんだろ?」
『駄目です。でも今は休憩中ですから』
「だからいいのか?」
『はい!』
嬉しそうにはにかむななしの唇を親指でなぞる。柔らかくあたたかい。
その唇が『キスをしましょう』とかわいらしく強請った。答えないわけにはいかないなと薄く笑ったグレイブスはななしの柔らかい唇に唇を再び押し付けたのだ。
先程よりもずっとずっと甘くて虜になりそうなキス。ななしは堪らず吐息を漏らした。
『んぁ。はぁ。長官…』
「その顔はやめてくれないか?」
『どんな顔でしょう?』
「まるでねだっているような顔だ。キス以上をな」
『多分、そんな顔してませんよ…』
「いや、私にわからない事は無い。ななしのことなら尚更だと思わないか?」
『わ、わかりません』
顔を真っ赤にしたななしは熟れたリンゴのようだ。そんな彼を膝に乗せてグレイブスはワイシャツの下に手を忍ばせた。
まずは腰の細さをたしかめるように掴み、擽るように動く。『あ、あははっ』と笑うななしだが確かに色気を含んだ笑いだ。
後は簡単に押し切れるはずである。ここまできたらななしも乗り気な筈だ。
お互いの額をくっつけ合えばそれが合図だったかのようにワイシャツのボタンをひとつずつ外しあった。
『長官』
「ななし」
あぁ、駄目なのに。昼間から甘い甘い時間に身を興じようというのか。些かの背徳感に興奮していた。
そんな時。
コンコン
誰かが長官室の扉をノックしたのだ。
お互い着衣は乱れいよいよ、ディープな時間を過ごそうとしていた矢先。
嫌そうにグレイブスの眉に皺がよりななしは苦笑いをした。
「…」
『あはは。私出てきますね』
「全く、タイミングが悪い」
『はい!長官補佐のななしです。あいてますよ?』
手早く着衣の乱れを直す。
とても手馴れた様子である。
ななしは扉を開けノックした人物を確かめる。
そこにいたのはななしの親友でもあり同期のティナだ。少し頬を赤らめた彼女は「よかった、貴方がいて」とはにかむ。
『あ、ティナ。どうしたんです?』
「おはよう。ななし」
『はい。おはようございます!』
「あ、きょ、今日は何の日か知ってるわよね?」
『もちろん。バレンタインですよ!ティナもチョコレートを渡しに?』
「わ、分かってたの?」
『はい!長官はモテモテですからね』
「長官…?グレイブス長官にじゃないわ。貴方によ!」
『え?わ、私ですか?』
「受け取ってくれるわよね?すごく安いヤツなんだけどね」
『そんな!ティナ。ありがとうございます!まさか私にチョコレートを…』
「私は行くわね。ななし、仕事頑張って!」
『ティナも!昼食はちゃんと食べてくださいね!ホットドッグは駄目ですから!』
「分かってるわ!」
『ありがとうございます』
「えぇ」
時間にしてみればほんの5分。短いやりとりをしティナはかけていってしまった。ななしの手にはピンク色の可愛らしい箱がちょこんと乗っている。ティナがくれたバレンタインチョコレートだ。
『長官!長官!長官!チョコレートですよ!』
「見ていたからわかる。静かにしたまえ」
『う、嬉しいです!まさか私にまで…どうせ長官の当て馬なんだと諦めていましたが!嬉しいです』
「おい。当て馬とはなんだ。撤回しろ」
『だって本当じゃないですか。でも、本当に嬉しいですよぅ。友チョコでも貰えただけで!』
「………ティナも報われないな。好都合ではあるが」
『さぁ、長官たべましょ!』
「…現金な奴だな」
『なんとでも言ってくださいませ!』
甘い紅茶はとうに温くなってしまっていたがななしは気にせず一口飲み込み、ティナからもらったチョコレートを確かめる。
安いと言っていたがラッピングの下の箱はほのかに高級感があるようだ。
嬉しそうに頬張るななしをみ、あからさまにつまらないとグレイブスは足を組み直し彼を見つめた。本命を本命とすら認識してはいないが、自分の恋人が誰かかから思いを寄せられているというのは酷くつまらないし不愉快である。ななしも先程までこんな気持ちだったのかと思うと何となくいまれない。
「ななし」
『はい?』
「君はその年齢にもなってチョコレートを頬につけるのか…」
『ついてます?』
「あぁ、ばっちりついてるぞ」
『えぇ?ど、どこですか?』
「じっとしていろ、私がとる」
『えっ。あっ』
自分で頬を触るななしの手を掴み、ギュッと握る。そのまま引き寄せチョコレートがついている頬に舌を這わせる。
『ひっぁ!?』っと驚きに声を上げたななし。
グレイブスのようやく覚めかけていた熱を呼び起こすくらいには色気のある声。
もだもだ逃げようとするななしをしっかり抱き寄せたまま、舌を鎖骨に滑らせてたくさんのキスマークを作っていく。
誰にも、ティナにも。ななしを渡してはやらない。
『あっ、長官っ?』
「ななし、」
『み、見える位置につけないで下さいよっ』
「それでは意味をなさないだろう」
『あっ、やぁっ』
「ななし。ティナには残念だがななしは私のものだ」
『へっ、』
「これがあればそれが一目瞭然だろう」
ななしよりも大人でななしよりも経験豊富なグレイブスであるが、ななしよりも嫉妬深いらしい。
そう悟ったななしはそれを敢えて口にはせずに、キスマークをなぞる。熱く、熱を孕んだキスマークだ。
「いただくぞ」
見つめあいのさなかグレイブスはティナが持ってきたチョコレートを、一つ手に取り食した。
「…甘ったるい」
『まぁ、チョコレートですから』
「君の」
『私の?』
「君の唇には叶わないがな」
『ふふっ、なんですかそれは』
「さぁな」
誰かを思うものは甘い。
ティナのチョコレートも、グレイブスが貰ったチョコレートも。
しかしどんなに思いを込められていてもななしには叶わない。彼が一番甘く、一番美味しい。
こんなに甘く美味しいななしを誰かに渡してたまるか。
グレイブスは人知れず決意し未だチョコレートを食べるななしに、再三キスをしたのだった。