短編 男主
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*スコット×ハンク邸に住み込みで働く男主
こんにちの天気ほぼほぼ晴れ。暑いとまでは言わないが寒いとも言えないようなそんな微妙な天気だ。しかしあの伸縮自在のスーツを着ていると嫌でも蒸れる。ヘルメットは前を自由に開閉できるが、訓練中は小さくなるので基本閉じっぱなし。前を開けて小さくなろうものなら脳がどうにかなってしまうから。
外で大きくなったり小さくなったりの繰り返しで、体を慣らすという訓練だったにも関わらず喉かかわいて仕方ない。
「しばらく休憩した方がいい」とハンクが座り込むと同時にスコットは今まで訓練していたとも思えないスピードで走り出した。
「彼、本当に現金ね」
「スコットの原動力だからな。ななしには申し訳ないが」
「しょうがないわ。私少しピムティックに行ってくる。訓練よろしくね」
「わかってる」
かけていくスコットを尻目にハンクとホープは穏やかに笑いあった。最近スコットが家に入り浸るようになり彼らの仲も大分改善し今では二人仲良く会話できるまでに。
だからななしには悪いが、多少の強引な行動を目を瞑ろう。ハンクとホープの囁かな暗黙のルールだ。
一方一目散にかけて行ったスコットはと言うと、キッチンに来ていた。彼が身を潜め様子をうかがっているのはこのピム邸で住み込みで働くななしだ。
男の割に華奢で小奇麗な顔のななしは三人分の紅茶と菓子を用意していたらしい。食器棚から白と金の高価そうなティーカップを取り出していた。
七年という月日をこの家で過ごしたななしの動作はとても手慣れている。
一目惚れしてからいつもいつもそんなななしを見てきたスコットは今も見とれ、鼻の下を伸ばしきっていた。
『…』
「やぁ!ななし、今日もいい尻だな」
『ひぃ!?す、スコット様!?』
なんといってもスコットの行動力は目を見張るものがある。一目惚れしてから、ななしに猛アタックする日々。全く伝わらないが、最近ではそれでもいいと思えてきた。何故なら、一目惚れを免罪符にななしにセクハラ行為ができるから。
いつもと変わらず挨拶替わりにななしの引き締まった尻に手をすべらせる。
ひぃんと、可愛らしく鳴いたななしにニタニタしながら「お疲れ」とスコットもシンクにやってきた。
『なにするんです!』
「可愛い挨拶じゃないか、そう怒るなよ」
『挨拶替わりに尻を触るだなんて聞いたことありません』
「俺のアパートではそうだぜ!」
『ここはハンク様のお家です』
「そりゃそうだ。で、ななし、俺喉が渇いてさ」
『喉が渇いて?今アフタヌーンティーを淹れておりますよ?』
「そうじゃなくてもっとごくごく飲めるような…ビールとか」
『昼間っからアルコールを?』
「冗談冗談!!炭酸ってある?」
『はぁ、今見てみますね』
しっかりスコットから距離を取りながら話すななし。彼への不信感は無くならないらしい。それはそれで寂しいものがあるが、変に意識されていることは確かだと思うようにしているスコット。いつでもスコットの頭の中はハッピーである。
ななしからは超絶鬱陶しいと思われていることなど露知らずだ。
大きな冷蔵庫を覗き込むななし。突き出された尻をにんまり見つめながらジュースを待つスコット。本当に一児の父かと思いたくなるような助平である。
「あった?」
『…いえ、…ハンク様は紅茶やワインしかお召しあがりにならないですから』
「ないの!?」
『そうなりますね』
「なぁんだ、冷たいものをがぶがぶ飲みたかったんだけどな…ないなら仕方ないか」
『あー…う、あの、スコット様。しばしお待ちください。今すぐに買ってまいりますから』
腰のエプロンを外したななし。慌てたように走りながらアフタヌーンティーを仕上げた。
「おいおい、そこまでじゃないから大丈夫だって」
『いえ、これも使用人の仕事ですから』
「俺の使用人じゃないだろ?だから俺が買ってくるよ」
『いいえ!ハンク様のご友人も私にとってはご主人様と変わりないです。ですから、しばし、お待ちを』
「…うーん」
ここまで来たらななしはてこでも動かない。確かにななしはハンクの使用人だが、スコットは彼をそういう風に扱いたくなかった。友人としと、あわよくば恋人として。特別でなく平等に接してもらいたい。
しかし悲しきかなそれが全く伝わっていないななし。
慌ただしくアフタヌーンティーを台車にのせ小走りでハンクの元へ。その後にスコットも続いた。
『ハンク様!あれ?ホープ様いないですね』
「あぁ、今出かけたよ。今日はハロッズか」
『はい。ハンク様ストレートのハロッズがお好きだと言っていましたので』
「いい香りだ。淹れ方が上手くないとこの香りも出せまい」
『褒めても何も出ませんよ』
「君の笑顔が引き出せる、違うかね?」
『ふふ、それは違いありません』
話し合う彼らをみつめるスコット。
2人の関係はただの使用人と、ご主人様だけではない気がする。しかし恋人とも違うような気がする。
強いて言うなら親子が一番しっくりくる。
お互いを信頼しとても安心している雰囲気だ。
このなごやかな雰囲気になるといつもスコットは蚊帳の外。七年という月日の差はスコットがいくら頑張っても埋められはしない。
恋心もない相手を恋敵というのは随分と滑稽であるがスコットにとってハンクはライバルそのものだ。
歯を見せ笑うななしも可愛くて好きだが、その笑顔が自分に向いていないとなると話は別。
スコットはいい雰囲気であるななしとハンクの間に割って入りニコニコ笑みを浮かべた。
「ハンク。少し外に行ってもいいか?」
「?ななしを連れて?」
「そう、俺コーラが飲みたくてさ」
『わ、私が一人で行きますから!スコット様は訓練に集中してください。アントマンには貴方しかなれないんですから』
「よかろう」
『ハンク様の言うとおり…え?ハンク様?』
「スコットと一緒に出かけてくるといいななし。嫌という程訓練をしていたからな。息抜きも必要だ」
「分かってるぅ!」
『あ、は、はぁ。ハンク様がそう言うのでしたら』
「これを使いなさい。あぁ、あとスコット」
「ん?」
「スーツは置いていけ」
「あぁ!分かってるよ」
『ぁ、スコット様!』
コーラを買うには些か多すぎるお金をななしに渡したハンクは行ってらっしゃいと言いながら紅茶を一口のんだ。ななしの手を引き、走り出したスコットを尻目にアフタヌーンスタンドのスコーンを一口食べる。さくっとした生地だが中はふんわりしており、バター香るとても美味しいスコーンだった。
『あの…スコット様。私が行きますから』
「ハンクの話聞いてた?息抜きだからいいんだよ。ななしもたまには家事以外で外行かなきゃ、息つまるぞ?」
早速スーツを脱ぎ普段着に着替えたスコットはななしの手を引きながらハンク邸の豪華な門を潜った。
戸惑うななしはハンクから受け取ったお金を落とさぬように必死に握りしめる。毎日の家事を全てななし一人でこなしているため、私用で外に出たのは久々であった。早く戻りハンクの元に行かなくてはと焦るななしに反しスコットはこの機会に彼との距離を縮めてやろうとニタニタ笑っている。
『あ!自動販売機!コーラありますよ』
「そんなに早く帰っても息抜きの意味は無いって」
『でも、私には仕事が…』
「俺と歩くのはそんなに嫌なのか?」
『そ、そんなつもりはっ』
「じゃ、ハンクが恋しい?」
『違いますって。はぁ、もう分かりましたよ。少し息抜きしていきましょう。少し』
「そうこなくちゃな!」
ななしが、だめだと諦めた。スコットは何を言っても帰る気は無いらしいから。
彼が満足するまで外に居てやろう。
すぐに見つけた自動販売機でコーラを買うななし。どうぞとスコットにそれを渡す。
「ななしは?」
『私は大丈夫です。それより少し座って飲んでくださいませ。零れますよ?』
近場のベンチに二人して腰掛けた。コーラをがぶがぶ飲むスコットを横目で見つめてみる。
ホープとの体術訓練でついた痣や切り傷がTシャツからはみ出る肌にたくさん見えた。痛いたしい。
しかしただの犯罪者から返り咲き今やアントマンになろうとしているスコットをななしはとても尊敬していた。人間としては丸っきり駄目だが。
『スコット様は凄いですね』
「え?俺が?」
『はい。アントマンで、強くて。向上心も持ち合わせてますし。完璧だなって感じます』
「どうかな?完璧だったら好きな男もすぐに落とせると思うけど」
そのへんはどう思う?とイタズラにななしを覗き込む。ななしが素直に尊敬できると言えない理由の一つとしてスコットのこの煽りめいた行動があげられる。わざわざそんなことを聞いてくるスコットをあしらいながらななしは『知りません』と答えて見せた。
「ななしの言う完璧な人になりたいんだよ、俺。なぁ、協力してくれないか?」
『え、ぁ』
その言葉の意味を知る前にななしはスコットに顎を取られ熱を孕んだ瞳に見つめられた。
あまりの視線に目を反らせるもスコットの手が僅かな抵抗も許さない。
その熱が移ったか。ななしの端正な顔まで赤みを帯びてきたではないか。
これならゴリ押しで済し崩しにキスの一つでも出来るはずだ。スコットは不安げに自身を見上げるななしの唇に親指を当てる。
『ぁの…』
「気づいてないとは言わせないぜななし」
『…っ』
「俺はななしが、っいっだぁ!?」
「好きだ」
そうまさに一世一大の大告白をしようとしたその瞬間。首筋に尋常でない痛みが走った。
その隙にななしはスコットから離れるように逃げ、手の平を開く。何をしているかと思えばその手の平に小さな黒い生物が飛んでいくのが見えた。
ようやく、今起きたことを理解したスコットはとても大きなため息をついた。
「ななし、蟻操れたのか…てか、噛ませる?普通」
『私がアントマン候補に選ばれていないと思いましたか?…貴方の相棒のアントニーに噛んでもらいました』
「嫌なら嫌って言ってくれよ、寿命が縮んだぜ」
『嫌です』
「今言うとなんか精神的に来るからやめてくれ」
ななしの手の平にいる、アントニーに「お仕置きだからな!」と八つ当たりする。何の気なしにななしの手の平を歩き回るアントニーは噛んだことをまるで気にしていない。蟻に怒るのも筋違いな話だがスコットの心中は穏やかでないため仕方ない。
『貴方は…いつも性急すぎます。私には心の準備というものがあるんです。だから、もっと順をおって…ぁ、別に私はスコット様を変に意識している訳では無いですからね!そこはちゃんと理解してください。好いて下さるのは本当に嬉しいです。でも良識のない好意は迷惑なだけです』
「心にグッと来た。グッと…グッと!」
『あ!嫌いって言ってるつもりは無いですよ!!』
「好きでもないって?」
『それはそうです』
「わかったよ。ななし」
『理解して頂けましたか』
スコットの愛はななしにはしっかり伝わっている。言葉にはしないだけでななしももれなくスコットが好きだ。
しかし好きだからといってセクハラをされたい訳では無い。順を追いちゃんと告白されたい。ななしの囁かな願いだ。
ごめんなとななしの頭を撫でるスコット。帰ろうかと促されるままななしも歩み出した。
「あ、ななしってアントマン候補になっていたんだな。俺よりずっと前から?」
『はい。しかしやはり向いていなかったので…ハンク様のお役に立てませんでした』
「蟻に命令できるし体力もあるのに、アントマンにはならなかったのか。確かに君がアントマンだったら俺は気が気でないけど…」
『正直な話…ホープ様の方がずっとずっとお強いですから、保留の保留って感じです』
「ホープは凄まじいから。俺も生傷が増えるばかりだ」
『手当ならいつでもしますよ』
「じゃあ、帰ったら頼むよ。手取り足取り腰取な」
『…はぁ』
「冗談だって!」
『当たり前じゃないですか』
来た時よりも少しだけ近くを歩く2人。気持ちは同じであるのに2人はまだまだ遠い。
彼らが文字通りぴったりひっつくのはずっとずっと先。イエロージャケットが世に出るのを食い止めたあとの話になる。
しかし今のままでも十分に楽しい。
スコットはケタケタ笑ったのだった。
こんにちの天気ほぼほぼ晴れ。暑いとまでは言わないが寒いとも言えないようなそんな微妙な天気だ。しかしあの伸縮自在のスーツを着ていると嫌でも蒸れる。ヘルメットは前を自由に開閉できるが、訓練中は小さくなるので基本閉じっぱなし。前を開けて小さくなろうものなら脳がどうにかなってしまうから。
外で大きくなったり小さくなったりの繰り返しで、体を慣らすという訓練だったにも関わらず喉かかわいて仕方ない。
「しばらく休憩した方がいい」とハンクが座り込むと同時にスコットは今まで訓練していたとも思えないスピードで走り出した。
「彼、本当に現金ね」
「スコットの原動力だからな。ななしには申し訳ないが」
「しょうがないわ。私少しピムティックに行ってくる。訓練よろしくね」
「わかってる」
かけていくスコットを尻目にハンクとホープは穏やかに笑いあった。最近スコットが家に入り浸るようになり彼らの仲も大分改善し今では二人仲良く会話できるまでに。
だからななしには悪いが、多少の強引な行動を目を瞑ろう。ハンクとホープの囁かな暗黙のルールだ。
一方一目散にかけて行ったスコットはと言うと、キッチンに来ていた。彼が身を潜め様子をうかがっているのはこのピム邸で住み込みで働くななしだ。
男の割に華奢で小奇麗な顔のななしは三人分の紅茶と菓子を用意していたらしい。食器棚から白と金の高価そうなティーカップを取り出していた。
七年という月日をこの家で過ごしたななしの動作はとても手慣れている。
一目惚れしてからいつもいつもそんなななしを見てきたスコットは今も見とれ、鼻の下を伸ばしきっていた。
『…』
「やぁ!ななし、今日もいい尻だな」
『ひぃ!?す、スコット様!?』
なんといってもスコットの行動力は目を見張るものがある。一目惚れしてから、ななしに猛アタックする日々。全く伝わらないが、最近ではそれでもいいと思えてきた。何故なら、一目惚れを免罪符にななしにセクハラ行為ができるから。
いつもと変わらず挨拶替わりにななしの引き締まった尻に手をすべらせる。
ひぃんと、可愛らしく鳴いたななしにニタニタしながら「お疲れ」とスコットもシンクにやってきた。
『なにするんです!』
「可愛い挨拶じゃないか、そう怒るなよ」
『挨拶替わりに尻を触るだなんて聞いたことありません』
「俺のアパートではそうだぜ!」
『ここはハンク様のお家です』
「そりゃそうだ。で、ななし、俺喉が渇いてさ」
『喉が渇いて?今アフタヌーンティーを淹れておりますよ?』
「そうじゃなくてもっとごくごく飲めるような…ビールとか」
『昼間っからアルコールを?』
「冗談冗談!!炭酸ってある?」
『はぁ、今見てみますね』
しっかりスコットから距離を取りながら話すななし。彼への不信感は無くならないらしい。それはそれで寂しいものがあるが、変に意識されていることは確かだと思うようにしているスコット。いつでもスコットの頭の中はハッピーである。
ななしからは超絶鬱陶しいと思われていることなど露知らずだ。
大きな冷蔵庫を覗き込むななし。突き出された尻をにんまり見つめながらジュースを待つスコット。本当に一児の父かと思いたくなるような助平である。
「あった?」
『…いえ、…ハンク様は紅茶やワインしかお召しあがりにならないですから』
「ないの!?」
『そうなりますね』
「なぁんだ、冷たいものをがぶがぶ飲みたかったんだけどな…ないなら仕方ないか」
『あー…う、あの、スコット様。しばしお待ちください。今すぐに買ってまいりますから』
腰のエプロンを外したななし。慌てたように走りながらアフタヌーンティーを仕上げた。
「おいおい、そこまでじゃないから大丈夫だって」
『いえ、これも使用人の仕事ですから』
「俺の使用人じゃないだろ?だから俺が買ってくるよ」
『いいえ!ハンク様のご友人も私にとってはご主人様と変わりないです。ですから、しばし、お待ちを』
「…うーん」
ここまで来たらななしはてこでも動かない。確かにななしはハンクの使用人だが、スコットは彼をそういう風に扱いたくなかった。友人としと、あわよくば恋人として。特別でなく平等に接してもらいたい。
しかし悲しきかなそれが全く伝わっていないななし。
慌ただしくアフタヌーンティーを台車にのせ小走りでハンクの元へ。その後にスコットも続いた。
『ハンク様!あれ?ホープ様いないですね』
「あぁ、今出かけたよ。今日はハロッズか」
『はい。ハンク様ストレートのハロッズがお好きだと言っていましたので』
「いい香りだ。淹れ方が上手くないとこの香りも出せまい」
『褒めても何も出ませんよ』
「君の笑顔が引き出せる、違うかね?」
『ふふ、それは違いありません』
話し合う彼らをみつめるスコット。
2人の関係はただの使用人と、ご主人様だけではない気がする。しかし恋人とも違うような気がする。
強いて言うなら親子が一番しっくりくる。
お互いを信頼しとても安心している雰囲気だ。
このなごやかな雰囲気になるといつもスコットは蚊帳の外。七年という月日の差はスコットがいくら頑張っても埋められはしない。
恋心もない相手を恋敵というのは随分と滑稽であるがスコットにとってハンクはライバルそのものだ。
歯を見せ笑うななしも可愛くて好きだが、その笑顔が自分に向いていないとなると話は別。
スコットはいい雰囲気であるななしとハンクの間に割って入りニコニコ笑みを浮かべた。
「ハンク。少し外に行ってもいいか?」
「?ななしを連れて?」
「そう、俺コーラが飲みたくてさ」
『わ、私が一人で行きますから!スコット様は訓練に集中してください。アントマンには貴方しかなれないんですから』
「よかろう」
『ハンク様の言うとおり…え?ハンク様?』
「スコットと一緒に出かけてくるといいななし。嫌という程訓練をしていたからな。息抜きも必要だ」
「分かってるぅ!」
『あ、は、はぁ。ハンク様がそう言うのでしたら』
「これを使いなさい。あぁ、あとスコット」
「ん?」
「スーツは置いていけ」
「あぁ!分かってるよ」
『ぁ、スコット様!』
コーラを買うには些か多すぎるお金をななしに渡したハンクは行ってらっしゃいと言いながら紅茶を一口のんだ。ななしの手を引き、走り出したスコットを尻目にアフタヌーンスタンドのスコーンを一口食べる。さくっとした生地だが中はふんわりしており、バター香るとても美味しいスコーンだった。
『あの…スコット様。私が行きますから』
「ハンクの話聞いてた?息抜きだからいいんだよ。ななしもたまには家事以外で外行かなきゃ、息つまるぞ?」
早速スーツを脱ぎ普段着に着替えたスコットはななしの手を引きながらハンク邸の豪華な門を潜った。
戸惑うななしはハンクから受け取ったお金を落とさぬように必死に握りしめる。毎日の家事を全てななし一人でこなしているため、私用で外に出たのは久々であった。早く戻りハンクの元に行かなくてはと焦るななしに反しスコットはこの機会に彼との距離を縮めてやろうとニタニタ笑っている。
『あ!自動販売機!コーラありますよ』
「そんなに早く帰っても息抜きの意味は無いって」
『でも、私には仕事が…』
「俺と歩くのはそんなに嫌なのか?」
『そ、そんなつもりはっ』
「じゃ、ハンクが恋しい?」
『違いますって。はぁ、もう分かりましたよ。少し息抜きしていきましょう。少し』
「そうこなくちゃな!」
ななしが、だめだと諦めた。スコットは何を言っても帰る気は無いらしいから。
彼が満足するまで外に居てやろう。
すぐに見つけた自動販売機でコーラを買うななし。どうぞとスコットにそれを渡す。
「ななしは?」
『私は大丈夫です。それより少し座って飲んでくださいませ。零れますよ?』
近場のベンチに二人して腰掛けた。コーラをがぶがぶ飲むスコットを横目で見つめてみる。
ホープとの体術訓練でついた痣や切り傷がTシャツからはみ出る肌にたくさん見えた。痛いたしい。
しかしただの犯罪者から返り咲き今やアントマンになろうとしているスコットをななしはとても尊敬していた。人間としては丸っきり駄目だが。
『スコット様は凄いですね』
「え?俺が?」
『はい。アントマンで、強くて。向上心も持ち合わせてますし。完璧だなって感じます』
「どうかな?完璧だったら好きな男もすぐに落とせると思うけど」
そのへんはどう思う?とイタズラにななしを覗き込む。ななしが素直に尊敬できると言えない理由の一つとしてスコットのこの煽りめいた行動があげられる。わざわざそんなことを聞いてくるスコットをあしらいながらななしは『知りません』と答えて見せた。
「ななしの言う完璧な人になりたいんだよ、俺。なぁ、協力してくれないか?」
『え、ぁ』
その言葉の意味を知る前にななしはスコットに顎を取られ熱を孕んだ瞳に見つめられた。
あまりの視線に目を反らせるもスコットの手が僅かな抵抗も許さない。
その熱が移ったか。ななしの端正な顔まで赤みを帯びてきたではないか。
これならゴリ押しで済し崩しにキスの一つでも出来るはずだ。スコットは不安げに自身を見上げるななしの唇に親指を当てる。
『ぁの…』
「気づいてないとは言わせないぜななし」
『…っ』
「俺はななしが、っいっだぁ!?」
「好きだ」
そうまさに一世一大の大告白をしようとしたその瞬間。首筋に尋常でない痛みが走った。
その隙にななしはスコットから離れるように逃げ、手の平を開く。何をしているかと思えばその手の平に小さな黒い生物が飛んでいくのが見えた。
ようやく、今起きたことを理解したスコットはとても大きなため息をついた。
「ななし、蟻操れたのか…てか、噛ませる?普通」
『私がアントマン候補に選ばれていないと思いましたか?…貴方の相棒のアントニーに噛んでもらいました』
「嫌なら嫌って言ってくれよ、寿命が縮んだぜ」
『嫌です』
「今言うとなんか精神的に来るからやめてくれ」
ななしの手の平にいる、アントニーに「お仕置きだからな!」と八つ当たりする。何の気なしにななしの手の平を歩き回るアントニーは噛んだことをまるで気にしていない。蟻に怒るのも筋違いな話だがスコットの心中は穏やかでないため仕方ない。
『貴方は…いつも性急すぎます。私には心の準備というものがあるんです。だから、もっと順をおって…ぁ、別に私はスコット様を変に意識している訳では無いですからね!そこはちゃんと理解してください。好いて下さるのは本当に嬉しいです。でも良識のない好意は迷惑なだけです』
「心にグッと来た。グッと…グッと!」
『あ!嫌いって言ってるつもりは無いですよ!!』
「好きでもないって?」
『それはそうです』
「わかったよ。ななし」
『理解して頂けましたか』
スコットの愛はななしにはしっかり伝わっている。言葉にはしないだけでななしももれなくスコットが好きだ。
しかし好きだからといってセクハラをされたい訳では無い。順を追いちゃんと告白されたい。ななしの囁かな願いだ。
ごめんなとななしの頭を撫でるスコット。帰ろうかと促されるままななしも歩み出した。
「あ、ななしってアントマン候補になっていたんだな。俺よりずっと前から?」
『はい。しかしやはり向いていなかったので…ハンク様のお役に立てませんでした』
「蟻に命令できるし体力もあるのに、アントマンにはならなかったのか。確かに君がアントマンだったら俺は気が気でないけど…」
『正直な話…ホープ様の方がずっとずっとお強いですから、保留の保留って感じです』
「ホープは凄まじいから。俺も生傷が増えるばかりだ」
『手当ならいつでもしますよ』
「じゃあ、帰ったら頼むよ。手取り足取り腰取な」
『…はぁ』
「冗談だって!」
『当たり前じゃないですか』
来た時よりも少しだけ近くを歩く2人。気持ちは同じであるのに2人はまだまだ遠い。
彼らが文字通りぴったりひっつくのはずっとずっと先。イエロージャケットが世に出るのを食い止めたあとの話になる。
しかし今のままでも十分に楽しい。
スコットはケタケタ笑ったのだった。