短編 男主
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呼び名:Mr.ジッパー、チャック、シューターetc
職業:泥棒(引退済み…?)
詳細:世間を騒がせた大泥棒の1人。引退済みだが依頼されれば(人を選ぶが)仕事を引き受けているらしい。
レザーマスクをしており、口部分に大きなチャックがあることから呼び名で呼ばれている。
何度かラフトに収容されそうになるも上手くかわし続けてきたらしい。
攻撃は銃火器。移動はワイヤー。
性格:割と情熱的。気に入ったものはとことん愛すタイプ。頭が良く銃火器の銃弾を改良しながら作るのが得意。
マンハッタン、ハーレムのペントハウスに住んでいる。
(スパイダーマン/恋人)
Mr.ジッパー。
僕のパートナーは巷でそう呼ばれ、どちらかと言えばヴィランとして認識されてる不憫な人。 まぁ、だいたいはジェイムソンの"おかげ"だけど…。
けれど確かに彼は他人からものを盗むのが"仕事"だったわけだし、間違った認識ではないよね。
ただ引退済みの今でも悪いことで有名で悪いことをする人だと認識されてるのはパートナーの僕としてはなかなか見過ごせない。
だって本当は"良い"泥棒だしね。僕が知っている限りは!
……ただ、理由もなく私欲での盗みは未だかつて見た事がないし、立場の弱い人達を救うための盗みだったし。確かに盗みは犯罪に分類されるけど手段のひとつだと僕は思う。
でも、ジェイムソンからすればこれは義賊に託けてめちゃくちゃに盗みを働く拝金主義ヴィラン、だそうだ。
誰もジェイムソンの拝金主義ヴィランについて訂正したり苦情を入れたりしないからMr.ジッパー…僕のパートナーのななしはヴィランって認識されちゃったんだ。
ニューヨーカーのみんなに声を大にして言ってやりたい。ななしが仮にヴィランだったとしたら、世界で一番優しいヴィランだって、ね。
あーぁ、そんなことばかり考えていたら胸の辺りがムカムカしてきた。
どうしてみんな誰かの本質を見ようとしないのかな。分かり合えるって素晴らしいのに……いや、そうだったら世界は上手く成り立たないのかも。
今のままだっていいんだけど、願わくばななしがもう少しだけ優しいヴィランって知れ渡って欲しいな。
「(なんか、ななしにあいたくなったかも)」
ため息が漏れた。
会いたいって思っちゃうとスパイダーマン業そっちのけで会いたくなるから重症だなって感じる。ベン叔父さんがいたらこっぴどく叱られるんだろうな…うわ、想像がつく。
…よし決めた。ななしに電話しよ。
近くにいたら少しだけ会って話をする、それからハグとキスと…。恋人同士なんだからベン叔父さんも大目にみてくれるよね。
とりあえず見晴らしがいい場所まで登った。インパイア・ステート・ビルのてっぺん。
僕はそこでスマホを取り出してパートナーに電話をかけた。
「もしもし、ななし?」
『ん?俺だよ、どしたのスパイディ』
「今ってどこにいるの?ちなみに僕はインパイア・ステート・ビルなんだけどななしから近いかな?」
ワンコールも鳴らないうちに出てくれたななしに胸が締め付けられた。彼ってば本当に優しいよね。
『インパイア・ステート・ビル?だったら同じミッドタウンだな』
「え!?本当に?」
『嬉しそうだなスパイディ、本当だよ』
「どの辺?あ、汽笛が聞こえるから…イースト川の方?」
『汽笛に気づくのはお前だけだな…きっと…』
「当たり?」
『うん、当たり。クイーンズボロブリッジにいるよ』
「ちょっと遠いね。でも、まだそこにいるつもりだろ?僕も行くから待ってて」
『はいはい、スパイディ様』
同じミッドタウン内なら話は早い。
行かない理由なんてない、むしろ同じ地域内なんだから会いに行かなきゃならないくらいだ。
僕は僕が持てる最大限のスピードでクイーンズボロブリッジに向かった。
それから、10分くらいかな。
ウェブでビルをかき分けてようやく開けた川沿いに出た。クイーンズボロブリッジが見渡せる場所に移動して、ななしがいないかくまなく探してみる。
少し探してようやく見つけた。夕日に照らされたクイーンズボロブリッジの主塔に座っているななし。
僕は主塔めがけてウェブを放つ。
ななしも僕が来たことに気づいたらしい、ウェブを見て肩を縮めている。
「やぁ!来たよななし」
『早かったな、スパイディ』
「まぁ、君のためならね」
『俺の?お前のためだろ、』
「…あはは、間違いないね」
『ふふ、まぁ、なんだ。会えて嬉しいよスパイディ』
「僕もだよななし」
主塔に座ったななしがしゃがむ僕の額に額をくっつけて目を瞑るから僕もゆっくり目を瞑った。
マスクをしてるからあんまり分からないけどななしの額はとっても温かいんだろうな。
温もりは感じられなくてもななしの優しさも思いもしっかり伝わったからよしとしよう。
肌を感じるにはここは人目がありすぎるからね。
「……こんな高い場所にいたら、帰れなくなっちゃうよ」
『はは!その時はパートナーが俺をハーレムまで送ってくれるんだろ?』
「さては、そうしろって言ってる?」
『まさか、でも夜景空中デートも素敵だなって。思わないか?』
「………めちゃくちゃそう思う」
『あはは!お前の時間が空いた時な』
「今夜だっていいんだけど、そのまま君のペントハウスにいって、色々したいから」
『色々って?』
「え、だからご飯とか、お風呂とか…あ!ふ、深い意味は無いよ!?」
『スパイディ初心だな……俺は深い意味があってもいいんだからな』
「いて」
人差し指で額を弾くななし。柔らかく微笑む彼は本当に意地悪だ。
年上だからってからかい方が少し下品。
…まぁ、好きなところの一部なんだけど…。
それにななしがいいって言うなら僕は容赦しないからね!
「ところで君はなんでこんな所で"仕事着"な訳?」
『あ、気づいた?』
「気づくよ!」
そう、今のななしは引退(自称だから定かでないけど)したはずのMr.ジッパーの服を着てるんだよね。レザーマスク(この黒いレザーマスクにジッパーがあるからこの名前になったんだと思う。)に白のパーカー。パーカーに独特のキャラクターのデザイン。キャラクターの口はマスクと同じジッパー。
キャラが立ってるよね…。
じゃなくて!この服ってことは、仕事中だったってこと?
それってつまり…
「まさか、盗んできたの!?」
『御明答~!盗品はこれ、チャイナタウン、デーモンの倉庫にあったPC~!』
「え!?ま、まさか単身でデーモンの倉庫に行ったの!?」
『怒るとこはそこなのか』
「当たり前だよ!怪我は!?傷つけられてない?本当に何してるの!」
『俺スパイディと違ってステルス得意だから』
「だからって敵の拠点だよ。君が思う以上の数の敵だったろ?ヘマしてなくてもバレた、違う?」
『……お見通し~、ってか?』
「はぁぁ~、なにしてるのさ」
太ももにパソコンを置いたままお手上げポーズをするななし。そんな呆れたように笑わなくても…。
別にパートナーになるからって盗みは辞めるって約束をキッチリしたわけではなかったから。
彼がまだMr.ジッパーとして活動するのは、彼の自由。
だけど僕はななしに怪我をして欲しくないし、たとえ良心的な盗みだとしても本当はしないで欲しい。
一生のパートナーにそう望むのって、間違ってるのかな。
『おい?スパイディ?』
僕が黙り込んだことに不思議そうに首を傾げたななし。
僕の心露知らずってかんじ。
『…なんだよ?』
「なんでもない、またジェイムソンになじられたって知らないからね」
『あー、拗ねてる』
「拗ねてないよ!ただ、」
『ただ?』
「本当は君に盗みをやめて貰いたいし、無茶をしないで欲しい。いくら君が凄腕でも怪我だってするし捕まったらラフト行きだよ?僕だって君の味方だけどラフトから脱獄させてあげられないんだよ?パートナーとしての恋人としての願いだけど…これって高望み?」
『はぁ?盗みを辞めろ?あのな、ピート』
ななしはパソコンをそばに置くと僕の方へと体を向けた。腕を組んだまま見つめてくる目。なんて
鋭いんだろう。
『それじゃお前は…俺のためにスパイダーマンを辞められんのか?』
「そ、それは……」
たった1人のためにスパイダーマンを辞めることは出来ない。例えそれが愛する恋人でも。
ニューヨークを守るためには天秤にかけることは出来ないから。
僕の決めた事だし、それが大いなる責任だ。
『仕事はお互い口出し無用だろ。好きでやってんだ、公私混同させるなよ』
「…ななし……」
怒っている訳では無いだろうけど鋭い口調に僕はちょっとだけたじろぐ。
言っている意味が理解できるからこそ僕はほんの少しだけ苦しい。
ななしは罰が悪いのか僕から離れて、川を隔てた先にあるラフトを見つめながら頬をかいている。
『…すまん、言いすぎた』
「いや、ななしの気持ちも分かるから…ただ僕は…」
『分かってる、無茶しないさ』
「本当に?拠点に潜入は無茶に分類されるからね?」
『手厳しいな』
「当たり前だよ、あとデーモン関係は全部無茶だから」
『範囲が広い…』
「今回はこれでお終いなんだろ?」
『ん~、秘密』
「ちょっとななし~?」
『あはは!あと少し、大目に見てくれ、な?』
ウィンクしてみせるななし。
許しちゃいそうになる僕って、本当にバカ。
「警察に捕まっても取り成してあげないからね!」
『あ、意地悪だ』
「意地悪じゃない!」
『はは、ピート』
「なに」
子どもっぽく腹を立てる僕の頬に手を添えたななしは左手でマスクを下ろした。
マスクの下の唇はゆるく弧を描いていて、僕は少しドキッとしてしまう。
頬に添えられた手に引き寄せられれば綺麗な顔が目の前に。
ゆっくりゆっくり僕のマスクを鼻先まで捲りあげたななしは唇が触れるか触れないかの位置で『ありがとう』って呟くんだ。
『俺がヴィランしてられるのはスパイディ…んや、ピートがいてこそだ』
「本っっ当に、ずるいよね君は」
『褒め言葉』
ななしがいうのと同時に唇をくっつけてやった。少し驚いていた。けどすぐいつもの彼に戻って、僕の首に腕を回してきた。
僕も堪らなくなって細っこい体を抱きしめてみる。本当にこの小さな体が盗みや潜入してるんだから嫌になるよ。
でも、だけど……はぁ…すきだな。
ゆっくりと離れたななし。
少し火照った頬が本当に美しいから…僕は誤魔化すようにその頬を親指の腹で撫でる。
『ピート、キス上手くなったな』
「い、いいよ、そういうのは」
『照れるなよパートナー』
「照れてないから」
『ふは』
「ちょっと!笑わないでよ!」
『お前らしい。そこがスパイディの可愛いポイントだな』
「もう、好きに言ってて。で?もう帰るの?本当に送ってく?」
『ん?まだ帰れないんだ。ありがとうな、気持ちだけ貰っとく』
「そっか、なら僕ももう少しパートロールしようかな」
『さすがヒーロー。なぁ、ついでに頼まれてくれ』
「ん?」
ニコニコ笑ったままななしは僕にパソコンをわたすのだ。
なんだと首を傾げれば『警察に届けて』だそうだ。
返すのもいいがそうした方がお前も警察も嬉しいだろ?と、悪戯にわらうななし。
『色々データがあるしこれからスパイディが有利に動ける可能性がある。見といて損は無いんじゃないか?』
「そんな僕まで泥棒になっちゃうだろ」
『言ってろ、見ないならそのまま届けてくれよ』
「まぁ、了ー解」
『よし、じゃぁ、行こうかなっと』
中身みとこうかな…どうしようか悩んでいる時、主塔でななしは立ち上がった。
体を伸ばしてストレッチしてる。
どうやらもう移動するようだ。
僕もパソコンを片手にななしの隣に立つ。
『スパイディ、また明日な』
「うんまた明日。くれぐれも無茶しないようにね。なにかあったら何時でも連絡していいから…ケガだけはしないでよ」
『もちろん!ありがとうパートナー』
僕の肩に手を置いた後、ななしは振り返り片手を上げながらケーブルを起用に歩き降りていく。
スパイダーマンも顔負けのバランス感覚だね、本当に。もしかして彼も蜘蛛に噛まれてたり?…なんてね。
ななしがケーブルを降りきるのを見届けた後、僕もウェブを放って主塔から警察署に向かった。
「明日も会えるかな…」
今別れたのにもう会いたいなんて、スーパーヒーロー形無しだね。
だけどそれも悪くない。今の僕があるのはななしのおかげだし、スパイダーマンがあるのはMr.ジッパーのおかげ。
こうして頑張れるのはパートナーのおかげだ。
君がいるから僕がいる
(欠けてはならない)
呼び名:Mr.ジッパー、チャック、シューターetc
職業:泥棒(引退済み…?)
詳細:世間を騒がせた大泥棒の1人。引退済みだが依頼されれば(人を選ぶが)仕事を引き受けているらしい。
レザーマスクをしており、口部分に大きなチャックがあることから呼び名で呼ばれている。
何度かラフトに収容されそうになるも上手くかわし続けてきたらしい。
攻撃は銃火器。移動はワイヤー。
性格:割と情熱的。気に入ったものはとことん愛すタイプ。頭が良く銃火器の銃弾を改良しながら作るのが得意。
マンハッタン、ハーレムのペントハウスに住んでいる。
(スパイダーマン/恋人)
Mr.ジッパー。
僕のパートナーは巷でそう呼ばれ、どちらかと言えばヴィランとして認識されてる不憫な人。 まぁ、だいたいはジェイムソンの"おかげ"だけど…。
けれど確かに彼は他人からものを盗むのが"仕事"だったわけだし、間違った認識ではないよね。
ただ引退済みの今でも悪いことで有名で悪いことをする人だと認識されてるのはパートナーの僕としてはなかなか見過ごせない。
だって本当は"良い"泥棒だしね。僕が知っている限りは!
……ただ、理由もなく私欲での盗みは未だかつて見た事がないし、立場の弱い人達を救うための盗みだったし。確かに盗みは犯罪に分類されるけど手段のひとつだと僕は思う。
でも、ジェイムソンからすればこれは義賊に託けてめちゃくちゃに盗みを働く拝金主義ヴィラン、だそうだ。
誰もジェイムソンの拝金主義ヴィランについて訂正したり苦情を入れたりしないからMr.ジッパー…僕のパートナーのななしはヴィランって認識されちゃったんだ。
ニューヨーカーのみんなに声を大にして言ってやりたい。ななしが仮にヴィランだったとしたら、世界で一番優しいヴィランだって、ね。
あーぁ、そんなことばかり考えていたら胸の辺りがムカムカしてきた。
どうしてみんな誰かの本質を見ようとしないのかな。分かり合えるって素晴らしいのに……いや、そうだったら世界は上手く成り立たないのかも。
今のままだっていいんだけど、願わくばななしがもう少しだけ優しいヴィランって知れ渡って欲しいな。
「(なんか、ななしにあいたくなったかも)」
ため息が漏れた。
会いたいって思っちゃうとスパイダーマン業そっちのけで会いたくなるから重症だなって感じる。ベン叔父さんがいたらこっぴどく叱られるんだろうな…うわ、想像がつく。
…よし決めた。ななしに電話しよ。
近くにいたら少しだけ会って話をする、それからハグとキスと…。恋人同士なんだからベン叔父さんも大目にみてくれるよね。
とりあえず見晴らしがいい場所まで登った。インパイア・ステート・ビルのてっぺん。
僕はそこでスマホを取り出してパートナーに電話をかけた。
「もしもし、ななし?」
『ん?俺だよ、どしたのスパイディ』
「今ってどこにいるの?ちなみに僕はインパイア・ステート・ビルなんだけどななしから近いかな?」
ワンコールも鳴らないうちに出てくれたななしに胸が締め付けられた。彼ってば本当に優しいよね。
『インパイア・ステート・ビル?だったら同じミッドタウンだな』
「え!?本当に?」
『嬉しそうだなスパイディ、本当だよ』
「どの辺?あ、汽笛が聞こえるから…イースト川の方?」
『汽笛に気づくのはお前だけだな…きっと…』
「当たり?」
『うん、当たり。クイーンズボロブリッジにいるよ』
「ちょっと遠いね。でも、まだそこにいるつもりだろ?僕も行くから待ってて」
『はいはい、スパイディ様』
同じミッドタウン内なら話は早い。
行かない理由なんてない、むしろ同じ地域内なんだから会いに行かなきゃならないくらいだ。
僕は僕が持てる最大限のスピードでクイーンズボロブリッジに向かった。
それから、10分くらいかな。
ウェブでビルをかき分けてようやく開けた川沿いに出た。クイーンズボロブリッジが見渡せる場所に移動して、ななしがいないかくまなく探してみる。
少し探してようやく見つけた。夕日に照らされたクイーンズボロブリッジの主塔に座っているななし。
僕は主塔めがけてウェブを放つ。
ななしも僕が来たことに気づいたらしい、ウェブを見て肩を縮めている。
「やぁ!来たよななし」
『早かったな、スパイディ』
「まぁ、君のためならね」
『俺の?お前のためだろ、』
「…あはは、間違いないね」
『ふふ、まぁ、なんだ。会えて嬉しいよスパイディ』
「僕もだよななし」
主塔に座ったななしがしゃがむ僕の額に額をくっつけて目を瞑るから僕もゆっくり目を瞑った。
マスクをしてるからあんまり分からないけどななしの額はとっても温かいんだろうな。
温もりは感じられなくてもななしの優しさも思いもしっかり伝わったからよしとしよう。
肌を感じるにはここは人目がありすぎるからね。
「……こんな高い場所にいたら、帰れなくなっちゃうよ」
『はは!その時はパートナーが俺をハーレムまで送ってくれるんだろ?』
「さては、そうしろって言ってる?」
『まさか、でも夜景空中デートも素敵だなって。思わないか?』
「………めちゃくちゃそう思う」
『あはは!お前の時間が空いた時な』
「今夜だっていいんだけど、そのまま君のペントハウスにいって、色々したいから」
『色々って?』
「え、だからご飯とか、お風呂とか…あ!ふ、深い意味は無いよ!?」
『スパイディ初心だな……俺は深い意味があってもいいんだからな』
「いて」
人差し指で額を弾くななし。柔らかく微笑む彼は本当に意地悪だ。
年上だからってからかい方が少し下品。
…まぁ、好きなところの一部なんだけど…。
それにななしがいいって言うなら僕は容赦しないからね!
「ところで君はなんでこんな所で"仕事着"な訳?」
『あ、気づいた?』
「気づくよ!」
そう、今のななしは引退(自称だから定かでないけど)したはずのMr.ジッパーの服を着てるんだよね。レザーマスク(この黒いレザーマスクにジッパーがあるからこの名前になったんだと思う。)に白のパーカー。パーカーに独特のキャラクターのデザイン。キャラクターの口はマスクと同じジッパー。
キャラが立ってるよね…。
じゃなくて!この服ってことは、仕事中だったってこと?
それってつまり…
「まさか、盗んできたの!?」
『御明答~!盗品はこれ、チャイナタウン、デーモンの倉庫にあったPC~!』
「え!?ま、まさか単身でデーモンの倉庫に行ったの!?」
『怒るとこはそこなのか』
「当たり前だよ!怪我は!?傷つけられてない?本当に何してるの!」
『俺スパイディと違ってステルス得意だから』
「だからって敵の拠点だよ。君が思う以上の数の敵だったろ?ヘマしてなくてもバレた、違う?」
『……お見通し~、ってか?』
「はぁぁ~、なにしてるのさ」
太ももにパソコンを置いたままお手上げポーズをするななし。そんな呆れたように笑わなくても…。
別にパートナーになるからって盗みは辞めるって約束をキッチリしたわけではなかったから。
彼がまだMr.ジッパーとして活動するのは、彼の自由。
だけど僕はななしに怪我をして欲しくないし、たとえ良心的な盗みだとしても本当はしないで欲しい。
一生のパートナーにそう望むのって、間違ってるのかな。
『おい?スパイディ?』
僕が黙り込んだことに不思議そうに首を傾げたななし。
僕の心露知らずってかんじ。
『…なんだよ?』
「なんでもない、またジェイムソンになじられたって知らないからね」
『あー、拗ねてる』
「拗ねてないよ!ただ、」
『ただ?』
「本当は君に盗みをやめて貰いたいし、無茶をしないで欲しい。いくら君が凄腕でも怪我だってするし捕まったらラフト行きだよ?僕だって君の味方だけどラフトから脱獄させてあげられないんだよ?パートナーとしての恋人としての願いだけど…これって高望み?」
『はぁ?盗みを辞めろ?あのな、ピート』
ななしはパソコンをそばに置くと僕の方へと体を向けた。腕を組んだまま見つめてくる目。なんて
鋭いんだろう。
『それじゃお前は…俺のためにスパイダーマンを辞められんのか?』
「そ、それは……」
たった1人のためにスパイダーマンを辞めることは出来ない。例えそれが愛する恋人でも。
ニューヨークを守るためには天秤にかけることは出来ないから。
僕の決めた事だし、それが大いなる責任だ。
『仕事はお互い口出し無用だろ。好きでやってんだ、公私混同させるなよ』
「…ななし……」
怒っている訳では無いだろうけど鋭い口調に僕はちょっとだけたじろぐ。
言っている意味が理解できるからこそ僕はほんの少しだけ苦しい。
ななしは罰が悪いのか僕から離れて、川を隔てた先にあるラフトを見つめながら頬をかいている。
『…すまん、言いすぎた』
「いや、ななしの気持ちも分かるから…ただ僕は…」
『分かってる、無茶しないさ』
「本当に?拠点に潜入は無茶に分類されるからね?」
『手厳しいな』
「当たり前だよ、あとデーモン関係は全部無茶だから」
『範囲が広い…』
「今回はこれでお終いなんだろ?」
『ん~、秘密』
「ちょっとななし~?」
『あはは!あと少し、大目に見てくれ、な?』
ウィンクしてみせるななし。
許しちゃいそうになる僕って、本当にバカ。
「警察に捕まっても取り成してあげないからね!」
『あ、意地悪だ』
「意地悪じゃない!」
『はは、ピート』
「なに」
子どもっぽく腹を立てる僕の頬に手を添えたななしは左手でマスクを下ろした。
マスクの下の唇はゆるく弧を描いていて、僕は少しドキッとしてしまう。
頬に添えられた手に引き寄せられれば綺麗な顔が目の前に。
ゆっくりゆっくり僕のマスクを鼻先まで捲りあげたななしは唇が触れるか触れないかの位置で『ありがとう』って呟くんだ。
『俺がヴィランしてられるのはスパイディ…んや、ピートがいてこそだ』
「本っっ当に、ずるいよね君は」
『褒め言葉』
ななしがいうのと同時に唇をくっつけてやった。少し驚いていた。けどすぐいつもの彼に戻って、僕の首に腕を回してきた。
僕も堪らなくなって細っこい体を抱きしめてみる。本当にこの小さな体が盗みや潜入してるんだから嫌になるよ。
でも、だけど……はぁ…すきだな。
ゆっくりと離れたななし。
少し火照った頬が本当に美しいから…僕は誤魔化すようにその頬を親指の腹で撫でる。
『ピート、キス上手くなったな』
「い、いいよ、そういうのは」
『照れるなよパートナー』
「照れてないから」
『ふは』
「ちょっと!笑わないでよ!」
『お前らしい。そこがスパイディの可愛いポイントだな』
「もう、好きに言ってて。で?もう帰るの?本当に送ってく?」
『ん?まだ帰れないんだ。ありがとうな、気持ちだけ貰っとく』
「そっか、なら僕ももう少しパートロールしようかな」
『さすがヒーロー。なぁ、ついでに頼まれてくれ』
「ん?」
ニコニコ笑ったままななしは僕にパソコンをわたすのだ。
なんだと首を傾げれば『警察に届けて』だそうだ。
返すのもいいがそうした方がお前も警察も嬉しいだろ?と、悪戯にわらうななし。
『色々データがあるしこれからスパイディが有利に動ける可能性がある。見といて損は無いんじゃないか?』
「そんな僕まで泥棒になっちゃうだろ」
『言ってろ、見ないならそのまま届けてくれよ』
「まぁ、了ー解」
『よし、じゃぁ、行こうかなっと』
中身みとこうかな…どうしようか悩んでいる時、主塔でななしは立ち上がった。
体を伸ばしてストレッチしてる。
どうやらもう移動するようだ。
僕もパソコンを片手にななしの隣に立つ。
『スパイディ、また明日な』
「うんまた明日。くれぐれも無茶しないようにね。なにかあったら何時でも連絡していいから…ケガだけはしないでよ」
『もちろん!ありがとうパートナー』
僕の肩に手を置いた後、ななしは振り返り片手を上げながらケーブルを起用に歩き降りていく。
スパイダーマンも顔負けのバランス感覚だね、本当に。もしかして彼も蜘蛛に噛まれてたり?…なんてね。
ななしがケーブルを降りきるのを見届けた後、僕もウェブを放って主塔から警察署に向かった。
「明日も会えるかな…」
今別れたのにもう会いたいなんて、スーパーヒーロー形無しだね。
だけどそれも悪くない。今の僕があるのはななしのおかげだし、スパイダーマンがあるのはMr.ジッパーのおかげ。
こうして頑張れるのはパートナーのおかげだ。
君がいるから僕がいる
(欠けてはならない)