小話集2
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(沖田/恋人)
うだるような暑い夏が終わり、次は爽やかで少し肌寒い風が吹く秋になった。
空は広く、今日も秋晴れである。
朝の巡回を終えた沖田はそんな爽やかな秋晴れの下 で一生懸命に掃き掃除をしているななしを見つめていた。
ななしは屯所内の庭掃除をしており、門に寄りかかっている沖田には気がついていない。
「…チッ」
「……」
「……」
腕を組み険しい顔でななしを見つめ、舌打ちを放つ沖田にそばに居た門番二人は息を飲む。
沖田は普段から強面であるが、怒りに顔を顰めると更に厳つくなる。そこに舌打ちが混ざれば、それはもう鬼のように恐ろしい。
門番二人はなるべく怒る沖田に関わらないようにとそっと地面に視線を落とした。
一方で何故沖田が鬼のような形相で静かに怒っているのか。
それは庭で掃除をしているのがななし一人だけであったからだ。一生懸命に動き落ち葉を集めているのは広い庭の中でもななしだけで、他の隊士達はホウキを持っているものの楽しそうに話しているのだ。
本来当番制で庭の掃除をしている為、日によって面子は変わるのだが、ななしだけは変わらず毎日のように庭で掃除をしている。
それは今のようにだべるだけで真面目に掃除をしない隊士達が多いせいだ。
特に原田率いる十番隊隊士達は素行が悪く、その上当番でもないななしに全ての掃除を押し付ける。
今もまさに十番隊が庭掃除の担当であるが、誰一人として手を動かしているものはいない。
そんな光景に沖田のこめかみにはピシリと青筋が浮かんだ。
ななしは一番隊隊長補佐であって、間違っても掃除頭などではない。
皆が苦手で手をつけたがらない仕事をしてくれているし、道場や渡り廊下などの掃除も文句一つこぼすことなく彼女が請け負ってくれている。
その上で、更に多忙なななしに庭掃除まで任せるなど絶対にあってはならない事だ。
今日とて事務仕事や土方の手伝いなどで忙しいはずのななしに、全ての掃除を押し付けている十番隊の隊士達があまりにも気に食わなかった沖田。
大股でドカドカと歩きながらだべる隊士へ近づくと「サボりか?あぁ?」と詰め寄った。
鬼の形相の沖田に詰め寄られた隊士達は「ひぃぃ!?」と情けない声を上げ後ずさる。
今にも腰が抜けてしまいそうな隊士達に更に詰め寄り、沖田は隻眼で鋭く睨みつけた。
「おどれら今日の掃除当番やないんか、あぁ?手ぇ抜かんとキビキビ働けや!いてこますぞ!!」
「は、はいぃぃい!!!」
沖田の剣幕に慄いた隊士達は「すみませぇん!」と半ば叫ぶように言うと、それぞれ逃げるように散り散りになり持っていたホウキを動かし始めた。
そんなやりとりを遠巻きに見ていたであろう他の十番隊の隊士も、沖田に怒られないようにとそそくさ動き始めた。
「最初っからやれやボケ」
慌てて掃除をはじめた隊士達を睨みつけ舌打ちを放った沖田。
再び「ひぃ!」と短い悲鳴を上げる隊士達を無視し、未だにてきぱきと働いているななしの方へと向かった。
「ななし」
『あ、総司さん!おかえりなさい。あと、お疲れ様です』
「おう、ななしもお疲れさん」
『はい』
いそいそと掃除を続けていたななしへ話しかけると集中していたらしく、肩を揺らし少し驚いている様であった。
しかし声を掛けた人物が想い人 である沖田だと分かると、それは嬉しそうに頬を緩め柔らかな笑みを浮かべた。
綺麗な笑顔に釣られ沖田の頬も自然と緩んでいく。
『巡回はどうでしたか?』
「今日はやたらと静かやったでぇ。悪さしとるやつもおらんだわ」
『おぉ、平和だったんですね!良かった』
「それよりななし」
『はい?』
「頭に紅葉ついとんで。そないに集中しとったんか?」
『え?紅葉ついてますか?』
「おう、ほれ。これや」
『ふふ、本当だ。全然気が付かなかった』
ななしの頭の上には真っ赤な紅葉が一枚乗っていた。
落ちてきて頭の上に乗れば微かな違和感を感じそうなものだが、ななしは余程集中していたのか気がついていなかったようだ。
沖田は頭の上に乗っている紅葉を掴み取ると、こちらを見あげているななしに差し出した。
ななしは『大っきいですね!なんで気が付かなかったんだろう』と、受け取った紅葉を手のひらで遊ばせながら少し恥ずかしそうに笑っている。
『ずっと乗せて掃除してたのかな、恥ずかしいなぁ』
「安心せぇ。赤色はお前にようさん似合うさかい」
『慰めてくれてるんですかぁ?』
「多分な」
『ふふ、なんですかそれ』
「ななしらしいっちゅう事や」
どんな時も他の事が気にならなくなるほど全力で一生懸命に物事に取り組む姿勢はとてもななしらしい。
彼女の長所とも言えるだろう。
しかし何事にも全力で挑み続けていればいつか身体的、精神的な疲労で倒れてしまうのではないか、沖田は常にそんな不安を抱えていた。
労わるように"もっと手を抜いて仕事をしろ"と言ったところで真面目なななしが仕事を中途半端にこなすはずも無く、結局いつだって彼女は気を抜かずにいるため沖田の不安も消えることはない。
今だって掃除当番ですらないのだから、適当に済ませればいい。というか寧ろ掃除はしなくても良いのだが、頭に紅葉が乗っても気が付かないほど集中し全力で取り組んでいたのだ。
一つ一つ丁寧に、迅速且つ全力で。
ななしとはそういう人物だ。
だがそんなななしに惚れたのは他でもない沖田自身。
掃除まで全力で頑張っている姿が健気で、愛おしくてたまらないのだ。
「集中しすぎんのもええけど、適度に休憩せぇよ?倒れたらしまいやで」
『はい、ありがとうございます。じゃあ、少しだけ休憩しようかなぁ』
「おうせや、休憩せぇ」
『ふふ、総司さんも一緒にどうですか?巡回でお疲れでしょう?』
「お、ええやん。ほなホウキおいて休憩しよか」
『はい!そうしましょう!』
沖田の不安に思う気持ちがななしにも微かに通じたのか、彼女は掃除する手を止めてホウキを塀へと立てかけた。
そして手ぶらになったななしは楽しそうに『行きましょう』と羽織の裾を少しだけ引っ張る。
可愛らしい仕草に思わず顔が綻ぶ沖田は、裾を持ち歩き始めたななしの後に続いた。
『総司さんありがとうございます』
「ん?」
新撰組前にある大竹茶屋へ到着し、二人きりになったと同時にななしがそう呟いた。
いきなり何に感謝したのか分からず、沖田は隣に座っているニコニコと笑うななしを見下ろした。
『えっと、いつも私の事を気にかけてくれるから…嬉しくて…。休憩も貴方に言われないと独りじゃ全然とろうと思わないので、そういう気遣いが優しいし、嬉しいなぁって』
「ヒヒッ!お前は目ぇ離すとすぐ無茶するしのぉ」
『ふふ、でも無茶してるつもりは無いんです。私に出来ることは総司さん程多くないから、出来ることだけでも全力で挑みたいなと思っているだけなんです』
「アホやなぁ。寧ろお前にしか出来んことの方がようさんあるわ。男連中に出来ることと言えば刀持って振り回すことだけや。なんも考えんとな」
『ふふっ、えぇ?そうなんですか?皆さんちゃんと考えて刀振ってると思ってましたけど』
「いや、アイツらがそないに器用な連中やとは思えんわ」
『じゃ、総司さんも実は何も考えずに刀振るってたりするんですか?』
「ヒヒッ、ワシはちゃんと考えとるに決まっとるやろ」
『えぇ〜、怪しい!』
「少なくとも、お前の事はな」
『私ですか?』
どこに居ようが、巡回をしていようが、刀を振るっていようが、頭の中を埋め尽くすのはななしのことばかりだ。
無茶せずに元気でいて欲しい、この先もずっとななしと生きていきたい。
新撰組の"沖田総司"になった瞬間から常々そう思っている。
沖田は言葉にはせずに、傍で首を傾げてるななしを慈しむように見つめた。
キョトンとしているななしが可愛らしくて、人目も憚らず抱きしめたくなる。
「まぁ、刀振り回しとらんでもお前の事しか考えとらんけどな」
『そ、総司さんっ』
抱きしめることが出来ない代わりに、そっとななしの頭を撫でてやれば、気持ちが伝わったのか、単に気恥ずかしかったのか、彼女の顔はみるみるうちに赤く染まっていく。
それはまるで先程ななしの頭の上に乗っていた紅葉に良く似た赤い色をしていた。
「秋やのぉ」
『……そ、総司さん。実は私も…』
「ん?」
『私も…いつも貴方の事を考えて仕事しているんです。私たち似た者同士ですね』
真っ赤になったななしは沖田の耳元で小さく呟いた。
仕事をこなす真剣な表情の裏には自分を思う気持ちが隠れていると知った沖田は、ななしの言葉に全身が歓喜するように熱くなるのを感じた。
不意にななしの内心を暴露され事実を知ってしまった沖田もまた、彼女までとはいかないが白い頬を少し赤らめて隻眼を見開いている。
ななしも沖田も似た者同士。
彼女の言葉が言い得て妙だと、沖田は赤くなった顔を悟られぬように手で覆い隠すのだった。
(ふふ、総司さん。こっち向いてください)
(うっさいわ。はよぉ、団子食え)
(んぐっ、んー。お、美味しい!総司さんも食べてみてください!)
(…おう、上手いやんけ!)
(そうですよねぇ!これなら沢山食べれちゃいそう)
(食いすぎたらアカン。夜飯食えんくなるで)
(甘いものって別腹なんですよぅ)
(…ななしは食欲の秋っちゅう訳なや)
(年中食欲が勝ってます。甘いもの限定ですけど)
(ヒヒッ。お前らしいのぉ)
ななしちゃんは食欲の秋。
沖田さんはななしの秋(?)。
うだるような暑い夏が終わり、次は爽やかで少し肌寒い風が吹く秋になった。
空は広く、今日も秋晴れである。
朝の巡回を終えた沖田はそんな爽やかな秋晴れの
ななしは屯所内の庭掃除をしており、門に寄りかかっている沖田には気がついていない。
「…チッ」
「……」
「……」
腕を組み険しい顔でななしを見つめ、舌打ちを放つ沖田にそばに居た門番二人は息を飲む。
沖田は普段から強面であるが、怒りに顔を顰めると更に厳つくなる。そこに舌打ちが混ざれば、それはもう鬼のように恐ろしい。
門番二人はなるべく怒る沖田に関わらないようにとそっと地面に視線を落とした。
一方で何故沖田が鬼のような形相で静かに怒っているのか。
それは庭で掃除をしているのがななし一人だけであったからだ。一生懸命に動き落ち葉を集めているのは広い庭の中でもななしだけで、他の隊士達はホウキを持っているものの楽しそうに話しているのだ。
本来当番制で庭の掃除をしている為、日によって面子は変わるのだが、ななしだけは変わらず毎日のように庭で掃除をしている。
それは今のようにだべるだけで真面目に掃除をしない隊士達が多いせいだ。
特に原田率いる十番隊隊士達は素行が悪く、その上当番でもないななしに全ての掃除を押し付ける。
今もまさに十番隊が庭掃除の担当であるが、誰一人として手を動かしているものはいない。
そんな光景に沖田のこめかみにはピシリと青筋が浮かんだ。
ななしは一番隊隊長補佐であって、間違っても掃除頭などではない。
皆が苦手で手をつけたがらない仕事をしてくれているし、道場や渡り廊下などの掃除も文句一つこぼすことなく彼女が請け負ってくれている。
その上で、更に多忙なななしに庭掃除まで任せるなど絶対にあってはならない事だ。
今日とて事務仕事や土方の手伝いなどで忙しいはずのななしに、全ての掃除を押し付けている十番隊の隊士達があまりにも気に食わなかった沖田。
大股でドカドカと歩きながらだべる隊士へ近づくと「サボりか?あぁ?」と詰め寄った。
鬼の形相の沖田に詰め寄られた隊士達は「ひぃぃ!?」と情けない声を上げ後ずさる。
今にも腰が抜けてしまいそうな隊士達に更に詰め寄り、沖田は隻眼で鋭く睨みつけた。
「おどれら今日の掃除当番やないんか、あぁ?手ぇ抜かんとキビキビ働けや!いてこますぞ!!」
「は、はいぃぃい!!!」
沖田の剣幕に慄いた隊士達は「すみませぇん!」と半ば叫ぶように言うと、それぞれ逃げるように散り散りになり持っていたホウキを動かし始めた。
そんなやりとりを遠巻きに見ていたであろう他の十番隊の隊士も、沖田に怒られないようにとそそくさ動き始めた。
「最初っからやれやボケ」
慌てて掃除をはじめた隊士達を睨みつけ舌打ちを放った沖田。
再び「ひぃ!」と短い悲鳴を上げる隊士達を無視し、未だにてきぱきと働いているななしの方へと向かった。
「ななし」
『あ、総司さん!おかえりなさい。あと、お疲れ様です』
「おう、ななしもお疲れさん」
『はい』
いそいそと掃除を続けていたななしへ話しかけると集中していたらしく、肩を揺らし少し驚いている様であった。
しかし声を掛けた人物が
綺麗な笑顔に釣られ沖田の頬も自然と緩んでいく。
『巡回はどうでしたか?』
「今日はやたらと静かやったでぇ。悪さしとるやつもおらんだわ」
『おぉ、平和だったんですね!良かった』
「それよりななし」
『はい?』
「頭に紅葉ついとんで。そないに集中しとったんか?」
『え?紅葉ついてますか?』
「おう、ほれ。これや」
『ふふ、本当だ。全然気が付かなかった』
ななしの頭の上には真っ赤な紅葉が一枚乗っていた。
落ちてきて頭の上に乗れば微かな違和感を感じそうなものだが、ななしは余程集中していたのか気がついていなかったようだ。
沖田は頭の上に乗っている紅葉を掴み取ると、こちらを見あげているななしに差し出した。
ななしは『大っきいですね!なんで気が付かなかったんだろう』と、受け取った紅葉を手のひらで遊ばせながら少し恥ずかしそうに笑っている。
『ずっと乗せて掃除してたのかな、恥ずかしいなぁ』
「安心せぇ。赤色はお前にようさん似合うさかい」
『慰めてくれてるんですかぁ?』
「多分な」
『ふふ、なんですかそれ』
「ななしらしいっちゅう事や」
どんな時も他の事が気にならなくなるほど全力で一生懸命に物事に取り組む姿勢はとてもななしらしい。
彼女の長所とも言えるだろう。
しかし何事にも全力で挑み続けていればいつか身体的、精神的な疲労で倒れてしまうのではないか、沖田は常にそんな不安を抱えていた。
労わるように"もっと手を抜いて仕事をしろ"と言ったところで真面目なななしが仕事を中途半端にこなすはずも無く、結局いつだって彼女は気を抜かずにいるため沖田の不安も消えることはない。
今だって掃除当番ですらないのだから、適当に済ませればいい。というか寧ろ掃除はしなくても良いのだが、頭に紅葉が乗っても気が付かないほど集中し全力で取り組んでいたのだ。
一つ一つ丁寧に、迅速且つ全力で。
ななしとはそういう人物だ。
だがそんなななしに惚れたのは他でもない沖田自身。
掃除まで全力で頑張っている姿が健気で、愛おしくてたまらないのだ。
「集中しすぎんのもええけど、適度に休憩せぇよ?倒れたらしまいやで」
『はい、ありがとうございます。じゃあ、少しだけ休憩しようかなぁ』
「おうせや、休憩せぇ」
『ふふ、総司さんも一緒にどうですか?巡回でお疲れでしょう?』
「お、ええやん。ほなホウキおいて休憩しよか」
『はい!そうしましょう!』
沖田の不安に思う気持ちがななしにも微かに通じたのか、彼女は掃除する手を止めてホウキを塀へと立てかけた。
そして手ぶらになったななしは楽しそうに『行きましょう』と羽織の裾を少しだけ引っ張る。
可愛らしい仕草に思わず顔が綻ぶ沖田は、裾を持ち歩き始めたななしの後に続いた。
『総司さんありがとうございます』
「ん?」
新撰組前にある大竹茶屋へ到着し、二人きりになったと同時にななしがそう呟いた。
いきなり何に感謝したのか分からず、沖田は隣に座っているニコニコと笑うななしを見下ろした。
『えっと、いつも私の事を気にかけてくれるから…嬉しくて…。休憩も貴方に言われないと独りじゃ全然とろうと思わないので、そういう気遣いが優しいし、嬉しいなぁって』
「ヒヒッ!お前は目ぇ離すとすぐ無茶するしのぉ」
『ふふ、でも無茶してるつもりは無いんです。私に出来ることは総司さん程多くないから、出来ることだけでも全力で挑みたいなと思っているだけなんです』
「アホやなぁ。寧ろお前にしか出来んことの方がようさんあるわ。男連中に出来ることと言えば刀持って振り回すことだけや。なんも考えんとな」
『ふふっ、えぇ?そうなんですか?皆さんちゃんと考えて刀振ってると思ってましたけど』
「いや、アイツらがそないに器用な連中やとは思えんわ」
『じゃ、総司さんも実は何も考えずに刀振るってたりするんですか?』
「ヒヒッ、ワシはちゃんと考えとるに決まっとるやろ」
『えぇ〜、怪しい!』
「少なくとも、お前の事はな」
『私ですか?』
どこに居ようが、巡回をしていようが、刀を振るっていようが、頭の中を埋め尽くすのはななしのことばかりだ。
無茶せずに元気でいて欲しい、この先もずっとななしと生きていきたい。
新撰組の"沖田総司"になった瞬間から常々そう思っている。
沖田は言葉にはせずに、傍で首を傾げてるななしを慈しむように見つめた。
キョトンとしているななしが可愛らしくて、人目も憚らず抱きしめたくなる。
「まぁ、刀振り回しとらんでもお前の事しか考えとらんけどな」
『そ、総司さんっ』
抱きしめることが出来ない代わりに、そっとななしの頭を撫でてやれば、気持ちが伝わったのか、単に気恥ずかしかったのか、彼女の顔はみるみるうちに赤く染まっていく。
それはまるで先程ななしの頭の上に乗っていた紅葉に良く似た赤い色をしていた。
「秋やのぉ」
『……そ、総司さん。実は私も…』
「ん?」
『私も…いつも貴方の事を考えて仕事しているんです。私たち似た者同士ですね』
真っ赤になったななしは沖田の耳元で小さく呟いた。
仕事をこなす真剣な表情の裏には自分を思う気持ちが隠れていると知った沖田は、ななしの言葉に全身が歓喜するように熱くなるのを感じた。
不意にななしの内心を暴露され事実を知ってしまった沖田もまた、彼女までとはいかないが白い頬を少し赤らめて隻眼を見開いている。
ななしも沖田も似た者同士。
彼女の言葉が言い得て妙だと、沖田は赤くなった顔を悟られぬように手で覆い隠すのだった。
(ふふ、総司さん。こっち向いてください)
(うっさいわ。はよぉ、団子食え)
(んぐっ、んー。お、美味しい!総司さんも食べてみてください!)
(…おう、上手いやんけ!)
(そうですよねぇ!これなら沢山食べれちゃいそう)
(食いすぎたらアカン。夜飯食えんくなるで)
(甘いものって別腹なんですよぅ)
(…ななしは食欲の秋っちゅう訳なや)
(年中食欲が勝ってます。甘いもの限定ですけど)
(ヒヒッ。お前らしいのぉ)
ななしちゃんは食欲の秋。
沖田さんはななしの秋(?)。