小話集2
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(支配人/恋人)
「ななし、前髪伸びたんやないか?」
『え?』
自分の元へと駆け寄るななしを見つめながら真島はそう呟いた。
駆けてくる振動でひょこひょこと動くななしの前髪。走っていると時折隙間から大きな瞳が覗くが、そのままじっと立ってているだけだと髪が伸びてきたせいで顔の半分が隠れてしまっている。
はにかんだり喜んだりすると細くなったり、驚くとさらに大きくなったり、怒ると釣り上がったり。
そんな感情豊かなななしの瞳が大好きである真島。
真島は仕事中の疲労をななしの綺麗な瞳や可愛らしい顔を見て癒しているが、前髪が伸び隠れて見えないと癒しどころか物寂しさを感じるほどだ。
それに折角零れそうなほど大きく透き通った綺麗な瞳なのに、髪に隠れているのは勿体ない。
ななしが今の髪型を気に入っているなら問題は無いが、ほんの少しだけでも瞳が見えていて欲しい真島は彼女の前髪を梳くように触りながら「可愛ええ顔が見えへんやん」と呟いた。
するとななしの白い頬は見る見るうちに赤くなって行く。
『そ、そんな事ないですっ』と意地らしくモジモジと動くななしは赤くなった顔で見上げてくるが、やはり大きな瞳は長くなった前髪で少し隠れている。
勿論今のままでも真島にとって充分愛おしいが、愛おしく感じるからこそ余すことなくななしを見たいと感じてしまう訳で。
きっとななしが見上げているこの瞬間もとてつもなく可愛いくて綺麗な顔と瞳をしているに違いない。
そう思ったが最後。確認せずにはいられなくなってしまい、真島は小さなななしを抱き寄せつつ触れていた手で前髪をそっと持ち上げた。
「…ななし」
『ま、真島さん?』
前髪を持ち上げ現れた大きな瞳。
色々な色を反射しキラキラと輝く黒い瞳はまるでなにかの宝石のように美しい。
それらを縁取るまつ毛も長く、しなやかにウェーブしており瞬きするだけで音が聞こえてくるようだ。
現れた両の瞳があまりにも綺麗で、形容しがたい美しさに当てられた真島は声を発することも忘れて彼女に見惚れてしまった。
『ま、真島さん??大丈夫ですか?』
ななしの美しさに魅了されていた真島は彼女の声にようやく我に返り、赤くなっているであろう顔を空いている手で咄嗟に覆う。
真島の行動にななしはキョトンとしており、大きな目を瞬かせている。
そんな行動や仕草も全てが本当に可愛らしく、益々顔に熱が集まる真島は、悟られまいと必死であった。
「す、すまん。気にせんといて」
『アタシの顔になにかついてるのかと思いました』
「いや、そういう訳やない」
『良かったぁ、でも、なにかついていたら遠慮なく教えてくださいね?』
「おう、分かったでななし」
『そ、それより真島さんは前髪短い方がお好みですか?』
「ん?」
『顔が見えた方が良いって言ってくれたから』
「ななしの髪やさかいななしの好きにしたらええよ。ただこの大っきい目が常に隠れとると物足りん気もする。俺はななしとちゃんと目ぇ見て話したいねん」
『そ、そっかぁ…真島さんそんな風に思っていてくれたんだ…。じゃぁ、明日目が見えるくらいまで切ってきますね!』
「俺の我儘で切ってもうてもええんか?」
『全然いいです!それに我儘じゃないです。アタシも真島さんの目を見てお話したいですもん』
「ほうか、ななしはホンマ優しいのぉ」
『ふふ、そうですか?真島さんの方がずっと優しいけどなぁ』
クスクスと赤い顔で小さく笑うななし。
心の底からそう思ってくれているようで、彼女の瞳はどこか嬉しそうに細まり目尻は優しく下がった。
花が咲いたように綺麗な笑顔を浮かべたななしにまたひとつ胸を高鳴らせた真島は、思わず抱き寄せる腕に力が篭ってしまう。
今度は前髪を持ち上げていた手も腰に回して、両腕で力いっぱいに、しかし彼女が痛くないように抱きしめた。
そうすると腕の中で肩を揺らし笑うななしの振動が、真島の体に伝わってくる。
振動さえ心地よく、愛おしい。
真島はななしの首筋に顔を埋めながら、ゆっくりと瞳を閉じた。
「はぁー…、ぬくいしええ匂いする」
『真島さんもとても温かいですよ』
「ほなもうしばらくこうしとってもええか?ななしにもっと触っとりたい」
『ふふ、ええですよ』
「はよぉ家帰りたいやろに、堪忍な」
『いえ、アタシももっとこうしていたいです…』
今日の営業はとっくの昔に終わっており、真島もななしも早々に帰宅し体を休める必要があった。
そうしなければ次の営業に支障をきたす可能性があるからだ。
しかし、早く就寝しなければならないと分かっていても強く抱きしめあってしまったが最後、真島の体もななしの体もこのまま抱き合っていたいと離れることを拒む。
「あー…アカン、このままやとななしを家に帰してやれんくなりそうや」
『そ、それって…』
「おう、俺のオンボロアパートに連れ込みたくなるっちゅうことや」
『それは…アカン事なんでしょうか?』
「可愛ええななしを家に連れ帰ったらただ寝るだけやすまへん。ななしにとってはアカン事やないか?」
『ア、アタシは真島さんとどんな形であれ一緒に過ごせるのは嬉しいですけど…』
「…一昨日も連れ帰ったし、こんだけの頻度やと体しんどいやろ?ななしに無理させてつろうなってほしないねん」
『貴方と離れて過ごす方が辛いもん』
「ななし…そんな可愛ええこと言われたら我慢できひんくなるやろ」
『我慢する必要なんてないです。アタシと真島さんは恋人同士なんですから』
「ななしがそう言うなら俺はかまへん。むしろ嬉しいくらいやけど、ええんか?」
『ええですっ』
一緒の家に帰るということは、同時に激しい夜になると言うことだ。
いつだってななしと一夜を明かしたいが、彼女の体を労り頻度を落としている真島。
しかし当の本人は真島の労りなど露知らずで、煽るように一緒にいたいと言うのだから少し困ってしまう。
だがななしがいいと言うなら遠慮をする必要は無い。
腕の中でまだ一緒に居たいと顔を真っ赤にしているななしの一生懸命さに絆され、今夜も連れて帰ろうと即決した真島は彼女の首筋に小さく口付けをした。
『んっ』と悶えたななしの前髪から、少しだけ覗く大きな瞳はうっとりと細められており、先程とは打って変わって妖艶な表情だ。
「…ホンマに…ななしは…」
『ぁ、え?す、すみません?』
「まぁ、ええ。そんなななしも俺好みやしな」
『んー?ふふ、よく分からないけど、嬉しい』
「……可愛ええのぉ…」
『ん、じゃぁ、帰りましょうか。真島さんのお家』
「せやな。帰ろか」
『はい』
「お、そういえば前髪どうするんや?」
『あ、そうでした!アタシ自分で切るって言いましたもんね!んー、真島さんのお家にはハサミとかはないですよね』
「おいとらんなぁ」
『んー……あ!こういうのはどうですか?』
「ん?」
『真島さんの髪を結んでいるヘアゴムで前髪をあげるっていうのはどうですか?』
「髪留めで前髪を上げる」
『はい』
「なるほど」
『束にして結んでピンで固定するんです。少し子供っぽいかもしれないけどこれなら真島さんと目を合わせて話すことが出来ますよ!』
ななしは真島の背中に回していた手を離し、自身の前髪を器用に束にするとクイっと持ち上げた。
そうすると大きな瞳だけではなく、白く小さなおでこも現れる。
ななしと共に過ごす時間がそれなりに多い真島だが、彼女のおでこを見ることはあまり無い。
普段の落ち着いたななしとは一変し、前髪を上げたことで無邪気で明るい雰囲気を身に纏った彼女は程々に珍しく、真島は思わず釘付けになってしまった。
「こ、これで仕事するんか?」
『はい!それに、おでこを出していると真島さんとおそろいっぽくないですか?』
「おそろい…」
『ふふ、そう!おそろい。仕事も頑張れそうです』
「こ、こんな可愛ええデコと目ぇ全部晒して仕事するっちゅうんか?」
『へ、変でしょうか?』
「変な訳やない。せやけどこんなに可愛ええ格好のななしが一緒に働いとったら俺が仕事で出来んくなりそうや」
『つ、つまり?』
「ななししか目に入らんくなってまうって事や」
『そ、それは大変かもですっ』
「せやろ?それにこんな可愛ええ顔俺以外に見せた無い」
ここはキャバレーで、男性客が女性を求めてやって来る言わば大人の遊び場所だ。
そんな男の欲が渦巻く空間で、無邪気におでこを出し綺麗な顔を晒そうものなら、ボーイとして働いていたとしてもすぐにでも女だとバレて邪な目で見られてしまうに違いない。
最悪客から絡まれたり触れられたりし、ななしが嫌な思いをしてしまうかもしれない。
今のななしは真島にとってそれはもう可愛らしいが、この姿を見られるのは恋人である自分だけであって欲しいと切に思う。
自分勝手な意見ではあったが、これは真島の本心である。
呆れられるかもしれないと思いつつも素直に「誰にも見せたくない」とななしに伝えれば、彼女は面食らったように一度瞳を瞬かせたが直ぐに柔らかな笑みを浮かべた。
絶対に呆れられると自嘲していた真島だがそんな風に笑顔で受け入れてくれると思っておらず、呆気にとられるばかりだ。
『アタシも。アタシも貴方だけに知っていてもらいたいです…』
「……ななし」
『前髪あげるのは無しにしましょう。この姿は真島さんと二人だけの時にすることにします』
「ななしがそうしたいんやったらええんやで?」
『言ったでしょう?アタシの事は真島さんだけに知っていて貰いたいって。今日はお泊まりなので切れないけど、明日は必ず程よい長さに切ってくるんで楽しみにしていてくださいね!』
「ホンマななしは優しいのぉ。俺の我儘なんかに付き合わんでもええのに。せやけどそうしてくれた有難いわ」
『ふふ、我儘だったんですか?全然気にしないのに』
「かなり我儘やろ」
『アタシが嬉しいから我儘でもいいんです!ほら、早く帰らないと朝になっちゃいますよ真島さん!』
「おう、せやな」
どんなに自分勝手で我儘な言葉にも心から嬉しそうに笑ってくれるななしが心の底から愛おしい。
同時にこんな風に厳つい自分を受け入れてくれる優しい子は後にも先にもななししかいないとも思う。
「ななし、帰る前にちょっとええか?」
『はい!どうしました?』
「…好きやで、ななし。愛しとる」
『あ、えっと、う、うん。アタシも好きです。それに真島さんを、あ、愛してます!』
「顔真っ赤になって…ホンマに可愛ええなぁ」
この子がいい、この子じゃないと嫌だ。
永遠にそばにいて欲しい。
声に出すことは出来なかったが、少しでもこの気持ちを伝えたくて。
真島はななしの真っ赤に染った唇い、己の唇を押し当てたのだった。
(まだ前切ってないので今日の仕事は目が見えないですね…)
(ん?気にせんでもええ。今日は仕事の合間に何回か抜け出してななしを堪能するさかい)
(え!?さ、サボりは良くないです!)
(真面目なこといいなや。それに俺はこの綺麗な目ぇ見な仕事頑張れんねん)
(じゃ、じゃあ二分ですよ?二分だけ一緒に抜け出します)
(いや、五分やな)
可愛い顔は自分以外に見せたくない支配人。
汲み取ってくれる優しいななしちゃん。
少しグダグダしてしまいました!すみませぇん( ˇωˇ )
「ななし、前髪伸びたんやないか?」
『え?』
自分の元へと駆け寄るななしを見つめながら真島はそう呟いた。
駆けてくる振動でひょこひょこと動くななしの前髪。走っていると時折隙間から大きな瞳が覗くが、そのままじっと立ってているだけだと髪が伸びてきたせいで顔の半分が隠れてしまっている。
はにかんだり喜んだりすると細くなったり、驚くとさらに大きくなったり、怒ると釣り上がったり。
そんな感情豊かなななしの瞳が大好きである真島。
真島は仕事中の疲労をななしの綺麗な瞳や可愛らしい顔を見て癒しているが、前髪が伸び隠れて見えないと癒しどころか物寂しさを感じるほどだ。
それに折角零れそうなほど大きく透き通った綺麗な瞳なのに、髪に隠れているのは勿体ない。
ななしが今の髪型を気に入っているなら問題は無いが、ほんの少しだけでも瞳が見えていて欲しい真島は彼女の前髪を梳くように触りながら「可愛ええ顔が見えへんやん」と呟いた。
するとななしの白い頬は見る見るうちに赤くなって行く。
『そ、そんな事ないですっ』と意地らしくモジモジと動くななしは赤くなった顔で見上げてくるが、やはり大きな瞳は長くなった前髪で少し隠れている。
勿論今のままでも真島にとって充分愛おしいが、愛おしく感じるからこそ余すことなくななしを見たいと感じてしまう訳で。
きっとななしが見上げているこの瞬間もとてつもなく可愛いくて綺麗な顔と瞳をしているに違いない。
そう思ったが最後。確認せずにはいられなくなってしまい、真島は小さなななしを抱き寄せつつ触れていた手で前髪をそっと持ち上げた。
「…ななし」
『ま、真島さん?』
前髪を持ち上げ現れた大きな瞳。
色々な色を反射しキラキラと輝く黒い瞳はまるでなにかの宝石のように美しい。
それらを縁取るまつ毛も長く、しなやかにウェーブしており瞬きするだけで音が聞こえてくるようだ。
現れた両の瞳があまりにも綺麗で、形容しがたい美しさに当てられた真島は声を発することも忘れて彼女に見惚れてしまった。
『ま、真島さん??大丈夫ですか?』
ななしの美しさに魅了されていた真島は彼女の声にようやく我に返り、赤くなっているであろう顔を空いている手で咄嗟に覆う。
真島の行動にななしはキョトンとしており、大きな目を瞬かせている。
そんな行動や仕草も全てが本当に可愛らしく、益々顔に熱が集まる真島は、悟られまいと必死であった。
「す、すまん。気にせんといて」
『アタシの顔になにかついてるのかと思いました』
「いや、そういう訳やない」
『良かったぁ、でも、なにかついていたら遠慮なく教えてくださいね?』
「おう、分かったでななし」
『そ、それより真島さんは前髪短い方がお好みですか?』
「ん?」
『顔が見えた方が良いって言ってくれたから』
「ななしの髪やさかいななしの好きにしたらええよ。ただこの大っきい目が常に隠れとると物足りん気もする。俺はななしとちゃんと目ぇ見て話したいねん」
『そ、そっかぁ…真島さんそんな風に思っていてくれたんだ…。じゃぁ、明日目が見えるくらいまで切ってきますね!』
「俺の我儘で切ってもうてもええんか?」
『全然いいです!それに我儘じゃないです。アタシも真島さんの目を見てお話したいですもん』
「ほうか、ななしはホンマ優しいのぉ」
『ふふ、そうですか?真島さんの方がずっと優しいけどなぁ』
クスクスと赤い顔で小さく笑うななし。
心の底からそう思ってくれているようで、彼女の瞳はどこか嬉しそうに細まり目尻は優しく下がった。
花が咲いたように綺麗な笑顔を浮かべたななしにまたひとつ胸を高鳴らせた真島は、思わず抱き寄せる腕に力が篭ってしまう。
今度は前髪を持ち上げていた手も腰に回して、両腕で力いっぱいに、しかし彼女が痛くないように抱きしめた。
そうすると腕の中で肩を揺らし笑うななしの振動が、真島の体に伝わってくる。
振動さえ心地よく、愛おしい。
真島はななしの首筋に顔を埋めながら、ゆっくりと瞳を閉じた。
「はぁー…、ぬくいしええ匂いする」
『真島さんもとても温かいですよ』
「ほなもうしばらくこうしとってもええか?ななしにもっと触っとりたい」
『ふふ、ええですよ』
「はよぉ家帰りたいやろに、堪忍な」
『いえ、アタシももっとこうしていたいです…』
今日の営業はとっくの昔に終わっており、真島もななしも早々に帰宅し体を休める必要があった。
そうしなければ次の営業に支障をきたす可能性があるからだ。
しかし、早く就寝しなければならないと分かっていても強く抱きしめあってしまったが最後、真島の体もななしの体もこのまま抱き合っていたいと離れることを拒む。
「あー…アカン、このままやとななしを家に帰してやれんくなりそうや」
『そ、それって…』
「おう、俺のオンボロアパートに連れ込みたくなるっちゅうことや」
『それは…アカン事なんでしょうか?』
「可愛ええななしを家に連れ帰ったらただ寝るだけやすまへん。ななしにとってはアカン事やないか?」
『ア、アタシは真島さんとどんな形であれ一緒に過ごせるのは嬉しいですけど…』
「…一昨日も連れ帰ったし、こんだけの頻度やと体しんどいやろ?ななしに無理させてつろうなってほしないねん」
『貴方と離れて過ごす方が辛いもん』
「ななし…そんな可愛ええこと言われたら我慢できひんくなるやろ」
『我慢する必要なんてないです。アタシと真島さんは恋人同士なんですから』
「ななしがそう言うなら俺はかまへん。むしろ嬉しいくらいやけど、ええんか?」
『ええですっ』
一緒の家に帰るということは、同時に激しい夜になると言うことだ。
いつだってななしと一夜を明かしたいが、彼女の体を労り頻度を落としている真島。
しかし当の本人は真島の労りなど露知らずで、煽るように一緒にいたいと言うのだから少し困ってしまう。
だがななしがいいと言うなら遠慮をする必要は無い。
腕の中でまだ一緒に居たいと顔を真っ赤にしているななしの一生懸命さに絆され、今夜も連れて帰ろうと即決した真島は彼女の首筋に小さく口付けをした。
『んっ』と悶えたななしの前髪から、少しだけ覗く大きな瞳はうっとりと細められており、先程とは打って変わって妖艶な表情だ。
「…ホンマに…ななしは…」
『ぁ、え?す、すみません?』
「まぁ、ええ。そんなななしも俺好みやしな」
『んー?ふふ、よく分からないけど、嬉しい』
「……可愛ええのぉ…」
『ん、じゃぁ、帰りましょうか。真島さんのお家』
「せやな。帰ろか」
『はい』
「お、そういえば前髪どうするんや?」
『あ、そうでした!アタシ自分で切るって言いましたもんね!んー、真島さんのお家にはハサミとかはないですよね』
「おいとらんなぁ」
『んー……あ!こういうのはどうですか?』
「ん?」
『真島さんの髪を結んでいるヘアゴムで前髪をあげるっていうのはどうですか?』
「髪留めで前髪を上げる」
『はい』
「なるほど」
『束にして結んでピンで固定するんです。少し子供っぽいかもしれないけどこれなら真島さんと目を合わせて話すことが出来ますよ!』
ななしは真島の背中に回していた手を離し、自身の前髪を器用に束にするとクイっと持ち上げた。
そうすると大きな瞳だけではなく、白く小さなおでこも現れる。
ななしと共に過ごす時間がそれなりに多い真島だが、彼女のおでこを見ることはあまり無い。
普段の落ち着いたななしとは一変し、前髪を上げたことで無邪気で明るい雰囲気を身に纏った彼女は程々に珍しく、真島は思わず釘付けになってしまった。
「こ、これで仕事するんか?」
『はい!それに、おでこを出していると真島さんとおそろいっぽくないですか?』
「おそろい…」
『ふふ、そう!おそろい。仕事も頑張れそうです』
「こ、こんな可愛ええデコと目ぇ全部晒して仕事するっちゅうんか?」
『へ、変でしょうか?』
「変な訳やない。せやけどこんなに可愛ええ格好のななしが一緒に働いとったら俺が仕事で出来んくなりそうや」
『つ、つまり?』
「ななししか目に入らんくなってまうって事や」
『そ、それは大変かもですっ』
「せやろ?それにこんな可愛ええ顔俺以外に見せた無い」
ここはキャバレーで、男性客が女性を求めてやって来る言わば大人の遊び場所だ。
そんな男の欲が渦巻く空間で、無邪気におでこを出し綺麗な顔を晒そうものなら、ボーイとして働いていたとしてもすぐにでも女だとバレて邪な目で見られてしまうに違いない。
最悪客から絡まれたり触れられたりし、ななしが嫌な思いをしてしまうかもしれない。
今のななしは真島にとってそれはもう可愛らしいが、この姿を見られるのは恋人である自分だけであって欲しいと切に思う。
自分勝手な意見ではあったが、これは真島の本心である。
呆れられるかもしれないと思いつつも素直に「誰にも見せたくない」とななしに伝えれば、彼女は面食らったように一度瞳を瞬かせたが直ぐに柔らかな笑みを浮かべた。
絶対に呆れられると自嘲していた真島だがそんな風に笑顔で受け入れてくれると思っておらず、呆気にとられるばかりだ。
『アタシも。アタシも貴方だけに知っていてもらいたいです…』
「……ななし」
『前髪あげるのは無しにしましょう。この姿は真島さんと二人だけの時にすることにします』
「ななしがそうしたいんやったらええんやで?」
『言ったでしょう?アタシの事は真島さんだけに知っていて貰いたいって。今日はお泊まりなので切れないけど、明日は必ず程よい長さに切ってくるんで楽しみにしていてくださいね!』
「ホンマななしは優しいのぉ。俺の我儘なんかに付き合わんでもええのに。せやけどそうしてくれた有難いわ」
『ふふ、我儘だったんですか?全然気にしないのに』
「かなり我儘やろ」
『アタシが嬉しいから我儘でもいいんです!ほら、早く帰らないと朝になっちゃいますよ真島さん!』
「おう、せやな」
どんなに自分勝手で我儘な言葉にも心から嬉しそうに笑ってくれるななしが心の底から愛おしい。
同時にこんな風に厳つい自分を受け入れてくれる優しい子は後にも先にもななししかいないとも思う。
「ななし、帰る前にちょっとええか?」
『はい!どうしました?』
「…好きやで、ななし。愛しとる」
『あ、えっと、う、うん。アタシも好きです。それに真島さんを、あ、愛してます!』
「顔真っ赤になって…ホンマに可愛ええなぁ」
この子がいい、この子じゃないと嫌だ。
永遠にそばにいて欲しい。
声に出すことは出来なかったが、少しでもこの気持ちを伝えたくて。
真島はななしの真っ赤に染った唇い、己の唇を押し当てたのだった。
(まだ前切ってないので今日の仕事は目が見えないですね…)
(ん?気にせんでもええ。今日は仕事の合間に何回か抜け出してななしを堪能するさかい)
(え!?さ、サボりは良くないです!)
(真面目なこといいなや。それに俺はこの綺麗な目ぇ見な仕事頑張れんねん)
(じゃ、じゃあ二分ですよ?二分だけ一緒に抜け出します)
(いや、五分やな)
可愛い顔は自分以外に見せたくない支配人。
汲み取ってくれる優しいななしちゃん。
少しグダグダしてしまいました!すみませぇん( ˇωˇ )