小話集2
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(真島/恋人)
「親父の機嫌が悪い」
そう聞かされたのはななしがいつも通り仕事を終えて、真島組の事務所にやってきた時。
恋人である真島がいるであろう組長室に入る際、どこかやつれた西田により説明を受けたのだ。
それから縋るように「親父をお願いしまっす!」と頭を下げられ、いつもお世話になっている西田なの頼みならばとななしは笑顔で頷きドアノブに手をかけた。
『吾朗さん入るよ』
どうして真島の機嫌が悪いのかを探るべく、些か緊張しながらも遠慮はせずに入室したななし。
ななしが扉を開き部屋の中に入った途端に目に入ったのは、とんでもなく顰めっ面な真島だ。
普段よりも三割増しで眉間にシワが刻まれており、西田の言うように明らかに機嫌が悪いのが分かる。
触らぬ神に祟りなしという言葉があるように、出来ることなら真島が落ち着くまでそっと見守っている方がいいのだろう。
しかし西田の困りようからして真島が不機嫌であり続けるのはとても不都合なのだろうしに、このまま放置するという訳にも行かず…。
何とか真島の様子を伺いつつ、機嫌を直させようとななしは普段通りに『お疲れ様です、吾朗さん』とにこやかに挨拶をした。
すると真島は「…おう、お疲れさん」と返えしてくる。
眉間には深いシワが刻まれたままではあったが、心底機嫌が悪いと返事すら返さない事もあるのでそれから比べれば今の真島はまだそこまで機嫌が悪いという訳では無さそうだ。
これならなんとかなりそうだとホッと胸を撫で下ろしたななしは、椅子にふんぞり返る真島へとゆっくりと歩みをすすめた。
『吾朗さん、仕事で何かあったんですか?お話聞きますよ』
「…いや、そういう訳やない」
『じゃぁどうしたんですか?いつもよりシワ多くなってますよ』
「………今から"クソくだらん話"聞きに行かなアカンねん。それがおもんないだけや」
『クソくだらない話って言うと…あー…、幹部会?』
「せや。東城会お得意の幹部会や」
『朝は幹部会があるって言ってなかったと思うんですけど…もしかして急に決まったんですか?』
「おう、ついさっき電話かかってきて"急遽決まった"らしい。どうせ今日もただの飲み会やっちゅうにのに、なにが急遽やねん。ホンマ腹立つわ」
『なるほど』
真島の機嫌がそれなりに悪い理由がようやく分かったななしは、なるほど…と人知れず頷いた。
真島は大人しく座って話を聞くと言うのが昔から苦手で、座っているくらいなら喧嘩でもなんでも体を動かしていたいというタイプだ。
故に小難しい話を座りながら長々と聞かされる幹部会は真島にとって苦行でしかないらしい。
それに加えて、なんの前触れもなく急遽幹部会が決まったというのだから、真島の機嫌が悪くなるのも無理は無い。
ななしとてゆっくり休めると思った矢先に緊急会議などでいきなり会社に呼び戻されればイライラもする。
夜の予定が入っていた場合などは殊更に腹が立つかもしれない。
こればかりは少し同情してしまう…とななしは腕組みをしたままつまらなさそうに下唇を突き出しいている真島を見下ろした。
『ようやく吾朗さんがプンプンしている理由が分かりました。でも同じ状況だったらアタシもイライラしちゃいそう』
「せやろ?それに今日は花金やさかいお前と飲みに行く予定やってん。せやのに何が悲しくてハゲの話聞きながら大して美味くもない飯食わなアカンねん」
『ふふ、飲みに行こうとしてたんですか?』
「おう、ええイワシ入った言うとったし寿司食わしたろうおもてな!」
本来ならば今夜は真島が寿司屋に連れて行ってくれる予定だったらしい。
きっと寿司でお腹がいっぱいになった後は行きつけのバーで時間も忘れ色々な話で盛り上がり、ベロベロになってようやく帰宅したのだろう。
本来訪れるはずであった夜デートは幹部会によって中止してしまったが、真島が連れていきたいと思ってくれたことが何よりも嬉しくてななしは彼の粋な計らいや、優しさに頬を赤らめ喜んだ。
真島が考えてくれた通りには行かなかったが、とても満足であると伝えたかったななしは、はにかみながらも机に投げ出されている彼の手に己の手を重ねた。
『そっか、連れて行こうとしてくれてたんだ。ふふ、嬉しい。でも今日はしょうがないですよ。ちゃんと幹部会行かないと、後から怒られちゃいますよ』
「…あ?行かへんで?」
『え、え?行かないんですか?』
「そらそうやろ。俺には俺の予定があんねん。何人 も邪魔させへんわ。東城会やろうが関係あらへん」
『だ、駄目ですよ〜。吾朗さんは真島組の組長さんなんだから、責任ある立場ですよ?一応顔出さないと、とても大事な用事かもしれないのに』
「あぁ?お前は誰の味方をしとんねん。一緒に飯行けるの嬉しい言うたやんけ!」
『そりゃ吾朗さんが考えてくれたから嬉しいですよ?でも、仕事を放ってご飯なんて行けないですよ。気になっちゃうじゃん』
「お前が気にすることやないやろ」
『そういうこと言う!吾朗さんがサボった次の日はアタシも柏木さんに叱られるんですからね』
「俺との時間と柏木さんどっちが大事やねん」
『吾朗さんは吾朗さんだし、柏木さんは柏木さんです。天秤にかけないでください』
「即答できひんなんて、俺は悲しいでななし。お前と一緒に出かけんの楽しみなんは俺だけなんやな」
『もう!アタシも行きたいですよ?でもお仕事なんだし割り切らないと…!』
ななしとて恋人と一緒に食事に行きたいと心のそこから思うが、なにか事情があるなら仕方がないと割り切ることが出来る。
しかし真島は幹部会と言うだけでそれすらも出来ないようで、行かんの一点張り。
厳つい面持ちで髭を蓄えた大の男が子供のように駄々をこねる姿にななしはため息しか出てこない。
こんな状況でなければ真島の見た目と行動のギャップに胸をときめかせたのだろうが、今は頑固な彼に呆れるばかりだ。
こうなるとなかなか真島はうんと首を縦には降らない。
ななしはそれを知っているため長丁場になるかもしれないこの状況に少しばかり頭が痛くなる。
───…さて、どうして諭してやろうか
腕を組み鼻息荒くふんぞり返っている真島を、机に両手をつき前かがみで見据えたななしは『いいですか!』と、切り出した。
『吾朗さんは大人で組長っていう責任ある立場なんですから、いやいやでは通りませんよ。きっと皆さん待ってますからね?せめて顔を出すくらいはしないと、本当に怒られちゃいますし、怒られる時間こそ無駄だと思いませんか?』
「……」
『それに今日を乗り切れば明日は自由じゃないですか!大変なのは分かってますけど、今日頑張って明日一緒に食べに行きましょう?ね?幹部会があるのに〜って気になっている状態より、なにも考えないでご飯に行きたいじゃないですか!』
「……」
『もう!ねぇ、吾朗さん聞いてます??』
子供に言い聞かせるように優しく説得を試みるも、真島には響かなかったようで返事は無い。
当の真島はというと何故か革手袋を外し手で遊ばせながら顔を背けており、あからさまに話を聞く気がないと態度で示している。
組長である真島の為にも、苦労と胃痛を極めし西田の為にも、そしてなにより自分が柏木に怒られない為にも。
なんとしてでも真島には幹部会に出向いてもらう必要がある。
例え今の真島が無関心だったとしても絶対に話を聞いてもらうぞ!とななしは人知れず拳を握り気合いを入れ直すと、そっぽを向く彼の頬へと手を伸ばした。
手の甲で頬を撫でながら『いいですか?』と声をかければ、こちらの誠意が伝わったのかそっぽを向いていた真島がゆっくりと顔を起こす。
『良かった、やっと目が合いましたね!じゃあ、もう一度説明しますよ!』
真島が頬に当てていた手に手を重ね隻眼でこちらを見つめてきたため、これなら話を聞いてくれるだろうとななしは安堵する。
なんだかんだ真島ならわかってくれるはずだと思い、もう一度一から説明しようと口を開いたと同時に真島の手が徐に動かされた。
革手袋を外しているため素手状態の真島の右手はゆっくりとななしの方へと伸ばされ、まるで指を指すように人差し指を持ち上げたのだ。
『え?どうしました?』
再び話し出そうとしていたななしは指を指した真島の真意が分からず首を傾げるばかりだ。
どうしたのだろうと、疑問に思っていると差し出された手が素早く動き、前かがみになっていた為たるんでいたであろうななしの服の中に真島の指が入ってくる。
それだけならまだしも指は見えていたのか胸と胸の間…所謂谷間にずっぽりと突っ込まれたのだ。
まさか指が谷間に入ってくるとは思わずななしは驚きのあまり『え?』と口を開き固まってしまった。
そんなななしを他所に指を突っ込んだ真島はうっとり目を細め「ぬくいのぉ」と嬉しそうにしている。
『…あの、なにしてるんですか』
「あ?谷間に指突っ込んどるだけや」
『…だけって…どうして指を突っ込むんです?』
「そら目の前にふかふかの谷間があったら指突っ込むやろ」
『吾朗さんは、目の前に胸があったら触るんですか…?信じらんない』
「安心せぇ。ななしにだけやで?」
『安心できません!ていうか!アタシ真剣に話してましたよね!?てっきり伝わっていると思っていたんですけど!』
「ななしが真面目に話しとったんは知っとる。えろう必死で思わずにやけてもうたわ。お前ホンマ、可愛ええな」
『そういう話をしているんじゃなくて、幹部会に行ってきてって話をしているんです!』
「ななしがそこまで言うなら行ってやらんこともない。せやけどまだななしが足りひんさかい、充電してから行くことにするわ」
真島は楽しそうにヒヒヒっと笑いながら、指を引き抜くとその手でこちらに来いと手招きをする。
勿論とんでもなく嫌な予感しかしないのだが、真島が幹部会に行ってくれるというのならなにがあっても"少し"は我慢しよう…とななしは、手招きをしている彼の側へと向かった。
「素直やのぉ」
『そうすれば幹部会に行ってくれるんでしょう?』
「嘘は言わへん。ななし、もっとこっち来い」
『…ん、はい』
真島の真正面に立てば遠いからもっと近付けと手を引かれる。
真島の手に身を委ねていれば腰に緩く腕が周り、引き寄せられた。
そのままぎゅうと抱きしめられると、ちょうど真島の顔が胸に埋もれていく。
スーハースーハーとなにやら聞こえてくるが、なるべく気にしないように心がけななしは抱きしめてくる真島の頭を抱え込んだ。
『…これで充電になるんです?』
「…おう、寧ろこのやわこい胸やないとできひん」
『じゃあ、幹部会頑張れるまで充電してください』
「ヒヒッ、お前どんだけ俺に幹部会行って欲しいねん」
『んー、だって柏木さんに怒られるの怖いんだもん』
「まぁ、それは否定できひん」
『…だから、吾朗さんはサボらず行ってください。起きて待ってますから』
「何言うとんねん。寝とけ」
『明日お休みですし起きてますよ。それに頑張った後って誰かにおかえりって言って貰えると嬉しいじゃないですか。吾朗さんが頑張った時はアタシが貴方を迎えたいし、褒めていあげたいの。そうすれば次も頑張れると思いませんか?』
「ななし…ほな、ちゃんと起きて俺を迎えてくれや。それだけを楽しみにしとるさかい」
『ふふ、はい。勿論』
胸に顔を埋めて「しゃあないのぉ」と呟く真島の息が温かくて心地よい。
ななしは思わず肩を揺らし笑うと真島の頭や刈り上げられた項を撫で回した。
真島が文句を言わずにスムーズに仕事に向かう恋人だったらどれほど楽なことか。子供のように駄々を捏ねたり、わがままを言わないで、「いってくる」の一言で事務所を飛び出していたら、ここまで疲れることは無いのに。
しかしこうしてひと手間がかかる真島だからこそ送り出してあげたいし、迎えてあげたいとも思うのだろう。
むしろ完璧人間で、こちらの助けも必要としない真島であったら少し寂しく思ってしまうに違いない。
結局真島を甘やかしてしまうななし。
これがきっと惚れた弱みというやつなのだろう。
『吾朗さん流に言うならアタシは貴方に甘々やでぇって感じですかね』
「安心せぇ。お互い様や」
『貴方の安心せぇは安心できないです』
「ヒヒッ!失礼なやっちゃなぁ」
胸に顔を寄せたまま隻眼でこちらを見あげてくる真島が普段よりも幾分も可愛らしく見えてしまったななしは赤くなった顔を見られたくなくて。
視線を遮るように真島の頭をぎゅうと力強く抱きしめたのだった。
(乳圧がとんでもないで、ななし)
(ち、乳圧って言わないでくださいよ)
(お前の胸昔と比べるとえろう育っとるのぉ)
(えぇ?そうですか?)
(ヒヒッ!俺が手ずからもんどるしやろなぁ。まだまだ育つんやないか?)
(そ、育ちません!)
幹部会に行きたくない大きな子供VS巨乳ななしちゃん。
谷間に指をにゅるんと入れるっていうシチュ(?)が書きたくてできた作品。
なんだかんだ甘やかしているななしちゃんと、甘やかされて日々ワガママ放題に育つ真島さん。でもちゃんと幹部会には行くので、一応偉い。
「親父の機嫌が悪い」
そう聞かされたのはななしがいつも通り仕事を終えて、真島組の事務所にやってきた時。
恋人である真島がいるであろう組長室に入る際、どこかやつれた西田により説明を受けたのだ。
それから縋るように「親父をお願いしまっす!」と頭を下げられ、いつもお世話になっている西田なの頼みならばとななしは笑顔で頷きドアノブに手をかけた。
『吾朗さん入るよ』
どうして真島の機嫌が悪いのかを探るべく、些か緊張しながらも遠慮はせずに入室したななし。
ななしが扉を開き部屋の中に入った途端に目に入ったのは、とんでもなく顰めっ面な真島だ。
普段よりも三割増しで眉間にシワが刻まれており、西田の言うように明らかに機嫌が悪いのが分かる。
触らぬ神に祟りなしという言葉があるように、出来ることなら真島が落ち着くまでそっと見守っている方がいいのだろう。
しかし西田の困りようからして真島が不機嫌であり続けるのはとても不都合なのだろうしに、このまま放置するという訳にも行かず…。
何とか真島の様子を伺いつつ、機嫌を直させようとななしは普段通りに『お疲れ様です、吾朗さん』とにこやかに挨拶をした。
すると真島は「…おう、お疲れさん」と返えしてくる。
眉間には深いシワが刻まれたままではあったが、心底機嫌が悪いと返事すら返さない事もあるのでそれから比べれば今の真島はまだそこまで機嫌が悪いという訳では無さそうだ。
これならなんとかなりそうだとホッと胸を撫で下ろしたななしは、椅子にふんぞり返る真島へとゆっくりと歩みをすすめた。
『吾朗さん、仕事で何かあったんですか?お話聞きますよ』
「…いや、そういう訳やない」
『じゃぁどうしたんですか?いつもよりシワ多くなってますよ』
「………今から"クソくだらん話"聞きに行かなアカンねん。それがおもんないだけや」
『クソくだらない話って言うと…あー…、幹部会?』
「せや。東城会お得意の幹部会や」
『朝は幹部会があるって言ってなかったと思うんですけど…もしかして急に決まったんですか?』
「おう、ついさっき電話かかってきて"急遽決まった"らしい。どうせ今日もただの飲み会やっちゅうにのに、なにが急遽やねん。ホンマ腹立つわ」
『なるほど』
真島の機嫌がそれなりに悪い理由がようやく分かったななしは、なるほど…と人知れず頷いた。
真島は大人しく座って話を聞くと言うのが昔から苦手で、座っているくらいなら喧嘩でもなんでも体を動かしていたいというタイプだ。
故に小難しい話を座りながら長々と聞かされる幹部会は真島にとって苦行でしかないらしい。
それに加えて、なんの前触れもなく急遽幹部会が決まったというのだから、真島の機嫌が悪くなるのも無理は無い。
ななしとてゆっくり休めると思った矢先に緊急会議などでいきなり会社に呼び戻されればイライラもする。
夜の予定が入っていた場合などは殊更に腹が立つかもしれない。
こればかりは少し同情してしまう…とななしは腕組みをしたままつまらなさそうに下唇を突き出しいている真島を見下ろした。
『ようやく吾朗さんがプンプンしている理由が分かりました。でも同じ状況だったらアタシもイライラしちゃいそう』
「せやろ?それに今日は花金やさかいお前と飲みに行く予定やってん。せやのに何が悲しくてハゲの話聞きながら大して美味くもない飯食わなアカンねん」
『ふふ、飲みに行こうとしてたんですか?』
「おう、ええイワシ入った言うとったし寿司食わしたろうおもてな!」
本来ならば今夜は真島が寿司屋に連れて行ってくれる予定だったらしい。
きっと寿司でお腹がいっぱいになった後は行きつけのバーで時間も忘れ色々な話で盛り上がり、ベロベロになってようやく帰宅したのだろう。
本来訪れるはずであった夜デートは幹部会によって中止してしまったが、真島が連れていきたいと思ってくれたことが何よりも嬉しくてななしは彼の粋な計らいや、優しさに頬を赤らめ喜んだ。
真島が考えてくれた通りには行かなかったが、とても満足であると伝えたかったななしは、はにかみながらも机に投げ出されている彼の手に己の手を重ねた。
『そっか、連れて行こうとしてくれてたんだ。ふふ、嬉しい。でも今日はしょうがないですよ。ちゃんと幹部会行かないと、後から怒られちゃいますよ』
「…あ?行かへんで?」
『え、え?行かないんですか?』
「そらそうやろ。俺には俺の予定があんねん。
『だ、駄目ですよ〜。吾朗さんは真島組の組長さんなんだから、責任ある立場ですよ?一応顔出さないと、とても大事な用事かもしれないのに』
「あぁ?お前は誰の味方をしとんねん。一緒に飯行けるの嬉しい言うたやんけ!」
『そりゃ吾朗さんが考えてくれたから嬉しいですよ?でも、仕事を放ってご飯なんて行けないですよ。気になっちゃうじゃん』
「お前が気にすることやないやろ」
『そういうこと言う!吾朗さんがサボった次の日はアタシも柏木さんに叱られるんですからね』
「俺との時間と柏木さんどっちが大事やねん」
『吾朗さんは吾朗さんだし、柏木さんは柏木さんです。天秤にかけないでください』
「即答できひんなんて、俺は悲しいでななし。お前と一緒に出かけんの楽しみなんは俺だけなんやな」
『もう!アタシも行きたいですよ?でもお仕事なんだし割り切らないと…!』
ななしとて恋人と一緒に食事に行きたいと心のそこから思うが、なにか事情があるなら仕方がないと割り切ることが出来る。
しかし真島は幹部会と言うだけでそれすらも出来ないようで、行かんの一点張り。
厳つい面持ちで髭を蓄えた大の男が子供のように駄々をこねる姿にななしはため息しか出てこない。
こんな状況でなければ真島の見た目と行動のギャップに胸をときめかせたのだろうが、今は頑固な彼に呆れるばかりだ。
こうなるとなかなか真島はうんと首を縦には降らない。
ななしはそれを知っているため長丁場になるかもしれないこの状況に少しばかり頭が痛くなる。
───…さて、どうして諭してやろうか
腕を組み鼻息荒くふんぞり返っている真島を、机に両手をつき前かがみで見据えたななしは『いいですか!』と、切り出した。
『吾朗さんは大人で組長っていう責任ある立場なんですから、いやいやでは通りませんよ。きっと皆さん待ってますからね?せめて顔を出すくらいはしないと、本当に怒られちゃいますし、怒られる時間こそ無駄だと思いませんか?』
「……」
『それに今日を乗り切れば明日は自由じゃないですか!大変なのは分かってますけど、今日頑張って明日一緒に食べに行きましょう?ね?幹部会があるのに〜って気になっている状態より、なにも考えないでご飯に行きたいじゃないですか!』
「……」
『もう!ねぇ、吾朗さん聞いてます??』
子供に言い聞かせるように優しく説得を試みるも、真島には響かなかったようで返事は無い。
当の真島はというと何故か革手袋を外し手で遊ばせながら顔を背けており、あからさまに話を聞く気がないと態度で示している。
組長である真島の為にも、苦労と胃痛を極めし西田の為にも、そしてなにより自分が柏木に怒られない為にも。
なんとしてでも真島には幹部会に出向いてもらう必要がある。
例え今の真島が無関心だったとしても絶対に話を聞いてもらうぞ!とななしは人知れず拳を握り気合いを入れ直すと、そっぽを向く彼の頬へと手を伸ばした。
手の甲で頬を撫でながら『いいですか?』と声をかければ、こちらの誠意が伝わったのかそっぽを向いていた真島がゆっくりと顔を起こす。
『良かった、やっと目が合いましたね!じゃあ、もう一度説明しますよ!』
真島が頬に当てていた手に手を重ね隻眼でこちらを見つめてきたため、これなら話を聞いてくれるだろうとななしは安堵する。
なんだかんだ真島ならわかってくれるはずだと思い、もう一度一から説明しようと口を開いたと同時に真島の手が徐に動かされた。
革手袋を外しているため素手状態の真島の右手はゆっくりとななしの方へと伸ばされ、まるで指を指すように人差し指を持ち上げたのだ。
『え?どうしました?』
再び話し出そうとしていたななしは指を指した真島の真意が分からず首を傾げるばかりだ。
どうしたのだろうと、疑問に思っていると差し出された手が素早く動き、前かがみになっていた為たるんでいたであろうななしの服の中に真島の指が入ってくる。
それだけならまだしも指は見えていたのか胸と胸の間…所謂谷間にずっぽりと突っ込まれたのだ。
まさか指が谷間に入ってくるとは思わずななしは驚きのあまり『え?』と口を開き固まってしまった。
そんなななしを他所に指を突っ込んだ真島はうっとり目を細め「ぬくいのぉ」と嬉しそうにしている。
『…あの、なにしてるんですか』
「あ?谷間に指突っ込んどるだけや」
『…だけって…どうして指を突っ込むんです?』
「そら目の前にふかふかの谷間があったら指突っ込むやろ」
『吾朗さんは、目の前に胸があったら触るんですか…?信じらんない』
「安心せぇ。ななしにだけやで?」
『安心できません!ていうか!アタシ真剣に話してましたよね!?てっきり伝わっていると思っていたんですけど!』
「ななしが真面目に話しとったんは知っとる。えろう必死で思わずにやけてもうたわ。お前ホンマ、可愛ええな」
『そういう話をしているんじゃなくて、幹部会に行ってきてって話をしているんです!』
「ななしがそこまで言うなら行ってやらんこともない。せやけどまだななしが足りひんさかい、充電してから行くことにするわ」
真島は楽しそうにヒヒヒっと笑いながら、指を引き抜くとその手でこちらに来いと手招きをする。
勿論とんでもなく嫌な予感しかしないのだが、真島が幹部会に行ってくれるというのならなにがあっても"少し"は我慢しよう…とななしは、手招きをしている彼の側へと向かった。
「素直やのぉ」
『そうすれば幹部会に行ってくれるんでしょう?』
「嘘は言わへん。ななし、もっとこっち来い」
『…ん、はい』
真島の真正面に立てば遠いからもっと近付けと手を引かれる。
真島の手に身を委ねていれば腰に緩く腕が周り、引き寄せられた。
そのままぎゅうと抱きしめられると、ちょうど真島の顔が胸に埋もれていく。
スーハースーハーとなにやら聞こえてくるが、なるべく気にしないように心がけななしは抱きしめてくる真島の頭を抱え込んだ。
『…これで充電になるんです?』
「…おう、寧ろこのやわこい胸やないとできひん」
『じゃあ、幹部会頑張れるまで充電してください』
「ヒヒッ、お前どんだけ俺に幹部会行って欲しいねん」
『んー、だって柏木さんに怒られるの怖いんだもん』
「まぁ、それは否定できひん」
『…だから、吾朗さんはサボらず行ってください。起きて待ってますから』
「何言うとんねん。寝とけ」
『明日お休みですし起きてますよ。それに頑張った後って誰かにおかえりって言って貰えると嬉しいじゃないですか。吾朗さんが頑張った時はアタシが貴方を迎えたいし、褒めていあげたいの。そうすれば次も頑張れると思いませんか?』
「ななし…ほな、ちゃんと起きて俺を迎えてくれや。それだけを楽しみにしとるさかい」
『ふふ、はい。勿論』
胸に顔を埋めて「しゃあないのぉ」と呟く真島の息が温かくて心地よい。
ななしは思わず肩を揺らし笑うと真島の頭や刈り上げられた項を撫で回した。
真島が文句を言わずにスムーズに仕事に向かう恋人だったらどれほど楽なことか。子供のように駄々を捏ねたり、わがままを言わないで、「いってくる」の一言で事務所を飛び出していたら、ここまで疲れることは無いのに。
しかしこうしてひと手間がかかる真島だからこそ送り出してあげたいし、迎えてあげたいとも思うのだろう。
むしろ完璧人間で、こちらの助けも必要としない真島であったら少し寂しく思ってしまうに違いない。
結局真島を甘やかしてしまうななし。
これがきっと惚れた弱みというやつなのだろう。
『吾朗さん流に言うならアタシは貴方に甘々やでぇって感じですかね』
「安心せぇ。お互い様や」
『貴方の安心せぇは安心できないです』
「ヒヒッ!失礼なやっちゃなぁ」
胸に顔を寄せたまま隻眼でこちらを見あげてくる真島が普段よりも幾分も可愛らしく見えてしまったななしは赤くなった顔を見られたくなくて。
視線を遮るように真島の頭をぎゅうと力強く抱きしめたのだった。
(乳圧がとんでもないで、ななし)
(ち、乳圧って言わないでくださいよ)
(お前の胸昔と比べるとえろう育っとるのぉ)
(えぇ?そうですか?)
(ヒヒッ!俺が手ずからもんどるしやろなぁ。まだまだ育つんやないか?)
(そ、育ちません!)
幹部会に行きたくない大きな子供VS巨乳ななしちゃん。
谷間に指をにゅるんと入れるっていうシチュ(?)が書きたくてできた作品。
なんだかんだ甘やかしているななしちゃんと、甘やかされて日々ワガママ放題に育つ真島さん。でもちゃんと幹部会には行くので、一応偉い。