小話集2
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(真島/恋人)
『はぁ…最悪…』
仕事が終わりいつも通り真島の事務所に赴くために神室町を歩いていた最中、ななしは突然の豪雨に見舞われた。
朝は快晴で雨が降るなど微塵も感じられなかった為、傘を持たずに出勤したななしはこの豪雨に為す術なく。
急遽雨宿りに逃げ込んだファミレスの屋根の下で雨が上がる迄待機することしかできず立ち往生していた。
『寒ぅ…』
逃げ込むまでにすでに雨に降られびしょ濡れであったななしは、寒さに震えながらカバンの中に入っているハンカチを取り出し体を拭く。
しかしとんでもない豪雨に濡れた髪や服はハンカチ一枚ではどうすることもできない。
すぐに雨を吸い込みびちょびちょになってしまったハンカチを見つめながらななしは重苦しいため息を放った。
使い物にならなくなったハンカチを絞りつつ、どうしようかと降りしきる雨を眺めてみるが解決策はイマイチ浮かんでこない。
ファミレスにコンビニが隣接していれば傘を買うことも出来るがあいにく隣は喫茶店とビデオ屋だ。
目の届く範囲内にコンビニはあるものの走って向かえば再び体が濡れてしまうし、そもそも傘が売れ残っているとも考えにくい。
せめてもう少しこの雨が弱まったタイミングで走って買いに行くべきだ。売り切れていた場合は仕方がないが…。
濡れて風邪をひいては元も子もない。
早く晴れますようにと心の中で祈りながらななしは濡れた体でしばしば雨上がりを待つことにした。
*****
『……』
しかし待てども待てども雨は弱まりもせず、止みもせず。
ななしは長時間ファミレスの屋根の下で待たされていた。
───…もうこの際吾朗さんに連絡をして迎えに来てもらうのもアリかもしれない…いやでも、彼は仕事中だし邪魔をするのは良くないか…
早く帰りたいし真島に会いたいが、その為だけに仕事中の彼に迎えに来てもらうなどとんでもなく自分勝手な気がしてななしはスマホを手に持ってはいたがなかなか連絡出来ないでいた。
そもそも傘や折り畳み傘を持たなかったのも自己責任であるし、全ては自分が招いた結果である。
それなのに忙しい真島を巻き込むなど以ての外だ。
真島なら嫌な顔などせずに迎えに来てくれるとは分かってはいるものの、彼の優しさばかりに甘えていては行けない。
ななしは決心したように人知れず頷いた後、手に持っていたスマホをカバンの奥底にしまった。
『よしっ』
雨が上がるまでじっとしていても良かったが、それではいつになるか分からない。
それならいっその事濡れてもいいからマッハで事務所に向かおう。どうせ今もびちょ濡れなのは変わらないのだから。
───…それに、走るのは得意だもんね
結局濡れてもいいので走って帰ることにしたななし。
このまま待ち続けて帰りが遅くなったり、真島を心配させてしまう方が余程不本意だと、ななしは豪雨の中飛び出そうと拳を握った。
の、だが。
『わっ!?』
飛び出そうと振り上げた右腕ががっしりと捕まれ、何故か後ろに引かれたのだ。
走り出そうとつけた助走が勢い余り、反動で後ろに倒れそうになったななしは『ひゃぁ!』と情けない悲鳴を上げてしまった。
───…た、倒れるっ!絶対痛い!
ななしは訪れるであろう痛みと恐怖にキュッと目を閉じる。
怪我するのは嫌だ!と半泣きになり恐怖に震えるが、待てども痛みは訪れない。
『な、なんで…』
「腕引いちゃってごめん、大丈夫?お姉さん」
「こんな雨の中走り出そうとするからマジビビった」
何故か倒れずに済み、どういう事かと驚いていると後ろから楽しそうな声でそう言われななしは咄嗟に振り返った。
そこには若い二人組の男がおり、彼らが倒れる前に肩をしっかりと支えてくれのだと理解する。
『あ、あのすみません。ありがとうございます』
「いや、全然平気。それよりこんな雨に飛び出しちゃまずいでしょ」
『あー…いえ、帰るだけなんで別に濡れてもいいかなと思いまして』
「最近寒いし風邪ひいちゃうよ〜?」
「そうそう、丁度俺たち傘あるし送っていこうか?」
知り合いでもないし、顔見知りでもない少しだけチャラい二人組にいきなり腕を引かれ話しかけられてしまいななしは戸惑いを隠せなかった。
それに未だに引かれた腕も掴まれたままでとてもいい気分とは言い難い。
他人でしかないのだから雨の中走って帰ろうが何をしようが関係ないだろう放っておいて…と、強く感じるが、見ず知らずの自分を心配して声を掛けてくれたであろう彼らに正直にそう言ってしまうのは憚られた。
善意を無下にするのはあまり良くない、せっかく彼らの厚意で助けてくれたのだから丁寧に対応しようと、戸惑いながらもななしは笑顔を絶やさずに『だ、大丈夫です』と丁寧に断りを入れた。
「実はさ俺ら今このファミレスで飯食ってたんだけど、お姉さんが長時間立ったままだったから気になっちゃって。なかなか動かないし雨で困ってるんだったら力を貸してあげたいと思ってさ。どう?送ろうか?」
『い、いや…だから、大丈夫です』
「…ていうのは建前で、こいつお姉さんがめちゃくちゃ可愛いからって急いで飯食って話しかけたんす。滅茶苦茶どタイプらしい」
「おい、バラすなよ…。でもまぁ…全部本当で、お姉さんとんでもなく美人だしスタイルもいいし、せっかく出会えたんだし少し話したいなぁ〜と思ってさ。こんな雨だし暖かい場所で少しどう?」
『……』
ななしは饒舌に話し出した二人組をみて、呆れたように不愉快そうに眉を顰めた。
厚意は厚意でも"限りなく下心が含まれた厚意"だったようだ。
いきなり手を引かれたのは雨に濡れることを心配してくれた訳ではなく、それらを口実にしたナンパであり、暖かい場所…つまりは屋内に連れ込むための準備だったらしい。
雨続きでとてもイライラしているななしはまさかナンパに出会うなどとは思ってもおらず、ヘラヘラと笑っている彼らに一層苛立ちが募る。
今すぐにでもこの場から離れたいと、先程から掴まれたままの腕を振りほどくように力強く揺らした。
男はもう一人の男とのやりとりに夢中だったようで、ななしが力強く振り払ったことで掴んでいた手は簡単に離れていく。
『あの、アタシ急ぎますんで』
「…まぁまぁそう言わずにさ!まだ雨降ってんじゃん!」
『ちょ、ちょっと!離してっ!』
強引に腕を振り払われたことで驚いたのか、男の声色が少しだけ荒々しくなり、こめかみに小さく青筋が浮かんだ。
加えて男は再びななしの手首を先程よりも強い力で掴むと「少しくらいいいじゃん」と食い下がる。
ナンパ師ならそれくらいで怒るなよ、豆腐メンタル!とななしは、怒り任せに腕を掴む男をキツく睨んだ。
「男に恥かかせんなよ…っ。ばっかじゃねぇの?」
「おいおい、そこまで怒るなよ…」
「うるせぇよ。だいたいこの女ならヤレるって言い出したのお前じゃねぇかよ!」
「キレんなって…。長時間何するでもなく突っ立ってりゃ声掛けられ待ちだと思うじゃん。それにビッチそうな顔してるし」
『は、はぁ!?』
「実際男漁り中だったんだろ?俺らでもいいじゃん。ここならホテル近いし服乾かす間だけでも俺らと遊ぼうぜ?な?」
『そ、そんな訳無いでしょ!?アタシは本当に雨宿りしてただけで、恋人もいるの!離してよ!変態!』
二人組は開き直ったのか誠実な対応を止め、乱暴で粗雑な対応でななしを追い詰めた。
全身を嬲る様に邪な視線で見つめられあまりにも不愉快だ。
ななしはやはり早く走って事務所に行けばよかったと後悔しながらも、男の腕を必死に振り払う。
しかし爪が食い込む程強く掴まれている為、先程のように簡単には振りほどくことが出来ない。
力の限り抵抗をするななしだが男には微塵も効いていないらしく。
「早く来いって!」と半ば叫ぶように言った男に強引に雨の中に引きずり出されてしまった。
途端に全身を激しい雨がぶつかり冷たさと微かな痛みでななしは小さく呻く。
『つ、冷たっ』
「ここからなら五分くらいで着くから、もう暫く我慢してよお姉さん」
『ちょ、ちょっと!離してっ!!』
「うるせぇな〜」
『そ、そう!アタシすっごくうるさいから!!』
「こういう女だから良いんだよ。分からせてやりたくなる」
「うわ、怖ぁ」
『さ、最低っ…!』
ニヤニヤと口角を上げる男にななしはいよいよ危機感を覚えた。
こちらの話など聞こえていないのかとても一方的で、歩みを止めることなくズカズカと進む男がななしには怖くて仕方がない。
なにも出来ない恐怖と不安で全身が粟立ち、雨に打たれているこの状況でも背中に嫌な冷や汗が流れる。
───…吾朗さんは…こんなに力強くないっ、こんなに乱暴じゃないっ、怖くない!もっと優しくて、穏やかで…絶対にアタシが本気で嫌がることなんてしないのに…!
真島と恋人になってから彼以外の男性とは触れ合うことが無かったななしは、大人の男の力がこれ程強いということを改めて実感してしまった。
同時に真島が普段から如何に優しく丁寧に接してくれているのかもよく分かってしまう。
彼は何時だって見た目以上に理性的に振舞ってくれていて、今目の前にいる男のように抵抗できないほどの力でねじ伏せたりなんて絶対にしない。
だがこのナンパ男は違う。
プライドが高いのか何がなんでもホテルに連れ込もうと強い力で引きずり、嫌だという声も徹底的に無視。
終いには強引に体の関係を迫ろうとしているのだから、とんでもなく質が悪い。
ななしはどうにもならない恐怖に溢れてくる涙を必死に拭いながら唇をかみ締めた。
『やっ、やだ…怖いからっ!離してよっ!』
「ここまで来て純情ぶんなくてもいいから。ほらここ俺らのよく使うホテル。まぁまぁ安いんだよね〜」
「じゃ、ちょっと服乾くまで休憩してこうよ。お姉さん」
『やめて!!』
「諦めなってお姉さん〜」
「はやく入れよ」
『か、彼氏…ご、極道の彼氏!呼びますよ!!』
ななしにとって最後の切り札は"真島組の組長"だ。
今目の前にいる男たちが真島組を認知しているかは分からないが、手を出している女が極道の恋人を持っていると知れば少なからず驚くだろう。
ただ真島はななしにとって大切な恋人であって身を守る為の後ろ盾ではない。
こうしてナンパ男の牽制に真島の"組長"である肩書きを用いることはとても酷い事だ。
これではまるで真島を良いように利用しているようで、罪悪感に胸が締め付けられる。
「はぁ?極道ぉ?」
「確かに神室町はヤクザ多いけど…ははっ!本気で言ってる?お姉さん?」
「そうやって言えば逃げられると思ったんだろうけど、そんな冗談全然通じないし」
『ち、違うっ、冗談じゃっ』
「じゃ、何処の誰だよ。今すぐここに呼んでみろよ。嘘だって証明してやるから」
『……』
「やっぱり言えねぇんじゃねぇか。嘘つき女」
『嘘じゃないけど、でもっ、こんな…吾朗さんを利用するみたいなこと……』
「訳わかんねぇ。もういいだろ?」
『や、やめてっ!離してっ』
"真島組組長の真島吾朗"
男にそう言ってしまえば良かったのに、ななしにはどうしても真島の肩書きを利用してしまうような気がして言葉に出来なかった。
口をつぐんでしまった事で今の話がすべて嘘だと決めつけた男達はななしの腕を強引に引っ張ると、ホテルの扉を押し開いた。
もっとやりようがあったかもしれない。
そもそも雨宿りなんてしなければ良かった。
そうしなければきっと今頃真島と一緒に過ごせていたのに。
ななしは大粒の涙を零しながら『吾朗さん』と呟くことしか出来なかった。
半ば諦めの気持ちが頭をよぎる。
ななしはキュッと唇をかみ締めた。
そんな時、
ななしの真後ろから地を這うような重厚感のある声が聞こえた。
「言えばええやんけ、真島組組長真島吾朗やって。のぉ、ななし」
『え?』
その声にあまりにも聞き覚えがありすぎて、咄嗟に顔を上げたななし。
すると確認する前に後ろから優しく暖かな腕が伸びて来て抱きすくめられる。
瞬間ふわりとかおったのは嗅ぎなれた香水とハイライト。
その声と香りだけでななしが安堵するには十分であった。
絶対絶命のピンチに駆けつけてくれたのは恋人であり最愛の真島だ。
「あ?なんだよっ」
「おどれら…ワシのもんに手ぇ出してタダで済むと思っとんやないやろうな」
「はぁ?い"っ──!?」
「なんでもええけどさっさとその汚らしい手ぇ離さんかい」
「だ、誰だよ!俺らの邪魔してんじゃねぇよ!」
「言うたやろ。真島組組長真島吾朗。おどれらが泣かしたななしの恋人や」
「ま、まじかよっ」
「わ、分かったから!離せよ!」
「あぁ!?」
「は、離してくださぃ!」
「ななしもそう言うたんやないんか?怖がって泣くまで離さんかったのは誰や?あぁ?」
「す、すみませんでしたぁ!」
「ほ、ほんの出来心でっ」
「ほんの出来心でワシのもんに手ぇ出したんか?命知らずもここまで来るといっそ清々しいわ」
「うぅ!?」
いつもよりも数段低い声で威圧するように話す真島は、ななしの腕をきつく握っていた男の腹目掛けて長くしなやかな足で強力な蹴りを繰り出した。
痛みと衝撃に呻き後方に倒れ込んだ男。
そんな男の隣にいたもう1人の男は咄嗟にその場で土下座をし頭を下げたのだが、真島が許すはずもなく。
彼のトレードマークである革靴の銀の爪先で男の顎を蹴り上げた。
バキッと鈍く嫌な音が辺に響き、顎を蹴られた男もまるでカエルのようにがに股で後方へと飛んでいく。
「こいつら、"倉庫"に運んどけ」
「「はい!」」
「"殺さん程度"にやっとき。ちょうど最近組に入った若い連中おったやろ」
「はい、三人」
「ほなその三人とお前らで、二度とななしに手ぇ出せんように"去勢"したれ」
「はい!!」
やっとナンパ男から解放されたななしはぎゅうと真島に抱きつき、えぐえぐと涙を流した。
彼の逞しい腕に強くも優しく抱きしめられると恐怖も全て消え去り、心の底からホッと安心する。
もう離れたくないとしがみついていると、かたわらで真島の部下である西田達の声も聞こえてくる。
どうやら現場に来ていたのは真島だけではなかったようだ。
そっと真島の腕から顔を覗かせれば気絶した男と、暴れている男が西田と数人の組員達により運ばれている。
「……ななし、見んとき。お前には刺激が強いさかい」
『…はい。あの…ごめんなさい』
「ちゃうやろ、そんな言葉聞きたないわ」
『あ、あの…ありがとう吾朗さんっ。本当にっ、凄く安心した…』
「はぁ…ホンマに…心臓に悪い…せやけど、良かった…ななし」
真島はそう言うと少し赤くなった手首を持ち上げ、そっと撫で付けた。
触れられるとピリりとした痛みが走り、男達にどれだけ強く握られていたかを思い知る。
思わず、『痛っ…』と口先から声が漏れ、ななしは眉を顰めた。
「大丈夫か?」
『少し痛いけど、でも大丈夫です』
真島が心配そうにこちらを覗いてくるが、見た目程痛くは無いとはにかめば彼は少しだけ安心したように眉を下げた。
今回の一連の出来事や手首の傷は全て自分が招いた結果であり、真島は巻き込まれた形に過ぎないのだが…。
真島は嫌な顔ひとつせず、雨の中助けてくれて、心から心配してくれた。
全部全部自分が悪いのに、気にかけてくれる真島や真島の優しさがどうしようも無くかっこよくて、愛おしくて。
体を労わるように抱きしめる腕も、慰めるように撫でる手も…どれもこれも壊れ物を扱うように優しくて、先程の男達とは全く違う。
彼の行動全てに思いやりや愛情を感じてななしは思わず涙を流すと、再び逞しい胸板に抱きついた。
『吾朗さんっ』
「ほな、帰ろかななし」
『んっ、帰りたいです』
「帰ったらまずは風呂やな。お前体つめとうなっとる」
『吾朗さんもですよぅ』
「ほな一緒に入ろか。そしたら二人で体あったまるやろ」
『んふふ、そうしましょう』
「俺が隅々まで綺麗にしたるさかい、もう泣かんとき」
『ん、もう大丈夫』
「おう、偉いで!ほな、抱えるさかい捕まっとれよ」
『え?あ、歩けますよ…うわっ!』
「今日はもう絶対離さへん。お前が無事やって確かめさしてくれ」
『ご、吾朗さん…』
涙が引っ込んでしまうほど急に抱き上げられたななしは高くなった視界に思わず驚きの声を上げていた。
そのまますたすたと歩き出した真島に落ちないようにと必死に捕まれば路上には既に組の車が用意されており、扉が開いた状態であった。
運転席には先程男を運んでいた西田が乗っており、彼もまた心配そうにこちらの様子を伺っている。
真島組の人達は心優しい人が多いのだとホクホクしながらも、西田に笑顔で会釈すれば彼はホッと胸をなでおろしているようであった。
「ワシの家向かえ西田」
「はいっす!」
「マッハやで」
「わ、わかりました!」
「寒ないか?ななし?」
「だ、暖房入れますっすか!?」
「おい、阿呆西田。何気安くななしに話しかけとんねん!おどれは前向いて運転しとけや!」
「ヒィィ!!す、すんません!」
『ふふふっ、ありがとうです。でも吾朗さんが抱きしめてくれてるし大丈夫。西田さんもありがとう』
「せやけどそのびっちょびちょな服やと寒いやろ」
『もう家に帰るだけですから我慢します。それに貴方も寒いでしょう?』
「俺はええねん」
『良くないですよぅ』
「お!ほな、少しの間体あったまることでもしよか」
『え?どういう…んぅ!』
考える間もなく真島の薄い唇が自分の唇に重なりななしは目を見開いた。
あっという間に舌が口内に入り込みあちらこちらを舐め尽くしてくる。
それだけでえも言われぬ快感に体が震え、だんだんと全身が熱く火照ってくるようだ。
なるほど真島が言いたかった温まる事とは濃厚な口付けのことであったか。
真島の思い通りにお互いの体が熱を持ち始め、キスの合間に盛れる吐息は火傷しそうなほど熱い。
本来なら西田が傍にいるのにキスなんて…!と、羞恥が勝り真島を拒絶するななしだが、今日はどうしても彼が欲しくて堪らず。
先程までの恐怖や不安を打ち消すように無我夢中で真島にしがみついた。
そうすることで傷の痛みや、感じていた負の感情も綺麗さっぱりとなくなり、次に溢れてくるのは真島への愛おしいという甘やかな感情。
もっともっとそんな甘やかで愛おしい感情に心から満たされてくて、ななしは西田の目も憚らずに真島との深いキスに酔いしれた。
(そういえばどうして探してくれたんですか?アタシなにも連絡しなかったのに…)
(普段事務所にくる時間すぎても全然現れんし、外はザァザァ降りやし、それにななしが傘持たんと家出たのも知っとる。雨宿りしとることくらい想像つくし、俺に迎え頼むのを渋っとんのも手に取るように分かる)
(う、そ、その通りです…)
(せやから元々は迎えに行くためにななしを探しとったんやで?)
(そ、そうだったんだ。でも傘もってませんでしたよね?)
(お前が男に引きずられとんの見つけてから邪魔で捨てたわ)
(す、捨てた…)
(おう)
(そっか…でも、ふふっ、見つけてくれてありがとう。吾朗さんはアタシのスーパーヒーローです)
(ヒヒッ、そないなたまやないわ)
お粗末!
長くなりました。
王道的なお話を書きたくて作りました。
しかし終わり方が分からずうーむ( ˇωˇ )となった作品でもあります))
多分どんなピンチでも真島さんのななしちゃんセンサーが反応して助けてくれます。
これが、夢クオリティ( ˙▿˙ )
『はぁ…最悪…』
仕事が終わりいつも通り真島の事務所に赴くために神室町を歩いていた最中、ななしは突然の豪雨に見舞われた。
朝は快晴で雨が降るなど微塵も感じられなかった為、傘を持たずに出勤したななしはこの豪雨に為す術なく。
急遽雨宿りに逃げ込んだファミレスの屋根の下で雨が上がる迄待機することしかできず立ち往生していた。
『寒ぅ…』
逃げ込むまでにすでに雨に降られびしょ濡れであったななしは、寒さに震えながらカバンの中に入っているハンカチを取り出し体を拭く。
しかしとんでもない豪雨に濡れた髪や服はハンカチ一枚ではどうすることもできない。
すぐに雨を吸い込みびちょびちょになってしまったハンカチを見つめながらななしは重苦しいため息を放った。
使い物にならなくなったハンカチを絞りつつ、どうしようかと降りしきる雨を眺めてみるが解決策はイマイチ浮かんでこない。
ファミレスにコンビニが隣接していれば傘を買うことも出来るがあいにく隣は喫茶店とビデオ屋だ。
目の届く範囲内にコンビニはあるものの走って向かえば再び体が濡れてしまうし、そもそも傘が売れ残っているとも考えにくい。
せめてもう少しこの雨が弱まったタイミングで走って買いに行くべきだ。売り切れていた場合は仕方がないが…。
濡れて風邪をひいては元も子もない。
早く晴れますようにと心の中で祈りながらななしは濡れた体でしばしば雨上がりを待つことにした。
*****
『……』
しかし待てども待てども雨は弱まりもせず、止みもせず。
ななしは長時間ファミレスの屋根の下で待たされていた。
───…もうこの際吾朗さんに連絡をして迎えに来てもらうのもアリかもしれない…いやでも、彼は仕事中だし邪魔をするのは良くないか…
早く帰りたいし真島に会いたいが、その為だけに仕事中の彼に迎えに来てもらうなどとんでもなく自分勝手な気がしてななしはスマホを手に持ってはいたがなかなか連絡出来ないでいた。
そもそも傘や折り畳み傘を持たなかったのも自己責任であるし、全ては自分が招いた結果である。
それなのに忙しい真島を巻き込むなど以ての外だ。
真島なら嫌な顔などせずに迎えに来てくれるとは分かってはいるものの、彼の優しさばかりに甘えていては行けない。
ななしは決心したように人知れず頷いた後、手に持っていたスマホをカバンの奥底にしまった。
『よしっ』
雨が上がるまでじっとしていても良かったが、それではいつになるか分からない。
それならいっその事濡れてもいいからマッハで事務所に向かおう。どうせ今もびちょ濡れなのは変わらないのだから。
───…それに、走るのは得意だもんね
結局濡れてもいいので走って帰ることにしたななし。
このまま待ち続けて帰りが遅くなったり、真島を心配させてしまう方が余程不本意だと、ななしは豪雨の中飛び出そうと拳を握った。
の、だが。
『わっ!?』
飛び出そうと振り上げた右腕ががっしりと捕まれ、何故か後ろに引かれたのだ。
走り出そうとつけた助走が勢い余り、反動で後ろに倒れそうになったななしは『ひゃぁ!』と情けない悲鳴を上げてしまった。
───…た、倒れるっ!絶対痛い!
ななしは訪れるであろう痛みと恐怖にキュッと目を閉じる。
怪我するのは嫌だ!と半泣きになり恐怖に震えるが、待てども痛みは訪れない。
『な、なんで…』
「腕引いちゃってごめん、大丈夫?お姉さん」
「こんな雨の中走り出そうとするからマジビビった」
何故か倒れずに済み、どういう事かと驚いていると後ろから楽しそうな声でそう言われななしは咄嗟に振り返った。
そこには若い二人組の男がおり、彼らが倒れる前に肩をしっかりと支えてくれのだと理解する。
『あ、あのすみません。ありがとうございます』
「いや、全然平気。それよりこんな雨に飛び出しちゃまずいでしょ」
『あー…いえ、帰るだけなんで別に濡れてもいいかなと思いまして』
「最近寒いし風邪ひいちゃうよ〜?」
「そうそう、丁度俺たち傘あるし送っていこうか?」
知り合いでもないし、顔見知りでもない少しだけチャラい二人組にいきなり腕を引かれ話しかけられてしまいななしは戸惑いを隠せなかった。
それに未だに引かれた腕も掴まれたままでとてもいい気分とは言い難い。
他人でしかないのだから雨の中走って帰ろうが何をしようが関係ないだろう放っておいて…と、強く感じるが、見ず知らずの自分を心配して声を掛けてくれたであろう彼らに正直にそう言ってしまうのは憚られた。
善意を無下にするのはあまり良くない、せっかく彼らの厚意で助けてくれたのだから丁寧に対応しようと、戸惑いながらもななしは笑顔を絶やさずに『だ、大丈夫です』と丁寧に断りを入れた。
「実はさ俺ら今このファミレスで飯食ってたんだけど、お姉さんが長時間立ったままだったから気になっちゃって。なかなか動かないし雨で困ってるんだったら力を貸してあげたいと思ってさ。どう?送ろうか?」
『い、いや…だから、大丈夫です』
「…ていうのは建前で、こいつお姉さんがめちゃくちゃ可愛いからって急いで飯食って話しかけたんす。滅茶苦茶どタイプらしい」
「おい、バラすなよ…。でもまぁ…全部本当で、お姉さんとんでもなく美人だしスタイルもいいし、せっかく出会えたんだし少し話したいなぁ〜と思ってさ。こんな雨だし暖かい場所で少しどう?」
『……』
ななしは饒舌に話し出した二人組をみて、呆れたように不愉快そうに眉を顰めた。
厚意は厚意でも"限りなく下心が含まれた厚意"だったようだ。
いきなり手を引かれたのは雨に濡れることを心配してくれた訳ではなく、それらを口実にしたナンパであり、暖かい場所…つまりは屋内に連れ込むための準備だったらしい。
雨続きでとてもイライラしているななしはまさかナンパに出会うなどとは思ってもおらず、ヘラヘラと笑っている彼らに一層苛立ちが募る。
今すぐにでもこの場から離れたいと、先程から掴まれたままの腕を振りほどくように力強く揺らした。
男はもう一人の男とのやりとりに夢中だったようで、ななしが力強く振り払ったことで掴んでいた手は簡単に離れていく。
『あの、アタシ急ぎますんで』
「…まぁまぁそう言わずにさ!まだ雨降ってんじゃん!」
『ちょ、ちょっと!離してっ!』
強引に腕を振り払われたことで驚いたのか、男の声色が少しだけ荒々しくなり、こめかみに小さく青筋が浮かんだ。
加えて男は再びななしの手首を先程よりも強い力で掴むと「少しくらいいいじゃん」と食い下がる。
ナンパ師ならそれくらいで怒るなよ、豆腐メンタル!とななしは、怒り任せに腕を掴む男をキツく睨んだ。
「男に恥かかせんなよ…っ。ばっかじゃねぇの?」
「おいおい、そこまで怒るなよ…」
「うるせぇよ。だいたいこの女ならヤレるって言い出したのお前じゃねぇかよ!」
「キレんなって…。長時間何するでもなく突っ立ってりゃ声掛けられ待ちだと思うじゃん。それにビッチそうな顔してるし」
『は、はぁ!?』
「実際男漁り中だったんだろ?俺らでもいいじゃん。ここならホテル近いし服乾かす間だけでも俺らと遊ぼうぜ?な?」
『そ、そんな訳無いでしょ!?アタシは本当に雨宿りしてただけで、恋人もいるの!離してよ!変態!』
二人組は開き直ったのか誠実な対応を止め、乱暴で粗雑な対応でななしを追い詰めた。
全身を嬲る様に邪な視線で見つめられあまりにも不愉快だ。
ななしはやはり早く走って事務所に行けばよかったと後悔しながらも、男の腕を必死に振り払う。
しかし爪が食い込む程強く掴まれている為、先程のように簡単には振りほどくことが出来ない。
力の限り抵抗をするななしだが男には微塵も効いていないらしく。
「早く来いって!」と半ば叫ぶように言った男に強引に雨の中に引きずり出されてしまった。
途端に全身を激しい雨がぶつかり冷たさと微かな痛みでななしは小さく呻く。
『つ、冷たっ』
「ここからなら五分くらいで着くから、もう暫く我慢してよお姉さん」
『ちょ、ちょっと!離してっ!!』
「うるせぇな〜」
『そ、そう!アタシすっごくうるさいから!!』
「こういう女だから良いんだよ。分からせてやりたくなる」
「うわ、怖ぁ」
『さ、最低っ…!』
ニヤニヤと口角を上げる男にななしはいよいよ危機感を覚えた。
こちらの話など聞こえていないのかとても一方的で、歩みを止めることなくズカズカと進む男がななしには怖くて仕方がない。
なにも出来ない恐怖と不安で全身が粟立ち、雨に打たれているこの状況でも背中に嫌な冷や汗が流れる。
───…吾朗さんは…こんなに力強くないっ、こんなに乱暴じゃないっ、怖くない!もっと優しくて、穏やかで…絶対にアタシが本気で嫌がることなんてしないのに…!
真島と恋人になってから彼以外の男性とは触れ合うことが無かったななしは、大人の男の力がこれ程強いということを改めて実感してしまった。
同時に真島が普段から如何に優しく丁寧に接してくれているのかもよく分かってしまう。
彼は何時だって見た目以上に理性的に振舞ってくれていて、今目の前にいる男のように抵抗できないほどの力でねじ伏せたりなんて絶対にしない。
だがこのナンパ男は違う。
プライドが高いのか何がなんでもホテルに連れ込もうと強い力で引きずり、嫌だという声も徹底的に無視。
終いには強引に体の関係を迫ろうとしているのだから、とんでもなく質が悪い。
ななしはどうにもならない恐怖に溢れてくる涙を必死に拭いながら唇をかみ締めた。
『やっ、やだ…怖いからっ!離してよっ!』
「ここまで来て純情ぶんなくてもいいから。ほらここ俺らのよく使うホテル。まぁまぁ安いんだよね〜」
「じゃ、ちょっと服乾くまで休憩してこうよ。お姉さん」
『やめて!!』
「諦めなってお姉さん〜」
「はやく入れよ」
『か、彼氏…ご、極道の彼氏!呼びますよ!!』
ななしにとって最後の切り札は"真島組の組長"だ。
今目の前にいる男たちが真島組を認知しているかは分からないが、手を出している女が極道の恋人を持っていると知れば少なからず驚くだろう。
ただ真島はななしにとって大切な恋人であって身を守る為の後ろ盾ではない。
こうしてナンパ男の牽制に真島の"組長"である肩書きを用いることはとても酷い事だ。
これではまるで真島を良いように利用しているようで、罪悪感に胸が締め付けられる。
「はぁ?極道ぉ?」
「確かに神室町はヤクザ多いけど…ははっ!本気で言ってる?お姉さん?」
「そうやって言えば逃げられると思ったんだろうけど、そんな冗談全然通じないし」
『ち、違うっ、冗談じゃっ』
「じゃ、何処の誰だよ。今すぐここに呼んでみろよ。嘘だって証明してやるから」
『……』
「やっぱり言えねぇんじゃねぇか。嘘つき女」
『嘘じゃないけど、でもっ、こんな…吾朗さんを利用するみたいなこと……』
「訳わかんねぇ。もういいだろ?」
『や、やめてっ!離してっ』
"真島組組長の真島吾朗"
男にそう言ってしまえば良かったのに、ななしにはどうしても真島の肩書きを利用してしまうような気がして言葉に出来なかった。
口をつぐんでしまった事で今の話がすべて嘘だと決めつけた男達はななしの腕を強引に引っ張ると、ホテルの扉を押し開いた。
もっとやりようがあったかもしれない。
そもそも雨宿りなんてしなければ良かった。
そうしなければきっと今頃真島と一緒に過ごせていたのに。
ななしは大粒の涙を零しながら『吾朗さん』と呟くことしか出来なかった。
半ば諦めの気持ちが頭をよぎる。
ななしはキュッと唇をかみ締めた。
そんな時、
ななしの真後ろから地を這うような重厚感のある声が聞こえた。
「言えばええやんけ、真島組組長真島吾朗やって。のぉ、ななし」
『え?』
その声にあまりにも聞き覚えがありすぎて、咄嗟に顔を上げたななし。
すると確認する前に後ろから優しく暖かな腕が伸びて来て抱きすくめられる。
瞬間ふわりとかおったのは嗅ぎなれた香水とハイライト。
その声と香りだけでななしが安堵するには十分であった。
絶対絶命のピンチに駆けつけてくれたのは恋人であり最愛の真島だ。
「あ?なんだよっ」
「おどれら…ワシのもんに手ぇ出してタダで済むと思っとんやないやろうな」
「はぁ?い"っ──!?」
「なんでもええけどさっさとその汚らしい手ぇ離さんかい」
「だ、誰だよ!俺らの邪魔してんじゃねぇよ!」
「言うたやろ。真島組組長真島吾朗。おどれらが泣かしたななしの恋人や」
「ま、まじかよっ」
「わ、分かったから!離せよ!」
「あぁ!?」
「は、離してくださぃ!」
「ななしもそう言うたんやないんか?怖がって泣くまで離さんかったのは誰や?あぁ?」
「す、すみませんでしたぁ!」
「ほ、ほんの出来心でっ」
「ほんの出来心でワシのもんに手ぇ出したんか?命知らずもここまで来るといっそ清々しいわ」
「うぅ!?」
いつもよりも数段低い声で威圧するように話す真島は、ななしの腕をきつく握っていた男の腹目掛けて長くしなやかな足で強力な蹴りを繰り出した。
痛みと衝撃に呻き後方に倒れ込んだ男。
そんな男の隣にいたもう1人の男は咄嗟にその場で土下座をし頭を下げたのだが、真島が許すはずもなく。
彼のトレードマークである革靴の銀の爪先で男の顎を蹴り上げた。
バキッと鈍く嫌な音が辺に響き、顎を蹴られた男もまるでカエルのようにがに股で後方へと飛んでいく。
「こいつら、"倉庫"に運んどけ」
「「はい!」」
「"殺さん程度"にやっとき。ちょうど最近組に入った若い連中おったやろ」
「はい、三人」
「ほなその三人とお前らで、二度とななしに手ぇ出せんように"去勢"したれ」
「はい!!」
やっとナンパ男から解放されたななしはぎゅうと真島に抱きつき、えぐえぐと涙を流した。
彼の逞しい腕に強くも優しく抱きしめられると恐怖も全て消え去り、心の底からホッと安心する。
もう離れたくないとしがみついていると、かたわらで真島の部下である西田達の声も聞こえてくる。
どうやら現場に来ていたのは真島だけではなかったようだ。
そっと真島の腕から顔を覗かせれば気絶した男と、暴れている男が西田と数人の組員達により運ばれている。
「……ななし、見んとき。お前には刺激が強いさかい」
『…はい。あの…ごめんなさい』
「ちゃうやろ、そんな言葉聞きたないわ」
『あ、あの…ありがとう吾朗さんっ。本当にっ、凄く安心した…』
「はぁ…ホンマに…心臓に悪い…せやけど、良かった…ななし」
真島はそう言うと少し赤くなった手首を持ち上げ、そっと撫で付けた。
触れられるとピリりとした痛みが走り、男達にどれだけ強く握られていたかを思い知る。
思わず、『痛っ…』と口先から声が漏れ、ななしは眉を顰めた。
「大丈夫か?」
『少し痛いけど、でも大丈夫です』
真島が心配そうにこちらを覗いてくるが、見た目程痛くは無いとはにかめば彼は少しだけ安心したように眉を下げた。
今回の一連の出来事や手首の傷は全て自分が招いた結果であり、真島は巻き込まれた形に過ぎないのだが…。
真島は嫌な顔ひとつせず、雨の中助けてくれて、心から心配してくれた。
全部全部自分が悪いのに、気にかけてくれる真島や真島の優しさがどうしようも無くかっこよくて、愛おしくて。
体を労わるように抱きしめる腕も、慰めるように撫でる手も…どれもこれも壊れ物を扱うように優しくて、先程の男達とは全く違う。
彼の行動全てに思いやりや愛情を感じてななしは思わず涙を流すと、再び逞しい胸板に抱きついた。
『吾朗さんっ』
「ほな、帰ろかななし」
『んっ、帰りたいです』
「帰ったらまずは風呂やな。お前体つめとうなっとる」
『吾朗さんもですよぅ』
「ほな一緒に入ろか。そしたら二人で体あったまるやろ」
『んふふ、そうしましょう』
「俺が隅々まで綺麗にしたるさかい、もう泣かんとき」
『ん、もう大丈夫』
「おう、偉いで!ほな、抱えるさかい捕まっとれよ」
『え?あ、歩けますよ…うわっ!』
「今日はもう絶対離さへん。お前が無事やって確かめさしてくれ」
『ご、吾朗さん…』
涙が引っ込んでしまうほど急に抱き上げられたななしは高くなった視界に思わず驚きの声を上げていた。
そのまますたすたと歩き出した真島に落ちないようにと必死に捕まれば路上には既に組の車が用意されており、扉が開いた状態であった。
運転席には先程男を運んでいた西田が乗っており、彼もまた心配そうにこちらの様子を伺っている。
真島組の人達は心優しい人が多いのだとホクホクしながらも、西田に笑顔で会釈すれば彼はホッと胸をなでおろしているようであった。
「ワシの家向かえ西田」
「はいっす!」
「マッハやで」
「わ、わかりました!」
「寒ないか?ななし?」
「だ、暖房入れますっすか!?」
「おい、阿呆西田。何気安くななしに話しかけとんねん!おどれは前向いて運転しとけや!」
「ヒィィ!!す、すんません!」
『ふふふっ、ありがとうです。でも吾朗さんが抱きしめてくれてるし大丈夫。西田さんもありがとう』
「せやけどそのびっちょびちょな服やと寒いやろ」
『もう家に帰るだけですから我慢します。それに貴方も寒いでしょう?』
「俺はええねん」
『良くないですよぅ』
「お!ほな、少しの間体あったまることでもしよか」
『え?どういう…んぅ!』
考える間もなく真島の薄い唇が自分の唇に重なりななしは目を見開いた。
あっという間に舌が口内に入り込みあちらこちらを舐め尽くしてくる。
それだけでえも言われぬ快感に体が震え、だんだんと全身が熱く火照ってくるようだ。
なるほど真島が言いたかった温まる事とは濃厚な口付けのことであったか。
真島の思い通りにお互いの体が熱を持ち始め、キスの合間に盛れる吐息は火傷しそうなほど熱い。
本来なら西田が傍にいるのにキスなんて…!と、羞恥が勝り真島を拒絶するななしだが、今日はどうしても彼が欲しくて堪らず。
先程までの恐怖や不安を打ち消すように無我夢中で真島にしがみついた。
そうすることで傷の痛みや、感じていた負の感情も綺麗さっぱりとなくなり、次に溢れてくるのは真島への愛おしいという甘やかな感情。
もっともっとそんな甘やかで愛おしい感情に心から満たされてくて、ななしは西田の目も憚らずに真島との深いキスに酔いしれた。
(そういえばどうして探してくれたんですか?アタシなにも連絡しなかったのに…)
(普段事務所にくる時間すぎても全然現れんし、外はザァザァ降りやし、それにななしが傘持たんと家出たのも知っとる。雨宿りしとることくらい想像つくし、俺に迎え頼むのを渋っとんのも手に取るように分かる)
(う、そ、その通りです…)
(せやから元々は迎えに行くためにななしを探しとったんやで?)
(そ、そうだったんだ。でも傘もってませんでしたよね?)
(お前が男に引きずられとんの見つけてから邪魔で捨てたわ)
(す、捨てた…)
(おう)
(そっか…でも、ふふっ、見つけてくれてありがとう。吾朗さんはアタシのスーパーヒーローです)
(ヒヒッ、そないなたまやないわ)
お粗末!
長くなりました。
王道的なお話を書きたくて作りました。
しかし終わり方が分からずうーむ( ˇωˇ )となった作品でもあります))
多分どんなピンチでも真島さんのななしちゃんセンサーが反応して助けてくれます。
これが、夢クオリティ( ˙▿˙ )