小話集2
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(真島/恋人)
『お邪魔しまーす…っわ!凄いことになってる…!』
仕事が終わりいつものように真島組の事務所にやってきたななしは、扉を開いた瞬間目に入った光景に驚きの声を上げた。
広い事務所は足の踏み場が無いほど所狭しとダンボールや袋が置かれており、そんな中でガタイのいい組員達が窮屈そうに作業をしていたのだ。
「あ、お疲れ様っすななしさん」
『あ、西田さん。お疲れ様です』
作業をしている中には真島組の中でも比較的常識人である西田の姿もあった。
彼はななしに気がつくと少し疲れたような、やつれたような顔で「散らかっててすんません」と頭を下げてくる。
『いえいえ、急に来てしまってすみません』
「大丈夫っす。ななしさんが来るのはいつもの事じゃないっすか。それより親父の部屋まで行けます?適当に踏んで行って大丈夫なんで!」
『ふ、踏みませんよ〜!大事なものなんじゃないんですか?』
「これは今週末の祭りの景品っす」
『だ、大事じゃないですか!』
西田は持っていた可愛らしいぬいぐるみを袋に詰めながら、「祭りの景品」だと言う。
なるほど、この場に散乱しているものは全てそのお祭りで使用するものなのかと理解したななし。
神室町では毎年夏になると神社付近で規模の大きい夏祭りが開催される。
夏祭りには沢山の露店が並んだり、大きな花火も上がるのでそれはもうとても賑わうのだ。
真島組も夏祭りでは毎年露店を出すのが恒例になっているので、今年もその準備に入っているようであった。
祭りの景品や備品が散乱しているというなら踏まないように殊更注意する必要があるだろう。
それに子供たちやお客に提供するものなのだ、ぐしゃぐしゃになったものを渡して悲しませるような事があってはならない。
ななしはなるべく物に触れないようにそろりそろりと歩きながら、西田が座るソファまで歩く。
彼が作業する手元を見ながら『真島組はなにするんです?』と、問いかけた。
「真島組は三店舗出すんすよ」
『三つも出すんですか!』
「はいっす。クジと焼きそばと、後はりんご飴っす」
『なるほど。それは色々溢れちゃいますよね…』
「そうなんすよ…でもクジの景品袋に詰めてダンボール入れちゃえば少し片付くんで何とかなるっすよ」
『うーん、なかなか時間がかかりそうですね…』
「まぁこればっかりは仕方ないっすね」
かわいた笑みを浮かべた西田。
再び作業を始めた彼はやはりどこゲッソリとしている。
何人かで作業をしているものの西田の顔色がぶっちぎりで悪い。
西田は色々と苦労人なので、きっと祭りの準備でも無理難題を押し付けられ疲れ切っているのだろう。
現に西田以外の組員たちは談笑しながら作業をしているため手が遅い。
このままではいつまでたっても作業が終わることは無いだろうし、事務所が片付くこともないだろう。
見かねたななしは西田の隣に腰を下ろすと『手が空いているのでお手伝いしますよ!』と、力こぶを作って見せた。
「ななしさんにさせられないっすよ!こっちは大丈夫なんで親父の方に行ってやって下さい!」
『せっかく手が空いてるんですからお任せ下さい。それに吾朗さんは多分仕事中なのでアタシがいてもいなくても変わらないですよ』
「で、でも…」
『安心してください!吾朗さんの事はアタシに任せて!で、なにからすれば良いでしょうか!?』
「じゃ、じゃあ…ななしさんはこのぬいぐるみ袋詰めしていってください。俺はクジ作りますんで」
『了解です!出来たのはダンボールに入れればいいんですね?』
「はいっす」
『はーい』
初めこそ慌てていた様子の西田だったが、猫の手も借りたい状態であったらしくすんなりと手伝うことを了承してくれた。
西田のどこかほっとしたような顔を見て、満足したななしはなるべく急いで、それでいて丁寧にぬいぐるみを袋に詰めていく。
「仕事終わりなのにすんません。こんなことさせちゃって」
『いえいえ、大丈夫ですよ。アタシこそこんなことしか手伝えないですけど、なんでも言ってくださいね』
「とんでもないっす、寧ろ本当にありがとうございます」
『それにしても西田さんてとても器用ですね〜!』
「そ、そうっすか?」
既に西田がラッピングしたであろう景品を眺めたななし。
景品は袋に入れられ丁寧にリボンで結ばれているが、角度や長さにも拘っているらしく。リボンの形や切れ端などは均一にそろえられている。加えてダンボールの中にとても綺麗に並べられているため、見ていてとても気持ちがいいのだ。
現在西田が取り掛かっているクジ作りも慎重に行われており、彼の几帳面さが伺えた。
てきぱきと迅速に、且つ丁寧な仕事をしている西田にななしは『全部丁寧で綺麗ですよ』と素直に伝えると、彼は照れくさそうに頭の後ろをかいた。
少し顔を赤らめながら「そんな事ないっす!」と西田は言うが、ななしからすれば彼の仕事は本当に丁寧で器用さが羨ましくなるほどである。
「ななしさんも丁寧っすよ。やっぱ女の子はこういうの得意なんすね」
『えぇ?アタシの西田さんとくらべるとグシャグシャですよ〜?』
「そんな事ないっす」
『ふふふ、気を使ってくれてありがとうございます。でもこういうのって案外吾朗さんの方がアタシよりも上手だったりするんですよねぇ。あの人とても手先が器用なんですもん』
「あー。確かに親父は細かい作業得意っすよね。この前なんかも化粧してたんすけどめっちゃ細かくて…」
『あ!ゴロ美ちゃんですか?めちゃくちゃ丁寧にお化粧してますよね』
「そうそう!下地がどうとか、こんしーらー?がなんとかって…俺らにはさっぱりわかんなかったっす」
『ねぇ。つけ爪も本当に上手につけてるし』
「そのまま喧嘩もするんすから器用としか言えないっすよね」
『すごく分かります!あれでどこにもぶつけないってかなり凄いですよね〜』
ななしと西田は手を動かしながらも、如何に真島が器用であるかの話でそれはもう盛り上がった。
恋人でありほとんど一緒に暮らしているななし、仕事柄共に過ごす時間が多い西田。
普段から真島の事をよく見ている二人だからこそ、話も尽きることは無く。
先程まで重苦しい空気だった事務所は、賑やかな笑い声が響いていた。
しかし意気投合し、作業と談笑に夢中になっていたななしと西田は二人の丁度後ろ側にある"組長室"の扉が開いたことにはまったく気づかない。
そして、そこからぬっと噂の主である真島が出てきたことにも勿論気づかない。
『そもそも手袋してるのに細かい作業出来るって凄くないですか?指の神経どうなってるんでしょう?』
「親父かなり強面だけど字はかなり綺麗っすもんね〜」
「…ほぉ、誰が強面やって?」
「え?ヒィィィィ!?お、親父!?」
『あ、吾朗さん。お疲れ様です』
「お疲れ様やないやろ。来たんならさっさと入って来んかいアホ」
仲良く談笑していた西田とななしの背後。
ゆっくり歩き出した真島はソファの背もたれに両手をつくと、身を乗り出しそのままななしの隣にいる西田を隻眼で鋭く睨みつけた。
あまりにも急に目の前に"強面"の真島が登場したことで、西田は持っていたペンと紙を放り投げ、情けない悲鳴を響かせた。
『もう、吾朗さん仕事中だったんでしょう?いいじゃないですか』
「なにがええんか説明せぇ。俺がどんだけななし来んのを楽しみにしとったか分かるんか?お前の声が聞こえたと思ったら西田とぺちゃくちゃ喋りよって…、ホンマおもんないわ」
「す、すんませんっ」
「おどれは後で面貸せ」
「は、はいっす!!!」
『拗ねないでくださいよ吾朗さん。それに西田さんに無理言ってお手伝いさせてもらったのアタシなんで、怒らないでください』
「ななし、お前…西田の肩持つんか?」
『ふふふ、だって本当の事ですもん。ほら、プリプリ怒ってないでアタシの隣座ってくださいよ』
「……」
事務所にやって来て直ぐに自分の元に来なかったと拗ねている真島の姿が少し子供っぽいと、ななしはくすくす笑った。
ソファに置いてある物を地面の極わずかなスペースに置いた後、そんな大きな子供の腕を引いて隣に座るように促せば、真島は渋々と言った様子で乱暴に腰を下ろした。
ななしは無言のままそっぽを向いている真島に『お祭り楽しみですね!』と話しかければ、顔は背けたままであったが返事をするように逞しい手が己の手に重なる。
拗ねて返事はないものの、その一連の行動は真島なりの肯定であると分かっていたななしは嬉しそうにニコニコとはにかんだ。
『ふふふ。じゃ、お祭りの為にもう少しお手伝いさせてくださいね吾朗さん』
「……はぁ、なんや俺の扱い慣れとって腹立つわ」
『えぇ、そういうこと言うんですか?』
「ヒヒッ!いや、ななしが俺の事上手く扱えんのは当たり前か。ようさん一緒におるもんなぁ」
『そうですよ?ずっとずっと昔から一緒にいるんですもん』
「せやったなぁ」
『それにほら。吾朗さんも少し息抜きに作業しませんか?字ばっかり見てると目がつかれちゃうでしょう?』
「息抜きに作業なんて聞いた事ないで」
『ふふ、そうかもですね。でも、ほら…こうして並んで作業していると昔のこと思い出しませんか?』
「昔…あぁ、グランドの頃か?」
『そう!懐かしいですよね』
ソファには西田も座っているが、こうして真島と並び何か作業をしているとななしにはどうにも昔の事が思い起こされた。
それはまだ二人が付き合ったばかりの頃。
キャバレーグランドで働いていた時の事だ。
ななしと真島の仕事が終わった後、季節のイベントや企画などがある際は夜遅くまでグランドに残り今と同じようにソファに並んで準備をしていた。
装飾品を折り紙で作ったり、催し物に合わせた簡単なアクセサリーを作ったり。
仕事終わりでへとへとなはずなのに、二人でぴったりとくっつき談笑しながら作業を行っているとそれだけで当時は本当に幸せだった。
今となってはそれら全てはかけがえの無い大切な思い出である。
ななしはそんな昔懐かしい情景を久々に思い出し、隣にいる真島を見上げた。
見た目や雰囲気はあの頃のクールな真島とは随分と変わってしまったが、優しい所気遣いができる所などはあの頃の愛おしい支配人と同じ。
漢気に溢れていて、一度決めたことは何があっても曲げない真っ直ぐさ…たまに子供っぽいが、どこをどうとってもななしにとって真島は愛おしいままだ。
『ふふふ、なんだかとても懐かしくて可笑しいですね』
「お前も俺も随分変わったのぉ」
『そうですか?貴方はずっと優しいままだし、アタシにとっては素敵な恋人様のままですよ?』
「お前はえろう大人になったわ。まぁ、あの頃も達観しとったけどな」
『ああ言う状況でしたからね〜。でも今は吾朗さんと自由な時間を過ごせてますし幸せですよ』
「…その真っ直ぐ俺を見つめてくるのは昔から変わらんのぉ。ホンマ、アホみたいに可愛ええわ」
『んっ…!』
懐かしいさと愛おしさにホクホクとした気持ちで真島を見つめていたななし。
彼も懐かしそうに目を細めるので、思うことがあったのだろう。
あの頃を経て今があるんだ、なんだか感慨深いと一人耽っていると不意に真島の大きな手が頬に伸びてくる。
そのまま顎を持ち上げられ気づけば目の前には鋭くも綺麗な黒の隻眼が。
飲み込まれそうな黒に見惚れていると、不意に唇に柔らかな感触を感じななしは息を飲んだ。
真島の薄くも温かな唇が重なっているのだと気づいた頃には、キスも深くなっておりななしは彼にしがみつくことしか出来なかった。
甘い吐息が鼻をぬけなんとも情けない声が部屋に響く。
西田や他の組員がいるのにキスなんて…と羞恥が体を包むが、それ以上に真島から与えられる快感が凄まじく。ななしの体はだんだんと力が抜け、最終的には真島に寄りかかってしまっていた。
『んぅ…はっ…こ、こんなところで…』
「ヒヒッ、お前がはよ俺んとこ来んさかいや」
『い、意地悪ですっ』
「他の男と話しとる方が意地悪やろ」
『あ、まだ拗ねてる』
「拗ねてへんわ」
『ふふ、そうですね』
「で?もう少し祭りの準備するんか?」
『うん、言い出しっぺですもん。最後までお手伝いしますよ。吾朗さんは仕事終わってますか?』
「こっちは明日でもかまへん」
『そうなんですか?じゃあ、吾朗さんはお疲れでしょうしここで休憩しててくださいね』
「アホ言いなや。仕事終わりなのはななしも一緒やろ。俺かてやるわ。はよ終わらせて帰んで」
『いいんですか?』
「…たまにはあの頃思い返して作業すんのも悪ない」
『吾朗さん…うん、そうですね!』
「ほなさっさと始めよか。お前らもさっさと終わらせや!はよ帰んで!!」
真島とななしのキスで気まずそうに肩を縮めていた西田達だったが、組長の掛け声で我に返ったようで。野太い返事が部屋中に響き、一斉に作業を再開させた。
西田だけに作業を任せて手を抜いていた組員たちも、真島が目の前に居るせいか迅速に祭りの準備を開始している。
西田だけでなく彼らが一生懸命準備を始めればきっと直ぐに終わらせる事が出来るであろう。
『吾朗さん、りんご飴買いましょうね!』
「お前は何本でもタダや」
『え!?嫌ですよ。真島組に貢献させてくださいよ』
「後クジは絶対当たりにしといたる。一等はス○ッチやで」
『な、何でですか!?何が当たるか分からないのが楽しいんじゃないですか!!やめてくださいね!?』
「ヒヒッ、何回でも一等取らせたるわ」
『ちょっと西田さん!ここにイカサマ師がいます!』
「……ははは…」
「あ?誰がイカサマ師やねん!」
『吾朗さんですよ!』
「言うとくけど夏祭り主催の地域組合に在中しとる組織は半数以上が東城会やで。せやからななしはどこいってもタダや」
『え!?そんなの面白くないんですけど!?お祭りって割高だけどお祭りだからなんでも買っちゃう〜っていうあのワクワク感と背徳感がいいんですよ!それを味わえないなんて…夏祭りじゃない!』
「どうせ俺と行くんやし、俺の金で払うやろ」
『お祭りは自分で払うって決めてるんです!』
「ヒヒッ、まぁ当日なったら分かるやろ」
『もう〜!』
真島も持ち前の器用さを駆使し祭りの準備を始めた。
そんな真島に弄られ今度はななしがプンプンと怒っている。
そんな二人の喧嘩…基、イチャイチャをBGMとして、西田達は祭りの準備を黙々と続けるのであった。
(柏木さんも来るのかなぁ)
(冷麺やるらしいわ)
(お祭りで冷麺って聞いたことないんですけど…まぁ、柏木さんらしいですね)
(タダで食わしてくれるで)
(……もうそれお祭りとかじゃなくてただの東城会の親睦会じゃん…)
(アホ、ちゃんとカタギもおるわ)
(…カタギって…絶対桐生さん一派でしょう?)
(一派ってなんやねん)
お祭りのお話(準備)。
参加するお話はよく見るけど準備って中々ないなと思いかきました。
昔の情景を思い出して愛おしくなるって素敵ですよね。真島さんとななしちゃんはグランド時代に思い入れが多くありそうなので、思い出して笑いあってたら素敵です!
『お邪魔しまーす…っわ!凄いことになってる…!』
仕事が終わりいつものように真島組の事務所にやってきたななしは、扉を開いた瞬間目に入った光景に驚きの声を上げた。
広い事務所は足の踏み場が無いほど所狭しとダンボールや袋が置かれており、そんな中でガタイのいい組員達が窮屈そうに作業をしていたのだ。
「あ、お疲れ様っすななしさん」
『あ、西田さん。お疲れ様です』
作業をしている中には真島組の中でも比較的常識人である西田の姿もあった。
彼はななしに気がつくと少し疲れたような、やつれたような顔で「散らかっててすんません」と頭を下げてくる。
『いえいえ、急に来てしまってすみません』
「大丈夫っす。ななしさんが来るのはいつもの事じゃないっすか。それより親父の部屋まで行けます?適当に踏んで行って大丈夫なんで!」
『ふ、踏みませんよ〜!大事なものなんじゃないんですか?』
「これは今週末の祭りの景品っす」
『だ、大事じゃないですか!』
西田は持っていた可愛らしいぬいぐるみを袋に詰めながら、「祭りの景品」だと言う。
なるほど、この場に散乱しているものは全てそのお祭りで使用するものなのかと理解したななし。
神室町では毎年夏になると神社付近で規模の大きい夏祭りが開催される。
夏祭りには沢山の露店が並んだり、大きな花火も上がるのでそれはもうとても賑わうのだ。
真島組も夏祭りでは毎年露店を出すのが恒例になっているので、今年もその準備に入っているようであった。
祭りの景品や備品が散乱しているというなら踏まないように殊更注意する必要があるだろう。
それに子供たちやお客に提供するものなのだ、ぐしゃぐしゃになったものを渡して悲しませるような事があってはならない。
ななしはなるべく物に触れないようにそろりそろりと歩きながら、西田が座るソファまで歩く。
彼が作業する手元を見ながら『真島組はなにするんです?』と、問いかけた。
「真島組は三店舗出すんすよ」
『三つも出すんですか!』
「はいっす。クジと焼きそばと、後はりんご飴っす」
『なるほど。それは色々溢れちゃいますよね…』
「そうなんすよ…でもクジの景品袋に詰めてダンボール入れちゃえば少し片付くんで何とかなるっすよ」
『うーん、なかなか時間がかかりそうですね…』
「まぁこればっかりは仕方ないっすね」
かわいた笑みを浮かべた西田。
再び作業を始めた彼はやはりどこゲッソリとしている。
何人かで作業をしているものの西田の顔色がぶっちぎりで悪い。
西田は色々と苦労人なので、きっと祭りの準備でも無理難題を押し付けられ疲れ切っているのだろう。
現に西田以外の組員たちは談笑しながら作業をしているため手が遅い。
このままではいつまでたっても作業が終わることは無いだろうし、事務所が片付くこともないだろう。
見かねたななしは西田の隣に腰を下ろすと『手が空いているのでお手伝いしますよ!』と、力こぶを作って見せた。
「ななしさんにさせられないっすよ!こっちは大丈夫なんで親父の方に行ってやって下さい!」
『せっかく手が空いてるんですからお任せ下さい。それに吾朗さんは多分仕事中なのでアタシがいてもいなくても変わらないですよ』
「で、でも…」
『安心してください!吾朗さんの事はアタシに任せて!で、なにからすれば良いでしょうか!?』
「じゃ、じゃあ…ななしさんはこのぬいぐるみ袋詰めしていってください。俺はクジ作りますんで」
『了解です!出来たのはダンボールに入れればいいんですね?』
「はいっす」
『はーい』
初めこそ慌てていた様子の西田だったが、猫の手も借りたい状態であったらしくすんなりと手伝うことを了承してくれた。
西田のどこかほっとしたような顔を見て、満足したななしはなるべく急いで、それでいて丁寧にぬいぐるみを袋に詰めていく。
「仕事終わりなのにすんません。こんなことさせちゃって」
『いえいえ、大丈夫ですよ。アタシこそこんなことしか手伝えないですけど、なんでも言ってくださいね』
「とんでもないっす、寧ろ本当にありがとうございます」
『それにしても西田さんてとても器用ですね〜!』
「そ、そうっすか?」
既に西田がラッピングしたであろう景品を眺めたななし。
景品は袋に入れられ丁寧にリボンで結ばれているが、角度や長さにも拘っているらしく。リボンの形や切れ端などは均一にそろえられている。加えてダンボールの中にとても綺麗に並べられているため、見ていてとても気持ちがいいのだ。
現在西田が取り掛かっているクジ作りも慎重に行われており、彼の几帳面さが伺えた。
てきぱきと迅速に、且つ丁寧な仕事をしている西田にななしは『全部丁寧で綺麗ですよ』と素直に伝えると、彼は照れくさそうに頭の後ろをかいた。
少し顔を赤らめながら「そんな事ないっす!」と西田は言うが、ななしからすれば彼の仕事は本当に丁寧で器用さが羨ましくなるほどである。
「ななしさんも丁寧っすよ。やっぱ女の子はこういうの得意なんすね」
『えぇ?アタシの西田さんとくらべるとグシャグシャですよ〜?』
「そんな事ないっす」
『ふふふ、気を使ってくれてありがとうございます。でもこういうのって案外吾朗さんの方がアタシよりも上手だったりするんですよねぇ。あの人とても手先が器用なんですもん』
「あー。確かに親父は細かい作業得意っすよね。この前なんかも化粧してたんすけどめっちゃ細かくて…」
『あ!ゴロ美ちゃんですか?めちゃくちゃ丁寧にお化粧してますよね』
「そうそう!下地がどうとか、こんしーらー?がなんとかって…俺らにはさっぱりわかんなかったっす」
『ねぇ。つけ爪も本当に上手につけてるし』
「そのまま喧嘩もするんすから器用としか言えないっすよね」
『すごく分かります!あれでどこにもぶつけないってかなり凄いですよね〜』
ななしと西田は手を動かしながらも、如何に真島が器用であるかの話でそれはもう盛り上がった。
恋人でありほとんど一緒に暮らしているななし、仕事柄共に過ごす時間が多い西田。
普段から真島の事をよく見ている二人だからこそ、話も尽きることは無く。
先程まで重苦しい空気だった事務所は、賑やかな笑い声が響いていた。
しかし意気投合し、作業と談笑に夢中になっていたななしと西田は二人の丁度後ろ側にある"組長室"の扉が開いたことにはまったく気づかない。
そして、そこからぬっと噂の主である真島が出てきたことにも勿論気づかない。
『そもそも手袋してるのに細かい作業出来るって凄くないですか?指の神経どうなってるんでしょう?』
「親父かなり強面だけど字はかなり綺麗っすもんね〜」
「…ほぉ、誰が強面やって?」
「え?ヒィィィィ!?お、親父!?」
『あ、吾朗さん。お疲れ様です』
「お疲れ様やないやろ。来たんならさっさと入って来んかいアホ」
仲良く談笑していた西田とななしの背後。
ゆっくり歩き出した真島はソファの背もたれに両手をつくと、身を乗り出しそのままななしの隣にいる西田を隻眼で鋭く睨みつけた。
あまりにも急に目の前に"強面"の真島が登場したことで、西田は持っていたペンと紙を放り投げ、情けない悲鳴を響かせた。
『もう、吾朗さん仕事中だったんでしょう?いいじゃないですか』
「なにがええんか説明せぇ。俺がどんだけななし来んのを楽しみにしとったか分かるんか?お前の声が聞こえたと思ったら西田とぺちゃくちゃ喋りよって…、ホンマおもんないわ」
「す、すんませんっ」
「おどれは後で面貸せ」
「は、はいっす!!!」
『拗ねないでくださいよ吾朗さん。それに西田さんに無理言ってお手伝いさせてもらったのアタシなんで、怒らないでください』
「ななし、お前…西田の肩持つんか?」
『ふふふ、だって本当の事ですもん。ほら、プリプリ怒ってないでアタシの隣座ってくださいよ』
「……」
事務所にやって来て直ぐに自分の元に来なかったと拗ねている真島の姿が少し子供っぽいと、ななしはくすくす笑った。
ソファに置いてある物を地面の極わずかなスペースに置いた後、そんな大きな子供の腕を引いて隣に座るように促せば、真島は渋々と言った様子で乱暴に腰を下ろした。
ななしは無言のままそっぽを向いている真島に『お祭り楽しみですね!』と話しかければ、顔は背けたままであったが返事をするように逞しい手が己の手に重なる。
拗ねて返事はないものの、その一連の行動は真島なりの肯定であると分かっていたななしは嬉しそうにニコニコとはにかんだ。
『ふふふ。じゃ、お祭りの為にもう少しお手伝いさせてくださいね吾朗さん』
「……はぁ、なんや俺の扱い慣れとって腹立つわ」
『えぇ、そういうこと言うんですか?』
「ヒヒッ!いや、ななしが俺の事上手く扱えんのは当たり前か。ようさん一緒におるもんなぁ」
『そうですよ?ずっとずっと昔から一緒にいるんですもん』
「せやったなぁ」
『それにほら。吾朗さんも少し息抜きに作業しませんか?字ばっかり見てると目がつかれちゃうでしょう?』
「息抜きに作業なんて聞いた事ないで」
『ふふ、そうかもですね。でも、ほら…こうして並んで作業していると昔のこと思い出しませんか?』
「昔…あぁ、グランドの頃か?」
『そう!懐かしいですよね』
ソファには西田も座っているが、こうして真島と並び何か作業をしているとななしにはどうにも昔の事が思い起こされた。
それはまだ二人が付き合ったばかりの頃。
キャバレーグランドで働いていた時の事だ。
ななしと真島の仕事が終わった後、季節のイベントや企画などがある際は夜遅くまでグランドに残り今と同じようにソファに並んで準備をしていた。
装飾品を折り紙で作ったり、催し物に合わせた簡単なアクセサリーを作ったり。
仕事終わりでへとへとなはずなのに、二人でぴったりとくっつき談笑しながら作業を行っているとそれだけで当時は本当に幸せだった。
今となってはそれら全てはかけがえの無い大切な思い出である。
ななしはそんな昔懐かしい情景を久々に思い出し、隣にいる真島を見上げた。
見た目や雰囲気はあの頃のクールな真島とは随分と変わってしまったが、優しい所気遣いができる所などはあの頃の愛おしい支配人と同じ。
漢気に溢れていて、一度決めたことは何があっても曲げない真っ直ぐさ…たまに子供っぽいが、どこをどうとってもななしにとって真島は愛おしいままだ。
『ふふふ、なんだかとても懐かしくて可笑しいですね』
「お前も俺も随分変わったのぉ」
『そうですか?貴方はずっと優しいままだし、アタシにとっては素敵な恋人様のままですよ?』
「お前はえろう大人になったわ。まぁ、あの頃も達観しとったけどな」
『ああ言う状況でしたからね〜。でも今は吾朗さんと自由な時間を過ごせてますし幸せですよ』
「…その真っ直ぐ俺を見つめてくるのは昔から変わらんのぉ。ホンマ、アホみたいに可愛ええわ」
『んっ…!』
懐かしいさと愛おしさにホクホクとした気持ちで真島を見つめていたななし。
彼も懐かしそうに目を細めるので、思うことがあったのだろう。
あの頃を経て今があるんだ、なんだか感慨深いと一人耽っていると不意に真島の大きな手が頬に伸びてくる。
そのまま顎を持ち上げられ気づけば目の前には鋭くも綺麗な黒の隻眼が。
飲み込まれそうな黒に見惚れていると、不意に唇に柔らかな感触を感じななしは息を飲んだ。
真島の薄くも温かな唇が重なっているのだと気づいた頃には、キスも深くなっておりななしは彼にしがみつくことしか出来なかった。
甘い吐息が鼻をぬけなんとも情けない声が部屋に響く。
西田や他の組員がいるのにキスなんて…と羞恥が体を包むが、それ以上に真島から与えられる快感が凄まじく。ななしの体はだんだんと力が抜け、最終的には真島に寄りかかってしまっていた。
『んぅ…はっ…こ、こんなところで…』
「ヒヒッ、お前がはよ俺んとこ来んさかいや」
『い、意地悪ですっ』
「他の男と話しとる方が意地悪やろ」
『あ、まだ拗ねてる』
「拗ねてへんわ」
『ふふ、そうですね』
「で?もう少し祭りの準備するんか?」
『うん、言い出しっぺですもん。最後までお手伝いしますよ。吾朗さんは仕事終わってますか?』
「こっちは明日でもかまへん」
『そうなんですか?じゃあ、吾朗さんはお疲れでしょうしここで休憩しててくださいね』
「アホ言いなや。仕事終わりなのはななしも一緒やろ。俺かてやるわ。はよ終わらせて帰んで」
『いいんですか?』
「…たまにはあの頃思い返して作業すんのも悪ない」
『吾朗さん…うん、そうですね!』
「ほなさっさと始めよか。お前らもさっさと終わらせや!はよ帰んで!!」
真島とななしのキスで気まずそうに肩を縮めていた西田達だったが、組長の掛け声で我に返ったようで。野太い返事が部屋中に響き、一斉に作業を再開させた。
西田だけに作業を任せて手を抜いていた組員たちも、真島が目の前に居るせいか迅速に祭りの準備を開始している。
西田だけでなく彼らが一生懸命準備を始めればきっと直ぐに終わらせる事が出来るであろう。
『吾朗さん、りんご飴買いましょうね!』
「お前は何本でもタダや」
『え!?嫌ですよ。真島組に貢献させてくださいよ』
「後クジは絶対当たりにしといたる。一等はス○ッチやで」
『な、何でですか!?何が当たるか分からないのが楽しいんじゃないですか!!やめてくださいね!?』
「ヒヒッ、何回でも一等取らせたるわ」
『ちょっと西田さん!ここにイカサマ師がいます!』
「……ははは…」
「あ?誰がイカサマ師やねん!」
『吾朗さんですよ!』
「言うとくけど夏祭り主催の地域組合に在中しとる組織は半数以上が東城会やで。せやからななしはどこいってもタダや」
『え!?そんなの面白くないんですけど!?お祭りって割高だけどお祭りだからなんでも買っちゃう〜っていうあのワクワク感と背徳感がいいんですよ!それを味わえないなんて…夏祭りじゃない!』
「どうせ俺と行くんやし、俺の金で払うやろ」
『お祭りは自分で払うって決めてるんです!』
「ヒヒッ、まぁ当日なったら分かるやろ」
『もう〜!』
真島も持ち前の器用さを駆使し祭りの準備を始めた。
そんな真島に弄られ今度はななしがプンプンと怒っている。
そんな二人の喧嘩…基、イチャイチャをBGMとして、西田達は祭りの準備を黙々と続けるのであった。
(柏木さんも来るのかなぁ)
(冷麺やるらしいわ)
(お祭りで冷麺って聞いたことないんですけど…まぁ、柏木さんらしいですね)
(タダで食わしてくれるで)
(……もうそれお祭りとかじゃなくてただの東城会の親睦会じゃん…)
(アホ、ちゃんとカタギもおるわ)
(…カタギって…絶対桐生さん一派でしょう?)
(一派ってなんやねん)
お祭りのお話(準備)。
参加するお話はよく見るけど準備って中々ないなと思いかきました。
昔の情景を思い出して愛おしくなるって素敵ですよね。真島さんとななしちゃんはグランド時代に思い入れが多くありそうなので、思い出して笑いあってたら素敵です!