小話集1
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(支配人/恋人)
オンボロのアパートで過ごすよりも随分と気が楽だと早くからグランドのスタッフルームに来ていた真島。
おしぼりの確認やホールの掃除など営業前の作業はグランドに来た直後に多方終わらせているため特にすることは無く、真島はぼんやりとハイライトを口にくわえながらソファに寝そべっていた。
ソファの肘掛けに足を起きクロスさせながら、真島は何をするでもなくハイライトから出てくる紫煙を見つめた。
「(静かやのぉ…)」
真島しかいないグランドのスタッフルームは、耳をすませば外の雑踏が聞こえてきそうなほど静かだ。
蒼天堀一大箱で、今や大繁盛のグランドだがスタッフや客がいないと不気味なほど閑散としている。
そんな物静かな空間だが、真島にとっては数少ない落ち着ける場所でもあった
見張りも居らず、出勤時間までは他人もいない。己だけがゆっくりと自由に休める空間。
故に静寂に包まれている方が真島にとっては都合が良かったりする。
しかし、最近の真島はこの静けさが少しだけ物足りないと感じていた。
理由は明白で、恋人であるななしの存在が大きい。
彼女は真島にとって心休まる癒しであり、唯一無二の存在だ。
ななしと付き合うようになってから真島は、彼女の笑う声や話す声、可愛らしい仕草などが常に傍に無いと心底落ち着かない体質になっていた。
働いていても一人でいても、どんな時でも、ななしと一緒の空間で穏やかな時間を過ごしたい。
心からななしを渇望しており、この先も未来永劫彼女と共にあり続けたいと強く思っている。
要はななしにベタ惚れなのだ。
一人でいる事が億劫に思えるほど。
一昔前の自分には無かった清々しいほどの女々しい感情に真島は自嘲気味に笑うと、ハイライトの紫煙を思い切り吐き出した。
「ななし…はよおいでや」
真島は静寂の中ポツリと呟き、ゆっくりと隻眼を閉じた。
そのまま何をするでもなく目を瞑むりぼんやりと寛いでいると、静寂に包まれていたグランドの中をバタバタと駆けるような慌ただしい足音が響き渡った。
それはスタッフルームで寛いでいた真島の耳にもはっきりと聞こえており、何事かとソファから体を起こしタバコを灰皿に押し付けた。
ななしがグランドに出勤してくる時間にはまだかなり早い。
だいたいななしは一時間ほど前に出勤してくる事が多いが今日は営業開始まで二時間はある。
まだ随分と早い時間であるため足音が響き渡るほど慌てて出勤してくるとも思えず、真島は怪訝な顔をした後ゆっくりと廊下に通じる扉を開いた。
誰かいるのかと廊下に顔を出し辺りを見渡す真島。
長い廊下には未だに足音が響いている。
姿は見えなかったが真島は走っているであろう人物に向けて「誰かおるんか!」と声を荒げた。
真島の声も走る音に合わせて反響する。
すると足音はよりいっそう早くなり、こちらに向かってきているのかだんだんと大きくなってくる。
近づいてきとるな…と、幾許か警戒心を強めた真島だったがすぐに廊下の曲がり角を走っている人物の姿が隻眼に映った。
それはたいそう慌てた様子のななしだったのだ。
バタバタと駆ける足音の正体がななしだとは思っておらず。面食らったように隻眼を少し見開いた真島。
「ななし?」
『真島さん!!お、おはよーございます!』
「おう。おはようさん。そないに慌ててどないしたんや…?」
慌てて出勤してきたようで随分と肩で息をしているななし。こめかみには薄らと汗まで浮かべているほどだ。
「とりあえず、座ろかななし」
『は、はい…早くきちゃってすみません』
「かまへん。こっちおいでななし」
『ん、はい』
なんだかいつもよりげっそりしているななしの手をとり真島は先程寝転がっていたソファにへと案内した。
素直についてくるななしに愛しさが込み上げ、自然と顔が綻んでいく。
間抜けなこのニヤけた顔がななしに見られてしまわないようにと若干俯きつつ、未だにゼェハァしている彼女をソファに座らせてやる。
「で、なにがあったんや?随分疲れとるようやけど……?おい、なんやねんその隈」
『じ、実は……昨日眠れなかったんです』
「眠れんかった?」
ななしを座らせたあとあまりにも元気のない彼女の頬を撫でているとはっきりとした隈が出来ていることに気がついた。
白く美しい肌のため隈があると殊更に目立つ。
どんな時も元気で隈など作ったことのないななしが、はっきりくっきり隈を作り落ち込んでいる姿はあまりにも珍しくあまりにも弱々しい。
こちらまで辛くなるような姿に真島は堪らずななしの両頬を抑えて、大きな瞳を覗き込んだ。
長いまつ毛におおわれた大きな瞳は苦しそうに潤んでいる。
こんな姿になるまで眠れなかったのは一体何故なのか。
彼女を脅かす何かがあったのだろうか。
恋人関係にあるのに昨晩なにもしてやれなかった自分がとても恨めしい。
歯がゆい思いで唇を噛み締め、真島はゆっくりと話し出したななしを見つめた。
『わ……笑わないですか?』
「安心せぇ、絶対にわろたりせぇへん」
『はい…実は………こ、怖い夢見ちゃって眠れなかったんです』
「何!?怖い夢やと!…ん?……怖い夢?」
『うん…幽霊がアタシのアパートに沢山出てくる夢で…物凄く怖くて…目が覚めてから眠れなかったんです…』
「…幽霊」
『髪の長い幽霊がアタシの首を絞めるんです!その後もう目が冴えちゃって…小さな物音も怖いし、布団の中も怖いし…ずっとテレビ見てました…。一人だと外が明るくても怖くて、急いでグランドに来たんです。本当にごめんなさい』
「そんなこと気にせんでもええ。ななしは怖い夢が原因で眠れんかったんやな?誰かに襲われたわけでも家に押し入られた訳でもないんやな?」
『うん、でも幽霊に襲われました』
「ヒヒッ、せやなぁ。それはホンマに怖かったのぉななし」
明らかにげっそりと落ち込んでいるななしはどうやら怖い夢を見て、一睡も出来なかったらしい。
彼女がここまで隈を作るのだからそれはもう大変な事が起こったのだとばかり思っていた真島。しかしななしが眠れなかった理由は"怖い夢を見たから"というあまりにも可愛らしいものだった為、真島は拍子抜けし思わず笑がこぼれた。
誰かが夜中に忍び込んだり、ストーカーや泥棒だったり…最悪の事態を想像し後悔ばかりが膨らんでいた真島だったが、思っていた以上に平和的な理由に安堵の息が盛れた。
ななしはとても達観しており、誰よりも大人っぽい。きびきびと働く姿は実年齢よりも年上に見えるほど。
しかし怖い夢で眠れなくなったりととても幼い一面ももちあわせている。
今回はどれほど怖い夢だったのかは分からないが、一睡も出来なくなるほど幽霊に怯えていたようだ。
普段のきりりとしたななしからは想像も出来ないほど怯えた姿にギャップを感じてしまい真島は胸を高鳴らせた。
こんな時に不謹慎だとは思うがシュンとしているななしがあまりに可愛くて愛おしくて仕方がなっかた。
「傍におってやれたら良かったんやけど」
『ん…アタシも真島さんと一緒にいたかったです…』
「今日は一緒にいよか」
『ん、そうしたいです』
「今はもう怖ないか?」
『…手、握ってもいいですか?』
「手だけでええんか?」
『……ギュってしてほしいです』
「ええで、おいでななし」
『んぅ』
遠慮気味に小さく呟いたななしの事を真島は優しく抱きしめた。
もう怖がらなくていい、ここには自分とななししかいない。そう伝えるように背中を撫でてやりながら、「安心せぇ」と耳元でそっと呟く。
いつだって一人で頑張っているが彼女はまだ幼い。
そんな愛しい恋人に少しでも安心してもらいたくて、心地良いと感じてもらいたくて。
真島は腕の中にいるななしの顔を覗き込みながら触れるだけのキスを何度も何度も送った。
すると怯えていた瞳がうっとりと細くなり、ななしの頬が色ついてくる。
次いでななしは鈴の音のように小さくコロコロと笑いながら『ありがとう真島さん』とはにかんだ。
『凄く落ち着きました…幽霊なんて居ないって分かってるのに夢がとてもリアルで怖かったんです』
「完璧やないんや。怖いもんのひとつやふたつあったってええ。ななしが怖なくなるまでずっと抱きしめたるさかい、いつでも俺に頼ってや」
『ふふ、はい。ありがとうございます。とっても嬉しい。好きです真島さん』
「俺も好きやななし。ホンマ、可愛ええしええ子やし。はぁ…ええ匂いやのぉ」
『どうしよ…真島さん』
「ん?どないしたん?」
『眠たい…真島さんが心地よすぎて…』
「ヒヒッ、一時間くらい眠ったらええやん。俺が起こしたるわ」
『ダメですよ…皆来ちゃう』
「まだ二時間あるんやで?誰も来ぉへんわ」
『そうでしょうか?』
「そないに目ぇとろんとさせとんや、はよ眠って隈とり。ほんでいつもの元気な顔見せてやななし」
『…もう怖い夢見ないでしょうか?』
「俺がおるんや、そんなもん見ぃひん。せやから少寝ぇや」
『真島さんて本当にスーパーヒーローみたい…かっこよくてドキドキしちゃう』
「あんまり可愛ええ事言うとったら抱くで?」
『んふふ、ダメです』
「ほな、はよ寝ぇ」
『はぁい』
腕の中に居たななしは真島の優しいスキンシップで眠たくなってきたようであった。
昨日一睡もしていないのだから当然だ。
これから沢山働かなくてはならないのだから、体を休める意味でも一時間ほど睡眠をとればいい、と真島は腕の中のななしを寝かしつけるように抱きしめソファに寝転んだ。
仰向けになった体の上にななしをのせて、抱きしめた手で優しく背を撫でてやると数分して直ぐに健やかな寝息が聞こえてくる。
余程眠たかったのであろう。
「おやすみ、ななし」
胸に頭をのせてスースーと眠っているななしの頬に指を滑らせる。
ななしが眠ったことで再び静寂に包まれたスタッフルーム。外の雑踏が聞こえてきそうなほど静かだが今の真島はとても嬉しそうだ。
胸に乗る愛おしい重みと、心地よい温もり。そして穏やかな寝息。
それら全てが真島の心を満たしていた。
(んぅ、はぁ…あ、おはようです真島さん)
(おはよさん。よぉ、眠れたか?)
(多分眠れました)
(隈もマシになっとるし良かったのぉ)
(ふふ、真島さんのお陰です。ありがとうございます)
(ほな、今日も頑張ろか)
(はい!)
この頃は幽霊系が怖いななしちゃん。
そんなビビりなななしちゃんにほこほこしてる真島さん。
早く二人で暮らせるといいね。
オンボロのアパートで過ごすよりも随分と気が楽だと早くからグランドのスタッフルームに来ていた真島。
おしぼりの確認やホールの掃除など営業前の作業はグランドに来た直後に多方終わらせているため特にすることは無く、真島はぼんやりとハイライトを口にくわえながらソファに寝そべっていた。
ソファの肘掛けに足を起きクロスさせながら、真島は何をするでもなくハイライトから出てくる紫煙を見つめた。
「(静かやのぉ…)」
真島しかいないグランドのスタッフルームは、耳をすませば外の雑踏が聞こえてきそうなほど静かだ。
蒼天堀一大箱で、今や大繁盛のグランドだがスタッフや客がいないと不気味なほど閑散としている。
そんな物静かな空間だが、真島にとっては数少ない落ち着ける場所でもあった
見張りも居らず、出勤時間までは他人もいない。己だけがゆっくりと自由に休める空間。
故に静寂に包まれている方が真島にとっては都合が良かったりする。
しかし、最近の真島はこの静けさが少しだけ物足りないと感じていた。
理由は明白で、恋人であるななしの存在が大きい。
彼女は真島にとって心休まる癒しであり、唯一無二の存在だ。
ななしと付き合うようになってから真島は、彼女の笑う声や話す声、可愛らしい仕草などが常に傍に無いと心底落ち着かない体質になっていた。
働いていても一人でいても、どんな時でも、ななしと一緒の空間で穏やかな時間を過ごしたい。
心からななしを渇望しており、この先も未来永劫彼女と共にあり続けたいと強く思っている。
要はななしにベタ惚れなのだ。
一人でいる事が億劫に思えるほど。
一昔前の自分には無かった清々しいほどの女々しい感情に真島は自嘲気味に笑うと、ハイライトの紫煙を思い切り吐き出した。
「ななし…はよおいでや」
真島は静寂の中ポツリと呟き、ゆっくりと隻眼を閉じた。
そのまま何をするでもなく目を瞑むりぼんやりと寛いでいると、静寂に包まれていたグランドの中をバタバタと駆けるような慌ただしい足音が響き渡った。
それはスタッフルームで寛いでいた真島の耳にもはっきりと聞こえており、何事かとソファから体を起こしタバコを灰皿に押し付けた。
ななしがグランドに出勤してくる時間にはまだかなり早い。
だいたいななしは一時間ほど前に出勤してくる事が多いが今日は営業開始まで二時間はある。
まだ随分と早い時間であるため足音が響き渡るほど慌てて出勤してくるとも思えず、真島は怪訝な顔をした後ゆっくりと廊下に通じる扉を開いた。
誰かいるのかと廊下に顔を出し辺りを見渡す真島。
長い廊下には未だに足音が響いている。
姿は見えなかったが真島は走っているであろう人物に向けて「誰かおるんか!」と声を荒げた。
真島の声も走る音に合わせて反響する。
すると足音はよりいっそう早くなり、こちらに向かってきているのかだんだんと大きくなってくる。
近づいてきとるな…と、幾許か警戒心を強めた真島だったがすぐに廊下の曲がり角を走っている人物の姿が隻眼に映った。
それはたいそう慌てた様子のななしだったのだ。
バタバタと駆ける足音の正体がななしだとは思っておらず。面食らったように隻眼を少し見開いた真島。
「ななし?」
『真島さん!!お、おはよーございます!』
「おう。おはようさん。そないに慌ててどないしたんや…?」
慌てて出勤してきたようで随分と肩で息をしているななし。こめかみには薄らと汗まで浮かべているほどだ。
「とりあえず、座ろかななし」
『は、はい…早くきちゃってすみません』
「かまへん。こっちおいでななし」
『ん、はい』
なんだかいつもよりげっそりしているななしの手をとり真島は先程寝転がっていたソファにへと案内した。
素直についてくるななしに愛しさが込み上げ、自然と顔が綻んでいく。
間抜けなこのニヤけた顔がななしに見られてしまわないようにと若干俯きつつ、未だにゼェハァしている彼女をソファに座らせてやる。
「で、なにがあったんや?随分疲れとるようやけど……?おい、なんやねんその隈」
『じ、実は……昨日眠れなかったんです』
「眠れんかった?」
ななしを座らせたあとあまりにも元気のない彼女の頬を撫でているとはっきりとした隈が出来ていることに気がついた。
白く美しい肌のため隈があると殊更に目立つ。
どんな時も元気で隈など作ったことのないななしが、はっきりくっきり隈を作り落ち込んでいる姿はあまりにも珍しくあまりにも弱々しい。
こちらまで辛くなるような姿に真島は堪らずななしの両頬を抑えて、大きな瞳を覗き込んだ。
長いまつ毛におおわれた大きな瞳は苦しそうに潤んでいる。
こんな姿になるまで眠れなかったのは一体何故なのか。
彼女を脅かす何かがあったのだろうか。
恋人関係にあるのに昨晩なにもしてやれなかった自分がとても恨めしい。
歯がゆい思いで唇を噛み締め、真島はゆっくりと話し出したななしを見つめた。
『わ……笑わないですか?』
「安心せぇ、絶対にわろたりせぇへん」
『はい…実は………こ、怖い夢見ちゃって眠れなかったんです』
「何!?怖い夢やと!…ん?……怖い夢?」
『うん…幽霊がアタシのアパートに沢山出てくる夢で…物凄く怖くて…目が覚めてから眠れなかったんです…』
「…幽霊」
『髪の長い幽霊がアタシの首を絞めるんです!その後もう目が冴えちゃって…小さな物音も怖いし、布団の中も怖いし…ずっとテレビ見てました…。一人だと外が明るくても怖くて、急いでグランドに来たんです。本当にごめんなさい』
「そんなこと気にせんでもええ。ななしは怖い夢が原因で眠れんかったんやな?誰かに襲われたわけでも家に押し入られた訳でもないんやな?」
『うん、でも幽霊に襲われました』
「ヒヒッ、せやなぁ。それはホンマに怖かったのぉななし」
明らかにげっそりと落ち込んでいるななしはどうやら怖い夢を見て、一睡も出来なかったらしい。
彼女がここまで隈を作るのだからそれはもう大変な事が起こったのだとばかり思っていた真島。しかしななしが眠れなかった理由は"怖い夢を見たから"というあまりにも可愛らしいものだった為、真島は拍子抜けし思わず笑がこぼれた。
誰かが夜中に忍び込んだり、ストーカーや泥棒だったり…最悪の事態を想像し後悔ばかりが膨らんでいた真島だったが、思っていた以上に平和的な理由に安堵の息が盛れた。
ななしはとても達観しており、誰よりも大人っぽい。きびきびと働く姿は実年齢よりも年上に見えるほど。
しかし怖い夢で眠れなくなったりととても幼い一面ももちあわせている。
今回はどれほど怖い夢だったのかは分からないが、一睡も出来なくなるほど幽霊に怯えていたようだ。
普段のきりりとしたななしからは想像も出来ないほど怯えた姿にギャップを感じてしまい真島は胸を高鳴らせた。
こんな時に不謹慎だとは思うがシュンとしているななしがあまりに可愛くて愛おしくて仕方がなっかた。
「傍におってやれたら良かったんやけど」
『ん…アタシも真島さんと一緒にいたかったです…』
「今日は一緒にいよか」
『ん、そうしたいです』
「今はもう怖ないか?」
『…手、握ってもいいですか?』
「手だけでええんか?」
『……ギュってしてほしいです』
「ええで、おいでななし」
『んぅ』
遠慮気味に小さく呟いたななしの事を真島は優しく抱きしめた。
もう怖がらなくていい、ここには自分とななししかいない。そう伝えるように背中を撫でてやりながら、「安心せぇ」と耳元でそっと呟く。
いつだって一人で頑張っているが彼女はまだ幼い。
そんな愛しい恋人に少しでも安心してもらいたくて、心地良いと感じてもらいたくて。
真島は腕の中にいるななしの顔を覗き込みながら触れるだけのキスを何度も何度も送った。
すると怯えていた瞳がうっとりと細くなり、ななしの頬が色ついてくる。
次いでななしは鈴の音のように小さくコロコロと笑いながら『ありがとう真島さん』とはにかんだ。
『凄く落ち着きました…幽霊なんて居ないって分かってるのに夢がとてもリアルで怖かったんです』
「完璧やないんや。怖いもんのひとつやふたつあったってええ。ななしが怖なくなるまでずっと抱きしめたるさかい、いつでも俺に頼ってや」
『ふふ、はい。ありがとうございます。とっても嬉しい。好きです真島さん』
「俺も好きやななし。ホンマ、可愛ええしええ子やし。はぁ…ええ匂いやのぉ」
『どうしよ…真島さん』
「ん?どないしたん?」
『眠たい…真島さんが心地よすぎて…』
「ヒヒッ、一時間くらい眠ったらええやん。俺が起こしたるわ」
『ダメですよ…皆来ちゃう』
「まだ二時間あるんやで?誰も来ぉへんわ」
『そうでしょうか?』
「そないに目ぇとろんとさせとんや、はよ眠って隈とり。ほんでいつもの元気な顔見せてやななし」
『…もう怖い夢見ないでしょうか?』
「俺がおるんや、そんなもん見ぃひん。せやから少寝ぇや」
『真島さんて本当にスーパーヒーローみたい…かっこよくてドキドキしちゃう』
「あんまり可愛ええ事言うとったら抱くで?」
『んふふ、ダメです』
「ほな、はよ寝ぇ」
『はぁい』
腕の中に居たななしは真島の優しいスキンシップで眠たくなってきたようであった。
昨日一睡もしていないのだから当然だ。
これから沢山働かなくてはならないのだから、体を休める意味でも一時間ほど睡眠をとればいい、と真島は腕の中のななしを寝かしつけるように抱きしめソファに寝転んだ。
仰向けになった体の上にななしをのせて、抱きしめた手で優しく背を撫でてやると数分して直ぐに健やかな寝息が聞こえてくる。
余程眠たかったのであろう。
「おやすみ、ななし」
胸に頭をのせてスースーと眠っているななしの頬に指を滑らせる。
ななしが眠ったことで再び静寂に包まれたスタッフルーム。外の雑踏が聞こえてきそうなほど静かだが今の真島はとても嬉しそうだ。
胸に乗る愛おしい重みと、心地よい温もり。そして穏やかな寝息。
それら全てが真島の心を満たしていた。
(んぅ、はぁ…あ、おはようです真島さん)
(おはよさん。よぉ、眠れたか?)
(多分眠れました)
(隈もマシになっとるし良かったのぉ)
(ふふ、真島さんのお陰です。ありがとうございます)
(ほな、今日も頑張ろか)
(はい!)
この頃は幽霊系が怖いななしちゃん。
そんなビビりなななしちゃんにほこほこしてる真島さん。
早く二人で暮らせるといいね。