小話集1
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(真島建設/恋人)
*スマホあります
『……』
真島達への差し入れを持って来ていたななしは困ったように事務所の前で固まっていた。
後数歩前に出れば真島建設の事務所の扉に手が届き、中に入れるのだがそれが出来ない。
『い、生きてる?』
ななしは動けない原因でもある小さな生き物をひっそりと見下ろしながら、怯えたようにか細い声で呟いた。
原因とはななしと事務所の間に落ちている一匹のセミである。
茶色く小さなセミは仰向けのままで固まっており、生きているのか死んでいるのか一見しただけでは見当もつかない。
『………こ、怖ぁ』
ななしは死んでいるのかどうかを見極めるためにセミをじっと見つめて観察した。
見ている限りでは羽も脚も微動だにせず、生きているようには見えない。
しかしこの状態のセミは稀に生きている時もあり、近くを通った際大きく鳴き人間に精神的ダメージを与えたりもするのだ。
巷ではこう言った現象を"セミファイナル"と呼んでおり、ななしも今"セミファイナル"が起きないか酷く警戒している。
セミの生死が完全に分かればその先の行動が出来るのだが、この状態で横を通り過ぎるのはあまりにも恐ろしくななしはやはり動けずにいた。
右手に持っている真島達への差し入れはアイスであり早く冷蔵庫にしまわなければ溶けてしまう為、こんな場所でセミとにらめっこをしている暇はないのだがなかなか足は動いてはくれない。
『んー…あ!そうだ!スマホ!!』
セミをじっと見つめていたななしはネットになら解決策があるのではないか!と、ポケットにしまっていたスマホを取り出した。
なるべく袋の音を立てないようにしつつも急いでスマホを操作し"セミファイナル"を検索する。
『えっと…脚が閉じているかどうか…』
検索の結果、セミの生死を見極めるための基準は脚が開いているか閉じているかで分かると出てきた。
閉じている際はほとんど死んでおり、開いている際は生きている事が多いようだ。
しかしそれら全ては目安で、そうでない場合もあるとの事。
脚が閉じていても生きていたり、開いていても死んでいたり。
絶対に見分ける方法は専門家に聞く以外はないらしい。
結局セミの生死を確実に見分ける方法は今のななしにはなく、"セミファイナル"を回避したいのであれば事務所に入らないという選択肢しか残っていない。
しかしそうすると持ってきたアイスは溶けて食べられなくなってしまうだろう。
なかなかセミの横を通り過ぎる勇気が出ずにななしは事務所の前で項垂れてしまった。
現場にいるであろう真島や組員達に話せばなんとかなるかもしれないが、仕事中の彼らの邪魔をするわけにもいかない。
それに彼らを労りに来たのに手を煩わせるなどあってはならない事だ。
『どうしようかなぁ…』
「そないな所でどないしてん?」
『うひゃっ!?』
どうしようかと悩んでいたところ急にななしの背後から影がさし、ヘルメット姿の真島が声を掛けてきたのだ。
ひたすら真剣に考えていた所に急に声を掛けられてしまったななしは心臓が止まるほど驚き目を白黒させた。
慌てて振り返ると「大袈裟やのぉ」と低い声でクツクツ笑う真島が楽しそうにこちらを見下ろしている。
ななしは止まりかかった心臓を抑えるように胸に手を当て深深と息を吐いた。
『お、驚かさないでくださいよぅ』
「なにを驚くことがあんねん」
『だって考えてる最中に急に話しかけるから』
「あぁ?そないな所でなにを考えんねん。入るならさっさと事務所入らんかいアホ」
『い、いやです…入れない』
「入れないー??なんでやねん。足前に出して進むだけやろ」
『だって…セミが…』
「セミやと?」
『事務所の前にいるんですもん。生きてたら怖いじゃないですか』
「…どうみても死んどるやろ。裏返っとんで」
『こういう格好でも生きてる時があるんですよ!いきなり飛んだりしたらアタシ漏らしちゃいます!』
「なるほど、ビビって入れんだんか」
『そ、そうなんです…』
「ヒヒッ、えらい素直やのぉ」
真島は付け加えるように「ただのちっこい虫やのにのぉ」と言うが怖いものは怖い。
死んでいると思い横を通り過ぎた際に大きな声で暴れだし、服にセミがくっついたりでもしたら今後一生物のトラウマが生成されるに違いない。
そんなことになるくらいなら真島に茶化される方が万倍もマシであるとななしは開き直ったように『ちっこくても怖いんですもん』と唇を尖らせた。
そのままななしは傍に来た真島のジャケットの袖を掴みそそくさと背中の方へと移動して行く。
大きな背中に張り付くように隠れたななしは真島に向かい「先に入って下さい」と蚊の鳴くような声で言う。
「ほな先入ったるわ」
『あ、ありがとうございます。これでアイスも冷蔵庫に入れられます』
「お、また買うてきたんか?」
『ふふ、そうですよ。沢山働いている皆に差し入れです』
「ヒヒッ!はよ事務所入らんとアカンな」
『はい、お願いします』
「ほな跨ぐで」
背中に隠れたななしの頭をポンポンと撫でた真島はセミを一瞥しながら、一歩踏み出した。
セミを避けるように跨いだ後、事務所の扉に手をかけた真島はそのまますんなりと中に入っていく。
一連の動作を固唾を呑んで見守っていたななしだったが真島が傍を通った後もセミは暴れたり鳴き出したりする気配はなかった。
「すんなり入れたでななし。やっぱりこのセミ死骸なんやろ」
『そ、そうだったみたいですね…はぁ、良かった〜。アタシ今日はもう一旦家に帰ろうかと思いましたもん』
「セミくらいで大袈裟なやっちゃなぁ。だいたい俺に一声かけたらええやんけ」
『お仕事の邪魔は出来ないですよ』
「律儀やのぉ。まぁええわ。はよこっち来いやななし」
『はーい』
事務所の前に落ちていたセミが死んでいると分かったななしはホッと安堵し、事務所の中に居る真島に向き直った。
すると真島は中に招き入れるようにななしに向かって手を差し出した。
「中でアイス食べよか」と笑う真島と差し出された大きな手にキュンと胸を高鳴らせつつななしはゆっくりと自身の手を重ねる。
重ねた手は真島の大きな手にしっかりと握られ、そのまま事務所の中に入るように引かれる。
ななしは真島に身を委ねながら、セミを踏まないように一歩踏み出した。
真島が先に入りセミが起きないことを確認していたためもう怖がる必要はないのだと、ななしは素早く事務所の中に体を滑り込ませた。
すぐ側で待っていた真島の胸の中にぶつかるよう飛び込むも、彼の逞しい体がしっかりと支えてくれた。ななしが顔を起こし真島をみると「大丈夫やったやろ?」と歯を見せにこやかに笑っている。
ようやく"セミファイナル"の脅威を逃れることが出来たななしは心の底から溢れる安心感と嬉しさで真島にギュウと抱きついた。
『んー、大丈夫でした!ありがとう吾朗さん!』
「ヒヒッ!お前は変なところでビビりやさかいおもろいわ」
『ふふ、おもろいですか?』
「ホラー映画は怖ないのにセミは怖いなんておもろいやろ」
『映画は作り物って分かってるから怖くないけど、セミは何を考えているか分からないから怖いです。セミに限らず虫全般怖いです』
「まぁ、確かに虫は何考えとるか分からんかもしれん」
『そうですよねぇ、だって感情とか分かんないし。目が虚無すぎて…無理』
「ヒヒッ!よう分かったで。そんなことよりはよ片付けな溶けてまうんやないか?」
『あ、そうですよ!アイス!吾朗さんなに食べるか選んでくださいね。その後残ったアイス冷蔵庫入れるから』
「おう、ほな戸ぉだけ閉めて食べよか」
『そうですね!』
ななしは持ってきていた袋ごと真島に手渡し、開けっ放しの扉を閉めるために向き直る。
引き戸の取っ手に手を掛け、ゆっくりと閉じようとしたまさにその瞬間。
全てが終わり気を抜いていたななしのすぐ側で逆さまになって落ちていたセミがけたたましくジジジジ!と鳴き出したのだ。
扉をしめるために入口の傍にいたななしはそんなセミの激しい鳴き声に『はぅ!?』と声にならない声を上げ、驚きのあまり尻もちを着いてしまった。
『いったぁ!』
「おい、何しとんねん!大丈夫か?」
『……』
「ななし、どっか痛むんか?」
『……腰…』
「腰打ったんか?」
『腰…抜けちゃった……』
「…ほうか」
『……ぐすん』
「ななし、お前泣いとるんか?」
『セミ…嫌い』
「おうおう、そやな。戸ぉ閉めたさかいもう大丈夫やで」
『うぅ…吾朗さん…』
どうやらセミは未だに生きていたらしい。恐れていた"セミファイナル"をくらってしまったななしは、駆け寄って来た真島にしがみつきながらぐすんと鼻をならした。
腰もうつし、怖い思いもするしでとても散々だ。
ななしは真島の胸板に張り付きながら『トラウマになるぅ』と鼻声で呟く。
『夏嫌いセミ嫌い…』
「そろそろ秋になるやろ。それまでの辛抱やんけ」
『もう、一人で外でない。吾朗さんといるぅ』
「別に俺はかまへんけどな」
『…真島組でセミを根絶やしにして下さい』
「アホ言うとらんとはよ泣き止まんかい」
『泣いてないですもん』
「ほんならそれでええわ」
それからななしが顔を上げ真島から離れるのは30分後。
しっかりと"セミファイナル"がトラウマと化したななしの虫嫌いは加速の一途を辿るのだった。
(ななしの涙と化粧で凄いことになっとる)
(ず、ずびばせん…)
(ヒヒッ、鼻詰まっとんで)
(んー、鼻かんできます…)
(お前ホンマに虫嫌いなんやなぁ)
(…大嫌いですっ)
セミファイナル。
それはとても恐ろしいものです。出会ったが最後道を変える他ありません…( ˇωˇ )
ななしちゃんは虫嫌い。真島さんはそうでもない。
*スマホあります
『……』
真島達への差し入れを持って来ていたななしは困ったように事務所の前で固まっていた。
後数歩前に出れば真島建設の事務所の扉に手が届き、中に入れるのだがそれが出来ない。
『い、生きてる?』
ななしは動けない原因でもある小さな生き物をひっそりと見下ろしながら、怯えたようにか細い声で呟いた。
原因とはななしと事務所の間に落ちている一匹のセミである。
茶色く小さなセミは仰向けのままで固まっており、生きているのか死んでいるのか一見しただけでは見当もつかない。
『………こ、怖ぁ』
ななしは死んでいるのかどうかを見極めるためにセミをじっと見つめて観察した。
見ている限りでは羽も脚も微動だにせず、生きているようには見えない。
しかしこの状態のセミは稀に生きている時もあり、近くを通った際大きく鳴き人間に精神的ダメージを与えたりもするのだ。
巷ではこう言った現象を"セミファイナル"と呼んでおり、ななしも今"セミファイナル"が起きないか酷く警戒している。
セミの生死が完全に分かればその先の行動が出来るのだが、この状態で横を通り過ぎるのはあまりにも恐ろしくななしはやはり動けずにいた。
右手に持っている真島達への差し入れはアイスであり早く冷蔵庫にしまわなければ溶けてしまう為、こんな場所でセミとにらめっこをしている暇はないのだがなかなか足は動いてはくれない。
『んー…あ!そうだ!スマホ!!』
セミをじっと見つめていたななしはネットになら解決策があるのではないか!と、ポケットにしまっていたスマホを取り出した。
なるべく袋の音を立てないようにしつつも急いでスマホを操作し"セミファイナル"を検索する。
『えっと…脚が閉じているかどうか…』
検索の結果、セミの生死を見極めるための基準は脚が開いているか閉じているかで分かると出てきた。
閉じている際はほとんど死んでおり、開いている際は生きている事が多いようだ。
しかしそれら全ては目安で、そうでない場合もあるとの事。
脚が閉じていても生きていたり、開いていても死んでいたり。
絶対に見分ける方法は専門家に聞く以外はないらしい。
結局セミの生死を確実に見分ける方法は今のななしにはなく、"セミファイナル"を回避したいのであれば事務所に入らないという選択肢しか残っていない。
しかしそうすると持ってきたアイスは溶けて食べられなくなってしまうだろう。
なかなかセミの横を通り過ぎる勇気が出ずにななしは事務所の前で項垂れてしまった。
現場にいるであろう真島や組員達に話せばなんとかなるかもしれないが、仕事中の彼らの邪魔をするわけにもいかない。
それに彼らを労りに来たのに手を煩わせるなどあってはならない事だ。
『どうしようかなぁ…』
「そないな所でどないしてん?」
『うひゃっ!?』
どうしようかと悩んでいたところ急にななしの背後から影がさし、ヘルメット姿の真島が声を掛けてきたのだ。
ひたすら真剣に考えていた所に急に声を掛けられてしまったななしは心臓が止まるほど驚き目を白黒させた。
慌てて振り返ると「大袈裟やのぉ」と低い声でクツクツ笑う真島が楽しそうにこちらを見下ろしている。
ななしは止まりかかった心臓を抑えるように胸に手を当て深深と息を吐いた。
『お、驚かさないでくださいよぅ』
「なにを驚くことがあんねん」
『だって考えてる最中に急に話しかけるから』
「あぁ?そないな所でなにを考えんねん。入るならさっさと事務所入らんかいアホ」
『い、いやです…入れない』
「入れないー??なんでやねん。足前に出して進むだけやろ」
『だって…セミが…』
「セミやと?」
『事務所の前にいるんですもん。生きてたら怖いじゃないですか』
「…どうみても死んどるやろ。裏返っとんで」
『こういう格好でも生きてる時があるんですよ!いきなり飛んだりしたらアタシ漏らしちゃいます!』
「なるほど、ビビって入れんだんか」
『そ、そうなんです…』
「ヒヒッ、えらい素直やのぉ」
真島は付け加えるように「ただのちっこい虫やのにのぉ」と言うが怖いものは怖い。
死んでいると思い横を通り過ぎた際に大きな声で暴れだし、服にセミがくっついたりでもしたら今後一生物のトラウマが生成されるに違いない。
そんなことになるくらいなら真島に茶化される方が万倍もマシであるとななしは開き直ったように『ちっこくても怖いんですもん』と唇を尖らせた。
そのままななしは傍に来た真島のジャケットの袖を掴みそそくさと背中の方へと移動して行く。
大きな背中に張り付くように隠れたななしは真島に向かい「先に入って下さい」と蚊の鳴くような声で言う。
「ほな先入ったるわ」
『あ、ありがとうございます。これでアイスも冷蔵庫に入れられます』
「お、また買うてきたんか?」
『ふふ、そうですよ。沢山働いている皆に差し入れです』
「ヒヒッ!はよ事務所入らんとアカンな」
『はい、お願いします』
「ほな跨ぐで」
背中に隠れたななしの頭をポンポンと撫でた真島はセミを一瞥しながら、一歩踏み出した。
セミを避けるように跨いだ後、事務所の扉に手をかけた真島はそのまますんなりと中に入っていく。
一連の動作を固唾を呑んで見守っていたななしだったが真島が傍を通った後もセミは暴れたり鳴き出したりする気配はなかった。
「すんなり入れたでななし。やっぱりこのセミ死骸なんやろ」
『そ、そうだったみたいですね…はぁ、良かった〜。アタシ今日はもう一旦家に帰ろうかと思いましたもん』
「セミくらいで大袈裟なやっちゃなぁ。だいたい俺に一声かけたらええやんけ」
『お仕事の邪魔は出来ないですよ』
「律儀やのぉ。まぁええわ。はよこっち来いやななし」
『はーい』
事務所の前に落ちていたセミが死んでいると分かったななしはホッと安堵し、事務所の中に居る真島に向き直った。
すると真島は中に招き入れるようにななしに向かって手を差し出した。
「中でアイス食べよか」と笑う真島と差し出された大きな手にキュンと胸を高鳴らせつつななしはゆっくりと自身の手を重ねる。
重ねた手は真島の大きな手にしっかりと握られ、そのまま事務所の中に入るように引かれる。
ななしは真島に身を委ねながら、セミを踏まないように一歩踏み出した。
真島が先に入りセミが起きないことを確認していたためもう怖がる必要はないのだと、ななしは素早く事務所の中に体を滑り込ませた。
すぐ側で待っていた真島の胸の中にぶつかるよう飛び込むも、彼の逞しい体がしっかりと支えてくれた。ななしが顔を起こし真島をみると「大丈夫やったやろ?」と歯を見せにこやかに笑っている。
ようやく"セミファイナル"の脅威を逃れることが出来たななしは心の底から溢れる安心感と嬉しさで真島にギュウと抱きついた。
『んー、大丈夫でした!ありがとう吾朗さん!』
「ヒヒッ!お前は変なところでビビりやさかいおもろいわ」
『ふふ、おもろいですか?』
「ホラー映画は怖ないのにセミは怖いなんておもろいやろ」
『映画は作り物って分かってるから怖くないけど、セミは何を考えているか分からないから怖いです。セミに限らず虫全般怖いです』
「まぁ、確かに虫は何考えとるか分からんかもしれん」
『そうですよねぇ、だって感情とか分かんないし。目が虚無すぎて…無理』
「ヒヒッ!よう分かったで。そんなことよりはよ片付けな溶けてまうんやないか?」
『あ、そうですよ!アイス!吾朗さんなに食べるか選んでくださいね。その後残ったアイス冷蔵庫入れるから』
「おう、ほな戸ぉだけ閉めて食べよか」
『そうですね!』
ななしは持ってきていた袋ごと真島に手渡し、開けっ放しの扉を閉めるために向き直る。
引き戸の取っ手に手を掛け、ゆっくりと閉じようとしたまさにその瞬間。
全てが終わり気を抜いていたななしのすぐ側で逆さまになって落ちていたセミがけたたましくジジジジ!と鳴き出したのだ。
扉をしめるために入口の傍にいたななしはそんなセミの激しい鳴き声に『はぅ!?』と声にならない声を上げ、驚きのあまり尻もちを着いてしまった。
『いったぁ!』
「おい、何しとんねん!大丈夫か?」
『……』
「ななし、どっか痛むんか?」
『……腰…』
「腰打ったんか?」
『腰…抜けちゃった……』
「…ほうか」
『……ぐすん』
「ななし、お前泣いとるんか?」
『セミ…嫌い』
「おうおう、そやな。戸ぉ閉めたさかいもう大丈夫やで」
『うぅ…吾朗さん…』
どうやらセミは未だに生きていたらしい。恐れていた"セミファイナル"をくらってしまったななしは、駆け寄って来た真島にしがみつきながらぐすんと鼻をならした。
腰もうつし、怖い思いもするしでとても散々だ。
ななしは真島の胸板に張り付きながら『トラウマになるぅ』と鼻声で呟く。
『夏嫌いセミ嫌い…』
「そろそろ秋になるやろ。それまでの辛抱やんけ」
『もう、一人で外でない。吾朗さんといるぅ』
「別に俺はかまへんけどな」
『…真島組でセミを根絶やしにして下さい』
「アホ言うとらんとはよ泣き止まんかい」
『泣いてないですもん』
「ほんならそれでええわ」
それからななしが顔を上げ真島から離れるのは30分後。
しっかりと"セミファイナル"がトラウマと化したななしの虫嫌いは加速の一途を辿るのだった。
(ななしの涙と化粧で凄いことになっとる)
(ず、ずびばせん…)
(ヒヒッ、鼻詰まっとんで)
(んー、鼻かんできます…)
(お前ホンマに虫嫌いなんやなぁ)
(…大嫌いですっ)
セミファイナル。
それはとても恐ろしいものです。出会ったが最後道を変える他ありません…( ˇωˇ )
ななしちゃんは虫嫌い。真島さんはそうでもない。