小話集1
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(沖田/恋人)
*シリーズでは斎藤一(桐生さん)さんまだ未登場ですが、このお話には(名前だけ)登場してます!
「チッ!」
静寂の中大きく響いたのは沖田の放った舌打ち。
彼は今想い人 のななしと住む平屋の玄関先で仁王立ちをしていた。
放たれた舌打ちと組まれた腕、忙しなく貧乏ゆすりをする右足。
極めつけは眉間に深々と刻まれた皺と、真一文字に結ばれた口。
彼を纏う雰囲気ですら禍々しく、誰がどう見ても憤っていることが分かる。
そんな沖田は現在、ななしの帰りを待っている。
何故沖田が怒りながらも、ななしを待っているのか。それは遡ること一刻ほど前の事だ。
夕方になり屯所での仕事もそろそろ終わりを迎える頃。
唐突にななしが『今日は少し用事があるので先に帰って良いですよ。ご飯も食べちゃって良いですからね〜』と言い出したのだ。
ただななしがそう促す事自体は特段珍しい話では無い。
近藤のいる祇園に向かい"定期報告"を行 ったり、土方の元に仕事の報告へ行 ったり。
彼女にも彼女の用事や仕事があると理解している沖田は、今回もいつもの通り何か事情があるのだろうとななしに対して「おう、分かったでぇ」とそう返事をしたのだ。
『じゃぁ、夜に会いましょうね』といつもよりニコニコとしたななしは仕事を終え足早に部屋を出ていく。
沖田は快く送り出すが、その時はまだななしがヤケに楽しそうにしていることには気づいていなかった。
それからしばらくして、ななしが居ないのなら今日は永倉や井上と飲みにでも行こうかとゆっくりと体を起こした沖田。
彼らを探しに部屋を出てのんびり歩いていると、向かい側から藤堂がやって来る。
別に用事は無いので挨拶をして通り過ぎようとした沖田だったが、何故か「あ、沖田さん」と藤堂に呼び止められてしまったのだ。
「どないしてん?」
「えーっと、今日はななしさんと一緒じゃ無い系です?」
「アイツ今日は用事あるらしいで。なんかあったんか?」
「用事っすか…」
「?」
「沖田さんも用事の内容って知らないんすよね?」
「まぁ、せやな」
「あちゃー、んじゃ、これ言わな方が良かったかも」
「あ?どういう意味や平助」
「え、あー…やっぱ気にしないでくださいっす。見間違いかもだし」
「…平助…はよ言わんかい」
「…いやぁ〜。俺つい今屯所に帰ってきたんすけど…ちょうど関所前でななしさん見たんすよね」
「ほう、で?」
「てっきり沖田さんと一緒かと思ったら…齋藤さんと一緒だったんすよねぇ。えらく楽しそうに洛外の方へ向かってったんで何かいい事でもあったのかなぁって…」
「あ?どういうことやねん。一 ちゃんとななしが一緒におったんか?」
「まぁ、珍しい組み合わせんなんで見間違いの可能性もあるっすけど」
呼び止めた藤堂によると四条通の関所前を齋藤とななしが二人で歩いていたとの事。
齋藤とはつい最近新撰組に入隊し、その腕前から三番隊隊長に就任した人物だ。
口数は少ないが精悍な顔つきの齋藤はモテる。
現に新撰組はそれだけで嫌われてしまうというのに、齋藤は京の町の人に"齋藤さん"、"一さん"と呼ばれて慕われている位だ。
そんな齋藤が何故か沖田の想い人 であるななしと二人で歩いていたと言う。
そうしてななしがヤケに楽しそうにしていた理由も何となく想像できてしまい、屯所の廊下で頭に血が上ってしまった沖田。
そこからは齋藤に対して、そして齋藤と出かけたななしに対して酷く腹が立ち、永倉や井上との飲み会どころではなくなってしまったのだ。
憤りを感じながらも戻ってきたななしに直ぐに話を聞けるように、沖田は速急に家に帰り、今に至る。
随分と長い間待っているがなかなかななしは帰って来ない。
今この瞬間も彼女は齋藤と過ごしているのかと思うとそれだけで沖田の心の中にはドス黒い嫉妬と怒りが込み上げてくる。
なにも疚しい事が無いならわざわざ"用事がある"という言い方はしないんじゃないか。
齋藤と出かけるということを敢えて言わなかった理由はなんだというのか。
出かける間際、どうしてあんなにも楽しそうにしていたのか。
ななしが簡単に"裏切る"ことなどありはしないと感じる反面、彼女の行動を思い返してみると全てを信用出来ないのも事実であった。
一人待っている時間が長ければ長いほど、沖田の頭の中には嫌なことばかりが思い起こされる。
「はよ帰ってこんかい、アホっ」
吐き出された呟きはやはり静寂の中で小さく響くだけであった。
*********
それから何度目かのため息をついた頃。
玄関で一人待っている沖田の耳に小さな物音が聞こえてきたのだ。
ようやくななしが帰ってきたのであろう。
沖田は玄関の扉が開く前に自分の手で勢いよく開き、「ななし!」と声を荒げた。
するとそこには案の定ななしがおり『わっ!?そ、総司さん!?』と、驚いたように目を剥き飛び退いていた。
今の今まで誰とどこにいたのか。
冷静に問いただしてやろう、そう思っていた沖田だったが。
ななしを目の前にした途端、再び色々な感情が一気に湧き上がりとても冷静でいることなどできなかったのだ。
嫉妬と怒りが大きな舌打ちとなって口から飛び出すと強引にななしの白く細い腕を鷲掴み、力任せに彼女を壁に押し付けていた。
己のすぐ傍で苦しげに息を吐き痛みに眉根を寄せるななし。
だが沖田の怒りはそれだけでは収まりそうにない。
『そ、総司さん?い、痛いですっ』
「…痛いやないやろ…お前今までどこで何しとったんや」
『ふ、伏見まで行ってました…ちゃんと伝えるべきでしたね』
「で?誰とおったんや?あ?」
『さ、齋藤さんと…いました』
「ほう…ホンマに一ちゃんとおったんか…」
『でも齋藤さんだけじゃなくて…遥ちゃんって言う子も…んっ!?』
藤堂が見間違いかもしれないとそう言ったため、もしかしたらななしは齋藤と一緒にいた訳では無いのかもしれない。
そうあればいいと願っていた沖田だったが、ななしの口からはっきりと『齋藤さんといました』と聞いてしいまい、全ては事実になってしまった。
その瞬間カッと頭に血が登り、真っ白になってしまった沖田は目の前にいるななしの唇をまるで食むように強引に奪っていた。
『んっ。まっへ…っ!んぅ!』
いきなり唇を奪われ息が続かなかったのか、すぐにななしは苦しそうに悶えた。
しかし沖田は身動 ぎするななしを逃がさないように力強く押さえ込み、尚も口内を一方的に蹂躙する。
ななしが誰のものであるか、今一度分からせるように激しく、淫らに、強引に…、唇を貪った。
「はっ、ななし、ワシ以外の男に懐くなんぞ許さへん」
『はぁ…ん、まっ、待って下さい総司さんっ』
「待たん。お前はこの先も永遠にワシのもんやろ!新撰組もなにも関係あらへん、今日からこの家に閉じ込めたるわ」
『私は物じゃないですっ…総司さん、話をっ!』
「うっさいわ。こっち来ぃや!」
『待って!総司さん……五郎さん!!』
「…っ」
『分かりましたから…話を聞いてください…』
「ななし…」
ななしの悲痛な叫びを耳にした沖田はようやく暴走を止めて、強引に鷲掴みにしていた手を離した。
離した細い腕にはくっきりと痕ができておりとても痛々しい。
肩で息をするななしを前に沖田は一度冷静になろうと、小さく深呼吸をする。
彼女や齋藤に対する怒りが消えてなくなった訳では無いが、話を聞かずに一方的に腹を立てていてはそこら辺にいる子供と大差ない。
まずはお互い腹の中を吐き出そう、沖田はそう決め俯くななしの痛々しい腕を今度は優しく掴み家の中にへと入った。
無言のまま土間へ行き二人はゆっくりと腰を下ろす。
「…ななし…」
『総司さん…もしかして怒ってます?』
「せやな。ワシは怒っとる。ななしが黙って一ちゃんと出かけとったことに腹たってしゃあない。お前はワシの想い人 とちゃうんか?」
『…す、すみません……本当に軽率でした…。この先もずっと総司さんの想い人 です。それは絶対に変わりません』
「ほな、なんで一ちゃんと二人きりで出かけとったんや?逢瀬やないんか?」
『そ、そんな訳ないじゃないですか!確かに齋藤さんと二人で出かけましたけど!一緒だったのは道中だけです!私のお目当ては犬です!!』
「あ?犬ぅ?」
『……齋藤さんから捨て犬を飼い始めたって聞いたので見てみたくて…』
「………」
『それに飼っているのは斉藤さんの知り合いの遥ちゃんって言う女の子なんです。彼女のお家に行った後は二人きりじゃなくて三人だったんですよ。ご飯もそこで頂きました』
「お前…あんなに楽しそうにしとったんも犬見たかったからなんか?」
『…そ、そうです…。まだ子犬って聞いて楽しみで仕方がなかったんです』
「ほな、逢瀬やなかったんか?」
『ち、違うって言ってるじゃないですか!確かに黙って齋藤さんと二人で出かけたのは悪かったと思ってますけど…私は総司さんがいながら逢瀬に行くような女じゃないです!!』
事の真相を聞き終えた沖田は目の前でプンプンと怒っているななしを見ながら、頭の中を整理させた。
藤堂が四条通の関所前で見かけたななしと齋藤は、遥と言う少女の家に向かうために歩いただけで、最終的な目的は逢瀬や浮気などではなく…捨て犬を見ること。
藤堂からの話を聞いて言えないような疚しい事があると決めつけたのは己で、本来憤るべきは疑われてしまったななしの方であるのに。
ありもしない事実に嫉妬と怒りで暴走し、ななしを傷つけてしまった己が急に恥ずかしくなった沖田は小さな声で「すまん」と呟いた。
彼女が疚しい事など僅かばかりもないと言い切った事への後ろめたさと、罪悪感が尋常ではない。
『いいえ、誤解が解けたならそれでいいですよ。もう怒ってませんか?』
「怒っとらん…せやけど次から二人で出かける時はちゃんと言うてや。いらん事でお前を傷つけてもうたらなにしとるか分からん」
『ふふふ、はい。分かりました。約束しましょう!』
「おう」
『次は一緒に見に行きましょうね?わんちゃんとても可愛かったですよ?』
「…そのうちな」
ななしも既に怒ってはいないのかニコニコと笑いながら犬が如何に可愛かったかを語っている。
次は一緒に行こうと言ってくれるが、もし本当に犬をななしと自分と齋藤とで見に行った時。
『可愛い可愛い』と犬ばかりを構っているななしを見てしまったら、今度は齋藤ではなく動物相手に嫉妬してしまうのではないかと、沖田は気が気でなかった。
「…手ぇ痛ないか?」
『痛くないですよ。大丈夫です』
「お前はホンマに健気なやっちゃで」
『えぇ?そうですか?』
こんな狭量な自分に執着されて可哀想なななし。
…でももう何があっても手放してなんてやれない。
沖田はななしの手を擦りながらも人知れずそんなことを思うのだった。
(あ、そういえば齋藤さんは私が女だって知らないでしょう?彼が衆道でない限り浮気したり逢瀬したりなんてありえないんですからね??)
(あ?男色やったらどないすんねん)
(まさかねぇ?…そんな人は武田さんだけで十分ですよぅ…)
(…お前武田にも目ぇ付けられとるしのぉ)
(嫌なこと言わないでくださいよ!)
(……やっぱし家に閉じ込めとくべきかもしれへん!)
(もう、冗談に聞こえないですって!)
(冗談やあらへん)
(えっ!?)
続く予定!
最後雑になりましたすみません…。
嫉妬しいな沖田さん。随分と心が狭いですがななしちゃんにしたらそれが心地よかったりもする。
結果的にお似合いカップル。
*シリーズでは斎藤一(桐生さん)さんまだ未登場ですが、このお話には(名前だけ)登場してます!
「チッ!」
静寂の中大きく響いたのは沖田の放った舌打ち。
彼は今
放たれた舌打ちと組まれた腕、忙しなく貧乏ゆすりをする右足。
極めつけは眉間に深々と刻まれた皺と、真一文字に結ばれた口。
彼を纏う雰囲気ですら禍々しく、誰がどう見ても憤っていることが分かる。
そんな沖田は現在、ななしの帰りを待っている。
何故沖田が怒りながらも、ななしを待っているのか。それは遡ること一刻ほど前の事だ。
夕方になり屯所での仕事もそろそろ終わりを迎える頃。
唐突にななしが『今日は少し用事があるので先に帰って良いですよ。ご飯も食べちゃって良いですからね〜』と言い出したのだ。
ただななしがそう促す事自体は特段珍しい話では無い。
近藤のいる祇園に向かい"定期報告"を
彼女にも彼女の用事や仕事があると理解している沖田は、今回もいつもの通り何か事情があるのだろうとななしに対して「おう、分かったでぇ」とそう返事をしたのだ。
『じゃぁ、夜に会いましょうね』といつもよりニコニコとしたななしは仕事を終え足早に部屋を出ていく。
沖田は快く送り出すが、その時はまだななしがヤケに楽しそうにしていることには気づいていなかった。
それからしばらくして、ななしが居ないのなら今日は永倉や井上と飲みにでも行こうかとゆっくりと体を起こした沖田。
彼らを探しに部屋を出てのんびり歩いていると、向かい側から藤堂がやって来る。
別に用事は無いので挨拶をして通り過ぎようとした沖田だったが、何故か「あ、沖田さん」と藤堂に呼び止められてしまったのだ。
「どないしてん?」
「えーっと、今日はななしさんと一緒じゃ無い系です?」
「アイツ今日は用事あるらしいで。なんかあったんか?」
「用事っすか…」
「?」
「沖田さんも用事の内容って知らないんすよね?」
「まぁ、せやな」
「あちゃー、んじゃ、これ言わな方が良かったかも」
「あ?どういう意味や平助」
「え、あー…やっぱ気にしないでくださいっす。見間違いかもだし」
「…平助…はよ言わんかい」
「…いやぁ〜。俺つい今屯所に帰ってきたんすけど…ちょうど関所前でななしさん見たんすよね」
「ほう、で?」
「てっきり沖田さんと一緒かと思ったら…齋藤さんと一緒だったんすよねぇ。えらく楽しそうに洛外の方へ向かってったんで何かいい事でもあったのかなぁって…」
「あ?どういうことやねん。
「まぁ、珍しい組み合わせんなんで見間違いの可能性もあるっすけど」
呼び止めた藤堂によると四条通の関所前を齋藤とななしが二人で歩いていたとの事。
齋藤とはつい最近新撰組に入隊し、その腕前から三番隊隊長に就任した人物だ。
口数は少ないが精悍な顔つきの齋藤はモテる。
現に新撰組はそれだけで嫌われてしまうというのに、齋藤は京の町の人に"齋藤さん"、"一さん"と呼ばれて慕われている位だ。
そんな齋藤が何故か沖田の
そうしてななしがヤケに楽しそうにしていた理由も何となく想像できてしまい、屯所の廊下で頭に血が上ってしまった沖田。
そこからは齋藤に対して、そして齋藤と出かけたななしに対して酷く腹が立ち、永倉や井上との飲み会どころではなくなってしまったのだ。
憤りを感じながらも戻ってきたななしに直ぐに話を聞けるように、沖田は速急に家に帰り、今に至る。
随分と長い間待っているがなかなかななしは帰って来ない。
今この瞬間も彼女は齋藤と過ごしているのかと思うとそれだけで沖田の心の中にはドス黒い嫉妬と怒りが込み上げてくる。
なにも疚しい事が無いならわざわざ"用事がある"という言い方はしないんじゃないか。
齋藤と出かけるということを敢えて言わなかった理由はなんだというのか。
出かける間際、どうしてあんなにも楽しそうにしていたのか。
ななしが簡単に"裏切る"ことなどありはしないと感じる反面、彼女の行動を思い返してみると全てを信用出来ないのも事実であった。
一人待っている時間が長ければ長いほど、沖田の頭の中には嫌なことばかりが思い起こされる。
「はよ帰ってこんかい、アホっ」
吐き出された呟きはやはり静寂の中で小さく響くだけであった。
*********
それから何度目かのため息をついた頃。
玄関で一人待っている沖田の耳に小さな物音が聞こえてきたのだ。
ようやくななしが帰ってきたのであろう。
沖田は玄関の扉が開く前に自分の手で勢いよく開き、「ななし!」と声を荒げた。
するとそこには案の定ななしがおり『わっ!?そ、総司さん!?』と、驚いたように目を剥き飛び退いていた。
今の今まで誰とどこにいたのか。
冷静に問いただしてやろう、そう思っていた沖田だったが。
ななしを目の前にした途端、再び色々な感情が一気に湧き上がりとても冷静でいることなどできなかったのだ。
嫉妬と怒りが大きな舌打ちとなって口から飛び出すと強引にななしの白く細い腕を鷲掴み、力任せに彼女を壁に押し付けていた。
己のすぐ傍で苦しげに息を吐き痛みに眉根を寄せるななし。
だが沖田の怒りはそれだけでは収まりそうにない。
『そ、総司さん?い、痛いですっ』
「…痛いやないやろ…お前今までどこで何しとったんや」
『ふ、伏見まで行ってました…ちゃんと伝えるべきでしたね』
「で?誰とおったんや?あ?」
『さ、齋藤さんと…いました』
「ほう…ホンマに一ちゃんとおったんか…」
『でも齋藤さんだけじゃなくて…遥ちゃんって言う子も…んっ!?』
藤堂が見間違いかもしれないとそう言ったため、もしかしたらななしは齋藤と一緒にいた訳では無いのかもしれない。
そうあればいいと願っていた沖田だったが、ななしの口からはっきりと『齋藤さんといました』と聞いてしいまい、全ては事実になってしまった。
その瞬間カッと頭に血が登り、真っ白になってしまった沖田は目の前にいるななしの唇をまるで食むように強引に奪っていた。
『んっ。まっへ…っ!んぅ!』
いきなり唇を奪われ息が続かなかったのか、すぐにななしは苦しそうに悶えた。
しかし沖田は
ななしが誰のものであるか、今一度分からせるように激しく、淫らに、強引に…、唇を貪った。
「はっ、ななし、ワシ以外の男に懐くなんぞ許さへん」
『はぁ…ん、まっ、待って下さい総司さんっ』
「待たん。お前はこの先も永遠にワシのもんやろ!新撰組もなにも関係あらへん、今日からこの家に閉じ込めたるわ」
『私は物じゃないですっ…総司さん、話をっ!』
「うっさいわ。こっち来ぃや!」
『待って!総司さん……五郎さん!!』
「…っ」
『分かりましたから…話を聞いてください…』
「ななし…」
ななしの悲痛な叫びを耳にした沖田はようやく暴走を止めて、強引に鷲掴みにしていた手を離した。
離した細い腕にはくっきりと痕ができておりとても痛々しい。
肩で息をするななしを前に沖田は一度冷静になろうと、小さく深呼吸をする。
彼女や齋藤に対する怒りが消えてなくなった訳では無いが、話を聞かずに一方的に腹を立てていてはそこら辺にいる子供と大差ない。
まずはお互い腹の中を吐き出そう、沖田はそう決め俯くななしの痛々しい腕を今度は優しく掴み家の中にへと入った。
無言のまま土間へ行き二人はゆっくりと腰を下ろす。
「…ななし…」
『総司さん…もしかして怒ってます?』
「せやな。ワシは怒っとる。ななしが黙って一ちゃんと出かけとったことに腹たってしゃあない。お前はワシの
『…す、すみません……本当に軽率でした…。この先もずっと総司さんの
「ほな、なんで一ちゃんと二人きりで出かけとったんや?逢瀬やないんか?」
『そ、そんな訳ないじゃないですか!確かに齋藤さんと二人で出かけましたけど!一緒だったのは道中だけです!私のお目当ては犬です!!』
「あ?犬ぅ?」
『……齋藤さんから捨て犬を飼い始めたって聞いたので見てみたくて…』
「………」
『それに飼っているのは斉藤さんの知り合いの遥ちゃんって言う女の子なんです。彼女のお家に行った後は二人きりじゃなくて三人だったんですよ。ご飯もそこで頂きました』
「お前…あんなに楽しそうにしとったんも犬見たかったからなんか?」
『…そ、そうです…。まだ子犬って聞いて楽しみで仕方がなかったんです』
「ほな、逢瀬やなかったんか?」
『ち、違うって言ってるじゃないですか!確かに黙って齋藤さんと二人で出かけたのは悪かったと思ってますけど…私は総司さんがいながら逢瀬に行くような女じゃないです!!』
事の真相を聞き終えた沖田は目の前でプンプンと怒っているななしを見ながら、頭の中を整理させた。
藤堂が四条通の関所前で見かけたななしと齋藤は、遥と言う少女の家に向かうために歩いただけで、最終的な目的は逢瀬や浮気などではなく…捨て犬を見ること。
藤堂からの話を聞いて言えないような疚しい事があると決めつけたのは己で、本来憤るべきは疑われてしまったななしの方であるのに。
ありもしない事実に嫉妬と怒りで暴走し、ななしを傷つけてしまった己が急に恥ずかしくなった沖田は小さな声で「すまん」と呟いた。
彼女が疚しい事など僅かばかりもないと言い切った事への後ろめたさと、罪悪感が尋常ではない。
『いいえ、誤解が解けたならそれでいいですよ。もう怒ってませんか?』
「怒っとらん…せやけど次から二人で出かける時はちゃんと言うてや。いらん事でお前を傷つけてもうたらなにしとるか分からん」
『ふふふ、はい。分かりました。約束しましょう!』
「おう」
『次は一緒に見に行きましょうね?わんちゃんとても可愛かったですよ?』
「…そのうちな」
ななしも既に怒ってはいないのかニコニコと笑いながら犬が如何に可愛かったかを語っている。
次は一緒に行こうと言ってくれるが、もし本当に犬をななしと自分と齋藤とで見に行った時。
『可愛い可愛い』と犬ばかりを構っているななしを見てしまったら、今度は齋藤ではなく動物相手に嫉妬してしまうのではないかと、沖田は気が気でなかった。
「…手ぇ痛ないか?」
『痛くないですよ。大丈夫です』
「お前はホンマに健気なやっちゃで」
『えぇ?そうですか?』
こんな狭量な自分に執着されて可哀想なななし。
…でももう何があっても手放してなんてやれない。
沖田はななしの手を擦りながらも人知れずそんなことを思うのだった。
(あ、そういえば齋藤さんは私が女だって知らないでしょう?彼が衆道でない限り浮気したり逢瀬したりなんてありえないんですからね??)
(あ?男色やったらどないすんねん)
(まさかねぇ?…そんな人は武田さんだけで十分ですよぅ…)
(…お前武田にも目ぇ付けられとるしのぉ)
(嫌なこと言わないでくださいよ!)
(……やっぱし家に閉じ込めとくべきかもしれへん!)
(もう、冗談に聞こえないですって!)
(冗談やあらへん)
(えっ!?)
続く予定!
最後雑になりましたすみません…。
嫉妬しいな沖田さん。随分と心が狭いですがななしちゃんにしたらそれが心地よかったりもする。
結果的にお似合いカップル。