○○しないと出られない
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(維新極/沖田/恋人/土方)
*口吸いするところを見てもらわないと出られない部屋
*「私の帰る場所」シリーズの設定です
「ななし、ななし起きんかい」
『んぅ…ん』
肩を大きく揺すられる感覚にななしはゆっくりと瞳を開いた。
未だに白む視界の端には肩を揺らしたであろう沖田と、呆れたように眉を顰めている土方が映る。
この二人の組み合わせはほどほどに珍しいなと思いながら、ななしは未だにぼんやりとしたままゆっくりと体を起こした。
存外近くいた沖田に「怪我は無いか?」とたいそう心配されたが起こした体に痛む部分もなく。
眠り眼のまま大丈夫だと頷いて見せれば、沖田はどこかホッとしたように脱力していた。
『えーと…すみません。なにがあったんでしたっけ。眠ってしまった前後の記憶が曖昧で…』
「それがワシにも歳ちゃんにもよぉ分からんのや」
「気づいたらここにいた、それ以外に表現のしようがない」
『な、なるほど…?』
体を起こしたことで先程よりも随分と頭が冴えてきたななしは、ここは一体どこなのだろうと辺りをキョロキョロと見渡した。
眠る前の記憶は無いが今いるこの場所がどこかさえ分かれば何か思い出せるかもしれないと部屋の中を見渡してみるがどうにも見覚えも思い当たる節はなく。
結局ここがどこであるか、眠る前何をしていたのか、何一つ思い出すことが出来ずななしはムムムっと唸るしか無かった。
『少しおかしいですね。三人とも何も分からないなんて』
「おかしいってもんやないで。ここは異常や。出入口もなければ格子窓もなんもない。まるで牢ん中や」
『た、確かに…なにも無いですね』
「君が呑気に眠っている間、総司と一通り見て回ったが、地下へ行けそうな道も扉もない。完全に閉じ込められている状態と見ていいだろう」
寝ている間をやけに強調する土方に、『すみませぇん』と小さく謝るとななしはそそくさと沖田の背中へと隠れた。
端正な顔立ちで町の女性からは密かに人気のある土方だが、怒らせるととことん怖い。今も氷のように冷たい笑みを浮かべておりななしはガクガクと震えるばかりだ。
勿論何も知らずに呑気に寝ていた自分に非があり土方が怒るのも無理は無いのだが、あまりにチクチク咎めるような視線を此方に向けてくるのでとても居た堪れない。
しかし土方の言う閉じ込められているとは一体どういう事なのだろうか。
新撰組随一の剣豪である沖田と鬼の副長と呼ばれ恐れられている土方が居ながら誰かに攫われ閉じ込められるとは到底思えない。
勤王志士や不逞浪士など新撰組を敵としている輩も少なくは無いが、やはり二人が簡単に捕まるとは思えず…ななしは沖田の大きな背の後ろで頭を悩ませた。
「ななし、何を隠れとんねん」
『え?べ、別に隠れてません。総司さんの背中の後ろで考え事をしているだけです!』
「ほうか、ほなそういう事にしといたるわ」
『はい、お願いします!』
「ななしがどんな状況だろうと眠れる神経の図太い奴だと言うことは重々承知している。今更そんな事で腹を立てたりはしない」
『今図太いって言いました??』
「事実だろう」
「それに関してはあんまり否定できひんわ」
『二人とも…酷い…』
「安心せぇ。ワシは褒めとる」
『嘘だ…』
「あ?嘘やない。そんくらい図太いさけ屯所で生活できとるんや。ななしにしか出来ひん」
『そ、総司さんっ…褒めてくれてたんですね…!』
「おい、いつまでそうやっているつもりだ。話を戻すぞ」
『……ひぇ…ど、どうぞ』
「ヒヒッ!」
「一通り見て回っている間に妙なものを見つけた」
土方は驚き肩を竦めたななしを完全に無視し、徐ろに懐に手をいれ何かを取り出した。
取り出されたものは四つ折りにされた半紙で、土方は傍にあった文机にポンと放り投げたのだ。
沖田は土方と一緒に部屋内を探索していたのか、取り出された半紙にはこれといって大きな反応はしておらず。なんだこれと首を傾げているななしに「開いて読んでみ」と、半紙を指さし中を覗くように促した。
ななしは言われた通りに半紙を手に取り開くとそこにはやたら整った字で"口吸いしているところを見てもらわないと出られない部屋"と記されていたのだ。
『な、なんですかこれ?』
「さぁな。せやけど手がかりになりそうなもんはこれくらいしか出てこんだんや」
『そうなんですね』
もう一度半紙を見るが書いてある文字は変わらずだ。
どんな事がきっかけで閉じ込められたかも分からず、疑問ばかりがななしの頭を埋めつくしていたのだが。
土方が取り出したこの半紙はそれ以上に全てが疑問と謎に包まれていて。
どうして閉じ込められて尚、誰かに口吸いしているところを見せなければならないのか。
それにどうして口吸いをすると出られるのか。
『う〜ん』
───…なんの目的があって?この行動で犯人は何を得られる?理由は?私達である意味は?
今おこっている全ての出来事があまりにも理解出来ず、ななしは顎に手を当てながら深深と考えに耽ってしまった。
どんなに考えようが納得のいく答えを導き出すことが出来ず、悶々とするしかない。
『うーん』と唸りながら一人熟考していると、不意に土方が大きく咳払いをし続けて「埒が明かない」と、部屋に響き渡るように大きくそう言う。
ななしや沖田も勿論そう思っているが、出られないのだから仕方がないとだんだんとイラついて来たのだろう土方を一瞥した。
「出られる可能性が僅かでもあるかもしれない。今すぐ君達で書かれている通り行動してくれ」
『えぁ!?な、なに言ってるんですか!こんなこと実践するのは些か早計過ぎます!何が起こるか分からないのに!もっと色々考えたほうがっ…!』
「ではななし。君は私にここで無駄な時間を過ごせと言いたいのかね?」
『そ、そうとは言ってませんけど…もし油断した所に浪士達が現れたらどう対処するんですか?罠の可能性も大いにあります』
「ま、ワシと歳ちゃんがおれば大抵の輩はどうにか出来るやろ。それに奴さんから出てきてくれるんやったら好都合やないか!」
『な、なんで乗り気なんですか!口吸いしなきゃなんですよ!?』
「生娘でもあるまいし、ちょーと唇合わせたら終いやんけ」
『きっ!?』
「総司の言う通りだ。私の事は壁とでも思って早急に実行してくれ」
『……』
ななしと沖田は所謂恋仲であり、口吸いは日常茶飯事であるのは事実だ。
しかしそれは二人きりで過ごしている時間の中で行うもので、ましてや上司の前で見せびらかすように行うものでは無い。
それに半紙に書かれいる一文だって、敵が仕掛けた罠の可能性もある。
三人の気が緩んだ瞬間に大勢で斬りかかられでもしたら、応戦することも無く簡単に殺されてしまうかもしれないというのに。
この空間から出られる手がかりが半紙だけだからと言って、何も考えずにその通り行動をするなんてとてもじゃないが新選組であるななしには考えられなかった。
「早くしたまえ」と腕組みをしたままキツくこちらを見つめてくる土方にななしは『もう少し考えましょう!』と、首をフルフルと横に振った。
「敵前の可能性も否めない空間で寝入っていた君が何を言うのかね」
『うっ、』
「そもそも敵がいたとすれば寝ている間に殺されているだろう」
「ま、どうにもワシら以外の気配はせんけどな。ハナから敵なんておらんのかもしれん」
『じゃあ、ここはどこだって言うんですか?』
「狐に化かされたんやないか?屯所は森の近くやしな」
『えぇ…そんなことあります?』
「現に説明できない事が起きているんだ。人ならざるものの仕業でも可笑しくはない」
『……怖いんですけど』
「では、早急に口吸いしろ」
『……』
「ななし、恥ずかしいんやったら目ぇ閉じとけばええやんけ!」
『………総司さんと土方さんが口吸いすればいいんじゃないですか?』
「あぁ!?」
「どういう意味だ」
『だってこの半紙には誰が誰と、とは書かれていないし。見る人の指名もないじゃないですか?ですから私が見ているのでお二人でパパっと済ませてください』
もしも半紙に沖田とななしが口吸いをして、土方に見てもらわないといけないと書かれていたとしたなら、その通りにする必要があったかもしれない。
しかし今は指定されておらずななしの言うように、口吸いをする組み合わせは自由なのだろう。
人前でそういった行為を絶対にしたくはないななしは名案だ!とばかりに強要してくる土方に言い返し、したり顔で鼻を鳴らした。
どうだ、言い返せないだろうと沖田の背からとくいげに土方を盗み見る。
「…なるほど、そういう理屈なら…」
『ひ、ひえ!?土方さん!?』
「あ"ぁ"!?なにしとんねん!!」
土方はおもむろに沖田の側まで歩み寄ると、背中に隠れていたななしの細い腕を引っ張ったのだ。
それだけなら良かったのだが、よろめいたななしの腰を抱き引き寄せさらには上を向かせるように顎を掬い上げる。
まるで恋仲のような距離感まで顔を寄せられななしは驚きと焦りで大きく目を見開いてしまった。
「私が君に口吸いしても構わないな?」
端正な顔で目を細めて笑った土方。
町中でこんな風に笑いかけられでもしたらきっとどんな女性でも彼に恋をするに違いない。
かく言う沖田という恋仲のいるななしでも胸がドキリと高鳴るほど綺麗な笑顔に、意図せず顔を真っ赤に染め上げてしまった。
「アカンに決まっとるやろがい!」
至近距離で見つめ合う土方とななしに割って入ったのはこめかみに青筋を浮かべた沖田だ。
ななしの顎を持ち上げている土方の腕を指先が白くなるまで力強く掴むと、沖田は強引に引き下ろした。
「副長やろうがワシのもんに手ぇ出すんやったら許さへんで」と鬼も逃げ出すような恐ろしい顔付きで土方からななしを引き剥がし、威嚇するように大きな舌打ちを放った。
「それは失敬。かなり嫌がっていたように見えたんで手を貸してやろうと思った迄だ」
「嫌がるぅ?ななしが嫌がっとんのはアンタに見られることで、口吸いやない。勘違いすな」
「勘違い?では今すぐに証明してくれたまえ。勘違いだと言うのなら簡単だろう?」
「当たり前やないか!ななし、こっち向け!」
『えっ、はい!』
「口吸いすんで!!」
『え!?』
「ワシだけ見とればええ。他は南瓜や!」
『か、南瓜って…そんな無茶な…!』
一触即発状態の沖田と土方だが、どうにも嗾けられているような気がしてならないななし。
沖田を怒りでその気させ、さっさと口吸いさせようという魂胆なのだろう。
きっと抱きしめられたところから沖田が怒るまで全ては土方の謀で、沖田はそれにまんまと引っかかってしまったというわけだ。
悔しいが一枚も二枚も上手な土方によりななしは口吸いから逃げることは出来ないらしい。
沖田にがっしりと体を包むように抱きしめられ、ななしは身動きひとつ出来なかった。
『あ、あのっ、ほ、本気?』
「あぁ?本気 や」
『ちょっ、待ってくださっ…んぅ!』
徐々に近づいてくる隻眼の中にたいそう焦り、あわあわと身悶えしている自分が見えた。
──…あぁ、もっと抵抗しなきゃ…そう思ったのもつかの間。すぐ傍にあった沖田の唇は声を発するために開かれたななしの口を容易く覆ったのだ。
『んんぅ!』
沖田の熱く柔らかい唇がななしの唇に触れ蠢く。
それだけで終われば良かったのだが、焚き付けられ怒っていた沖田はさらに深く口付けを交わす為に薄ら開いたななしの口内に舌を滑り込ませた。
無理やりこじ開けるようにして押し入ってくる舌で余すことなく口内を舐め尽くされ鼻の奥から息と共に自分のものとは思えないような上擦った甘ったるい声が出てしまう。
上顎のザラついた部分や舌の付け根を探るようにを責め立てられると、ななしの背筋を言い知れぬ快感が駆け巡った。
『んぅっ、まっ、へぇ…』
段々と息が苦しくなって来、そろそろ唇を離してと沖田に懇願するために薄ら瞳を開くと、口吸いをするすぐ横に腕組みをしたまま表情ひとつ崩さぬ土方がいたのだ。
思っていたよりもとても近くで瞬きをすることも無く凝視している土方の存在に、羞恥心と同時に涙がじわりと溢れてくる。
『やっ…ん、んんぅ』
見られている、こんなに間近で、総司さんとの口吸いを。
上司であり新撰組の副長である土方に。
混乱と羞恥、罪悪感や、背徳感。それに口吸いの淡い快感。酸欠状態でぼんやりする頭。
色々な感情や感覚が心の中で一気にせめぎあい、口吸いの激しさも相まって段々と意識が白むななし。
いよいよこれは夢なんじゃないだろうかと、そう思えて来るほどだ。
夢であれば色々と説明がつく、こんな場所に閉じ込められたのだって、口吸いを土方に見られているのだって、こんなに気持ちがいいのだって。
今この瞬間が夢であるからだ。
『んぅ…はぁ…』
「はっ、ななし…」
ぼんやりとしてくる意識の中でようやく長く激しい口吸いは終わった。
舌が引き抜かれ唇が離れた頃にはななしは腰砕け状態で、微睡む意識と淡い快感に立つこともままならなくなっていた。
「終わったで、歳ちゃん。満足か?」
「…全く…そこまでする必要があるのかね」
「うっさいわ。口吸いしろ言われてしたんや、文句言われる筋合いは無いで」
「…まぁいい。これでどうにか屯所に帰る事ができるだろう」
「ななし、大丈夫か?」
『ん、だいじょぶです…出口は?』
「……さっきまで無かった襖が出てきとる」
『…な、なんて面妖な…』
「歳ちゃん、開いてみぃ」
「……」
ぼんやりとしながら二人の会話を聞いているとどうやら、壁に襖が出てきたらしい。
壁だったはずの場所にだ、やはりこれは夢なんだ。夢の中で微睡んでくるというのもおかしなものだが、現実では無いのだからなんでもありなのだろう。
目が覚めた時きっと沖田の部屋の文机で目が覚めるに違いない。
ななしはこの不思議な空間、沖田の腕の中でゆっくりと瞳を閉じた。
そんなななしを後目に土方は現れた襖をゆっくりと開いた。
なにが出てきてもいいように刀に手を添えた状態で。
しかし開いた先に見えたのは新撰組の屯所にある副長室であったのだ。
あまりにも現実離れした出来事に言葉を失いつつも、土方はようやく戻れると躊躇うことなく襖を跨ぎ副長室に足を踏み入れた。
「ホンマに狐に化かされたかもな」
「…ありえない…」
「ま、帰れるんやったらそれでええわ」
「総司。君はまだここにいたまえ」
「あぁ?なんでやねん」
「今のななしが屯所に来てみろ。飢えた獣ばかりの檻に野うさぎを放つようなものだ。もう少し落ち着いてから戻りたまえ」
「…ほな、歳ちゃんはさっさと戻れや」
「あぁ、そうさせてもらう」
「せや…次ななしに触ったらホンマに斬るで」
「フッ、どうだろうな」
「あ!?どういう意味やねん!」
沖田の威圧に意味深に笑った後、土方はそそくさと副長室に戻ると襖をパタリと閉めた。
残された沖田はすよすよと寝息を立てているななしを抱えながら、「はぁぁ」とそれはもう深いため息をつきその場に座り込んだ。
いろいろ起きてまだ上手く処理できていない沖田だが、なによりも土方がななしに触れた事が面白くなくて。
この空間にいること自体摩訶不思議だが、そんなことはどうでも良く。今後新撰組で生きていく中で、もう二度と土方には触れさせないようにしないとな、と一人決心していた。
「呑気に寝おって、この人たらしが」
沖田は眠るななしの鼻をひっ摘む。
苦しそうに眉を潜めたななしにざまぁみろと笑った後、その小さなおでこに唇を寄せた。
(おはよーございますー)
(お前どんだけ寝とんねん)
(聞いてください、変な夢みたんです…)
(…夢…ほうか)
(私と総司さんが土方さんの前で口吸いしなきゃいけないっていう変わった夢でした)
(そんなこと歳ちゃんに言うたらダメやで。というか今後歳ちゃんに近づいたらアカンで)
(え?)
Atgk
維新でも出られないシリーズ。ちょっと走り書き、すみません。
色々増えていく予定です。
*口吸いするところを見てもらわないと出られない部屋
*「私の帰る場所」シリーズの設定です
「ななし、ななし起きんかい」
『んぅ…ん』
肩を大きく揺すられる感覚にななしはゆっくりと瞳を開いた。
未だに白む視界の端には肩を揺らしたであろう沖田と、呆れたように眉を顰めている土方が映る。
この二人の組み合わせはほどほどに珍しいなと思いながら、ななしは未だにぼんやりとしたままゆっくりと体を起こした。
存外近くいた沖田に「怪我は無いか?」とたいそう心配されたが起こした体に痛む部分もなく。
眠り眼のまま大丈夫だと頷いて見せれば、沖田はどこかホッとしたように脱力していた。
『えーと…すみません。なにがあったんでしたっけ。眠ってしまった前後の記憶が曖昧で…』
「それがワシにも歳ちゃんにもよぉ分からんのや」
「気づいたらここにいた、それ以外に表現のしようがない」
『な、なるほど…?』
体を起こしたことで先程よりも随分と頭が冴えてきたななしは、ここは一体どこなのだろうと辺りをキョロキョロと見渡した。
眠る前の記憶は無いが今いるこの場所がどこかさえ分かれば何か思い出せるかもしれないと部屋の中を見渡してみるがどうにも見覚えも思い当たる節はなく。
結局ここがどこであるか、眠る前何をしていたのか、何一つ思い出すことが出来ずななしはムムムっと唸るしか無かった。
『少しおかしいですね。三人とも何も分からないなんて』
「おかしいってもんやないで。ここは異常や。出入口もなければ格子窓もなんもない。まるで牢ん中や」
『た、確かに…なにも無いですね』
「君が呑気に眠っている間、総司と一通り見て回ったが、地下へ行けそうな道も扉もない。完全に閉じ込められている状態と見ていいだろう」
寝ている間をやけに強調する土方に、『すみませぇん』と小さく謝るとななしはそそくさと沖田の背中へと隠れた。
端正な顔立ちで町の女性からは密かに人気のある土方だが、怒らせるととことん怖い。今も氷のように冷たい笑みを浮かべておりななしはガクガクと震えるばかりだ。
勿論何も知らずに呑気に寝ていた自分に非があり土方が怒るのも無理は無いのだが、あまりにチクチク咎めるような視線を此方に向けてくるのでとても居た堪れない。
しかし土方の言う閉じ込められているとは一体どういう事なのだろうか。
新撰組随一の剣豪である沖田と鬼の副長と呼ばれ恐れられている土方が居ながら誰かに攫われ閉じ込められるとは到底思えない。
勤王志士や不逞浪士など新撰組を敵としている輩も少なくは無いが、やはり二人が簡単に捕まるとは思えず…ななしは沖田の大きな背の後ろで頭を悩ませた。
「ななし、何を隠れとんねん」
『え?べ、別に隠れてません。総司さんの背中の後ろで考え事をしているだけです!』
「ほうか、ほなそういう事にしといたるわ」
『はい、お願いします!』
「ななしがどんな状況だろうと眠れる神経の図太い奴だと言うことは重々承知している。今更そんな事で腹を立てたりはしない」
『今図太いって言いました??』
「事実だろう」
「それに関してはあんまり否定できひんわ」
『二人とも…酷い…』
「安心せぇ。ワシは褒めとる」
『嘘だ…』
「あ?嘘やない。そんくらい図太いさけ屯所で生活できとるんや。ななしにしか出来ひん」
『そ、総司さんっ…褒めてくれてたんですね…!』
「おい、いつまでそうやっているつもりだ。話を戻すぞ」
『……ひぇ…ど、どうぞ』
「ヒヒッ!」
「一通り見て回っている間に妙なものを見つけた」
土方は驚き肩を竦めたななしを完全に無視し、徐ろに懐に手をいれ何かを取り出した。
取り出されたものは四つ折りにされた半紙で、土方は傍にあった文机にポンと放り投げたのだ。
沖田は土方と一緒に部屋内を探索していたのか、取り出された半紙にはこれといって大きな反応はしておらず。なんだこれと首を傾げているななしに「開いて読んでみ」と、半紙を指さし中を覗くように促した。
ななしは言われた通りに半紙を手に取り開くとそこにはやたら整った字で"口吸いしているところを見てもらわないと出られない部屋"と記されていたのだ。
『な、なんですかこれ?』
「さぁな。せやけど手がかりになりそうなもんはこれくらいしか出てこんだんや」
『そうなんですね』
もう一度半紙を見るが書いてある文字は変わらずだ。
どんな事がきっかけで閉じ込められたかも分からず、疑問ばかりがななしの頭を埋めつくしていたのだが。
土方が取り出したこの半紙はそれ以上に全てが疑問と謎に包まれていて。
どうして閉じ込められて尚、誰かに口吸いしているところを見せなければならないのか。
それにどうして口吸いをすると出られるのか。
『う〜ん』
───…なんの目的があって?この行動で犯人は何を得られる?理由は?私達である意味は?
今おこっている全ての出来事があまりにも理解出来ず、ななしは顎に手を当てながら深深と考えに耽ってしまった。
どんなに考えようが納得のいく答えを導き出すことが出来ず、悶々とするしかない。
『うーん』と唸りながら一人熟考していると、不意に土方が大きく咳払いをし続けて「埒が明かない」と、部屋に響き渡るように大きくそう言う。
ななしや沖田も勿論そう思っているが、出られないのだから仕方がないとだんだんとイラついて来たのだろう土方を一瞥した。
「出られる可能性が僅かでもあるかもしれない。今すぐ君達で書かれている通り行動してくれ」
『えぁ!?な、なに言ってるんですか!こんなこと実践するのは些か早計過ぎます!何が起こるか分からないのに!もっと色々考えたほうがっ…!』
「ではななし。君は私にここで無駄な時間を過ごせと言いたいのかね?」
『そ、そうとは言ってませんけど…もし油断した所に浪士達が現れたらどう対処するんですか?罠の可能性も大いにあります』
「ま、ワシと歳ちゃんがおれば大抵の輩はどうにか出来るやろ。それに奴さんから出てきてくれるんやったら好都合やないか!」
『な、なんで乗り気なんですか!口吸いしなきゃなんですよ!?』
「生娘でもあるまいし、ちょーと唇合わせたら終いやんけ」
『きっ!?』
「総司の言う通りだ。私の事は壁とでも思って早急に実行してくれ」
『……』
ななしと沖田は所謂恋仲であり、口吸いは日常茶飯事であるのは事実だ。
しかしそれは二人きりで過ごしている時間の中で行うもので、ましてや上司の前で見せびらかすように行うものでは無い。
それに半紙に書かれいる一文だって、敵が仕掛けた罠の可能性もある。
三人の気が緩んだ瞬間に大勢で斬りかかられでもしたら、応戦することも無く簡単に殺されてしまうかもしれないというのに。
この空間から出られる手がかりが半紙だけだからと言って、何も考えずにその通り行動をするなんてとてもじゃないが新選組であるななしには考えられなかった。
「早くしたまえ」と腕組みをしたままキツくこちらを見つめてくる土方にななしは『もう少し考えましょう!』と、首をフルフルと横に振った。
「敵前の可能性も否めない空間で寝入っていた君が何を言うのかね」
『うっ、』
「そもそも敵がいたとすれば寝ている間に殺されているだろう」
「ま、どうにもワシら以外の気配はせんけどな。ハナから敵なんておらんのかもしれん」
『じゃあ、ここはどこだって言うんですか?』
「狐に化かされたんやないか?屯所は森の近くやしな」
『えぇ…そんなことあります?』
「現に説明できない事が起きているんだ。人ならざるものの仕業でも可笑しくはない」
『……怖いんですけど』
「では、早急に口吸いしろ」
『……』
「ななし、恥ずかしいんやったら目ぇ閉じとけばええやんけ!」
『………総司さんと土方さんが口吸いすればいいんじゃないですか?』
「あぁ!?」
「どういう意味だ」
『だってこの半紙には誰が誰と、とは書かれていないし。見る人の指名もないじゃないですか?ですから私が見ているのでお二人でパパっと済ませてください』
もしも半紙に沖田とななしが口吸いをして、土方に見てもらわないといけないと書かれていたとしたなら、その通りにする必要があったかもしれない。
しかし今は指定されておらずななしの言うように、口吸いをする組み合わせは自由なのだろう。
人前でそういった行為を絶対にしたくはないななしは名案だ!とばかりに強要してくる土方に言い返し、したり顔で鼻を鳴らした。
どうだ、言い返せないだろうと沖田の背からとくいげに土方を盗み見る。
「…なるほど、そういう理屈なら…」
『ひ、ひえ!?土方さん!?』
「あ"ぁ"!?なにしとんねん!!」
土方はおもむろに沖田の側まで歩み寄ると、背中に隠れていたななしの細い腕を引っ張ったのだ。
それだけなら良かったのだが、よろめいたななしの腰を抱き引き寄せさらには上を向かせるように顎を掬い上げる。
まるで恋仲のような距離感まで顔を寄せられななしは驚きと焦りで大きく目を見開いてしまった。
「私が君に口吸いしても構わないな?」
端正な顔で目を細めて笑った土方。
町中でこんな風に笑いかけられでもしたらきっとどんな女性でも彼に恋をするに違いない。
かく言う沖田という恋仲のいるななしでも胸がドキリと高鳴るほど綺麗な笑顔に、意図せず顔を真っ赤に染め上げてしまった。
「アカンに決まっとるやろがい!」
至近距離で見つめ合う土方とななしに割って入ったのはこめかみに青筋を浮かべた沖田だ。
ななしの顎を持ち上げている土方の腕を指先が白くなるまで力強く掴むと、沖田は強引に引き下ろした。
「副長やろうがワシのもんに手ぇ出すんやったら許さへんで」と鬼も逃げ出すような恐ろしい顔付きで土方からななしを引き剥がし、威嚇するように大きな舌打ちを放った。
「それは失敬。かなり嫌がっていたように見えたんで手を貸してやろうと思った迄だ」
「嫌がるぅ?ななしが嫌がっとんのはアンタに見られることで、口吸いやない。勘違いすな」
「勘違い?では今すぐに証明してくれたまえ。勘違いだと言うのなら簡単だろう?」
「当たり前やないか!ななし、こっち向け!」
『えっ、はい!』
「口吸いすんで!!」
『え!?』
「ワシだけ見とればええ。他は南瓜や!」
『か、南瓜って…そんな無茶な…!』
一触即発状態の沖田と土方だが、どうにも嗾けられているような気がしてならないななし。
沖田を怒りでその気させ、さっさと口吸いさせようという魂胆なのだろう。
きっと抱きしめられたところから沖田が怒るまで全ては土方の謀で、沖田はそれにまんまと引っかかってしまったというわけだ。
悔しいが一枚も二枚も上手な土方によりななしは口吸いから逃げることは出来ないらしい。
沖田にがっしりと体を包むように抱きしめられ、ななしは身動きひとつ出来なかった。
『あ、あのっ、ほ、本気?』
「あぁ?
『ちょっ、待ってくださっ…んぅ!』
徐々に近づいてくる隻眼の中にたいそう焦り、あわあわと身悶えしている自分が見えた。
──…あぁ、もっと抵抗しなきゃ…そう思ったのもつかの間。すぐ傍にあった沖田の唇は声を発するために開かれたななしの口を容易く覆ったのだ。
『んんぅ!』
沖田の熱く柔らかい唇がななしの唇に触れ蠢く。
それだけで終われば良かったのだが、焚き付けられ怒っていた沖田はさらに深く口付けを交わす為に薄ら開いたななしの口内に舌を滑り込ませた。
無理やりこじ開けるようにして押し入ってくる舌で余すことなく口内を舐め尽くされ鼻の奥から息と共に自分のものとは思えないような上擦った甘ったるい声が出てしまう。
上顎のザラついた部分や舌の付け根を探るようにを責め立てられると、ななしの背筋を言い知れぬ快感が駆け巡った。
『んぅっ、まっ、へぇ…』
段々と息が苦しくなって来、そろそろ唇を離してと沖田に懇願するために薄ら瞳を開くと、口吸いをするすぐ横に腕組みをしたまま表情ひとつ崩さぬ土方がいたのだ。
思っていたよりもとても近くで瞬きをすることも無く凝視している土方の存在に、羞恥心と同時に涙がじわりと溢れてくる。
『やっ…ん、んんぅ』
見られている、こんなに間近で、総司さんとの口吸いを。
上司であり新撰組の副長である土方に。
混乱と羞恥、罪悪感や、背徳感。それに口吸いの淡い快感。酸欠状態でぼんやりする頭。
色々な感情や感覚が心の中で一気にせめぎあい、口吸いの激しさも相まって段々と意識が白むななし。
いよいよこれは夢なんじゃないだろうかと、そう思えて来るほどだ。
夢であれば色々と説明がつく、こんな場所に閉じ込められたのだって、口吸いを土方に見られているのだって、こんなに気持ちがいいのだって。
今この瞬間が夢であるからだ。
『んぅ…はぁ…』
「はっ、ななし…」
ぼんやりとしてくる意識の中でようやく長く激しい口吸いは終わった。
舌が引き抜かれ唇が離れた頃にはななしは腰砕け状態で、微睡む意識と淡い快感に立つこともままならなくなっていた。
「終わったで、歳ちゃん。満足か?」
「…全く…そこまでする必要があるのかね」
「うっさいわ。口吸いしろ言われてしたんや、文句言われる筋合いは無いで」
「…まぁいい。これでどうにか屯所に帰る事ができるだろう」
「ななし、大丈夫か?」
『ん、だいじょぶです…出口は?』
「……さっきまで無かった襖が出てきとる」
『…な、なんて面妖な…』
「歳ちゃん、開いてみぃ」
「……」
ぼんやりとしながら二人の会話を聞いているとどうやら、壁に襖が出てきたらしい。
壁だったはずの場所にだ、やはりこれは夢なんだ。夢の中で微睡んでくるというのもおかしなものだが、現実では無いのだからなんでもありなのだろう。
目が覚めた時きっと沖田の部屋の文机で目が覚めるに違いない。
ななしはこの不思議な空間、沖田の腕の中でゆっくりと瞳を閉じた。
そんなななしを後目に土方は現れた襖をゆっくりと開いた。
なにが出てきてもいいように刀に手を添えた状態で。
しかし開いた先に見えたのは新撰組の屯所にある副長室であったのだ。
あまりにも現実離れした出来事に言葉を失いつつも、土方はようやく戻れると躊躇うことなく襖を跨ぎ副長室に足を踏み入れた。
「ホンマに狐に化かされたかもな」
「…ありえない…」
「ま、帰れるんやったらそれでええわ」
「総司。君はまだここにいたまえ」
「あぁ?なんでやねん」
「今のななしが屯所に来てみろ。飢えた獣ばかりの檻に野うさぎを放つようなものだ。もう少し落ち着いてから戻りたまえ」
「…ほな、歳ちゃんはさっさと戻れや」
「あぁ、そうさせてもらう」
「せや…次ななしに触ったらホンマに斬るで」
「フッ、どうだろうな」
「あ!?どういう意味やねん!」
沖田の威圧に意味深に笑った後、土方はそそくさと副長室に戻ると襖をパタリと閉めた。
残された沖田はすよすよと寝息を立てているななしを抱えながら、「はぁぁ」とそれはもう深いため息をつきその場に座り込んだ。
いろいろ起きてまだ上手く処理できていない沖田だが、なによりも土方がななしに触れた事が面白くなくて。
この空間にいること自体摩訶不思議だが、そんなことはどうでも良く。今後新撰組で生きていく中で、もう二度と土方には触れさせないようにしないとな、と一人決心していた。
「呑気に寝おって、この人たらしが」
沖田は眠るななしの鼻をひっ摘む。
苦しそうに眉を潜めたななしにざまぁみろと笑った後、その小さなおでこに唇を寄せた。
(おはよーございますー)
(お前どんだけ寝とんねん)
(聞いてください、変な夢みたんです…)
(…夢…ほうか)
(私と総司さんが土方さんの前で口吸いしなきゃいけないっていう変わった夢でした)
(そんなこと歳ちゃんに言うたらダメやで。というか今後歳ちゃんに近づいたらアカンで)
(え?)
Atgk
維新でも出られないシリーズ。ちょっと走り書き、すみません。
色々増えていく予定です。