小話集1
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(真島/恋人)
コンコンと小さく控えめなノック音が二回、真島組事務所の組長室に響いた。
革張りのソファに座りゾンビ物の映画を観ていた真島は聞こえてくるノック音に「おう、入れや」と返事をする。
そうすると『失礼しますー』と恋人であるななしが小さい声で呟きながら組長室に入って来、真島が座るソファに真っ直ぐやってくるのだ。
いつもななしが仕事を終えると、こうして真島組に顔を出しに来る。
そのまま夜飯を二人で食べに行く事もあれば、同じ家に帰宅しまったり過ごす事もある。
今日は朝の段階で外食に行くと言う約束をしていたため、このまま二人で事務所を後にする予定だ。
「お疲れさん、なに食べたいか決まっとんか?」
隣にちょこんと座ったななしの顔を覗き込みながら、真島はニシシと笑い労わるようにそう問いかけた。
『んー…』
「?」
しかし普段なら大喜びでここがいい!あそこがいい!と返事をするななしだが、今日は心ここに在らずと言った様子で。
真島の問に返事をする余裕が無いのか、そもそも聞いていないのか気のない返事をしたのだ。
二人で食べることが好きなななしが食に関してこんなにも無頓着なことなどほとんどない。
あまりにもいつもの調子と違い元気がないななしに違和感を覚えた真島は俯いている彼女の顎に手をあて、自身の方を向くように持ち上げた。
顔を上げたななしの大きな瞳と、真島の隻眼が見つめ合う形になる。
視線を絡めたまま「どないしてん」と、ななしに優しく問えば瞬間に大きな瞳に涙の膜が張ったのだ。
だんだんと溢れてきて零れそうになる涙、鼻先も徐々に赤くなり始めやはりななしの調子が良くないのだと、真島は顔を歪めた。
涙こそ流すことは無かったが、悲しそうな顔で鼻をすするななしの悲愴な姿に思わず力強く抱きしめてしまった真島。
後頭部を抑えて背中を摩ってやれば腕の中のいるななしが『ふふ、苦しい』と控えめに小さく笑う声が聞こえた。
「泣くほど嫌なことあったんか?ななし」
『……まぁ、少し』
「言うてみ」
『あ、あの、笑わないですか?』
「アホ、笑うわけないやろ」
『…ふふ、うん、そうだよね。吾朗さんは優しいから…』
「ほな、説明せぇ」
『うん、さっきね…』
鼻を啜りながらポツリポツリと話し出したななし。真島は背を摩ってやりながら、小さく話し出したななしの声に耳を傾けた。
『ポッポに寄って来たんですよ』
「おう」
『そしたら新作スイーツが発売って、ポップにそう書いてあったんで、アタシと吾朗さんの分買おうかぁってスイーツコーナー行ったんです』
「新作スイーツ…」
『旬のメロンをふんだんに使ったホイップケーキです。でもアタシが見に行った時にはもうひとつしかなくてですね…吾朗さんと半分こして食べようってケーキを掴んだんです。ここ重要です!ちゃんと掴んだんです!』
「ななしが掴んだんやな」
『そう、アタシしっかりがっちり掴んだんです。でも掴んでたケーキを横から来たカップルが強引に奪っていったんですよ…』
「あぁ?なんやねんそいつら」
『びっくりしちゃって…でも流石に"人の手から強引に奪わないで下さい"って注意したんです』
「そんな奴らぶん殴ったれ」
『流石に殴れないですけど…多分アタシに文句言われて怒ったんでしょうね彼女さん。"必死すぎてキモいから"ってめっちゃ睨まれたんです。ケーキを返してって言ったわけじゃないのに逆に二人からめちゃくちゃ怒られちゃって…。メンタル死んでました』
「胸糞悪い奴らやのぉ…」
新作スイーツにつられるななしが可愛らしいと思いつつ、そんな彼女にひどい仕打ちをした輩達に言い知れぬ怒りが沸き起こるようであった真島。
そもそも人が手に持ったものを強引に奪っていくなど、どれだけ育ちが悪いのか。
最早、盗人と大差ないであろう。
さらには逆ギレをしたと言うのだから救いようがない。
買えなかったこと、そして悪くもないのに罵られ傷つけられたことでななしの心は沈んでいたようだ。
「またすぐ店頭に並ぶやろ、そんときは一緒に買いに行こか」
『はい、一緒に来てください。それから一緒に食べましょうね。絶対美味しいから』
「ヒヒッ、健気なやっちゃなぁ」
少なくともスイーツを買う理由の中に自分も入っていたことが嬉しかった真島。
『一緒に買いに行こう』と言うななしの花が咲いたような笑顔に愛おしさを感じ、堪らず小さな頭をわしゃわしゃと撫で回した。
しかし一方でこんなにも可愛くて、健気で、一生懸命な彼女を傷つけた不届き者が神室町にいると思うと、湧き上がった怒りを収めることが出来なかった。
むしろ彼女を傷つけたのだから一発ぶん殴って、土下座させなければ気が済まない。
真島は少しづつ元気を取り戻しつつあるななしの頭を撫で続けながら「どこのポッポに行ったんや?」と、それとなく聞いてみる。
店名さえ分かれば部下に監視カメラを確認させ、ななしに食ってかかった人物を特定できるだろう。
特定することができれば後は容易い、ななしを傷つけた事をとことん後悔させてやる。
真島は人知れず心の中でほくそ笑んだ。
『中道通りです。アタシの行きつけのポッポ』
「中道通りのポッポで間違いないんな?」
『え?うん、はい。間違いないですけど…どうしました?』
「別になんもないで。こっちの話や。それよりどこ食べに行くか決まったんか?」
『ふふ、吾朗さんといけるならどこでもいいです』
「ほな、外出て食べたいもん探してみよか」
『いいですね〜。ピンと来たらそこで食べましょう!』
「おう、買えんだスイーツの分もようさん食べんでななし」
『はい!』
真島は付けっぱなしにしていた映画と、テレビの電源を切るとソファに座っていたななしの手を取り、ゆっくりと立たせるように引き寄せた。
新作のスイーツを食べさせてやることは出来ないが、美味いものをたらふくご馳走してやろうと真島は腕の中に収まったななしを抱きしめた。
寿司でも、焼肉でも、ななしがいつも通りの元気ではつらつな姿に戻るというのなら何だって食べに連れて行ってやる。
内心でそんなことを考えつつ、そっと抱いていたななしを解放し、外に出るべく今度は手を握ったままゆっくりと歩みを進めた。
『吾朗さん、ありがとうね』
「あ?なにがやねん」
組長室から出「お疲れ様です!」と飛んでくる野太い声に、男臭いと眉を顰めていると不意にななしがそう言う。
礼を言われるようなことはまだしていないが…と疑問に思っているとななしは続けてゆっくりと話し出した。
『吾朗さんが親身に話を聞いてくれると心が落ち着くんです。今日だって沢山聞いてもらえてスッキリしました』
「それくらい朝飯前や、何時でも聞いたる」
『ふふ、はい。ありがとうございます』
「ヒヒッ、お前は本当に可愛ええやっちゃな」
『あ、ありがとうございます?』
「なんで疑問形やねん」
『だ、だって恥ずかしいじゃないですか…でも、ありがとうございます』
「何回ありがとうございます言うねん。次言うたらどうなってもしらんで」
『え!?い、言いません!』
嫌なことをされた当の本人は話を聞いてもらえれば、心穏やかになるらしい。
直接関係のない真島でさえ仕返しをと考えているのに、ななしの心の広さと言ったらそれはもう海のようだ。
『吾朗さん、焼肉のいい香りがする…!』
「ほな焼肉行くか?」
『ま、迷いますね …!』
「ゆっくり決めたらええわ」
『あ…お、お寿司も捨てがたい…!でもパスタとかもいいですよね!』
「ヒヒッ、やっぱりななしはこうでないとアカンわ」
事務所を出れば直ぐに肉の焼けるいい香りが鼻をくすぐる。
香ばしく食欲をそそる香りで、ななしも『いい匂い』とうっとりしている。
しかし歩き出しちらほら現れる看板を見ては『あれもいい!これもいい!』と目移りしているようだ。
いつも通りキラキラとした目で真剣に何を食べるか悩む姿は、真島にとってとても可愛らしく写った。
まるで子供のような仕草に愛らしさが募る。
「段差あんで、気ぃつけや」
『はい!』
いくら広い心を持っていたとしても願わくば、どんな時もこの子が傷つくことなく生きて行けたらいい。
真島は笑顔のななしを見つめながらそんなことを思った。
(ご、吾朗さん!聞いて下さい!あのカップルわざわざ謝りに来たんですよ!?アタシの家に!スイーツ持って!!)
(ヒヒッ、良かったやんけ。これでスイーツ食えんで)
(な、なにかしてくれました?)
(俺はなぁんにもしてへんで。その馬鹿でアホなカップルが自主的に謝りに行ったんやろ)
(じゃ、そういうことにしときます。……吾朗さん、ありがとうね)
(ヒヒッ、かまへん)
Atgk
ななしちゃんが落ち込んでいたら根本を潰そうとする真島さん。
コンコンと小さく控えめなノック音が二回、真島組事務所の組長室に響いた。
革張りのソファに座りゾンビ物の映画を観ていた真島は聞こえてくるノック音に「おう、入れや」と返事をする。
そうすると『失礼しますー』と恋人であるななしが小さい声で呟きながら組長室に入って来、真島が座るソファに真っ直ぐやってくるのだ。
いつもななしが仕事を終えると、こうして真島組に顔を出しに来る。
そのまま夜飯を二人で食べに行く事もあれば、同じ家に帰宅しまったり過ごす事もある。
今日は朝の段階で外食に行くと言う約束をしていたため、このまま二人で事務所を後にする予定だ。
「お疲れさん、なに食べたいか決まっとんか?」
隣にちょこんと座ったななしの顔を覗き込みながら、真島はニシシと笑い労わるようにそう問いかけた。
『んー…』
「?」
しかし普段なら大喜びでここがいい!あそこがいい!と返事をするななしだが、今日は心ここに在らずと言った様子で。
真島の問に返事をする余裕が無いのか、そもそも聞いていないのか気のない返事をしたのだ。
二人で食べることが好きなななしが食に関してこんなにも無頓着なことなどほとんどない。
あまりにもいつもの調子と違い元気がないななしに違和感を覚えた真島は俯いている彼女の顎に手をあて、自身の方を向くように持ち上げた。
顔を上げたななしの大きな瞳と、真島の隻眼が見つめ合う形になる。
視線を絡めたまま「どないしてん」と、ななしに優しく問えば瞬間に大きな瞳に涙の膜が張ったのだ。
だんだんと溢れてきて零れそうになる涙、鼻先も徐々に赤くなり始めやはりななしの調子が良くないのだと、真島は顔を歪めた。
涙こそ流すことは無かったが、悲しそうな顔で鼻をすするななしの悲愴な姿に思わず力強く抱きしめてしまった真島。
後頭部を抑えて背中を摩ってやれば腕の中のいるななしが『ふふ、苦しい』と控えめに小さく笑う声が聞こえた。
「泣くほど嫌なことあったんか?ななし」
『……まぁ、少し』
「言うてみ」
『あ、あの、笑わないですか?』
「アホ、笑うわけないやろ」
『…ふふ、うん、そうだよね。吾朗さんは優しいから…』
「ほな、説明せぇ」
『うん、さっきね…』
鼻を啜りながらポツリポツリと話し出したななし。真島は背を摩ってやりながら、小さく話し出したななしの声に耳を傾けた。
『ポッポに寄って来たんですよ』
「おう」
『そしたら新作スイーツが発売って、ポップにそう書いてあったんで、アタシと吾朗さんの分買おうかぁってスイーツコーナー行ったんです』
「新作スイーツ…」
『旬のメロンをふんだんに使ったホイップケーキです。でもアタシが見に行った時にはもうひとつしかなくてですね…吾朗さんと半分こして食べようってケーキを掴んだんです。ここ重要です!ちゃんと掴んだんです!』
「ななしが掴んだんやな」
『そう、アタシしっかりがっちり掴んだんです。でも掴んでたケーキを横から来たカップルが強引に奪っていったんですよ…』
「あぁ?なんやねんそいつら」
『びっくりしちゃって…でも流石に"人の手から強引に奪わないで下さい"って注意したんです』
「そんな奴らぶん殴ったれ」
『流石に殴れないですけど…多分アタシに文句言われて怒ったんでしょうね彼女さん。"必死すぎてキモいから"ってめっちゃ睨まれたんです。ケーキを返してって言ったわけじゃないのに逆に二人からめちゃくちゃ怒られちゃって…。メンタル死んでました』
「胸糞悪い奴らやのぉ…」
新作スイーツにつられるななしが可愛らしいと思いつつ、そんな彼女にひどい仕打ちをした輩達に言い知れぬ怒りが沸き起こるようであった真島。
そもそも人が手に持ったものを強引に奪っていくなど、どれだけ育ちが悪いのか。
最早、盗人と大差ないであろう。
さらには逆ギレをしたと言うのだから救いようがない。
買えなかったこと、そして悪くもないのに罵られ傷つけられたことでななしの心は沈んでいたようだ。
「またすぐ店頭に並ぶやろ、そんときは一緒に買いに行こか」
『はい、一緒に来てください。それから一緒に食べましょうね。絶対美味しいから』
「ヒヒッ、健気なやっちゃなぁ」
少なくともスイーツを買う理由の中に自分も入っていたことが嬉しかった真島。
『一緒に買いに行こう』と言うななしの花が咲いたような笑顔に愛おしさを感じ、堪らず小さな頭をわしゃわしゃと撫で回した。
しかし一方でこんなにも可愛くて、健気で、一生懸命な彼女を傷つけた不届き者が神室町にいると思うと、湧き上がった怒りを収めることが出来なかった。
むしろ彼女を傷つけたのだから一発ぶん殴って、土下座させなければ気が済まない。
真島は少しづつ元気を取り戻しつつあるななしの頭を撫で続けながら「どこのポッポに行ったんや?」と、それとなく聞いてみる。
店名さえ分かれば部下に監視カメラを確認させ、ななしに食ってかかった人物を特定できるだろう。
特定することができれば後は容易い、ななしを傷つけた事をとことん後悔させてやる。
真島は人知れず心の中でほくそ笑んだ。
『中道通りです。アタシの行きつけのポッポ』
「中道通りのポッポで間違いないんな?」
『え?うん、はい。間違いないですけど…どうしました?』
「別になんもないで。こっちの話や。それよりどこ食べに行くか決まったんか?」
『ふふ、吾朗さんといけるならどこでもいいです』
「ほな、外出て食べたいもん探してみよか」
『いいですね〜。ピンと来たらそこで食べましょう!』
「おう、買えんだスイーツの分もようさん食べんでななし」
『はい!』
真島は付けっぱなしにしていた映画と、テレビの電源を切るとソファに座っていたななしの手を取り、ゆっくりと立たせるように引き寄せた。
新作のスイーツを食べさせてやることは出来ないが、美味いものをたらふくご馳走してやろうと真島は腕の中に収まったななしを抱きしめた。
寿司でも、焼肉でも、ななしがいつも通りの元気ではつらつな姿に戻るというのなら何だって食べに連れて行ってやる。
内心でそんなことを考えつつ、そっと抱いていたななしを解放し、外に出るべく今度は手を握ったままゆっくりと歩みを進めた。
『吾朗さん、ありがとうね』
「あ?なにがやねん」
組長室から出「お疲れ様です!」と飛んでくる野太い声に、男臭いと眉を顰めていると不意にななしがそう言う。
礼を言われるようなことはまだしていないが…と疑問に思っているとななしは続けてゆっくりと話し出した。
『吾朗さんが親身に話を聞いてくれると心が落ち着くんです。今日だって沢山聞いてもらえてスッキリしました』
「それくらい朝飯前や、何時でも聞いたる」
『ふふ、はい。ありがとうございます』
「ヒヒッ、お前は本当に可愛ええやっちゃな」
『あ、ありがとうございます?』
「なんで疑問形やねん」
『だ、だって恥ずかしいじゃないですか…でも、ありがとうございます』
「何回ありがとうございます言うねん。次言うたらどうなってもしらんで」
『え!?い、言いません!』
嫌なことをされた当の本人は話を聞いてもらえれば、心穏やかになるらしい。
直接関係のない真島でさえ仕返しをと考えているのに、ななしの心の広さと言ったらそれはもう海のようだ。
『吾朗さん、焼肉のいい香りがする…!』
「ほな焼肉行くか?」
『ま、迷いますね …!』
「ゆっくり決めたらええわ」
『あ…お、お寿司も捨てがたい…!でもパスタとかもいいですよね!』
「ヒヒッ、やっぱりななしはこうでないとアカンわ」
事務所を出れば直ぐに肉の焼けるいい香りが鼻をくすぐる。
香ばしく食欲をそそる香りで、ななしも『いい匂い』とうっとりしている。
しかし歩き出しちらほら現れる看板を見ては『あれもいい!これもいい!』と目移りしているようだ。
いつも通りキラキラとした目で真剣に何を食べるか悩む姿は、真島にとってとても可愛らしく写った。
まるで子供のような仕草に愛らしさが募る。
「段差あんで、気ぃつけや」
『はい!』
いくら広い心を持っていたとしても願わくば、どんな時もこの子が傷つくことなく生きて行けたらいい。
真島は笑顔のななしを見つめながらそんなことを思った。
(ご、吾朗さん!聞いて下さい!あのカップルわざわざ謝りに来たんですよ!?アタシの家に!スイーツ持って!!)
(ヒヒッ、良かったやんけ。これでスイーツ食えんで)
(な、なにかしてくれました?)
(俺はなぁんにもしてへんで。その馬鹿でアホなカップルが自主的に謝りに行ったんやろ)
(じゃ、そういうことにしときます。……吾朗さん、ありがとうね)
(ヒヒッ、かまへん)
Atgk
ななしちゃんが落ち込んでいたら根本を潰そうとする真島さん。