○○しないと出られない
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(支配人真島/恋人/キスの日/R15)
*指定された箇所にキスをしないと出られない部屋
『はぁ…』
時刻は4時半。
今から深夜まで働くというのはななしにとってかなり憂鬱であった。
酔っ払ったお客さんの相手、キャストのご機嫌取り、皿洗いから掃除まで。
やらなければならない事を思い起こすとどうしてもこめかみ辺りがチリチリと痛んだ。
だがどれだけ仕事が憂鬱であってもグランドに赴けば恋人の真島に必ず会える。
真島と目が合ったり、少し喋るだけでも仕事を頑張ろうと前向きになれるのはきっと彼にいつだって元気をもらっているから。
今日も大好きな真島に会えると思うと、自然と足取りは軽やかになっていくようだった。
気持ち新たに今日も一日頑張って働くぞ!と気合いを入れて、グランドの裏口にある扉を開いたななし。
『あれ、ここって…』
普段通り寂れた扉を開きグランドの中へと入ったはずなのだが。
開いた先はグランドの廊下ではなく、いつぞや真島と共に閉じ込められた謎の部屋に繋がっていたのだ。
瞬きの間に場所が変わったため驚きのあまり口を開いたまま固まってしまったななし。
何が起きているのかを理解することが出来無かったななしは、とりあえず自身の頬を抓ってみる。
『い、痛い…』
この痛みは現実だ。
なにより前回この空間に来た時とは違い、沢山寝てそれなりに体は元気な状態。頭も正常に働いているため、"夢だ!"と簡単には現実逃避ができない状態であった。
『…訳分からんない…』
理由は全く分からない。
何が起きるとグランドの裏口から別の空間へと行けると言うのか。
瞬間移動が現実にあったならきっとこんな感じなのかもしれない。
ただ好きな場所に好きな時に行ける訳ではなく、勝手に連れていかれるというものだが。
もっと漫画の主人公が扱うような瞬間移動にしてよ。
と内心で愚痴りつつ、ななしは考えることを手放した。
それから簡素な部屋の中、またあの黒い封筒が置かれていないかを探すべくゆっくりと歩き出した。
『ていうか…アタシ一人なのかな…』
前にこの空間に来た時は真島が傍におり、問題も直ぐに解決して謎の部屋から脱出出来たのだが。今回は真島は居らず何故か一人で謎の空間に閉じ込められてしまったらしい。
もし二人でクリアしないといけないお題だったらどうすればいいのだろう。
また、真島が来てくれるのだろうか。
それともグランドの裏口をたまたま開いた別の誰かがこの空間に来てしまうのだろうか。
『…』
例えばお題が前と同じでキスマークを付けるというものだったとしたら。もちろん課題をクリアするのは一人では不可能である。
加えてこの空間にたまたま紛れ込んでしまった人物が真島でなく、グランドの従業員だったとしたら?
大して知りもしない他人とキスマークをつけ合わないといけないことになる。
『…あ、ありえない…』
謎の空間に勝手に飛ばされるという現象も相当不本意だが、気心知れぬ人物と閉じ込めれられてしまったらそれこそ本当に拷問だ。
ななしに出来ることはそうならないように祈ることだけしかなく。
これから何が起こるか分からない不安と恐怖で、深いため息を着くしか無かった。
『あ、封筒!』
項垂れたまま部屋をとぼとぼ歩いていると黒い封筒がソファに置かれていることに気がついたななし。
この間もきっと同じようにして置かれていたのだろうなと思いつつ、封筒を引っつかむと中身を取り出した。
出てきた二つ折りの紙を開くとそこには"指定された箇所にキスをしないと出られない部屋(地肌に)"と書かれていた。
『額、唇、背中、ヘソ…全部一人じゃ届かない場所じゃん…』
指定された箇所はそれぞれ上から順に額、唇、背中、ヘソ。
自分の唇でキスできる場所はなく、やはり誰かが居ないとクリアできそうにない。
『……ヘソ…しかも地肌って』
地肌にキスという聞きなれない言葉に首を傾げながら、さてこれからどうすればいいか…とななしは一人頭を悩ませた。
うーん、うーん、と答えの出ない問題で唸るななし。
二進も三進もいかないとは正にこの事だろう。
─── …このままこの空間から出られなかったらどうしよう。
グランドの始業時間も迫っているのに。
真島さんアタシが居ないことに気がついてくれるかな。
『はぁぁぁあ、も〜どうすればいいの〜』
出られないかもしれないという不安はだんだんと大きく膨らんでいき、ななしの涙腺を刺激してくる。
こんな事で泣くもんかと強く下唇を噛み締め、涙をこらえていると不意に後方から「ななし!」と、強く名を呼ばれたのだ。
急に聞こえた自分以外の声、しかもその声は聞きなれた愛おしい人の声で。
不安に押しつぶされそうになっていたななしはまるでヒーローのように登場した愛おしい人…真島を見つけると、一目散に駆け寄り逞しい体に飛びつくように抱きつく。
いとも容易く抱きとめた真島にひしりとしがみつきながら、ななしは『良かったぁぁあ』と心の底から安堵したように長く息を吐き出した。
『真島さんが来てくれて死ぬほど安心しました…良かったぁ』
「ななし、怪我はないか?なんもされとらんか?」
『うん、何も無かったです。でもここに来る時一人だったんで本当にビックリしました…心臓に悪いです』
「扉開けたらここに繋がっとんのホンマに焦るわな。頭おかしなんで」
『本当ですね…アタシもおかしくなったかと思いました』
「…ななし。もう俺がおるさかい安心せぇ。はよ出ようや」
『はい、ありがとうございます』
突然現れた真島もきっと混乱していただろう。
それでもななしの不安や恐怖をなんとなく感じ取ったであろう真島はしがみついている彼女を安心させるように優しく頭を撫でた。
ただ触れられただけなのに、先程の不安や恐怖はみるみるうちに消えていくのだから真島の恋人パワーは本当に凄い。
優しい温度と心地良さにななしはそっと目を閉じた。
『…そういえば今回はもう封筒見つけたんです』
「お、そうなんか。なんて書いてあったんや?」
『指定された箇所にキスをしないと出られない部屋って書いてあります』
「指定された箇所?」
『はい。額と唇と背中と……ヘソです。しかも素肌だそうです』
「なんや妙なレパートリーやな…」
『ど、どうしましょうか…額や唇は今でもできますけど背中やヘソは服を脱がないとですし…』
「俺が脱ごか?」
『え?いいんですか?』
「おう、ななしはもう制服着とるし上脱ぐの大変やろ」
『そうですね…上は出来れば脱ぎたくないですね。でも真島さんも脱ぎたくはないでしょうし…』
真島の言う通り出来ることなら既にバッチリ着込まれた制服を脱ぎたくはなかったななし。
面倒くさいからという訳ではなく、ななしの場合制服の下にはサラシが巻かれているためだ。
グランドでは男でボーイとして働いているためななしにはサラシは必需品である。
家で時間をかけ綺麗に巻いてきており、何かの拍子に解けてしまうと巻き直すにはなかなか大変な作業になってしまう。
それにこのよく分からない空間で肌を見せるというのはかなり抵抗がある。目の前には真島しかいなくてもどこで誰が見ているか分からないため、出来ることなら脱がずに彼の言葉に甘えたいところ。
「かまへん、見られて困るもんなんかないさかい」
『ほ、本当にいいんですか?』
「ええで、さっさと終わらせてはよこっから出るでななし」
『そうですね。ありがとうございます!』
色々思い悩んでいると真島には筒抜けだったのだろう。
真島とてこんな妙な場所で服を脱ぐ事は躊躇うに嫌な顔ひとつせずに引き受けるとそう言ってくれた。
彼の気遣いと心優しさに胸打たれるようだったななしは目の前に広がるタキシードにそっと顔を埋め、もう一度『ありがとうございます』と小さく呟いた。
『じゃ、どうしましょうか?額と唇からしますか?』
「せやな、まずはすぐできる所からすんで」
『……ふふ、こう面と向かってキスするのってやっぱり恥ずかしいですね…』
改めてお題をクリアするために、向きなおった真島とななし。
お互い背中に腕を回しているため体が密着し、かなり至近距離にいる。
今からキスをするのだからこの距離感で見つめあって照れている場合では無いのだが。
どうしても端正な顔立ちの真島と見つめあっていると体が火照ってくる。
恥ずかしさできっと顔も真っ赤になっている事だろう。
だが躊躇している場合ではなく。
仕事に行くために、ここから脱出するために。
ななしはドキドキと早鐘を打つ胸を服の上から握り、ゆっくりと瞳を閉じた。
腰に回っていた真島の手がゆっくりと離れて頬を撫でるように滑った。親指の腹で唇が撫でられると次の瞬間、暖かく柔らかいものが触れてくる。
『…ん……』
可愛らしいリップ音を立てながらまずは唇のキスをクリアした。
「ほんなら次は額触んで」
『は、はいっ』
宣言通り真島は前髪を優しく退かすと、現れた白く小さな額にも柔らかい唇を押し当てたのだ。
二度目のリップ音と暖かい感触。
これで額へのキスもクリアだろうか。
「ほな次は背中とヘソやな。服脱ぐで」
『は、はい。がんばって早く終わらせます!』
「おう、頼むで」
存外あっさりと顔へのキスを終えたが、問題はここからである。
背中とヘソ、どちらも服を脱がなければキスが出来ない場所だ。
宣言通りにタキシードのボタンを外していく真島を至近距離で見つめるななし。
こうしてタキシードを脱ぐ姿を見るのは真島とそういった行為をする時だけ。
他では半裸の真島を見ることはほぼない。
『……』
ゆっくり現れる肌色を間近で見てしまうとどうしても今から睦合うのでは無いかと脳が錯覚してしまい体のあちらこちらに熱が篭っていくようであった。
落ち着けと自身に言い聞かせて人知れず深呼吸するが、一度バクバクと激しく鼓動し始めた心臓はなかなか落ち着いてはくれない。
いよいよワイシャツも全開になると逞しい腕が袖から出ていき、体を纏っていた布はゼロになってしまった。
現れた美しくも仰々しい刺青と、程よく引き締まった筋肉。
ななしを釘付けにするには十分すぎるほどだ。
『……っ』
「ななし…あんまジロジロ見んといてや」
『えぁ!?す、すみませんっ。かっこよくてつい…。せ、背中にキスしますね!』
「おう、なるべくはよ頼むわ」
『そ、そうですよね』
裸を見られるというのは誰も心地よいものでは無いだろう。真島もきっとそうだ。
落ち着きなさそうでどこかさわそわとしているように見える。
こんなことをさせて申し訳ないと罪悪感でいっぱいのななしは、なるべく早くキスを終わらせて服を着られるようにと急いで真島の背中側に回り込んだ。
背中には胸や肩の刺青と繋がった大きな般若が描かれている。
ななしが初めて真島のこの般若を見た際はとても驚き若干怖くも感じたのだが。
今では好きな物の一部となっている。
『キスしますね…』
「おう」
まずはそっと刺青に触れてみる。
それから真島と共に自分を見守ってくれている般若に向けてななしは唇をゆっくりと引っつけた。
唇に触れた真島の背中は少しヒンヤリとしていて熱を持っていたななしの唇には心地よく感じられた。
『…これで大丈夫ですかね?』
「多分な」
『じゃぁ、最後のヘソ…ですね』
「ニッチやでホンマ」
『…本当ですね』
唇、額、背中もまぁ分からなくはない。だがヘソとなるととても特殊であるとななし思う。
まずキスすることなどない部位であるし、されることもほとんど無い。
黒い封筒を置いていった人はさぞマニアックな人なのであろう。
ななしはそんなことを考えながら服を脱いでくれた真島のヘソにキスする為に腰を屈めて膝立ちの姿勢になった。
すると「な、何しとんねん!」とどこか慌てたような声が頭上から聞こえてき真島をみると、隻眼を見開きとても驚いているようだ。
しかしこうしないとキス出来ないのではないか?と慌てる真島を見つめ返すと、「はぁぁあ」とそれはもう大きなため息が聞こえてくる。
『す、すみません。こんなことされたくないですよねっ!』
「いや…そうやない」
『速やかに終わらせます!』
「そ、そか。頼むわ」
こちらを見下ろしてくる真島は少し怒っているようにも見えてしまって。
ななしは迅速にキスをしてこの謎の部屋から脱出しようと、真島の腰に手を着いて凸凹とした腹筋の下にある深いヘソにへと唇を寄せて小さくキスをしたのだ。
これで紙に書かれていた箇所へのキスが全て終わった。
意味不明なお題であったが、全てクリアしたのだからきっとグランドへ帰ることが出来るだろう。
ななしは扉が出現していないか、膝立ちのまま辺りを見渡しながら確認してみる。
『あ!』
先程まで壁だけで、逃げることも出来なかった密室空間には扉が出現しており、お題はしっかりクリア出来ていた事が分かった。
『真島さん、帰れそうですね!』
「……」
『真島さん?』
どうして扉が出てきたのか、最早意味不明であるが深いことは考えずに帰ろうとそう言うななしだったが真島からの返事は無かった。
どうしたのか?と無言のままの真島を再び見上げると、鋭い隻眼は射抜くように此方に向けられていた。
『真島さん…ど、どうかしました?』
見上げていたななしの頬を両手で優しく包み込んだ真島は、微かに息が荒くなっているようだ。
隻眼はだんだんと情欲を孕んだように濡れてきており、真島が今この瞬間にとても興奮している事が伝わってくる。
『…っえ』
頬を掴まれてしまい動き出せないでいたななしの顎下付近。
丁度上を向いていたため気がつくことは無かったのだが、どうにも固いものがななしの顎に当たっていた。
この位置で固くなるものは考えなくても分かる。
ななしは固くなったものが何であるかを一瞬で理解すると再び顔を真っ赤に染め『ま、真島さん!』と慌てたよう叫んだ。
しかしななしの声も届いていないのか真島は荒い息を繰り返しながらゆるゆると腰を振り始めたのだ。
『真島さん、ちょっと待って。今から仕事ですよ!』
「はぁ、せやけどななしがエロい事するさかいしゃあないやろ」
『え、エロい事してませんよ』
「今どんな体勢なんか考えてみぃ」
『そ、それはっ』
真島の腰を掴み膝立ちしているこの状況。
別に何もやましい事をしている訳では無いのだ、彼が指摘したためどうしてもとんでもないことをしているように思えてしまって。
誰かが今の体勢の二人を見てしまえば何か勘違いが生まれてしまう可能性も否めない。
『ア、アタシは…そんなつもりは無かったんですよ。お題が悪くて…』
「こんなもんもうフェラと一緒や、興奮せん方がおかしい」
『フェ…!!?真島さん!正気に戻ってください。扉はそこにあります!グランドにも戻れますから…あの、し、静めてください』
「抜かんで静まると思うか?」
『き、気合いで何とかなりませんでしょうか?』
「ならん、こんな状態で働けっちゅうんか?」
『そ、そうなんですけどもっ。でももう遅刻しちゃいますからっ』
「…はぁ、ななしがこの部屋から出るために頑張っただけやって分かっとる…せやけど、そんな所で上目されたらアカンに決まっとるやろ…ホンマに…」
『す、すみません…真島さん』
「はぁ、クソっ」
『…真島さんっ』
荒々しい呼吸を繰り返す真島は、困惑するななしの腕を引き痛いくらいに強く抱き締めた。
その間も下腹部あたりには真島の固くそそり勃つものが押し付けられていて、少しづつ釣られるようにして興奮してきていたななしも荒く震えるように呼吸してしまっていた。
このままこんな場所で、仕事が差し迫る中行為に耽るわけにも行かず。
体の中でグズグズと溜まっている行き場のない疼きに二人はただ抱きしめ合うことしか出来なかった。
『はぁ、もう…真島さん…頑張って仕事しましょう…』
「……無理やて」
『頑張って仕事終わらせたら、今日…真島さんのおうち…行きます…それまで一緒に頑張りましょう』
「ななし…」
真島が興奮しているという事実にななしもまた下腹部が疼き、下着が湿り出している。
彼女も酷く興奮していたが、まだ仕事に行かなければならないという理性は残っている。
だがこのままずっと生殺しなんて真島にもななしにも無理な話。
だから仕事が終わったらその時は…二人で気持ちのいいことをしよう。
荒い呼吸を繰り返す真島にそう提案したななしは、目の前の逞し体に力強く抱きついた。
目には見えなかったが随分絞り出したような声で「分かった」と、かなり渋々頷いた真島。
ななしは良かったと胸を撫で下ろした。
「せやけど…夜…覚悟しといてな」
『わ、分かりましたっ』
「服きてから行くさかい、先行っといてや」
『はい、待ってます』
「おう」
まだまだ興奮冷めやらぬ二人。
真島もまた自身が収まるまでこの部屋から出てくることは無いのだろう。
ずっとここにいて更に煽るようなことになっては行けないとななしは言われた通りに現れた扉を開きグランドへと戻って行った。
残された真島はというと頭を抱えながら、今夜どんな風に抱いてやろうかと意地の悪いことばかりを考えた。
今のように膝立ちになった彼女の口内に荒々しく腰を打ち付けてやろうか。
「アカン…収まりそうにないわ」
酷い妄想で余計に怒張してしまった情けない下半身に真島は自嘲気味に笑うことしか出来なかった。
それからグランドでの仕事を終えた後、結局ななしは膝立ちにさせられるのだが、今はまだ知る由もない。
5/23はキスの日なんだそうです。
一日遅れましたが…笑
まだまだ若いので興奮しがち。
まぁでも組長の方でも二人とも興奮してそうですよね。
*指定された箇所にキスをしないと出られない部屋
『はぁ…』
時刻は4時半。
今から深夜まで働くというのはななしにとってかなり憂鬱であった。
酔っ払ったお客さんの相手、キャストのご機嫌取り、皿洗いから掃除まで。
やらなければならない事を思い起こすとどうしてもこめかみ辺りがチリチリと痛んだ。
だがどれだけ仕事が憂鬱であってもグランドに赴けば恋人の真島に必ず会える。
真島と目が合ったり、少し喋るだけでも仕事を頑張ろうと前向きになれるのはきっと彼にいつだって元気をもらっているから。
今日も大好きな真島に会えると思うと、自然と足取りは軽やかになっていくようだった。
気持ち新たに今日も一日頑張って働くぞ!と気合いを入れて、グランドの裏口にある扉を開いたななし。
『あれ、ここって…』
普段通り寂れた扉を開きグランドの中へと入ったはずなのだが。
開いた先はグランドの廊下ではなく、いつぞや真島と共に閉じ込められた謎の部屋に繋がっていたのだ。
瞬きの間に場所が変わったため驚きのあまり口を開いたまま固まってしまったななし。
何が起きているのかを理解することが出来無かったななしは、とりあえず自身の頬を抓ってみる。
『い、痛い…』
この痛みは現実だ。
なにより前回この空間に来た時とは違い、沢山寝てそれなりに体は元気な状態。頭も正常に働いているため、"夢だ!"と簡単には現実逃避ができない状態であった。
『…訳分からんない…』
理由は全く分からない。
何が起きるとグランドの裏口から別の空間へと行けると言うのか。
瞬間移動が現実にあったならきっとこんな感じなのかもしれない。
ただ好きな場所に好きな時に行ける訳ではなく、勝手に連れていかれるというものだが。
もっと漫画の主人公が扱うような瞬間移動にしてよ。
と内心で愚痴りつつ、ななしは考えることを手放した。
それから簡素な部屋の中、またあの黒い封筒が置かれていないかを探すべくゆっくりと歩き出した。
『ていうか…アタシ一人なのかな…』
前にこの空間に来た時は真島が傍におり、問題も直ぐに解決して謎の部屋から脱出出来たのだが。今回は真島は居らず何故か一人で謎の空間に閉じ込められてしまったらしい。
もし二人でクリアしないといけないお題だったらどうすればいいのだろう。
また、真島が来てくれるのだろうか。
それともグランドの裏口をたまたま開いた別の誰かがこの空間に来てしまうのだろうか。
『…』
例えばお題が前と同じでキスマークを付けるというものだったとしたら。もちろん課題をクリアするのは一人では不可能である。
加えてこの空間にたまたま紛れ込んでしまった人物が真島でなく、グランドの従業員だったとしたら?
大して知りもしない他人とキスマークをつけ合わないといけないことになる。
『…あ、ありえない…』
謎の空間に勝手に飛ばされるという現象も相当不本意だが、気心知れぬ人物と閉じ込めれられてしまったらそれこそ本当に拷問だ。
ななしに出来ることはそうならないように祈ることだけしかなく。
これから何が起こるか分からない不安と恐怖で、深いため息を着くしか無かった。
『あ、封筒!』
項垂れたまま部屋をとぼとぼ歩いていると黒い封筒がソファに置かれていることに気がついたななし。
この間もきっと同じようにして置かれていたのだろうなと思いつつ、封筒を引っつかむと中身を取り出した。
出てきた二つ折りの紙を開くとそこには"指定された箇所にキスをしないと出られない部屋(地肌に)"と書かれていた。
『額、唇、背中、ヘソ…全部一人じゃ届かない場所じゃん…』
指定された箇所はそれぞれ上から順に額、唇、背中、ヘソ。
自分の唇でキスできる場所はなく、やはり誰かが居ないとクリアできそうにない。
『……ヘソ…しかも地肌って』
地肌にキスという聞きなれない言葉に首を傾げながら、さてこれからどうすればいいか…とななしは一人頭を悩ませた。
うーん、うーん、と答えの出ない問題で唸るななし。
二進も三進もいかないとは正にこの事だろう。
─── …このままこの空間から出られなかったらどうしよう。
グランドの始業時間も迫っているのに。
真島さんアタシが居ないことに気がついてくれるかな。
『はぁぁぁあ、も〜どうすればいいの〜』
出られないかもしれないという不安はだんだんと大きく膨らんでいき、ななしの涙腺を刺激してくる。
こんな事で泣くもんかと強く下唇を噛み締め、涙をこらえていると不意に後方から「ななし!」と、強く名を呼ばれたのだ。
急に聞こえた自分以外の声、しかもその声は聞きなれた愛おしい人の声で。
不安に押しつぶされそうになっていたななしはまるでヒーローのように登場した愛おしい人…真島を見つけると、一目散に駆け寄り逞しい体に飛びつくように抱きつく。
いとも容易く抱きとめた真島にひしりとしがみつきながら、ななしは『良かったぁぁあ』と心の底から安堵したように長く息を吐き出した。
『真島さんが来てくれて死ぬほど安心しました…良かったぁ』
「ななし、怪我はないか?なんもされとらんか?」
『うん、何も無かったです。でもここに来る時一人だったんで本当にビックリしました…心臓に悪いです』
「扉開けたらここに繋がっとんのホンマに焦るわな。頭おかしなんで」
『本当ですね…アタシもおかしくなったかと思いました』
「…ななし。もう俺がおるさかい安心せぇ。はよ出ようや」
『はい、ありがとうございます』
突然現れた真島もきっと混乱していただろう。
それでもななしの不安や恐怖をなんとなく感じ取ったであろう真島はしがみついている彼女を安心させるように優しく頭を撫でた。
ただ触れられただけなのに、先程の不安や恐怖はみるみるうちに消えていくのだから真島の恋人パワーは本当に凄い。
優しい温度と心地良さにななしはそっと目を閉じた。
『…そういえば今回はもう封筒見つけたんです』
「お、そうなんか。なんて書いてあったんや?」
『指定された箇所にキスをしないと出られない部屋って書いてあります』
「指定された箇所?」
『はい。額と唇と背中と……ヘソです。しかも素肌だそうです』
「なんや妙なレパートリーやな…」
『ど、どうしましょうか…額や唇は今でもできますけど背中やヘソは服を脱がないとですし…』
「俺が脱ごか?」
『え?いいんですか?』
「おう、ななしはもう制服着とるし上脱ぐの大変やろ」
『そうですね…上は出来れば脱ぎたくないですね。でも真島さんも脱ぎたくはないでしょうし…』
真島の言う通り出来ることなら既にバッチリ着込まれた制服を脱ぎたくはなかったななし。
面倒くさいからという訳ではなく、ななしの場合制服の下にはサラシが巻かれているためだ。
グランドでは男でボーイとして働いているためななしにはサラシは必需品である。
家で時間をかけ綺麗に巻いてきており、何かの拍子に解けてしまうと巻き直すにはなかなか大変な作業になってしまう。
それにこのよく分からない空間で肌を見せるというのはかなり抵抗がある。目の前には真島しかいなくてもどこで誰が見ているか分からないため、出来ることなら脱がずに彼の言葉に甘えたいところ。
「かまへん、見られて困るもんなんかないさかい」
『ほ、本当にいいんですか?』
「ええで、さっさと終わらせてはよこっから出るでななし」
『そうですね。ありがとうございます!』
色々思い悩んでいると真島には筒抜けだったのだろう。
真島とてこんな妙な場所で服を脱ぐ事は躊躇うに嫌な顔ひとつせずに引き受けるとそう言ってくれた。
彼の気遣いと心優しさに胸打たれるようだったななしは目の前に広がるタキシードにそっと顔を埋め、もう一度『ありがとうございます』と小さく呟いた。
『じゃ、どうしましょうか?額と唇からしますか?』
「せやな、まずはすぐできる所からすんで」
『……ふふ、こう面と向かってキスするのってやっぱり恥ずかしいですね…』
改めてお題をクリアするために、向きなおった真島とななし。
お互い背中に腕を回しているため体が密着し、かなり至近距離にいる。
今からキスをするのだからこの距離感で見つめあって照れている場合では無いのだが。
どうしても端正な顔立ちの真島と見つめあっていると体が火照ってくる。
恥ずかしさできっと顔も真っ赤になっている事だろう。
だが躊躇している場合ではなく。
仕事に行くために、ここから脱出するために。
ななしはドキドキと早鐘を打つ胸を服の上から握り、ゆっくりと瞳を閉じた。
腰に回っていた真島の手がゆっくりと離れて頬を撫でるように滑った。親指の腹で唇が撫でられると次の瞬間、暖かく柔らかいものが触れてくる。
『…ん……』
可愛らしいリップ音を立てながらまずは唇のキスをクリアした。
「ほんなら次は額触んで」
『は、はいっ』
宣言通り真島は前髪を優しく退かすと、現れた白く小さな額にも柔らかい唇を押し当てたのだ。
二度目のリップ音と暖かい感触。
これで額へのキスもクリアだろうか。
「ほな次は背中とヘソやな。服脱ぐで」
『は、はい。がんばって早く終わらせます!』
「おう、頼むで」
存外あっさりと顔へのキスを終えたが、問題はここからである。
背中とヘソ、どちらも服を脱がなければキスが出来ない場所だ。
宣言通りにタキシードのボタンを外していく真島を至近距離で見つめるななし。
こうしてタキシードを脱ぐ姿を見るのは真島とそういった行為をする時だけ。
他では半裸の真島を見ることはほぼない。
『……』
ゆっくり現れる肌色を間近で見てしまうとどうしても今から睦合うのでは無いかと脳が錯覚してしまい体のあちらこちらに熱が篭っていくようであった。
落ち着けと自身に言い聞かせて人知れず深呼吸するが、一度バクバクと激しく鼓動し始めた心臓はなかなか落ち着いてはくれない。
いよいよワイシャツも全開になると逞しい腕が袖から出ていき、体を纏っていた布はゼロになってしまった。
現れた美しくも仰々しい刺青と、程よく引き締まった筋肉。
ななしを釘付けにするには十分すぎるほどだ。
『……っ』
「ななし…あんまジロジロ見んといてや」
『えぁ!?す、すみませんっ。かっこよくてつい…。せ、背中にキスしますね!』
「おう、なるべくはよ頼むわ」
『そ、そうですよね』
裸を見られるというのは誰も心地よいものでは無いだろう。真島もきっとそうだ。
落ち着きなさそうでどこかさわそわとしているように見える。
こんなことをさせて申し訳ないと罪悪感でいっぱいのななしは、なるべく早くキスを終わらせて服を着られるようにと急いで真島の背中側に回り込んだ。
背中には胸や肩の刺青と繋がった大きな般若が描かれている。
ななしが初めて真島のこの般若を見た際はとても驚き若干怖くも感じたのだが。
今では好きな物の一部となっている。
『キスしますね…』
「おう」
まずはそっと刺青に触れてみる。
それから真島と共に自分を見守ってくれている般若に向けてななしは唇をゆっくりと引っつけた。
唇に触れた真島の背中は少しヒンヤリとしていて熱を持っていたななしの唇には心地よく感じられた。
『…これで大丈夫ですかね?』
「多分な」
『じゃぁ、最後のヘソ…ですね』
「ニッチやでホンマ」
『…本当ですね』
唇、額、背中もまぁ分からなくはない。だがヘソとなるととても特殊であるとななし思う。
まずキスすることなどない部位であるし、されることもほとんど無い。
黒い封筒を置いていった人はさぞマニアックな人なのであろう。
ななしはそんなことを考えながら服を脱いでくれた真島のヘソにキスする為に腰を屈めて膝立ちの姿勢になった。
すると「な、何しとんねん!」とどこか慌てたような声が頭上から聞こえてき真島をみると、隻眼を見開きとても驚いているようだ。
しかしこうしないとキス出来ないのではないか?と慌てる真島を見つめ返すと、「はぁぁあ」とそれはもう大きなため息が聞こえてくる。
『す、すみません。こんなことされたくないですよねっ!』
「いや…そうやない」
『速やかに終わらせます!』
「そ、そか。頼むわ」
こちらを見下ろしてくる真島は少し怒っているようにも見えてしまって。
ななしは迅速にキスをしてこの謎の部屋から脱出しようと、真島の腰に手を着いて凸凹とした腹筋の下にある深いヘソにへと唇を寄せて小さくキスをしたのだ。
これで紙に書かれていた箇所へのキスが全て終わった。
意味不明なお題であったが、全てクリアしたのだからきっとグランドへ帰ることが出来るだろう。
ななしは扉が出現していないか、膝立ちのまま辺りを見渡しながら確認してみる。
『あ!』
先程まで壁だけで、逃げることも出来なかった密室空間には扉が出現しており、お題はしっかりクリア出来ていた事が分かった。
『真島さん、帰れそうですね!』
「……」
『真島さん?』
どうして扉が出てきたのか、最早意味不明であるが深いことは考えずに帰ろうとそう言うななしだったが真島からの返事は無かった。
どうしたのか?と無言のままの真島を再び見上げると、鋭い隻眼は射抜くように此方に向けられていた。
『真島さん…ど、どうかしました?』
見上げていたななしの頬を両手で優しく包み込んだ真島は、微かに息が荒くなっているようだ。
隻眼はだんだんと情欲を孕んだように濡れてきており、真島が今この瞬間にとても興奮している事が伝わってくる。
『…っえ』
頬を掴まれてしまい動き出せないでいたななしの顎下付近。
丁度上を向いていたため気がつくことは無かったのだが、どうにも固いものがななしの顎に当たっていた。
この位置で固くなるものは考えなくても分かる。
ななしは固くなったものが何であるかを一瞬で理解すると再び顔を真っ赤に染め『ま、真島さん!』と慌てたよう叫んだ。
しかしななしの声も届いていないのか真島は荒い息を繰り返しながらゆるゆると腰を振り始めたのだ。
『真島さん、ちょっと待って。今から仕事ですよ!』
「はぁ、せやけどななしがエロい事するさかいしゃあないやろ」
『え、エロい事してませんよ』
「今どんな体勢なんか考えてみぃ」
『そ、それはっ』
真島の腰を掴み膝立ちしているこの状況。
別に何もやましい事をしている訳では無いのだ、彼が指摘したためどうしてもとんでもないことをしているように思えてしまって。
誰かが今の体勢の二人を見てしまえば何か勘違いが生まれてしまう可能性も否めない。
『ア、アタシは…そんなつもりは無かったんですよ。お題が悪くて…』
「こんなもんもうフェラと一緒や、興奮せん方がおかしい」
『フェ…!!?真島さん!正気に戻ってください。扉はそこにあります!グランドにも戻れますから…あの、し、静めてください』
「抜かんで静まると思うか?」
『き、気合いで何とかなりませんでしょうか?』
「ならん、こんな状態で働けっちゅうんか?」
『そ、そうなんですけどもっ。でももう遅刻しちゃいますからっ』
「…はぁ、ななしがこの部屋から出るために頑張っただけやって分かっとる…せやけど、そんな所で上目されたらアカンに決まっとるやろ…ホンマに…」
『す、すみません…真島さん』
「はぁ、クソっ」
『…真島さんっ』
荒々しい呼吸を繰り返す真島は、困惑するななしの腕を引き痛いくらいに強く抱き締めた。
その間も下腹部あたりには真島の固くそそり勃つものが押し付けられていて、少しづつ釣られるようにして興奮してきていたななしも荒く震えるように呼吸してしまっていた。
このままこんな場所で、仕事が差し迫る中行為に耽るわけにも行かず。
体の中でグズグズと溜まっている行き場のない疼きに二人はただ抱きしめ合うことしか出来なかった。
『はぁ、もう…真島さん…頑張って仕事しましょう…』
「……無理やて」
『頑張って仕事終わらせたら、今日…真島さんのおうち…行きます…それまで一緒に頑張りましょう』
「ななし…」
真島が興奮しているという事実にななしもまた下腹部が疼き、下着が湿り出している。
彼女も酷く興奮していたが、まだ仕事に行かなければならないという理性は残っている。
だがこのままずっと生殺しなんて真島にもななしにも無理な話。
だから仕事が終わったらその時は…二人で気持ちのいいことをしよう。
荒い呼吸を繰り返す真島にそう提案したななしは、目の前の逞し体に力強く抱きついた。
目には見えなかったが随分絞り出したような声で「分かった」と、かなり渋々頷いた真島。
ななしは良かったと胸を撫で下ろした。
「せやけど…夜…覚悟しといてな」
『わ、分かりましたっ』
「服きてから行くさかい、先行っといてや」
『はい、待ってます』
「おう」
まだまだ興奮冷めやらぬ二人。
真島もまた自身が収まるまでこの部屋から出てくることは無いのだろう。
ずっとここにいて更に煽るようなことになっては行けないとななしは言われた通りに現れた扉を開きグランドへと戻って行った。
残された真島はというと頭を抱えながら、今夜どんな風に抱いてやろうかと意地の悪いことばかりを考えた。
今のように膝立ちになった彼女の口内に荒々しく腰を打ち付けてやろうか。
「アカン…収まりそうにないわ」
酷い妄想で余計に怒張してしまった情けない下半身に真島は自嘲気味に笑うことしか出来なかった。
それからグランドでの仕事を終えた後、結局ななしは膝立ちにさせられるのだが、今はまだ知る由もない。
5/23はキスの日なんだそうです。
一日遅れましたが…笑
まだまだ若いので興奮しがち。
まぁでも組長の方でも二人とも興奮してそうですよね。