○○しないと出られない
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(支配人/恋人)
*キスマークを付けないと出られない部屋
『はぁ〜帰りましょうか…真島さん』
「せやな、帰ろか」
グランドの営業と清掃を終えた真島とななしは顔を見合わせると椅子から立ち上がり施錠するために正面玄関へと向かった。
時刻はもう深夜の二時半を周っており、夕方から働いている二人はかなり疲労困憊であった。
特にななしは眠気に抗えなくなっているのか、ぼんやりとしており先を進む真島の後をゆっくりとついてまわっている状態だ。
ぼんやりとしすぎて頭や体をぶつけなければ良いが…と、フラフラしているななしが些か心配であった真島はそんな彼女の手をしっかり握ってやると歩調を合わせてホールの正面玄関へと向かった。
「ななし、少し段差あるさかい気ぃつけてな」
『はぁい、ありがとうございます』
ガラス張りの大きな扉を開いた真島。沓摺を指摘してやりながら自身の体を使い扉を固定してななしを外へ出してやる。
「階段も気ぃつけや」と、入口に通じる短い階段も指摘しながら真島は正面玄関の施錠に勤しんだ。
後方から『ふふふ、大丈夫ですよ〜』とふんわりとした声音でそう答えたななしだが、眠眼で半目状態の彼女を見る限りなかなかに危なげである。
過保護になりすぎだと言うことは分かってはいたものの大事にしているななしが怪我を負ってしまってからでは遅い。
何かが起こってしまう前に未然に防げるというのなら過保護と言われようがなんだろうが関係無いと、真島は一人うんうんと頷いた。
そうしながらもテキパキと正面玄関の施錠をし開かないことを確認した真島は「待たせてもうたな、ななし」と睡魔と戦っているななしの方へとゆっくり振り返った。
すると唐突にななしは『真島さん模様替えしたんですねぇ!』とどこか楽しそうにそう言い、キラキラとした瞳で此方を見上げてくる。
あまりにも話の脈略が無くいきなりそう言われたため少し困惑してしまった真島は「模様替え?何のこっちゃ」と片眉を釣り上げた。
『え?だってほら…見てください。机とお布団だけだったのに綺麗なソファがあるじゃないですか〜』
「…ど、どうなっとんねん」
ななしに促されるまま顔を起こした真島の視界に入ったのはグランド前の大通りではなく、彼女の言う通り豪華なソファが置かれた簡素な部屋の中だった。
「俺とななし、グランドから出ただけやぞ、なんでこんな場所におんねん。だいたいここはどこなんや…扉どこいってん」
『え?真島さんのアパートじゃないんですか?』
「ななし、睡魔で頭働いとらんで。目ぇ覚ませや」
『あ、あぅ。ゆ、揺すらないでください〜』
「目ぇ覚めたか?ちゃんと周り見て考えてみぃ!」
『ア、アタシと真島さんはグランドにいて…今から帰る予定だったんですよね……あれ、え?ここ何処です!?』
「目ぇ覚めたか。ここがどこか俺にもサッパリや」
睡魔と疲労で半分寝ていたななしは真島に言われて目を覚ますために自身の頬を強く手のひらで打つ。
痛みに目が覚めてくると、ようやっととんでもない事が起きていることを理解したらしく『何これぇ!?』と、怯えたように真島の腕にしがみついた。
真島も現実離れした事が起きているためすぐさま警戒態勢に入りななしを庇うように抱き寄せる。
しかし部屋をザッと見渡した限り扉もなく、人の気配は愚かカメラが置かれている様子もない。
この空間がなんなのか、誰が何を目的として閉じ込めたのか、自分たちの身に何が起こっているのか。
何をどう考えても答えを導き出すことが出来ず、疲れと睡魔も相まって頭がズキズキと傷んだ。
『真島さん。真島さん』
「ん?どないしてん」
『アタシ達がグランド出たのって二時半位でしたよね??』
「せや、いつもより少し遅なってしもたしな」
『じゃ!きっとこれ夢ですよ!!』
「夢ぇ?」
『そうですよ!だってそうじゃなきゃおかしいですもん。ホールの扉開いたらいきなり変な場所に繋がってたなんて夢以外そんな摩訶不思議な事起こるはずないです!!』
確かにいつもより数十分残業し、いそいそと働いたのは確かだ。眠気も疲労もこれ以上ないくらい感じているのも事実。
だが夢だと片付けてしまうには今の光景はあまりにもリアルで、意識もハッキリとしているし、嗅覚も体温もしっかり感じ取れている。
なによりななしと会話出来ているという時点で夢である可能性は限りなく低いだろう。
しかし色々な疲れが溜まっており、今すぐにでも眠ってしまいそうだったななしは考える事を放棄したようで。
しがみついていた腕から離れると目の前にある黒く革張りのソファ目掛けて勢いよく走っていってしまったのだ。
真島の静止を聞かず思いのままにソファにダイブしたななしは『あ〜…、冷たい〜』と、革素材に文句を言いながらもしっかりと瞳を閉じ体を丸めた。
「ななしっ、こんな意味わからん場所で寝たらアカン」
『でも夢ですもん。夢の中でくらい沢山寝ましょうよ。真島さんも、ね?』
「……」
ソファで丸まった猫のようなななしの傍に来た真島。
本当にこんな不気味な場所で寝てしまって大丈夫なのかと思うのだが、『一緒に寝ましょう』とソファの隙間をポンポンと叩く微睡んだななしがあまりにも愛らしくて。
もっと警戒してもっと調査しなければならないと分かってはいたものの、優しく誘 うななしに我慢ならず真島も彼女を抱きしめるようにしてソファにダイブしてしまったのだ。
腕の中にななしを閉じ込めると擽ったそうにクスクス笑う声と振動が伝わってくる。
あまりにも愛おしくて真島は腕の中にいるななしの首筋に顔を埋めて「あー、ホンマに寝てまいそうになるわ」と小さくボヤいた。
『寝ちゃいましょうよ…この際、嫌なことも全部忘れて二人でスッキリするまで』
「現実やったらどないするんや」
『え〜?だって現実だったらアタシ達瞬間移動?したことになりますよ?有り得ませんよ』
「分からんで。夢なんかやなくて全部が現実で起こっとることかもしれん」
『じゃ、怪奇現象…的な?』
「あながち間違いじゃないかもしれんでぇ?」
『や、辞めましょう。幽霊系はダメです』
「安心せぇ、俺が守ったるわ」
『こ、心強い…!一瞬で怖くなくなりました』
「幽霊やったらなんも出来ひんけどな」
『幽霊でも守って欲しいですっ!』
「こうしてくっついとったらええやん。そのうちこっから出れるやろ。夢やったら覚めるやろしな」
『た、確かにです』
真島も考えることを放棄し"これは夢だ"と己に言い聞かせ、二人きりでまったりするいい機会だとななしを抱きしめる腕に力を込めた。
夢なら目が覚めれば終わる、もし現実ならいなくなったと騒がれて誰かが探しに来るだろう。
どちらにしても何とかなる、そう楽観的に考えるようにして真島もまたゆっくりと瞳を閉じた。
しばしば二人で抱きしめあい温もりを堪能していると、腕の中でななしがモゾモゾと動き出し『背中の下に何かあるぅ』とそう言う。
ソファを確認することなく勢いに任せて寝転がったため何かが置かれていたのに気が付かなかったのかも知れない。
危険な物が置かれていたのかもしれないと真島は咄嗟にななしの腕を引き直ぐにソファから起き上がる。
『あ、何かありますね』
「封筒やな」
『封筒ですね』
二人で起き上がるとそこから黒い封筒が出て来たのだ。
ななしが背中に感じた違和感もきっとこの封筒だったのだろう。
若干シワが入ってしまっている封筒を手に取った真島は躊躇うことなく中身をとり出した。
中から出てきたのは白いふたつ折の紙。
真島は何が書かれているのかと出てきた紙を広げた。
『えっと…"キスマークをつけないと出られない部屋"…って書いてありますね』
「あ?どういうことや」
『さ、さぁ…アタシにもよく分かりませんが文字通りならキスマークを付ければこの謎の部屋から出られると言うことですね』
「なるほど、よぅ分からんな」
『はい、よぅ分かりません』
出てきた紙に書かれていたのは"キスマークをつけないと出られない部屋"だ。
真島もななしも頭の上にはてなマークを浮かべて首を傾げた。
紙に記されている通りならばどちらかがキスマークをつければ、この謎の空間から出ることができるらしい。
しかしどうしてキスマークをつける必要があるのか、何故そうしなければここから出られないのか。
考えても答えの分からないことがあまりにも多すぎて、二人は頭を抱えてしまった。
だがもし今この出来事も現実のもので時間が進んでいるのだとしたなら。この謎の空間に閉じ込められている時間はあまりにも勿体ないのではないか。
半信半疑ではあったが縋るものはこの黒い封筒だけしかないため、一か八か試してみてもいいんじゃないだろうかと真島は未だに思い悩んでいるななしを見下ろした。
それに恋人同士、今までキスマークも散々つけあってきた仲だ。
今更一つ二つつけるのなど造作もないこと。
真島は「ほな付けてみるか?」とななしの首筋を指さしながらそう言った。
『あ、えっと…付けるんですか?』
「ものは試しや、やってみてもええと思うで」
『そ、そうですね』
「嫌か?」
『嫌じゃないですけど…は、恥ずかしいです…明るい場所だし…いつもはもっとこう…雰囲気?があるじゃないですか』
「ななし。これからも俺とおるんやさかい慣れていこうや、恥ずかしかったら目ぇつむっとき」
『これからもっ…ふふ、そうですね。嬉しいです…でも、誰かに見られてるかもしれないって事ですよね?』
「ええやんけ、閉じ込めたヤツに見せつけてやろうやないか」
『ま、真島さんっ』
人力で扉を別の空間に繋げるなどほぼ不可能だろうと思うのだが、それでもここにはいない誰かに見られているかもしれないとななしは恥ずかしそうにしている。
しかしそんなことをやってのける人物がいたとして、今正にこの現場も見ているのだとしたら。
次はこちらが閉じ込めた相手に仕返しをする番だ、嫌がらせの如く見せつけてやる。
仲の良さを、愛し合っている姿を顔も知らぬ人物が嫌というまで。
真島は心の中でそんな事を考えながら、狼狽えているななしのワイシャツのボタンを一つずつ外していく。
『本気ですかー!』と顔を赤らめているななしには申し訳なかったがここまで来たら辞めるという選択肢はなかった。
三つほどボタンを外すと白くキメ細やかな肌と綺麗に浮き出た鎖骨が現れ、ボタンを外していた真島の視線は釘付けになってしまう。
別に普通に目にする体の一部なのにどうしてこんなにも官能的に見えてしまうのだろうか。
真島は現れたななしの美しい肌を見、喉が鳴るのを感じた。
どれだけ飢えているんだと自嘲気味に笑った後「ほな、付けんでななし」と未だにモジモジとしているななしの肩を掴み顔を寄せた。
『んっ…』
まずは鼻先をななしの柔らかな肌にくっつけた真島。少しヒンヤリとしているし、永遠に触っていられるほどスベスベとしている。
彼女の柔らかさを堪能しつつ、ゆっくり己の唇を舐めてから目の前の鎖骨に唇を寄せた。
ななしの短く飛び出た可愛らしい声を耳にしながら、真島は口をすぼめて軽く肌を吸い上げる。
『ま、真島さんっ…』
何度か位置をずらし吸い上げてを繰り返し行った後、ゆっくりと顔を上げてななしを見下ろせば彼女は恥ずかしさに微かに震えており、涙目で此方を見つめていた。
そして晒された白い肌には赤いキスマークが幾つも散りばめられており、彼女の妖艶さをより際立たせているようだった。
『ん、は、恥ずかしい…』と腕の中で小さくなり顔を真っ赤にするななしに下半身がゾクゾクと熱を持ち出した。こんな場所でアカンで!と思うものの、真島の体は正直で。
微かに興奮し始めていた真島の中心部は既に緩く顔を起こしている状態だった。
なんとなくななしに悟られまいと下半身をひっつけないようにしながら強く抱き締めてやる。
『も、帰れます?』
「どやろな」
『扉は?』
「さっきまでなかった扉あるわ…ほんまどうなっとんねん」
『やっぱり夢なんでしょうか』
「よう分からんわ、開けてみるか」
『は、はい』
色々と限界が近いななしの背中と膝裏に腕を回し抱き上げた真島はゆっくりとソファから立ち上がると、現れた扉の方にへと向かった。
先程まで壁であった場所にどうして扉が出てきたのか。人知を超えた何かが作用しているとしか思えないし、ななしの言う通り夢なのかもしれない。
ただ考えても仕方が無いので、意味不明なことは一先ず置いておいて真島はななしを抱えたまま器用に扉を開いた。
『あ、グランドですね』
「グランドやな」
『…来た時とおなじで正面玄関に戻りましたね。やっぱり夢ですよ夢』
扉を開くとこちらに来る前にいた空間、グランドの正面玄関前に繋がっていたらしい。
深夜にもかかわらず明るく光る飲食店や、行き交う人々を見、ようやく帰って来れたのかと真島は人知れずため息を着いた。
腕の中にいるななしはやはり現実離れした一連の出来事に納得出来ていなようで、終始夢だ夢だと言っている。
しかし彼女のワイシャツからはみ出た沢山のキスマークは確かに存在していて、先程の出来事は夢ではないとそう主張しているようであった。
『頭パンクしちゃいそう…』
「まぁ、一旦帰ろか。今日もようさん働いて疲れたやろ」
『そうですね…』
今度こそ今日の疲れを取るために休もう。
そうしないと明日(もう今日だが)、働ける程の体力が復活しない。
真島はそう思いグランド前の階段をななしを抱えたまま降りると、ゆっくりと自宅のアパートに向かった。
『あ、ま、真島さん?アタシのお家招福町南ですよ?いつもの場所…』
ななしが困ったようにこっちは自宅ではないとそう言うが、真島は気にすることなく歩き続けた。
そうして直ぐに古臭いアパートに到着すると、寂れた階段を上りななしを抱えたまま自室にへと入った。
彼女が涙目でしがみつく姿を見て、普段通りで居られるはずがない。
この興奮しきった体の熱は沢山花を咲かせたななししか沈めることは出来ない。
『あ、真島さん?まさか…』
「今が夢やないって事一緒に確認しよや、ななし」
『も、もう夜遅いですよ!?』
「おうせやな」
『ま、真島さっ…んっ』
先程の謎の空間で付けたキスマークを指でなぞりながら、今度はななしのふっくらとした唇に唇をひっつけた真島。
本来ならもうゆっくり休みたいだろうに…と罪悪感を感じたが、こうなってしまってはもうとまることは出来ない。
今日起きた出来事が何なのかを考えるのは後回しにして、今はこの熱を一刻も早く発散したいと真島は腕の中のななしをキツく抱きしめたのだった。
お粗末!
支配人第一弾、キスマークをつけないと出られない部屋でした。
これから支配人とななしちゃんも理不尽な目に合えばいいなと思っております笑
*キスマークを付けないと出られない部屋
『はぁ〜帰りましょうか…真島さん』
「せやな、帰ろか」
グランドの営業と清掃を終えた真島とななしは顔を見合わせると椅子から立ち上がり施錠するために正面玄関へと向かった。
時刻はもう深夜の二時半を周っており、夕方から働いている二人はかなり疲労困憊であった。
特にななしは眠気に抗えなくなっているのか、ぼんやりとしており先を進む真島の後をゆっくりとついてまわっている状態だ。
ぼんやりとしすぎて頭や体をぶつけなければ良いが…と、フラフラしているななしが些か心配であった真島はそんな彼女の手をしっかり握ってやると歩調を合わせてホールの正面玄関へと向かった。
「ななし、少し段差あるさかい気ぃつけてな」
『はぁい、ありがとうございます』
ガラス張りの大きな扉を開いた真島。沓摺を指摘してやりながら自身の体を使い扉を固定してななしを外へ出してやる。
「階段も気ぃつけや」と、入口に通じる短い階段も指摘しながら真島は正面玄関の施錠に勤しんだ。
後方から『ふふふ、大丈夫ですよ〜』とふんわりとした声音でそう答えたななしだが、眠眼で半目状態の彼女を見る限りなかなかに危なげである。
過保護になりすぎだと言うことは分かってはいたものの大事にしているななしが怪我を負ってしまってからでは遅い。
何かが起こってしまう前に未然に防げるというのなら過保護と言われようがなんだろうが関係無いと、真島は一人うんうんと頷いた。
そうしながらもテキパキと正面玄関の施錠をし開かないことを確認した真島は「待たせてもうたな、ななし」と睡魔と戦っているななしの方へとゆっくり振り返った。
すると唐突にななしは『真島さん模様替えしたんですねぇ!』とどこか楽しそうにそう言い、キラキラとした瞳で此方を見上げてくる。
あまりにも話の脈略が無くいきなりそう言われたため少し困惑してしまった真島は「模様替え?何のこっちゃ」と片眉を釣り上げた。
『え?だってほら…見てください。机とお布団だけだったのに綺麗なソファがあるじゃないですか〜』
「…ど、どうなっとんねん」
ななしに促されるまま顔を起こした真島の視界に入ったのはグランド前の大通りではなく、彼女の言う通り豪華なソファが置かれた簡素な部屋の中だった。
「俺とななし、グランドから出ただけやぞ、なんでこんな場所におんねん。だいたいここはどこなんや…扉どこいってん」
『え?真島さんのアパートじゃないんですか?』
「ななし、睡魔で頭働いとらんで。目ぇ覚ませや」
『あ、あぅ。ゆ、揺すらないでください〜』
「目ぇ覚めたか?ちゃんと周り見て考えてみぃ!」
『ア、アタシと真島さんはグランドにいて…今から帰る予定だったんですよね……あれ、え?ここ何処です!?』
「目ぇ覚めたか。ここがどこか俺にもサッパリや」
睡魔と疲労で半分寝ていたななしは真島に言われて目を覚ますために自身の頬を強く手のひらで打つ。
痛みに目が覚めてくると、ようやっととんでもない事が起きていることを理解したらしく『何これぇ!?』と、怯えたように真島の腕にしがみついた。
真島も現実離れした事が起きているためすぐさま警戒態勢に入りななしを庇うように抱き寄せる。
しかし部屋をザッと見渡した限り扉もなく、人の気配は愚かカメラが置かれている様子もない。
この空間がなんなのか、誰が何を目的として閉じ込めたのか、自分たちの身に何が起こっているのか。
何をどう考えても答えを導き出すことが出来ず、疲れと睡魔も相まって頭がズキズキと傷んだ。
『真島さん。真島さん』
「ん?どないしてん」
『アタシ達がグランド出たのって二時半位でしたよね??』
「せや、いつもより少し遅なってしもたしな」
『じゃ!きっとこれ夢ですよ!!』
「夢ぇ?」
『そうですよ!だってそうじゃなきゃおかしいですもん。ホールの扉開いたらいきなり変な場所に繋がってたなんて夢以外そんな摩訶不思議な事起こるはずないです!!』
確かにいつもより数十分残業し、いそいそと働いたのは確かだ。眠気も疲労もこれ以上ないくらい感じているのも事実。
だが夢だと片付けてしまうには今の光景はあまりにもリアルで、意識もハッキリとしているし、嗅覚も体温もしっかり感じ取れている。
なによりななしと会話出来ているという時点で夢である可能性は限りなく低いだろう。
しかし色々な疲れが溜まっており、今すぐにでも眠ってしまいそうだったななしは考える事を放棄したようで。
しがみついていた腕から離れると目の前にある黒く革張りのソファ目掛けて勢いよく走っていってしまったのだ。
真島の静止を聞かず思いのままにソファにダイブしたななしは『あ〜…、冷たい〜』と、革素材に文句を言いながらもしっかりと瞳を閉じ体を丸めた。
「ななしっ、こんな意味わからん場所で寝たらアカン」
『でも夢ですもん。夢の中でくらい沢山寝ましょうよ。真島さんも、ね?』
「……」
ソファで丸まった猫のようなななしの傍に来た真島。
本当にこんな不気味な場所で寝てしまって大丈夫なのかと思うのだが、『一緒に寝ましょう』とソファの隙間をポンポンと叩く微睡んだななしがあまりにも愛らしくて。
もっと警戒してもっと調査しなければならないと分かってはいたものの、優しく
腕の中にななしを閉じ込めると擽ったそうにクスクス笑う声と振動が伝わってくる。
あまりにも愛おしくて真島は腕の中にいるななしの首筋に顔を埋めて「あー、ホンマに寝てまいそうになるわ」と小さくボヤいた。
『寝ちゃいましょうよ…この際、嫌なことも全部忘れて二人でスッキリするまで』
「現実やったらどないするんや」
『え〜?だって現実だったらアタシ達瞬間移動?したことになりますよ?有り得ませんよ』
「分からんで。夢なんかやなくて全部が現実で起こっとることかもしれん」
『じゃ、怪奇現象…的な?』
「あながち間違いじゃないかもしれんでぇ?」
『や、辞めましょう。幽霊系はダメです』
「安心せぇ、俺が守ったるわ」
『こ、心強い…!一瞬で怖くなくなりました』
「幽霊やったらなんも出来ひんけどな」
『幽霊でも守って欲しいですっ!』
「こうしてくっついとったらええやん。そのうちこっから出れるやろ。夢やったら覚めるやろしな」
『た、確かにです』
真島も考えることを放棄し"これは夢だ"と己に言い聞かせ、二人きりでまったりするいい機会だとななしを抱きしめる腕に力を込めた。
夢なら目が覚めれば終わる、もし現実ならいなくなったと騒がれて誰かが探しに来るだろう。
どちらにしても何とかなる、そう楽観的に考えるようにして真島もまたゆっくりと瞳を閉じた。
しばしば二人で抱きしめあい温もりを堪能していると、腕の中でななしがモゾモゾと動き出し『背中の下に何かあるぅ』とそう言う。
ソファを確認することなく勢いに任せて寝転がったため何かが置かれていたのに気が付かなかったのかも知れない。
危険な物が置かれていたのかもしれないと真島は咄嗟にななしの腕を引き直ぐにソファから起き上がる。
『あ、何かありますね』
「封筒やな」
『封筒ですね』
二人で起き上がるとそこから黒い封筒が出て来たのだ。
ななしが背中に感じた違和感もきっとこの封筒だったのだろう。
若干シワが入ってしまっている封筒を手に取った真島は躊躇うことなく中身をとり出した。
中から出てきたのは白いふたつ折の紙。
真島は何が書かれているのかと出てきた紙を広げた。
『えっと…"キスマークをつけないと出られない部屋"…って書いてありますね』
「あ?どういうことや」
『さ、さぁ…アタシにもよく分かりませんが文字通りならキスマークを付ければこの謎の部屋から出られると言うことですね』
「なるほど、よぅ分からんな」
『はい、よぅ分かりません』
出てきた紙に書かれていたのは"キスマークをつけないと出られない部屋"だ。
真島もななしも頭の上にはてなマークを浮かべて首を傾げた。
紙に記されている通りならばどちらかがキスマークをつければ、この謎の空間から出ることができるらしい。
しかしどうしてキスマークをつける必要があるのか、何故そうしなければここから出られないのか。
考えても答えの分からないことがあまりにも多すぎて、二人は頭を抱えてしまった。
だがもし今この出来事も現実のもので時間が進んでいるのだとしたなら。この謎の空間に閉じ込められている時間はあまりにも勿体ないのではないか。
半信半疑ではあったが縋るものはこの黒い封筒だけしかないため、一か八か試してみてもいいんじゃないだろうかと真島は未だに思い悩んでいるななしを見下ろした。
それに恋人同士、今までキスマークも散々つけあってきた仲だ。
今更一つ二つつけるのなど造作もないこと。
真島は「ほな付けてみるか?」とななしの首筋を指さしながらそう言った。
『あ、えっと…付けるんですか?』
「ものは試しや、やってみてもええと思うで」
『そ、そうですね』
「嫌か?」
『嫌じゃないですけど…は、恥ずかしいです…明るい場所だし…いつもはもっとこう…雰囲気?があるじゃないですか』
「ななし。これからも俺とおるんやさかい慣れていこうや、恥ずかしかったら目ぇつむっとき」
『これからもっ…ふふ、そうですね。嬉しいです…でも、誰かに見られてるかもしれないって事ですよね?』
「ええやんけ、閉じ込めたヤツに見せつけてやろうやないか」
『ま、真島さんっ』
人力で扉を別の空間に繋げるなどほぼ不可能だろうと思うのだが、それでもここにはいない誰かに見られているかもしれないとななしは恥ずかしそうにしている。
しかしそんなことをやってのける人物がいたとして、今正にこの現場も見ているのだとしたら。
次はこちらが閉じ込めた相手に仕返しをする番だ、嫌がらせの如く見せつけてやる。
仲の良さを、愛し合っている姿を顔も知らぬ人物が嫌というまで。
真島は心の中でそんな事を考えながら、狼狽えているななしのワイシャツのボタンを一つずつ外していく。
『本気ですかー!』と顔を赤らめているななしには申し訳なかったがここまで来たら辞めるという選択肢はなかった。
三つほどボタンを外すと白くキメ細やかな肌と綺麗に浮き出た鎖骨が現れ、ボタンを外していた真島の視線は釘付けになってしまう。
別に普通に目にする体の一部なのにどうしてこんなにも官能的に見えてしまうのだろうか。
真島は現れたななしの美しい肌を見、喉が鳴るのを感じた。
どれだけ飢えているんだと自嘲気味に笑った後「ほな、付けんでななし」と未だにモジモジとしているななしの肩を掴み顔を寄せた。
『んっ…』
まずは鼻先をななしの柔らかな肌にくっつけた真島。少しヒンヤリとしているし、永遠に触っていられるほどスベスベとしている。
彼女の柔らかさを堪能しつつ、ゆっくり己の唇を舐めてから目の前の鎖骨に唇を寄せた。
ななしの短く飛び出た可愛らしい声を耳にしながら、真島は口をすぼめて軽く肌を吸い上げる。
『ま、真島さんっ…』
何度か位置をずらし吸い上げてを繰り返し行った後、ゆっくりと顔を上げてななしを見下ろせば彼女は恥ずかしさに微かに震えており、涙目で此方を見つめていた。
そして晒された白い肌には赤いキスマークが幾つも散りばめられており、彼女の妖艶さをより際立たせているようだった。
『ん、は、恥ずかしい…』と腕の中で小さくなり顔を真っ赤にするななしに下半身がゾクゾクと熱を持ち出した。こんな場所でアカンで!と思うものの、真島の体は正直で。
微かに興奮し始めていた真島の中心部は既に緩く顔を起こしている状態だった。
なんとなくななしに悟られまいと下半身をひっつけないようにしながら強く抱き締めてやる。
『も、帰れます?』
「どやろな」
『扉は?』
「さっきまでなかった扉あるわ…ほんまどうなっとんねん」
『やっぱり夢なんでしょうか』
「よう分からんわ、開けてみるか」
『は、はい』
色々と限界が近いななしの背中と膝裏に腕を回し抱き上げた真島はゆっくりとソファから立ち上がると、現れた扉の方にへと向かった。
先程まで壁であった場所にどうして扉が出てきたのか。人知を超えた何かが作用しているとしか思えないし、ななしの言う通り夢なのかもしれない。
ただ考えても仕方が無いので、意味不明なことは一先ず置いておいて真島はななしを抱えたまま器用に扉を開いた。
『あ、グランドですね』
「グランドやな」
『…来た時とおなじで正面玄関に戻りましたね。やっぱり夢ですよ夢』
扉を開くとこちらに来る前にいた空間、グランドの正面玄関前に繋がっていたらしい。
深夜にもかかわらず明るく光る飲食店や、行き交う人々を見、ようやく帰って来れたのかと真島は人知れずため息を着いた。
腕の中にいるななしはやはり現実離れした一連の出来事に納得出来ていなようで、終始夢だ夢だと言っている。
しかし彼女のワイシャツからはみ出た沢山のキスマークは確かに存在していて、先程の出来事は夢ではないとそう主張しているようであった。
『頭パンクしちゃいそう…』
「まぁ、一旦帰ろか。今日もようさん働いて疲れたやろ」
『そうですね…』
今度こそ今日の疲れを取るために休もう。
そうしないと明日(もう今日だが)、働ける程の体力が復活しない。
真島はそう思いグランド前の階段をななしを抱えたまま降りると、ゆっくりと自宅のアパートに向かった。
『あ、ま、真島さん?アタシのお家招福町南ですよ?いつもの場所…』
ななしが困ったようにこっちは自宅ではないとそう言うが、真島は気にすることなく歩き続けた。
そうして直ぐに古臭いアパートに到着すると、寂れた階段を上りななしを抱えたまま自室にへと入った。
彼女が涙目でしがみつく姿を見て、普段通りで居られるはずがない。
この興奮しきった体の熱は沢山花を咲かせたななししか沈めることは出来ない。
『あ、真島さん?まさか…』
「今が夢やないって事一緒に確認しよや、ななし」
『も、もう夜遅いですよ!?』
「おうせやな」
『ま、真島さっ…んっ』
先程の謎の空間で付けたキスマークを指でなぞりながら、今度はななしのふっくらとした唇に唇をひっつけた真島。
本来ならもうゆっくり休みたいだろうに…と罪悪感を感じたが、こうなってしまってはもうとまることは出来ない。
今日起きた出来事が何なのかを考えるのは後回しにして、今はこの熱を一刻も早く発散したいと真島は腕の中のななしをキツく抱きしめたのだった。
お粗末!
支配人第一弾、キスマークをつけないと出られない部屋でした。
これから支配人とななしちゃんも理不尽な目に合えばいいなと思っております笑