○○しないと出られない
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(真島/恋人)
*腕相撲しないと出られない部屋
「ななし、ななし。はよ起き」
『んー…』
酷く心地よい微睡みの中、頬を優しく叩かれる感覚にぼんやりと目を開いたななし。
霞む視界の中でまず初めに飛び込んできたのはこちらを覗き込んでいる真島だった。
真島はどこかホッとしたような顔をした後「緊張感のないやつやな」とクツクツ笑っていた。
『あれ?ここは…』
「俺もよう分からん。気付いたらここにおったんや」
どうして眠っていたのかもよく分からないが真島の次に視界に入った天井が初めて見る物で。ななしはここはどこなのだろうかと覚醒しきらないまま上半身を起こして辺りを見渡してみる。
簡素な作りで広さにしてみれば6畳くらいだろうか。
家具もほとんどなく、申し訳程度に二つの椅子とテーブルだけがちんまりと置かれているだけ。
真島組の事務所でもないし自宅でも職場でもない。
あまりにも身に覚えのない空間だった。
どうやらそれは真島も同じだったようで、「変なことに巻き込まれたのぉ」と苛立っているようである。
『吾朗さんも分からないんですか?』
「全く知らん場所や。だいたいさっきまで事務所におったんにどういう事や。事務所出た覚えも運ばれた記憶もないで」
『アタシもよく分かんないです』
「お前は終始寝とったさかい分からんやろな」
『でも寝ちゃった記憶は無いんですけど、どうしてだろう?一緒に事務所にいたはずなのに不思議〜』
「脳天気なやっちゃなぁ」
つい先程まで真島と共に事務所で寛いでいたはずなのに、どういう訳かこの謎の空間にいたらしい。
拉致された可能性もあるが真島は記憶にないっと言っているし、そもそも白昼堂々神室町で恐れられている真島組に侵入し組長を攫うような人間などそうそういないだろう。
かと言って自分たちでここに来たわけでもないので謎は深まるばかりだ。
『考えても仕方ないので、帰り道探しましょう吾朗さん』
「お前が寝とるうちに調べたわ」
『爆睡している間にありがとうございます』
「おう。ま、ようさん見て回っても出入口も窓もなにもなかったけどな」
『え!?なにもないんですか!?』
「全面壁や」
『か、壁…。あ!地下とか?』
「地面のつぎはぎもなんもない。完全密室やな」
『ど、どういうこと…』
「全く分からん」
『宇宙人の仕業かもしれません』
「アホやな。そんな事あるかい!」
『だってもう意味わからなさすぎて気持ち悪いんですもん〜』
「おい、勝手に歩くなや。危ないで」
『吾朗さんも来てくださいよ』
真島の全面壁発言に驚きを隠せないななしは自分も確かめてみようとゆっくり立ち上がった。
まだこの場所が安全か分かっていないため散策するのは危険だと立ち上がったななしの傍に真島も駆け寄り、二人はピッタリくっつきながら部屋を見渡した。
やはり壁には扉や窓といったものが一切ない。
不気味な空間だと、最早恐怖を感じてきたななしは隣の真島にギュッとしがみついた。
部屋を一周してみたが得られた情報はほとんどなく。
結局この場所がなんなのか、何を理由で連れてこられたのか何も分からなかった。
はぁ、と盛大なため息をついて部屋の中央に置かれていた椅子に座った真島。
進展しない現状にすこし疲れているらしい。
すると椅子に座った真島の傍で立っていたななしは、テーブルの上になにかが置かれていることに気がついた。
『あれ、こんなものありましたっけ?』
「あ?」
『封筒ですね。開けてみてもいいですか?』
「俺が開けたる。貸してみぃ」
『はい』
それは黒い封筒だった。
部屋を見て回っていた時は気が付かなかったがずっと置かれていたのだろう。
真島に封筒を渡したななしは開封している彼の肩口から何が出てくるのかと、緊張した様に見つめた。
「紙やな」
『なにか書いてありますね…"腕相撲しないと出られない部屋(全力で)"…?』
「お、聞いたことあんな」
『え!?聞いたことあります?』
「何かせんと出られん部屋。昔神室町でこういうの流行ったんや。当時は腕相撲やなくてもっとエロいことやったけどな」
『な、なにそれ!?そんな恐怖の部屋があるんですか!?誰がなんの目的でそんなことをしてるんです?』
「さぁな。ただの噂話やったさかい詳細は分からん。せやけどこうして起こったっちゅうことは現実なんやろな」
『な、なんでアタシ達が…』
"腕相撲しないと出られない部屋(全力で)"
白い紙にはそう書かれており、ななしを困惑させた。
もし本当に腕相撲をして部屋を出られるのだとしたらそれで良いのだが、誰がなにを目的としてこんな場所で腕相撲させようとしているのか。
というか何故腕相撲なのか。
最早なにもわからなさ過ぎて怪奇現象を疑うレベルだが、真島曰く「神室町はなんでもアリ」らしい。
こんな非現実的な事もなんでもアリの中に含まれているのか。
ななしには到底理解できなかったが、これ以上考えても仕方がないと切り替えて、この空間から早く脱出するために『腕相撲してみましょう!』と真島にそう提案した。
『出られるかは分かりませんけど、やってみましょう!腕相撲!』
「…」
『吾朗さん?』
「お前、この全力でって文字見えへんのか?」
『見えますけど…どうしました?』
「俺が全力出したらお前の腕バキバキになんで?」
『大丈夫ですよ〜瞬殺でしょうしバーンってなって終わりますよ』
「そのバーンで折れたらどうすんねん」
『じゃぁ、なにか敷いときます?アタシの上着とか』
「ほんならこのジャケット敷いとけ。気休めでもクッションになるやろ」
『いいんですか?汚れちゃいますよ』
「アホ!そんなもんどうとでもなるわ。ななしは腕の心配せぇや」
『ふふ、もう大丈夫ですって』
きっと勝負は一瞬で終わる。真島の圧倒的力に張り合うことすら出来ずに。
もしななしにそこそこの力があって勝負が均衡すれば、腕を痛めたり怪我の可能性もあるだろうが、一瞬で勝敗が決まるような腕相撲だ。
怪我をする可能性は極めて低いだろう。
真島は渋々といった感じでおもむろにジャケットを脱ぎ机の上に広げると、腕相撲が出来るように肘を付いた。
ななしもそれに合わせて机に肘を付く。
『ふふふ!腕の長さが違いすぎて勝負すら出来なさそうですね』
「角度緩めたら行けるやろ」
『なるほど、あ!握れましたね』
「こんな細っこい腕とちっさい手ぇしよって…」
『吾朗さんが大っきいんですよ。アタシは平均サイズです』
「そうやとしてもこんなん絶対折れるやろ」
『アタシ毎朝ヨーグルト食べてるんできっと骨太ですよ』
「お前はヨーグルトを過信しすぎや」
『ふふふ、ヨーグルトを過信し過ぎって、ちょっと面白いですね』
「わろとる場合やないで!」
『ふふ、すみません。集中します!』
そう言うとななしはギュッと拳に力を入れて真島を見つめた。
未だに全力でと言うのに引っかかっているのか真島は嫌そうに顔を歪めている。
しかしここまで来てやらない訳にも行かない。
もし出られるのだとしたら早く行うべきだ。
ななしは一度頷いた後緊張感漂う静寂の中で勢いよく『よーい、スタート!』と腕相撲の開始の合図をした。
自分もその合図に合わせ全力で真島の腕を押さえつけようと腕全体に力を入れてみるが、まるで大木を相手にしているかの如く一ミリも動かすことが出来ない。
強いとうより最早根付いている。
そんなふうに思う程、ピクリともしない。
『ふぬぬぬぬぬ!!!』
「…全力なんか?」
『全力もっ!全力です!!』
「……全体重掛けてみ?」
『かーけーてーまーすぅ!!』
「お前は子供か」
『うぐぐ…う、動か、ないぃ!』
ななしは体重をかけて最早ぶら下がるように力を入れてみるがそれでも真島は顔色一つ変えることは無かった。
分かってはいたことだがとんでもなく強い。
大木、いや最早ビル。
なにをしても真島の腕を動かすことが出来なかった。
そんな全力で頑張っているななしを見つめている真島。正直赤子を相手にしているレベルで、筋トレにすらならないと思っている。
だが可愛らしい力で食ってかかるななしに言い知れぬ尊さを感じているのも事実。
これから全力で押さえつけても良いものかと頭を悩ませた。
しかしそう悩んでいる間も力を抜かず奮闘しているななしを見、いつ体力が尽きてしまうか分からないし早めに勝負をつけてやろうと真島は息を吸い込んだ。
絶対に怪我をさせぬように、折ってしまわないように。でも全力で。
全神経を腕に集中させた真島はななしの細い腕の力が怯んだ一瞬の隙を狙って、机の上にグッと押さえつけた。
押さえつけられた腕は瞬く間にジャケットの上にバーンと叩きつけられて、二人の腕相撲勝負は数十秒という速さで幕を閉じた。
『えへへ、負けちゃいました〜』
「痛なかったか?」
『え?全然大丈夫ですよ!この通りめちゃくちゃ元気です』
「ほうか」
結局ジャケットを敷いてもそれなりに大きな音が鳴り、叩きつけられたであろう腕は微かに赤くなっていた。
当の本人は全然大丈夫です!と腕を伸ばしたり曲げたりして見せてくれるが真島は気が気でない。
こんな心臓に悪いこと二度とせん、と少し赤くなったななしの手を取り撫でてやる。
くすぐったいと笑っているななしの笑顔に少し救われるようだった。
『あ!吾朗さん、見てください。扉!』
「ん?扉…さっきまで壁やったんに」
『これって全力で腕相撲したから現れたって事ですか!?やっぱり吾朗さんの言った通りなにかしないと出られない部屋だったんですね!』
「おう、さっと出るで。こんなとこおったら次何させられるか分からんわ」
『良かったー!意味不明だけど出られる!』
封筒の中の紙に書いていた通り腕相撲をすれば、扉が現れた。
何故先程まで壁だった部分が扉になったのか、どういう原理で?物理的にありえない…なんて、そんな野暮な事はもう考えないようにしてようやく出られると二人は喜んだ。
『帰ろ、吾朗さん』
「帰ろか」
思い残すこともないのでジャケトとななしを引っつかみ急いで扉を開くと、向こう側はどうやら真島組の組長室に繋がっているようだった。
もう何も思うまい。
考えたってどうにもならないのだから。
真島とななしは止まることなく扉を潜り、見慣れた組長室へと飛び込んだ。
『やったぁ!!おかえりなさい自分〜、おかえりなさい吾朗さぁん!』
「はぁ、頭おかしなるわ」
見慣れた家具や空間、普段目にする物全てが揃っていて。ようやくあの変な空間から抜け出すことが出来たと実感できた。
摩訶不思議体験に心底疲れきった真島と、そんな真島にしがみつきながら安堵しているななし。
頭をグリグリと胸筋に押し付けてくるななしの事を抱きしめてやりながら、真島もそっと安堵の息を着いた。
『…ていうかあの扉は元々事務所の出入口ですけど…もう繋がって無いですよね?』
「開けてみるか?」
『え…ちょっと怖いですけど…開けてみます?』
「どこに繋がっとっても中々のもんやで」
『確かに…別の空間に繋がる扉ってもうどこでもドアだもん…』
「行きたい場所に行けへんどこでもドアなんて不良品やろ。青狸に返品もんやで」
『クーリングオフしてやりましょう』
「おし開けてみんで」
『は、はい』
戻ってきた扉は組長室と事務所を繋ぐ扉だ。普段は事務所内を行き来することしか出来ない。
なのにあの変な空間から戻る時その扉を経由したため、まだその空間に繋がっているのではないかと不安ばかりが募る。
もし再び繋がっていたとしたら、結局また閉じ込められているに等しい。
真島はドアノブを掴むと勢いよく扉を開いた。
「おわ!?お、親父!?お、お疲れ様っす!」
勢いよく開けばそこには真島組の組員である西田がおり、いきなり開き現れた真島とななしに大層驚いたようであった。
『繋がってないって事ですよね!?』
「今はな」
『ふ、不吉なこと言わないでください〜』
「ヒヒッ、また連れてかれるかもしれんのぉ」
「??」
結果は繋がっていなかったものの、また繋がる可能性は大いにあるのだろう。
真島もななしも二度目がないことを祈るばかりだ。
だが彼らの切実な願いは虚しく。
この先"何かをしないと出られない部屋"に幾度となく閉じ込められることとなるのだが、この時の真島とななしは知る由もない。
○○しないと出られない部屋シリーズ一作目になります。
書きたいお話が沢山あるのでこれからチマチマ更新予定です。
今回のお話は謎の空間を認知させるお話だったので健全なものでしたがこれからはバリバリ不健全書いていきたいと思っております( ˇωˇ )
お粗末でした!
*腕相撲しないと出られない部屋
「ななし、ななし。はよ起き」
『んー…』
酷く心地よい微睡みの中、頬を優しく叩かれる感覚にぼんやりと目を開いたななし。
霞む視界の中でまず初めに飛び込んできたのはこちらを覗き込んでいる真島だった。
真島はどこかホッとしたような顔をした後「緊張感のないやつやな」とクツクツ笑っていた。
『あれ?ここは…』
「俺もよう分からん。気付いたらここにおったんや」
どうして眠っていたのかもよく分からないが真島の次に視界に入った天井が初めて見る物で。ななしはここはどこなのだろうかと覚醒しきらないまま上半身を起こして辺りを見渡してみる。
簡素な作りで広さにしてみれば6畳くらいだろうか。
家具もほとんどなく、申し訳程度に二つの椅子とテーブルだけがちんまりと置かれているだけ。
真島組の事務所でもないし自宅でも職場でもない。
あまりにも身に覚えのない空間だった。
どうやらそれは真島も同じだったようで、「変なことに巻き込まれたのぉ」と苛立っているようである。
『吾朗さんも分からないんですか?』
「全く知らん場所や。だいたいさっきまで事務所におったんにどういう事や。事務所出た覚えも運ばれた記憶もないで」
『アタシもよく分かんないです』
「お前は終始寝とったさかい分からんやろな」
『でも寝ちゃった記憶は無いんですけど、どうしてだろう?一緒に事務所にいたはずなのに不思議〜』
「脳天気なやっちゃなぁ」
つい先程まで真島と共に事務所で寛いでいたはずなのに、どういう訳かこの謎の空間にいたらしい。
拉致された可能性もあるが真島は記憶にないっと言っているし、そもそも白昼堂々神室町で恐れられている真島組に侵入し組長を攫うような人間などそうそういないだろう。
かと言って自分たちでここに来たわけでもないので謎は深まるばかりだ。
『考えても仕方ないので、帰り道探しましょう吾朗さん』
「お前が寝とるうちに調べたわ」
『爆睡している間にありがとうございます』
「おう。ま、ようさん見て回っても出入口も窓もなにもなかったけどな」
『え!?なにもないんですか!?』
「全面壁や」
『か、壁…。あ!地下とか?』
「地面のつぎはぎもなんもない。完全密室やな」
『ど、どういうこと…』
「全く分からん」
『宇宙人の仕業かもしれません』
「アホやな。そんな事あるかい!」
『だってもう意味わからなさすぎて気持ち悪いんですもん〜』
「おい、勝手に歩くなや。危ないで」
『吾朗さんも来てくださいよ』
真島の全面壁発言に驚きを隠せないななしは自分も確かめてみようとゆっくり立ち上がった。
まだこの場所が安全か分かっていないため散策するのは危険だと立ち上がったななしの傍に真島も駆け寄り、二人はピッタリくっつきながら部屋を見渡した。
やはり壁には扉や窓といったものが一切ない。
不気味な空間だと、最早恐怖を感じてきたななしは隣の真島にギュッとしがみついた。
部屋を一周してみたが得られた情報はほとんどなく。
結局この場所がなんなのか、何を理由で連れてこられたのか何も分からなかった。
はぁ、と盛大なため息をついて部屋の中央に置かれていた椅子に座った真島。
進展しない現状にすこし疲れているらしい。
すると椅子に座った真島の傍で立っていたななしは、テーブルの上になにかが置かれていることに気がついた。
『あれ、こんなものありましたっけ?』
「あ?」
『封筒ですね。開けてみてもいいですか?』
「俺が開けたる。貸してみぃ」
『はい』
それは黒い封筒だった。
部屋を見て回っていた時は気が付かなかったがずっと置かれていたのだろう。
真島に封筒を渡したななしは開封している彼の肩口から何が出てくるのかと、緊張した様に見つめた。
「紙やな」
『なにか書いてありますね…"腕相撲しないと出られない部屋(全力で)"…?』
「お、聞いたことあんな」
『え!?聞いたことあります?』
「何かせんと出られん部屋。昔神室町でこういうの流行ったんや。当時は腕相撲やなくてもっとエロいことやったけどな」
『な、なにそれ!?そんな恐怖の部屋があるんですか!?誰がなんの目的でそんなことをしてるんです?』
「さぁな。ただの噂話やったさかい詳細は分からん。せやけどこうして起こったっちゅうことは現実なんやろな」
『な、なんでアタシ達が…』
"腕相撲しないと出られない部屋(全力で)"
白い紙にはそう書かれており、ななしを困惑させた。
もし本当に腕相撲をして部屋を出られるのだとしたらそれで良いのだが、誰がなにを目的としてこんな場所で腕相撲させようとしているのか。
というか何故腕相撲なのか。
最早なにもわからなさ過ぎて怪奇現象を疑うレベルだが、真島曰く「神室町はなんでもアリ」らしい。
こんな非現実的な事もなんでもアリの中に含まれているのか。
ななしには到底理解できなかったが、これ以上考えても仕方がないと切り替えて、この空間から早く脱出するために『腕相撲してみましょう!』と真島にそう提案した。
『出られるかは分かりませんけど、やってみましょう!腕相撲!』
「…」
『吾朗さん?』
「お前、この全力でって文字見えへんのか?」
『見えますけど…どうしました?』
「俺が全力出したらお前の腕バキバキになんで?」
『大丈夫ですよ〜瞬殺でしょうしバーンってなって終わりますよ』
「そのバーンで折れたらどうすんねん」
『じゃぁ、なにか敷いときます?アタシの上着とか』
「ほんならこのジャケット敷いとけ。気休めでもクッションになるやろ」
『いいんですか?汚れちゃいますよ』
「アホ!そんなもんどうとでもなるわ。ななしは腕の心配せぇや」
『ふふ、もう大丈夫ですって』
きっと勝負は一瞬で終わる。真島の圧倒的力に張り合うことすら出来ずに。
もしななしにそこそこの力があって勝負が均衡すれば、腕を痛めたり怪我の可能性もあるだろうが、一瞬で勝敗が決まるような腕相撲だ。
怪我をする可能性は極めて低いだろう。
真島は渋々といった感じでおもむろにジャケットを脱ぎ机の上に広げると、腕相撲が出来るように肘を付いた。
ななしもそれに合わせて机に肘を付く。
『ふふふ!腕の長さが違いすぎて勝負すら出来なさそうですね』
「角度緩めたら行けるやろ」
『なるほど、あ!握れましたね』
「こんな細っこい腕とちっさい手ぇしよって…」
『吾朗さんが大っきいんですよ。アタシは平均サイズです』
「そうやとしてもこんなん絶対折れるやろ」
『アタシ毎朝ヨーグルト食べてるんできっと骨太ですよ』
「お前はヨーグルトを過信しすぎや」
『ふふふ、ヨーグルトを過信し過ぎって、ちょっと面白いですね』
「わろとる場合やないで!」
『ふふ、すみません。集中します!』
そう言うとななしはギュッと拳に力を入れて真島を見つめた。
未だに全力でと言うのに引っかかっているのか真島は嫌そうに顔を歪めている。
しかしここまで来てやらない訳にも行かない。
もし出られるのだとしたら早く行うべきだ。
ななしは一度頷いた後緊張感漂う静寂の中で勢いよく『よーい、スタート!』と腕相撲の開始の合図をした。
自分もその合図に合わせ全力で真島の腕を押さえつけようと腕全体に力を入れてみるが、まるで大木を相手にしているかの如く一ミリも動かすことが出来ない。
強いとうより最早根付いている。
そんなふうに思う程、ピクリともしない。
『ふぬぬぬぬぬ!!!』
「…全力なんか?」
『全力もっ!全力です!!』
「……全体重掛けてみ?」
『かーけーてーまーすぅ!!』
「お前は子供か」
『うぐぐ…う、動か、ないぃ!』
ななしは体重をかけて最早ぶら下がるように力を入れてみるがそれでも真島は顔色一つ変えることは無かった。
分かってはいたことだがとんでもなく強い。
大木、いや最早ビル。
なにをしても真島の腕を動かすことが出来なかった。
そんな全力で頑張っているななしを見つめている真島。正直赤子を相手にしているレベルで、筋トレにすらならないと思っている。
だが可愛らしい力で食ってかかるななしに言い知れぬ尊さを感じているのも事実。
これから全力で押さえつけても良いものかと頭を悩ませた。
しかしそう悩んでいる間も力を抜かず奮闘しているななしを見、いつ体力が尽きてしまうか分からないし早めに勝負をつけてやろうと真島は息を吸い込んだ。
絶対に怪我をさせぬように、折ってしまわないように。でも全力で。
全神経を腕に集中させた真島はななしの細い腕の力が怯んだ一瞬の隙を狙って、机の上にグッと押さえつけた。
押さえつけられた腕は瞬く間にジャケットの上にバーンと叩きつけられて、二人の腕相撲勝負は数十秒という速さで幕を閉じた。
『えへへ、負けちゃいました〜』
「痛なかったか?」
『え?全然大丈夫ですよ!この通りめちゃくちゃ元気です』
「ほうか」
結局ジャケットを敷いてもそれなりに大きな音が鳴り、叩きつけられたであろう腕は微かに赤くなっていた。
当の本人は全然大丈夫です!と腕を伸ばしたり曲げたりして見せてくれるが真島は気が気でない。
こんな心臓に悪いこと二度とせん、と少し赤くなったななしの手を取り撫でてやる。
くすぐったいと笑っているななしの笑顔に少し救われるようだった。
『あ!吾朗さん、見てください。扉!』
「ん?扉…さっきまで壁やったんに」
『これって全力で腕相撲したから現れたって事ですか!?やっぱり吾朗さんの言った通りなにかしないと出られない部屋だったんですね!』
「おう、さっと出るで。こんなとこおったら次何させられるか分からんわ」
『良かったー!意味不明だけど出られる!』
封筒の中の紙に書いていた通り腕相撲をすれば、扉が現れた。
何故先程まで壁だった部分が扉になったのか、どういう原理で?物理的にありえない…なんて、そんな野暮な事はもう考えないようにしてようやく出られると二人は喜んだ。
『帰ろ、吾朗さん』
「帰ろか」
思い残すこともないのでジャケトとななしを引っつかみ急いで扉を開くと、向こう側はどうやら真島組の組長室に繋がっているようだった。
もう何も思うまい。
考えたってどうにもならないのだから。
真島とななしは止まることなく扉を潜り、見慣れた組長室へと飛び込んだ。
『やったぁ!!おかえりなさい自分〜、おかえりなさい吾朗さぁん!』
「はぁ、頭おかしなるわ」
見慣れた家具や空間、普段目にする物全てが揃っていて。ようやくあの変な空間から抜け出すことが出来たと実感できた。
摩訶不思議体験に心底疲れきった真島と、そんな真島にしがみつきながら安堵しているななし。
頭をグリグリと胸筋に押し付けてくるななしの事を抱きしめてやりながら、真島もそっと安堵の息を着いた。
『…ていうかあの扉は元々事務所の出入口ですけど…もう繋がって無いですよね?』
「開けてみるか?」
『え…ちょっと怖いですけど…開けてみます?』
「どこに繋がっとっても中々のもんやで」
『確かに…別の空間に繋がる扉ってもうどこでもドアだもん…』
「行きたい場所に行けへんどこでもドアなんて不良品やろ。青狸に返品もんやで」
『クーリングオフしてやりましょう』
「おし開けてみんで」
『は、はい』
戻ってきた扉は組長室と事務所を繋ぐ扉だ。普段は事務所内を行き来することしか出来ない。
なのにあの変な空間から戻る時その扉を経由したため、まだその空間に繋がっているのではないかと不安ばかりが募る。
もし再び繋がっていたとしたら、結局また閉じ込められているに等しい。
真島はドアノブを掴むと勢いよく扉を開いた。
「おわ!?お、親父!?お、お疲れ様っす!」
勢いよく開けばそこには真島組の組員である西田がおり、いきなり開き現れた真島とななしに大層驚いたようであった。
『繋がってないって事ですよね!?』
「今はな」
『ふ、不吉なこと言わないでください〜』
「ヒヒッ、また連れてかれるかもしれんのぉ」
「??」
結果は繋がっていなかったものの、また繋がる可能性は大いにあるのだろう。
真島もななしも二度目がないことを祈るばかりだ。
だが彼らの切実な願いは虚しく。
この先"何かをしないと出られない部屋"に幾度となく閉じ込められることとなるのだが、この時の真島とななしは知る由もない。
○○しないと出られない部屋シリーズ一作目になります。
書きたいお話が沢山あるのでこれからチマチマ更新予定です。
今回のお話は謎の空間を認知させるお話だったので健全なものでしたがこれからはバリバリ不健全書いていきたいと思っております( ˇωˇ )
お粗末でした!