(支配人真島/恋人)

「ななし」
『はい？どうかしましたか？』




今日の業務を終えてスタッフルームで真島の事務仕事を眺めていたななし。
真島の仕事する姿を眺めていたななしは急に名前を呼ばれて、どうしたのかと首を傾げた。

机から顔を起こした真島はそれはもう酷い隈が出来ており、顔から不健康ですオーラがとんでもなく醸し出されている。
さきほどまでホールで支配人として働いていた真島とは打って変わって、疲労感満載の真島にななしは心配ばかりが募った。
このまま倒れてしまわないか、胃に穴があくんじゃないか。
青白い顔を見る度にそんか事ばかりが脳裏を過ぎる。

このままでは真島が早死してしまうと本気で心配になっているななしはどうすれば彼をゆっくり休ませることが出来るだろうかと一人頭を悩ませた。

「ななし」

そうして悩んでいると再び真島がななしの名を呼んだ。

『真島さん？』

真っ直ぐこちらを見つめてくる真島を見つめ返していると妙な沈黙が生まれた。
お互いの息が聞こえてしまうのでは無いかと思うほどの静寂にななしは少しだけ緊張してしまった。

一体どうしたと言うのだろう。
それ程言辛い事なのだろうか。

何かを伝えたいのだろうが、今真島が何を考えているのかななしには分からず少しだけ戸惑ってしまう。

しばしば見つめあっていると真島がゆっくり口を開いて「抱きしめてもええか？」と、真剣な表情でそうつたえてきたのだ。

きっとなにか思い詰めていて、言い難いことなのだろうと身構えていたのだが発した言葉が思いもよらぬものだったためななしはぽかんと口を開いて固まってしまった。

「ななし？」
『も、勿論！大丈夫ですけど…』

思いのほかぽかんとしていたらしく真島の方から声を掛けてきてくれた。

慌てて大丈夫だと伝えると真島は嬉しそうに笑った後直ぐにたくましい腕を背中と腰に回してくる。
お互いの体と体が密着すると仄かに暖かく、安心するような香りが鼻を掠めた。

『急にどうしたんですか？』
「今日はようさん働いて疲れてしもたし休憩や」
『そっか…アタシで休憩になるならどんどん抱きしめてください』
「おう」

普段どんな時も弱音を吐くことなく、自分を引っ張り導いてくれている真島。
かっこよくて頼りになる恋人でとても素敵だと思っている。
何があろうとも完璧にこなし、欠点のないように見える真島だがきっと彼も色々なことを背負い込んでいるのだろう。

なんだかいつもの姿からは想像できないほど弱々しく見えてしまってななしはいても立ってもいられず、真島の背中に腕を回してギュッとしがみついた。

『真島さんもたまには息抜きしてくださいね。倒れちゃいますよ』
「そんな柔やないで」
『体力面と精神面って似て非なるものですよ。心がしんどいと体が大丈夫でも倒れちゃいますよぅ。逆も有り得ますからね』
「まぁ、一理あるわな」
『ですから、しんどくなったら何時でもアタシに弱音吐いていいんですからね？恋人なんですもん。それくらいしてください』
「せやったらななしも俺になんでもぶちまけてええんやで？いつもようさん働いとんのはななしもおんなじやろ」
『アタシは元気が取り柄なので全然大丈夫なんです。真島さんの元気がない方がよっぽど辛いです』
「阿呆やな。そう思っとんのは俺かて一緒や」
『ふふ。じゃ、アタシが落ち込んだ時抱きしめて下さいね』
「落ち込んだ時だけやなくて何時でも大歓迎やで」
『…ふふ、嬉しいです』
「毎日抱きしめたるわ」
『絶対ですよ？』
「嘘はつかんで」
『明日楽しみにしてます！』
「おう」

お互いの温もりを交換するようにしてひたすら抱きしめあい他愛ない話をしていると、日頃の疲れなど彼方へと飛んでいくように思えたななし。

嫌なお客への対応だとか、キャストのご機嫌取りだとか、人間関係だとか。

何かに追われて過ごす日常は確かに辛い時もある。
グランドでボーイとして働く事が嫌になる時もある。

それでもこうして大好きな真島の腕でひたすら優しく抱きしめられていると、嫌気がさした全ての事に前向きになれるような気がして。

疲れて休憩と言ったのは真島で抱きしめていいかと提案したのも彼だ。
それなのに寧ろ自分の方が心労癒されている気がしてならない。
出来ることなら今の自分の様に真島も何かしら抱えているものが軽くなっていたら良いな。
ななしは、言葉にはしなかったがそうなるといいと真島の腰に回していた手でそっと大きな背中を撫で付けた。

『真島さん。いつもご苦労様です』
「ななしも、お疲れさん」

ただただなにをするでもなく二人はずっとその場で抱き合った。

お互い温もりと癒しを感じ、また明日から頑張れるとそう感じていた。













お粗末！
短くてすみません。
お互い辛い日々もこうして乗り越えていたらエモいなぁ( ˇωˇ )
愛を確かめたり癒す方法ってセックスだけでなく、ただ抱きしめたり会話したりでもありですよね。
真島さんもななしちゃんもお互い心から信頼し合っているので抱きしめあっては癒されていることでしょう。