短編 龍如
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「おう、ななし。今日は何の日か知っとるか?」
真島組事務所、組長室のソファ。
隣に座っていたななしは持参していたコンビニのホットスナックをモグモグ食べながら真島の質問に『もちろんです!!』と、大きく頷いた。
今日は、5月6日。
そう言わずと知れた吾朗の日。
しかしこれはななしが勝手に語呂合わせをしてそう呼んでいるに過ぎない。
それでもななしの中で誕生日とは別に恋人の名前の日というのは特別ものであった。祝うとまではいかなくとも恋人になにかしてあげたいなと毎年この日が来る度にそう思っている。
『ふふふ〜。知ってますよ。5月6日…今日は…』
「ヒヒッ、今日は?」
『吾朗さんの日です!!』
「せや吾朗さんの…あ?全然ちゃうわ!!そうやなくて今日は5と6でゴムの日や!」
『え!?ゴ、ゴムの日?なにそれ。5と6ならゴロウですよ!』
「6はロクや無くてムッツ。せやからゴムや」
『なんで数える時の6になったんですか?絶対6はロク呼びでしょ』
「吾朗の日なんてないわアホ。全国民がゴロウやないんやぞ。そっちかて勝手にロクをロウにしとるやんけ」
『そ、そうですけど!でも今日は吾朗さんの日なんですよ』
「ちゃう、今日はゴムの日や」
嬉々として吾朗の日であると伝えたななしだったが、真島はそうではなくゴムの日だと言い張る。
確かに全国民の名前がゴロウという訳では無いので、5月6日はゴムの日と言う認識が一般的なのかもしれない。
しかしななしにとって5と6は絶対にゴムではなく吾朗だ。
なにかと縁ある数字なのでこればかりは折れないとななしはホットスナックを食べ終えた手を拭き真島に詰め寄った。
『吾朗さんの日だからアタシ今日は吾朗さんのお役にたちたいなぁって思ってるんですけど、それでもゴムの日って言うんですか!?』
「あ?なんやお前、俺の役にたちたいんか?」
『そうですよ。今日は吾朗さんの日ですから!』
「ほんま何回吾朗さんの日って言うねん」
『吾朗さんが認めてくれるまで!』
「ほな何百回、何万回言うてもダメやな」
『なんで認めてくれないんですかーー!』
「ななしこそなんでゴムを認めんのや。はよ認めて楽になれや」
『嫌です。アタシは全面的に戦います!』
「アホやな〜。吾朗の日や言う人間なんて全国民の中でななしだけやで。負けはもう決まっとるわ」
『ひ、酷い!』
「せやけどな、ななしが俺の役にたちたいっていうんやったら、ひとつ頼みたいことがあんねん」
『え!?なんですか??吾朗さんの日なので張り切って頼まれますよ!』
「ヒヒッ、その言葉嘘やないな?」
『は、はい』
「ほんま後先考えず物言うのやめた方がええでななし…」
『え?どういうことです?』
「気にせんでもええ、ただやる言うたんやから最後までやれよ?」
ソファで大股を広げていた真島はおもむろにポケットに手を突っ込むと何かを取り出したようで、それを黒のローテブルに軽く投げて置いた。
置かれたものが何かと真島から向きを変えローテブルに目線を向けたななし。
『ちょ、ちょっと吾朗さん!?こんなものしまって下さい!』
「今こんなもん言うたか?」
小さな正方形の包装紙。
高級感ある黒い包装紙に金色のロゴが書かれれているそれはあまりにも見覚えがありすぎて。ななしは慌てたように引っつかむと元に戻してください!と真島の胸に押し付けた。
『なんでポケットから出てくるんです!』
「あ?常備しとかな出来ひんやろ」
『大切ですけどね!でも生身をポケットの中に入れとくのはどうなんですか?』
「そらどこでもお前とセックス出来るようにや。紳士の嗜みやんけ」
『紳士はですねどこでもなんてしないんです、そんなのは猛獣ですよ猛獣』
「失礼なやっちゃな」
真島が取り出したもの、それは
普段行為をする際に真島が愛用しているものであり、ななしもよく知っている。
だがまさかその避妊具がポケットから出てくるだなんて思いもせず、驚くばかりだ。
勿論嗜みと認識してくれていることは喜ばしいことで、付けないなどと言うより余程健全である。
ただ常に持ち歩くというのもどうなのだろう。
行為をするのは家や(不本意だが)事務所が多いため持ち歩かなくても普段行う場所に置いていた方が良いような気がする。
「安心せぇや。普段は一枚やない」
『い、いや…枚数の話ではないんです』
「それにちゃんと専用のケースに入れとる」
『へぇ、吾朗さんって結構マメなんですね』
「いざって時に破けとったり、適当に持ち歩いて汚れとったら話にならんしな。お前の腹ん中におさめるんやし」
そもそも持ち歩いている、ということに疑問を持っていたななしだが真島なりに色々考えてくれた結果なのだと分かると頭ごなしに否定してしまった自分が少し情けなくなってくる。
いつもはちゃめちゃに見えて慎重に行動してくれているという事実に胸が締め付けられようだった。
ななしが暫く自責の念に苛まれているとおもむろに真島が腹に手をあて撫でるように動かした。
まるで情事中にする手つきの様に焦らすように腹の上を動くため擽ったくて仕方がない。擽ったいだけで済めば問題はなかったのに、だんだんと下腹部がウズウズと疼いてくるのでこれはいけないと真島の手を咄嗟に掴んだななし。
するとこちらを見つめる隻眼と視線がばっちりあってしまい恥ずかしいやらかっこいいやらでななしの顔は真っ赤に染まった。
イタズラな笑みを浮かべ「ななしはホンマに感じやすいのぉ」と喉の奥でクスクス笑う真島に居たたまれず小さな声で『ち、違いますっ』と否定するのがやっとであった。
「ほな、こっから頼み事の話に戻るで」
『あ、そうでしたね』
「見ての通り残り一枚やねん」
『…うん、一枚ですね』
「一枚だけやとこの後ななしを満足に抱けへんやろ?」
『……』
「せやからお使い頼も思てな!」
『お、お使い?』
「おう、ななし。一人で二箱買うてきてや」
『え、え!?アタシがですか!?』
「そうや。ななしが二箱。サイズもちゃぁんと分かっとるし何使っとるかも知っとるんや。出来るやろ?」
『そ、そうですけど!』
真島と恋人になってそれはもう長い。毎回きちんと避妊具を用意してくれているのは真島だけで、自ら購入したことは今まで一度もない。
勿論お金などの負担はあるだろうとせめて商品のお代は払うと言ったことはあったがその都度「俺の仕事や」と断られてきたため、買うのは真島の役割として定着してしまっていた。
故に自分が購入するということは未知の経験だであり、なんならこの先永遠に来ないと思っていたのだが。
そんなななしに真島は買ってきてとそう言ったのだ。
毎回用意させて申し訳ないと思うことも勿論あったが、今更自分が買うとなると話は少し変わって来る。
『え、や…その、は、恥ずかしいんですけど』
「あ?大事なもんやし恥ずかしくないわ。それともなんでも頼んでいいって言ったのは嘘なんか?」
『嘘じゃないですけど!そんな規格外な頼みだとは思わないじゃないですか!』
「ヒヒッ、せやから後先考えんと物言うのやめぇ言うたんや」
『その時にちゃんと言ってくださいよー!せめて一緒に買いに行きましょう?アタシだけなんて恥ずかしくて無理です』
「一緒に行ったる。せやけどレジは一人で行けよ。すぐ近くのコンビニでええよな」
『な、なんで意地悪するんですか!?コンビニなんて尚更無理ですよ!よく行くのに!』
「ゴムの日やし、ちょっと趣向変えてみよう思てな」
『そんな羞恥プレイみたいなこと嫌です!』
「今更反故にすんか?それは筋が通っとらんのやないか?」
『そうですけど…だって…』
「ヒヒッ、吾朗さんの日なんや、俺のワガママ聞いてくれるんやろ?な?」
『いまさっきゴムの日って言ったくせに…』
「ほな行こか」と座るななしの腕を引き強引に立たせた真島。
言い出しては止まらないことをよく知っているななしはここまで来たら後戻りは出来ないと分かっていたが、抵抗とばかりに必死に真島の手を掴み止まるように踏ん張った。
しかし抵抗も虚しく引き摺られる形で難なく前に進みだしてしまい、真島は組長室の扉を開いた。
「ワシとななし、出てくんで」
「うっす!」
どうみても引き摺られて強引に連れていかれているはずなのに、真島組の組員たちは快く送り出してくる。
組長に逆らえないのは仕方がないが誰か一人でも声を掛けてくれてもいいんじゃないか。
ななしは恨めしそうに事務所内の組員を見つめるが気にかけてくれる人は居なかった。
常識人の西田なら!と期待の眼差しを向けるも「行ってらっしゃい」と関わりたくないオーラ全開で送り出されてしまいななしはもう諦めるしかないとしなだれた。
「ななし、中道通裏のポッポでええか?」
『え!?せめてことぶき薬局にしましょう!?さっきホットスナック買ったのそこのポッポなんです!』
「ほなまだお前が買うた時の店員おるかもしれんのぉ」
『すっごい悪い顔してますよ!!悪魔みたいな!』
「失礼なやっちゃな。四箱に増やしたろか?」
『い、嫌です。二箱でもギリギリなのに!』
「ほな大人しく買うて来い。金はこんで足りるやろ?」
『一緒に行きましょう〜!ね?吾朗さん、お願いします!』
「どの道気まずいんやないか?」
『ご、吾朗さんと一緒の方が何全倍もましですぅ』
「………ほうか、そないに俺と一緒の方がええんか」
『そうです!!』
「ほな、一緒に行こか!」
『ほ、本当ですか!よ、良かった〜』
「おう、手ぇ繋いどったるわ」
『は、はい!』
結局買いに行く事が決定してしまったが一人では無いと言うだけで随分とましに思えた。
手を繋ぎ避妊具だけを買うというのも、"これからおっぱじめます"と暗につたえているようで気恥しいが別に悪いことではなく装着することは当たり前のことだと、心の中で開き直りななしは歩き出した真島に続いた。
彼の言うとおり中道通裏のコンビニに来てしまったがこうなったらヤケだ。
先程の店員がいないことを祈りながら、さっさと購入して帰ろうとななしがコンビニ入ろうとした時。
隣に立っていた真島が「せやった」と何かを思い出したようで。繋いでいない方の手で携帯を取り出したのだ。
誰かに連絡か?と携帯を片手で弄る真島をみていると、不意にポロンと録画開始時の音声が聞こえてくる。
どうやら隣にいる真島は何かを録画しようとしているらしい。
『…え?ご、吾朗さん?』
そのまま携帯をこちらに向けてけ来るためななしは焦った。
そして同時に目の前にいる意地の悪い顔(もはや悪魔のように見える)をした真島が、今から何をしようとしているのかも分かってしまったのだ。
「ほな、入ろか」
─── この人絶対にアタシが避妊具を買う光景を撮影する気だ!!
『ちょ、ちょっと!吾朗さん!!絶対におかしいいです!なに撮影してるんですか!?』
「あ?ななしの初めてのお使いを録画しとんねん。ついて行っとるんやし別にええやろ」
『駄目ですよ!?変なプレイを外でしないでください!』
「ええやんけ。お前の恥ずかしがっとる姿、後で二人で見よな」
『見ませんよっ!』
「静かにしとかんと周りにバレてまうで〜」
『う、ぅ…お、鬼だっ』
コンビニ入ればそれなりに人がおり、加えて恐れていた通りレジにいる店員は先程ホットスナックを買った時と同じ人物であった。
真島組組長の真島と、その恋人であるななし。
手を繋いでコンビニに入ってきた為それなりに目立つ訳だが。それ以上にななしが携帯を向けられている光景がかなり異様だったらしく周りにいる人々は驚いたような眼差しを向けている。
皆が見ている状態で大声を出し真島に抗議する訳にも行かず、まんまと計算高い彼の罠にハマってしまったとななしは悔しそうに顔を歪めた。
『い、一緒に来るって言った時に疑うべきでした…!』
「せやな」
『もう二度と吾朗さんの日祝ってあげない』
「次もゴムの日祝おうや」
『ゴムの日も祝いませんよっ』
「お、ななし。あったで。ほなレジ行こか」
『……』
今一体自分はどんな顔をしているのだろう。
真島が撮ろうとしていたように羞恥に染まった顔をしているのだろうか。
せっかく吾朗さんの日を純粋に祝い楽しもうとしていたのに、こんなことになるなんて。
ななしは隣の恋人が持つ携帯を威嚇するように睨みつけて、絶対に変な顔をしないと気合いを入れレジに向かった。
『…吾朗さん、事務所に帰ったら覚えていてくださいね』
「ヒヒッ、おう楽しみにしとんでぇ」
『…もう一緒に寝てあげないので覚悟しといて下さいね!』
「おう、分かった分かった」
『いなされてるー!嘘じゃないですからね!』
「はよ行くでななし」
こうして避妊具を無理やり買わされた挙句、その逐一を録画されてしまう事となったななし。
避妊具をレジに出し会計をする時の気まずさといったら今まで生きてきた中で一番に君臨するレベルであった。
しかもニヤニヤした真島が終始隣で携帯を向けていると言うとんでもない要素も加わっていたので、最早羞恥を超え些かの怒りさえ覚えるほどだ。
店員の気まずそうな視線に巻き込んでしまってごめんなさい…と内心で謝りつつ、ななしは急いで真島をひっぱりコンビニを後にした。
『あーーー。もうポッポ行けないーー』
「ヒヒッ、ななしええ顔しとったでぇ」
『絶対消してやる』
「そんなことした暁には今日買った二箱全部使い切ったるわ」
『こ、怖っ。吾朗さんが言うと冗談に聞こえないんですけど!』
「おう、冗談やない。
『……そうですか。ていうか何時まで撮影してるんですか。早く止めてください』
「帰るまでがお使いやろ。事務所につくまでや」
『そんなに撮ってどうするんですか!』
「そら、お前。色々使えるやろ」
『つ、使えるって言い方が引っかかる』
「ヒヒッ、最高のゴムの日やったのぉななし」
『…吾朗さんの日です…』
「お前もなかなかしぶといやっちゃな」
『ふーんだ。アタシの中では一生吾朗さんの日なんです』
「どうせ365日永遠に一緒におって毎日が吾朗さんの日なんや。今日くらいゴムの日でもええやんけ」
『……なんか、グッときました』
「ヒヒッ、絆されやすいのもななしらしいのぉ」
彼に大して怒っていたのは間違いないが、365日永遠に一緒。などと特に深い意味は無いだろうがそう言われてしまうと、どうしても胸がキュンと高鳴ってしまう訳で。
隣の真島は未だに携帯を向けてきてムカつくものの、これからもずっと一緒なら確かに今日くらいゴムの日でもいのかもしれないなぁ。とななしはそう思ってしまった。
『もう、それでいいです。ゴムの日だし。絆されやすいです』
「ヒヒッ、拗ねんなや。今日はまだまだあんねん。楽しまんと勿体ないでぇ」
『もう充分楽しみましたよ』
「まだや。これ使っとらんやろ?」
携帯を持っている手に引っ掛けられているレジ袋を揺らしながら楽しそうに笑う真島。
ゴムの日だし使わないと今日を終われないと、そう言う。
『…仕事が終わったらお家で一つだけ使いましょうね』
「一つで済むわけないやろ」
『ふふ、そんな自信満々に言われても』
ゴムの日というのだからそうなるだろうなとどこかで予想はしていたが、あまりにも真剣に一つだけでは済まないと言うのでななしはクスクスと笑った。
『まぁ、今日は色々ありましたけど。思い返してみると行為中に沢山の事を気にかけてくれてるんだって分かった日でもありました。めちゃくちゃな一日でしたけどちょっと見直しました』
「見直したって…俺への評価どうなっとんねん」
『うん?ふふ、いつもMAXですよ。今日で上限を超えました』
「調子のええこと言うやんけ」
『本当です』
確かに羞恥プレイを強要するようなハチャメチャな一面も持ち合わせているが、避妊に真面目に取り組んでくれているということは体を大事思ってくれている証だ。ななしにとってはそれはとても嬉しいことである。
散々な目に会い怒っているのは事実でも思いがけない一面に心が満たされたのも事実だ。
彼の思いやりを知ることが出来た吾朗さんの日。
初めて避妊具を買わされたゴムの日。
両極端な一日ではあったが、悪いものではなかった。
ななしは未だにこちらを向いている携帯をそっとど退かすと、現れた真島の顔をみて小さくはにかんだ。
『ふふ、まだ色々怒ってますけど。でもありがとうございます』
「ヒヒッ。怒っとるんか?」
『えぇ、それはもちろん』
「ほな帰ったら死ぬほど甘やかしたるわ。それで手打ちにしようや」
『ふふふ、なんか厳つい言い方ですね』
「ヤクザやしのぉ」
『あ、そうでしたね。吾朗さんって組長さんなんでした』
「忘れることなんてあるか?」
『ふふ、忘れてません。覚えてます』
「怪しいわ。いつかホンマに忘れてそうやな」
『そんな事ないです。ほらタワーに入りますよ』
見えてきたミレニアムタワーの入口。
繋がれていた手を今度はななしが引いたのだった。
(この顔ええなぁ。真っ赤にしてエロいわ)
(え、エロいですか?)
(あ?どっからどう見てもエロいやろ)
(そ、そうですか…)
(いっつも押し倒したら似たような顔しとる。キャンキャン文句言うとったわりに実は楽しんどったんちゃうか?)
(これのどこが楽しんでいるようにみえるんですか?見てくださいよ。アタシのこの顔は呆れてる顔ですよ)
(いや羞恥に震えとる顔や)
(怒りに震えているんです!)
お粗末!
5月6日、吾朗さんの日!ギリギリセーフですよね(アウト)!?
という訳で吾朗さんの日の短編です。
しかし某呟きサイトではゴムの日がトレンド入りしていました。
地震と一緒にゴムの日がトレンド入りする日本…余震ばかりで滅入っていましたがついつい笑ってしまいました。
そんなこんなで思いついた作品です。