ミニ小話
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体を包むような温もりと甘いハイライトの香り。
目を瞑っているから真っ暗だけど頬を滑る優しい感触や、擽ったさがとても心地好い。
あまりにも気持ちがいいからもっと触れて欲しくて顔を撫でる手に擦り寄れば、「フッ」と低くて柔らかい声が聞こえてくる。
するとより一層優しく手が頬を滑り、そのまま頭をサラサラと撫でた。
どれもこれも本当に優しくて心地良いから、胸の奥から暖かい気持ちがあふれてくる。
このままずっとぷかぷかとした夢心地に包まれていたかったのだけど、脳が段々と覚醒を始めたらしく、感触や温もりが曖昧になってくる。
徐々に視界が明るんでカチカチと時計の秒針が進む微かな音が耳に入ってきた。
ゆっくりと目を開ければ、ぼんやりと見えてくるのは白っぽいようなベージュっぽいような天井。
この天井はよく知っている。毎日仕事で通うグランドのものだ。
『…あれ、グランド……えっ』
寝ぼけた頭でようやくグランドで寝落ちしてしまったことを思い出して勢いよく上半身を起こした。
すると体にかけられていたであろうタキシードのジャケットが滑り落ちてくる。
ただ黒いだけでなく少し艶や光沢がある高級そうなこのジャケットは真島さんのものだ。
きっと寝落ちした後に体が冷えないようにかけてくれたのだろう。
『……優しい』
ジャケットを抱きしめ香りを堪能する。
ハイライトの甘い香りはこれまた過保護で優しい真島さんを連想させた。
一見強面で近寄り難いけれど、彼は情熱的でひたむきに愛を注いでくれる。優しくて強くてかっこいい、真島吾朗さんとはそういう男性だ。
彼の親切に寝起きながらホクホクしているとまたあの低くて柔らかな「フッ」という笑い声が聞こえてくる。
慌てて振り返るとソファの端っこには真島さんがいた。彼は肘を太ももに乗せて前かがみになりながら可笑しそうに此方を見ている。
鋭くも綺麗な目を細めて「よう眠れたか?」と笑いかけてくれる真島さんがあまりにかっこよくて。
顔中に熱が集まって胸がドキドキと脈打つ。
真島さんの全てに魅了されてアタシは『はい』と答えるのが精一杯だった。
「長いこと待たせたせいで寝かせてもうたな。すまんななし」
『い、いえ。アタシこそ真島さんがお仕事頑張っている隣で寝落ちしてしまってすみません』
「かまへん。寧ろななしの可愛ええ寝顔のおかげで仕事が捗ったわ」
『は、捗ったんですか?』
「おう。時間かかるシフト決めも早う出来たで」
真島さんは書き終わったシフト表を指さした。
いつもは頭を抱えて数日間かかるシフト決めだけど今日はほんの数時間で終わったらしい。
本当に寝顔効果なのか分からないけど、仕事が一段落してホッとしている真島さんを見るとアタシまで嬉しくなる。
「ほな仕事も終わったし帰ろか」
『はい。帰りましょうか。…あ!ジャケット、シワ付いてないかな…』
「そんなもん気にせんでええ。それより今は寒ないか?眠っとる時丸なっとたさかい寒かったんやろ」
『だ、大丈夫です!ジャケットのおかげで温かかったですよ』
「風邪ひいてへんか?」
『ふふふ、風邪はひいてないですよ。真島さんの優しさで心も体もポカポカです』
「フッ、そらよかった」
ジャケットのシワを咎めるでも無く、寝落ちしてしまったことを咎めるでも無く、真島さんは真っ先にアタシの体の心配をしてくれた。
本当は文句を言われてもおかしくは無いのに、真島さんは気遣うように言葉をかけてくれる。
その言葉の節々には確かな愛情を感じてとても擽ったい。
アタシはジャケットのシワを伸ばすように撫でてから真島さんに差し出す。
彼は受け取った後、バサッと一度広げてから素早くジャケットを羽織り襟を正した。
一連の動作がかっこよくてまた胸が高鳴る。
「ななしの体温で温いわ。ありがとさん」
『いいえ、こちらこそありがとうです。真島さん』
「おし、帰るで」
『はい』
立ち上がった真島さんは此方に向けて大きな手を差し出してくれた。
アタシはそれに甘えて真島さんの大きな手に自分の手を重ねた。
するとすぐに手全体を包まれ、緩やかに引かれる。
そのまま身を委ねているとすっぽりと真島さんに抱きしめられた。
大きな体で余すことなく包まれるとやっぱり甘いハイライトの香りがしてうっとりしてしまう。
『あったかい…』
触れ合っていると寝落ちした癖にまた瞼が降りてきて、微睡んでしまう。
でもきっとそれだけアタシの体は真島さんに安心出来るってこと。
「寝てまうんか?」
『ん…寝ないんですか?』
「…あんな可愛ええ寝顔見せられて素直に寝られるわけ無いやろ」
『え?ど、どう言う…んぅっ、』
真島さんの手が顎を持ち上げると同時に、彼の唇に唇を塞がれた。
軽く触れ合うだけの可愛いキスなんかじゃなくて、口内の隅々を舐め尽くし息を食むようなとても生々しくてゾクゾクするキス。そんな蕩けるようなキスを送られ、アタシはきゅっと目を瞑った。
『んっ、ん、んむっ、ぁ、はぁ…あぅ、ま、真島さん』
「エロい顔、しとんで」
『し、してないですっ』
先程のポカポカとした温もりを超えるような熱に体が支配されてしまう。
下腹部がキュッと疼いてたまらない。
真島さんは口角を上げてペロリと舌なめずりをして見せた。
とてもエッチな顔をしているのは絶対に真島さんの方。
でもキスが上手なのもエッチなのも真島さんらしいと思う。同時に気遣いができて愛情深いのも真島さんらしいし、そんな彼がとても愛しい。
「俺ん家でもええか?」
『は、はい』
腰を引かれてグランドからゆっくりと退散し、目指すは真島さんのアパート。
何をされるか分かっているからとても恥ずかしいけど、同じくらい幸せで嬉しい。
『お手柔らかにお願いします』
「善処するわ」
『ふふふ』
きっと今日の夜もなかなか眠れないけど、その分彼と文字通り心も体も繋がれる。
忙しなく働く毎日だけどこんな風に毎日真島さんから幸せを貰えるからアタシはまだまだ頑張れそう。
傍に居てくれる真島さんの逞しい体に擦り寄りながら、アタシは『大好きです』とひとつ呟いた。