サーモン&ラディッシュ[冨岡夢連載]
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②
授業中、ノートにペンを走らせると雪姫の耳に聞こえよがえしに「いいよね、お金持ちは」という小声と追従の噛み殺した笑いが聞こえた。
毎日新品の制服を着ているせいに違いない。
それか、ブランドもののペンか、或いは全部含めて。
あまりに聞き慣れたその言葉は、むしろテンプレすぎて笑えるレベルの稚拙な嫌味。
教師が背を向けた瞬間、消しゴムの破片とは思えない速度で実弥が、声の方向へスマッシュ弾きをしたせいで静寂が戻ったが、クラスメイトのいつもの過保護さに苦笑い。
雪姫の体が生まれつき弱いのを知るのは、剣道部員に多い。
小学生時代などは一週間学校に通えたことはなく、水・木あたりで大抵入院からの点滴の日がマター。
健康だけは、金では買えない。
誰もが出来ることすらが、当たり前に出来ない。
運動が出来ない分、読書に耽溺しつつスポーツを観戦することで満足していた。
何よりも嫌なのは、それが具体的な病名がないことだ。
本人が必死に起きたくても動きたくても、体が言うことをきかない。それが悔しいのに親からくる言葉は”人並み以下” ”価値がない”
だからどんなに外見を褒められようと、素直に喜べたことがない。じゃあ、その体と代わってよ、という言葉を飲み込んで。
飲み込み続けて、諦めた。
親にも、自分の体にも何も期待してはいけないのだと。
幸い、中等部に入ってから何とか学校に通う程度は何とかなるようになった。
それでも、休日は寝込む。
その代償に、学校に通う。時折保健室に倒れつつも。
そんな雪姫に、婚約者を押し付けてきたのが親だ。
不具合のある娘へ、せめて将来いい嫁ぎ先があればいいだろうという、雪姫からすれば愛情なのかも疑わしい行為だが。
その話は、”どうせ出来損ないだから” と雪姫が皮肉げに蹴ったが、生憎と相手に気に入られてしまった。
観念するのも嫌だし、もう嫌がらせにいっそ死んでやろうかとすら思っていたところで祖母からのバックアップでキメツ学園へ編入という逃げ道を貰った。
だが、頼みの祖母は雪姫がキメツ学園で楽しく過ごしだした所で他界。
安心させないほうが良かったのかと悔いたが、折角祖母の切り開いてくれた道を捨てるほうが祖母への不幸だと自分に喝を入れ、形だけのマネジとして剣道部に。
宇髄は、今回もまたマネジにと言ってくれていたが、それがお飾りでしかないのは自覚している。
実際、マネジらしいことは何もしていないのだから。
ドリンクやタオルを用意するわけでもなく、ただの見学に近い。
しかし宇髄が、そういう準備も後輩たちにやらせるもので、やる必要がない、と断言。女子がいるだけでムサさが減って、部活に励めるだけだ。
その言葉はリアルに嘘がなく、むしろ雪姫がいわゆるマネジ的な作業をしようとしたら、下っ端たちは部活をやめろ、と威嚇材料にまでされた。
女子なら歓迎だけど、マネジ作業したくて来る子には失礼だから、いっそやれないほうが助かるんだ、という宇髄の言葉に慰めの色はなかった。
寧ろはっきりと言ってくれて、救われた。
そんな形での”マネジ”だったが、実際はただ見学しているだけでも重労働。
華やかともいえる剣技に真剣に魅入っては、自分は何もしていないのに、汗だくの背中と手のひら。
無心になれといわれても、全国常連校はハイレベルすぎた。
ほんの時折、余力のある時に部員の好物を作っていくと、部内はそんなことだけでも歓喜に満ちてくれる。
そんな中、まさかの元婚約者・自称未だ婚約者が乱入してきた去年。