夏祭り 黒尾バージョン
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夏の祭りの人混みは、バーゲンセールよりもスタミナを奪われる。
着慣れない浴衣が崩れないか、髪型が乱れないか、巾着ポーチを無くさないかと、気配りも八割増しだ。挙句に好きな相手と来ているとなれば、乙女として化粧崩れやテカリなどの肌まで心配になる。
「雪姫〜ちゃんと前みなさいよ、そろそろ打ち上げ時間なんだから」
涼しげに笑う黒尾は借り物だという浴衣姿。群青から黒に絞られた麻に、締めた帯も黒地に銀糸が映えた粋な着こなしだ。
確かに周囲の密度は、花火の打ち上げ前でよりごった返している。人波を掻き分けるタッパの黒尾が前を歩いていくのに、付いていくのが必死だ。
「あの辺にしようか、ベストスポットとは言えんけど」
少し小高い丘になっている場所は、木々が茂っていてあまり人気がない様子。
ましてや開始時間ギリギリの今、いい場所はファミリーやカップルに狩り尽くされているだろう。
「いいよ、大して歩いてないのに足も疲れたし」
なにより、人混みに疲れた。
黒尾と2人きりというシチュエーションでのアドレナリンが出ていなかったらとっくに根を上げている。
「いやーもうちょい早く来れば良かったな、予想が甘かった」
「黒尾がギリギリまでスパイク練してるから」
「すまんすまん」
いつものやり取りをして少し気が緩んだ瞬間、夜空を割く音が上がり、夏空に花が開いた。
一つあがるごとに周囲からのどよめきとため息。
黒尾と並んで見上げた夜空からは次々と鮮やかな色彩が舞う。
「……インターハイ、惜しかったな」
「……うん」
もう三年の春高の今、勝っても負けても高校生活はあと半年。
ずっと黒尾が好きだった。バレーをしている姿も、後輩をいじる少し意地悪な笑い方も、雪姫の頭を軽く撫でるその手も。
虚空で大輪が咲く。花火独特の響く音に紛れて微かに。
「――好き……」
思わず、口から本心が滑りでる。
気持ちはずっと弓なりに絞られて。
見上げる花火のように、もう爆発寸前。
「ん?なに?雪姫。ごめん、聞こえなかった」
聞こえなくてもいい、ただもう我慢も出来なくて、溢れて。
思わず零れた本音は、火薬の音に掻き消えた。
「聞こえないように言ったの!だから」
鈍い爆発音が頭上で木霊して、また黒尾が首を傾げる。
折しも、花火の方もクライマックスで大玉が次々と弾けて空を染めていく。
「だから――好き、好きなの!」
この想いも、花火のように散るのか。
キラキラと、刹那を彩る儚い火のように。
そんな簡単な気持ちじゃない、あと半年の間が気まずくなっても良い。気持ちを言うチャンスはもうそうはないだろう。
着慣れない浴衣が崩れないか、髪型が乱れないか、巾着ポーチを無くさないかと、気配りも八割増しだ。挙句に好きな相手と来ているとなれば、乙女として化粧崩れやテカリなどの肌まで心配になる。
「雪姫〜ちゃんと前みなさいよ、そろそろ打ち上げ時間なんだから」
涼しげに笑う黒尾は借り物だという浴衣姿。群青から黒に絞られた麻に、締めた帯も黒地に銀糸が映えた粋な着こなしだ。
確かに周囲の密度は、花火の打ち上げ前でよりごった返している。人波を掻き分けるタッパの黒尾が前を歩いていくのに、付いていくのが必死だ。
「あの辺にしようか、ベストスポットとは言えんけど」
少し小高い丘になっている場所は、木々が茂っていてあまり人気がない様子。
ましてや開始時間ギリギリの今、いい場所はファミリーやカップルに狩り尽くされているだろう。
「いいよ、大して歩いてないのに足も疲れたし」
なにより、人混みに疲れた。
黒尾と2人きりというシチュエーションでのアドレナリンが出ていなかったらとっくに根を上げている。
「いやーもうちょい早く来れば良かったな、予想が甘かった」
「黒尾がギリギリまでスパイク練してるから」
「すまんすまん」
いつものやり取りをして少し気が緩んだ瞬間、夜空を割く音が上がり、夏空に花が開いた。
一つあがるごとに周囲からのどよめきとため息。
黒尾と並んで見上げた夜空からは次々と鮮やかな色彩が舞う。
「……インターハイ、惜しかったな」
「……うん」
もう三年の春高の今、勝っても負けても高校生活はあと半年。
ずっと黒尾が好きだった。バレーをしている姿も、後輩をいじる少し意地悪な笑い方も、雪姫の頭を軽く撫でるその手も。
虚空で大輪が咲く。花火独特の響く音に紛れて微かに。
「――好き……」
思わず、口から本心が滑りでる。
気持ちはずっと弓なりに絞られて。
見上げる花火のように、もう爆発寸前。
「ん?なに?雪姫。ごめん、聞こえなかった」
聞こえなくてもいい、ただもう我慢も出来なくて、溢れて。
思わず零れた本音は、火薬の音に掻き消えた。
「聞こえないように言ったの!だから」
鈍い爆発音が頭上で木霊して、また黒尾が首を傾げる。
折しも、花火の方もクライマックスで大玉が次々と弾けて空を染めていく。
「だから――好き、好きなの!」
この想いも、花火のように散るのか。
キラキラと、刹那を彩る儚い火のように。
そんな簡単な気持ちじゃない、あと半年の間が気まずくなっても良い。気持ちを言うチャンスはもうそうはないだろう。
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