夏祭り(赤葦バージョン)
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夏の宵の中に、祭囃子が流れてくる。
籠った熱気に、人混みを掻き分けながら目当ての人物を見つけて赤葦は微かに笑んだ。
「お疲れ様、浴衣も可愛いね」
――とっさにいつも使うお疲れ様という言葉には、自分でも苦笑いをする。折角の部活休みのデートなのに、何故こう情緒が足りないのだろう。
「お疲れ様です、赤葦先輩」
すかさずフォローを入れながら笑ってくれる雪姫には感謝だ。部活の時のまとめ髪とは違う、気合いの入った髪型に爪先も綺麗にネイルしてある。
なかなか出来ないデートにどれだけ気合いを入れてくれているのか、それだけでこっちは舞い上がるのに。
「おいで、迷子になる」
祭り会場が近いせいで、人の激流が出来ている。
繋いだ手に、互いの指を絡ませるようにすると雪姫の顔が俯いた。
「折角おしゃれしてくれてるし、顔見せて」
意地悪をしたいわけではないが、自分のために時間をかけてくれた事は細かくてもきちんと見たい。
身長差のせいで、近距離では隣の彼女の顔は普段からおがめないのだ。
「……恥ずかしいのに」
「でも、見たいから」
困った顔でも可愛い、その殺傷力は雪姫は無自覚だと思う。
「赤葦先輩、よく笑うのに。木兎さんがこの間珍しいって」
「……ずっと思ってたけど、雪姫って木兎さんたちは先輩って呼ばないよね」
「だって、木兎さんに先輩み感じないから」
後輩であり恋人でありながら、何故自分は先輩呼びなのかとずっと気にしていたのだが、天衣無縫が服を着て歩いてるような人物を思い浮かべて何となく納得した。
自分に、その先輩みがあるかどうかはともかく。
雪姫が木兎へ向けるフレンドリーの裏返しに、好意がなくて良かったと安心してしまう。
「……結構、ゆとりないな俺。聞いといてなんだけど、今の格好の雪姫の口から他の男の話は聞きたくないかも。――束縛、強くてごめん」
「部活中だと平静、淡々としてる姿が多いから……実はそれも結構嬉しかったりしますけど」
夏祭りに浴衣デート、ベタでけっこう。Tシャツ姿で申し訳ないと思いつつ、他の男の視線を拐う自分の彼女の外堀はこっちが視線で威嚇する。
部活中は、手のかかる先輩の対応で追われるせいか赤葦は面倒見が良いと言われる、認識としては世話係かもしれないが。
実際には、単に周りがそれなりに見えているだけで毎度そんなにお節介をしているつもりはない。手のかかるエーススパイカーに関しては、セッターとしての義務でしかない。
「何か食べようか?」
気心が知れて付き合いが長ければ別のチョイスをするが、まだ付き合いたての今は焼きそばだのモダン焼きだの手が汚れそうなものは嫌だろうと、片手で手軽に食べられる屋台を幾つかぶらつく。
着慣れない服の今は余計に疲れるだろうと、赤葦は雪姫のフランクフルトの下にハンカチを広げた。
「ほんと先輩て――ずるい」
「そんな事はないけど」
寧ろ、フランクフルトにチョコバナナとか食べさせて、変なこと考えてるんじゃないかと思われたら嫌だとか、言えば自滅するようなことしか考えていない。
「喉乾いたらすぐ飲みもの渡してくれるし、迷ってる時も半分こにしてどっちも買ってくれたり」
「雪姫を見てるだけだよ。それは……ちょっと買い被ってる」
その視線を追えば何を欲しいのかは何となく把握出来るし、半分こは合法的な関節キスで赤葦の得にしかならないという、これもはっきりと言えない理由である。意味不明な先輩を持つとその位の下心計算も早い、あまり自慢できない赤葦のスキルだ。
「いつもそうやってはぐらかしますよね〜……あ」
りんご飴の屋台は道すがら幾つかあったが、雪姫が目に停めた屋台は少し趣向が凝らしてあった。
硝子の林檎細工の根付ストラップが、飴の棒に縛ってある。そのひと手間で少し他より高い値段だが、夜空を写してステンドグラスのように煌めいていた。
籠った熱気に、人混みを掻き分けながら目当ての人物を見つけて赤葦は微かに笑んだ。
「お疲れ様、浴衣も可愛いね」
――とっさにいつも使うお疲れ様という言葉には、自分でも苦笑いをする。折角の部活休みのデートなのに、何故こう情緒が足りないのだろう。
「お疲れ様です、赤葦先輩」
すかさずフォローを入れながら笑ってくれる雪姫には感謝だ。部活の時のまとめ髪とは違う、気合いの入った髪型に爪先も綺麗にネイルしてある。
なかなか出来ないデートにどれだけ気合いを入れてくれているのか、それだけでこっちは舞い上がるのに。
「おいで、迷子になる」
祭り会場が近いせいで、人の激流が出来ている。
繋いだ手に、互いの指を絡ませるようにすると雪姫の顔が俯いた。
「折角おしゃれしてくれてるし、顔見せて」
意地悪をしたいわけではないが、自分のために時間をかけてくれた事は細かくてもきちんと見たい。
身長差のせいで、近距離では隣の彼女の顔は普段からおがめないのだ。
「……恥ずかしいのに」
「でも、見たいから」
困った顔でも可愛い、その殺傷力は雪姫は無自覚だと思う。
「赤葦先輩、よく笑うのに。木兎さんがこの間珍しいって」
「……ずっと思ってたけど、雪姫って木兎さんたちは先輩って呼ばないよね」
「だって、木兎さんに先輩み感じないから」
後輩であり恋人でありながら、何故自分は先輩呼びなのかとずっと気にしていたのだが、天衣無縫が服を着て歩いてるような人物を思い浮かべて何となく納得した。
自分に、その先輩みがあるかどうかはともかく。
雪姫が木兎へ向けるフレンドリーの裏返しに、好意がなくて良かったと安心してしまう。
「……結構、ゆとりないな俺。聞いといてなんだけど、今の格好の雪姫の口から他の男の話は聞きたくないかも。――束縛、強くてごめん」
「部活中だと平静、淡々としてる姿が多いから……実はそれも結構嬉しかったりしますけど」
夏祭りに浴衣デート、ベタでけっこう。Tシャツ姿で申し訳ないと思いつつ、他の男の視線を拐う自分の彼女の外堀はこっちが視線で威嚇する。
部活中は、手のかかる先輩の対応で追われるせいか赤葦は面倒見が良いと言われる、認識としては世話係かもしれないが。
実際には、単に周りがそれなりに見えているだけで毎度そんなにお節介をしているつもりはない。手のかかるエーススパイカーに関しては、セッターとしての義務でしかない。
「何か食べようか?」
気心が知れて付き合いが長ければ別のチョイスをするが、まだ付き合いたての今は焼きそばだのモダン焼きだの手が汚れそうなものは嫌だろうと、片手で手軽に食べられる屋台を幾つかぶらつく。
着慣れない服の今は余計に疲れるだろうと、赤葦は雪姫のフランクフルトの下にハンカチを広げた。
「ほんと先輩て――ずるい」
「そんな事はないけど」
寧ろ、フランクフルトにチョコバナナとか食べさせて、変なこと考えてるんじゃないかと思われたら嫌だとか、言えば自滅するようなことしか考えていない。
「喉乾いたらすぐ飲みもの渡してくれるし、迷ってる時も半分こにしてどっちも買ってくれたり」
「雪姫を見てるだけだよ。それは……ちょっと買い被ってる」
その視線を追えば何を欲しいのかは何となく把握出来るし、半分こは合法的な関節キスで赤葦の得にしかならないという、これもはっきりと言えない理由である。意味不明な先輩を持つとその位の下心計算も早い、あまり自慢できない赤葦のスキルだ。
「いつもそうやってはぐらかしますよね〜……あ」
りんご飴の屋台は道すがら幾つかあったが、雪姫が目に停めた屋台は少し趣向が凝らしてあった。
硝子の林檎細工の根付ストラップが、飴の棒に縛ってある。そのひと手間で少し他より高い値段だが、夜空を写してステンドグラスのように煌めいていた。
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