これからの時を全て賭けて
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「これからの時を全て賭けて」
秋の息吹に木々の葉が少しずつ、紅へと染まる。
紅葉よりも鮮やかな髪を揺らして、煉獄は微かに笑んだ。思い出したのは、大事な想い人を困らせて逃げられた――その時の恥じらった顔。
「少し、意地悪だったか……だが、そんな雪姫も可愛らしくてつい、子供のようなちょっかいを出してしまうな」
友人と楽しそうに笑って歩く姿を見かけて、自分の前で見せる顔よりは何かのびのびとしていて。
緊張していたり、不意に笑顔を見せたりする彼女は、自分を異性として認識してくれている――確信があるからこその、何の心構えもない友人への笑顔にすらささやかな嫉妬を感じる煉獄は、己の中の愛が重いと自覚はある。
「雪姫の全てを独り占めにしたいという俺の我儘は、そろそろ限界のようだな」
腕時計をちらりと眺めて、チャイムの前に駆け出した。決断したら、すぐに動く。想いが強ければ尚更だ。
スマートフォンのアラームに、ギクリとした蜜璃と雪姫は顔を見合わせた。
話し込みすぎるから、レポートの前にはお互いの為に時間を制限しようと決めている。カフェオレはとっくに飲み終わっていたし、つい話し込んでいたが。
「雪姫ちゃん、またお話しましょう!あっという間に時間で残念だわ、悲しいわ」
「うん、レポートとか課題諸々が終わったら遊ぼうね!」
大学卒業の年に、そんな簡単に片付くわけは無いのだが、そう言い聞かせないとメンタルと健康が死にそうでとりあえず合言葉のような口約束。
「いけない!伊黒さんから連絡きてたわ!」
「早く連絡してあげて……後で怒られるの私……」
言いながら、雪姫が自分のスマホを開いてそこにも伊黒からの催促を発見して、笑顔が強ばる瞬間だ。
嫉妬深い友人は、こういう時は敵に回る。
そして、珍しく某人物から連絡はない――複雑な気持ちになるのはずるいのか、と少し後ろめたい。
彼は教職にあるのに、大学生になってからこのかた雪姫に対して交際を申し込んでくる強者教師。
中高一貫校は卒業したとはいえ、大学には同卒も沢山いて。まだ周囲をはばかってしまう雪姫と真逆に、煉獄杏寿郎は諦めない。
お陰で教師陣からは三年半、からかわれてきた。
体育教師の冨岡までもが、預かり物だ!と弁当箱を持って追いかけてくるという嬉しくない初体験までも記憶に新しい。
ご飯を食べに行こうという煉獄の誘いを断ったら、手製の食事を家で食べないかに変わり、それを断ると弁当の差し入れになったのだ。
教師人生が大変な事になったら、と思って気持ちにブレーキをかける雪姫をよそに、煉獄はいつでもストレート勝負でくる。
素直に受け入れるタイミングは――自分でも読めなくなってきた。とりあえず卒業したら、そう思いながら今は課題に卒論に、と言い訳のようにやるべきことを考えている。
蜜璃と別れて、雪姫の足は自然と図書館に行く。
確か今日は高校の方は、半日授業で生徒はほとんどいないはず。大学の図書室は知り合いと話し込むからダメだ――なんて、自分への釈明を折り込む。少しでも煉獄の顔が見れたらという下心は、勉強という建前で覆い隠した。
「煉獄雪姫!今すぐ放送室にくるように!」
正門をくぐると同時に、とんでもない校内放送が耳に飛び込む。
聞き慣れたたくましい声は誰と間違うことも無い、煉獄杏寿郎その人。何故か雪姫の名字が煉獄にされているが、校内からマイクなしでも届く肺活量は、エコーを武器に何処まで轟いているのか考えたくない。
いくら雪姫が学校に入ってくる所が見えたのだとしても、こんな斬新な公開校内処刑スタイルの呼び出しが存在するだろうか。
咄嗟に背中を向けて敵前逃亡を選択した雪姫の背に、すかさず放送攻撃が投下された。
「五分以内に放送室に来ないと、先生が雪姫の好きな所を一つずつ全て詳らかに放送してしまうが、それでもいいだろうか」
いい訳がない。
かつてこんなに真面目にダッシュした事はないだろうと思いながら、針路を校内に変更して突入。
いい加減に、このフリーダムな教師を止めて欲しい。
「おお、きたな!雪姫」
「校内放送を私用で使わないでください!!」
「今日はもう生徒はいないから気にするな、俺を信じろ」
こんなに信用のならない教師は少ないと思うのは雪姫だけなのか。
肩で息をする雪姫を、煉獄が金と赤の瞳を嬉しそうに細めてハンカチで汗を拭く。
「済まない、五分は短すぎたか?」
「そもそも……放送室をこういう事に!」
「こういう、とはどういう事だ?」
ハンカチをしまった手は、雪姫の両頬を挟んでいる。
「ん?」
元生徒に好意を寄せているという事実は、煉獄の不利になると思っているのに、何故雪姫が追い詰められるのか。
「……私の……ことを一つずつ……放送するとかなんとか」
「そんな事を言っただろうか?俺の記憶と違うのだが」
「煉獄先生の記憶にあるなら、それでいいじゃないですか!」
す、と煉獄の指が髪をすくう。
挟まれたままの自分の頬が、熱のように熱い。
「雪姫の口からはっきりと聞きたい。俺が何と言ったのか、俺の想いがきちんと届いているのかどうか」
こんな至近距離で、目の前の相手が自分の好きな所を公開すると言っていたと素直にリピートできるような不屈のハートは持ち合わせていない。
「もう忘れてしまったのなら、もう一度言おうか」
「……なんで、煉獄先生は直ぐにそういう事を言えるんですか……!先生の立場なのに」
ずるすぎる。こんなにもまっすぐに。
言葉も視線も、その熱に絡め取られる。
「人というものは、成人してからがそれまでの家族より、長く一緒に過ごす相手を選ぶ。二十年、三十年過ごした家族と離れて、四十年、五十年と新しい家族と時を越えていく。だからこそ、俺は一生傍に居たいと思った相手には直ぐに告げるべきだと思ったんだ。自分の為ではなく誰かの為に、優しくあろうとする雪姫が、言葉を選ぶ気遣いや優しさが、心に刻まれていた。この女性とこれからの人生の時間の全てを、注ぎたいと、共に歩きたいと思った。遠慮などしていて、他の男にその座を取られるような事は許し難い。どうだろう、雪姫。そろそろ俺だけの存在になってはくれないだろうか」
その息を肌に感じて、触れそうな距離に鼓動を感じて、否と言えるわけがない。
覗き込む熱い双眸が、ずっと濁していた言葉を引きずり出して。
ずっと仕舞い込まれた本音に、炎が宿った。
「は、い……」
「この煉獄杏寿郎の妻になってくれるか?いや、先ずは雪姫の卒業までは交際期間を設けて、それから入籍になるが」
判断が早すぎる、決断も早すぎる。
しかしその熱意は熱すぎて、反論する意思も溶かしていく。
「君の口からその『はい』を聞くのは中々大変だった。しかし、これから先の長い時を後悔させるつもりはない!俺は一度手に入れたものを離す事はないから、そのつもりでいるように」
ずっと彼に恋していた。それはこれから、永い先に何度も話すチャンスがあるだろう。
笑顔で手を差し伸べる、その広い手は何もかも包み込んでくれそうな大きさ。
歩幅を揃えて、彼のように真っ直ぐに。
歩くこの先はきっと、まばゆいほどに明るいのだろう。
「やっとくっついたか……長かったよなぁ」
「はっ、やっと煉獄の騒ぎに巻き込まれなくて済むんだ。俺はもう春の段階で祝儀袋買ってあんぞ」
「嘘だろ、不死川。俺なんて去年のうちにゼクシィを派手に叩きつけてやったぜ」
主に三年と半年間、煉獄の情熱に影で振り回された同僚たちが、漏れ聞こえる音声に互いを労いあう。
付き合うか振られるかという選択肢ではなく、周囲の中では、いつになるかのカウント問題だった。
そして、その2人も知らぬ間に伊黒という伏兵が自分たちの意味もあって、式場チェックと見学を申し込んでいる。外堀は既に煉獄雪姫であった。
--------キリトリ線--------
相互さまへの捧げものでした。4枚に収まるわけなかった、うん。
秋の息吹に木々の葉が少しずつ、紅へと染まる。
紅葉よりも鮮やかな髪を揺らして、煉獄は微かに笑んだ。思い出したのは、大事な想い人を困らせて逃げられた――その時の恥じらった顔。
「少し、意地悪だったか……だが、そんな雪姫も可愛らしくてつい、子供のようなちょっかいを出してしまうな」
友人と楽しそうに笑って歩く姿を見かけて、自分の前で見せる顔よりは何かのびのびとしていて。
緊張していたり、不意に笑顔を見せたりする彼女は、自分を異性として認識してくれている――確信があるからこその、何の心構えもない友人への笑顔にすらささやかな嫉妬を感じる煉獄は、己の中の愛が重いと自覚はある。
「雪姫の全てを独り占めにしたいという俺の我儘は、そろそろ限界のようだな」
腕時計をちらりと眺めて、チャイムの前に駆け出した。決断したら、すぐに動く。想いが強ければ尚更だ。
スマートフォンのアラームに、ギクリとした蜜璃と雪姫は顔を見合わせた。
話し込みすぎるから、レポートの前にはお互いの為に時間を制限しようと決めている。カフェオレはとっくに飲み終わっていたし、つい話し込んでいたが。
「雪姫ちゃん、またお話しましょう!あっという間に時間で残念だわ、悲しいわ」
「うん、レポートとか課題諸々が終わったら遊ぼうね!」
大学卒業の年に、そんな簡単に片付くわけは無いのだが、そう言い聞かせないとメンタルと健康が死にそうでとりあえず合言葉のような口約束。
「いけない!伊黒さんから連絡きてたわ!」
「早く連絡してあげて……後で怒られるの私……」
言いながら、雪姫が自分のスマホを開いてそこにも伊黒からの催促を発見して、笑顔が強ばる瞬間だ。
嫉妬深い友人は、こういう時は敵に回る。
そして、珍しく某人物から連絡はない――複雑な気持ちになるのはずるいのか、と少し後ろめたい。
彼は教職にあるのに、大学生になってからこのかた雪姫に対して交際を申し込んでくる強者教師。
中高一貫校は卒業したとはいえ、大学には同卒も沢山いて。まだ周囲をはばかってしまう雪姫と真逆に、煉獄杏寿郎は諦めない。
お陰で教師陣からは三年半、からかわれてきた。
体育教師の冨岡までもが、預かり物だ!と弁当箱を持って追いかけてくるという嬉しくない初体験までも記憶に新しい。
ご飯を食べに行こうという煉獄の誘いを断ったら、手製の食事を家で食べないかに変わり、それを断ると弁当の差し入れになったのだ。
教師人生が大変な事になったら、と思って気持ちにブレーキをかける雪姫をよそに、煉獄はいつでもストレート勝負でくる。
素直に受け入れるタイミングは――自分でも読めなくなってきた。とりあえず卒業したら、そう思いながら今は課題に卒論に、と言い訳のようにやるべきことを考えている。
蜜璃と別れて、雪姫の足は自然と図書館に行く。
確か今日は高校の方は、半日授業で生徒はほとんどいないはず。大学の図書室は知り合いと話し込むからダメだ――なんて、自分への釈明を折り込む。少しでも煉獄の顔が見れたらという下心は、勉強という建前で覆い隠した。
「煉獄雪姫!今すぐ放送室にくるように!」
正門をくぐると同時に、とんでもない校内放送が耳に飛び込む。
聞き慣れたたくましい声は誰と間違うことも無い、煉獄杏寿郎その人。何故か雪姫の名字が煉獄にされているが、校内からマイクなしでも届く肺活量は、エコーを武器に何処まで轟いているのか考えたくない。
いくら雪姫が学校に入ってくる所が見えたのだとしても、こんな斬新な公開校内処刑スタイルの呼び出しが存在するだろうか。
咄嗟に背中を向けて敵前逃亡を選択した雪姫の背に、すかさず放送攻撃が投下された。
「五分以内に放送室に来ないと、先生が雪姫の好きな所を一つずつ全て詳らかに放送してしまうが、それでもいいだろうか」
いい訳がない。
かつてこんなに真面目にダッシュした事はないだろうと思いながら、針路を校内に変更して突入。
いい加減に、このフリーダムな教師を止めて欲しい。
「おお、きたな!雪姫」
「校内放送を私用で使わないでください!!」
「今日はもう生徒はいないから気にするな、俺を信じろ」
こんなに信用のならない教師は少ないと思うのは雪姫だけなのか。
肩で息をする雪姫を、煉獄が金と赤の瞳を嬉しそうに細めてハンカチで汗を拭く。
「済まない、五分は短すぎたか?」
「そもそも……放送室をこういう事に!」
「こういう、とはどういう事だ?」
ハンカチをしまった手は、雪姫の両頬を挟んでいる。
「ん?」
元生徒に好意を寄せているという事実は、煉獄の不利になると思っているのに、何故雪姫が追い詰められるのか。
「……私の……ことを一つずつ……放送するとかなんとか」
「そんな事を言っただろうか?俺の記憶と違うのだが」
「煉獄先生の記憶にあるなら、それでいいじゃないですか!」
す、と煉獄の指が髪をすくう。
挟まれたままの自分の頬が、熱のように熱い。
「雪姫の口からはっきりと聞きたい。俺が何と言ったのか、俺の想いがきちんと届いているのかどうか」
こんな至近距離で、目の前の相手が自分の好きな所を公開すると言っていたと素直にリピートできるような不屈のハートは持ち合わせていない。
「もう忘れてしまったのなら、もう一度言おうか」
「……なんで、煉獄先生は直ぐにそういう事を言えるんですか……!先生の立場なのに」
ずるすぎる。こんなにもまっすぐに。
言葉も視線も、その熱に絡め取られる。
「人というものは、成人してからがそれまでの家族より、長く一緒に過ごす相手を選ぶ。二十年、三十年過ごした家族と離れて、四十年、五十年と新しい家族と時を越えていく。だからこそ、俺は一生傍に居たいと思った相手には直ぐに告げるべきだと思ったんだ。自分の為ではなく誰かの為に、優しくあろうとする雪姫が、言葉を選ぶ気遣いや優しさが、心に刻まれていた。この女性とこれからの人生の時間の全てを、注ぎたいと、共に歩きたいと思った。遠慮などしていて、他の男にその座を取られるような事は許し難い。どうだろう、雪姫。そろそろ俺だけの存在になってはくれないだろうか」
その息を肌に感じて、触れそうな距離に鼓動を感じて、否と言えるわけがない。
覗き込む熱い双眸が、ずっと濁していた言葉を引きずり出して。
ずっと仕舞い込まれた本音に、炎が宿った。
「は、い……」
「この煉獄杏寿郎の妻になってくれるか?いや、先ずは雪姫の卒業までは交際期間を設けて、それから入籍になるが」
判断が早すぎる、決断も早すぎる。
しかしその熱意は熱すぎて、反論する意思も溶かしていく。
「君の口からその『はい』を聞くのは中々大変だった。しかし、これから先の長い時を後悔させるつもりはない!俺は一度手に入れたものを離す事はないから、そのつもりでいるように」
ずっと彼に恋していた。それはこれから、永い先に何度も話すチャンスがあるだろう。
笑顔で手を差し伸べる、その広い手は何もかも包み込んでくれそうな大きさ。
歩幅を揃えて、彼のように真っ直ぐに。
歩くこの先はきっと、まばゆいほどに明るいのだろう。
「やっとくっついたか……長かったよなぁ」
「はっ、やっと煉獄の騒ぎに巻き込まれなくて済むんだ。俺はもう春の段階で祝儀袋買ってあんぞ」
「嘘だろ、不死川。俺なんて去年のうちにゼクシィを派手に叩きつけてやったぜ」
主に三年と半年間、煉獄の情熱に影で振り回された同僚たちが、漏れ聞こえる音声に互いを労いあう。
付き合うか振られるかという選択肢ではなく、周囲の中では、いつになるかのカウント問題だった。
そして、その2人も知らぬ間に伊黒という伏兵が自分たちの意味もあって、式場チェックと見学を申し込んでいる。外堀は既に煉獄雪姫であった。
--------キリトリ線--------
相互さまへの捧げものでした。4枚に収まるわけなかった、うん。
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