pixiv作品 名探偵コナン
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「……冬華?」
ある日の朝。
私はいつもより早く目を覚ました。
隣を見れば、冬華もまだ寝てるくらい早い時間帯。
規則正しい寝息を立てている冬華。
「寝顔も可愛いな」
五年間毎日見ていて、毎日思っていた。
五年間。
五年…間……。
「……」
一瞬、冬華を起こそうかと手を伸ばしたが。
「……いや、湊が大丈夫だと言ったから」
手を引く。
“ママはもう大丈夫”
夢の中の我が子が伝えてくれた言葉は、私の中で大きく広がって。
“ああ、もう大丈夫なんだ”
自然とそう思えた。
だから大丈夫。
せっかく寝ているのに起こすのも可哀想だしな。
「ん〜…」
「あ、起きたか?」
いや、仰向けになっただけか。
「……」
仰向けになったことで、浮き出たものがある。
わかるだろ?
…こいつは寝る時、下着を外して寝るタイプだ。
わかるよな?
「……」
引いた手をまた伸ばし、ソレに触れようとして。
「…いやだめだ。お預け中なんだから」
また手を引く。
でも気になる。
触りたい。
いや、触るくらいはいいだろ。
お預け中だが、するわけじゃないし。
ただちょっと触ってみたいだけだし。
一回触るだけだし。
「……触るだけ」
引いた手をまた伸ばし、恐る恐る浮き出てるソレに触ってみると。
「……ぁ、んっ……う〜ん…」
ピクっと反応して、また寝返りを打って今度は反対方向を向いてしまった。
「………」
ふ。
何が一回触るだけだ。
数秒前の私、頭おかしいんじゃないか?
「……抱きたい」
こうなるに決まってるじゃないか馬鹿か。
一瞬のくぐもった声にすら理性を持って行かれそうになるんだぞ。
…だめだ。
ここに居たらだめだ。
「……朝飯用意しとくか」
理性が無職になる前に、私はベッドから降りた。
「っと。……冬華ほど上手く出来んな」
目玉焼きを焼くだけなのに、何故か焦げる。
繊細過ぎんか、この玉子。
「ダチョウの卵くらいデカけりゃ…」
誰が食うんだよそんなデカいの。
なんて一人ツッコミをしながら。
「…この焦げたほうは私が食おう」
トーストに目玉焼きを乗せた時に。
ドタッ バンッ バタバタバタバタッ
「お?起きたか?」
慌ててベッドから降りる音と、乱暴にドアを開ける音と、急いで来てる音が聞こえてきた。
「はは、わかりやすい音だな」
焦ってるだろう冬華に、クスリと笑うと。
バンッ
「ごめーん!寝坊したぁ!」
乱暴にドアが開いた。
「…お前…寝癖がえらいことになってるな」
さっきはそんな酷く見えなかったが…。
エッグトーストをテーブルに置いて。
「まだそんな時間じゃないぞ」
そう言うと。
「……へ?」
冬華はきょとん顔を浮かべて時計を見た。
「…ほんとだ…あれ…えー…?」
訳がわからないと首を傾げている。
「私がお前より早く起きているから、勘違いをしたんだろうな」
「あー…そうかも。いつも寝てる千速が居ないからびっくりしたもの…」
ちょいちょいと手招きをする。
「シャワー浴びるから大丈夫よ?」
「私がしたいんだ」
手櫛で冬華の髪を整えてやる。
サラサラで柔らかくて綺麗な髪だ。
「冬華の髪は綺麗だよな」
「千速の髪だって綺麗だし、その色って地毛でしょ?地毛でその色羨ましいなぁ」
「私自身は特別良い色だとは思ってないが、お前がそう言ってくれるなら良い色なんだな」
冬華も私の髪に触れ、指先でクルクル回して遊んでいる。
「私も染めようかしら」
千速と同じ色に!なんて可愛いことを言ってくれるが。
「だーめだ。せっかく綺麗な黒髪なのにもったいない」
それに染色剤で髪にダメージが入りそうだし。
「そう?」
冬華はクスクスと笑って。
「千速が綺麗だと言ってくれるなら、このままでいようかな」
目を細めた。
「…うむ」
はぁ…朝から可愛い奴だよお前は…。
「あ、今照れたんじゃない?」
「喧しい。ほら、朝飯を食うぞ」
「ふふ、作ってくれたのね」
ソファーに座り、エッグトーストを見る。
「作ったというほどのものじゃないさ」
「そんなことないわよ。ありがと」
大胆にガブっと行く私と、どこから食べようかクルクル見回してから控え目に齧り付く冬華。
「ん、おいしー!」
こいつ、仕草が上品なんだよな。
多分こういう食べ方もしたことないだろう。
…いや、あるな。
学生時代、初めてファーストフード店に行った時。
ハンバーガーの食べ方がわからず、クルクル見回していた。
「私が目玉焼きを焼くと焦げるのに、お前の目玉焼きは焦げないよな」
「そりゃあ愛する恋人さんのために手間掛けてますからねー」
“愛する”というワードに、顔が少し熱くなる。
「…た、ただフライパンに玉子を落として焼くだけじゃないのか」
「綺麗に焼くためには、ってことよ。簡単に焼くならそれでいいと思うけど、それだけなら火加減をちゃんとしないと焦げちゃうの」
冬華はクスリと笑み、私のエッグトーストの焦げた箇所を指差す。
「ふむ。なかなか奥が深いんだなぁ」
ほとんどの料理は、簡単に見えているが実は手間のかかる下ごしらえがあるものばかり、ということか。
その下ごしらえを見ずに上部だけを見て、“簡単な飯でいい”なんて言われたらそれはそれは腹が立つよな。
“簡単な”と言っていいのは、作ってくれる本人だけだ。
「ご馳走様でした。おいしかったー」
「ん、美味かったならよかった」
一緒に作ろうとか、教えるとか。
こいつはそういうことを言わない。
私がやらないのをわかっているから無理強いをしてこない。
私は私なりに、こうしてたまに朝飯を作ったり昼飯を作ったり。
簡単に適当な飯を作るのが性に合ってる。
まぁ私は冬華の料理が好きだから。
今日みたいに冬華より早くに起きた時以外はもう作らないだろう。
……甘えすぎてるよな、冬華に。
「さて、と。お弁当作らないと」
スウェットの上からエプロンを付ける。
さっきの上品な仕草のことを思い出す。
「お前、同棲する前からスウェット着てた?」
スウェットとか着るタイプじゃなかったのに。
今は普通に着てる。
ふと疑問に思って聞いてみると。
「あら忘れた?千速に押し付けられたのよ?」
そう言った。
「…私に?」
私が押し付け、た?
……そういえば、社会人になって一人暮らしを始めたお前の家に初めて泊まりに行った時。
“……お前寝る時いつもそれなのか?”
“え?えぇ、これが寝やすいの”
“…誰のワイシャツだ”
“私の。パジャマ用に大きめのを買ってるの”
“パンツだし…”
“楽よ?着てみる?”
“…これからこれを着ろ”
“え、暑くない?これ…”
“暑くない。それは駄目だ”
“ムラムラする?”
“する”
“あは!じゃあ着てみよっかな!”
なんてことがあった。
「それから千速は泊まりに来る度にスウェット持ってきてくれたから着るようになったの」
今となっては楽でいいわぁ、と着慣れたらしい。
「そんなこともあったか」
「私の非行はぜーんぶあなたからなんだけどなー」
優等生だったお前が、学校をサボったのも。
チャリの二人乗りも、暗くなるまで遊び尽くしたのも。
全部私から。
私がお前に教えた。
無表情だったお前が笑った時は嬉しかったな。
「そうだったな。あの頃のお前は…っと、こんな話はせんでいいか」
あの頃のお前は、親の操り人形だった。
だからこそ、お前の両親は私が憎いだろうな。
その操り人形の糸を切った私が、憎くてしょうがないはずだ。
現にこうして、帰さないでいるわけだし。
「ふふ。あ、玉子焼き入れる?」
「入れてほしい」
「はーい」
「焦げたら食うから隠すなよ?」
「う…もう焦がしませんよ!」
だからこうして私の傍で笑っていることに心底ホッとする。
「……千速、びちゃびちゃよ?」
「なんだこれ。水道壊れてんのか」
「洗い方が下手ってことは内緒にしとくわね」
と、何気ない会話に朝から二人で笑った。
「じゃあ行ってくる」
「えぇ、行ってらっしゃい」
弁当を持って、家を出る時。
「…行ってきますのキスは?」
いつものやつを求めたら。
「だめー」
冬華は自分の口の前で、両手の人差し指をクロスさせた。
よもや行ってきますのキスも禁止とは…。
「お預け中ですよ」
「…行ってきますのキスくらいいいだろ」
せめてキスくらいは許してほしい。
深くして、理性を崩して、求めさせてやるのに。
「絶対に普通のキスで終わらないもの」
…バレてる。
「く…」
「あは!ほら、やっぱり!」
何も言えなくなった私の頬を突っついてくる○○。
「でもまぁ、そうねぇ」
「ん?」
冬華は自分の人差し指にキスをして。
「今はこれで許して?」
その人差し指を私の唇に当てた。
所謂、間接キスというやつで。
「ね?」
と、少しだけ恥ずかしそうなその表情がヤバすぎる…。
「〜〜〜っ」
「わっ!」
私はギューッと冬華を抱き締めることで一瞬の欲望を拭い去って。
「…行ってくる」
「はい、行ってらっしゃい」
家を出て。
「……もっと触っとけばよかった」
あいつ寝てて気付いてなかったしな。
…次もしあいつより早起きすることがあれば、もっと触ろうと思った朝だった。
「美味すぎる」
「くれよ」
「死んでもやらん」
昼時、交通課の自分のデスクで弁当を食べている時。
重悟が来たから、重悟から弁当を遠避けた。
こいつは玉子焼きを食べた前科があるからな。
「何かあったのか?」
交通課に来てまで、私に何か話でもあるのだろうか。
「お前の嫁についてなんだがよ」
「冬華の?」
重悟は隣の椅子に座り、どこか真剣な面持ちで見てくる。
「何が聞きたいんだ?スリーサイズならお前を逮捕する」
ジト目で重悟を睨む。
「アホ。違うよ」
「じゃあなんだ?」
冬華について、何を聞きたいってんだ。
「嫁さんが前の職場に戻れない理由だ」
重悟は私を指して、そう言った。
「……」
電話でのあれか。
私は箸を止めて。
「……知ってどうするんだよ」
眉間に皺を寄せる。
「その理由を知ったところで、お前に何か関係があるのか?」
きつい言い方だが、知りたい理由を教えてほしい。
「対応出来るだろ」
「対応?」
重悟は頷き、私を指して。
「いくら同じ職場だとしても、部署が違えば顔を合わせる頻度は少ない」
パワハラなのかセクハラなのか、または違う理由なのか。
「簡単でいいから教えてくれないか?」
確かに私が傍に居られない時、重悟が○○を庇ってくれるのは心強い。
だが。
「……話したくない」
「…そうか」
言葉にするだけでも忌々しい事件。
ただ。
「…あいつは戻ろうと思えば戻れるだろう。だが…」
「お前が戻させない、というわけか」
「あぁ。まぁ本人も戻りたくはないだろうがな」
あいつは本当に優秀な公認会計士だった。
あいつが某企業に入社してから1年が経った頃。
日本中の企業が、取引をしたいと申し出たくらいの巨大な企業にまで成り上がった。
不正もなく、誤りもなく。
頻繁に改正される会計基準や税法に、実務をこなしながら常に最新の知識をアップデートし続けて。
“あの公認会計士、うちにほしい”
多くの企業にそう言わしめた公認会計士があいつだ。
いくつもの企業が、喉から手が出るほど冬華を欲しがった。
だが、入社して五年が経ったある日。
それが崩れた。
忘れもしない、あの日の夜…。
冬華の仕事終わりにいつものメンバーで集まって飲もうって話になり、遅くなると一報をくれた冬華を迎えに行ったら。
“お!出てきた出てきた……って…冬華…?”
“…っ!!ち…っちは…っちはや…っ千速ぁ…っ”
“お、お前一体何があって…っ冬華…っ”
冬華は乱された服のまま、某企業から飛び出してきた。
たった一人の公認会計士による、徹底した監査によって守られていた地位は。
その公認会計士が辞めた途端に崩れ落ち、今では倒産の危機にすらいる状況だと聞く。
いっそ倒産してしまえばいいのにな。
ギュッと拳を握り、あの時の怒りに震えた。
「すまん千速。嫌なことを思い出させたな」
おそらく重悟は、冬華が受けたのはセクハラだと察してくれただろう。
「…いや、私こそ話せなくてすまん。だが気にかけてもらえるのは有難いよ」
そして冬華を結構気にかけてくれる。
「いや、気にすんな。俺はただ守りてぇだけさ」
「重悟…」
重悟は私の肩に手を置いて。
「って、おいッ!だからお前!!なんで玉子焼きを食うんだよ!!最後に取っといたのに!」
また玉子焼きを食われた。
「お前の嫁さんの玉子焼き、美味いよな」
「美味いさ!美味いんだよ!だから取っといたんだ!」
わざわざ入れてもらってるのに。
「じゃあまたな、千速」
「喧しい!さっさと行け!」
重悟はニヤニヤ笑いながら去って行った。
「くそ!重悟の奴!!」
最後のお楽しみが台無しだ!
さっきまでの雰囲気はなんだったんだよ!
ゆっくり味わって食べていた弁当を、苛立ちからガツガツと一気に食って。
「……はぁ…」
空になった弁当箱を見つめる。
嫌なことを思い出して、声が聞きたくなった。
あいつの元気な声が。
「……ちょっと電話するか」
スマホを取り出し、電話をかける。
『もしもーし』
すぐに出てくれた。
「今電話大丈夫か?」
『大丈夫よ。何かあった?』
「また重悟に玉子焼きを食われたんだ…」
『あらま。私の玉子焼き人気ねぇ』
スマホの向こうで、クスクスと笑う声が聞こえる。
安心する声だ。
『明日からもっとたくさん…にしたら食べきれないか』
「明日からは先に玉子焼きを食べる」
『あは!お子ちゃまみたいよ?千速。可愛いなぁ』
他愛のない会話でも、お前は笑ってくれる。
「今日は定時で帰るからな」
『えぇ、待ってる』
短い通話を終えて、今の今まであった苛立ちは消えていた。
「…あいつが居なかった日々を、もう思い出せんなぁ」
あいつは居て当たり前の存在で、居なきゃいけない存在。
私が生きていく上で、何よりも必要な存在だ。
「っと、よし。定時で帰るためにもう一頑張りだな」
弁当屋を片付けて、立ち上がる。
「ん゙ーッ!!はぁ…ッ行くか」
背中を伸ばし、ヘルメットを持って。
「…玉子焼きを作っといてもらおう」
冬華にメッセージを送りながら、巡回に出た。
「あ、来た来た!千速ー!お疲れ様ー!」
「!冬華、迎えに来てくれたのか?」
仕事を終え、県警から出れば。
冬華が県警の門のところに来ていた。
ヘルメットと大きめなバッグを持って。
……なんだ?何の用意だ?
私が手招きをしてやると、周りを見ながら駆け寄ってきて。
「お疲れ様」
「うん」
私の傍に立ち、小さく笑った。
……可愛いな。
本当に、こいつは顔が良い。
性格も良いが、昔はわりとドライだった。
他人に興味がなく、自分だけの殻に閉じ籠もっていて。
“結構です”
と、冷たく突き放されたこともあるほど。
「その荷物はなんだ?」
「これ?フフフ……」
冬華はニヤリと笑って。
「千速と私の着替え!」
中を見せてきた。
「着替え?」
なんでまた着替えなんか…。
「ボイラー壊れちゃって。お風呂入れれなくなっちゃった」
「ボイラー?業者には連絡したか?」
「えぇ。でも今日は無理で、明日来てくれるみたい」
「だから温泉か」
「せいかーい!外食がてら、たまには良いかなって思って。ど?」
…温泉か。
チラッと冬華を見る。
恋愛感情を抱く前は全然大丈夫だったのに、こいつを好いてから行きたくなくなった。
不特定多数の奴がこいつの裸を見るなんて…と考えたら嫌で嫌で…。
「千速?」
だが、ボイラーが壊れたなら…行くしかないんだよな…。
「…いや、いいよ」
私としては一日入らないという選択肢も有りだが、こいつは毎日入りたい派だ。
「なんか“冬華の裸見られるのやだけど仕方ない”って思ってそう」
「エスパーか」
冬華はクスクス笑う。
「それを言うなら私だって千速の裸見られたくないわよ?でもお風呂入りたいしさー」
「…く。なら仕方ないな。行こうか…」
「ふふ、ありがと!」
嫌だけど、そんな興味本位でジロジロ見てこないだろ嫌だけど。
嫌だけど冬華と温泉行くの久しぶりだしな。
「あ、忍も誘ってみよっか」
「忍?」
…忍を間に挟めば、嫌な気持ちが緩和されそうな気がする。
あいつは事あるごとに私や冬華を守ってくれるし、忍になら冬華の裸を見られてもいい。
「そうだな。連絡してみるよ」
「えぇ、来てくれるといいなぁ」
私はスマホを取り出して、忍にメッセージを送る。
“温泉に行かないか?”という短文の。
ピロン
“はいはい、ガードマンしてあげる”
…エスパーすぎる…。
「返事来た?」
「あぁ。行くってさ」
「やったやった!久しぶりに三人で温泉!」
楽しみ!と足取りを弾ませて。
「転ぶぞー」
そう声をかける。
こんな有り触れた日常を取り戻せたなんて、まるで夢のようだよな。
こいつが眠っていた五年間、私はどうやって過ごしていたのだろう。
思い出せないってことは、それほどまでに曖昧に過ごしていたのかもしれん。
ただ毎日顔を見に行って、今日も起きなかったを五年間…。
「千速」
「!」
名前を呼ばれ、はっと我に返る。
「歩きながら考え事は危険ですよ?萩原警部補」
どこか心配そうなお前は、きっと私が考えていたことをわかっているんだろうな。
「何食おうか考えていただけだよ」
「ほんとかなー?まぁ、そういうことにしといてあげてもいいけどー?」
はは、本当にお前は。
どこまでも愛しい奴だよ。
「久しぶりに寿司か?」
「お寿司いいわね!回転してないとこ?」
「…回転してないところは時価だからな。今度重悟にでも奢らせようか」
「楽しみにしてますって伝えておいて」
「うむ」
駐車場に着き、ヘルメットを被る。
「あ、そうだ」
「ん?」
冬華はバッグから保存容器を取り出して。
「玉子焼き、持ってきたの」
パカっと開ければ、綺麗な玉子焼きが入っていて。
「わざわざ持ってきてくれたのか」
「お腹一杯になったら困るから、とりあえず二切れね」
残りは家で、と。
昼に重悟に食われた玉子焼きを、ようやく食べることが出来た。
一切れを取り、口に放り込む。
「おいし?」
「美味すぎる」
続けてもう一切れ。
美味い。
本当、こいつの料理は美味い。
「毎日お弁当に入ってて飽きない?」
「飽きない。毎日食いたい」
弁当自体が贅沢だよな。
同棲前は県警の食堂や、巡回中の休憩がてらにパンを買うくらいだったのに。
今は毎日冬華の手作り弁当が食える。
こんな贅沢は他にない。
「そっか」
嬉しそうに笑う冬華の顎に手を添えて。
「千速?」
キスをしようと思ったら。
「だめでーす」
また押さえられた…。
「…こんな外で深いのはしないから」
「それでもだめです」
くそぅ…。
いつ解禁されるんだよ…。
むぅ……と頬を膨らませて。
「!ありがと」
冬華が持ってるヘルメットを取り、被らせて。
「解禁になったら凄いからな、お前」
覚悟しとけ、と伝えると。
「……覚悟しとく」
バイクの後ろに乗って、ギュッと強く私に抱き着いた。
抱きたいと思った。
それから忍と合流して。
「ふーむ」
「なんだよ忍。人の胸をまじまじと見て」
「私と千速のを見比べてる…」
「いや、まだ千速のほうが大きいなぁと思って」
「…まだって何よまだって」
「え?だってたくさん「忍、露天風呂に行かない!?行くわよね!?」
忍と冬華の会話を聞き、ケラケラと笑う私。
忍の視線は厭らしさを感じないから嫌じゃない。
私と冬華、自分のを比較して肩を落としてるのも面白いしな。
「泳いでもいいかなー!?」
「温泉は泳ぐもんだろ」
「違うに決まってるんですが、まぁ人いないからいいと思う」
私たちの悪さにも付き合ってくれる。
「今禁欲中なんだよ」
「また唐突ね。でも冬華からメッセージ来たよ、それ」
“千速がワンちゃんみたいで可愛いの”って来たらしい。
「……キスもさせてくれないんだ。忍から説得してくれ」
友の力を借りようと、言ってみると。
忍は泳いではしゃいでる冬華を見ながら。
「意外と満更でもなかったんじゃない?」
そう言った。
「え」
きょとんと忍を見る。
「解禁した後えらいこっちゃになるのくらい、あの子が思わないわけないっしょ」
…確かに。
あいつは頭も良いし、察する能力がバケモンだ。
それにエスパーだしな。
……満更でもなかった、か。
「…フフ…」
「悪い顔してるよ、千速」
そう思うと、我慢出来る。
「っと、おい冬華。人が来たから止まれ」
「あ、はーい」
露天風呂に人が来たから、泳ぎを止めるよう声をかける。
「っバカ!!」
で、立ち上がろうとしたのを、私が止めるより早く。
「おりゃあああ!!」
「わぁああ!」
忍が飛び付いて、お湯の中に消えた。
「……危なかった…ナイスだ忍…」
ガードマンとしての役割を全うしてくれたようだ。
「ばかっ忍!いきなり!」
「油断は禁物ですよ、奥さん」
お湯に浸かりながら、冬華の手を引いて私の傍まで連れて来てくれた。
「すまんな」
「ジュース奢ってね」
「仰せのままに」
私が先に上がって。
「わっ!……あなたたち私に過保護過ぎない?」
タオルを構えて冬華が上がった瞬間に包み込む。
「冬華は私にご飯奢ること」
「奢るのはいいけど、なんか千速と結託してるわね?正直に話しなさい!」
「ほら、もう一風呂入って出るぞ」
「あ、話逸らした!もう知らないんだから!」
ベーッと舌を出しながら、タオルで体を隠したまま温泉に駆けて行く。
「…可愛い」
「無表情で無感情の優等生が、今となってはすっかり千速色に染まったよねぇ」
「実にいいことだ」
私がうんうんと頷けば。
「絶対に冬華の両親に憎まれてそう!」
忍はカラカラと笑った。
「私もそう思ってるよ。ただそんなことどうでもいいがな」
私は冬華を守る。
たとえそれが、あいつの両親からだろうと。
あいつを悲しませる奴らは絶対に許さない。
それから少しして、温泉から上がった私たち。
「まじで言ってんの?あんたたち…」
「「え」」
スウェットに着替えたら、忍がドン引きした。
私と冬華は顔を見合わせて。
「変な柄じゃないと思うが」
「「変?」」
同時に首を傾げた。
「…ここからバイクに乗って帰るんでしょ?」
「そう」
「そうよ」
「……悪いことは言わないから、さっきまで着てた服にしなさい」
ということで、何故かさっきまで着てた服に着替えさせられて。
「そこまで千速色に染まらなくてもいいのに…」
「だって楽なんだもーん」
「忍も着てみろ。楽だぞ」
「外で着るものじゃないって言ってんの!」
服装について、懇々と説教をされたのだった…。
END