pixiv作品 名探偵コナン
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“萩原ってさ”
“なんだよ”
高校の時、同じクラスの奴に聞かれたのは。
“蒼月と付き合ってんの?”
あいつとの交際について。
私とあいつ、そして忍とはいつも連んでいた。
どこへ行くにも三人一緒で。
“24時間カラオケ耐久しない?”
“面白そうだな。よかろう乗った”
“ちょいちょいあんたたち…学生の私たちのどこにそんなお金があんの…”
あいつがアホな遊びを企画し、私が乗って、忍が止める。
それが定番として、私たちはいつも笑っていた。
私はあいつが好きだった。
それは幼馴染としてではなく、友情としてでもなく。
恋愛対象として。
あいつに恋をしていた。
多分、小さい頃からずっと。
いつから?と言われればわからないんだ。
当たり前に傍に居て、当たり前に毎日一緒に遊んでいたから。
だから“気が付けば”、という表現が正しいかな。
そう。
気が付けば私は、あいつを好いていた。
気付いたきっかけは些細なこと。
“おーい!冬華…”
小4の時、休み時間にあいつの教室へ行ったらあいつはクラスの奴と楽しそうに会話をしていたのを見て。
“……(なんだよあれ…ムカつく…)”
と思って、呼ばずに教室へ戻ったら。
“千速ー、いるー?”
あいつが私を呼びに来て。
“……”
返事をせずに、ムッとしたままあいつをチラ見をした時に。
“あ!いたいた、千速ー!トイレいこ!”
パァッと顔を明るくさせて、私に駆け寄ってきた。
ムカついていた気持ちが一気に晴れて。
“なんだなんだ?お前、私がいないとトイレにもいけないのかー?”
“千速が前にトイレの花子さん出た時に助けてくれるって言ったんじゃん!”
なんだか凄く嬉しくなったんだ。
それを研二に話すと、“姉ちゃんってすげぇ冬華ちゃんのこと好きだよねぇ”と言われたことからあいつへの想いに気付いたんだ。
小学6年生の時の修学旅行は本当にドキドキした。
同じ班になって、班行動をしていたが。
“あれ?冬華ちゃんいなくない?”
“は!?あいつどこ行ったんだ!?”
クラスの奴らと観光するために作った地図を見ていたら、あいつが居なくなって。
“いたー!あっちにいたよ!”
“おい冬華!戻ってこい!”
何故かあいつは私たちとは反対側の道に居た。
“猫見てたらみんな居なくなっちゃってて…”
ごめぇん…と肩を落とした。
“まったくお前は…”
私は呆れながらも、あいつに手を差し伸ばして。
“…これで迷子にならないだろ”
“ありがと千速!”
あいつと手を繋いだ。
ラッキーだと思った。
『千速、行けるでしょ?』
スマホの画面を見て、少し物思いに耽ってしまっていた。
「行くよ。と」
忍からメッセージが来た。
高校の同窓会の知らせが。
毎年開催されているけど、仕事を理由に断っていた。
だが今回は忍が幹事ということで、私の非番の日にぶつけて来たため断る理由がなかった。
『今年は冬華も仕事休めるみたいで来れるって』
「『お前は幼馴染の私よりもあいつと連絡を取ってるのか』」
『あんたたちが取らなさすぎってだけ!』
……連絡、か。
天井を見上げる。
“萩原ってさ”
“なんだよ”
“蒼月と付き合ってんの?”
クラスの奴にそう聞かれたのは。
小学生の頃からの想いを長引かせていて。
どこで想いを伝えていいのかわからなくなっていた高3の夏。
“なんで?”
たったの一言“付き合ってんの?”の言葉に動揺して、思わず聞き返してしまった。
“お前らずっと一緒にいるじゃん”
確かに私はあいつとずっと一緒にいる。
高校だって、冬華と同じ高校に行くために嫌いな勉強を頑張ったくらい。
だが私たちは一緒にいるだけで。
“付き合ってないよ”
交際はしていなかった。
高1から忍と知り合い、三人での行動が増えた。
忍は気遣いの達人で、絶対に真ん中を歩かずに私の隣を歩いた。
どうしてなのかを聞いた時に。
“だって千速、冬華のこと好きでしょ?”
一目見てわかるよ、と笑われた。
私が嫉妬をすると思っていたらしい。
“早く告りな!”と何度言われたことか。
私が冬華を好きだとしても、冬華が私を好きかどうかわからない。
フラれたくないし、フラれて今の関係が崩れるのが怖かった。
“冬華……”
休憩時間、忍と一緒に隣のクラスのあいつを呼びに行った時。
“君が好きだから、俺と付き合ってくれない?”
あいつは、当時うちの高校で一番のイケメンと言われていた先輩に告白をされていて。
“……”
“…千速、顔怖いよ”
忍に肘で突かれ、表情を戻した。
周りは興味本位と嫉妬であいつらを見ていたが。
“ごめんなさい。興味ないです”
ニコリと笑って告白を断れば、先輩は大勢の前でフラれたことで。
“…はぁ?俺を誰だと…”
その恥ずかしさを隠すために、あいつの腕を掴んだ。
“ほら千速、行け!”
“……っ!”
忍に背中を押され、二人の間に入ってしまう私。
“…千速”
冬華は一瞬驚き、一瞬嬉しそうな顔をしたけれど。
“…余計恥ずかしい思いをするのは先輩ですよ”
庇ったには庇ったが。
“……高倉健之助か…”
自分、不器用ですから…で有名な某俳優かと思ったと後に忍に叱られた。
「……確かに、私たちが連絡を取らなくなってしまったんだなぁ」
メッセージアプリを開いて、あいつの名前を見る。
最後に連絡をしたのはなんと十三年前。
私とあいつ、忍と。
さらに研二と陣平の五人で夏祭りへ行った時。
その時にはもう、あいつが好きすぎて直視出来なくなっていた。
なのに。
“可愛い千速ー”
“………”
浴衣を着たあいつは凄く可愛くて、ますます直視出来なくて何も言えずにいると。
“馬子にも衣装ってこのことだな!”
“はぁ?松田の小僧がなんか言ってらァ!”
“ああ!?誰が小僧だ誰が!”
あいつと睨み合って。
“まぁまぁお二人さん!落ち着いて!”
研二がそんな二人を宥めていた。
“…素直に“お前もな”って言ってあげたら?”
“…っや、喧しいぞ忍!”
忍に耳打ちをされて、顔が熱くなったのは今でも覚えている。
“金魚掬いしたい”
“開幕やるもんじゃないだろ”
“生き物はダメです!”
忍にNGを出され、肩を落とすあいつに私はケラケラ笑う。
かなりの人混みで、すれ違う人たちと肩がぶつかる。
“あれ?冬華は?”
“え?”
ふと隣を見た時にはあいつの姿がなくて。
“あいつまさか…”
“そのまさかだよね…”
“あの野郎、迷子になったんじゃねぇか?”
“探さねぇと!”
私たちが必死にあいつの名前を呼びながら。
“冬華!………”
あいつを見つけた時には、クラスの名無に話をかけられていた。
腕を掴まれて。
“……”
名無は楽しそうだがあいつは困っているように見えた。
“千速”
また忍に背中を押されたと同時に。
“おうおう、どこのどいつか知らねーけど。そいつ俺らの連れだから”
“悪いねぇお兄さん”
“陣平…研二…”
陣平と研二が先に冬華の手を引いてこちらへと連れて来てくれた。
小6の修学旅行の時みたいに、“何やってんだよ、ほら”と手を差し伸べてやればよかったのに。
“…子供じゃないんだから離れるなっつの”
手を繋ぐことが恥ずかしくて。
手を繋ぐことで冬華への想いに気付かれたらって思うと手を差し伸べられなかった。
“…ぅん…ごめん…”
あいつは申し訳なさそうに謝ってきた。
“気を取り直してなんか食おうぜ”
“だな。腹減った”
研二と陣平が居てくれて助かったと思った。
しばらくして。
“ちょっとお手洗いに行ってくるわね”
“あ、付いて行くよ”
“…んーん、すぐそこだから大丈夫よ”
あいつはトイレに行った。
それを横目で見ていたら、忍に肘で突かれて。
“千速、意識しすぎじゃない?”
ジト目で睨まれた。
こいつ、エスパーすぎるんだよ。
“…別に意識なんて”
“そんなんじゃ誰かに掻っ攫われちゃうよ?”
そんなわけあるか、と。
この時はそう高を括っていた。
“……”
私たちは射的屋の前で、あいつの帰りを待った。
“心配なら迎えに行ったら?”
あいつが去ったほうを気にしていたら、忍に言われて。
“は、はぁ?そんなんじゃ”
ないと言おうとすれば。
“姉ちゃんこーいうのからっきしだからねぇ”
研二が射的の的を見ながらそう言った。
“じゃあ当たったら千速は俺の嫁な!”
“はぁ!?”
陣平たちの会話のほうに気を取られて。
“あ、おかえり冬華!”
“うん、ただいま。人が凄くてなかなか前に進めなかったぁ”
気が付けば、冬華が戻ってきていた。
“どしたの?冬華”
“…ん、何でもないよ”
忍と冬華の会話を横目で聞きながら、冬華がどこか切なげな表情を浮かべていることが気になって。
“なんだ元気ないな。食い足りないかぁ?”
どうした、何かあったか?という意図を含んだ言葉を投げかけると。
“…ちょっと人酔いしたからあっちで休んでるね”
あいつは小さく笑って、またどこかいなくなった。
“……”
忍にジト目で睨まれる。
“もっと素直になりなよ”
“幼馴染”という呪縛は、なかなかに厄介で。
“…いいんだよ、私たちはこれくらいで”
恥ずかしくて、素直になんてなれなかった。
“そんなわけないじゃん!ほら!行ってきなよ!”
“っおい忍…!”
だが忍に背中を押され、冬華を追えと言われて。
追ったところで何を話せば…なんて思っていたら。
“………そういうことかよ”
あいつは、さっき絡まれていたクラスの名無と楽しそうに話していた。
困ってたんじゃなかったのか。
嫌だったんじゃないのか。
休みたいは嘘だったのか。
名無と話したいから私たちと離れたのか。
“……ムカつく”
凄いムカついて、楽しそうなあいつを見てられなくて。
“あれ?冬華は?”
“…見つけられなかった。でもま、大丈夫だろ。子供じゃないんだし”
声をかけることなく。
もう一度、“子供じゃないんだし”という言い訳をして。
イラつく気持ちを抑えるために、研二たちと思いっきり遊んだ。
「…次の日からだったな。お前が私を避け始めたのは」
“名無君と付き合うことにした”
という、あいつのメッセージを最後に。
私は返信が出来なかった。
なんて送ったらいいかわからなかったんだ。
おめでとうなんて死んでも言いたくなかったし、ダメだなんて言う権利ないだろ?
三人で行動していたのも、私と忍の二人行動が増えて。
“…千速、いいの?”
“何がだよ。あいつが決めたんならいいだろ別に”
あいつは彼氏となった名無と居ることが増えた。
遠くから名無といる時のあいつを見る。
“……幸せそうだな”
幸せそうに見えて、腹が立って、ムカついて。
“……何してんだろうな、私は…”
虚しくなった。
「……やっぱり行くのやめようかな」
メッセージアプリを閉じて、天井を向いたまま手で目を覆う。
あいつと連絡は取ってないからあいつの近況がわからない。
もしかしたら結婚したかもしれんし、子供もいるかもしれん。
“あ、ちょっと旦那から連絡きた”なんて言われた日には正気を保てる自信がない。
忍は結構連絡を取ってたらしいが、私にはあいつの情報を口にしない。
何年か前に。
“…あいつ、どうしてるんだろ”
忍にそれとなく情報を聞き出そうとしたら。
“私言ったよね?何回も。素直にならないと掻っ攫われちゃうよって”
“………”
“何回も警告したのに無視をし続けたのは千速。信じなかったのも千速!そんなおバカな千速にはなーんにも教えてあげない!”
と。
あかんべーをされてから聞けなくなった。
まぁ、それはそうだよな。
忍は本当に何度も背中を押してくれていた。
それを無視、というか…素直に受けられなかったのは私なんだから。
ピロン
『行くのやめた、は無しの方向で』
「……エスパーすぎるだろ」
やっぱ、まで打って忍からメッセージが来た。
今更どんな顔して会えばいいんだよ。
ピロン
『いつもの千速でいいからね』
「『だからエスパーすぎるんだってお前は』」
ことごとく私の思考を読み取ってくる忍に小さく笑って。
「いつもの私、か」
そうだな。
もう十三年も前のことなんだし、向こうだって意識などしせんよな。
「明日は酒を飲みまくろう」
会費を払えば飲み放題。
元取れるくらい飲みまくってやると決めて、私は立ち上がった。
同窓会当日。
特に粧し込むこともなく、動きやすい格好で来た私。
忍も、いつもの私でいいと言っていたしな。
「千速!」
「!忍か」
忍が来て、ちょっと周りを見回してしまった。
…あいつと一緒かと思って。
「冬華、ちょっと事情があって遅れるって」
「エスパーが特技だったか?お前は…」
「千速が分かりやすすぎるんだよ」
忍がまたエスパーを発揮させてきたから、ため息を零した。
「あれ?萩原じゃね?」
「!ああ………うん、お前か」
「絶対覚えてねぇだろ」
クラスの奴っぽい奴はケラケラ笑った。
それから間も無く、続々と集まり出したが。
「………」
「まったく覚えてないって顔してる」
「…まったくではないが…ほぼ…」
あんな奴もいたな、くらいに覚えてる奴も居れば初対面か?というほど覚えてない奴もいた。
「大丈夫?居れそう?」
「ん?ああ、それは問題ない。食うし飲むし」
まぁ話せば思い出すだろ、くらいにしか思ってないから大丈夫だと忍に伝えると。
「よかったー、じゃあ入ろっか」
「そうだな」
忍も安心したかのように笑った。
ワイワイ ガヤガヤ
賑やかな会場。
「萩原ってさ、今警察なんだろ?」
「ん?あぁ、まぁな」
「この前白バイ乗ってんの見たわよ。手振ったの気付かなかった?」
「気付いていたら私は前方不注意だぞ?」
なんて適当な会話をして、時間を過ごす。
「美味いな、ここの料理」
料理も酒も美味いし、来て良かったかもな。
「萩原」
「!……お前」
酒を飲んでる時に、私に近づいてきたのは。
“萩原ってさ”
“なんだよ”
“蒼月と付き合ってんの?”
私にそう問いかけてきた名無。
「元気そうじゃん」
「…あぁ、まぁな」
正直、人生においてこいつとだけは話したくないし関わりたくない。
きっとあからさまに態度にも出していると思うが。
「綺麗になったな」
名無は気付かないのか、私の手に触れてきた。
……こいつ。
「……触るな」
名無の手を弾き、睨む。
お前のせいで冬華と疎遠になったんだ。
私に気安く話をかけてくるな。
……まぁ、私に勇気がなかっただけなんだが。
「そう睨むなよ。俺さ、蒼月と別れたんだ」
「…聞いてないそんなこと。どっか行け」
私の拒絶に、名無はガックリと項垂れて違う奴を口説きに行った。
誰でもいいのかあの野郎。
「……というか、別れたのか」
ということは、あいつ今はフリーか?
いや、いつ別れたのかも知らんし違う奴と交際か結婚してるだろ…。
いやでも、万が一があるか…?
「……」
……諦めが悪すぎるだろ。
もう十三年も前なんだから、いい加減忘れろ。
グイッと酒を飲み干し、新しい酒を注文しようとした時。
「ごめーん!遅れたー!」
冬華が来た。
「…!」
少しだけ粧し込んだあいつは、あの頃以上に可愛くて。
「遅いよ冬華ー」
「うわー!久しぶり!元気してた!?」
「お前…綺麗なったなー」
「俺と付き合わね!?」
などなど、すぐにいろんな奴に囲まれた。
「千速は行かないの?」
「うわ…っ!び、びっくりするだろお前!」
いつの間にか忍が私の隣に居て、冬華を指した。
「…いいよ。でもま、元気そうでよかった」
「まーた千速は…。それで後悔してたくせに」
「や、喧しい。いいったらいいんだ…!」
メニュー表のページを捲り、チラッと冬華を見る。
「…!」
目が合って、目を逸らす。
いやシャイか。
私はそんなタイプじゃないだろ。
「よ、っと」
「ッ!!」
メニュー表を捲りまくってたら、一通り話し終えた冬華は私の隣に座ってきて。
「な…な…」
なんで隣に座る、という言葉が出てこない。
「元気してた?」
ニコリと笑って、私に話をかけてきた。
「……まぁな。お前も元気そうじゃないか」
メニュー表から視線を外さず、ぶっきらぼうに返す。
私らしくなく、緊張してる。
「忙しいけど、なんとか元気よ」
忍が飲み物を聞きに来て、“烏龍茶で”と○○は答えた。
その際に私は忍に“助けてくれ”とアイコンタクトを送ったが。
“がんばれ”とアイコンタクトで返された。
「…酒は飲まないのか?」
「お酒飲めないのよ。ちょっとでも入ると寝ちゃうの」
そんなに酒に弱いのかと思うと同時に、誰と飲んだ時に知ったんだそれは、とも思ってしまう。
「冬華!」
「「!」」
冬華を呼んだのは、先ほどの名無。
「名無君、来てたの」
冬華はまたニコリと笑った。
その笑みは、どこか怒気を含んでいるように見えた。
「まぁな!お前も綺麗なったな!」
「あら、ありがとう」
酒を飲んで出来上がってる名無は、冬華の隣に座って。
「よりを戻してやろうか!?」
ケラケラ笑いながら冬華の手を握った。
すると。
「いやー、付き合った一週間後に浮気した△△君とヨリを戻したいはないかなー」
ニコニコ笑顔で爆弾を投下した。
「「「は?」」」
私を含めるクラスの奴ら全員が名無を見る。
「…い、いや…それは…」
途端に名無は顔を真っ青にして。
「てめぇちょっとこっちこいコラ」
「いや「蒼月が言ったこと本当かコラ?」
野郎たちに会場の隅に連行されて行った。
「…一週間?」
「そ、一週間」
冬華は来た烏龍茶を飲んで。
「“好きな奴出来たからもう用ねぇわ”って言われたわ」
ムカつくわよね、と怒っているが。
本当に一週間で、別れたのか?
チラッと忍を見ると、忍は肩を竦めてニコリと笑った。
あいつ知ってたな。
知ってて何も言わなかったのか。
ピロン
「ん」
不意に冬華のスマホが鳴る。
スマホ画面には、某メッセージアプリのバナーで“何時帰宅?”という文字が見えた。
湊という奴から。
…やはり交際してる奴がいるのか。
「…そんな遅くならないつもり、と」
冬華は烏龍茶を飲みながら、タプタプと返事を返している。
「…一緒に暮らしてるのか?」
「ん?まぁね。職場一緒だし」
相手は同僚。
もう十三年も経っているのに、まだこんなに苛立つなんて。
「ちょっとお手洗いに行ってくるわね」
お前はスマホを持って席を立った。
なんだよ。
聞かれたくない会話でもするつもりか?
「……」
腹が立つ。
「千速」
「!」
忍に呼ばれ、忍のほうを見る。
忍はまたあいつの背中を指している。
追え、と。
「…今回は迷子になることないだろ」
夏祭りの時みたいに混雑しているわけでもない。
会場内なんだから。
「そう言って、十三年前に失敗したんでしょ」
後悔したくないなら追え。
「今行かないなら、私はもう知らないよ」
今度こそ失敗するな。
忍はそう言うかのように、あいつの背中を指し続けた。
「……わかったよ」
十三年前の失敗と後悔を繰り返すな、だよな。
私は忍に片手を上げて、あいつを追った。
『いやいや私のほうが好きよ絶対』
会場内の、二箇所目のトイレ。
一箇所目はなかなか人がいて、あいつはいなかったから。
二箇所目のトイレのドアに手をかければ、そんな会話が聞こえてきた。
…そんなに愛し合ってるのかよ、お前ら。
ムカつく。
本当にムカつく。
キィ、と小さな音を立てて中に入る。
「!千速」
私に気付き、お前は私の名前を口にする。
久しぶりにお前に呼ばれた名前。
「あ、違うの。ちょっと待ってね」
カツンと音を立てて歩み寄る私に、お前はスマホを耳から離して。
「千速、いも……え、ちょっと…!」
私へスマホを渡そうとしてきたお前の手を掴み、引き寄せて。
「…んぅっ」
噛み付くようなキスをした。
お前は目を見開き、スマホを離して私の胸を押してくる。
カシャン、とスマホが落ちて画面が割れるのを横目で見つつ、もう片方の手で顎を押さえ上を向かせて。
「ふ…っ…ちは…っン…っ」
私の唾液を流し込むように舌を絡め取った。
冬華の口の端からは含み切れなかった唾液が伝い、掴んでいた冬華の手を離して頬を押さえてさらに深く口付ける。
遠くからは賑やかだろうクラスの奴らの笑い声が聞こえ、近くからは私と冬華から発せられる粘着質な水音が聞こえて。
ますます私の熱を昂らせてくる。
「…っン…っふ…っくるし…っ」
冬華が苦しさを訴え始めたことで、リップノイズを立てて離れれば。
「…は…はぁ…っはぁ…っ」
透明な糸が私たちを繋ぎ、プツリと切れた。
冬華は足に力が入らないのか、壁に背中を預けたままズリズリと座り込んだ。
「…はぁ…はぁ…なんで…」
なんで、とは。
なんでキスをしたのか、だよな。
私は屈んで、冬華と視線を合わせて。
「…“私のほうが好きだ”という言葉に…」
十三年前、素直になれなかったから。
それで後悔したから。
忍が最後にもう一度、背中を押してくれたから。
「どうしようもなく腹が立った…」
素直な気持ちを口にした。
「……」
冬華はきょとん顔をして、画面が割れたスマホを拾い私に見せてきた。
湊という名前の奴からで。
「…誰だ「妹よ、妹。私に妹がいるの忘れた?」
正体を明かした。
今度は私がきょとんとする番だ。
「…え」
『こんばんはー、千速ちゃん久しぶりでーす。お姉ちゃんに熱烈なキスをありがとーう』
そ、そういえば…。
“ちはや、今日は湊も一緒にあそんでくれる?”
“ちーちゃん!”
“もちろんだ!湊!ひさしぶりだな!”
こいつの両親が離婚して、妹の親権は父親に持ってかれたって言ってたな…。
小学低学年の時だから忘れていた…。
母親が湊を取り戻そうと戦争勃発させたが、父親の“湊ちゃんまでいなくなったら生きていけないからお願いだから奪わらないでぇ…!”と泣き付かれたらしく…。
その不憫さに、湊が幼いながらに父親に付いた。
いつでも会ったり泊まったり出来ることを条件でな。
“浮気したくせによく言うわ!”
と、こいつの母親がブチギレていたのを思い出した。
なんだかんだ言いつつ、戦友みたいな関係になっていたがな。
「……立てないから立たして」
「あ、あぁ…」
冬華の手を引き、立ち上がらせる。
まだ足に力が入らないようで、腰に手を回して支えてやった。
「……私のほうが好きって言うのは、猫のこと」
「猫?」
猫?
お前は頷き、メッセージアプリの通話画面を小さくして。
「この子」
画像を見せてきた。
そこに写っているのは、毛並みは茶色で虎模様の。
「…目が青い和猫は初めて見たな」
目の青い綺麗な顔をした和猫で。
「…この子が甘えん坊で、妹が“飼い主の私よりも自分のほうが好かれてる”っていうから…」
“いやいや私のほうが好きよ絶対”に、繋がるというわけか…。
「…つまり私は、猫に嫉妬をしたってことか?」
「そう」
『ビンゴー』
「…一緒に住んでるのは妹?」
「そう」
『ウェーイ』
冬華を離し、今度は私が屈み込む。
なんだよそれ…。
私は猫に…。
猫に嫉妬して、妹に腹が立って無理やりキスをしたのか…。
馬鹿すぎる…っ
「ね、千速」
「…なんだよ」
冬華を見上げると、冬華はまた屈んで。
「私は…千速のことが好きだったんだけど…」
私の頬に手を伸ばして。
「…千速はどうだったの?…どう思ってたの?」
問いかけてきた。
私のことが好きだった?
そんなわけないだろ。
「……それならどうして言ってくれなかったんだ」
お前から言ってきてくれたら、私もだって言えたのに。
お前は涙を零して。
「っだって千速…!高3になって陣平たちが入ってきてから…!なんか素っ気なくなったんだもん…!」
…好きすぎて、直視出来なくなっていたからだな。
…陣平たちと遊ぶことでお前への気持ちを誤魔化していたんだが…。
そんなふうに思わせていたとは…。
「しかも…!あの夏祭り!見てないと思った!?」
………陣平に告られて指輪を贈られたやつだな。
「…それは私だってお前が名無と楽しそうに話していたのを見てないと思ったか?」
私の頬にあるお前の手に、自分の手を重ねる。
「…っあれは彼がしつこくて…でも千速が迎えに来てくれたの知ってるんだから…!助けてくれずにあなたは居なくなった…!」
「お前が陣平に嫉妬をしてたように、私だって名無に嫉妬をしてだな…っつか、私が好きならなんで名無と付き合ったんだよ」
「…付き合ったら…千速が奪いに来てくれるかなって…思って…っ」
「お前なぁ…ショックだったんだからな!」
「それは…っ千速だって悪いわよ…!」
「…だ、だってお前が…っ」
「……っ」
十三年前のあの夏祭りの日の嫉妬を思い出して。
「…ふ」
「…はは」
私たちは小さく笑い合って。
「だがまぁ…うん…まぁ…あれだ」
額を合わせた。
ああ。
やっぱりお前も、あの時から私を好いていてくれたんだな。
不安そうで。
泣きそうなその眼差しが、とても愛おしくて。
「十三年もかかってしまったが…」
十三年の想いを。
「私はお前が好きだ」
ようやく口にすることが出来た。
「ぅ〜…っ」
途端にお前は涙を零して。
「私も千速が好き…っ大好き…っ」
私を抱き締めてくれた。
もっと早くに伝えていれば。
いや。
十三年前、意地にならずに伝えていればこんな遅くならなかったのに。
私たちはお互いを想いすぎて、すれ違ってしまったんだな。
お互いがお互いを好きすぎて、勝手にお互いの想い人を決めつけて。
勝手に嫉妬して、勝手に落ち込んで。
「長かったな」
「長かったわね…本当…」
そうして私と冬華は。
「好きだ冬華。絶対に離さないからな」
「私も絶対に離れてあげないから…千速…」
再び口付けを交わした。
『ちなみに、猫の名前は“千速”』
繋がったままのメッセージアプリの通話機能から放たれた妹の一言に。
「は?」
「ッバカ!言わな…ッ!切るわよ!!」
冬華は慌てて通話を切った。
「……私の名前の猫なのか?」
「…やー…まぁ…似た名前…というかぁ…」
「似た名前じゃなくてもろ私の名前だろ」
ニヤニヤしながらつっ込んでやると。
「っよ、呼びたかったの悪い!?」
逆ギレをしてきた。
「っはは!お前は本当に…!」
そのあまりの可愛さに笑っていたら。
コンコン
『…そろそろいいですかねぇ?お二人さん』
忍の声が聞こえてきた。
「「忍!?」」
『あんたたち、イチャつくのはいいけどトイレだってこと忘れてない?』
時間かかりすぎてみんな噂始めてるわよ、と。
教えにきてくれたようだ。
「…なんとか誤魔化せないか?」
という私の問いに。
『誤魔化さないといけない理由を述べよ』
という返答をいただいたため。
「…特に、ないわよね?」
「…特にないな」
問題ないことに気付いて、トイレを出た。
「「「………」」」
忍は私たちを足のつま先から見つめてきて。
「……はぁ…やっとくっ付いた…」
ため息を零したから、私たちは苦笑を零して。
「忍、今度ご飯奢るから」
「やったー!期待してる!二人で行こ!」
「やっとくっ付いた二人を離そうとするんじゃない。私も行くからな!」
三人で。
あの頃のように笑った。
後日、冬華の猫に会わせてもらったら。
「千速、こっち向いて」
「ん?」
「ニャー?」
パシャ
「…最高の一枚が撮れたわ…待ち受けにしよ」
千速を抱っこしているところを撮られて、ホーム画面に設定された。
「私も「湊は駄目に決まってるでしょ?私の“千速”なんだから!」
「すまんな妹、“千速”のツーショットはこいつの特権なんだ」
「独占欲が過ぎんか」
「十三年の時を埋めるためにラブラブすぎてやばいのよこの二人…」
忍はクッキーを頬張りながら、私たちを呆れるように見てて。
「というか、忍がもっと早く私たちをくっ付けてくれればさぁ」
「確かに。板挟みになってたんだからなー」
という私たちの愚痴に。
「…あのねぇ?」
忍は額に青筋を浮かばせて。
某トークアプリのメッセージを遡って。
「これ、私が十三年前に冬華に送った“千速、冬華のこと好きなんだよ?だから冬華も素直になりなよ!”ってやつ!」
「「……」」
「で!冬華からの返事!“そんなの嘘だよ。千速は陣平のことが好きに決まってる!信じない!”」
「「……」」
「で!!こっちは同じく十三年前に千速に“冬華が好きなら素直に好きって言いなよ!冬華待ってるよ!”って送った!」
「「……」」
「その返事!はい!見て!!“そんなわけあるか。だったらなんで名無と付き合うんだよ。信じられるかそんな言葉”!」
「…や…」
「あの…」
「言ったって信じてくれないもんどうしろと!?」
「「ご、ごめんなさい…」」
忍の迫力に謝ることしか出来なくて。
「…まったく…!千速と冬華の挟まれてる私の気持ちも考えてよね!」
歯痒くて歯が抜けるかと思った!と、ブチブチとブチギレている。
「…まぁ、私も“ちー様”を抱っこして泣いてるお姉ちゃんの姿を五年も見続けましたがね」
“ちー様”とは、冬華が“千速”と呼んでいいのは私だけと言ったため、そう呼んでるらしい…。
「こいつら両想いなのに拗らせすぎやんって思ってましたよ」
「…ぅ…何も言えない…」
「反論の余地がない…」
私と冬華は苦笑いを零すしかなくて、そんな私たちに忍は言った。
「まぁ、見たかった光景が毎日見れるようになったからいいんだけどね」
と。
私たちは顔を見合わせて。
十三年もの間、見守ってくれていた友へ。
「ありがと、忍」
「ありがとな、忍」
感謝の言葉を贈った。
私たちは本当に良い友を持ったよな。
END