pixiv作品 名探偵コナン
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「あ、おはようございまーす」
「!おはようござ……、もしかして忍ちゃん?」
「そうです!初めまして!大江忍です!」
翌朝、8時半。
ゴミを出しに行ったら声をかけられた。
マンションの人かと思えば千速のスマホ端末のアルバムの中にいた女の子で。
千速の無二の親友ちゃんだった。
ちなみに、忍ちゃんにも口調は女口調でいいと許可を得ています。
「冬華よ。話には聞いていたし、写メも見たことあるけどこうして話すのは初めてね」
「ですね。千速からよく冬華さんの写メが送られてくるから、初対面って感じがしないです!」
…よく私の写メが?
送られて?
「え゙?どんな?」
「“電話でブチギレてる冬華さん”とか、こういう横顔の」
見せてくれた写メを見て、笑顔が引き攣る。
あんにゃろ。
いつの間にそんな写メを…。
しかも、メッセージの内容が。
“誰にブチギレてるの?”
“警視総監”
“…嘘でしょ…なんかドラマみたい…”
というね。
「…訂正させてほしいんだけど…」
「はい、どう訂正しますか?」
私は腰に手を当てて。
「総監相手にブチギレたことなんてないわよ?ただ文句は言いまくるけど」
訂正したら。
「あまり訂正入ってませんが、訂正受理しました!」
忍ちゃんは訂正を受理してくれた。
ふふ、やっぱり面白い子。
「ありがと。というか千速、まだ寝てるのよ」
片付け開始時刻は10時からで、現地集合。
この子の場合は私と一緒に行く、ということで千速の家に来たってわけ。
「あー、だから返事ないんですね。ちょっと早めに行ってもいい?って10回くらい連絡したんですが…」
返事ないけど来ちゃった、と。
忍ちゃんは笑った。
「10回もスマホ鳴ってるのに気付いてなかったのね、あの子」
…まぁ、昨日はそれなりに。
無理をさせた感は否めなくはない…。
「時間まだあるし、中に入ってお茶でもしましょうか」
「わーい、ありがとうございます」
忍ちゃんと千速のマンションに戻って。
「どうぞー」
「お邪魔しまーす」
中へ通す。
「あ、ちなみにこれ高校生の時の千速です」
「え、見せて見せて」
リビングへ行きながら、千速が高校生だった時の写メを見せてもらう。
「わ…可愛い…」
髪の長さは肩くらいで、今と違って幼い感じがまた可愛い。
リビングのドアを開けて。
「ちょっとこれ転送して………」
くれない?とは続けられず。
忍ちゃんと一緒にきょとん顔をして。
「……どこ行ってたんだよ…」
全裸でリビングの真ん中に立ち、眠たげな表情のままジト目で私を睨んでくる千速を見つめた。
「…ゴミ出しよ。担当のあなた、起きないし」
なんか手に持ってると思えば、ベッドの下にあった私のワイシャツで。
私のワイシャツを引きずりながら私に歩み寄り、軽くキスをしてきて。
「しのぶ」
「うん。おはよ、千速」
忍ちゃんに抱き着くことで挨拶をした。
で、また私をジト目で睨んできて。
「とりあえず服を「私が起きるまでどこにも行くなって毎回言ってるだろ」
ズイッと眠たげな顔を近づけてきた。
「あなたが起きるまで待ってたら朝ご飯作るの間に合わないの。朝ご飯いらない?いるでしょ?」
「私を置いてアメリカ行くしイギリス大使館から電話きたからな」
「……アメリカ?」
「…イギリス大使館?」
しのぶちゃんと顔を見合わせる。
「いいか、豚は牛だ。忘れるな」
“なんで寿司だ。私はマグロが食いたいのに”とかブツブツ文句を言いながらシャワーを浴びに行った。
「あははっ!あんな寝惚け方初めて見たっ!」
「っふふ…っ私もです…!しかも全裸で!きっと変な夢見てたんですねっ」
豚は牛だ、ですって。
どんな夢を見ていたのか凄く気になる…!
「はー…っ!朝から笑ったぁ…!」
私も忍ちゃんも、目に涙を溜めて笑いまくった。
「ってごめんね?千速が全裸でウロウロして。びっくりしたでしょ」
激しく抱いた翌日は、全裸のまま寝室から出てシャワーを浴びに行くのよね。
まさか忍ちゃんがこんなに早く来るとは思わなかった。
「そりゃあびっくりはしましたけど、何度も温泉とかプール行って見てますからねぇ」
今更、って感じです、と。
忍ちゃんは言った。
それはそうか。
学生の頃の親友だし、温泉やプールなんてたくさん行ってるわよね。
千速へ向ける視線には厭らしさはなくて嫌な感じがしなかったし。
さすが無二の友、ってことか。
「というか、千速の体にキスマークがなかったけどあまり付けない感じですか?」
こんな質問も、嫌な感じがまったくしない。
凄いわね、この子。
一切不快な思いにさせないよう気を配らせてくれる。
「付けたいのは付けたいけど」
千速が落とした私のワイシャツを拾う。
「あなたと温泉やプール、海とかそういう場所へ遊びに行った時、体にキスマークだらけだと楽しく遊べないでしょ?」
恥ずかしがって温泉にも入れないし、プールや海といった場所で水着姿にもなれない。
「せっかく一番の仲良しと遊びに行くのに、それじゃ可哀想だからね。あの子遊びに行く報告が遅いし」
同窓会が良い例。
「私はこれからますます忙しくなるから、一緒に旅行とか行ってあげられないの」
忍ちゃんへ振り返って。
「だから忍ちゃん、私の代わりにたくさん千速と遊んであげてね?」
そう告げて、笑いかけた。
本当は、千速と一緒にたくさん旅行も行きたいしプールや海にだって行きたい。
旅行なら旅館に泊まって、浴衣を着て半纏を羽織って。
手を繋いでカランコランと下駄を弾ませて歩きたい。
プールや海ならあまり露出の少ない水着を着させたいけど、千速のプロポーションなら露出度の高い水着も似合うだろうし迷っちゃう。
けど、千速の中には私と“二人きり”というプランはなくて忍ちゃんも一緒の三人旅になると思う。
二人きりに拘らず、楽しさを求めて三人旅。
それはそれで楽しそうよね。
でもまぁ、今の私の忙しさではどれも叶わないけど。
忍ちゃんはきょとん顔から、徐々に頬を赤らめて。
「…なんか、なんか私、ずっとその…千速を取られたって思ってたんですけど…」
え。
え?
「…それって「あ!違います!恋愛感情としてじゃなくて、友達としてです!千速の優先対象が私じゃなくなっちゃったのが寂しいなって思って…」
ああ。
友達として、恋人が出来てしまった以上優先されるのは恋人だから。
きっと忍ちゃんの中で、私に遠慮して千速を遊びに誘う回数を減らしていたのかもしれない。
楽しい思い出も作りにくくなってしまって。
楽しいを共有しづらくなってしまったのかも。
千速には言わないけど、忍ちゃんが今日来てくれたのは、私の自宅の片付けの手伝いではなく、私という人間を見極めるために来たってのが本音ね。
「寂しがることないわよ。千速は温泉とか行く時は二人きりじゃなくてあなたを含める三人で行くものだと思ってるから」
「…冬華さんは嫌じゃないんですか?せっかくの二人きりで温泉に行ける時に、私がいたら…」
私はクスリと笑って。
「あなたが居たらもっと楽しいと思うし、もっと千速が笑顔になるじゃない?だからWin-Win. でしょ」
忍ちゃんの頭を撫でてあげた。
忍ちゃんはプルプルと震えて。
「…っ好きです!」
と叫んだと同時に。
ガラッ
「……え……修羅場…?」
千速が眉間に皺を寄せながら浴室から出てきた。
浴室にある服を着てこればいいのに、また全裸で出てきたわ…。
千速はズンズンと私を睨みながら近づいてきて。
「!それ洗濯「忍を誑かしたのか!?」
私が持ってるワイシャツを奪い、着ながら怒ってきた。
「え、怒られるの私?」
「千速、パンツ穿きなよ」
「どうなんだ!忍を誑かして何をするつもりだ!」
千速は忍ちゃんを守るように抱き締める。
「ちは「おい!忍に手を出したのかって聞いてんだ!」
私への告白は忍ちゃんのお遊びで、タイミング的に狙ってたっぽいわね。
「私から冬華さんに告白したんだよ?あとパンツ穿きなって」
「嘘を言うな。忍が私から冬華さんを奪うわけないだろ」
忍ちゃんへの信頼度がMAXなのはいいけど。
「それって、私があなたを裏切って忍ちゃんを誑かした…って言ってるの?」
そう思うってこと?
「…い、いや…誰もそんなことは…」
聞き返せば、途端に千速はタジタジになったところに。
〜♪ 〜♪ 〜♪
「あ、やば。総監から電話来たからちょっと話してくるわね。忍ちゃんもよかったら朝ご飯食べて」
「お、おう…」
「ありがとうございまーす」
小さく笑い、通話のボタンを押して。
「おはようございます、総監」
話しながらリビングを出て、間も無く。
『昨日転送したファイルだが』
ドカッ
「はい、チェ…ッぐぅッ」
突然の衝撃に、唸り声にも似た声が出た…。
『え、なに?吐いた?吐いたの?』
「…ッす、すみません…っ少しお待ちを…っ」
スマホを耳から離して。
「…っ(千速…っ離れろ痛い…ッ)」
小声だけど、一応言葉使いを気を付けて千速の背中を叩く。
「…あんたを疑ったわけじゃないからな」
どうやらさっきのやり取りを気にしてるみたい。
「……」
ほら見みなさい、忍ちゃんがドアを少し開けて楽しそうにこっち見てるから。
「…っ(わかった「わかってねぇだろ!絶対疑ったと思っただろ!」
忍ちゃんに、何とかしてと千速を指差してお願いしてみるけど。
「…!」
忍ちゃんは親指を立てながら動画撮ってる…。
「千速、パンツ穿きなってー」
「っおい…!今総監と通話中だって…ッ!」
『え゙、は、萩原君…パンツ…え゙…聞いていてもいい会話なのかい…?』
「冬華さん!私はちゃんと冗談だってわかってたぞ!」
「私は本気よ!千速!冬華さんが好きなの!」
「っやっぱり忍に何したんだよ○○さん!」
「待て待て待て!!お前ら…っ!」
『修羅場?修羅場?え、え、どういう状況?一旦切ったほうがいいかな?』
ああ!もう!!
「ッ総監!申し訳ありませんがかけ直します!!」
『あ、あぁわかっ
通話を終了させた途端。
「ッちょっと「よし、ナイスな作戦だったぞ、忍。褒めて遣わす」
「ありがたき幸せ!」
千速はパッと私から離れ、忍ちゃんと親指を立て合って笑い合った。
「…あなたたち…わざと通話を邪魔したのね…?」
さっきのやり取りを気にしたんじゃなく、即席のドラマに巻き込まれたってことか。
「邪魔をしたのは総監だろ?せっかくの休暇を邪魔されてたまるか。片付けが終わったら温泉行くんだからな」
片付けが、終わったら、温泉?
「…初耳なんですが」
「「今決めた」」
また親指を立て合った。
「……私、温泉入れませんがぁ」
抜糸するまではシャワーしか許可されてないから、温泉には入れないにも関わらず。
「ルールは破るためにある。そうだろ?忍」
「逆に破らないルールってあるの?千速」
「ない「ルールは破っちゃだめなのよ。ねー、あなたたちいつもこんな感じなの?」
いつもこんなノリで遊んでるの?
初めてのノリだから、なかなか付いて行けずに戸惑うばかりなんだけども…。
「いつもこんな感じだ。その時々に合わせてドラマが始まる」
「でも最後はハッピーエンド」
…私の周りには居なかったタイプの子たちだわ。
「冬華さんはルール破ったことないのかよ」
「……」
「あ、あるわこれ。ありまくるやつだよこれ」
千速と忍ちゃんに詰め寄られて。
「…ルールっていうか…若い頃に…まぁ…若気の至りというか…調子こいた星をぶん殴って始末書と謹慎一週間喰らったことはあるわね…」
「…あんたでも始末書書くのかよ」
視線を逸らしながら白状した。
「…“すみませんでしたー、もーしませーん”って書いたら警視庁に呼ばれてとんでもないくらい怒られたわ」
「……若気の至りって怖いですね」
「…部下の始末書の書き方にキレて破り捨てた人とは思えんな…」
「…ぅ…っ」
千速はため息を、忍ちゃんはカラカラと笑った。
私も小さく笑って。
「ほら、警視総監に電話をかけるからリビング行ってて」
「…仕事は?」
「しません。約束するわ」
「…ならいいか。忍、飯食ってようぜ」
「はーい。というか、千速は早くパンツ穿きなって。風邪引くから」
なんて会話をしながら、二人はリビングに戻って行った。
リビングからは。
『というかどんな夢見てたの?すごい寝惚けてたよ?』
「!」
忍ちゃんが千速にどんな夢を見ていたかを聞いてるから、ちょっとだけ聞き耳を立てて。
『夢?あー…なんか…冬華さんが勝手にアメリカ行ったらイギリス大使館から“なんで冬華がアメリカ行ったんだ!”って電話がきて…』
『豚は牛だ、は?』
『…牛を育ててる豚がいて、“この豚は牛だ”って説明してたような気がする…』
「…ふふっ、酪農家になった夢だったのね」
お寿司じゃなく、マグロが食べたいって言ってたのも思い出して、一人で笑った。
「あ、電話 電話」
そうして警視総監へと折り返し電話をかけて。
『まさか萩原君の友人に手を出したのかい?それで友人同士が君の取り合いで…っ波乱の展開!?』
「…総監、ドラマの見過ぎですよ」
警視総監の誤解を解くのにやや暫くかかったわよ…。
–––
–––––
–––––––
「っ蒼月警視、あちらの部屋にあったお布団とかどうされますか?」
「捨てるからトラックへ頼む」
「え!?捨てちゃうんですか!?」
「あぁ、必要ないからな」
「警視、冷蔵庫はどうしますか?」
「それも捨てる」
「まだ使えますよ?」
「だが二つもいらないし、いいさ」
冬華さん宅の片付け開始。
ワイワイと賑やかに、足元に注意しながら荷物を運び出す。
冷蔵庫、二つもいらないっつーことは次の家を探さずにずっと私の家にいるっつーことだよな。
もしかしたら次の家が見つかるまでしかいないかもしれないと思ってたから、“二つもいらない”は嬉しい言葉だ。
「わぁ…このグラス、デザインが素敵…」
女の刑事が食器に着手していて、グラスを手に取りまじまじと見ていた。
冬華さんのことだから。
「欲しいなら「ダメだ」
って言うに決まってるから、被せるように止めた。
「…萩原?」
「ダメだ。この家のものは誰にもやらん」
選択肢は二つ。
うちに持って行くか、捨てるか。
それだけだ。
「…捨てるなら「持って行く。丁度グラス足りなかったしな」
足りなかったか?みたいな顔をしている冬華さん。
足りなくはないが、やるくらいなら持ってく。
私はジト目で冬華さんを見て。
「……はいはい、わかりました」
“私は見てるからな”という仕草をして、寝室へ行く。
「冬華さんって結構エロい下着付けてんね」
「そうなんだよ。県警内では笑うことのない鬼警視って言われてる人が、こんなパンツ穿いてんだぞ。ギャップやばいよな」
「やばすぎ」
想像しただけでニヤけるレベルでヤバすぎるよな。
「服と下着は全部持ってくんだよね?」
「あぁ、そう言ってた」
服は買いに行くってなったら試着とかしなきゃならんから面倒なんだろう。
意外と面倒くさがりだから。
……意外と、でもないか。
結構オープンに面倒だと口にするもんな。
『千速、服の片付け終わったか?』
部屋の外から重悟の声。
「ああ、終わった。入っていいよ」
「ベッド解体するぞ」
重悟が入ってきて、ベッドの解体に取り掛かる。
「そっち持っててくれ」
「おう」
ドライバーでネジを外して、力任せではあるが器用にベッドを解体して。
「まだ使えそうなのにもったいねぇなぁ」
買い替えてからあまり時間立ってねぇぞこれ、と重悟が零した。
「……まぁ、な」
このベッドは、私と交際した一ヶ月後に購入したベッドだ。
“二人で寝るにはちょっと狭いわね”
“私としては、くっついて眠れるから悪くはないが…”
という会話をしたのを思い出して、小さく笑う。
『…お゙…ッぁ゙…ッ』
『すッ!すみません警視!!大丈夫ですか!?!?』
「「「!!」」」
すると、冬華さんの痛がる声と慌てて謝る刑事の声が聞こえて来て。
「ッどうした!!」
私たちは急いでリビングへ向かうと。
「…っテーブルの角が…っ警視の背中に当たってしまって…っ」
冬華さんは背中側の傷を押さえ、窓に手を付いてあまりの痛みに悶絶していた。
「…っおい冬華さん大丈夫か?」
「だっ大丈夫だ…っ」
大丈夫に見えないくらい目がウルウルしてる…。
「すみませんっ本当に…っ」
「いい…私の不注意でもあるから気にするな…」
「警視、ちょっと外で休んでてください」
「すまん…邪魔になりそうだからそうさせてもらう…」
重悟に促され、私も冬華さんに付いて外に出た。
冬華さんの車の横。
「…千速、ちょっと見てみて…血出てない…?」
「ん」
ノースリーブのワイシャツを捲り、ガーゼを確認すれば。
「…出てる」
出血していた。
「…はー…結構思いっきり当たったのよね…」
「でもシャツには付いてないから着替える必要はないな」
「よかった…」
片付けだから、こういうことがあるかもしれんと思って消毒セットは持って来ている。
「ガーゼ取るぞ」
「えぇ…」
車に乗り、助手席でガーゼを取る。
傷は開いてるわけではないが、まだ完全に塞がってはいない。
「…っぅ…っ」
「…染みるか?」
「っ少しね…」
もう染みないくらいまで癒えていたのに、少し染みるようになってしまった。
だがまぁ、これくらいならすぐまた染みなくなるだろう。
「よし」
「ありがと…」
ガーゼを貼り直し、ワイシャツを整える。
「こうなるから絶対安静なんだよ」
「…わかるけど、じっとしてるのは性に合わないの」
大人しくしてりゃ今頃抜糸だろうに、こうして度々傷にダメージを入れるからなかなか良くならない。
コンコン
「「ん?」」
車の窓をノックされ、そちらを見る。
立っていたのは老夫婦で。
「誰だ?」
「マンションのオーナー夫婦よ。ちょっと挨拶するわね」
冬華さんは車から出て、オーナー夫婦に軽く会釈をする。
「おはようございます。朝からお騒がせしてすみません」
「おはようさん冬華ちゃん。本当に出て行っちゃうんだねぇ…寂しくなるよぉ…」
「冬華ちゃんがお疲れで帰って来る姿が見れなくなるなんて寂しくなるわぁ…」
冬華さんを気に掛けてくれていたようで、とても残念そうな表情を浮かべている。
冬華さんは苦笑を零して。
「お世話になりました。傷ついた床や壁、窓はすぐに業者を手配して直しますので」
空き巣に入られたことで床と壁に傷が付き、窓に至っては割られていた。
「うんうん、ありがとうね」
「お巡りさんの冬華ちゃんが居てくれて、防犯にもなったからみんな助かってたの」
こちらこそありがとうね、と老夫婦は笑った。
優しい人たちだな。
「冬華さん、私は片付けに戻るからな」
「あぁ、すまない」
老夫婦に軽く会釈をして、私は片付けに戻った。
「冬華さん大丈夫?」
「あぁ、少し出血していたが替えのガーゼを持って来ているから心配ない」
「ぅ…すみません…自分が後ろの確認を怠ったばかりに…」
「いや、じっとしてないあの人も悪いから気にするな」
部屋に戻れば忍が心配してくれていて、出血の原因となった刑事は声を震わせて謝って来た。
「じゃあ今日の温泉はやめた方がいいね」
「だな。温泉は抜糸後のほうが良さそうだ」
出血してしまったら、さすがに無理はさせられん。
片付けがあると言えど、せっかくの休暇だからと思ったが。
やっぱり抜糸後じゃないと無理だな。
「…温泉って。お前いいのかよ?警視の…その…見られても…」
「あん?忍は親友だぞ?嫌なわけあるか」
朝もそうだったが、忍は絶対に私たちを引き裂くことはしない。
たとえ冬華さんが全裸で居ても…。
いや、それはその状況になってみないとわからん…。
忍に見られたくないというより、冬華さんの裸は私自身が恥ずかしくなりそうだ…。
あの人、本当にエロい体してるからさすがの忍も頬を赤らめるかもしれん。
「…温泉なんだよな?」
「?あぁ、そうだが」
重悟がチラッと忍を見るから、私は忍と顔を見合わせて首を傾げる。
「…その子だけじゃねぇだろ、温泉入ってんのは」
「は?」
「え?」
「不特定多数の人間に、警視の…っ見られてもいいのかっつってんだよ…!貸切じゃねぇんだろ?」
…不特定多数の、人間に。
…冬華さんの、裸を、だ?
「………」
「あ、絶対やだわって顔してる」
ツン、と忍に頬を突かれた。
「…お前と警視の依存の仕方だと貸切じゃねぇと無理なんじゃねぇか?」
「……ふー…」
天井を仰ぎ、深呼吸を。
「そうだわ、って顔してるからそうですよ」
「だよな」
忍と重悟が頷いた。
と。
「みんな、一旦休憩して昼食にしようか」
痛みが治ったようで、冬華さんが戻ってきた。
「警視!さっきは「冬華さん、温泉の件は白紙だ」
刑事の言葉を遮り、冬華さんに詰め寄る。
「え、なんでだ。結構楽しみにしてたんだが…」
「不特定多数の人間にあんたの裸を見られると思うと、腑が煮え繰り返って煮物が出来そう」
「…食べたくないな、そんな煮物…」
「というか、その想定をせずに温泉へ行くつもりだったのか?」
「「そう」」
私と忍が同時に頷き、冬華さんはため息を零した。
「まぁその話は後にして今は昼食だ。頼んでいた出前が届いたから手伝ってくれ」
「うい。お前ら、取りに行くぞ」
「「「はい!」」」
みんなで取りに行き、弁当と飲み物を受け取る。
「おわ!鰻重!」
「しかも特上!?すご…!」
「“江戸屋”っつったら高級老舗じゃないっすか…!俺一度は食ってみたいって思ってたんスよね…!」
…とんでもない昼食を用意したもんだな、この人。
いくらだよこれ…。
まったく…。
だがまぁ、天気良いしで外で摂ることに。
「…あの店、よく出前受けてくれましたね?」
出前お断りなのに、と重悟が鰻重を食いながら問いかける。
「あそこの大将と私の祖母が幼馴染だったんだ。だから結構融通を利かせてくれるんだよ」
「良い幼馴染っすね」
「だろ?」
なんて会話をしているが。
幼馴染“だった”ってなんだよ。
あんたの婆ちゃん、もういないのか?
そういえば、紹介してもらったことがない。
あんたの口調に影響を与えるくらい一緒に居て、大好きだったんだろ?
「……」
でも、冬華さん宅に婆ちゃんの仏壇はなかった。
…実家、か?
だが、手を合わせるために帰ってる様子もないし…。
思えば私は、冬華さんの家族のことを何も知らない。
「…!」
冬華さんは私の様子を察してか、小さく頷いた。
後で話す、ということだろう。
…悲しい話じゃないといいな。
世界一周旅行中とか。
そんな明るい話だといいな。
でも、冬華さんの様子からそうじゃないことが何となくわかる。
「千速?どうしたの?」
忍が、箸が止まってる私を見る。
「いや、足りない!」
カッと鰻重を掻き込んで。
「くれ!」
空の重箱を冬華さんへ見せる。
「お前は…まったく…」
ほら、と食いかけの鰻重をくれた。
「やった!ありがとう!」
「いいなぁ…」
「警視の食べかけのやつ私もほしいです…」
「ダメに決まってんだろ」
羨望の眼差しで見てくるが、これが恋人特権だ。
「っと、蒼月警視、俺ぁ一旦あのトラックのやつ捨てに行って来ます」
「ん?ああ、すまん。金がかかるし私も行く」
重悟も食い終わり、二人で立ち上がった。
「待て。待て待て、ちょっと待て」
「季語がないよ」
「忍、俳句は詠んでないぞ」
私も立ち上がり、二人を止める。
「なんだ、千速」
「なんだ、じゃない。二人きりで行かせるわけないだろ」
「また変な想像してるな、お前は。お前の悪い癖だぞ」
「変な想像ってなんだよ。歳の近い男女が二人きりだぞ!?おかしいだろ!」
「男女以前に上司と部下だ」
冬華さんとジト目で睨み合って。
「じゃあ財布を寄越せ。私が重悟と行ってくる」
ん、と手を差し出すと。
「………」
冬華さんは黙った。
「なんだよ。私だって重悟とは上司と部下だぞ?」
「…お前は刑事課ではないだろう」
「階級の話だ」
ほら、嫌だろ?
私だって同じ気持ちなんだよ。
重悟にその気がないのは百も承知だが、嫌なものは嫌だ。
「俺の立場」
「横溝さん、ドンマイです」
忍が重悟の背中を叩き、慰めて。
「間を取って私が横溝さんと行ってきまーす。お小遣いくださーい」
忍が名乗り出てくれたから。
「財布の中の金は全部使ってきていい」
「30万くらい入ってますが!」
「忍、この人は金銭感覚がバブちゃんなんだ許してくれ」
「やったー!横溝さん私ほしい壺があるんですよね!」
「騙されてないか?大丈夫か?車の中で詳しく話してくれ」
重悟と忍はトラックに乗り込んで。
「重悟、忍に手を出したらお前を殺す」
「そして私が権力で揉み消す」
「萩原容疑者に甘くないっすか?」
忍に財布を託し、重悟とゴミ処理場へ行ってくれた。
「ご馳走様でした!警視!よし!もう一頑張りだ!」
「「「ご馳走様でした!」」」
「あぁ、よろしく頼む」
他は片付けを再開した。
「…冬華さん」
「話したことなかったな、そういえば」
私たちは私たちで、空の重箱を洗って。
「まぁ察しは付いてるだろ?」
帰り、返しに行くために車の中へ持って行く。
「…まぁ、な」
やっぱり。
もうすでに亡くなってるのか。
「私が中学の時だ。父から訃報を受けたのは」
聞けば、中学二年の秋に亡くなったらしい。
交通事故か病気か、はたまた老衰か。
いや、冬華さんが中学生の頃なら老衰は早すぎる。
「祖母は私の口調に影響を与えるくらい大好きだった人で」
冬華さんは車のドアを閉めて。
「…私が刑事になった理由の人だ」
背中を向けたまま、そう言った。
刑事になった理由の人。
つまりそれは…。
「……星は…?」
「どこかでのうのうと生きているよ。腹立たしい限りだな」
冬華さんは肩を竦め、小さくはにかんだ。
この人が犯罪者に容赦ない理由もこれだな。
人の命を奪った者への慈悲はなく、罪を重くさせてやろうとすら考えてしまうくらいの憎悪がここから生まれたんだ。
「…仏壇がないのは、やっぱり実家か?」
「あぁ、そうだ。だが私は両親と縁を切ってるからお参りに行けないんだよ」
だから両親に私を紹介してくれないのか。
「ここ数年忙しくてお墓参りにも行けなかったけど、今度時間作って行こうか。その時に祖母に千速を紹介したいな」
「もちろんだ。というか行きたい」
同棲するんだし、簡単にだがうちに冬華さんの婆ちゃんの仏壇を作ろう。
研二の横に作りゃあいつと一緒に見守ってくれるだろうしな。
「…ありがと」
「礼を言われるようなことじゃないだろ」
ニッと笑ってやれば、冬華さんも安心したかのように綺麗に笑った。
それからしばらくして。
「あ、このマグカップ可愛い」
「もらったらどうだ?いいよな?冬華さん」
「…私は構わないが…お前さっき刑事課の奴に持ち出し禁止令を発令していただろう」
「忍はいいんだよ」
戻ってきた忍が、良い感じのマグカップを欲しがっていたからあげた。
ちなみに温泉は。
「行かない」
「私は入りたい」
「不特定多数の奴らにあんたの体を見られたくないっつってんだ!」
「ジロジロ見る奴なんていないって!」
行く、行かないで冬華さんと戦った結果。
「千速の綺麗な体見せつけてやれるチャンスじゃん!行こうよ!」
という忍の言葉により…。
「…今度貸切にする」
冬華さんが折れて。
「よくやった。褒めて遣わす」
「ありがたき幸せ!」
忍とハイタッチをしたのだった。
初めて知った。
冬華さんが刑事になった理由。
刑事になった理由と共に、犯罪者への憎悪が生まれた理由も知った。
未だ冬華さんの婆ちゃんを殺した犯人はどこかで生きているという事実が、溢れるほどの憎悪を生み出して。
結果、犯罪者の罪をさらに重くさせるという行動をするようになっちまった。
だから私は。
冬華さんがその憎悪に呑み込まれないように。
ただの刃に成り下がらないように。
どれだけ暗いものを追いかけようと、冬華さんの中にある優しい灯火だけは消えないように。
繋いだ手を離さずに。
冬華さんの傍に居続けよう。
とりあえず、今日は。
「…忍ちゃん、言葉巧みよね」
「相手を乗せることに長けてるんだ。だから話してて飽きないだろ?」
「ふふっ、めちゃ面白い子」
冬華さんも忍を気に入ってくれたようで、一安心だ。
next